壊れた器は元には戻らない   作:火神零次

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丸々1年、投稿できず申し訳ありませんでした。
事情により、時間を取ることが難しく状況が落ち着くまで時間がかかってしまいました。

時間の確保もできるようになってきましたので、執筆を再開していきます。
稚拙な作品ですが、これからもよろしくお願いします。

また、入学編「出会い」を一部分編集しました。


悪意の獣は雛を踏み潰す

 新人戦四日目。

 今日は、九校戦のメイン競技とも言えるモノリス・コードの予選リーグが行われる日だが、観客の関心は花形競技ミラージ・バットに集まっていた。

 男が戦い合うより、派手なコスチュームで空を舞う少女たちの方が華やかに見えるのは間違いない。ミラージ・バットの会場は常に人で埋め尽くされているところだろう。

 

(……何も起こらなければいいんだけど)

 

 今までの試合を鑑みても、妨害の対象が第一高校であるのは間違いない。その目的は不明だが、妨害の可能性を常に孕んでいるというのは、秋水にとって懸念点であり、何とかしたいという気持ちがある。

 とはいえ、秋水はモノリス・コードの選手だ。どれだけ早くモノリス・コードの試合を終わらせたとしても、ミラージ・バットの予選の様子を見ることは難しい。だが、達也がミラージ・バットのエンジニアを担当しているため、あまり気にする必要はないかもしれない。

 

(今は、モノリス・コードに集中しよう)

 

 モノリス・コードは三対三のチーム戦だ。相手チームを全員戦闘不能にするか、モノリスと呼ばれる板状の物質を二つに割り、中に隠されているコードを送信することで勝敗を決める。モノリスを割るためには無系統の専用魔法式を撃ち込む必要がある。

 第一高校のオフェンスは森崎。五十嵐は森崎が戦いやすいようにサポートし、モノリスを守る役目は秋水が担う。

 先日のアイス・ピラーズ・ブレイクの結果を得て、作戦スタッフからは秋水をアタッカーに据える提案があったが、秋水はそれを拒否した。作戦を大幅に、しかも直前に変えるとなると森崎と五十嵐に大きなプレッシャーを与えかねない。既に今のポジションでの連携、作戦を確立していた秋水たちからすれば余計なお世話だった。

 試合開始の合図と共に森崎と五十嵐の二人が駆け出す。

 作戦は綿密に組んでいるわけではないが、臨機応変に対応できるように様々なシチュエーションを想定して動く練習はしている。

 駆け出した二人の動きに、ぎこちなさは見受けられなかった。

 

(初戦だけど……これなら問題は無さそうかな)

 

 心配する必要は無いだろう。

 初戦の相手高校は森崎たちから戦闘不能にしようとしたようだが、二人は練習期間でみっちり秋水に鍛えられている。

 教えるのは苦手としている自覚があったのだが、元々一科生で入学している二人だ。自分なりに考え、理解することはできる。秋水のアドバイスを基に立ち回りなどを改善している。

 白兵戦の実力がアップしているのは間違いない。

 問題なく返り討ちにし、秋水の出番は一度もなく、初戦を白星で飾ることができた。

 

 ♢ ♢ ♢

 

 初戦から少し間が空き、正午を前にしたところで二試合目が始まる。

 相手はここまで最下位の第四高校だ。

 アイス・ピラーズ・ブレイクで十師族を圧倒した秋水がいることから、ここで負けることはないだろうと第一高校の生徒たちはそう思っている。

 会場で二試合目の観戦をする雫たちも、そう信じて疑っていない。

 

(……でも何だろう。この胸騒ぎは)

 

 二試合目のフィールドである市街地には重苦しい雰囲気で包まれているように見えた。廃ビルで構成されているから、廃れているというマイナスの印象がそう思わせているだけかもしれないと考えたが、それでも受け入れがたい何かが雫の胸中を渦巻いていた。

 そんな雫の心配を無視して、試合開始の時間が迫ってきていた。

 そうして、試合開始の合図が鳴ろうとした瞬間──

 

 秋水たちがいる廃ビルが轟音を上げて崩れていった。

 

「矢幡さん!!」

 

 モニターに映し出された惨状に、雫は声を張り上げた。

 市街地フィールドは会場から離れているため、試合の様子を中継するライブカメラがフィールドに多数存在している。

 秋水たちを間近で映していたライブカメラの映像は途切れ、雫たちが見ているモニターには崩れた廃ビルを映すばかり。これでは秋水たちの安否が分からない。

 

「雫、戻りましょう」

 

