めっちゃ強いレミリアたんになった転生者が自分を捨てたお父様をぶん殴る話   作:わらしべいべー

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 完ッ結ッ!!



【前回のあらすじ】
・幻想郷は美味しいスイーツ!パクパクですわ!
・ゆかりん「(幻想郷は)あげません!」
・レミリアたん主人公降板の危機





レミリアたんの戦いはこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうも、地球が生んだ超越美人のレミリアたんです…。

 

 あの後日が昇って寝てた皆は起きました。日が出れば私の魔力は綺麗さっぱり消えちゃうんですねこれが。里の人たちも不思議には思っていたものの、いつも通りの日常が帰ってきましたと。わーいやたー。

 

 …はい、見ての通り元気ないです私。しょんぼりレミリアたんです…。

 

 いやもうね、土に還りたい気分だよ。

 最終的に目的反転した挙句に、みんなの前でギャン泣きしちゃったんだよ?もうお外出れないヨ…、シクシク…。

 こんな気分の時はお布団にくるまって(精神の)覚醒の時を待つに限るのだ。惰眠最高!惰眠最高!

 

 

「というわけで今日1日寝ます、すみおやー」

 

「ダメ、仕事だから起きて」

 

 咲夜は布団にくるまった芋虫から皮を引っ剥がそうとする。

 

「いーやー!私は疲れてるのー!私はあの夜1番の功労者よ!?いーじゃん今日1日くらい!」

 

「店長や里のみんなはそのこと知らない。今寝たらただのサボり」

 

「うー!いやー!寒いのー!眠いのー!」

 

「そういえば今日フランたちが来るって」

 

「ほんとっ!?」

 

 レミリアは咲夜をふっ飛ばして布団から飛び上がる。

 

「早くそれ言ってよ!遅刻しちゃう!」

 

 急いでレミリアは身支度を整え、朝食の焼き魚を咥えて、目を回している咲夜を連れて家を出る。

 

「おや、おはようレミリアちゃん。今日も仕事かい」

 

もまもう!むん、みまみょうみもいめむ(おはよう!うん、ちょういそいでる!)!」

 

「そうかい、気をつけてな」

 

「むん!」

 

 そう言ってレミリアは店に向かって走り出した。狭い通りを抜けて、里の大通りに出る。そこには2日前の戦争など無かったことかのように、変わらず人々が往来している。

 

「あっ、おはようレミリア!」

 

「…ん、ごくっ…、おはよう小傘!2日ぶり!」

 

「あれからどう?体調とか大丈夫?」

 

「ぜーんぜん問題ナッシング!元気100倍よ!」

 

「…さっきまで冬眠中の蛙みたいに動かなかった癖に」

 

「あ、咲夜おはよう!さぁ、今日も1日気張っていくわよー!」

 

「さりげなく無かったことにしないで」

 

「あっ、そうだわ!咲夜!ルシェルたちが来るってどういうことよ!そんなの初耳だわ!」

 

「何言ってるのレミリア、この前ルシェルさんたちがこっちに来るって言ってたじゃん」

 

「ごめん寝てた!」

 

 どうやら小傘の話によれば、あの後あの場にいたルシェルたち吸血鬼側は、八雲紫の恩赦によって正式に幻想郷に住まうことを許されたらしい。色々と条件はあった様だが。それでその後、唐突にルシェルが是非レミリアの住んでいる里に行きたいと言い出したのだ。

 

「今回は幻想郷の歓迎会を含めた集まりってことね!」

 

「来る時には人間に変装して来るって言ってたけど、大丈夫かな…」

 

「大丈夫だって。お母さんはしっかりものだし、お店も里の入り口の近くにあるからすぐに気づくわよ」

 

「そうじゃなくて太陽が…」

 

「……フランがいるから問題ないわ!」

 

 その自信は一体どこから出て来るのだろうか。スカーレット一家は意外と抜けている部分がある。レミリア然り、ルシェル然り、何でもノリと勢いで解決しようとするから目が離せない。現当主のフランは苦労するだろう。咲夜は少し同情した。

 そんなことを話していると、里の大通りに妙な人だかりができているのを見つけた。卸売でもしてるのかと思ったが、あの辺りに売り物屋は無かったはずだし、時間も早すぎる。

 

「なんだろう、屋台かな?」

 

「トラブルか何かじゃないの?どうせまた誰かが慧音先生の頭突きの餌食に違いないわ」

 

「そんな命知らずレミリア以外に知らない」

 

「何よ!私がトラブルばっかり起こすみたいに言って!」

 

「あの時の自分見て同じこと言える?」

 

「あ、あれは不慮の事故よ!事故!閉じ込められた時に出力ミスしなかったら何の間違いもなく完璧だったんだから!」

 

「ふーん…」

 

 すると、ザワザワと騒ぐ人だかりの中から人だかりの中から一際大きな声が響いてきた。

 

「皆さん、今日はこんな朝早くから集まっていただきありがとうございます。今日皆に集まってもらったのは、少しばかり私の話を聞いて頂きたいからです」

 

 そう声を上げたのはきっちりとした装いをした男だ。レミリアにも覚えのある顔だった。確か自警団の団長だっただろうか。真面目で少しお堅い部分はあるが、里でもかなり人望のある人だ。あの夜の日、里で忙しなく動いて部下に指示をしていたのが記憶に残っている。

 周囲の人々はまばらに騒ぎつつ、彼が一体何を話すのかと気になっている様子だ。

 

「…話の結論から申し上げましょう。私たちは先日、里でこの幻想の地に住まう神の真姿をこの目で見ました」

 

 ザワリと周囲が騒ぎ立つ。

 この人妖住まう幻想郷であっても神と呼ばれる存在は数える程度にしかおらず、また殆ど里には顔を出すことはない存在だ。そんな神をこの里に現れたということはそれだけで縁起の良いことなのだ。

 

「詳しい事情は説明できませんが、先日の夜、この里に凶悪な妖怪が攻め込んできました。その中にはかの凶悪な常闇妖怪の姿もあり、対処に赴いた我々は窮地に陥ることになった」

 

「しかしその時、かの御身の神がご降臨なされ、攻め込んだ全ての妖怪と災害を屠り、我々を救ってくださったのです!」

 

 ザワザワと喧騒が大きくなる。

 

「あの常闇妖怪を?まさか」

 

「流石に無理があるだろ…」

 

「そういえば、前の朝刊で妖怪が攻めてきてたって書いてあったぞ…!」

 

「でもあの鴉天狗の新聞だろ…?信用が足りないだろ…」

 

「でも自警団の団長さんがそんな与太話を態々こんな大々的に言うかしら?あの人神力とかそういうの特に信用してなかったし…」

 

「確かに…。もしかしたら本当のことなのかも…」

 

 

「我々はその御身をこれより『星辰様』とお呼びし、信仰の対象とすることを決めた!…そしてこれがかの星辰様の御姿だ!」

 

 そう言って民衆たちに絵の描かれた紙を見せる。そこには星が描かれた巨大な翼を持つ女型の人物が仏教画のように描かれていた。「おぉーっ」と人々は反応を見せる。

 

「この御身を信仰すれば次新たにこの里に脅威が迫り来る時も必ず我々を守ってくださるはずだ!さぁ、皆さんも星辰様を信仰いたしましょう!」

 

 ワァー!と人々は沸き立つ。どうやら人々にとってもかなり興味に惹かれる話だったようで、かの自警団団長の言う星辰様は人々の心にすんなりと入り込んだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

「な、何で、こっちを見るのよ!関係なし!他人の空似!」

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 幻想郷に訪れた未曾有の危機。最悪の未来も寸前まで見えたが、間一髪というところで回避し、幻想郷も元の姿を取り戻すことができた。

 しかし全ての問題が解決したわけではない。幻想郷にある有力者は大戦中に何が起きたのかを把握できていない者も多い。あの夜起きたことは過去類を見ない異常事態に他ならなかった。各所の妖怪たちもあの夜の出来事には精神的に参ってる様で、一部の妖怪は話すら聞ける状態ではなかった。

 だが無理もないだろう。何せ彼らに限らず妖怪たちの中には()()()()()()()()()()()()()()。ルシェルの力は息絶えてしまった命の運命でさえも元通りにしてしまったのだ。当の彼らも、しっかりと死んだ記憶は覚えている様で、当然幻想郷中がパニック状態になった。その対応を負わなければいけないのが管理者である八雲紫だ。

 幻想郷の管理者としてあの場にいた八雲紫は幻想郷の妖怪たちに何があったのかを説明する義務があった。

 

