我らが偉大なるエリス様であれば。
天界の業務をこなして、義賊活動を行いつつ、問題児たちの手綱をとって、自身の正体がバレないように気をつけながら魔王討伐まで成し遂げるのもきっと楽勝に違いないなって思いました(棒読み)


カズマさんが日本で死亡していない世界線で、本来の主人公ポジションにクリスが抜擢されてしまう感じの話です。

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時期は爆焔3

クリスに原作カズマ並の苦労を背負わせてみるのがテーマ。
カズマさんが死んでないので、アクア様も天界で元気に過ごしておられます。


あるいはクリスの受難の始まり

「パーティーメンバーを集めよう」

 

 冒険者ギルドの酒場にて。

 テーブルの一つで、銀髪の少女クリスは唐突にそう切り出した。

 

「パーティーメンバーって……。いや、気持ちは私もわからないではないが。しかし急にそんなことを言い出すなんて、いったいどうしたんだクリス」

 

 そのクリスの突然な提案へと応答するのは、彼女の対面の席に腰掛けているダクネス。

 金髪碧眼の、クリスと比べてもまったく負けていない整った顔立ちに長い髪を後ろでまとめている彼女の出で立ちは、普段であれば女騎士もかくやといった凛々しさを湛えている。

 しかしこのときばかりは、あまりにも脈絡のないクリスの切り出しに、その顔色は戸惑いの一色に染まっていた。

 

「そもそも、仲間なら今でも募集しているだろう」

「いやまあ、確かにそうなんだけどさ。うん」

 

 ダクネスの指摘に歯切れ悪そうに返すクリス。

 実際その通りだった。

 冒険者としてパーティーを組んでいるこの二人は、前々から新たなパーティーメンバーを募集する張り紙をギルドの掲示板に張り出している。つまり現在進行形で既に募集中なのだ。

 だから、改めてそんなことを宣言されても。

 ダクネスの困惑と指摘はそういった心境の現れである。そこはクリスもわかってはいる。

 ただしクリスは、すぐにはそこへと触れず。

 

「ダクネスさあ。今日のゴブリン討伐のクエストのときにあたし、ゴブリンにバインドを使おうとしてたのは知ってるよね。それなのにさ、何でそのバインドにわざわざ自分から突っ込んで行っちゃったの?」

「うむ。クリスが新しく習得したというあのスキルのことか。縄で拘束され身動きが取れなくなるのは初めての体験だったが、あれは実に良いものだった。何も抵抗ができず無様に地面に転がされ、そんな私を雄の欲望に目をギラつかせたゴブリンどもが見下してくる。ああっ! 今思い返しても――」

「別に感想は求めてないんだけど!? バインドに突っ込むのはやめてってあたしは言ってるの! あとゴブリンたちは、なんでか急に割り込んできたダクネスの奇行にすっごく困惑してたと思うよ!」

 

 頬を染めてなぜかバインドを受けたときの感想を述べ始めるダクネスに、クリスは頭を抱える。

 これさえ無ければなあ。

 器量良しな上に普段はキリリとして格好良いのに。

 しかしこの親友には、すべての長所を覆い尽くさんばかりの、ドMというあまりにも業の深い欠点があった。

 

 これがちょっとした被虐体質だったなら。それならクリスも苦笑する程度で済んでいただろう。

 しかし現実はそんな微笑ましいものではない。

 

 今日のように冒険者のクエストでモンスターの集団と戦っている最中にも関わらず。援護としてクリスがモンスターに放ったはずの相手を拘束するスキルへとわざわざ割り込んで自ら掛かり、本来なら起きなかったはずの窮地を引き起こすことさえあるのだ。

 とんでもない変態さんであった。

 どうしてこんなになってしまったのだろう。

 

 あのとき、いきなり戦力の片割れが無力化されてクリスは散々な目にあった。

 自分のスキルのせいでろくな抵抗もできず袋叩きにされているダクネスの有り様に半泣きになりながらも、それでも必死にモンスターをクリスが倒していって今回は事なきを得たのだ。