 情報を得るのであれば、各校の本部が設置されている天幕に戻るのが一番だ。

 深雪の言葉に頷いた雫は、急いで第一高校の天幕へと戻る。

 会場全体が動揺に包まれている。

 それは第一高校の天幕も当然であった。むしろ、生徒が廃ビルの崩壊に巻き込まれたこともあり、どの高校よりも動揺の色は濃いと見ていい。

 

「会長、状況はどうなっていますか?」

「二人とも、戻ったのね。

 ……状況はモニターが映し出している通りです」

 

 真由美に諭され、モニターに視線を移すと大会委員の救助隊が廃ビルに乗り込んでいる様子が映し出されていた。

 すると、瓦礫を押しのけて自力で抜け出した秋水の姿が見つかった。

 外見からでは負傷している様子は見受けられないが、自力で動けるほどの姿を見せてくれたことで、雫は少し安堵していた。

 他二人の救助に時間はかからなかった。

 一通りの指示を出し終えた真由美は、一人病院へと向かおうとしていた。

 

「あの、私も一緒に行っていいですか」

 

 真由美にそう申し出たのは雫だった。

 少し目を丸くした真由美だったが、森崎たちが目を覚ました時に知り合いの一人でもいた方が気が楽だろうと捉え、同行を許可した。

 深雪はミラージ・バットの決勝に備えて、休憩を取っている達也が戻ってくるのを待つことにした。

 病院へと向かった二人は、すぐさま秋水のところに案内された。

 案内された先には、椅子に座っている秋水の姿が見えた。

 

「矢幡さん……!」

「無事だったのね、良かったわ……」

「なまじ体が頑丈だったのが功を奏したみたい。二人はまだ治療中だよ」

 

 確かに外見からは怪我をしているようには見えない。

 怪我をしているのであれば、こうして座って話してはいないだろう。

 

「……矢幡くん、ビルが崩壊したのは」

「一高の優勝が許せない連中の仕業だね」

「やっぱり、四高の選手が……」

「いや、四高は利用された側だろうね。一高の選手を潰すために」

 

 何も知らない人間からしたら、この妨害は第四高校がしたもののように見えるはずだ。

 実際、第四高校の選手たちから悪意は感じなかった。

 達也は大会委員に工作員がいるだろうと言っていた。今回も、それで間違いないだろう。

 事は悪い方向に進みつつある。今回は運良く生きているが、妨害してきている者はなりふり構っていられなくなっているのだろう。下手をすれば誰かが死んでいた。

 

「つまり、この妨害は、それぞれの高校が仕組んでいるんじゃなくて──」

「別の何かが動いていることになる、ということ。被害が出た試合の『事故』の起き方を洗い出しても、不自然なものばかり。

 どこの誰がそんなことをしているのか、どうしてこんなことをしているのかはウチには分からない」

 

 無頭竜が絡んでるとなると、やたらなことは言えない。

 ここは知らないフリをするしかないだろう。

 

(……実行犯に直接問い詰めるしか、方法はないかな)

 

 後処理は軍や大会委員の誰かにでも任せればいいだろう。

 実行犯には当たりを付けている。

 

「犯人が分からない現状では、ウチたちは常に後手を取らなきゃいけない。何とかしたい気持ちは分かるけど、今は耐えるしかないね」

「森崎くんと五十嵐くんは?」

「二人は今、治療中だね。いくら軍用の防護服(プロテクション・スーツ)を身に着けたところで、あのコンクリートの塊を耐えしのげるほど人間は頑丈じゃない。

 ……ウチは防御が間に合ったけどね。二人の分までは回せなかった」

 

 身に着けていたヘルメットと立会人が加重軽減の魔法を発動したのは感じていた。しばらくは安静にしていなければならないだろうが、死ぬことはない。

 

「……本部は今どんな状況?」

「十文字くんが大会委員会本部と折衝中よ。そこで四高のCADを借りられたら……って考えてたんだけど」

「まあ、借りたところで、確たる証拠は得られないだろうね」

 

 バトル・ボードで衝突事故を起こした第七高校からは何も得られなかった。今回も、成果は何一つ得られないだろう。

 重苦しい雰囲気となっていたところに、森崎たちの治療を行っていた医者が来た。

 医者からは、二人の怪我の具合は酷く、魔法治療を以てしても全治二週間の大怪我。三日間はベッドの上で絶対安静にしなければならないと告げられた。

 これで、第一高校がモノリス・コードを続けるにしても、秋水一人で臨むことになる。

 

(……やってくれたね、本当に)

 

 これ以上、状況をかき回されては困る。

 灸を据えてやる必要がある。

 

 ♢ ♢ ♢

 

「それで、当の本人がこんな時間になっても姿を見せなかった理由を教えてもらおうか」

 

 モノリス・コードでの事故に見せかけた妨害が発生した夜。

 達也は秋水を問い詰めていた。

 

