ファブレ公爵家の嫡男、ルーク・フォン・ファブレ
過去の事件によって記憶を失っていた彼は、閉じ込められた屋敷での生活に辟易し、しばしば屋敷の裏にある森へと抜け出していた
ある日、彼はその場所でとあるものを発見し――

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初投稿。以前某サイト(今は殆ど接続できない)で掲載していたものです。
生暖かい目で見守ってくだされば幸いです。


第1話

「ガイ!!」

 

 勢いよく扉を開けすぎ、ドン! と大きな音で、ドアを開けた俺も若干「怯んでしまった。

 ガイはというと、唖然としながらも「ルーク、お前また勝手に家を抜け出して……」とため息まりに視線を向けている。

 ……あ、そういえば俺、また屋敷を抜け出して探されていたんだっけ。けど、そんな事はどうだっていいや。

 早く、この俺の大発見を見せてやらねーとな。

 

「ん…何持ってるんだ?」

 

 お、食いついた食いついた。

 俺は得意になって、後ろ手に隠していた物体をガイへと見せる。

 

 翼に傷を負った、青色の鳥を。

 

 

 

 

 

 

 

 

籠の中の鳥

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーク、それって……」

 

「へへっ、スゲーだろ? 森の中で見つけたんだ~」

 

 ファブレ公爵家の裏には、森が広がっている。

 五年前に記憶を失って以降、家の外に出る事を許されていない俺は、暇になるといつも森へと抜け出していた。

 まあ、そんな事を五年も続けていると、当然やる事もなくなってくるわけで。最近では、ただガイみたいな使用人やメイド共を騒がせたいだけなんだけどな。

 

 そんで、今日。

 いつもどうり森に行って適当にぶらついていた最中、俺はそいつを見つけたんだ。

 何かしらがあって翼を怪我し、飛ぶことのできなくなっていた青い鳥。初めて見るそれに、俺は驚愕した。

 

「前になんかの話で聞いたんだけどよ、青い鳥は幸福の象徴なんだろ? 俺ってスゲーラッキーなんじゃね?」

 

「ああ、確かにそう言われているな。俺も初めて本物を見るよ」

 

 俺の手の中で縮まっている鳥を凝視するガイは、まさに興味津々といった様子だ。

 他の使用人やメイド共、普段は滅多な事で動揺しない庭師のペールでさえも、目を丸くして驚き、ざわめいでいた。

 こうやって悪い意味じゃなくて注目されると、スゲー気分がよくなってくるな。

 

「ふむ、何やら面白いものを持っているな、ルークよ」

 

 すると、いきなり背後から声をかけられた。

 聞き覚えのある声に、俺は急いで振り向く。そして案の定、予想どうりの人物がそこにいた。

 

「ヴァン師匠(せんせー)!」

 

 ヴァン師匠は、たまに家に来て、俺に剣術を教えてくれる人だ。何をしている人なのかはよく知らねーけど、公爵である父上とよく話している辺り、結構身分は上なんだろう。

 この人が来るときだけが、俺が唯一楽しみにしている事なんだよな。

 

「師匠! 今日も剣を教えてくれるんですか?」

 

「すまんな、ルーク。今日はお父君に用があって来たのだ。それからすぐに向かわなければいけない場所があるから、剣術を教える事はできん」

 

 ちぇっ、つまんねーな。最近あまり来てくれないから、いつも以上に楽しみにしてたのに。

 俺がふてくされていると、師匠は優しく俺の肩に手を置いてくれた。

 

「ルークよ。またいつか来る。その時まで待て。その時は、たっぷりと指南してやる」

 

「マジかよ! 約束だぜ、師匠!」

 

 それならまだ、気も少しは楽になるってもんだな。

 力強く頷くと、師匠は静かな足取りで父上のいる部屋へと向かっていった。同時に、周りにいた奴らも、そそくさと退散してゆく。

 そして、屋敷の玄関には俺とガイだけが残った。

 

「ルーク。その鳥、どうするんだ?」

 

 ガイもどこかへと行こうとしていたみたいだけど、ふと気になったようで、俺に聞いていた。

 そういや、連れ帰ったはいいけど、それからどうするかを考えてなかったな。

 どうせやる事なんて無いし、暫くの間暇つぶしに飼ってみるのも悪くねーかも。

 

「こいつ、怪我してるだろ? だから、暫く面倒見てやろーぜ」

 

 それがいい。ガイもそう言って頷く。

 が、直後、急に真顔になって、

 

