窓から外へ降りた秋水は、救助活動という名の遺体の確認をしていた。
宙を舞うほどの激しい衝突に加え、火だるまになるほどの炎上。搭乗者の生存はほぼ絶望的だったからだ。
服の中から黒塗りの短い棒を取り出すと、それは秋水が持つ日本刀へと姿を変えた。
刀で扉を器用に切り抜き、搭乗者を確認する。車にはドライバーしかいなかったが、無残な焼死体となっていた。
どうしたものかと悩んでいる内に、作業スタッフが作業車から出てきていた。
その後はほとんど、作業スタッフたちが対応してくれた。警察の事情聴取や現場を通行可能にするための手伝いとかで三十分ほどのロスをしてしまったが、出発の遅れと合わせて昼過ぎに宿舎に到着した。
その間、秋水は摩利から問い詰められそうになったり、深雪からは懐疑的な目で見られたり、雫に謝られたりと気が休まらずにいた。
九校戦の競技の性質上、そこで活躍した生徒が軍の道に進むというのは珍しい話ではない。
軍としても優秀な魔法師は確保するために、九校戦には全面的に協力している。秋水たちが宿舎として利用するホテル、全国から集った選手たちが競う会場、果てには練習施設まで、九校戦の期間中、生徒と学校関係者のために貸切という形で提供している。
とは言っても、至れり尽くせりではない。
生徒や学校関係者以外に人は最低限しかいない。そのため、荷物の積み下ろしは自分たちですることになっている。
「では、さきほどのあれは事故ではないと?」
小型の工具などをまとめた荷物を台車に載せて押している達也の隣で、深雪は眉を顰めて問い返していた。
「あの自動車は不自然な飛び方をしていたからね。調べてみたら、案の定、魔法が使われた形跡があった」
小さく頷いた達也は、人の目、他人の耳を気にしながら小声で答える。それに倣った深雪もまた、小声で返す。
「私には何も見えませんでしたが……」
深雪の言葉に、達也は何か言おうとは思わない。魔法が使用された形跡はわずかしか残っていなかった。恐らく、あの一連の件はほとんどの人間が事故だったと思わざるを得ないだろう。あれを事故ではなかったと言い切れるのは自分と、ここにはいない彼だろうと、達也は当たりを付けている。
「小規模の魔法が最小の出力で瞬間的に行使されていた。魔法式の残留サイオンも検出されないほどの高度な技術だ。専門の訓練を積んだ秘密工作員なんだろうな。使い捨てにするには惜しい腕だ」
「使い捨て、ですか?」
達也から放たれた不吉な単語に、深雪の声音はさらに小さくなった。
「魔法が使われたのは三回。いずれも車内から放たれている。恐らくは魔法が使用されたことを隠すためだろう。現に、お前も含めて優秀な魔法師がいたのにも関わらず、誰一人として気が付かなかった。俺も車を調べるまでは分からなかった。大した腕だ」
既に亡くなっているドライバーの魔法の腕を称賛する言葉を並べる。それも、今となっては何の意味のないものだと分かっているが。
だが、あの時、彼だけは分かっていたのではないか、と達也はここにはいない生徒を訝しんでいた。
「では、魔法を使ったのは……」
「犯人は運転手。つまり自爆攻撃だよ」
足を止めて、俯く深雪の肩は、微かに震えていた。
「卑劣な……!」
「元より犯罪者やテロリストなどという輩は卑劣なものだ。命じた側が命を懸ける事例など稀だという点でも然り。だから、こんなことで一々怒っていたらきりがないぞ? それより、何が狙いだったのかが気になるところだな」
深雪が哀れみではなく、怒りを露わにしていたことに、達也は安堵していた。
彼女が犯罪者に誤った同情をするのではなく、それを命じた者の遣り口に憤りを示していたからだ。
ドライバーがどこかの組織の工作員なのは間違いないだろう。その組織が何なのかは分からないが、それを棚に上げてでも知っておきたいことが達也にはあった。
「深雪、車を覆っていた魔法式を破壊したのは矢幡か?」
いきなり踏み込んで、達也は深雪に尋ねた。この質問がどれだけ重要なことかは、深雪もよく理解している。
「はい」
神妙な面持ちで頷く深雪を見て、達也は「そうか」と相槌を打つものの、思いつめた顔をしていた。
達也が車を無秩序に覆っていた魔法式を破壊しようとしたところで、何者かによって先を越されたのは分かっていた。それが秋水だろうと思っていたが、彼が魔法を使っていたところはほとんど見たことがなかった。
だから、秋水が対抗魔法を扱えることは驚いている。それと同時に、矢幡に対する警戒の度合いは必然的に高くなるのは仕方ないことだった。既に八雲から、秋水が「八幡の神童」という二つ名のようなものがあると聞かされた時は、また大袈裟なことを言っていたかと思ったが、あながち間違いではないと認識を改めさせられた。
秋水が魔法式を壊したのに使用した魔法は『術式解体』でいいだろう。
だが、魔法とは違う感覚がしたのはなぜだろうか。
達也には起動式や魔法式を視覚情報として認識する『眼』を持つ。だから、車を覆った魔法式がどのような事象の改変を行うかを視ることができた。しかし、魔法式を砕き、車を受け止めた秋水の魔法は、達也が精通している現代魔法と酷似していながら、それがどういう改変を起こすのか分からない。つまり、現代魔法と本質が違うものだった。
今回はたまたま、達也が知っている魔法による改変と全く同じことが起こったから、どういう魔法を使ったのか理解することができた。
それが、現代魔法を逸脱するものとなると、否が応でも警戒せざるを得ない。
「深雪、矢幡には注意してくれ。正直言って、あいつが一番の不安要素なのは間違いない」
「……分かりました」
秋水は、平穏な生活が乱れてしまう可能性を誰よりも秘めている。
それを分かっていながら、深雪は形容しがたい気持ちに苛まれていた。
アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。
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主人公らしく勝つ
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僅差で負ける
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大敗する