【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】   作:ヌオー来訪者

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 同時進行で本編と進めていきます。
 最近のライダーでよくあるスピンオフみたいなものです。


 注意:主人公がミナヅキと、ある男である兼ね合い上、スレッドにアクセスできる男がカメオ出演程度の出番なので自動的にスレ形式のパートがこのシノビタイムにおいてはありません。

 あとそこそこ胸糞なのでご注意を。
 原作というかミナヅキについて知っている方ならちょっと心当たりあるかもしれません。


SHINOBI TIME:HATTARI ミナヅキの事件簿 01 

 ミナヅキは夏が嫌いだった。

 

 特にあの湿度の高い熱気が嫌いだ。汗もかきやすいし、ジメジメと肌にまとわりつき、長くした髪や夏の制服にまで肌にへばりつく。

 しかも電車に乗れば同じ汗のかいた人たちの体臭が充満する地獄のような環境に苛まれるときた。

 

 特に風呂も入らないしシャワーも浴びないやつのいる満員電車ははっきり言って地獄だ。酸っぱい臭いが鼻をつき、離れようにも離れられない。

 

 汗で服も透けやすい環境なのでしかもそこで男どもに邪な目線を送られれば恐怖もしたくなる。

 誰がこんな湿度の高い環境にしたのだろうか。生まれた国を呪いたい。

 

 蝉の鳴き声や、すずむしの鳴き声が聞こえるたびに舌打ちしたくなる。

 

 昔はきっとそんなキャラじゃなかったと、ミナヅキは振り返る。

 

 

 そんなふうに捻れたのは最近のことだ。

 まだ小学生の頃は夏休みだと、宿題は計画的に進めて、友達と遊ぶ計画を立てて、おばあちゃんの家に遊びに行って、プールに行って、スイカを食べ、自由研究に頭を悩ませていただけだった。

 

 中学生の頃は小学生の頃ほど遊びに塗れてはなかったのだけれども、今よりはきっと楽しく思っていたことだろう。

 けれどもこの時期から暗雲が立ち込め始める。

 

 年を重ねるごとに自分の身体が変わっていく。女というカテゴリに近づいていく。

 それが周りの女子より早かった。

 胸が小学生高学年から大きくなり始め、忌むべき生理が始まった。

 それゆえに増え始める男子からの邪な目線が嫌いだった。

 

 夏はひときわ酷いものだった。

 

 水泳の授業は嫌いだ。殊更にそういう視線が増え、小さい声ながらも聴こえてくる。

 下品な言の葉が嫌でも聞こえるのだ。

 一番ヤりたい奴はミナヅキだなんて言葉。聞こえた時は背中がざわついたしもう笑うしかなかった。

 

 

 お前がそういう体だから悪い。と吐き捨てるやつは悉く死ねばいい。

 というか好きでなった訳ではない。

 

 

 ああ、気持ち悪い

 

 

 ああ、きもちわるい

 

 

 ああ、キモチワルイ

 

 

 そんな思いを一番するのが、夏だ。

 

 

 ミナヅキは夏が嫌いだった。

 思い返せば嫌な記憶ばっかりが蘇ってくる。あの邪な視線だけではない。

 

 自らの正義が踏み躙られたのも夏なのだ──

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 ミナヅキは幼い頃から規律と正義を重んじていた。

 それは両親が厳格な家庭のもとで育ち、それでいて父が警官であり常々正義を語っていたことに起因する。

 

 

 

 警察。

 それは国に認められた暴力装置の一つであるが故に誰よりも厳しく己を律し規範となるように務めなければならない。

 それが父の口癖だ。

 

 

 

 ミナヅキはそんな父親が好きだった。

 少し融通が効かないし、確かに身内びいき込みにしても厳しいとも思ってはいたが、電車が定刻通りに正しく到着するように、自らも正しく在り規範とならなくてはならない。

 そんな父親の覚悟を知っていたからだ。

 

 誰かが正しいことをやるだろう、なんて日和っていれば周りは滅茶苦茶になる。故にミナヅキは正しく在ろうとした。教師は正直アテにはならなかった。

 

 その結果、所謂委員長様だ。と陰口を叩かれることは度々あった。しかしミナヅキはその陰口に折れるようなやわな女ではなかった。

 

 

 

 

 

