新入部員勧誘期間。
達也は風紀委員として二科生とは思えない活躍を見せていた。
いや、見せざるを得ない状況ばかりだったと言うべきか。
第二小体育館で剣術部のエースを取り押さえてから、達也を探るかのように彼をあらゆる方法で妨害。中には闇討ち紛いの襲撃を受けていたりと普通の高校生なら気が滅入るはずだが、達也はそれらを相手取りながら顔色一つ変えずに風紀委員の仕事をこなしていた。
部活に入るつもりがない秋水は、部員の勧誘が激しくなる放課後に校舎の屋上で達也と、その周囲の人間たちを監視していた。特に上からでは目が効かない場所では達也に迫る脅威を目で判別するのは難しい。
メインストリートの喧騒に顔をしかめながら、神経を尖らせ、耳に届く音を判別する。
トラブルがあったという連絡が来たのか、迷うことなく走り出す達也。テントが林立するエリアとは反対側にある植木の陰から、達也に向けて魔法が放たれようとしている兆候を感じ取った。それは達也も同じことだ。彼から放たれた無系統魔法――二つのサイオンの波によって魔法式が未発のまま霧散した。
魔法式がエイドスに働きかけるのを妨害する魔法。その一種として広く認知されている魔法、キャスト・ジャミングと酷似している。
即座にターンした達也は、魔法を撃ちこんできた犯人を追おうとした。
しかし、追いかけてくることを想定していたのか、達也がターンしたと同時に高速走行の魔法を使って犯人は逃走。達也は長時間の追跡になると判断したのか、すぐに追いかけるのを止め、本来の業務へと戻っていく。
秋水は達也から視線を外し、犯人の男へと意識を向ける。一見穏やかな雰囲気があるが、彼から発せられる『音』は悪意が混じったものだった。純粋な悪意ではない。彼から生じたものではなく、他の誰かに取り憑かれ、操られているようなものを感じた。
平穏を乱す魔の手が迫ってきていることを、秋水の警鐘が知らせていた。
相手が一人とは考えられない。裏に誰かいるはず。それを探るためにも秋水はすぐに行動に出る。
懐から取り出したのは白紙の札。それを地面に置いて、秋水は手を合わせる。すると、札に青色で浮かび上がる文字や符号。それは、古式の魔法師が使うCADの代わりの一つである呪符を連想させる。
「――水面に波紋を残し、踵鳴らして何処へ行く。音、絶つこと叶わず。我が手に汝の行く末、見届けたる糸あり。四道共鳴・悪鬼月映」
詠唱を終えると、札が宙に浮き、どこかへと飛んでいく。
後は時間が経つのを待つだけとなった秋水は、再び達也の方へと視線を向けた。
勧誘期間が終わってから一週間が経った頃、放送室が一科生と二科生における差別撤廃を目指すという有志同盟によってジャックされた。
彼らは生徒会、部活連と正当な交渉の場を設けることを求めており、それを全校放送で訴えていた。すぐに風紀委員会が対応したが学校側がこの件の対処を生徒会に一任した。生徒会は有志同盟のメンバーと話し合い、交渉の場を設けるということにして討論会が開かれることになった。
討論会に参加する生徒会の役員は生徒会長・七草真由美のみ。
討論会は話し合いを行った二日後の放課後に行われるということになり、生徒会側には役員同士で話し合う時間がない。小さな食い違いで揚げ足を取られることを考慮した結果、生徒会長のみが討論会に参加するという判断をした。
だが、ただの討論では終わらない。達也のそう思えてならなかった。
討論会の前日の夜。
達也と深雪はある場所を訪れていた。
夜だというのに明かり一つついていない寺。そこには人がいるとは思えないほどの静けさ。インターホンや呼び鈴もない。玄関の引き戸を開けて来訪を告げようとするが、引き戸に手をかけたと同時に、縁側の方から声がした。
「達也くん、こっちだよ」
達也の袖を掴んでいる深雪がビクッと震えていた。
ここがただの寺なら、達也も苦笑いを浮かべていたところなのかもしれないが、少なくともここはそういうところではない。そのほとんどがお世話になっているこの寺の住職が原因なのだが。
縁側へと歩を進めると、件の人物は縁側に腰かけていた。
九重寺住職・九重八雲。高名な忍術使いであり、由緒正しき『忍び』。達也の体術の師匠でもある。
軽く挨拶をしたところで、本題に入ろうと思った瞬間――
「達也くん、見られてるよ」
他でもない八雲から言われた。
すぐさま周囲を見渡すが特に気になるようなものはない。
またお得意の悪戯か、と思ったが一向に彼の鋭い目つきが緩むことはなかった。答えを見出せずにいると、八雲が口を開いた。
「達也くんの背中に『式』がついてるね。こっちに向けるといい。取ってあげるよ」
からかっている、という声音ではないのはすぐに分かった。八雲の言う通りに背を向ける。
八雲が背に触れると、背中から何かが剥がれるような感覚がした。