 今回も、と言うべきかもしれないが。

 とにかくクリスにしてみればとても心臓に悪い光景だった。できればもう二度と経験したくない。

 なお一方的に袋叩きにされたはずのダクネスにはかすり傷一つなかった。

 

「あれであたしは思ったんだ。やっぱり二人パーティーだとさ、一人に何かあったときにもう一人の負担が大きすぎるって。せめてあと一人は欲しい」

「そ、そうか」

 

 割と直接的に、ダクネスが足を引っ張るせいで自分が苦労しているのだとのご指摘を親友から受けて、ダクネスはちょっとへこんだ。

 そう語るクリスの顔にはいつもの快活さが鳴りを潜めていて、完全に真顔だったのだ。似たようなことは度々言っているけれど、今回はかなりガチである。彼女の抱える心労の一端が窺えた。

 そもそも普段のクリスだったらもう少しダクネスの心情を慮るので、ここまであけすけな物言いはしない。

 そんなことに気を回す余裕すら、今のクリスはなくしているのだ。

 

 クリスには迷惑ばかりかけてしまっている。こんなになるまで気づいてやれなかっただなんて。

 自身の性癖に素直に従ってはその度にクリスのフォローに助けられてきた自覚のあるダクネスとしては、さすがに今回ばかりは反省する。親友との立場にあぐらをかいて、これまで甘えすぎていたかもしれない。

 彼女がこうなってしまった原因であるとの後ろめたさもあって、ダクネスには返す言葉が見つからない。

 ただし今後も特に行状を改めるつもりはないが。

 

「それで、パーティーメンバーを集めると言ったって、どうするつもりだ? 張り紙はもう出しているだろう」

「んー、そうなんだよねえ。だから明日はクエストはやめにしてさ、酒場で目ぼしい人を探してこっちから声を掛けてみるってのはどうだい?」

「クリスがそれでいいなら、私はそれで構わないが」

 

 特に他の意見もないのですぐに方針が決まる。

 

 ところでダクネスは知らないことだが。

 彼女の親友にして相棒であるこの少女、その正体は幸運を司る女神エリスと言う。

 この国の国教として崇められている大物女神だ。

 なぜそのような大物がクリスを名乗って人間に扮し、ダクネスと共に冒険者活動を行っているかはここでは置いておくとして。

 

 今日のクエストに出かける少し前まで、女神エリスは自身の先輩女神に泣きつかれて、彼女のサボった仕事のフォローをさせられていた。徹夜作業だった。しかもこれまで押し付けられた仕事の中ではかなりハードな部類だった。

 もちろんその分エリスの仕事が減ることはない。

 クリスとしての冒険者稼業はその息抜きでもあったのだ。

 ところがダクネスがやらかしてしまい、息抜きどころかそのフォローによってかえって心労が積み重なる始末。

 

 要するに、先輩とダクネスという度重なる過度なストレスのダブルパンチを受けて、このときクリス(エリス)にとっての許容量を一時的にだが少しだけ超えてしまっていた。

 だから仲間を求めるという行動でそれが発露した。

 自身の苦労を分かち合う相手がほしい。このときのクリスはそう切に願っていた。

 明日には収まる気の迷いのようなものではある。

 

 しかしそんな一時の気の迷いが、これからのクリスにとっての受難の日々の幕開けとなってしまう。

 ダクネスにとって、ではないのがポイントである。

 

 

 

 

 翌朝。

 一晩ぐっすり眠ってクリスは冷静になった。

 昨日の自分の発言と、その場の勢いだけで押し通してしまった新規メンバー募集の決意表明にクリスは反省しつつも、「まあそれでも一日だけなら」との意気込みで臨むことを決めたのだが――。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を操る者!」

 

 いや本当に見つかっちゃったよ。

 決意した昨日の今日でこんなにあっさりと事態が進展したことにクリスは心底驚いた。

 