「けどなルーク。生き物には皆平等に命がある。それはこの鳥にだって同じだ。だから、決して生半可な気持ちで世話をするなよ」

 

 なぜそんな話をしてきたのか、俺には分からなかった。

 だから、その時俺は深く考えもせず、「わーったわーった」と適当に返すだけだった、 

 

 

*****

 

 

 

 青い鳥を拾って、数日。

 

 朝起きて、飯を食い割った後、俺は籠の中に入れている鳥にもエサをあげた。

 こんな事メイドとかにやらせようとも思ったけど、ガイのヤツが「そういうのは自分でやらないと駄目だ」ってうるさいから、俺がやってる。

 めんどくせーけど、ガイが言うんなら、しゃーねーか。

 それに、俺の持ってきたエサを小さなくちばしでついばむ姿を見ていると、なんだか穏やかな気分にもなれる。

 

 今日はナタリアが来る日だ。あいつにも、この鳥を見せてやんないと。

 

 

 

「まあ、これは珍しいですわね!」

 

 ナタリアの反応は、面白い程に予想通りだった。

 手のひらに乗せた鳥を優しく撫でつつ、ナタリアは俺にこの鳥を手にした経緯を聞いてくる。

 俺はナタリアが喜んでいる事にいい気になって、自慢げに森を歩いて見つけたことを話した。

 

 すると、ナタリアは急に表情を変え、

 

「…また貴方は、勝手に家を抜け出しましたのね。昔の貴方は、そんな人ではなかったのに。それに……まあこれは良い事なのですが、昔の貴方は、こんな風に動物を拾ってくる事なんてなかった」

 

 ……またか。

 許嫁とかそういう事情を抜きにしても、ナタリアの事は嫌いじゃない。だけど、一々今の俺がすることに昔の俺……記憶にない俺の姿を重ねられるのだけは、どうしても嫌だった。

 仕方ないだろ。俺には、五年前以降の記憶がねーんだから。昔の貴方、以前の貴方と言われても、どうしようもない。

 

 ……俺に、どうしろってんだよ。

 

 

*****

 

 

 青い鳥を拾って、数週間。

 

 ……面白くない。

 何もかもが、面白くない。

 ヴァン師匠はあれから来てくれないし、ナタリアに言われて以降、なんとなく森に行く気も失せた。元々、あそこですることなんて大してなかったが。

 ガイとつるんでいる時はまあ楽しいけど、アイツもアイツで忙しいらしく、一日に数度顔を合わせるのが限度だ。

 家の外にも出れず、面白くもなんともない授業をやらされ、喋るヤツもほとんどいない。本当に退屈で、嫌になるほど面白くない。

 

 そんな俺の、たった一つの癒し。それが、青い鳥だった。

 その鳥の傷は大分癒え、まだ飛べるまでは至っていないものの、時折翼を広げたりもしてる。

 しかも、ずっとエサを与えていた俺の事を親と思っているらしく、俺がエサをあげようとするたびにピィピィと小さく鳴く。その姿が、たまらなく愛らしい。

 

 

「お前が真心を込めて接してやっていたからだよ」

 

 久々に時間のとれたガイにその話をすると、ガイはそう言って微笑んだ。

 そして、オレにこう尋ねる。

 

「どうだ? 命を世話するのは」

 

「最初はめんどくさかったけど、もう慣れてきたかな。今はもう、楽しみにもなってる」

 

 俺は自信を持って答えることが出来た。完全な事実だからな。

 それを聞いたガイは安心したようだけど、同時に表情を曇らせてもいた。

 

「そうか。けどな、いつかはその鳥、逃がしてやれよ」

 

「はあ!?」

 

 なんだそりゃ。

 どうして俺が、折角一生懸命世話した鳥を、逃がさなくちゃいけねーんだ?

 理不尽だ。意味がわかんねぇ。

 ガイに対して、初めてとも言っていい怒りが湧き上がってきた。

 

「なんでだよ! 俺が拾って、俺が世話をしたんだ。どうしようと、俺の勝手だろ!」

 

 怒鳴り散らして、目の前の使用人に迫る。

 ガイはというと、眉を潜ませて、俺に目を向けている。

 

「ああ、そうなんだろうな」

 

 じゃあなんでなんだよ。

 ガイとは長い付き合いだし、こいつが意味もない理不尽を言う訳はないって事は分かってる。ただ、理由が聞きたかった。

 

「ルーク……籠の中の鳥ってのも、案外辛くて、案外可哀想なものなんだぜ」

 

「……」

 

 ガイのその言葉。

 意味はよく分からかったけど、俺にはそれ以上、ガイに言い返すことはできなかった。

 

