マシンガンやら有線誘導ミサイルやら光の刃やらで地下の迷宮は原型をとどめなくなっていく...。
同じころ、自称学者の同行する別動隊は黒い「ガンダム」、GAT-X370の足取りをたどっていた。
「いわんこっちゃない...」
操縦手はゲストの前でも相変わらず漏らすが、無理もないだろう。自称学者にとってもこれはとても言葉を安易に使っていいものではない。
(強化人間だな...オーガスタのもだが、調教主がいないと本当にろくなことにならないな...)
別動隊の目の前に広がっていたのは残骸の海だった。もはやどれがどの陣営なのかも分からない。これが全てレギオンのものであれば都合はいいが、報告通りならここはもともと交戦状態にあったらしい。
(敵も味方もない...あるのは邪魔だけ...か)
自称学者はとある上官から聞いたとある強化人間を思い出していた。
「嫌ですよ、あんなゲテモノに近づいてお陀仏だなんて!」
操縦手が何か言っているが、自称学者は険しい表情を変えない。そして一言、
「あの機体は近いうちに動けなくなる」
地下の猛獣はやがて「86」にもはっきり見えるようになった。機体は恐怖を感じるほどに蒼く、それとは対照的に目は血を吸い上げたように赤く、機体の至る所から赤いオーラが漂っている。
周囲のレギオンからも妙な違和感を感じていたが、蒼い悪魔のおかげでとてもそれどころではない。
蒼い悪魔は見境なく光の刃で焼き払ってくる。必要とあらばレギオンのでも残骸でもなんでもいいので投げつけてくる。
さて、シンは蒼い悪魔との戦闘で随分ハイになっているが、その間も通信はきていた。が、シンには届かない。シンに聞こえていたのはいかにもシステムらしい無機質な声。
「ニュータイプは脅威」
蒼い悪魔が暴れまわる間もレギオンの攻撃がやむことはない。気が付いたころにはシンと他の4人は切り離されていた。さすがのレギオンでも蒼い悪魔がいるとおっかないようだ。
「くそ、シンのやつまだレスポンスなしかよ!」
「このままじゃアネットも...」
苛立つライデンと、冷静を保つアンジュ。
指揮官も聞いていないわけではない。ただ、見境なく手当たり次第に攻撃する蒼い人型の悪魔というイレギュラーの出現に言葉を失っていたのだ。あの暴れようでは下手をするとそこにいる全員が下敷きになりかねない。
地下に激震が走る。生き埋めになるのかと思えば、今度は赤い閃光が上から下に走り、間もなく爆風に見舞われた。これで地下迷宮は本格的にメチャクチャだ。
蒼い悪魔に遭遇した当初はレギオンはもちろん、廃人たちも確認できたが、この状態では少なくとも廃人は無理だろう。
やがてスポットライトのような光が差し込むとそこには赤枠の黒い翼を背負った巨人が佇んでいた。巨人の口元は湯気のようなものが出ている。目はまるで人のようだが、色は緑。
蒼い悪魔は今度は黒い巨人を目掛けてマシンガンを放つ。しかし、これがまるで効かない。黒い巨人はしばらくマシンガンを浴びつつ、堪忍袋の緒が切れたかのように左手のハンマーを振り回しだす。不幸にも周囲にいたレギオンの機体はこれで木端微塵となった。
黒い巨人と蒼い悪魔が殺し合う間、シンはアネットが難を逃れたことを確認した。アネットの前には蒼い悪魔の流れ弾を食らったと思われるレギオンの機体が。
「アンリエッタ少佐を発見」
「シン!生きてるならすぐに返事をしろ!」
ライデンの喝が飛ぶ。
コックピットの中、モニターには目を赤くした蒼い悪魔が映っている。視界の中には女性士官と思われる人物がレギンレイヴに回収されているところも一瞬入ったが、黒い巨人の主人はそこに関心はない。
蒼い悪魔に照準が完全に合わないが、それでも前進しながら赤い光を放つ。それはかつての大戦末期と似たような構図だったが、今回は相手から撃ち抜かれていない。
蒼い悪魔は頭上に穴が開いていたことをいいことに地表へと飛翔する。
それを黒い巨人も追って上に開いた穴から地表へ飛翔する。こうして地下空間に静けさが戻ったときには残存のレギオンは皆無に近く、赤い光に呑まれたかハンマーで砕かれたか、或いは蒼い悪魔の光の刃の巻き添えになったかで原型もまるでなかった。
ただし、その中で息をひそめていた者はいた。その者は蒼い悪魔が地上へ去る直前に伝言を残した。
「探しに来なさい」
「なんということだ...」
先に漏らしたのは自称学者だった。黒い「ガンダム」の足跡を追っている内に辿り着いたのは例の地下鉄ターミナル付近。
(ブルーデスティニー1号機...まさか上官がかつて乗っていた機体に遭遇するとはな...)
「ゲストより各機、耳にたんこぶだとは思うが、2機の人型は絶対に刺激するな。なお、人型の仮称はモビルスーツ(MS)とする。」
自称学者が別動隊の各機に伝達する間、ブルーデスティニー1号機では奇妙な反射のようなものが頭部から見えた。もし勘違いでなければ蜘蛛のような物体にも見えた。
確かめる暇もなく、ブルーデスティニー1号機は胸部から熱を帯びたであろうガスを排出しながら動きを止めた。止まった位置が良かったのか、黒い「ガンダム」の放ったハンマーはかすりもしなかった。
(オーバーヒートか...EXAMさえなければそのまま接収して乗れないこともないが..)
対する黒い「ガンダム」もハンマーが手元に戻るとそのまま緑色に光っていた目は暗くなり、やがてそのまま背中を後ろに倒れた。とどめをさすまたとないチャンスだったはずだが、ブルーデスティニー1号機は地下から出てきたレギンレイヴを見るや否や背を向けて地平線の彼方へ去っていった。
アネットは救出されるや否や、別動隊に付き合わされていた。第86独立打撃群が地表に出たときに別動隊と居合わせ、それを自称学者が見逃さなかったのだ。しかも不幸にもアネットを含め、「86」は確かにモビルスーツの乱闘に巻き込まれている。
生き残った廃人が地下から担架で引きずり出される間、自称学者のいる別動隊と「86」は黒い「ガンダム」にまとわりついていた。自称学者の言う通りなら腹部にコックピットがある。
何も知らされていない者からすればこれもレギオンの類と思うだろうし、先ほどの戦闘現場に居合わせていればなおのこと脅威だと感じずにはいられない。そんな緊張感の中、自称学者の言う通りにタブレットのとあるボタンをアネットが押すと、コックピットハッチは開いた。
「ぼ...ぼくは...じ...じゆ...」
先ほどまで猛獣のように暴れまわっていた「ガンダム」のコックピットにいたのはほぼ虫の息のパイロットだった。
自称学者が慣れた手つきでコックピットに入るとまずはパイロットからヘルメットを取り外し、首元で脈を計った。
「すぐに医療班を」
自称学者は黒いガンダムの中から特殊なスーツを纏った赤髪の少年を担ぎ出した。とても生きているとは思えない顔だったが、まだ辛うじて息はある。とても浅いが。
「また....おしおき....?」
赤髪の少年はこの一言を最後に昏睡状態になった。
(やはり強化人間だったか...)
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