「あー……紅魔族の人なんだ? あたしは盗賊のクリス。で、こっちはダクネスね」

「ん、ダクネスだ。クルセイダーを生業としている。硬いだけが取り柄の女だが、これからよろしく頼む」

「お二人ともよろしくお願いします」

 

 しかも紅魔族。

 種族全員が魔法使いの上級職アークウィザードなエリート集団だ。本来ならこんな駆け出し冒険者の街で見つかる人材ではない。

 彼女の実力の程はまだこれから見ていく段階にしても、アークウィザードであるなら戦力としては申し分ないだろう。

 前衛ばかりで、後衛が一人か二人欲しかったので募集人員的にも問題ない。

 そして少し年下で、同性。性差で気を使う苦労もなくてやりやすい。

 むしろこっちが戦力的に見劣りしないかと恐縮するくらい。

 うちにも一応ダクネスという上級職はいるけど、まあその、アレだし。

 

「ではお互いの相性を確かめるためにも、さっそくクエストを受けてみませんか?」

「もちろん望むところだ。クルセイダーとして、めぐみんの身は私が守ってみせよう」

「ええ。頼りにしてます」

 

 こうしてとんとん拍子でクエストを受けることとなった。

 今日の予定だとクエストは受けないつもりだったが、それは仲間を探すのに時間がかかると踏んでいたからこそ。思いの外早くめぐみんという新戦力が加入してくれた今では、それに拘る必要もない。

 だったらめぐみんの言う通り、これからの仲間の実力を見ておいた方がいいだろう。

 受注したクエストの内容は、ジャイアントトードの討伐。

 

 

 

 

「な、何してんのさー! ダクネース!!」

 

 クエストで出向いた平原にて。

 さっそく親友がやらかしてくれた。

 巨大カエルことジャイアントトードに、ダクネスが丸呑みにされたのだ。

 急に鎧を脱ぎ始めたかと思えば、そのまま剣も放り捨ててダクネスはカエルに単身突撃して行った。

 あまりの事態にクリスは呆然としてしまった。気がついた頃にはもはや止めようがなくなっていた。

 ジャイアントトードは金属を嫌う。事前に説明はしておいたし、だから今回は何とかなると思っていたのに。

 あ、いや、だからなのか。クリスは遅れて気づいた。

 金属装備を身にまとったままだとカエルに丸呑みにしてもらえない。だからモンスターを発見したあと、わざわざ装備を脱いでから突っ込んでいったと。

 親友の性癖にクリスは頭を抱えた。

 カエルの口から頭だけ飛び出しているダクネスの表情は喜悦に満ちている。とても満足そうだ。

 とりあえず、ダクネスはあとでお説教である。

 

「クリス! 準備完了しました! 伏せてください!」

「わ、わかった!」

 

 めぐみんからの警告に従ってすぐにクリスは地面へと身体を伏せる。

 そうだった。今日は二人だけじゃない。めぐみんがいる。

 ジャイアントトードに丸呑みにされてもすぐに消化されるわけではない。ダクネスのことは今は一旦置いておくしかないだろう。

 めぐみんは、ダクネスのいる方とは別の方角からやって来るカエルへと杖を向けて――。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 轟音。そして静寂。

 魔法を放ったあとには何も残っていなかった。

 カエルはもちろん、草木さえも。唯一、魔法によって生じたクレーターだけがめぐみんの魔法の痕跡としてその凄まじさを物語っている。

 ダクネスのことさえ一時的に頭から吹き飛び、クリスはそのあまりの威力に呆気に取られた。

 

「これって、もしかして爆裂魔法……」

 