 ミナヅキは自分なりの正義を行ってきた。

 学生の世界においても不正、悪事なるものはしばしば存在する。

 ポイ捨て、カンニング、煙草、飲酒、いじめ、エトセトラエトセトラ。不正は不正だ。どんな些細なことだろうがミナヅキは見逃さなかった。

 その過程で恨み節をいくつも耳にしてきたがそんなことにまともに耳を貸さなかった。

 

 

 ミナヅキなりの私見、ではあるが。

 その中で最も悪辣でかつポピュラーなものがいじめだ。

 

 いじめなるものは公立私立関係なく起こり得るものだ。進学校だろうが平気で起こる以上恐らく人が人である以上なくせはしないのだろう。

 無論、ミナヅキはその行為を見逃しはしなかった。

 

 

 

 それは、弓道部の帰りのことだ。

 同級生一人と一緒にテストの点数について同級生が直近のテストで3点だったとかナントカで談笑しながら人気の少ない駅の地下通路通り抜けようとした矢先だった。

 

「ひぃふぅみぃ……さっすが金持ちサンは違うよなァ~~ッ」

 

 間延びした声と共に明らかに様子のおかしい光景が眼前で広がっていた。

 見るからにひょろっとした、夏なのに長袖の男子生徒を体育館の壁際まで追いやり、その周囲を運動部だろうか体格のしっかりとした男子生徒数名が取り囲んでいた。

 

 それを見かけるや否や、同級生はミナヅキの手を引っ張り彼らに見つからないように隠れた。

 

「……何、あれ」

 

 正直言ってしまえば明らかに普通じゃない光景だ。いずれもミナヅキが通う高校の制服を着ているのが殆どだ。ただ一人だけ。札束を数えている男を除いて。

 取り囲まれている側が怯えていて、取り囲んでいる側が学生が持つような金額ではない札束を捲る光景を普通だというのならば、それはきっと修羅の世界だ。

 

 あの取り囲まれている同級生はミナヅキのクラスメイトの島井だ。あまり話したことはないが、医者の子供であまり自分から目立とうとはしない印象だった。

 しかし素行が悪いというわけでもなくあのような輩とつるんでいるのは想像もできなかった。

 

「あの札束数えてるハゲ。閂市で問題起こしまくってる関田トオルってヤツだよ。ほら、カンチューのやべーやつの噂、聞いてない?」

 

「あれが……」

 

 噂では聞いていた。

 ミナヅキは通っていなかったが閂中学においてかなり悪質な生徒だったと。最初こそ校内での喫煙飲酒、暴力程度だったが他校の生徒から金を巻き上げ、市内のものを器物破損と迷惑行為を働く厄介者だった、と。

 当然高校には上がらず、市内のならずものとよろしくやっているとか。

 

 それがどうして自分の通っている学園の人間と一緒にいるのか不可解だった。

 

「あいつらカンチューに居たやつらだよ。あの囲まれてる地味な子も」

 

 確かにミナヅキの通う学園は閂中学から上がってきた生徒もそこそこ多い。何もおかしなことではない。

 なにもおかしくはないのだ。

 

 ──んなワケあるかっ! 

 

 関田トオルは札束を自らの財布に仕舞い、「あとはヨロシク」と投げかけ、行きがけの駄賃と言わんばかりに島井の鳩尾に拳を叩き込んだ。ドム、と音が聞こえた気がした。

 一撃をもらった彼は頽れ、腹部を抑えながら倒れこみ、関田トオルはゲラゲラ笑いながらこの場から去っていく。

 後は死骸を貪るように取り巻きたちがニヤニヤと迫っていく。

 

 この行為を看過出来るはずがなかった。けれども飛び出せない。

 何故ならばミナヅキが飛び出そうとした矢先、腕を引っ張られる形で同級生に引き留められていたのだ。

 

「まずいって……! あいつらに目をつけられたら何されるか分からないよ……!」

 

 彼女の目は完全に後がないと言わんばかりだった。嘘はついている様子はない。自らの腕を掴む手の強さが雄弁に物語っている。

 けれどもあのような蛮行を看過することはミナヅキは許しはしない。

 きっと父も見逃しはしないのだ。ゆえに──

 

「やめなさい──!」

 

 同級生の制止を振り切り、ただ一人止めに入った。

 まさかの闖入者に驚いたのか、取り巻きたちの眼付きは慌てふためいていた。引き留められていたこともあって関田トオルの姿はもうなかったのが少しばかり悔しかったが、引き留めた彼女を責める気にはなれなかった。