「いやあ、面目ない。ちょっと、やっておかなきゃいけないことがあってね」

 

 申し訳なさそうに言ってはいるが、ちっとも申し訳なさそうに聞こえると、流石の達也も嫌そうな顔をした。

 

「ほんとごめんって。本当にやっておかなきゃいけないことだったから」

「それで、やったことはなんだ? 逃げるのは無しだからな」

 

 百歩譲って、日を跨ぎかけようとするところまでホテルに戻ってこなかったのは許すにしても、その理由を聞き出すまでは逃がしはしないといった顔だ。

 この話に同席している深雪と雫も、秋水のことを射抜かんとするほどの視線を向けている。

 手早く済ませるべきだったかと心の中で苦笑する秋水は、逃げられないことを悟り、口を開く。

 

「運営が設定したフィールドの調査をね」

「調査?」

 

 深雪と雫が首を捻る。

 モノリス・コードで使われるフィールドは抽選で決められるが、どのようなフィールドが使われるかは通告されているが、現地調査は許されていない。

 

「大会委員や俺たちにバレないように、現地調査したのか」

「そう。何か仕掛けがないかと思ってね。まあ、無駄足だったけど」

 

 昼間に起きた妨害──秋水たちがいた廃ビルを崩壊させた魔法『破城槌』は、事前に仕掛けられたものだと、気づいた秋水は他のフィールドに同じようなものが仕掛けられていないか調べに出ていた。

 だが、調べた限りではそのような痕跡は見られなかった。

 

「無駄足、ということは今回の事件も、やはり仕組まれたものか」

「そうだね。市街地フィールドが出るように仕組まれたんだろうね。観客や選手たちには抽選だと伝えられているから、大会委員に工作員がいるとするならいくらでも仕組める」

 

 行動力があるのは喜ばしいことだが、あり過ぎるのも困りものだと達也はため息をついた。

 

「会長たちから話は聞いている。モノリス・コードに出ろ、とな」

「それで、その話には頷いたの?」

「退けないところまで追い詰められたからな。それで、どうして俺を選んだのか、理由を聞きたい」

 

 達也は同日、ミラージ・バットの方を担当し、無事に一位と二位を独占。

 ミラージ・バットの決勝は夜に行われることもあり、第一高校の幹部からモノリス・コードに出ろとの話を受けたのは、三時間ほど前のことだった。

 事が事だからと、委員会側は試合のスケジュールの調整、人員の補充などを例外的に認め、第一高校を棄権にすることはしなかった。

 第一高校側は新人戦の優勝を狙うことを決めていた。軽い傷すら見受けられない秋水は続投するにしても、他二人をどうするか悩んでいた。

 当の本人はいつの間にか姿を消していた。どこに行ったのかと心配していたが連絡を取ることができた雫を伝手に、本人から要望を聞いた。

 

『司波さんを起用できるならしてほしいかな。他の一年で実力をそれなりに知っているのは彼だけだから』

 

 エンジニアとして選抜された生徒を選手として起用する。

 その発想には一部の幹部が驚いたものの、今更例外が増えたところで何も変わらないと判断した克人はミラージ・バットでの一仕事を終えた達也を呼び出し、そして今に至る。

 

「会頭からは、実力を知っていると聞いたが」

「概ねその通り。風紀委員での活躍は聞いてたし、実際に見てたからね。他の選手は見てないから、少しでも動きを知っていて信頼に足る人物を挙げるとするなら、司波さんしかいなかったんだ」

 

 秋水との関わりは雫たちよりもないはずだが。

 

「嫌なら断ってもらって良いからね。最悪一人で何とかするよ」

「もう受けた話だ。今更断る方が印象を悪くするだろう。矢幡がそこまで言うとは思わなかったが……まあいい。その期待には応えよう。

 残りの一人は俺が決めたが、文句はないな?」

「無いよ。分かっていて姿を消したわけなんだから、贅沢は言わない」

 

 残り一人に指名されたのは幹比古だった。

 レオの線も考えたそうだが、幹比古が持つ古式魔法に軍配が上がったとのことだ。

 

「矢幡はディフェンスを頼む」

「了解、ちゃんと守るよ。オフェンスは司波さんがやるのかい?」

「ああ。幹比古には遊撃を頼んである。俺もお前がどういう魔法を得意としているかは知らないからな」

 

 次の試合まで時間がない。

 得体の知れない隠し玉を持つ秋水よりも、どのような手を使うのかある程度想定できる幹比古の方が、予測からはみ出ることは少ない。

 なら、最初からディフェンスに置かれている秋水はそのままにした方がいいだろうと達也は判断した。

 その結果、また悪目立ちするのは避けられなくなってしまったのだが。

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