【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】 作:ヌオー来訪者
彼女がちょっとだけ出ます。原作だと中盤からの参戦のせいもあって不遇だけどすこなんだ
それとすごく今更なのですが真太郎の名前の誤認は地の文だと混乱を招くので正しい表記とさせていただきます
「応えよ──応えよ、無限央に集いし四道の者よ」
水の中に黒い泥を混ぜ込んだような、ノロイの瘴気に満ちたどんよりとした空間に低い声が響き渡る。
床は無数の石畳で敷き詰められており、少し目を凝らして左右をみると白亜の壁にステンドグラスの窓。
正面の奥には白く洋風の館が待ち構えている。
天井は壁のステンドグラスとはくらべものにはならないほど大きなソレで覆われており、幻想的な光景に反して強い瘴気が、『まともな人間が存在してはいけない空間』であることを雄弁に物語っていた。
ここは無限央。
ノロイ党の本拠地たる閂市であって閂市ではない場所。無限城の最深部。組織においても強き存在が出入りを許される場所である。
どこからともなく響き渡る声に応えるように、二人の男性の声が返ってくる。
「鋼一刀、ここに」
「大蛇丸、いるぜ」
ずるり……とまるで虚無の空間から引きずり現れるように一人は栗色の長い髪を後ろ一つに纏めた、まるで式典か政に赴くようなしっかりとした着物姿の青年。目は開いているのか閉じているのか分からないほどに細く、腰には2本の日本刀が提げられている。
一言で言い表すならサムライだ。このサムライは鋼一刀、と名乗った。
もう一人横に同様の流れで現れたのは、鋼一刀とはまるで正反対な風貌の青年であった。
浪人かごろつきか。目は釣り目で右目が眼帯で隠れている、最早右の目はきっと目としての機能が果たせなくなっているのだろう。
整えられていない長い金髪は左右は肩までバラバラに伸びており、一番長い真後ろの髪は腰まで伸びていた。
着物を独自にカスタマイズしたような衣装で、むき出しの肩と胸元からは引き締まった筋肉に刻まれた入れ墨が覗かせる。
このごろつきは大蛇丸、と名乗った。
年齢は近いだろうにここまで違う雰囲気を持つ二名の前に最後に。彼らを呼び掛けた者が黒々とした虚無の空間からずるりと現れる。
今度は老人であった。彼もまた着物姿であったがサムライというよりは文化人の類の出で立ちだ。しかしながらこの男、後ろから長い日本刀で胸を貫かれたままであり、血は着物にこびり付いて乾ききっている。まるで何年もその刀に貫かれたままであるかのように──。
黒目が失われまるで死人のような白き双眸を持ち、目元から血の涙の跡が深々と刻み込まれている。この男こそノロイ党の党首だ。
先の2名とはまるでくらべものにはならない程の人外が重い口を開いた。
「二人とも、現の様子は見ておるか?」
「上弦衆のことか」
鋼一刀が返した言葉で老人はこくりと頷く。しかしその口から出たものはただそれだけのものではなかった。
「深紫の忍びのことも、だ。例のハルカという閃忍に匹敵する力を持つ存在よ」
深紫の忍び。
それは突如として現れた謎の戦士。上弦衆に加担し、通常兵器で倒せないはずのゲニンをいとも簡単に始末して見せ、果ては怪忍とも渡り合える。
現代の人間がそこまでの技術とからくりを作り上げたという話はからっきし存在しない以上まるで謎が多い。
「例の化身忍者ってヤツじゃねぇのか? 協力者連中が寄越した文献に書いてあったってんだろ?」
「幕府の時代に現れた化身忍者か……」
大蛇丸の指摘に、老人が回顧する。
ノロイ党が2008年に時渡りで戦国の世から旅立った後に、江戸時代に忍者集団による内乱があったという話がある。化身忍者と呼ばれる改造人間による争いが。
あの深紫の忍びは上弦衆が擁する閃忍というよりは確かに、化身忍者寄りともいえる。
