「諦めて妾と子作りするのじゃーー!」
「いやぁぁ助けてーー!」
襲われています!
よくあるヤツをポケモン世界でやってみた。
『ロコン』
きつねポケモン。
ほのおタイプ(または、こおりタイプ)。
赤い身体と6本の丸い尻尾が特徴のポケモン。【ほのおのいし】を与えると『キュウコン』に進化する。
彼らはよく草原や森などの茂みを生息地とする。中でも『おくりびやま』などの霊的なエリアを好む傾向がある。
そのせいか一部の地方の田舎町には、大昔から野生のロコンやキュウコンが人間に化けて芝などを燃やしたりして悪戯をするといった話が残っている。
それらを総じて、昔の人達は『化けロコン』、あるいは『化けキュウコン』と呼んだ。
これらのおとぎ話の中には、化けキュウコンと人間の男が結婚するといった話もある。それらの結末の大概は、正体を見破られたキュウコンが男の元を去って行ってしまうというものが多い。
「しかし、ポケモンが人に化けるというのは、これまで確認されておらず、これらの逸話の真偽は今のところ不明、か……」
けどポケモンというのは、この世界に住む不思議な不思議な生き物だ。
火や水だけでなく、
「そう、不思議じゃない……のかな?」
「主様、何をしておるのじゃ?」
ふと声を掛けられて、ボクは意識を思考の中から現実へ戻した。背後……のやや下の方を見ると、もうすっかり見慣れてしまった、ひとりの幼女の姿があった。
赤茶色のロングヘアと赤い瞳、パッチリした眼、華奢な身体に赤茶色のワンピースと、……どこからどう見ても可愛らしい女の子だ。
その頭部にある三角の
「あぁいや、ちょっと調べ物をね」
「なんじゃその書物は……?」
そう言って、幼女はボクの手元にある本を覗き込んだ。
「んーなになに、『ポケモン図鑑』、『おくりびやま怪異記』、『ホウエン妖談集』……なんじゃ随分と堅苦しい書物ばかりじゃのう」
「うん、少し“コンさん”について調べてみようかなって」
「ほほぅ、それは殊勝な心掛けじゃな!」
幼女は腰に手を当てて、感心したと言った表情でボクを見上げた。
「嫁のことを少しでも知ろうとしてくれて、妾は嬉しいぞ!」
そして彼女は眩しいくらいニカッと笑う。
その口元にはビックリするほど綺麗で白い歯がチラリと覗いていた。
その可愛らしい表情に、ボクは自分の頬が火照り、胸の中がドクンと大きく跳ねたのを感じた。
「しかし主様よ、愛しの妾について調べるのも良いが、早く来てもらわぬとせっかく作った晩御飯が冷めてしまうのじゃ」
「あっうん、分かったよ」
彼女の名前は、“コンさん”。
外見は幼いけど、実年齢はボクよりもずっとずっと上なので、ボクはさん付けで呼んでいる。
お察しの通り、コンさんは普通の人間ではない。
彼女の真の姿は、なんと、きつねポケモンの“ロコン”。先ほど説明した『化けロコン』が彼女の正体だ。
そして、おとぎ話でよく聞く『化けロコン』や『化けキュウコン』と同じように、彼女と僕は偶然出会い、恋に落ち、やがて結婚した。
野生でひとり育ってきた彼女も、今ではすっかり人間の暮らしに馴染み、ボクと生活を共にしている。
炊事洗濯などもお手のものだ。
「いただきまーす……ってコンさん、それ」
「なんじゃ、ポケモンがポケモンフーズ食べたら不思議か?」
「いや、そう言われるとそうだけど、ボクがご飯作ってもらって食べてるのに、作った本人がポケモンフーズというのは、ちょっと……」
「そうなのか? しかし、これはこれでとても美味い食べ物じゃぞ。主様も食べてみるか?」
「遠慮しておきます」
茶色の固形物を差し出してきたコンさんに、ボクは手をヒラヒラと振って、丁重にお断りした。
木の実ならまだしも、ボクにはポケモンフーズを食べる勇気はない。
一応、ポケモンが人間の食べ物を食べても特に問題ないのだが、そのお手軽さと味の美味しさから、コンさんは市販のポケモンフーズを好んでいる。
こうして、ボクにわざわざ料理を作ってくれて、自分はポケモンフーズを食べることも珍しくない。
「ご馳走さまでした」
「お粗末様じゃ」
やがて晩御飯も食べ終わり、一緒に食器類を片付けたボクたちは食後のぬくぬくした時間を過ごす。
コンさんはソファーに座っているボクの横に来て、ボクの手を取り身体を寄せてきた。
「……ちょっと近くないですか?」
