「僕たちは司波さんに相談することがあるんだ!」
「そうよ! 司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」
「ハン! そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間が取ってあるだろうが」
昼の食堂で衝突していたメンバーが、放課後の校門にて、再度衝突していた。
一つ違う点があるのなら秋水がいないことだろうか。
言い争いはデッドヒートし、もはや話し合いによる解決は出来ないところまで来ていた。
「同じ新入生じゃないですか。あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですか」
決定打は、美月の一言だった。
一科生たちは昼間の怒りを解消できたわけではない。美月たちの正論にも苛立ちを見せ、強大な力を持つが故に冷静でいなければならないことを、彼らは忘れていた。
「……どれだけ優れているのか、知りたいなら教えてやるぞ」
「ハッ、おもしれぇ! 是非とも教えてもらおうじゃねぇか」
レオは既に構えていた。
「だったら教えてやる!!」
一科生の一人が携えていた特化型CADを抜こうとして――
「――ああ、遅いね」
一科生の顔面、眉間を狙って何かが飛んできた。
「ヒッ!?」
一科生の前に現れたのは、日本刀の頭を眉間に当てる寸前で止めた秋水だった。
「CADを抜き、魔法を発動しようとするのは犯罪行為……言うまでもなく風紀委員に摘発される行為だよ」
「森崎!」
秋水の目の前にいる男子生徒は森崎と言うらしい。
森崎は悲鳴を零したものの、CADを落とすことはなかった。
「矢幡秋水……!!」
「なんだ、ウチの名前を調べたの? 覚える必要ないって言ったのに」
「次席で入学したお前の名前なんて、すぐに挙がってくるんだよ!」
森崎の言葉に秋水は驚いた表情を見せた。
「へえ。ウチは次席だったんだ。気にもしてなかったよ」
「なに……!?」
「で、さっさとCADを下ろしてくれない? 入学早々風紀委員のお世話にはなりたくないでしょ?」
入学早々に風紀委員の世話にはなりたくない。
渋々、といった感じだったが、森崎は言われるがままにCADを下ろした。
「ふう。大事にならなくて良かったよ」
後に続いて刀を下ろした秋水は一息ついた。
「この……!!」
秋水と森崎のやり取りを見て呆気に取られていた他の一科生たちが我に返り、自身が持っているCADに手を出した。
「みんな、ダメ!!」
一科生の集団の中にいる女子生徒から制止の声が発せられるが届いていない。
このままでは後ろにいる達也たちが魔法の餌食にされてしまう。
制止の声をあげた女子生徒もCADを操作し始めたが、間に合わないだろう。
一瞬で刀を鞘から振り抜き、納刀する。すると、一科生たちが展開していた起動式が一斉に破壊された。
「あなたたち、何をしているんですか!?」
タイミングが良いのか悪いのか、一科生からすればタイミングは悪く、達也たちからすればタイミングは良かったかもしれないが、介入してきたのは騒ぎを聞きつけた風紀委員長と生徒会長の二人だった。
刀を抜いたところは速さ的に誰にも見えなかったと思うが、達也辺りは気づいていそうだ。
「すみません、悪ふざけが過ぎました」
達也が誰よりも二人の前に出たことに、訝しむ顔を見せる風紀委員長。
達也がこの状況を弁舌で何とかしようという魂胆が見えたところで、秋水は適当に聞き流すことにした。
「矢幡」
「ん、何?」
役員の二人が校舎の方に姿を消したところで、達也が秋水に声をかける。
「助かった」
「どういたしまして。またウチが噛みついちゃったから、あの二人を誤魔化すのはちょっと面倒だったでしょ。
二人を口で何とかしてくれたのは助かるよ。ウチだったら挑発しかねないし」
振り返って食堂と会った時と同じような笑みで言葉を返してくる。
一言多いが、ほとんど事実だったため、達也は否定しなかった。
それよりも達也は、一つの疑問があった。
「どうして彼が魔法を発動すると分かった?」
森崎がCADを抜いたことは間違いないが、魔法を発動しようとした兆候は感じられなかった。その前に介入してきた秋水によって止められたが、彼はその時、森崎が魔法を発動しようとしていた、と先の行動を見抜いていたのだ。