 紫と藍は静かに縁側を歩く。縁側からは豊かな緑が青々と茂っている。今日も快晴だった。あんなことがあった後だと、この何気ない景色も酷くありがたく見えてしまう。

 藍の足音もいつもより遅い気がする。やはりあの夜のことが気にかかるのだろう。藍から見れば主人が1人幻想郷の危機に抗っていたのを他所に、式である自分はのうのうと寝ていたのだから。そんなことは彼女のプライドが許さないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、いつの間にか目的の部屋の前にまで着いた。考えすぎていた。思慮を深めすぎると周りが見えなくなるのは昔からの悪癖だ。そう思いながら襖を開ける。

 部屋の中には幻想郷の有権者たちが揃い踏みしている。面子も事情あって欠席している博麗の巫女を除いて大方いつも通りだ。特に今日は話題が話題だからかいつもより欠員が少ない。

 

「おや、珍しいですね。貴女が徒歩でいらっしゃるなんて」

 

「お久しぶりです、守護者様。ええ、偶にはゆったりと地を踏んで来るのも良いかな、と」

 

 上白沢 慧音。里の代表として来た彼女もまた、今回の会合の出席者だ。

 

「それよりも、先日は橙がお世話になった様で」

 

「大丈夫ですよ、寧ろああやって札を提供してくれてだけでも有難いです。おかげでなんとか里も持ちました」

 

 その声色に僅かばかりでない不満があったが、今指摘することではないと敢えて気付かぬふりをする。

 思えば里になんの被害も出ていないのもあの存在、レミリアが何かやりくりをしていたのだろう。

 

「ふふ、そう言って頂けると此方も用意した甲斐がありましたわ」

 

「…ああ、有り難かったさ。本当にな」

 

「『どの口が言う。たったあれっぽっちでどうあの激戦を凌げと言うのか。人間を下に見てるとしか思えん愚考者めが、いつか足を救われるぞ』ですか。ふふ、私も概ねそう思いますね」

 

 そう言ったのは癖のある紅桃色の髪の少女だ。見た目以上の落ち着きと、積み重ねを感じる佇まい。頭と手足から血管の様なチューブが生えており、胸の半ばあたりの赤い瞼のかかった眼球の様なものに繋がっている。

 地底の主、古明地さとり。幻想郷の凶悪な妖怪たちが数多く存在する地底世界の統治者にして、そこに存在する地霊殿の主。彼女は自他認める嫌われ者。本人が心を読む力を持っているということも大きな要因であるが、その最たる理由は…

 

「ふふふふ、なんて可哀想なのでしょう。そちらの都合で一方的に戦禍に巻き込まれたにも拘わらず、そんな雀の涙程度の対抗策しか与えて下さらないとは、里の人間に死ねと言ってる様なもの。もしかすればそれが狙いだったのかも知れないですねぇ。今の里は良くも悪くも発展しすぎましたから。人と妖怪のバランスを取るのも管理者様のお役目ですから。言うならば、間引きですかね」

 

「古明地ッ…!!」

 

「おやおや、怖いですよ式神さん。私は事実とそこから考えられる予測を述べただけ…。そう思われても仕方ありませんよねって話です」

 

「……さとり殿」

 

「ああ、失礼。上白沢さん。つい癖で。…ですが趣旨とはズレても今回の話では避けては通れない問題ですよねぇ?賢者様」

 

「……」

 

 その場にいる全員の視線が紫に向く。

 

「私たちはあの夜何が起きたのかを知りたいのですよ。目的はまばらでもこの場にいる一同皆同じ気持ち」

 

「…そうね、本題にいきましょう」

 

 紫は敷かれた座布団に座り、真っ直ぐとその場の者たちを見据える。その誰も彼もが幻想郷の一部を任された、或いは統べた者たち。万が一暴れられでもすれば、紫でも手を焼く面子だ。慎重に話を切り出そうとする。

 

「賢者殿」

 

「…何でしょうか、天魔殿」

 

「話を切り出そうとするところ申し訳ない。儂ら妖怪の山は先日の一件で多大な被害が出ている。無論、外傷に関しては問題はありませぬ。しかし精神面での被害はかなり大きく、山にいる者の半分以上が機能しておりませぬ」

 

 天狗という妖怪は基本的にプライドが高く、妖怪の中でも実力のある者が多い。しかしそれに反比例する様にメンタルが脆弱なのだ。全員が全員、そうであるわけではないが、無駄に見栄を張って自身の能力が通用しないと即へっぴり腰になって逃げる天狗も少なくない。そんな彼らは今回の一件でも特に被害が出ている一派だった。

 

「我々が知りたいことはたった一つ。あの空が歪む異変を起こした者が誰か。それだけです」

 

「……」

 

 当然の帰結。先も言った通り天狗はプライドが高い。故にここまでのことをしでかした主犯をタダで済まそうという考えは無いのだ。天魔がそれを望んでいるかは兎も角、部下の大天狗たちが。

 周囲の者たちを見ても概ね聞きたいことは同じの様だ。たとえ全てが元に戻ったとしてもそこまでの力の持ち主を見逃すわけにはいかない。仮に既に討たれていたとしてもそれが一体誰なのかは皆気になるのだ。

 

「…そうですわね。皆気になること…。では結論から申しましょう」

 

 扇いでいた扇をパチンと閉じる。

 

「此度の異変の主犯はフランドール・スカーレット、及び風見幽香。空を覆うほどの魔力の正体は、彼女と我が軍の風見幽香との衝突で起きたものですわ」

 

 一同に動揺が走る。何せ彼らが聞かされていた情報ではフランドール・スカーレットは今回戦争を仕掛けて来た吸血鬼軍の主犯の娘だと聞いていたからだ。大体の者はアゼラルが起こしたものばかりと思っていたが、まさか妖怪から見てもまだ歳の浅い少女が起こしていたとは意外だったようだ。

 しかし腑に落ちる者もいた。あの風見幽香が引き起こしたのであれば納得もできる。何せあの存在は別格。神の如き力を持つ管理者たちと同格かそれ以上の力を持つと言われているのだ。何らかの異常現象を引き起こしても何の違和感もない。

 もしこの場に幽香本人がいれば卒倒していたこと違いなしである。

 

「…それで、その吸血鬼はどうした?」

 

「残念ながら討ち取るまでは叶いませんでした。彼女の力は父であるアゼラルよりも遥かに上。戦力を減らされたあの状況では、我々も痛み分けに持っていくのが精一杯でしたわ」

 

「つまりまだ生きている…と?」

 

「ええ、幻想郷に手を出さないことを確約する上で、手を打たせていただきましたわ」

 

「巫山戯るな!!」

 

 一つ目の大柄な妖怪がそう叫ぶ。

 

「そのような危険な者を野放しにするなどあってはならぬ!!ましてや吸血鬼!我々に争いを降らせて来た者ですぞ!居住を許すなど論外!即刻始末するべきだ!」

 

 そうだ、危険因子すぎる、とちらほら声が上がる。反対意見が出るのは自然だ。

 

「何よりそのような輩を住ませていて、また幻想郷に手を出さないという保証がどこにある!」

 

「確かにおっしゃる通りですわ。しかし此方も何の考えもなしに和解を結んだわけではありません」

 

「どういうことだ…?」

 

「私はフランドール・スカーレットと和解を結ぶ条件として、幻想郷の一部地域の管理、及び管轄を任せることにいたしましたの」

 

「なっ、なんだと!?つまりその餓鬼に我々と同じ席を設けたと!?それでは奴らの思うツボでは…!!」

 

「いえ、そうでもありませんよ」

 

 そう口を挟んだのは古明地さとり。彼女は一つ目の妖怪を嘲るように視線を向ける。

 

「管理を任せたということは、首輪をつけたと言う他ない。一見管理地域を与えられて自由に行動させられるように見えますが、実際は上からの重圧でロクに動けないでしょうねぇ。今の私たちのように」

 

「ぐっ…!」

 

「『その油断が我々の首を絞めることになればどうする』ですか。まぁ、尤もですが、それはこの場にいる全員の勢力がそれを言えますよね。一個人であっても、或いは他の複数の一派が手を組んでも、今回と似たような騒動は起こせる」

 

「だがっ…!!」

 

「『争いの問題ではなく、個人の戦力の問題だろうが』。確かにそうですが、それは抑止力がなければの話ですよ。話の流れだとその吸血鬼は風見幽香とほぼ同格の力を持っていると思って良いのですよね、管理者様」

 

「ええ、風見幽香は万が一彼女が暴れれば手を貸すことを確約してくれましたわ。それに吸血鬼側は私との誓約書に同意した。互いに互いを縛る誓約書。それを破ればいかにフランドールといえど無視できないペナルティが下りますわ」

 

「ぐぐぅ…!」

 

「まだ納得できませんか。なら、本人に聞けば良いですよ。管理者様、貴女のことですからどうせ連れて来てるのでしょう?」

 