 

「よう、なんだよ……ミナヅキじゃねえか」

 

「ようじゃないわよ。あんたたち、この子から金巻き上げて何しようって言うの」

 

「別に巻き上げようなんてことしてないぜ。なぁ?」

 

 一人がまるで威圧するかのように倒れた島井に投げかけると、少しの逡巡から首を縦に振った。

 明らかに脅されている様子に腹が立った。数にものを言わせて。このような──

 

「チッ……帰ろうぜ。トモダチ料貰ったわけだしな」

 

 意外にも。そう、それは意外にもあっさりとした幕引きだった。

 一人がそう促すと、まるで金魚の糞のようにその場を去っていく。トモダチ料という邪悪な単語に少しばかり引っかかるものがあったがそれよりも鳩尾に拳を叩き込まれて倒れている島井の方が心配だった。

 

「大丈夫……? 立てる?」

 

 あまり関わり合いがないとはいえ、放っておけない。

 倒れた彼を起こそうとしたものの、振り払われた。まさか振り払われるとは思わなかったミナヅキは驚き、2歩ほど後ずさる。

 感謝こそされどもここまで拒絶されるとは思いもしなかった。

 

「ほっといてくれ……僕をほっといてくれ!」

 

 悲痛な叫びだった。そのままミナヅキから逃げるように走り去っていく。それをただ、ミナヅキは見ていることしかできなかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 それからというものだ。

 彼らがミナヅキに突っかかるようになったのは。

 

 あの関田トオルなる人物は中学時代から島井からトモダチ料として金を毎月無心していたらしい。金を巻き上げる代わりに、他の奴らから守ってやるというのだ。当然そんなことを信用して金を渡しているわけではないだろうが、あの取り巻きの数から考えるに抵抗したくても出来ないのだろう。

 

 あれから島井の件を教師陣に報告したもののまるで動く様子はない。最初から期待していなかったがここまで何もしないとは思いもしなかった。

 学校としてはきっと、いじめがあったことを認めたくはないのだろう。

 自分のことについてもまるで動く様子はなかった。

 

 ふと思う。ここ最近世間を騒がせていたノロイ党の業岡一全ならばきっと彼らを裁いていたに違いない、と。

 無論破壊行為は許された話ではない。だが彼がいたらきっと一人残らず再起不能にして見せたのだろう。

 業岡は結果的にあの深紫の忍びと呼ばれている戦士に倒されてしまったようだが。

 

 

 誰も裁くことが出来ないのならば自分が強く生きるしかない。

 突っかかるとはいっても、方法は多種多様だ。まずは机に落書きは序の口、体操服を言い方はアレだがヒエラルキー下位の生徒のカバンにぶち込む、弁当に修正液をぶちまける。

 これをやったのはどうにもあの男子生徒だけではなかったようだ。

 

 かつて自分に注意されたりして悪行を台無しにされた女子たちが、あの関田トオルの取り巻きと結託し、敵の敵は味方と言わんばかりにネットワークが連鎖していって自動的にいじめに加わった人数が増えていったのだ。

 しかし、このようなことをされるのは織り込み済みだった。

 

 この手の行為に対して大人しくいる性格でもなかったミナヅキは事あるごとに彼らへ嫌味を投げつけ、毅然と立ち向かい続けていた。

 それがきっと面白くなかったのだろう。

 

 

 

 夏休み。

 部活動の帰りだった。同級生は関わりたくないと言わんばかりに疎遠となりたった一人で夜道を歩く。

 それが──きっといけなかったのだろう。

 

 後ろから口元を布のようなもので塞がれると、薬品の匂いが鼻をつく。

 酷い匂いだった。鼻の奥にツンとした刺激がしたと思いきや、眩暈がする。ここまでされて悪意からくる行為であることは確実だ。

 咄嗟にそのハンカチを使ってきた者の顔を見ようとした、が──

 

 見るより先にミナヅキの意識はブラックアウトした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 あのハンカチから来る薬品特有の刺激臭の次に来た臭いはカビと埃の臭いだった。