無論時渡りをしたタイミングがタイミングだったのでこの場にいる3人ともこの目で見てはいないのだが。
「まぁ、誰であれ蹴散らせばいい……!」
大蛇丸のノロイ党1,2を争う勇ましさは長所でもあり短所でもある。何せ今ノロイ党に置かれている状況はあまり芳しくはない。そのこともあり老人は手で制した。
「落ち着け大蛇丸。まだ奴らが施した封印が効いておる。一度で倒せるのならばよいが、仮に長引けばいたずらに要らぬ犠牲を増やすこととなる」
この閂市には数百年の時を経て構築された封印が成されている。そのせいで大蛇丸も鋼一刀も十全な力を出すことは叶わない。
特に消耗戦となればじわじわとなぶり殺しにされるのは眼に見えている。
「じゃあどうしろってんだ。厄介な連中が増えたってのにこのまま指でも咥えてろってのか」
事実、何もしなくても放っておけば閃忍は強化されていくし深紫の忍びに好き勝手させる時間がいたずらに増えるだけのことだ。
特にそうされることが大蛇丸にとっては堪え買い屈辱でもあった。
「大蛇丸よ。先日、
が、老人は落ち着き払った様子で大蛇丸に言葉を投げかける。大蛇丸が首をひねる一方鋼一刀は何かを察したのか黙して頷いていた。
鋼一刀は副党首、もっとも老人の意志を理解している者なのだ。要領を得ない大蛇丸に老人は解説を始める。
「封印を弱めるのじゃ。上弦の封印は幾星霜重ねた術の他に地を走る力の線。言わば龍脈の力を借りておる。その上に四道の城を穿ち、龍脈の力を滞らせる事により封印を弱めるのじゃ」
ノロイ党は本来多少の封印の中だろうとも圧殺できるほどの戦力は持っていた。しかし現状のように後手に回り切っている原因はその龍脈の力が大きい。
龍脈の力でブーストがかっている封印により、ノロイの力を受けた者がこの城の瘴気に満たされた空間から離れると、封印の力で存在の拒絶反応が起こり堪え難い激痛を引き起こす。
そんな封印を弱らせてしまえば一転攻勢。フルの戦力で一気に攻め立て閂市ごときの制圧は容易いものだ。
特にこの時代は封印がなければ人口が多いが故に戦国時代以上に悪意と瘴気に満ちている。ノロイの力を受けたものは戦国時代の比ではないほどの力が得られることだろう。
そしてこの方法ならば時間がかかればかかるほど封印は弱まり上弦衆はじり貧になっていく。あとは──
「さて大蛇丸。お前にはこれを与える」
老人は無造作に懐から取り出した二つのナニカを大蛇丸に投げつける。老人の予想外の行動に危うく落としそうになりながらもキャッチした大蛇丸はまじまじとその二つを見た。
「印籠に瓢箪だと? 一体こりゃなんだ」
一つは手のひらサイズに収まる小さく黒い印籠だった。梵字を思わせるノロイ党の紋章が刻まれており黒々とした靄をわずかに放っていた。
もう一つは──銅色の瓢箪。酒でも飲めというのかと大蛇丸の神経が苛立ちかけたが、どうにもただの瓢箪ではないらしい。
瓢箪にはからくりのような装置が付いていた。
「その印籠はノロイの力を借りて生みし外法印。封印の苦痛よりある程度お前を護る」
「ハッ、大したモンじゃねえか。でもよ、こんな便利なモンがあるなら最初から全員でこれ持って攻めに行けばいいじゃねえかよ」
愉快げに大蛇丸は指先で印籠をはじきながら突っ込む。
事実。この外法印を量産してしまえばノロイ党は現代の瘴気を十分に取り入れ閃忍や深紫の忍びはあっと言う間に始末できたはずだ。
至極真っ当な大蛇丸の突っ込みに対し、老人は首をゆっくりと横に振った。
「この外法印を生むには強い力を要する。今のノロイの力では1つ生み落とすが限界。そして上弦衆の封印は力の強い者により強く働く。現状ではお主よりほかに適任な者はおらぬ」
聞こえはいい。事実たった一つの貴重なリソースを大蛇丸に託すというのだ。それだけでいえば大役だ。しかしながら大蛇丸は面白くなさげにつま先で床を蹴った。
「オレがアンタらより弱いからってか。素直になれねえ理由だな」