「あらあら、貴女いつの間に私の心も見透かせるようになったのかしら」

 

「流石に何十年と付き合っていれば心は読めずとも多少の行動は予測できます。それに本人がいないままこの場を収めるのは難しいですからね」

 

「ふふ、これはこれは一本取られてしまいましたわ」

 

 そう言うと、紫の背後に空間の境界を開けたものであるスキマが現れた。そこからヒタヒタと足音が聞こえてくる。そしてその紅いシルエットは異形の羽を連れ添って一同の前に現れた。

 

「どうも皆さんはじめまして。私は現紅魔館当主フランドール・スカーレット。此度は幻想郷地区、霧の湖周辺の管轄を任されましたわ。どうぞ宜しく」

 

 そう丁寧にスカートの裾を摘み、お辞儀をした。

 

 

 そこからは特別語ることも無い。

 反対者の意見をフランドールが端から叩き潰しただけなのだから。話が進むほど批判意見は少なくなっていき、彼らはフランドール及び紅魔館組を受け入れざるを得なくなった。しかし反対意見というのも元から少なくはあった。八雲紫がこうして連れて来た時点で最低限の安全は保障されているし、風見幽香という強大な抑止力もある。少なくとも暴れることはない。何か腹に持っているということもあり得るが…

 

(それは私たちにも言えることですからねぇ…)

 

 最後に八雲紫から幾つかの決定事項と、提案があったが、それは次回への持ち越しとなった。

 会合も終わり、部屋にまばらに残った妖怪たちが個々人と話し合いをしている。まぁ、大体が世間話やロクでもない企みである。全く、そんなもの管理者に根っこから絶たれて破綻するというのに。これだからここの面子は一部の入れ替わりが激しいのですよ、と内心で呆れを滲ませる。

 

「さとり殿」

 

「…おや、珍しいですね。貴方から話しかけてきなさるとは」

 

 天狗の長、天魔。

 腹の探り合いが得意な彼が、その腹を覗けるさとりに話しかけるなど滅多にないというのに、如何なる魂胆か。そのまま空いた隣の座布団に天魔は腰を下ろす。

 

「ふふ、何かご相談ですか?貴方ほどの知謀の持ち主、私ごとき力になれることは無いと思いますが…」

 

「抜かせい。ただ気が向いて話がしたくなっただけじゃ。お主ならすぐに分かるだろう」

 

「ええ、揶揄っただけです」

 

 まったく と、ため息をついて何か考えるように上を向いた。しばらくの沈黙が流れる。

 

「なぁ、さとり殿。お主は此度の件、どう見る?」

 

「腑に落ちなさすぎる、と言ったところですかね。まず、あまりにも吸血鬼を味方として引き入れるのが早すぎます。普通なら味方とするにもある程度信頼を置けるか様子を見るのが適切でしょう。以前、外から大量の部外者が入って暴れた時も、半年ほど謹慎期間がありましたし」

 

 言外にそれは八雲紫とあのフランドールとの間に何らかの信頼関係ができている可能性が高いことを示唆している。

 

「もう一つは人里への対応の変化ですね」

 

「ああ、急に対応が手厚くなっておったのぉ。守護者殿の驚いた顔はよく覚えておるよ」

 

 八雲紫は会合の中で今回人間の里に対しての対応が至っていなかったと謝罪し、新たな里へ管理者が行う対応が書かれた用紙を上白沢に渡した。それを見た時の守護者の顔に内心と言ったら、思わず嗤いが溢れそうになったものだ。それ程までに里への対応はガラリと変わった。

 

「確かに今回一歩間違えれば里への被害は甚大になっていただろうと聞きます。ですが、実害は出ていない。何なら無傷です。にも拘わらず、今回急に彼女は対応を変えた。…変じゃありません?言ってしまえば今回の戦争とはほぼ無関係だというのに。今回の件は里と何か関係があると考えた方が自然、と私は思いますね」

 

 この二つのことを考えると、歪みを生み出した元凶者がフランドールということも疑わしく思えてしまう、というところまで思い至るが、まぁ、これ以上踏み込んだ話はしない方が良いだろう。あの隙間妖怪のことだ。どこで聞き耳を立てられているか分からない。触らぬ神に祟りなしである。

 

「まぁ、こんなところですかね」

 

「儂も概ね同じことを考えとったわ。…やはりこの件、何か裏があるのぅ」

 

「天魔様は何か知らないので?昨晩戦場にいたのでしょう。……あ、もう大丈夫ですよ。『元凶と会う前に山の様子を確認しに行ったら強烈な気配と共に眠気に襲われて寝てしまったと』。あははは、お笑いですね」

 

「敢えて言わんとしていたことを惜しげもなく…!」

 

「いえいえ、私も同じ感じでしたので。ふふふ、恐らくは幻想郷にいる全員がああなっていたのでしょう。とても、とても強力な力ですねぇ…」

 

「なんじゃ、そんな恍惚とした顔をしおって…」

 

 おっと、少し気を抜いてしまっていたようだ。お燐たちに苦労をかけてここにいるのだ。公共の場でくらい気を引き締めないと。

 

「兎も角、私から見れば違和感だらけだということです」

 

「ふむ、裏に何があるのかは気になるが、八雲殿が決めたことであれば、こちらに直接的な害が出てくるとは考えにくい…」

 

 ま、結局はそこに辿り着くんですけどね。

 どれだけ違和感があろうと、どれだけ疑わしくとも、管理者である八雲紫が決めた以上、これ以上の被害は出てこない。腹を持ってるとはいえ、私たちを消すメリットも特に今は見当たらない。管理が大変になるだけだ。丸く収まってる以上、これ以上の追求は無意味だろう。

 

「あらあら、面白い話をしてらっしゃるわね。私も混ぜてくださいな」

 

 そう言って天魔とは反対にある座布団に腰を下ろした少女。桜色の美しい髪に、水面色の生地に白の絹で桜の花弁のような模様が縫われた着物を着ている。彼女の周囲には白い玉のような物体がふわふわと漂っている。

 

「これはこれは西行寺殿。お久しぶりで」

 

「ええ、久しぶりね天魔さん。…そして、古明地さんも」

 

「ふふ、どうも」

 

 冥界にある白玉楼の主、西行寺 幽々子。冥界に流れ込んでくる霊魂の管理を任されている故、あまりこの会合には顔を出す印象が少ない人物だが、今回は事が事だからか来ていたようだ。

 

「あの異変、冥界にまで影響が出ていたのよ。おかげで場を収めるのが大変だったわぁ」

 

 幻想郷と冥界は明確にある場所が隔絶されている。幻想郷からの冥界の入り口は頑強な結界により封印されているので通常は幻想郷での影響も出ないのだが、今回は例外だったらしい。

 

「それで心配で来たっていうのに、紫ったら何か隠してるもの!友人としてこれは見過ごせないわ」

 

 八雲紫と西行寺幽々子は交友関係にあるらしい。詳しいことは知らないが、変人同士気でもあったのだろう。

 

「そ、こ、で、古明地さんにお願いがあるの〜」

 

「『紫さんの心を読んでほしい』。無理ですね。あの人能力で思考の境界を弄ってますんで、心が読めないんですよ。というより、貴女が聞いた方が早いのでは?」

 

「うーん、会合の前に聞いたのだけれど、今回どうにもガードが硬いのよねぇ…。私にも隠す必要なんて無いのにねぇー」

 

「…確かに言われてみれば今日はいつもより入念に読まれないように手を加えられていた気がしますね」

 

「でしょう?そんなに知られたくないことがあるのよ。でも紫どころか藍ちゃんも一緒にいた鬼さんたちも何も知らないって言うのよ。絶対おかしいわ」

 

 …確かに、帰ってからの勇儀の様子もおかしかった。何というか腑に落ちない様子だったというか、話しかけても要領を得なかったというか。考えてることの大半が禁酒のことで一杯だったから、よくは分からなかったが。

 

「それで、古明地さん。貴女何か隠してないかしら?」

 

「…なんのことですか」

 

「いえ、ただ、貴女なら何か知ってるんじゃないかしら、てね」

 

 幽々子と目線が合う。

 ふむ、断片的でも今回の情報が欲しいと…

 

「買い被りですよ。私の力も万能ではありません。望んだ時に望んだ情報を得られるほど都合の良いものじゃないですよ」

 

「そんなことわかってるわよ。でも貴女はその能力も、そして頭も相まって他者よりも圧倒的に答えに辿り着くのが早い。貴女の屈託の無い意見が聞きたいのよ」

 

「…先程天魔殿とお話しした通りですよ。それ以上は本当に私にも分かりません」

 

 彼女は私たちの話を盗み聞きしていた。こういうところは本当に油断できない。

 