 空気は少しだけ湿気を吸っているのかじめっとしている。長らく掃除をしていないのであろう空気感はミナヅキの不快感を煽るには充分過ぎた。

 床に触れた頭と背中、そして四肢の感触は酷く硬く、それでいて冷たかった。コンクリート特有の手触りだ。

 自らの目をこじ開けるとそこには──一番見たくない男の顔があった。

 

「オハヨーございまーす」

 

 他人をバカにし切った声色と、黒いタンクトップにジーパン。鼻ピアス。浅黒い肌は汗で濡れており、彼が持ち込んだのであろうライトが反射してテラテラと光っている。そして丸刈りにした頭。

 忘れもしない。島井から金を巻き上げていた関田トオルだった。ヤニの臭いがしてミナヅキは思わず顔を顰める。

 

 

 間近で見れば見るほど、自分とはこれからの人生で絡みたくない外面だ。そして後ろには見知った面々やそれに交じって明らかに成人した男も混ざっていた。

 

「目ぇ覚ましたか」

「このまま寝たままってのでも良いがオモシロくねえしな」

「お仕事の時間だな」

 

 などと口々に好き放題いいながら男たちはミナヅキのいるところまで群がっていく。

 逃げないと。そう思ったものの手足の自由は効かない。動かせば動かすほどじゃらじゃらと金属と金属が当たる音がする。

 鎖でつなぎ留められているようだった。

 

「助けっ──」

 

 咄嗟に大声を上げようにも即座に口を関田トオルによって塞がれる。一瞬彼から殺気のようなものが吹きあがるが、スッと引っ込んだ。と、同時にニタリと下品な笑みを浮かべた。

 

「おいおい。五月蠅いオンナは嫌いだぜ? ま、ここは幽霊マンションつって近づくやつなんて一人も居ないけどなあ!」

 

 ぎゃははと嗤う男を他所に、ミナヅキは歯噛みした。

 幽霊マンション。

 思ったより自分は遠くまで来てしまったらしい。確かに壁はほとんどなくあるのは柱くらい。壁という壁のほとんどは作られることなく横は吹き曝しの状態であった。

 閂市の住宅街から離れた場所にあり違法建築やらなにやらで、建築途中で放棄されたといういわくつきの場所だ。台風の時は揺れたりするなどかなり耐久性に問題がある。

 ホームレスの根城としても心もとない上に幽霊が出るという都市伝説もあり、好き好んで近づく馬鹿はそうそういない。

 そのため仮に助けを呼んでも誰かが来る確率は絶望的と言ってもいい。

 

 なるほど目の前にいる馬鹿にとっては格好の隠れ家という訳だ。

 群れないと強がれない、弱い男どもにとっては。

 

「連れて来たぜ」

 

 奥から声がした。関田トオルは振り向き、ミナヅキも奥の方を見るとそこには別の取り巻きに引き連れられた島井の姿があった。

 

「なっ……」

 

 ミナヅキは息をのんだ。

 どうしてこの子がこんな所にいるのだろう、と。顔は擦り傷を作っており明らかに彼らが何かをしたのには間違いない。

 島井をそのままミナヅキのそばまで転がすと関田トオルは近くの取り巻きに「ちゃーんと上手く撮れよぉ」と言って彼の肩をたたいた。

 

 その手にはハンディカムが握られており、これから起こるであろうことを予感させた。

 

「今から、アオハル大会をはじめまーす!」

 

 ハンディカムの録画開始を告げる電子音がして5秒。間をおいて告げられた関田トオルの宣言に、取り巻きたちが「ふぅー!」と品のない歓声を上げる。

 アオハル? 何を言っているんだコイツは。

 

「この企画はぁ、オレたちが恋のキューピットをやるっていう企画でぇす!」

 

 カメラ目線で関田トオルはそう言うとポケットから何かを取り出す。

 それは一枚の紙だった。それを見るや否や島井の顔が蒼白になるのが分かった。

 

「や……やめろ……」

 

 必死に声を上げる彼に関田トオルは島井のすぐそばまで寄って、しゃがみ込み彼の届かない所から紙をひけらかすように見せながら口を開いた。

 

「礼ぐらい言えよ。俺たちがいなけりゃ一生渡すことも伝えることも出来なかったんだから……よォ!」

 

 立ち上がったと同時に勢いよく蹴りを島井の腹に叩き込む。

 鈍い音が響き、「うっ」と島井の潰れた蛙のような声が響くと同時に笑い声が弾けた。

 