大蛇丸より強い者は目と鼻の先にいる鋼一刀で、実力はこのノロイ党でもずば抜けて高い。そしてここにいる老人もまたかなりノロイの力を多く受けた者であり外見とは裏腹に尋常ではない力を持つ。暗にお前がこの中で一番弱いなんてことを言われて面白いはずがない。
「じゃが、責務は重大じゃ。必ずや、守り切るのじゃぞ」
言いくるめられたような気がしなくもない。が、同時に戦ってよいというゴーサインが出たも同然。
格下扱いされたことによる屈辱以上に戦国の世でやり残した決着がつけられるという事実が大蛇丸の心を奮い立たせた。
「……任せな。今度こそあのくノ一……ハルカを深紫の忍びごと地につけてやる」
「大蛇丸。敵を倒すのではなく勝つことが我らの目的だ。くれぐれも先走ることなく城を護れ」
湧いてきた所で即冷や水をぶちまけられた気分だ。
心底、心底不承不承な態度で頷いた。ここで逆らっても何もいいことがないのは彼自身一番理解をしているからだ。理屈では理解しているが心は納得していない。荒ぶる心を大蛇丸自身の理性が宥めながら、意識を別のものに向けた。……そう、印籠ごと渡された機械仕掛けの瓢箪だ。
「分かってる……でよ、このふざけた瓢箪はなんだ……まさか」
大蛇丸は訝しげに持たされた銅色の瓢箪をまじまじと観察する。ただでさえ面白くない状況をさらに面白くなくしているのはこの得体の知れない瓢箪だ。
深紫の忍びが持っていたモノと形状が瓜二つのそれはうっすらと大蛇丸に心当たりというものを持たせた。
「それは切り札じゃ。とある協力者から借り受けた化身の瓢箪──深紫の忍びと同質の力を持つ」
深紫の忍び。敵と同質の力だという事実は余計に大蛇丸から戦いに対する面白味を奪った。これは罠ではないか、と。
「オイオイ、そのとある協力者ってこっちに情報を寄越した……」
「そうじゃ。歴史の観測者──あやつはそう名乗ったが……安心せい──調べたが純粋な
老人は悪意からこれを渡してきたわけではないのは大蛇丸でも分かる。特にこの無限央に招かれてかつノロイ党の存亡にかかわる大役を任されている以上、自ら首を絞める真似などするわけがない。戦国の世でよく見た餓えた獣のような連中とノロイ党は違うのだ。
しかしながらあの深紫の忍びと同じ力なのが気に食わなかった。
「ケッ、外法印はさておいてこんな得体の知れないモン使えるかよ!」
「まぁ持っておけ。その力は
「こちら側……だと。チッ、仕方ねえ。その言葉信じるぜ」
宥めるような老人の物言いに大蛇丸は舌打ちしながら大人しく瓢箪を懐に収めた。
これ以上の問答は無意味だと悟ったのか大蛇丸がそのまま城の守りのために無限央から消え失せると、老人は大きくため息を吐いた。
言わずもがな、暴れん坊の大蛇丸のことだ。彼を御するのは骨が折れる。
鋼一刀もまた、そのため息を肯定するように口を開いた。
「大蛇丸は勝敗への拘りが強すぎる。実戦経験が不足しているとはいえ、あの瓢箪の力とノロイの力が合わさればあの二人を跳ね除けることは容易いが……」
大蛇丸の才覚はずば抜けている。それゆえに四道封者、つまり上級クラスの存在として君臨することができるのだ。何も侮っているわけではない。
それに結界の影響を受けない瓢箪の力と、ノロイの力、そして大蛇丸の才能。
この3つの力が合わされば閃忍だろうが、深紫の忍びだろうが容易く蹴散らすことは出来るだろう。……そう老人は踏んでいた。大蛇丸が──余計なこだわりを捨てさえすれば、だが。
「我もお主も封印の影響も免れん。あの瓢箪の底力も見定め、二の手、三の手も考えておかねばならん」
老人としては出来る手を出来る限り打っておきたかった。
事実、帰る場所がない上に決して折れてはならない誓いがこの老人の胸を貫く刀にはあった。
決して負けられない戦いがノロイ党にはあった。
これから先、もし大蛇丸が負けたとしたら?