「……そう、残念だわ。でも何かわかったら教えてくださいな。私もできる限り知ったことを貴女に提供するから」

 

 …嘘は言ってない。

 しかし、あまり自分から動こうとしない彼女が心を読まれるというリスクを承知で来るとは。やはり友の異変は見逃せないということだろう。私は彼女の願いに是と答える。

 

「ふむ、話はまとまったかの?」

 

「ああ、すみません。つい話し込んでしまいました。仲間はずれにしたわけではないのですよ」

 

「わかっとるわい。儂は童か何か」

 

 いつまでも子供らしいところが抜けてないから勇儀たちに揶揄われるのだ。

 

「さて、儂は紫殿の話の中でもう一つになることがある」

 

「ああ、最後のアレですね」

 

 なぜあんなことを言い出したのか。理由に見当がつかないわけではないが、ああも大胆にしてくるとは思わなかった。

 

「『幻想郷に闘争以外の問題解決手段を作る』、だなんて。本当、どうしちゃったのかしら…」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

「……紫様、会合の最後、何故あのようなことを?」

 

 幻想郷は外の世界の神秘の減少に対応しきれなくなった妖怪たちが流れ着く場所。故に妖怪は妖怪らしく振る舞うことでその存在を確立させることができる。人を襲う、喧嘩をする、支配をする。種族によって異なるが、皆共通して闘争を過程にしろ結果にしろ行う必要がある。一見残酷だが、これは妖怪が生きていくのに必要なことなのだ。

 今回紫が提案したことはその在り方を歪めることになるのではと藍は危惧した。

 

「妖怪の在り方にまで手を出すつもりはないわ。ただ穏便な問題解決の一つが必要なだけ。今回のような事件が幻想郷内で再び起きないとは限らないわ」

 

「反対する者も多くいると思いますが…」

 

「今回の一件は良くも悪くも妖怪たちに大きな影響を与えたわ。意外とすんなり受け入れるんじゃないかしら」

 

「しかし…」

 

「もう具体的な案も決めてあるの。フランドールに風見幽香も乗り気だったわ。彼女たちが無闇に暴れるリスクを減らせると考えれば、悪くないと思わない?」

 

 確かに、あのようなことは今後2度と起きてはならない。リスクを減らすという意味では最善に近いだろう。

 しかしどうもひっかかる。里の待遇を手厚くしたことといい、今回の裁定は里に傾き過ぎている。あの提案も、下手をすれば妖怪と人間の力関係が逆転しかねないものができる。闘争以外の問題解決法を作るということは、人間に有利になる可能性もあるのだ。考えすぎと言うかもしれないが、今回の対応を考えるとなんらかの因果関係を疑わざるを得ない。

 しかし藍は紫の式神。己の主がここまで強く推すのならば、彼女がこれ以上の否定の意を示すことは不敬に値する。それに人間嫌いである己の被害妄想であることも否定しきれないのだ。心にしこりを残しながらも藍はそれ以上の言葉を噤んだ。

 

「あ、そうだわ。幽々子とあとでお茶するんだった。藍、悪いけど呼んできてくれないかしら。部屋はいつもの客間でお願いね」

 

「畏まりました」

 

 そう言って藍はスッとその場から立ち去った。

 己の式とはいえ、彼女は傾国の九尾だ。決して頭が回らぬわけではない。彼女も含めて、今後の立ち回りも考えていかなければいけない。今はある意味、幻想郷の行く末を左右する時期なのだから。小さく息を吐く。

 

「くくく、お前も中々に秘め事が増えたではないか」

 

 まるで嘲るような調子で発せられた声は、視線より上から聞こえた。目をやると、まず見えたものは扉。浮いている、というよりかは宙に立っているような様相の両開きの扉がそこにあった。しかし紫の目線がいったのはその扉の縁に腰掛けている女。

 

「…今更何の用かしら。隠岐奈」

 

「そう邪険にするな。気が向いて様子を見にきただけだよ」

 

 摩多羅隠岐奈。幻想郷に存在する絶対秘神。

 幻想郷を作った1柱であり、紫と同じ管理者だ。しかし紫は彼女が苦手である。飄々としてるところとか、掴みどころがないところとか、時折洒落にならないおふざけをしたりとか。幻想郷を大切にしていることは間違いないのだが、どうにも彼女の考え方とは反りが合わない。要は同族嫌悪である。

 

「幻想郷の危機に姿を現さなかった貴女を邪険にしない理由がないでしょう」

 

「手厳しいなぁ。結界の修復を手伝ってやったではないか。それに、忠告はした筈だぞ」

 

「……」

 

「愚かよな、自ら神の尾を踏むとは」

 

「アレは神なの?」

 

「否だ」

 

 息を吐く間も無く否定する。隠岐奈の表情はいつになく真剣だった。

 

「しかしそれ以外でもない。最も近い形をしているものが神だというだけだ。…正直なぁ、私にも分からんのだよ。分かることは、アレは決して神などと生易しいモノではない。在り方は似ているがな」

 

 レミリアは夜になった世界そのものを丸ごと支配していた。それこそ神以上に、まるで彼女が夜そのものかのように。力のある神は大抵がなんでもありの理不尽モンスターだが、レミリアはその範疇すら飛び越えている。あえて言い表すなら、上位者、だろうか。

 

「まぁ、とは言えだ。アレは日が出ている限りではほとんど人間。おまけに超がつくほどの善人と来た。私は彼奴が幻想郷の為に動いた以上、問題ないと思っておった。あれでも引き際は弁えておる。お前たちが手を出しさえしなければ、何事もなく終わっただろう」

 

 鋭い視線が紫に突き刺さる。言外に『お前のせいだ』と言われているようでならなかった。

 

「…まぁ、結果的にはこうして丸く収まった。お前が彼奴らが寝てる間に施した記憶処理も問題なく働いている。今や幻想郷でアレを知っている者は私とお前、そしてあの夜決着を見届けた者たちのみ。幻想郷の均衡は保たれた」

 

 可能ならあの夜の出来事自体の記憶をとばしてほしかったがな…。などと毒を吐く。流石にあの時の私にそんな余力は残っていなかった。レミリアの記憶だけを改竄できただけ僥倖と言うべきだろう。

 

「…貴女は、以前から彼女を知っていたの?」

 

「是、と答えよう」

 

「なぜ私たちに何も言わなかったのかしら」

 

「口封じされとったんだよ」

 

 口封じ、というのはレミリアにだろう。隠岐奈はかなり神としての在り方を大事にしている。言い換えればプライドが高い。多少寛容ではあるが、己の信仰や幻想郷に害をなす存在は基本容赦しない。そんな彼女が今回の件に殆ど首を入れてこなかったのは不自然だったが…

 

「まさか…」

 

「普通に考えろ。私があんな危険な奴を幻想郷に入れると思うか?先手を打ったつもりが見事に返り討ちよ。私はお前と同じ過ちを犯したというわけだ。幻想郷の外だったのが幸いだったがな…」

 

 つくづく我らは似た者同士よな、とため息混じりに言葉を吐いた。嫌いであろうと苦手であろうと幻想郷を想う心は同じ。それゆえの行動だったのだが、それがこうも裏目に出ると恥ずかしい。

 

「しかし、私が目を瞠ったのは幻想郷を元に戻したあの力よ。レミリア嬢なら兎も角、一介の吸血鬼が持つにはあまりに過ぎた力だ。私としてはアレを悪用される方が恐ろしい」

 

 『運命を操る程度の能力』だったか。

 魔力の限り恐らく全ての因果事象を操作可能というふざけた能力。本人の素質次第とは言え、あのレミリアの力と張り合うだけでも目先の脅威としては十分だった。

 しかも譲渡可能ときた。一世代で終わることがないのがあの力を真に脅威たらしめる理由だろう。

 

「だからと言って今手を出すことはできないわ。今はルシェル・スカーレットの身に収まってるようだし、彼女自身は無害。力を悪用するような人柄じゃないわ」

 

「まぁ、それは分かっとるが、問題はフランドールの方だろう。彼奴は明確に侵略の意思があるぞ。姉であるレミリアがそれを望んでいないからというだけで、いつこちらに牙を向くか分からん。既に古明地あたりは察しているだろうが…」

 

 幸運なのはフランドールにはあそこまでの事象を起こす程の素質は無いことだ。それでも十分脅威だが。

 いずれにせよ、吸血鬼勢力にもしっかりと目を光らせておかなければならないということだ。全くもって厄介な存在が来たものである。

 

「──おっと、もう時間か。悪いが私はそろそろ暇するぞ。この後用があるのでな」

 

「そう」

 