「出た! トオルセンパイの必殺キック! ヒーロー気取りの紫忍者野郎のキックの非じゃないぜ!」

 

「やめなさい……! この子は何も関係がないでしょ!」

 

 このような蛮行を見せられてはミナヅキも黙ってはいられない。声を上げるや否や関田トオルは「チッチッ」とわざとらしく指を振った。

 紙は二つに折られていたのかそれを開くと、すぅ、と息を吸い込んでから──読み上げ始めた。

 

「ミナヅキさま。突然このような手紙を送られてきっと驚かれたと思います。けれども1年の頃から貴女のことを見ていました。真面目に委員長としての仕事をしていく所を、一生懸命クラスを引っ張っていっている所を。弓道を頑張っている所を。そんな所を見てから僕は貴女のことが気になってしまい──」

 

 息が詰まった。この手のことにはまったく縁がなかったがラブレターという奴だ。

 わざとらしく、芝居がかった口調でわざと言葉をどもり気味に言っているのはきっと島井の真似事のつもりなのだろう。島井が書いた手紙の内容はさておいて関田トオルが読み上げるのは酷く胸糞悪かった。

 

「やめろ! それ以上言うな!」

 

 一番心苦しいのは島井の方だ。慌てて止めようとするも関田トオルはヘラヘラ笑いながら彼の頭を蹴り飛ばした。

 

「ガっ!?」

 

「うっはきんめええええええええええええええええええッ!」

「オイオイ、いっちょ前に委員長サマにコクってやんの!?」

「やめてやれよ。アイツ必死こいて書いてんだからさぁ。ヒョーカしてやろうぜヒョーカ!」

 

 下品な野次が飛び交う中、島井は必死に悔しさを押しとどめ声もなく泣いている。群がって強くなった気でいる連中よりは島井は人としては好きになれる人種だ。

 無論、ミナヅキにも選ぶ権利があるのだが。

 野次を手で制して再び関田トオルは読み上げ始める。この様子だと全て読み切ってしまうつもりだ。だがそれを止める手立ては……ない。

 

「──あなたのことが好きです。お付き合いしてもらえませんでしょうか? お返事をお待ちしております……ヒュゥゥゥゥ!」

 

 読み切ると、島井の顔が絶望に沈んでいた。

 関田トオルの言うことが本当なら今日明日に渡したりするつもりはなかったのだろう。勝手に盛り上がり島井をバカにする男たちにミナヅキの腹の奥でぐつぐつと黒い炎でナニカが煮え始めるようなものを感じた。

 

 そんな彼女の思いを他所に関田トオルは再びカメラ目線で続けた。

 

「さーて! キモチを伝えた所で晴れて初エッチの時間でぇす! パフパフパフぅーッ!」

 

 ──は? 

 

 煮えたと思ったらミナヅキの頭の中がスッと冷えた。

 今この男は何を言った。今なんと──

 

「恋人どーしがすることつったらエッチだろ!? ってワケでぇ、島井クンとミナヅキちゃんにはエッチしてもらいまぁす! よかったなァ! 島井クン? アイツきっと処女だぜぇ? 何せおカタいとこの育ちだってんだからよォ」

 

 当然望んだ形ではない状況に島井は必死に首を横に振って抵抗していた。

 すると、島井の顎を掴んでからコンクリートの床に叩きつけ、再び彼に蹴りを入れた。

 

「オイオイ、せっかく俺たちがトモダチのために演出してやったってんのになーにそれを無碍にしちゃってるワケ? よくないよなぁ? トモダチの厚意をさぁ? 人として終わってんよぉ」

 

「サイテー!」「ゴミじゃん」と取り巻きがまるで金魚の糞のように追従する。そして島井の手足を縛っていた鎖を取り巻きたちが外し始めた。そして動く気力もなくなった彼を無理やりミナヅキの前に立たせた。

 

 次にと、関田トオルはミナヅキの制服を引きちぎるように──

 

「さぁて。御開帳~ッ!」

 

 ボタンを外し、下着を露わにさせた。キャミソールとブラジャーを引きちぎるように外すと白い乳房が零れ出た。

 

「いやっ! やめてッ!」

 

 必死に抵抗しても力の差は歴然。暴れても拳で返され両足は取り巻きに抑えられた状態で鎖が解かれ、股をむき出しにするように開脚させられる。

 