「師匠、それは?」
「簡単に言えば式神だね。式とも呼んでたりする」
青く光っていた札が、白紙へと戻る。
「とはいっても、達也くんにこれを着けた人間は、君に危害を加えるつもりはないみたいだね。外したのは間違いだったかな? とはいっても、これは君にとって邪魔になるだろう。この式の処分は僕に任せてもらっていいかな?」
八雲がここまで自主的に言い出すのは珍しい。
「その前に、式神についてもう少し詳しく」
「古式魔法の一種。この紙に記された文字や符号は、古式の魔法師が使用する呪符などに似ているけど、この場合は式神そのものを示している」
「その式神は何の役割を?」
「それは僕にも分からないけど……君のことを知りたがっているのは間違いないんじゃないかな」
監視、という単語が達也の脳裏を過った。
警戒すべきことが増えたのにはため息をつきたくなったが、それを抑えて本来の目的を果たす。
八雲は二人が座ったのを見て、
「司甲。旧姓、鴨野甲。
両親、祖父母、いずれも魔法的な因子の発現は見られず。普通の家庭ではあるけど、実は賀茂氏の傍系に当たる家だ。血はかなり薄いんで、普通の家庭と言っても差し支えないんだけど、甲くんの『目』は一種の先祖返りだろうね」
前置きなしに、淡々と語り始めた。
「俺が司甲の調査を依頼すると分かっていたんですか?」
「いや、依頼に関係なく、彼のことは知っていたよ」
「何か理由が?」
「僕は坊主だけどね。同時に、いや、それ以前に僕は忍びだ。
水がないと魚が生きていけないように。常に情報を集めていないと忍びは生きていけないんだよ。
とりあえず、縁が結ばれた場所で問題になりそうな曰くつきの人間は調べるようにしている」
「俺たちのこともですか?」
彼の言葉通りなら、まだ達也たちが八雲に素性を明かしていない段階で調べに入っている可能性がある。広い情報網を持つ八雲は、自分たちの素性に最初から気づいていたのか、という不安が達也にあった。
「調べようとしたけどね。その時は分からなかった。君たちに関する情報操作は完璧だ。さすが、と言うべきだろうね」
達也と八雲が睨み合う。
悪ふざけの演技だったのだが、真に受けていた深雪がどうにかしようと慌てて口を挿んできたことで、二人の表情が緩んだ。
そのまま世間話の様な口調で、八雲は深雪の質問に答えた。
司甲の義理の兄が一枚噛んでいるのではないか、という推測も交えたものだったが、有益な情報であることは変わらなかった。
八雲が提供してくれた情報の中で聞いておきたいことが増えた達也は、司甲の『目』がどれほどの性能なのかを尋ねた。
「そうだねぇ……放出された霊気の波動を認識できる程度、かな。内に秘めている霊気を認識できるほどのものではないと思うよ。
少なくとも、達也君のクラスメイトの方が強力な霊視力を持っていると考えた方がいい」
「美月のことも調べてあるんですか?」
「君も、興味はあるだろう?」
今夜一番人の悪い笑みを浮かべている八雲に、舌打ちをしたくなったが堪える。図星だというのは八雲も分かっているだろうが、それを態度に出すのはあまりにも癪に障るからだ。
「結論から言えば、彼女のことを警戒する必要はないと思うよ。
君の霊気が見えたとしても、あの娘ではそれを理解することができない。そもそも、達也くん並みに魔法に精通しているのなら、自分の『目』に振り回されることもないだろうからね」
彼を安心させるためにかけた言葉かもしれないが、達也は微妙な気分にならざるを得なかった。とはいえ、それをいつまでも引っ張っているわけには行かない。もうひとつの目的、それを八雲に話さなければならないからだ
「それと、師匠。もう一つお願いしたいことが」
「何かな?」
「矢幡秋水について教えていただきたいのですが」
矢幡秋水という名前を聞いて、八雲が反応を示した。
「ふむ、一応調べてはいるとも。さて、どこから話したものか……長くなりそうだけど、大丈夫かい?」
顎に手を当てて考え込む仕草をする八雲。
夜もそれなりに更けてきたこともあり、一応、達也に確認を取る。
彼が大丈夫だという頷きをしたところで、八雲はいつもと変わらない声音で話し始めた。
アイス・ピラーズ・ブレイク、一条将輝戦。原作で特に記載がないため、優勝、準優勝のどちらをとっても問題ないと解釈。ので、一条将輝に勝つか負けるか、悩んでいるのでアンケートで決めることに。
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主人公らしく勝つ
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僅差で負ける
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大敗する