「それ、教えなきゃダメ?」
苦笑いで面倒くさそうにしているところを見ると、森崎が魔法を行使しようとしていたと見抜いているのは間違いなさそうだ。
「……いや、もし矢幡の魔法だとしたら詮索はマナー違反だな。忘れてくれ」
「別にいいよ、気にしてないから。
……そうだねぇ、機会があったらいずれ教えてあげるよ。教えたところで減るもんじゃないけど、ウチとキミはまだそれほど仲のいい『関係』とは言えないからね」
関係。
秋水はそれを少し強調したような感じがした。
しかし、魔法師にとってタブーだと言われているほどのことを口にしたのに、秋水は嫌悪することもなく関係によっては教えると応えた。
何の思惑があるのか分からないが、抱いた疑念は多分晴れるだろうと達也は少しだけ前向きに考えるようにした。
「――さて」
穏やかな表情のまま、一科生たちの方へと顔を向ける秋水。
顔を強張らせたままの森崎は、彼を睨みつけていた。
「自分が一科だと驕るのはいい。だが、問題を起こし、それを自分で解決ができないままでは、キミたちが嫌う二科の生徒たち……少なくともキミたちの目の前にいる司波さんたちより、ウチはキミたちが劣っているように見えるよ」
「っ……」
少なからずある罪悪感が森崎の心を締め付けていた。
言い返す言葉が見つからず、視線を泳がせているが、それに構わず話を続ける。
二科に劣っている、この言葉が響いている一科生たちは少ないかもしれないが、この状況で響かないというのなら、鈍感な人間か、才能に見合わぬ器の持ち主ぐらいだろう。
「ウチは別にキミたちが評価されているのを否定するつもりはないよ。評価の対象にされている項目は優秀な魔法師として欠けていてはいけない重要なファクターの一つだからね」
確かに、一科生が二科生に魔法で劣っている部分はあまりない。そもそも、実技の面では学校側から優秀と判断されている。
それは紛れもない事実なのだ。
「親しき仲にも礼儀あり。どれだけ仲のいい友達であっても、超えてはならないラインは存在する。キミたちも無意識にそれに気を付けて友達に接してるはずだよ。
だとしたら、初対面の人間にも、それは適用されるはずだよ。いや、むしろ初対面だからこそ、気を付けるべきじゃない?」
生徒会長と風紀委員長の登場もあり、苛立ちのあまり怒りすら覚えていた人間でも流石に頭は冷えてきているはずだ。
秋水の言葉は彼らに深く刺さっていた。
「自分の行動を見直すといい。一か月もあれば、どうするべきなのかは分かるんじゃない?」
話は終わったが、誰もここから動こうとはしなかった。
「……説教みたくなるのはウチの悪い癖かな?」
頬をポリポリと掻いた秋水は、助けを求めるように達也たちの方へと顔を向ける。
そこまで言っておいて締めは全く考えていなかったのかと、達也は呆れてため息をついた。
「それは知らないが、締めはどうにかならなかったのか?」
「痛いとこ突いてくるなぁ」
肩を竦めて目を逸らす。
自覚はしているらしい。
「あの……ありがとうございます」
達也の隣に並び、感謝を述べたのは、こうして面と向かって話したことのない深雪だった。
「どういたしまして。それと、こうして話すのは初めてだから……初めましてかな。食堂の時なんかはすぐに行っちゃったもんだから」
「いえ、お兄様から教えていただきました」
「といっても、俺もあの時が初めてだったから、教えたのは名前ぐらいだが」
これで名前以外を教えてたら逆に恐怖しか湧いてこないだろうと言いたかったが、口を噤むことにした。
「改まった話はまた別の日に。そろそろ帰らないと、いつになったら帰るんだとお小言を貰いかねないからね」
確かに長居し過ぎた。
誰から「お小言」を貰うのかは容易に想像できる。
ついさっき手間をかけさせたというのに、また面倒なことになるのは御免だ。
「それじゃ、ウチは先に帰らせてもらうよ。また明日」
「ああ」
そうならないためにも、秋水は黙り込んだままの一科生たちに帰るように促した後、去っていった。
アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。
-
主人公らしく勝つ
-
僅差で負ける
-
大敗する