 ──どうして、どうしてこんな。

 

 まだ家族以外には見せたことのない場所を下品な男たちに見せられている。そしてそれを島井が見下ろす形となっていた。

 こんな男たちの慰み者にされるという事実が情けなくて仕方がなかった。自らの正義がこんな理不尽な暴力に凌辱されるなど。

 

 同時に憎しみが募っていく。

 自分に力があればと、あのノロイ党のような力があれば、と。

 

「ホラ、聞こえるぜ!? 大好きな島井クンにわたしの処女を破ってくださーいってさ! ぎゃははははははっ!」

 

 口にしてもいない言葉でミナヅキの意志を代弁したふりをしている。それに対してまるでうわ言のように呟く島井にミナヅキは諦めと絶望に満ちた表情で見上げていた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 男たちにかちゃかちゃと制服のベルトを外させられている。それをニヤニヤとハンディカムで撮っている取り巻き。

 最早救いなどどこにもなかった。

 

 

 

 そう、どこにも。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイオイオイオイオイオイオイ。何? 面白そうなコトやってんじゃねえか。俺も混ぜてくれよ……」

 

 泥水のような男の声を押し流すような、水のように澄んだ声がした。

 文言はなかなか最低であったが。この場に居るもののほとんどが声のした方を向き、自動的にミナヅキにも見えるようになった。

 そこには──白いシャツの上にカジュアルなベージュのサマージャケットを羽織り、黒いジーパン。そしてややウェーブがかった黒髪の青年がヘラヘラした顔で立っていた。

 

「何だオマエ……関田団にゃいなかったろおっさん」

 

 関田団ってなんだよ。

 まるでいっちょ前のやくざ者みたいな単語に失笑するだけの余裕がミナヅキには戻っていた。なぜならばこの男からは、関田トオルたちにとっては敵であることには違いなかったのだ。

 

「おっさん……はっ、おっさん……おっさんって……23だぞオマエ……」

 

 が、先ほどのおっさん呼ばわりに深く傷ついたのか、ひとり乾いた笑いを浮かべていた。その男は扇子を懐から取り出し、バッと開く。

 扇子にはこう書かれていた。【失礼な!】と

 

「無視してんじゃ……ねぇ!」

 

 青年の一番近くにいた男が真っ先に青年の顔目掛けてパンチすると、綺麗に空を切った。

 

「よっと」

 

「あれっ……」

 

 上体を逸らすだけの最低限な動きでかわしてみせ、その男を素通りした。完全に相手にされていない状況に先頭の男は唖然とするあまりまるでフィギュアのようにその動きを止めた。

 それからというものの取り巻きたちが次々と襲い掛かるが、全て除けていく。まるで幽霊と戦っているような光景だった。

 振るわれたバットは空振り、パンチキックもかすりもしない。

 

 彼の向かった先はハンディカムを握った取り巻きだった。

 ハンディカムをひったくり、周囲の取り巻きたちを撮り始めた。

 

「おーすっげ。最近のは暗いトコでも撮れるんだなぁ。超イイねぇ」

 

「勝手に撮んなよ……返せおっさん!」

 

 流石に持ち物を取られたとなれば我慢が出来なかった取り巻きが、青年からハンディカムを取り返そうと掴みかかったその時だった。

 

「触んなよ……おれはな、おれの邪魔をする男とおくらが嫌いなんだよ……!」

 

 心底。極めて心底、不愉快げな顔で苛立たしげに言いながら男の手を掴む。そして赤子の手でも捻るかのようにそのまま捻り上げた。

 

「あだだだだだだだだだッ!」

 

 限界まで捻り上げた所、足払いで転がされる。

 実力の差というものが素人目でも見て分かった。この男は一体何者なんだ。……というかおくらってなんだ。あの緑色のアレのことか。

 

「おれはな。おくらのネバネバしたような感じが気に食わねえ。あの妙な食感に中に種まで入ってやがる……何の嫌がらせだよ、アレは!」

 

「何わけのわからんことを!」

 

 勝手に一人憤慨する青年にイラつきながら、ぶん、と次の取り巻きがバットで横なぎにフルスイングする。このまま頭に当たれば良くて気絶。最悪死ぬ可能性だってある。──が。

 

「要はおまえらはおれにとってはおくらと同じってことだ」

 