 

*****

 

 

 青い鳥を拾って、一か月。

 

 ヴァン師匠は、未だに来ない。ナタリアも、あれ以来一度も来ていない。

 だけど、寂しくはなかったし、特に退屈もしなかった。俺の傍には、幸せの青い鳥がいたから。

 この鳥の翼の傷は完全に癒え、今では空を飛ぶことだって自由なほどに回復している。

 俺の部屋じゃあ狭いだろうと思って、窓を開けて空に出してやったりもした。するとそいつは、大空を飛び渡り、そしてある程度時間が経つと、ちゃんと俺の所に戻ってくるんだ。

 

 ある日、俺はいつもどうり部屋の窓を解放し、青い鳥が入っている金属製の籠を、窓際へと運ぶ。青い鳥も、早く空を駆けたいらしく、籠の開け口でちょこんと立っている。

 あとはその柵を開けてやるだけ。それだけなのに、それができなかった。

 いきなり、ガイの言葉が脳裏をよぎったからだ。

 

(ルーク……籠の中の鳥ってのも、案外辛くて、案外可哀そうなものなんだぜ)

 

「……」

 

 数分の静寂の後、

 俺は、籠の扉を開いた。

 青い鳥は、待ってましたとばかりに、空へと飛び立つ。

 

 そして、俺は窓を閉じ、鍵を閉めた。

 鳥が戻ってくるころになっても、窓を開けなかった。

 青い鳥は、窓際へととまり、ガラスをくちばしでつつく。

 それでも、俺は窓を開けなかった。

 

「……行けよ」

 

 鳥に背を向けたまま、俺はボソッとつぶやく。たとえその声が、鳥に届いていなからろうと、意味が伝わらなかろうと。

 

 それでも、鳥はその場を動かない。

 

「…行けっつってんだろ!」

 

 だから俺は、ガラスに拳を打ちつけた。

 ドン! と鈍い音が響き、衝撃の受けた鳥は、慌ててどこかへと飛び去ってしまった。

 それを確認した後、俺はカーテンを閉めた。

 

 その後、青い鳥が帰ってくることはなかった。

 とてつもない後悔と、どうしようもない虚無感が、長い間俺を襲った。

 

 だが、ああするしかなかった。

 今の俺は、籠の中の鳥と一緒だ。一見大切そうに扱われながらも、自由というものは存在していない。

 籠という名の檻に閉じ込められ、束縛され、空という名の自由を駆ける事ができない。

 

 青い鳥は、幸せの象徴。見る者に、幸せを運んでくれる。

 そんな存在を、籠の中に閉じ込めちゃいけないんだ。自由に空を渡らせないといけないんだ。

 

 カーテンを開け、窓を開き、雲一つない空を見上げる。

 どこまでも続く蒼空。

 俺もいつか、この空に飛びたてる時が来るのだろうか……




読了ありがとうございます。
はじめまして、LUCEという者です。
プロフィールにもありますが、以前――といっても二年ほど前ですが――までとあるサイトで執筆していました。
その時の知り合い(名前は伏せます)がここに移籍したようなので、私もやってきた次第です。
そのお方以外にも某サイトからの方は何人かいるみたいです。交流はありませんでしたが…

閑話休題

この作品は、Aの本編開始二年前、という設定です。
長髪時のルークは確かに我儘な面もありましたが、記憶が無く、精神的に幼いが故の純粋さ、無邪気さもあったと思うので、序盤は彼のそういった面を出しました。
ラストのシーンでは、今作の本当のテーマである「自由」を取り上げています。
本編開始までのルークは、屋敷に閉じ込められ、束縛されていました。一見大切に扱われているように見えますが(実際そうなのですが)、その分自由もありませんでした。
青い鳥を発見し、飼っていた彼は、籠の中の鳥に自分のその現状を重ね、鳥を逃がします。
ルークは、とにかく自由を求めていたと思います。後にヴァンに唆され、英雄に憧れを抱いた時も、頭の中に「英雄=自由」といった考えがあったからだと思います。
なので、その「自由」をテーマとし、今作を手がけました。

……はい。この作品は以前某サイトで投稿したものと同じです。若干の修正は入れていますが。
あまりにも腕が鈍っているので、ひとまずリハビリから始めねばなりません。
そのうちオリジナル作品も書いてみたいなーとか思ってみたり(汗

感想は大歓迎です。批評も根拠がしっかりとしていれば受け止めます。
では、また別の作品でお目にかかる事を願って。もう一度、読了ありがとうございました。

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