 隠岐奈は扉の奥へ消えて立ち去っていった。両開きの扉が閉まり、フッと消え去る。恐らく今回は私に釘を刺しに来たのだろう。これ以上レミリアに対して悪手を打つなという彼女なりの警告。言われずともあんなものを見せられてはちょっかいを出すような真似はもうできない。

 紫が隠岐奈を苦手に思うのにはもう一つ理由がある。それは幻想郷を維持する為なら小さくないリスクを抱え込むということ。恐らく先日里にルーミアを近づかせたのは隠岐奈だ。里を大事に思っている彼女ならあの状況、必ず動く。そうやって無理矢理レミリアを表に引き摺り出そうとした。実際はそれ以前に動き出していたようだが…

 今回の目的も紫、或いは他の管理者たちにあのレミリアの存在を幻想郷の味方として認知させることだったのだろう。あの力は脅威だが、味方につければ心強いことこの上ない。しかし、これには当然多大なリスクが伴う。下手をすれば幻想郷を滅ぼしかねないことになる。そして実際にそうなりかけた。さっきは軽く言っていたが、その時は相当焦った筈だ。あの責めるような視線にも納得である。

 あまりにもリスキー。彼女らしからぬ浅慮な計画だが、それを強行せざるを得ないほど彼女はレミリアの力を持て余していたのだろう。私は見事に隠岐奈の共犯者にされてしまった訳だ。

 

「ゆーかーりー」

 

 唐突に背中に重さを感じる。ああ、そういえばお茶のことをすっかり忘れていた。

 

「遅いから私の方から来ちゃったわよー。淑女を待たせるなんて何事かしらぁ」

 

「ふふ、ごめんなさい。さっきまで隠岐奈が来ていてね。少し話し込んでいたのよ」

 

「話って、どんなこと?」

 

「今後のことよ」

 

「ふぅーん…」

 

 幽々子は背中から離れると、その桜色の眼を合わせる。

 

「本当に?」

 

 こういう態度の時は真面目に私を心配してくれている証だ。こうして眼を合わせている時は、きちんと彼女から信頼されていると思えて、安心できる。

 しかし、今はまだ秘め事を言うわけにはいかない。昨晩の出来事で彼女を徒に刺激するのは危険とわかった以上、今はまだ管理者間で内密にしておくのが適切だろう。レミリアを囲う環境を考慮しても、幽々子に話すのは危険だ。

 

「本当よ。仮に何か隠していたとしたら貴女に話さない理由はないでしょう?」

 

「……そう、わかったわ」

 

 そう言って幽々子は引き下がった。どことなく不満が抜けきれていない気もするが、今は我慢してもらうしかない。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

「…いえ、今日はもうやめておくわ。気が削がれちゃった」

 

「あらそう。じゃあ藍に送らせるわ」

 

「ううん、大丈夫よ。外で妖夢も待たせちゃってるし。あの子、貴方の式神さんと仲が悪いみたいから」

 

 幽々子の背中を見ながら、紫は内心で彼女に謝る。今は誰かに言うリスクが高いだけ。あのレミリアの力の実態を完全に掴めていない以上、下手に言い広めるには危険が過ぎる。それに彼女の管轄は飽くまで冥界。幻想郷がもたらした問題である以上、極力こちらだけで解決しなければならない。

 それにこの話がもしあの閻魔の耳にでも入れば、説教どころの話ではないだろう。下手をすれば強硬手段に出てもなんらおかしい話ではない。今回顔を出していないということは明確に何が起きたのかは理解していないようだが、この騒動自体は認知しているはずだ。近いうちに目くじらを突き上げてこちらに来ることだろう。これからの憂鬱な出来事を想像すると、深いため息を落とさざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

「……」

 

 私こと西行寺幽々子は悩んでいた。無論、悩みの種は友人の紫のことだ。

 久方ぶりに会ったと思えば、過去にないくらい疲れ切った顔をしていた。他の人たちには誤魔化せていたようだけど、何百年単位での付き合いである私の目は騙せない。さっきの会話でも、いつもなら二、三言揶揄ってくるはずだ。そんな余裕もないくらいには疲弊している。

 …まぁ、原因なんて目に見えて明らかだ。

 

「妖夢」

 

 そういうと同時に、幽々子の足元の地面が迫り上がってそこから背中に刀を2本携えた銀髪の少女が這い出て来た。少女は幽々子に顔を向けるとにっぱりとした顔で元気よく声を張り上げた。

 

「はい!お呼びですか幽々子様!」

 

「…どうして地面から出てきたのかは聞かないでおくわ。それで、ちょっと頼みたいことがあるの」

 

「はい!!私、魂魄妖夢!幽々子様のためなら例え火の中水の中大蛇の腹の中!!何なりとご命令ください!!」

 

「ふふっ、相変わらず元気ね。…ところで服が破れてるみたいだけど何かあったの?」

 

「はいっ!今日の夕飯を狩っておりました!!幽々子様はパねぇほどお食べになりますので!!」

 

 喜んでください!今日はケバブですよ!!と軽快に言って地面から巨大な鳥類を引き摺り出す。

 

(…また凄いのを狩ってきたわね〜)

 

 何故地面の中にこんな怪鳥がいるのか、そもそもどこからこんなものを見つけて来たのか、そもそも地面に潜る必要はあったのか。妖夢の奇行は今に始まったわけじゃないけど、最近は特に酷いわねぇ。

 いつから私の従者はこんな哀しきモンスターハンターになってしまったのだろうか。いや、多分8割私のせいだと思うけれど。また屋敷に骨の飾り物が増えるわね。

 

「こほん、それで頼みなのだけれど…」

 

「はい!」

 

 紫、貴方が何も教えてくれないと言うのなら私は私で動かせてもらうわよ。貴方が摩多羅隠岐奈と何を話してたのか、何を隠してるのか、あの夜何を見たのか。全部引き摺り出させてあげるから。

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

(……おっかないですねぇ西行寺幽々子。アレだから態度だけでは人を判断しきれないんですよ。私が悟り妖怪じゃなかったらさっぱり騙されている自信があります)

 

 まぁ、私ほどになればこうして相手の魂胆を見抜くことなど容易なわけですがねぇ、ふふふ。

 

「…何やってるんですかさとり様、人様の庭にある草木に頭なんて入れて。また新しい遊びか何かですか」

 

「しっ、静かにしなさいお燐。この角度が一番彼女たちから見つかりにくいのよ…!」

 

「私から見たら臀部丸出しの情けないことこの上ない姿ですけれどね」

 

 たとえどれだけ情けない姿であろうと目的が達成できればそれで良いのです。プライドとか体勢とかなんて気にしてたら何も手に入れることはできないのですから。

 

「あ、行ってしまいましたね2人とも」

 

「ふぅ、まぁ欲しい情報は手に入りました。私たちも帰りましょう」

 

 今後どう動くかは大体考えた。ならばこれからすべきことはその準備だ。そそくさと帰宅の準備を整える。

 

「それで、どうしてさとり様は盗み聞きなんか?」

 

「ふふふ、決まってますよ。敵情視察は戦術の基本でしょう」

 

「敵情視察って…。まさかさとり様地上と戦争するおつもりなんじゃ…!?」

 

「そんな馬鹿なことはしませんよ。今のところは」

 

「今のところはって…」

 

 明らかに狼狽えてますね。まぁ無理もないですか。『面倒ごとは足蹴にし、厄介ごとは他人任せ』の座右の銘を持つ私が自らトラブルの種を生み出そうとしているのだから。

 

「ふふ、お燐。コレを知ってますか?」

 

 そう言って懐から取り出した紙を渡す。

 

「…? 何ですかこれ、星辰様?何かの宗教ですか?」

 

「今里で流行っているそうよ。何でも里を救った守神なのだとか」

 

「…えぇ、里の人たちが都合良く作った偶像なんじゃ」

 

「存在自体は確かにする。私が直接確かめたわ」

 

「え!?里に行ったんですか!?根暗で妄想の中でしか自己を確立できないさとり様が!?」

 

「お燐は今日の夕飯抜きよ」

 

 なんて失敬な。そんな酷い覚えはない。妄想癖は認めるが。

 

「というか八雲紫とのルールはどうしたんですか?」

 

「あんなもの無視してやったわ」

 

 ルール、と言うのは地底の妖怪が封印される際に管理者八雲紫と結んだ条約のこと。一部の例外こそあるが、基本的にこのルールがある限り地底と地上は互いに不干渉である。なので地上の妖怪は勝手に地底に入ってはいけないし、逆もまた然りだ。早い話私はこのルールを破って里に赴いていたのだ。

 

「さ、さとり様。今日やっぱり様子がおかしいですよ…。急にアグレッシブになったというか、別人みたいです…」

 

「長く生きていれば急な気の変わりようなんていくらでもあるわ。これでも人間だった頃は陽キャだったのよ」

 