 いつの間にか背後に回った青年が畳んだ扇子で男の後頭部をぺしん、と軽く叩いた。当然、背後に回られたのでバットは空振り。その瞬間はまるでスローモーションのように鮮明でかつ鮮やかな動きだった。

 

「あだっ!」

 

 不意打ちをくらって悶絶する男を素通りしながら扇子を仕舞い、悶絶する取り巻きからバットを奪い取り、ハンディカムからメモリを引き抜き、天井目掛けて放り投げる。そして青年はそのバットで勢いよくフルスイングを叩き込んだ。

 がっしゃあん! とハンディカムが派手に破壊される音が鳴り響いた。そしてバットに弾き飛ばされたハンディカムは壁を作る前に放棄され、むき出しとなっていた外に向かって真っ直ぐ飛んでいってから、夜空の中勢いが死んで重力に従っていき──破壊されたハンディカムがミナヅキの視界から完全に消え失せて数秒後、ぱぁん、と遠くから弾け飛ぶ音が遅れて聞こえた。

 

 後から知ったことだが、今いた場所は5階。最早修復不能なまでに破壊されたのは明白だった。

 

 青年は眼を凝らして壁のないところから覗かせる外の夜空を見渡してから、恍惚とした表情で決めポーズを取った。

 

「キマってんなぁ……おれっ! バッティングセンター明日行くか……ホームラン賞行けるぜっ」

 

「ってめぇ! 人のものを!」

 

 青年はマイペースに自らのバッティングセンスに酔いしれているが、よくよく考えたら真っ直ぐ平行に飛んで行ったので投手に取られてアウトである。

 用意した数万もするであろう産物を破壊された男は逆上して殴りかかるが、当然全て回避。バットを投げ捨ててまた取り出した扇子で頭を小突いた。

 

「5点だ、小童め」

 

 まるでアクション映画でもみているような気分でミナヅキは一方的な喧嘩を見ていた。

 悉く避けてみせ、取り巻きの戦意をごりごりと削っていく。それもほとんど扇子で小突いたりするだけだ。

 時々開く扇子からは【素人】【小童】【遅い!】と色々出てくる。

 

 ──どんな作りなのよその扇子。

 

 ここまでくると最早ギャグだ。

 面白いようにどんどん戦意喪失していく取り巻きに痺れを切らした関田トオルはどこからか銀色に光る何かを取り出した。

 

「お前……調子にのってんじゃねえぞ……!」

 

 ──ナイフ!? 

 

 窮した所で刃物を取り出す関田トオルに恐怖を抱くと同時に背筋が凍った。このままではあの青年が刺されてしまう。

 慌てて危険を知らせようと、ミナヅキが叫ぼうとした矢先だった。

 

「オイオイ、おれは扇子でお前はナイフ。不公平過ぎやしねえか」

 

 パシン、と関田トオルの懐まで飛び込み無造作に手の甲を扇子で叩いた。

 見た目に反してかなり痛いのか、関田トオルは自らの手を抑えて「ぐぅ……っ」とうめき声を上げた。

 

「ま、分かりやすい武器の頼りように振りようだ。得物が泣いてるぜ。……まぁそのしょーもねー性欲と暴力性だけは及第点だな。──2点!」

 

 あまりにもクサい発言をしてから、関田トオルの剥き出しのおでこを扇子で小突いた。

 

「ぎゃっ」

 

 数を使っていきがる男たちを一人で返り討ちにしていくその様はミナヅキとしては痛快極まりない光景であった。

 完全に遊ばれている。当事者である彼らが一番わかっていたのだろう。これ以上殴りかかっても醜態を晒されるだけだ、と。階段に向かって立ち上がりほうほうの身体で逃げながら取り巻き共々集まっていく。

 

「覚えておけよ……このビチグソ野郎が!」

 

 と、言うと関田トオルを筆頭にぞろぞろと幽霊マンションから逃げ出した。分かりやすい悪役の捨て台詞だった。

 

「悪い。野郎の名前、覚えんの苦手なんだ」

 

 そんななけなしの捨て台詞すらも足蹴にしながら青年は追わず扇子でパタパタと自らをあおる。扇子には【実はモー娘。のメンバーも】【ちょっと覚えられない】と書いてあった。

 ……男女関係ないじゃん。

 