 その存在は知っていた。

 自分たち(神々)や悪魔でさえも滅ぼし得る、人類の持つ最強の攻撃手段。

 必要となる魔力のあまりの膨大さに、仮に習得したとしてもまともに使えない人のほうが多いのに。

 まさかこんなところで目にするなんて。

 ましてや、めぐみんはまだ駆け出し。

 そういえば、紅魔族特有の挨拶に驚いてうっかり聞き流してしまった。けれど確かに爆裂魔法が使えるみたいなことを言っていたような。クリスは出発前の自己紹介を振り返る。

 これは、本当にとんでもない金の卵が転がり込んでしまった。

 

 ここまで有望だと、むしろうちで抱えこんでしまって本当に大丈夫なのか。めぐみんの将来を思ってクリスが罪悪感にも似た不安を抱いていると。

 人が一人、地面に崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 

「え、ちょっ。めぐみん!? 大丈夫なの!?」

 

 めぐみんが倒れた音だった。

 何事かとクリスは慌てて駆け寄る。

 

「ああ、魔力を使い果たして動けなくなっただけですので。お構いなく。我が爆裂魔法は最強魔法、故にその消費魔力もまた甚大なのです」

「え、ええー……。いやいや、いくらなんでも無茶し過ぎでしょ。それは」

 

 とりあえず心配なさそうだった。

 魔力切れで若干つらそうな様子はあっても思ったより平然としているめぐみん。それを見て、ひとまずクリスは安堵した。そして呆れた。

 怪我や、何かの病気を患っているわけではないらしい。

 爆裂魔法は最終手段にして、次回からは上級魔法などのもっと小回りの利く魔法を主体にしてもらおう。あとで言っておかないと。

 そんなことを思いつつ、めぐみんのことは一旦そのまま休ませておいて、クリスはダクネスの救助へと向かう。

 

「む。何だクリスか。もう来てしまったのか……」

「何だって、何なのさ! 酷くない!?」

 

 至福の時間が終わってしまったことを悟って残念そうなダクネスに悪態をつきつつも、クリスはジャイアントトードを仕留めてダクネスを助け出す。

 ダクネスを飲み込んで身動きがとれなくなっていたので楽勝だった。

 

 今日は一旦帰ろう。

 ダクネスはカエルの粘液まみれ、めぐみんも魔力切れ。現在の戦力を分析してクリスはそう決断する。

 クエストなら明日にでも再挑戦すればいい。

 

「あっ」

 

 そうクリスが考えていると、ダクネスがふと声を漏らす。

 そんなダクネスの見つめる方向へと、つられてクリスも視線を向けてみる。

 新しくやって来たカエルに、ちょうどめぐみんが飲み込まれるところだった。

 

「め、めぐみーん!!」

 

 このあとめちゃくちゃ頑張って救出した。

 

 

 

 

 粘液まみれの二人を伴っての帰り道。

 そこでとんでもない事実が判明する。

 

「ま、待ってよ! 爆裂魔法しか使えないってどういうことなのさ! 爆裂魔法が使えるなら、それより下の上級魔法や中級魔法だって使えるんじゃないの!?」

「使えませんよ。私は爆裂魔法しか覚えていないので」

 

 めぐみんは爆裂魔法しか習得していなかった。

 しかもその後の彼女の言によると、今後も他の魔法を覚える気がない。

 つまり超火力と引き換えに、一発魔法を打ったら以降はガス欠となるお荷物なのだ。彼女は。

 

 クリスは戦慄した。

 たたでさえダクネスの性癖に振り回されているというのに、これはとんでもない地雷を引き込んでしまった。

 将来有望な金の卵だなんてとんでもなかった。

 このままでは自分の負担が倍になってしまう。

 ダクネスに背負われた状態で爆裂魔法への愛を語っているめぐみんに、敵感知スキルを使っていないにも関わらずクリスは身の危険を感じる。クリスの本能が警笛を鳴らしていた。

 今からでも引き離さないと。

 

「そ、そっかー。大変だろうけど頑張ってね。また一緒にクエストを受けられるといいね!」

「……クリスは、めぐみんをパーティーに迎え入れるのには反対か?」

 

 クリスがめぐみんと別れようとしているのを察して、呟くような声でダクネスが問いかけてくる。

 