「いくら自分だけ心が読めるからって嘘はいけませんよさとり様〜」

 

「その喧嘩買うわよ?」

 

 日に日にお燐の毒舌が酷くなってきている。一体誰に似たのかしら全く…。

 

「さて、話が脱線したわね。要は私はこの紙に描いている彼女に遭いたいのよ」

 

「…この星辰様にですか?」

 

「ええ。だけれど管理者側は彼女のことを敵視してる可能性が高いわ。特に摩多羅神なんて目くじらを立てているんじゃないかしら。なんせ自分の信仰を揺るがしかねない存在なのだから」

 

「はぁ…、でも会うにしたってどうやって」

 

「その辺りはゆっくり調べるわ。ただ、怪しいところだとやっぱり人里ね」

 

 流石にあそこまで贔屓にされて何も無かったなんてことはないだろう。必ず何か裏があるはずだ。

 

「じゃあそういうわけで、里の視察お願いね」

 

「えぇ!?」

 

「貴方しか地上に自由に行き来できる子はいないんだから仕方ないでしょう?」

 

 お燐は化け猫から転じた火車だ。なので仕事に使うための人間の死体を集めに地上に出ることが許されている。どんな仕事かは言えないが。

 

「えぇー…、人気のない所で死体集めるのと、里で生きてる人探すのとじゃ訳が違いますよ。流石に無理です」

 

「報酬は地獄ちゅーる3本よ」

 

「行きます!!」

 

 素直でよろしい。

 欲望に忠実なのはこの子の良いところだ。逆を言えば扱いやすい。

 

「それにしても、そこまでして探したいなんて、珍しいこともありましたねー。ましてや地上に積極的に関わるような形で」

 

「…ええ、一度会って話がしたいの。そう、もう一度、ね…」

 

 確かに今までの私ならこんなリスクの高いことを無意味に行うなんて馬鹿なことは絶対にしなかった。寧ろリターンが大きくてもリスク自体に手を伸ばすことすらなかった。しかしそうまでしてでも、自分を曲げてでも手を伸ばしたいものがあるのだ。

 

 実のところ、私はあの夜の記憶が完全に残っている。あの夜地霊殿で、いや地底で唯一眠ることのなかった私だけは、八雲紫に記憶を消されることはなかった。散々あの妖怪のやり口を見ている私にとって対策は容易だ。だからこそ見た地獄もあったが。

 

 しかしその光景以上に私の目には肌にはあの方の姿が焼きついて離れなかった。

 白に限りなく近い肌、気品と妖艶さに溢れた顔立ち、吸い込まれそうな紅い瞳、私を優しく包み込んでくれた抱擁、そして星空のようにどこまでも、どこまでも続く心。その全てが私の心に焼き付いて剥がれなかった。またあの顔が見たい、見られたい、心を見たい、優しく撫でてもらいたい。そんな親を探す童のような感情がぐるぐると中を回っている。

 私がまたあの方に会いたいと思うのは、自然なことだった。

 

 私自身あの存在に魅入ってしまっている自覚はある。このままでは地霊殿だけでなく、地底も幻想郷もよくない方向に行ってしまうかもしれない。だが、それがどうした。もう止まれない、あんなものを知ってしまったらやめることなんてできやしない。

 いままで誰からもあんな母のような愛を向けられたことなんてなかった。家族も、ペットからも。そんな私にとってアレは心を溶かし尽くす麻薬に他ならない。暖かいもので優しく包み込むかのような究極の安堵。

 

 嗚呼、欲しい。欲しい。欲しい!神でもなんでも良い。あの安息を与えてくれるのなら、なんだって。

 頑張る、私頑張るわ。貴女にまた逢うために。

 

 ──だから次に会った時は、どうか私を抱きしめて。

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「…なんか寒気がするんですけど。誰か私の噂話でもしてるのかなぁ?」

 

「きっと恨み言。散々暴れ回ったから、言われても不思議じゃない」

 

「うごごご…、やめてくれよぉ、ありゃあふかこうりょくなんだよぉ…!」

 

「お前ら何話してんだ、ほら出来たらさっさと運べ。今日はお前の客が来るんだろーが。外に誰かいたが多分そうじゃないのか?」

 

「あっ!ホントだもうこんな時間!ちょっと迎えに行ってくる!」

 

 今日この店はスカーレット家の貸切だ。店はまだ開店前だが、出迎えるなら早いほうが良いだろう。久方ぶりに家族に会えると考えると自然と胸が高鳴る。

 どたどた と慌ただしく厨房を出て店の引き戸をガラリと開け、元気よくあいさつをする。

 

「おはよー!2人とm」

 

「うむお早よう!久方ぶりだなレミリア嬢!皆が大好き、幻想郷が絶対秘神!摩多羅隠岐奈ぁ!参☆上!」

 

「なんだおっきーか」

 

 秒でレミリアは戸を閉める。

 隠岐奈は即扉を開き、盛大につっこむ。

 

「まてーーいっ!!客が来たと言うのになんだその対応は!我秘神ぞ!?」

 

「うっさいわ!まだ開店前だっての!しかも何その超越ダサいポーズ!これが秘神とか幻想郷泣くよ!」

 

「なんだと!?この『威厳溢れる絶対秘神の構え』の良さが理解できんのか!折角童子たちと一緒に考えたのに!」

 

「ヒトデマンにしか見えない」

 

「酷!」

 

 ギャーギャーと騒いでいると奥から咲夜が現れる。

 

「レミリア、五月蝿い……ってレミリアに負けた神様。また来たの?」

 

「グッ…!事実だがいい加減その呼び方はやめてくれ。ほら、私には摩多羅隠岐奈って偉大な名が…」

 

「おはようございます、勘違いで襲ってきた癖、無様に負けおおせ、泣きながら逃亡した絶対秘神摩多羅隠岐奈様」

 

「ぶっはw」

 

「そこ笑うなぁ!!」

 

 概ね事実なので何も言い返せない。

 ただ摩多羅隠岐奈の名誉のために言うならば、別にレミリアを恐れて泣いたわけではない。ただちょっと母性的なアレを感じてしまっただけである。

 

「うぐぐ…!神であっても万物の母には勝てんというのか…!」

 

「もう、取り敢えず入りなさい。外だと超迷惑なのよ」

 

「うぅ…、ママぁ…」

 

「誰がママだ!」

 

 隠岐奈のケツを蹴り店に放り込む。あの時以来、たまにあんな調子になる。何故私にバブ味を感じようとするのか。私はまだ夫もいないし子もいないわ!咲夜にナルシ神の面倒を頼んでため息を落とす。

 そんなアホなことをしていると、買い出しに出ていた小傘が帰ってきた。何故か横には花柄の頭巾にサングラスとマスクを着用した変な人もいる。

 

「ただいまー!言われたの買ってきたよ!」

 

「ありがと!」

 

 はぁー!ホント小傘は良い子だわー!人生のパートナーにするなら小傘が一番よねー!

 

「…んで、何やってるのよ幽香ちゃん。今の貴女まるで盗人よ」

 

「……前も言ったけど、私里だと顔が知れてるからバレると不味いのよ」

 

「余計目立つわよそれ。前も変な被り物して来て、慧音先生に追いかけ回されてたよね」

 

「…いや、その…」

 

 幽香ちゃんは幻想郷の情勢にあんまし詳しくない私でも知ってるような悪い意味で超有名妖怪である。しかし実際話してみると聞いていた人物像とはかけ離れた妖怪だったから結構びっくりした。周囲の認識も完全に誤解だし、性格もかなり陰に寄ってる。今ではすっかりウチの常連だ。

 

「ま、とにかく中入って!開店前だけどお冷くらいなら出してるから。あ、あと中に変な奴もいるから、鬱陶しいならシバいても良いわ。その時はお願いね、幽香ちゃん」

 

「?……分かったわ」

 

「じゃあ待ってるね!」

 

 そう言って2人は店の中に入って行った。と、それと同時にこちらに走ってくる人影が見えた。

 

「あ、慧音先生」

 

「はあ、はぁ…!すまない遅れた!」

 

「…いや、普通に間に合ってるわよ。予定の時間までまだ20分くらい余裕あるけど…。いくらお呼ばれしたからって急ぎすぎじゃない?」

 

「否!世の中どんな時も30分前行動だ。今回14分も遅刻してしまった。これでは人里の模範として示しが…」

 

「相変わらずお堅いわねぇ。会合ってやつがあったから仕方ないんでしょ?もっと肩の力抜きなさいな」

 

「そうですよ。慧音さんは少し力を入れすぎです」

 