 足音が聞こえなくなるまで青年は無言で扇子をパタパタさせながら階段を見つめていた。やっとこさ関田トオルたちがいなくなったと思えたところで青年は踵を返してミナヅキに向かって歩き出した。

 

 何をする気だ。思わず身構えるミナヅキだったが青年は歩きながら口を開く。

 

「ほれ、ガキがうろつく時間じゃねえ。このメモリは好きにしていいから家に帰った帰った」

 

 害意は一切なくミナヅキは脱力した。

 それからの彼の動きは手慣れていた。こういった荒事に慣れ誰かを助け出すことに慣れきっているような。そんな動き。

 ミナヅキの剥き出しの肌には興味を示しておらず、後ろに回っていつの間にか男たちから盗み出していた鍵で鎖を外し、メモリを押し付けるように渡す。

 それから流れるように島井の中途半端に外された拘束も完全に外してしまった。

 

「貴方は一体……」

 

 ミナヅキの質問に答えるより先に青年は幽霊マンションの片隅。つまり壁のない吹き晒しの所まで歩き──「隠れ家には使えねえな」と謎の言葉を溢してからそのまま飛び降りた。

 

「なっ!?」

 

 まさか飛び降り自殺か。

 慌ててミナヅキは服を直しながら追ってビルの下を見下ろすが──青年の姿は影も形も消え失せていた。

 

 ──な、なんなのよ、あいつ……

 

 訳の分からないでたらめな男。そんな感想が浮かぶ。呆気に取られているミナヅキに後からやってきた島井が何かを差し出した。

 

「こっ、これ……あの人が不良とやりあってるときに落としたんですけど」

 

 銀色のポケットに入るようなケース。

 いわゆる名刺入れという奴だ。開くと10枚程度同じ名刺が入っていた。取り出し、その名前を読み上げる。

 

「現世探偵事務所……所長、現世(げんせ)勇深(いさみ)

 

 たった一人であのドス黒い悪意を圧倒的な実力でいなしてみせ、自分たちを救ってみせた。そんな彼の瞳からはひどく燦然とした正義が見えたような、そんな気がした。

 

「現世……勇深……」

 

 反芻するように彼女は呟く。

 この町も捨てた物ではない。そう、ミナヅキは風のように現れては消えた珍妙奇怪かつ胡散臭い私立探偵に思いをはせた。

 変な言動をしていたがきっと素晴らしい人間に違いない、と。

 

 

 その頃のミナヅキはそう信じていた。




 なお理想は裏切られるもの。古事記(平成初期)にもそう書いてある。


:ミナヅキ
 原作ゲーム、超昂閃忍ハルカでも登場していた。
 本作の狂言回しであり突っ込み役。厳格な家庭のもとで育ち規律と正義を重んじる少女であった。
 原作においてはいじめを目撃したことでそれを止めたことにより矛先が彼女に代わり、最終的にレイプされそれを恨みに思った所をノロイ党にスカウトされ、怪忍・鬼門術姫ミナヅキとして私刑をおこなっていた。

 なお今回は何故か幽霊マンションに居た現世勇深の妨害もあり難を逃れる。
 イサミに燦然とした正義を感じているが……?


現世(げんせ)イサミ(勇深)
 何故か幽霊マンションにいた変な人。自称23歳。
 ならず者との交戦中に落とした名刺によると私立探偵をやっているとか。
 身体能力は出鱈目に高く、武器を持ったならずものをほとんど扇子で撃退した。
 嫌いなものは俺の邪魔をする男と、おくらだと豪語している。男の名前とモー娘。のメンバーを覚えるのが苦手。
 後年名を馳せるかの人数がやたら多いアイドルグループに関しては余計に覚えられず発狂寸前にまで追い込まれたとか何とか。

 今生→現世 同じ「この世」という意味も持つ。
 いさみち→いさみ 


:島井
 ミナヅキのクラスメイトであり、関田トオルに金蔓にされていた。
 彼らに根性焼きをされており、素肌を隠している。
 実はミナヅキに好意を寄せていたが、完膚なきにまでその好意を凌辱される。


:関田トオル
 閂市でも屈指の悪質な男でありミナヅキとは実は同年代。
 薬物、飲酒、喫煙、暴力、強姦などなど悪事のサラダボウルみたいな男。イサミにプライドをズタボロにされる。




 幽霊マンションのモチーフは仮面ライダー(初代)のロケ地として使用されたお化けマンションから。

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