「うっ……」

 

 寂しげなダクネスの様子に、クリスは返答に窮した。

 正直、反対だ。魔法一発で継戦能力を喪失する魔法使いなんて、クリスの手には余る。ダクネスだってそれはきっと理解している、だから強くは言ってこないのだろう。

 けれど。

 

 ダクネスは口下手で。世間知らずで。

 友達らしい友達が、彼女にはクリスくらいしかいなくて。

 ダクネスにはもっと交友を広げてもらいたい。ダクネスの良いところを他の人にもっと知ってほしい。そんなことをクリスは前々から思っていた。

 前にもクリスとダクネスとパーティーを組んだ人はいた。しかしその人たちも、ダクネスの性癖についていけずに逃げてしまった。

 しかしめぐみんは違う。

 

 その上めぐみんとダクネスは、今日の限りだと想像以上に打ち解けていたようにクリスには見える。二人は相性がいいのかもしれない。

 こうして今も控えめにとはいえ、ダクネスが反対の意思を自己主張しているくらいだ。

 せっかくダクネスに友達ができそうなのに、自分の都合で引き離すような真似をして本当にいいのか?

 

「あ、明日からもよろしく……」

「――ええ、改めてよろしくお願いします。クリス」

 

 そう思うと、クリスにはめぐみんを突き放す選択がとれなかった。

 表情はもしかしたら引きつっていたかもしれない。

 それにめぐみんは、ダクネスにあっさりと絆されたクリスへと呆れたような、しかし自分を受け入れてくれたことに少しの照れくささを含んだような顔をしていた。

 

 

 

 

「わあああ、エリスー! エリスー‼ 助けて欲しいんですけどー‼」

「ア、アクア先輩!?」

 

 その後天界に帰ったクリス(エリス)は、すぐに先輩女神に捕まった。

 どうやらまたトラブルを起こしたとかで、その救援要請だった。

 この先輩にエリスは頭が上がらない。なので、拒否の選択肢は最初から存在しない。

 それからエリスはトラブルへと対処しつつ、迷惑をかけた方々へと先輩を伴って頭を下げて回ることとなった。

 この日も結局徹夜である。とてもつらい。

 

 

 

 

 翌朝のギルド。

 その片隅のテーブルで、クリスは一人、死んだように上体を伏せっていた。

 

 他の二人はいない。

 めぐみんがなかなかやって来ないので、ダクネスを彼女の泊まっている宿まで迎えに行かせたのだ。

 昨日は疲れているようだったし、もしかすると寝坊かもしれない。

 ダクネスは人と話すのは少し苦手だけど、めぐみんはあれで社交能力はあるようだし、何より二人は相性がいい。だからきっと大丈夫。

 あえて自分はついて行かずに、二人きりにしたほうが仲良くなれるんじゃないかな。

 そんなことをクリスは考えていた。

 

 あるいは単に、過労と軽度の睡眠不足からしばらく一人になりたかっただけとも言える。

 

「何かここ最近忙しすぎる気がする……」

 

 地上でも、天界でも。

 クリスはそんな詮無いことを思った。

 まるで仕事に疲れ切った社畜である。普段の明るく活発なクリスはどこにもいない。

 特に女神エリスを信仰する信者たちにはとてもお見せできない姿だった。

 

「神器探し、またやろうかなあ……」

 

 まずはターゲットを見繕うところから始めないと。

 クリスは今後の予定を心のメモに記録した。

 

 クリスには冒険者以外にも、義賊としての側面がある。

 悪徳貴族から不当に蓄えた財を取り返して民間に還元しているのだ。

 一番の目的は、神器と呼ばれるアイテムが悪意のある人間の手に渡らないよう回収することではある。

 しかし正直、義賊活動そのものを楽しんでいることは否めない。

 今のクリスは心の底から潤いを欲している。自分のストレス発散のために、彼女は世間的には犯罪とされる行為に手を染めようとしていた。

 

