壊れた器は元には戻らない   作:火神零次

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懇親会

 九校戦参加者は選手だけで三百六十名。裏方を含めると四百名を超える。

 今日の懇親会は全員出席しなければならないのだが、様々な理由をつけて欠席しようとする者がいないわけではない。

 秋水もその内の一人になろうとしていたのだが、雫とほのかに引っ張られ、強制的に参加することとなった。パーティーが嫌い、というよりかは慣れないと言うのが正しい。ネガティブな感情が支配しそうになるが、九校戦に出場する選手や、以前、雫が言っていた一条の御曹司がどういう人間なのかを知る機会になるかもしれないと、前向きに捉えることにした。

 とはいっても、こちらから話しかけたりなどするつもりはない。誰かと話しているのを聞いたりするだけで構わない――何なら聞けなくても一切問題がない以上、動く気になれなかった。

 ソフトドリンクが入ったグラスを片手に、壁際に寄りかかっていたところによく知る人の影が近づいてきていた。

 

「パーティーは苦手か?」

 

 第一高校の制服――ちゃんと校章が縫い付けてある、所謂、一科生の制服を着ている達也が、声をかけてきた。

 

「まあ……面倒だからね」

 

 苦笑交じりに返す。

 達也も「俺も同じだ」と普段言わなそうなことを呟きながら、秋水の隣に立って壁際から会場を見渡していた。

 達也が馴染めないのはどうしようもないことだろう。唯一二科生で裏方とはいえ、九校戦のメンバーの一人に抜擢された彼をよく思わない生徒は多い。彼の実力を正当に評価できる者が少ない以上、ここでは肩身の狭い思いをするのは仕方のないことだ。

 

「お飲み物は如何ですか?」

 

 秋水が手に持っていたグラスを空にしたところで、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 声がした方向へと視線を向けると、そこにはドリンクを載せたトレイを片手に持ち、立っているエリカの姿があった。

 

「関係者とはこういうことか……」

「あっ、深雪に聞いたんだ? ビックリした?」

「……驚いた。よく潜り込めたな……いや、それくらいは当然か」

「えっと? 千葉さんがいるのはどういうこと?」

 

 二人の会話についてこれていない秋水は、首を傾げたまま尋ねた。

 

「あ、そっか。知らないのも無理ないわね」

 

 忘れてた、と言わんばかりの顔をするエリカ。このことを事前に話していたのは深雪だけだったようで、エリカがここにいるのを早めに知ったのは達也と深雪の二人だけだった。

 エリカ曰く、コネを利用したとのことだ。

 その一言で秋水は合点が行った。

 エリカの実家である千葉家は「数字付き(ナンバーズ)」と呼ばれる百家本流の一つ。特に自己加速・自己加重魔法を用いた白兵戦技で知られる名門だ。千葉家は他の家とは違い、魔法の行使に優れているだけでなく、それを体系化し、白兵戦を主なスタイルとする魔法師の、育成のノウハウを作り上げている。

 今では、警察や軍の陸上部隊に所属する魔法師が、千葉家の教えを受けているのだとか。

 コネを使ってホテルに入り込めたというのは、九校戦に軍が大きく絡んでいるというのが一番の理由だろう。

 

「コネは利用するもの、ね」

「そういうこと」

 

 秋水の呟きに、エリカは満足げに頷いていた。

 

「ハイ、エリカ。可愛い恰好してるじゃない。関係者ってこういうことだったのね」

 

 達也を見つけたからか、深雪が現れてエリカの容姿を褒めた。

 

「ねっ、可愛いでしょ? 矢幡や達也くんは何も言ってくれなかったけど」

 

 丈の短いヴィクトリア調ドレス風味の制服と、ふわりと広がったスカート。いつも活気に満ちたエリカだが、今日は随分と大人びたメイクをしている。

 最初に声をかけてきた時も、エリカのことを知っていなければ、日雇いのアルバイトか従業員と勘違いしていたところだろう。

 それだけ今の彼女には、可愛げがあり――深雪の言う通りだと思った。

 

「お兄様にそんなことを求めても無理よ、エリカ。

 お兄様は女の子の服装に囚われたりしないもの。きちんと私たち自身を見てくださっているから、その場限りのお仕着せの制服などに興味は持たれないのよ」

「ああ、なるほどね。達也くんはコスプレなんかに興味ないか」

「それってコスプレなの?」

「あたしは違うと思うだけど、男の子からしたらそう見えるみたいよ」

「男の子って西城くんのこと?」

「あいつじゃ、その程度のことさえ言えないって。ミキよ。コスプレって口走ったのは。しっかりお仕置きしといてやったけど」

 

 秋水と達也を置いてけぼりにして二人きりで会話を弾ませている。蚊帳の外にいるため、二人の会話に耳を傾けるしかないのだが、不穏な言葉と気になる単語が飛び出してきた。

 

「ミキ……って、誰かしら?」

「そうか。深雪と……後、矢幡も知らないんだっけ」

 