「ふふふっ。良いではないか、夫婦水入らずじゃ」
彼女の握る手と触れた身体がほんのりと温かい。流石は元がほのおタイプのポケモンなだけはある。
「それより主様よ」
「ん?」
「今宵は穏やかな夜、明日は特に予定もない。そんな状況で健康な夫婦が一つ屋根の下となれば、やることはひとつじゃろぅ?」
「えっ、なっ、や、やることって……?」
「それはじゃなぁ……」
コンさんはボクと向き直りに、のっそりと近づいてきた。
「……それは?」
「それはもちろん、子作りじゃーー!」
「わぁぁーー!」
そう言って、コンさんは勢いよく大きく手を広げてボクに抱きついてきた。コンさんの小さな体を支えきれず、ボクはソファーの上に倒れる。
「さぁ、今宵も二人でイチャイチャしようではないか!」
「い、いやぁ、イチャイチャは良いけど、流石に子作りは……てか人間とポケモンで子作りできるの?」
「そこはあまり深く考えるでない」
えぇぇ……。
「むふふぅ、今晩は寝かせぬぞ主様よ!」
「ちょっ、タンマタンマっ! 前からさんざん言ってますけど、それはまだ早いってぇーー!」
「何事も善は急げじゃーー!」
ボクの抵抗もむなしく、口を尖らせたコンさんの童顔がどんどん近づいてくる。はっちゃけたテンションながらも、コンさんも恥ずかしくはあるのかほんのりと顔が赤い。
それがかえって、ボクには妙に色っぽく見えた。
「んぐぐっ…………えい!」
このままではいよいよ一線を越えてしまうと直感したボクは、ポケットから“モンスターボール”を取り出して、馬乗りになっているコンさんの身体にコツンと当てた。
「なにッ!」
するとコンさんの身体が発光して、みるみるボールの中へ吸い込まれていった。
いくら『化けロコン』といっても、元はポケモンだ。トレーナーのモンスターボールに触れれば、習性的にボールの中に身体が収まった。
「はぁ、はぁ……なっ!」
しかし呼吸を整える間もなくモンスターボールがパカーンと開いて、中からコンさんが飛び出してきた。
「妾は何度でも蘇るのじゃーー!」
「わぁーー!」
抵抗むなしく、ボクとコンさんは再度同じ体勢になる。
「そう照れるな主様よ。本能のままに楽しもうではないか」
「いや、ボクにも理性というものがありまして……」
「むふふ、そうは言っても身体は正直じゃのぉ」
「わぁぁーー!」
いよいよヤルことヤッてしまいそうな態勢になった瞬間、ボクの持っているもう一つのモンスターボールがパカーンと開いた。
「チャモ!」
「あっ、アチャモ!」
ボクの異変を察知したのか、もうひとりのボクのポケモンであるアチャモがモンスターボールから飛び出てきた。
「アチャーー!」
「ぬぅ、ひよっこめ、邪魔するでない」
ボールから出てすぐに、アチャモはコンさんに向かって『たいあたり』した。しかしレベルの違いか、生きた年月の差のおかげか、コンさんは手慣れたようにするりと身をかわす。
けどおかげでボクは、コンさんから解放されて自由に動けるようになった。
「チャモチャモチャーー!」
「なに? 『ご主人様をいじめるな』とな?」
「チャモチャモ!」
「ふむふむ、主様を思うその心は実に良し!」
ボクのために怒っているアチャモを見ながら、コンさんは感心したように深く頷いた。
「だが残念、妾は主様の嫁なのじゃ」
「チャぁモぉーー!」
説得に応じないコンさんにアチャモはいよいよ技を放ちはじめた。アチャモの口から出てきた小さな火の玉がコンさんを襲う。
「おぉ、温かい『ひのこ』じゃのぉ」
しかし残念かな。『もらいび』のとくせいを持つコンさんには、アチャモの『ひのこ』はまったく効かない。
「ふふっ、ひよっこのアチャモにやられる妾ではないぞ。悔しければバシャーモになって出直すことじゃな……ハァ!」
「チャモぉぉ!」
コンさんが一喝すると、急にアチャモが目を回して倒れた。
「なっ、アチャモ!」
「なに心配するでない、『あやしいひかり』で少し混乱しただけじゃ」
ほっ、なら良かった……いや良くねぇーわ!
「さぁこれで邪魔ものはいなくなった。さぁ主様よ、覚悟を決めよ」
手をワキワキしながら、コンさんはまたボクの方へじりじりと近づいてくる。
「諦めて妾と子作りをするのじゃーー!」
「いやぁぁ助けてーー!」
このあと滅茶苦茶、抵抗した。