壊れた器は元には戻らない   作:火神零次

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九校戦編
理論と実技


 七月中旬。第一高校では一学期期末試験を終えて一週間が経った。

 生徒たちの熱気は夏に控えているイベント――全国魔法科高校親善魔法競技大会――九校戦に注がれていた。

 九校戦はただのお祭り事ではない。これは自身の才能と努力を、この大会で見せつけることに意味がある。

 政府関係者、魔法関係者のみならず、軍や企業など、日本を支える者たちが有望な魔法師を求めて九校戦を観戦する。

 優秀な生徒には多くの企業から声がかかる。つまり、高校を卒業してからの進路が輝かしいものにするための、自身をアピールをする貴重な機会なのだ。

 

「何があったの?」

 

 進路指導室の前で一団になっているレオたちと、入学早々、風紀委員のお世話になりかけた時に、問題を起こした一科生の集団の中にいたはずの女子生徒二人を見つけた秋水は、穏やかな雰囲気は無く、いつもよりピリピリとしている空気を感じ取った。

 どうしてこんなところで固まっているのかと尋ねてみると、達也が教師に呼び出され、進路指導室に向かうことになったのだとか。原因は、彼が叩き出した期末試験の成績だろう。

 

「実技ができない二科生なのに理論で総代を超える点数を叩き出した……手を抜いているんじゃないかって、怪しまれてるってところかな」

「多分そうだとは思うけど……」

 

 達也が叩き出した成績は、教師たちからすれば理解不能、お手上げもののはずだ。

 魔法科高校の定期試験は、必修である基礎魔法学と魔法工学、選択科目より三科目を選ぶ記述式テスト。そして、処理能力、キャパシティ、干渉力の三つをそれぞれ見て、さらにその三つを合わせた総合的な魔法力を測る実技テストの二つで構成されている。

 成績優秀者――上位二十名――は学内ネットで公表されることになっている。

 

 総合順位

 一位、司波深雪

 二位、矢幡秋水

 三位、光井ほのか

 四位、北山雫

 五位、十三束鋼

 

 実技順位

 一位、司波深雪

 二位、矢幡秋水

 三位、北山雫

 四位、森崎駿

 五位、光井ほのか

 

 と、総合と実技の順位は順当とも言える結果になっている。

 どちらも名前が公表される上位二十名は一科生が独占しており、トップは一科生の中でもA組の生徒がほとんどだ。クラス編成は入試の結果を基に、A~D組でクラス平均が均等になるように割り振られている。

 この期末試験の結果を通して、A組は一学期の習熟度合いが他のクラスと明確な格差が生じているのが明らかとなった。

 これは教師陣の頭を悩ませるものでもあるのだが、それ以上の悩みの種が理論の順位である。

 

 理論順位

 一位、司波達也

 二位、矢幡秋水

 三位、司波深雪

 四位、吉田幹比古

 五位、光井ほのか

 

 一位と四位に二科生の生徒の名前が公表されている。

 また、達也に至っては平均点で二位以下を十点以上引き離したダントツの一位だった。

 

「いくら理論と実技が別だとしても、限度がある」

「でも、達也さんが手を抜くような真似なんて、考えられません」

「そんなことは雫にも分かっていますよ」

「でも、先生たちがあたしたちみたいに達也くんの人となりを知ってるわけじゃないしね」

 

 一科生の女子生徒二人は、北山雫と光井ほのかだろう。

 客観的な視点で評価した雫に、美月が食いついた。

 

 そんなことを話していると、生徒指導室からいつもと変わらない顔をした達也が出てきた。

 

「どうしたんだ、みんな揃って」

「急に生徒指導室に呼び出されたとなれば少しは心配するでしょ……理由は何となく分かってたけど」

「ああ。実技試験のことで訊問を受けていた」

「……訊問だって? 穏やかじゃねぇな。何を訊かれたんだ?」

 