 深雪は不穏な言葉を気にする様子も無く、聞いたこともない固有名詞に反応していた。

 「あっ」という表情を浮かべたエリカが呟いたと思ったら、走り去ってしまった。トレイを片手に、載っているドリンクを溢すことなく走るエリカを見て、バランス感覚が優れているのだろうと達也が感心していた。

 

「一体どうしたのでしょう?」

 

 急に放置されたのもあって、零れてしまった深雪のセリフ。

 

「多分、幹比古を探しに行ったんだろう」

 

 だが、それを明確に返したのは達也だった。

 幹比古、という名前を知っているような気がした秋水は記憶を掘り出す。

 

「それって定期試験の上位者リストに載っていた名前だよね」

 

 掘り出すのにそう時間はかからなかった。達也と同じように、高い成績を叩き出し、理論順位で四位にいた生徒だ。確か、達也と同じクラスだったはずだ。

 

「エリカとは幼馴染みらしい。二人は幹比古と会ったことがなかったからな。紹介するつもりじゃないのか?」

 

 いかにもエリカがしそうなことだ。

 

「矢幡さん、深雪、ここにいたの」

「達也さんも、ご一緒だったんですね」

 

 エリカの姿が消えた方を見ていると、雫とほのかが声をかけてきた。

 

「雫、わざわざ探しに来てくれたの?」

「君たちも、いつも一緒なんだな」

「友達だから。別行動する理由もないし」

「そうだな」

 

 確かに雫とほのかは、いつも二人でいることが多い気がする。

 特に何の理由もなく、ただの好奇心で聞いた達也は愚問だったか、と苦笑する。

 

「他のみんなは?」

「あそこよ」

 

 深雪が他の生徒のことを尋ねると、ほのかが指を差した。その方を見てみると、慌てて目を逸らす男子生徒の集団と、チームメイトである一年女子も同じところに固まっていた。

 

「深雪の側に近寄りたくても、達也さんがいるからできないんじゃないかな」

「俺は番犬か?」

「みんなきっと、達也さんにどう接したらいいのか戸惑っているんですよ」

 

 本格的に蚊帳の外にいると感じ始めながらも、達也たちの退屈しない会話に耳を傾け、空になったグラスで少し遊ぶ。

 

「あれ、深雪は?」

 

 達也が雫やほのかたちを相手にして、彼女たちを見送った後、エリカが一人の男子生徒を連れて戻ってきた。

 

「クラスメイトのところへ行かせた。後で俺の部屋に来るから、その時に紹介するよ」

「あ、うん」

 

 深雪がいないことにホッとしているような様子を見せた彼は、もう一人、秋水がいることに気づいた。

 

「初めまして。僕は吉田幹比古だ」

「ご丁寧にどうも、吉田さん。ウチは矢幡秋水って言うの。よろしく」

 

 秋水の親切な態度に少し予想外という反応を見せた幹比古だが、すぐに言葉を返した。

 

「こちらこそ、よろしく」

 

 こちらが一科生であるのは知っているはずだが、達也とエリカの二人と一緒にいるのもあって打ち解けるのに時間はかからなかった。

 余談だが、「ミキ」というのはエリカが彼を呼ぶ時に使う渾名なんだとか。

 

 レオと美月も来ているらしいが、どこにいるのだろうか。

 

「レオに接客が務まると思う?」

「その程度の使い分けぐらいはできる思うが……」

 

 多分、レオ本人が辞退したと思っていいだろう。

 

「美月もこの恰好は嫌なんだって。ミキと気が合うのかしら」

「僕の名前は幹比古だ!」

「りょーかいりょーかい」

 

 かなりムキになって食い掛かってくる幹比古に、ぞんざいな返答をして視線を二人に戻す。

 

「というわけで、二人とも裏方。レオは厨房で力仕事。美月はお皿を洗ってるよ」

「二人とも、機械の操作は得意だからな」

「そうね。二人とも見かけによらないけど」

 

 今の時代、倉庫の出し入れも食器の洗浄も、かなり細かい部分まで機械が人の代わりを務めているため、人の手を必要とする部分が全く無いのだ。

 レオと美月は裏でキッチン用オートメーションを操作しているのは、容易に想像ができた。だが、美月はともかくレオが機械操作を得意としているのは、彼らのことをまだよく知っていない秋水からすれば、意外だった。

 

「僕もそっちのはずだっただろう。何故いきなり給仕をやらされるんだ!?」

「何度も説明したじゃない。ちょっとした手違いだって」

「説明になってない!」

 

 不服そうにしている幹比古をあしらったエリカに、達也は声をかけた。

 さきほどまでとは全く違うエリカの雰囲気に、これから始まるであろう二人の会話に介入するべきではないと悟った秋水は、その場から離れることにした。

 

 聞いたところで、自分にはどうすることもできないだろうし、何か変わるわけではない。達也より彼女のことを知らない自分では、当人があまり聞かれたくないことを話せる場を奪ってしまうだけの存在だ。

 一瞬、二人に視線を向けるが、すぐに視界から消して場所を変えた。

アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。

  • 主人公らしく勝つ
  • 僅差で負ける
  • 大敗する
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