 そう言って現れたのは稗田阿求ことあっきゅん。屋根のついた豪華な人力車に乗って参戦だ。あっきゅんが降りると人力車のおっちゃんはそそくさと去っていった。いーな、私も一回乗ってみたい。今度頼んでみよ。

 

「おはよう、阿求。今日は小鈴は来ないのか?」

 

「はい、どうやらお仕事が入ってしまっていたようで…。レミリアさん、後でお持ち帰りお願いしてもよろしいですか?」

 

「いいよー、おまけにロシアン羊羹入れておくわねー。4分の1で生ワサビが入ってるわよ」

 

「やめてくださいよ…、それで前小鈴が凄いことになったんですから」

 

(…ハズレを見抜いた上で食べさせるように誘導したくせによく言うよ)

 

「ま、取り敢えず入って。中に色々いるけどあんまり気にしないでね」

 

「? ああ、分かった」

 

「ではお邪魔しますね」

 

 そう言って2人は中に入っていく。

 数秒後2人の悲鳴らしきものが聞こえたが、まぁ問題ないだろう。中に危険な妖怪なんてものは1人もいないのだから。

 

 そんなこんなで開店の準備をしていると、漸くレミリアが待っていた人物たちが来た。

 日傘を差した2人分の影が目に入り、レミリアはにっこり笑顔になる。

 

 

 

「レミリア!久しぶりね!元気にしてた?風邪とかひいてない?いじめとかあってない?」

 

「私はもう500歳よ!そんなこと気にする年齢じゃないわ!」

 

「ふふ、お姉様。吸血鬼にとって500歳なんてまだまだ子供同然よ。特に今のお姉様は子供っぽいんだから」

 

「ふぐぐぅ…!ま、まぁ迷子とかにならなかっただけよかったわ。日光も大丈夫みたいだし」

 

 2人は羽や特徴的な赤の瞳を隠していて、うまく人間に扮している。フランに関しては日傘すら差していない。

 

「お姉様のおかげで日光も平気になっちゃった!やっぱりお姉様は凄いわ!」

 

 レミリアの血を取り込んだことでフランの身体はレミリアと同じ特性を得ていた。なので日中でも多少身体能力は下がるが、自由に動くことができていた。

 

「やったわね!吸血鬼最大の弱点を克服しちゃった!」

 

「ええ、ええ。これも全部お姉様のおかげ。……ねぇ、お姉様。やっぱり私たちと一緒に紅魔館に住みましょう?お母様やパチュリーも歓迎してくれるわ。だから家族一緒に家に帰りましょう?」

 

 よく見たらフランの目が鈍く紅に光っている。

 あらちょっとカッコ良いかも。ていうかフランって日中でも能力使えるのかしら?えー、いいなー、私も使いたいなー。

 

「だーめっ。私はここが好きなの。それに、もういつでも2人には会えるしね」

 

「むぅ…、やっぱり日中は魅了の効果が薄いわ」

 

「あれ?さりげなく実の姉を洗脳しようとした?怖い!妹が怖い!」

 

「ふふ、それだけお姉様が欲しいのよ」

 

 妖艶な笑みを浮かべるフラン。うわえっろ。私より背も高いし、もうフランが姉で良いんじゃないかしら。

 

「レミリアレミリア!私あのスイーツが食べたいわ!」

 

 私たち2人をよそにお母さんは店の前にある張り紙に描かれた新作スイーツに夢中である。はぁー、可愛い、ウチの親が可愛いわ。まるで小動物のよう。

 

「ちゃんと用意してるわよ。ほら入って!」

 

「ああっ、そっちのも気になるのにっ」

 

「全部中にあるから!」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 レミリアが店の中に入ると、そこはカオスと化していた。

 この店には売っていないはずの日本酒を呷りながらプルプルと震える小傘に絡んでいる隠岐奈。顔を真っ青にしながら風見幽香の向かいに座って恐怖で震えている阿求と慧音。耳をすませば阿求の嗚咽が聞こえる。そしてその対応をしている咲夜と店長。

 よくもまぁこんな少人数でこんな死屍累々を具現化したような光景を生み出せるものである。

 

「多々良小傘ぁ、お主あのレミリアに勝ったらしいなぁ?いやぁ、大したものよ!たとえ彼奴にとっては戯れでも決して侮りはしていなかったはずだ。それで尚勝ちを収めるとは大いに賞賛に値するぞ!お主は幻想郷の英雄じゃあ!はっはぁ!ほれ飲め飲め!」

 

「え、あ、あの、わちきお酒はちょっと…」

 

「なにをー?この摩多羅神の酒が飲めぬと言うのかぁ?」

 

「ひ、ひえぇ…」

 

「ちょっとおっきー!こんな真っ昼間から酒を飲まないでよ!小傘が困ってるじゃない!」

 

「んお!レミリア帰ってきたか!よし飲み直すぞ!」

 

「店内は禁酒よこの馬鹿女郎!!」

 

「ふごぉ!?」

 

 レミリアがストレートで投擲した丸薬のような物体が隠岐奈の口内にクリーンヒットした。それを飲み込むと隠岐奈は白目を剥いて、うつ伏せになって倒れ込んだ。

 

「ガクッ」

 

「他愛なし。…大丈夫だった小傘?変なことされてない?」

 

「う、うん大丈夫だよ。この人知り合いなの?」

 

「唯の阿呆よ。しばらく寝かせときましょ」

 

「さっき薬みたいなの飲ませたみたいだけど…」

 

「私特製の不届成敗丸薬『オシオキー』よ。飲んだらああなるわ。夜の私が作ったから効果はバツグンよ!」

 

「ひええ…」

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなってしまったのだろう。

 

 私たちはレミリアの洋菓子屋に新作のスイーツを食しに来ただけ。その筈なのだ。一体どうしてあの災厄妖怪の風見幽香がいるというのだろうか。しかも向かいの席に。

 

(み、みてます…!慧音さん見てますよ風見幽香が!こっちを!)

 

(くっ…!完全に予想外だ…!まさか変装までしてこの里に来るとは…!!ようやく里に安泰の時が来たと思った矢先に!一体何が目的なんだ!?)

 

(や、やはりこの里の人間を弄ぶために来たのでは…!?でなければ来る理由が見当たりません…!)

 

(兎も角このままではレミリアたちも危ない…!隙を見てここから逃走するしかない!)

 

(で、ですが下手に動けば怒りを買う可能性も高いです…!ここは慎重にゆっくりと…)

 

「ねぇ」

 

「「!!!?」」

 

「スイーツ、食べないのかしら。氷菓子が溶けるわよ」

 

 2人の目の前に置かれている新作のアイスパフェ。しばらく手をつけてなかったからか少しずつアイスが溶け始めていた。

 

「私大好きなのよねぇ、ここの氷菓子。少し溶け始めた頃がとっても食べ頃…。でも溶けきったら冷やされてる意味がない。ふふ、早めに食べることを勧めるわ」

 

 そう言って再び血のような赤い瞳を2人に向ける。その顔は喜色に染まっていた。

 

(ヒイィィィ!!!?どどど、どうしましょう慧音さん!?このままでは私たちはこの溶けきった氷菓子のように弄ばれて…!!あああ!!)

 

(落ち着くんだ阿求!奴の言葉を推測するにまだ私たちに猶予はある!まだ焦る時じゃない!)

 

(ああ、慧音さん、レミリアさん、小鈴、稗田家にいる皆さん。先立ってしまう私をどうか許してください。でも良いですよね、どうせすぐに会えます。あはははは)

 

(阿求ーー!!)

 

「あら、貴女の相席の人、随分顔色が悪いみたいだけれど。ふふ、風邪でも引いたのかしら」

 

 そう言って幽香は席を立ち、阿求の真横にまで近寄る。顔が間近にまで寄る。

 

「…!…ッ!…!!」パクパク

 

「あらあら。ふふ、可愛いわねぇ。体が優れないなら、貴女のお家にまで送ってあげましょうか?」

 

(!!!!???? わ、私の家を知ってる!?)