 達也の口から飛び出した不穏な単語に、レオは不機嫌そうに目を細めた。

 

「要約すると、手を抜いているんじゃないかって、疑われていたみたいだな」

 

 そう言われるのも分からないわけではないが、それが達也にとって何のメリットがあるというのだろうか。

 エリカがバカバカしいと不満を溢したが、その通りとしか言えない。

 

「それで、先生の誤解は晴れたんでしょうか?」

「ああ、まあ、一応、ね」

「一応?」

 

 気が進まないといった顔と口調で説明を始めた。

 手抜きではないと理解はしてもらえたが、第四高校に転校を勧められたとのこと。もちろん、するつもりが一切ない達也はすぐに断ったそうだ。

 だが、従兄が第四高校に通っていることもあり、それなりに実情を知っている雫が、達也を第四高校に行かせるのは前提から間違っている、と言うと、憤慨を顕にしていたレオとエリカが落ち着いた。

 

「そういや、もうすぐ九校戦の時期じゃね?」

「深雪がぼやいていたよ。作業車とか工具とかユニフォームとか、準備するものが多いって」

 

 生徒会や部活連が主体となって九校戦の準備を進めている。

 達也の言う通り、どれだけ分担をしたとしてもかなりの量の準備を要する九校戦では、生徒会のメンバーが多忙になるのも仕方ないことだ。

 

「矢幡も間違いなく出るだろうから、頑張ってよ」

「お前ならモノリス・コードに出場するのは確定だな」

 

 それぞれエリカ、達也が途中から蚊帳の外にいた秋水に声をかけた。

 九校戦関連の話をしているからこちらにも振ってくるのは分かっていたが、達也が早々に口を挿んでくるとは思わなかった。

 

「矢幡がいるならモノリス・コードは問題ないだろ?」

「油断はできない。今年は三高に、一条の御曹司がいるから」

「へえ。それはちょっと厄介だね。ウチは近接戦闘がメインだから、魔法だけとなると少し分が悪いかな」

 

 モノリス・コードでは魔法攻撃以外の直接攻撃は認められていない。また殺傷力の高い魔法の使用もレギュレーション違反となり失格となる。

 刀を本分としている秋水からすれば、例年、第一高校のライバルである第三高校に一条の御曹司が入っているとなれば、分が悪い。

 

「何とかなるのか?」

「そこを何とかするのがウチだよ。切れる手札は多い方だと自負しているからね」

「一条の御曹司と矢幡さんが全力で戦ったらどうなるか、検討もつかない」

 

 雫とほのかは、秋水の実力を詳しくは知っていない。だが、ブランシュが襲撃した際に襲撃者の半分を一人で捻り潰しているのは、耳に入っている。

 期末試験の実技でも一位である深雪とそれほど差がないレベルの得点を叩き出している。少なくとも、実力者であるということは分かり切っていた。

 未だ、九校戦の出場者として決まってはいないものの、一条の御曹司が相手となると、こちらも一番の戦力をぶつけなければならない。そうなると、秋水がモノリス・コードに抜擢されるのは火を見るより明らかだ。

 

「とはいっても、モノリス・コードは一人で戦う競技じゃないからね。例え、一条の御曹司が相手だとしても、作戦次第では格上は出し抜くことはできる」

 

 秋水の言う通り、モノリス・コードは一対一のタイマン勝負ではなく、三対三のチーム勝負だ。試合場所や流れ、あらゆる要素で策を用いれば出し抜くことは可能だ。

 腕が鳴るね、といつもとは違う笑みを浮かべる。

 

「北山さんも、出場するのは間違いないだろうから。頑張らないとね」

 

 雫の実技順位は三位だ。

 深雪や秋水と同様、彼女が選ばれるのはほぼ確実だ。

 

「うん……」

 

 控えめに頷いた雫の顔には、やる気の芽が出ていた。

アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。

  • 主人公らしく勝つ
  • 僅差で負ける
  • 大敗する
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