 そのような思考に耽っていると、ふと近くのテーブルの様子が目についた。

 

「お嬢ちゃん、今日も一人かい?」

「……?」

 

 それは鎧をまとったおじさんが息を荒げながら、年若い少女に声をかけているところで。

 

「おじさん……じゃない、僕も一人でね! 今日こそパーティーを組んでくれるかな! 僕は十三歳で年も合うし、こう見えて高レベルのクルセイダーだからね! 心配はいらないよ」

 

 あ、ダメ。これ見過ごしちゃいけないやつだ。

 明らかに少女の親世代くらいのおじさんが、そんなことを早口でまくし立てるのを耳にして。

 クリスは、さっきまでの疲労も思わず忘れて席を立ち。純朴そうな少女へと近寄る怪しいおじさんを追い払うべく駆けて行った。

 

 

 

 

「まったく。キミも気をつけなきゃダメだよ? ああいうのはさ、まともに相手してるとつけあがっていくんだからね」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 不審者を撃退してしばらく。

 イマイチ状況を理解してなさそうな少女に、クリスは自分の身は大事にしなくてはならないことを説いていた。

 何と言うか、見るからに大人しそうでとても危なっかしい少女というのがクリスの抱いた印象である。

 こんなに騙されやすくてこの先大丈夫だろうか。クリスはこの少女の幸先が不安になった。

 

「でもあのおじさんは、昨日も話に付き合ってくれたり、お昼も奢ってくれた、すごくいい人で……」

「だからダメだってば! ていうか昨日も話したの!? 次からは声をかけられても絶対関わっちゃダメだからね! ほら、声をかけられても無視しますって、今すぐあたしと約束して!」

「や、やっぱり嘘だったんでしょうか? 私と同じ十三歳にしては、うちのお父さんと同年代くらいに見えましたし」

「いやだから……は? 十三歳!? それで!?」

 

 クリスは少女の胸元へと視線が釘付けになった。

 十三歳という年齢には似つかわしくない、あまりにも豊満なソレだった。

 ダクネスにはやや及ばないにしても、年を考えれば破格にすぎる。

 少なくとも、少年と間違えられることすらあるクリスとでは、絶望的なまでの戦力の開きがあった。

 現実を直視したくなくて、クリスは話題を元へ戻しにかかる。

 

「あー……そういえばさ、見たところキミも冒険者なんだよね。仲間は? もしかしてキミ一人?」

「え……あっ、も、もしかして私なんかをパーティーに誘ってくださるんですか!?」

「えっ」

 

 おかしい。なぜか自分が彼女を勧誘したことになっている。

 クリスとしては、ああいう怪しい人に絡まれたときに止めてくれる知り合いがいるかを尋ねたかっただけなのに。

 先程までオドオドしていたはずの少女が、仲間というワードに目を真っ赤に光らせ一気に食いついてくる。

 急に話が飛んだことにクリスは混乱した。

 

「わ、私ゆんゆんと申します職業はアークウィザードですが魔法はまだ中級魔法しか覚えてませんごめんなさいでも大丈夫ですすぐに上級魔法だって覚えます!」

「あ、いや、その」

「不束者ですがよろしくお願いします!」

 

 そこまで一気に言い切って。

 状況についていけていないクリスには一切気がつかず。

 少女改めゆんゆんは「やった! 私にも仲間ができた!」と、我が世の春でも訪れたかのようにとても嬉しそうにしている。

 勧誘を飛び越えて、勝手にメンバーが一人増えている。

 クリスは唖然とした。

 

 

 

 

 これは、とある世にも幸運な盗賊少女の前日談。

 三名の問題児を率いてデストロイヤーを撃退し、魔王軍幹部を下し、ゆくゆくは魔王すら打倒する――かもしれない少女とその仲間たちの、出会いを描く物語。




※続きません
思いついたのでエイプリルフールネタとして試しに書いてみました。

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