 

「そんなに怯えないで。優しくしてあげるから…」

 

(む、惨たらしく殺されるぅ!!!!!)ガタガタ

 

「…ああ、良い物があったわ」

 

 そう言って幽香は側にあった待ち時間用の時間潰しに用意されたお手玉を数個手に取る。

 

「ふふふふ」

 

「ヒイィ…!?」

 

 そんな様子を見て慧音はいよいよ我慢の限界だと立ち上がる。

 

「貴様ッ…」

 

 ドゴンッ と破壊音が鳴る。

 幽香の手から放り投げられたお手玉が勢い余って天井を突き破った音である。数十秒後、パサリと店の玄関先に中身をぶちまけたお手玉の残骸が落ちてきた。

 

「」

「」

 

「あら失敗。ふふっ、お手玉って難しいのね」

 

 言外にそれは、次はお前らの番だと言われている気がしてならなかった。

 

 この出来事で幸運なのは、彼女たち2人はこの時点で気を失ったということ。

 そして不幸なのは、もう数分起きていれば2人が思っていた誤解は解けていたということだった。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「何やってるのよ幽香ちゃんー。天井壊しちゃってー」

 

「ご、ごめんなさい…。子供がいたみたいだから遊んであげようと思ったのだけれど…、難しいのね…」

 

「幽香ちゃんの場合まずは誤解から解く必要があると思うぜ。ほら見てよ!店が始まって間もないのに既に3人倒れてんだけど!」

 

「わ、悪かったわ…」

 

「まいっか。そういえばさっき小傘が呼んでたわよ。折角のスイーツが溶けちゃう前に行った行った」

 

 そう言われると幽香は自分のスイーツを持参しながら小傘の元に駆け足で向かっていった。

 

「ふー、やっとゆっくりできるわー」

 

「ふふ、お疲れ様レミリア」

 

 そう言ってルシェルはシュークリーム片手にレミリアの隣に腰を下ろす。

 

「いつもこんなことをやってるのねレミリアは。とっても賑やかで楽しいわ」

 

「今日が特別騒がしいだけよー」

 

「でも楽しいでしょう?」

 

「うん!」

 

「ええ、ええ!その答えが聞けただけでも今日来た価値はあったわ!ここでの暮らしはとっても幸せだったのね」

 

「…うん、超幸せ!」

 

 レミリアを産んだあの日の夜、その時の願いは確かに届けられていた。愛しい愛しい我が子は今までの吸血鬼の在り方とは全く別の方法で自分なりの幸せを謳歌していた。

 親としてこれほど嬉しいことはない。そしてこれからはレミリアの幸せをそばで見守っていこう。そんな誓いをシュークリームの最後の一口と一緒に身体に込めた。

 

「……それにしてもお母さん」

 

 レミリアはルシェルの横にある積み重ねられた皿の山を見据える。

 

「太らない?」

 

「きゅ、きゅきゅ吸血鬼はどれだけ食べても太らないのよー。おほほほほ」

 

「だよねー!私もおんなじくらい食べても全然太らなかったもの!」

 

「え゛」

 

「え?」

 

 この後なんでか知らないけど怒られた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「はぁー、今日は楽しかった!」

 

 日も沈んだ夜。各々が既に解散してがらんとした店内にレミリアは1人店の椅子に座っていた。

 店長と咲夜も先に帰っているので店にいるのはレミリア1人だけだ。

 

「それにしても咲夜とフラン仲悪かったわねー。あんな犬みたいに牙向ける必要もないのに…」

 

 おかげで店が多少壊れてしまった。

 まぁ、あんな癖しかない面子を集めた時点で多少は覚悟していたことだ。明日は店長の説教と修理作業までがセットになることだろう。

 

「さて、あとは鍵閉めて帰るだけだけど…」

 

 レミリアは玄関には行かず、そのまま厨房にある2階へ続く階段を登っていく。

 二階は物置だ。少しばかり埃を被った大きな箱がいくつか置いてあるが、それでも部屋を埋めるほどではなく、ある程度のスペースがある。

 レミリアは部屋の奥まで行くと木の立て扉を開けてそのまま屋根に身を乗り出す。そして適当な瓦に腰を落ち着かせた。

 

「さてと」

 

 レミリアは懐から頭陀袋のようなものを取り出す。そしてその中に手を入れると、そこから何かを取り出した。

 それは真っ黒な巨大な蝙蝠だった。レミリアは蝙蝠の足を雑に掴みながら顔の前にぶら下げる。

 

「…どうだった?今日のお母さんとフラン。結構楽しそうだったでしょ?」

 

「……それを私に言ってどうする。私は敗者だ。レミリア、貴様に敗け全てを奪われた、な」

 

 そう、この蝙蝠はアゼラル・スカーレットその人である。レミリアに敗れ、力を根こそぎ奪われた支配欲の成れの果て。結局レミリアはアゼラルにトドメを刺さずこうして預かり続けていた。

 

「そんなお堅いこと言ってさぁ!昨日言ったでしょ。いつまでもそういうふうに不貞腐られてたら困るってさ」

 

「…事実だ。私は今生き恥をかかされている。お前に力という力を全て奪い取られ、人間にすら敵うことのなくなった脆弱な存在、それが今の私だ」

 

「はいはい、そういうのはもう聞き飽きたわよ。いい加減前に進みなさいな。私は貴方を殺すつもりはないのよ」

 

「……何故だ。貴様は私を恨んいるのではないのか」

 

「ハァ?恨んでるわけないでしょ。怒ってはいたけど」

 

「…やはりお前の考えは理解できん」

 

「貴方ねぇ、そんな単純なこともわかんないの?そんなんだから親失格なのよ」

 

「…………」

 

「良い?貴方はね、どれだけ腐っても私とフランの親なの。父親なのよ。私を産まれた瞬間に捨てようが、お母さんに苦しい思いをさせようが、フランに責任を強要しようが、親であることには変わりないのよ」

 

「…そんなもの、今更何の意味も」

 

「話を最後まで聞けこのデカ蝙蝠。……私はね、貴方のことをまだ父親だと思ってるわ。そりゃフランたちにしたことは生涯許すつもりはないけど、それはそれよ。私は貴方がまた父親をしてるところを見たいわ」

 

「……」

 

「…2人はまだ貴方が生きてることを知らない。いつか貴方には2人に土下座してもらうけど、貴方の気持ちを整理できるまで私は話に付き合うわ。私が知らないお母さんとか色々知りたいもの!」

 

「……何故、そこまでする」

 

「家族だからよ」

 

「…………家族、か」

 

「ま、暫くは反省ついでに私の使い魔だけどね」

 

「…勝手にしろ。…話は終わっただろう。さっさとあの袋に戻せ」

 

「え、嫌。折角だからもうちょっと話していこうぜー。家族水入らずなんだからさ!」

 

「クソッ、やはり貴様に敗北したことが私最大の不幸よ」

 

「フフッ、私に負けたのが運の尽きよ。これも運命のお導きってね、お父さん」

 

 レミリアはにっこりと笑みを浮かべる。それを見てアゼラルは瞠目する。

 

(………お前は…、ルシェルのように笑うのだな。…レミリア)

 

 この瞬間、初めてアゼラルは子の偉大さと言うものを感じたのかもしれない。

 今まで目も向けてこなかったもの。とても近く、しかし遠いところに長年求めていたものはあった。

 それに気づかなかった結果、唯の生き恥を晒すだけの生となってしまったが、この実の娘を見届けながらなら案外悪くないのかもしれない。まんまると浮かぶ月を見つめながらそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、じゃあ一発ぶん殴らせてもらおうかしら」

 

「……………はっ?」

 

「いくわよー。せーの…」

 

「まっ、待て!何故今の流れで殴ることになる!?大体貴様あの時一発で済ませるなどと言ってたではないか!」

 

「いやー、よく考えたら私自分が捨てられた分まだ殴ってなかったなーって思って。だからここは一つ元凶さんに発散するって感じで」

 

「ふ、ふざけるな貴様ッ!恨んでいないなどと言っておきながら!いくら今のお前が人間に近い力だと言えど、私の脆弱な肉体では…!」

 

「ダイジョーブよ、その辺ちゃんと調整するからさ。それにたかだか人間の子供と何も変わらない握り拳。親なら子のために体張りなさい!」

 

「待て待つんだレミリア!!本当に良くない!!無力な相手をいたぶるなど誇り高き吸血鬼がすることでは…!」

 

「お前が言うな!!レミリアパンチ!!」

 

「グボァッ!!!??」

 

 

 その日の夜、満月に小さく放物線を描く蝙蝠の姿があったとかなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






【レミリアたんに質問してみようのコーナー】

Q.レミリアたんって自分でどれくらい強いと思う?
A.レミリアたん「えー…、答えに困るわね…。えーと、世界を終わらせられるくらい…とかで良いのかしら」

Q.嫌いな人はいる?
A.レミリアたん「ギリシャの神!アイツらしつこいのよ!油汚れかっての!」
※因みにギリシャの神は現在一部を残して全滅してます。理由はお察し。

Q.出会った中で一番強かった人は誰?
A.レミリアたん「そりゃ小傘よ!なんたって私が初めて負けたんだから当然ね!」





後で挿絵入れるかも。
拙作を最後まで読了いただきありがとうございました。

番外編を書くとしたらどれが良い?

  • 難易度nightmare紅魔郷!
  • ちょっとほのぼの?咲夜遭遇編!
  • インフレの極致!レミリアたん魔界訪問編!
  • 原作時空転移!紅魔館のメイドルート!
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