次の手ごまを用意しなくてはならないのだ。協力者とはいうが歴史の観測者を名乗るあの男はいまいち信用できない。
あの瓢箪は大蛇丸を貶める罠こそ込められていないようだが、力の程は未知数。その力がもしノロイ党にとって絶大なものならば、鋼一刀に託すのもやぶさかではない、と老人は思索する。
「二の手、か。例のくノ一は折れたのか?」
思い出したように鋼一刀は少し前に捕らえたくノ一のことを思い出す。
拷問並びにあれやこれやと策を老人が弄していたがそれ以降どうなったのかは知らない。
「どれ、覗いてみるか」
すっ、と老人が細く朽ちかけたような腕を上げ、そのぼろぼろの爪で空中に円を描く。すると、まるで切り抜いた穴のように景色と違う画が移り始めてじわりと広がった。
その先には──文字通り魑魅魍魎跋扈する地獄同然の世界の中心で、青みがかった黒く長い髪を一本に束ねた女がそこにいた。
本来ならば艶やかに手入れされた髪も長らく放置されたせいか痛んでおり、身を包む服──忍者装束だったそれも最早装束としての体をなしていないほどにズタボロで、隠さなくてはならない部位もむき出しの状態だ。
そして肢体には見るのも憚られるほどの体液に塗れており、彼女をそうさせたのは魑魅魍魎たちであった。
凡そ人とは言えないそれらは、その大木のような腕で蹂躙し彼女を辱めていた。
「うわああっ、やめろ……やめろッ!」
始まってどれだけの時間が経ったのだろうか。
女としても戦士としても辱められても尚も折れずにいる彼女。その名はスバル。閃忍ハルカのかつての仲間である――
「あの閃忍。まだ堕ちぬか……」
驚異的な精神力だ。老人は自らの顎に手を当て考え込む。
捕らえてからというもの絶え間なく凌辱を繰り返していたというのに抵抗を続けている。その事実は鋼一刀すらも唸らせる。
「スバルとやら、思った以上に強き心を持っていたようだな」
「肉の悦びは染みつききっておるようじゃがの……どうにもなかなか心の底が折れぬ」
それでも根本的な何かが折れないのは、戦国の世に残した過去の頭領に対しての忠か、それとも仲間への情か。
とはいえど彼女が折れるのも時間の問題だろう。
彼女の苦悶の入り混じった嬌声を耳にしながら老人はフン、と嗤った。
◆◆◆◆◆◆
基本的に頭領とは言っても戦部鷹丸の役割は龍輪功だ。つまり……そういうことだ。
多少武術が出来ても的確な指揮や組織のことについてはアキラの方が明るいのでそれ以外タカマルの出る幕は無い。
その点で言えば真太郎が羨ましく思えた。何せ前線で直接的に支えることができるのだから。
もしあの深紫の忍びが真太郎なのだとしたら、許されるのならば何処からその力を手に入れたのか聞いてみたいぐらいだ。
一応上弦衆のごく一部。つまり正体について真太郎を拷問にかけてでも吐かせるべきだという意見もあったが流石にこればかりは頭領権限で封殺した。この拷問を提案したのはどうも斉藤家をあまり良く思っていなかったかららしい。
アキラの言う通りドライというか冷酷な言い方をしてしまえばこのまま放置しておけば勝手に戦ってくれるし、こっちの都合も何故か察知してくれる都合のいいNPCみたいなものだ。
ハルカも守ってくれるし、人を助けてもくれる。これだけならばただの善人。変貌前を知らない、もしくは会ってないタカマルにはありがたい存在である。
勿論タカマル自身、かなり大切なポジションにいるのは理解しているつもりだ。けれどもやはり人間という生き物は実感を欲しがるものだ。
ハルカの隣に立てたなら。閃忍候補のナリカもこれからも戦わずに済むだろうし、ハルカの負担も減る。
ないものねだりのたらればはただただ、タカマルの心を擦り減らすだけだ。
もちろんそんな擦り減らしていることは彼女らには悟られたくはない。
だから一人で、散歩をしたくなる時がある。……あともうキノコ料理はもう懲り懲りだし。
特別何かを期待して歩いているわけではない。特別何かを目的としているわけではない。
強いて言うならセンチメンタルのあとしまつだ。
とは言っても……
「今日は風が強いな……」
音を立てて唸る風が色んなものを運んでくる。
砂、空き缶、木の葉、果ては新聞紙。
「わぷっ」
新聞紙がタカマルの顔面に直撃し、視界がブラックアウトする。
慌てて剥がした所で視界に飛び込んできたものは深紫の忍びがゲニンを一刀両断している写真と、『ダブルニンジャ! またも怪人を撃退!』というデカデカとした見出しだった。
ノロイ党は負念を糧とする。その点で言えば人の不安を吹き飛ばすには充分過ぎるニュースだ。
新聞紙をくずかごに丸めながらくず籠を探そうと顔を上げる。すると目の前には短い黒髪をアップハングにしたスーツ姿の男が酷く間抜け面でタカマルを見ていた。
「あれ、戦部くん?」
「
改め斉藤真太郎。
出会って早々何故か調子が狂う。
不思議と言われたら確かに不思議ではあるが、やはりアキラが言うような雰囲気はなかった。
「あのぉ……斉藤です」
◆◆◆◆◆
ばすん、ばすん、と鈍い音が幾度となくこの室内に響き渡る。
同時に白いボールが壁へと飛んでいき、ぶつかっていく。
それを見ながら真太郎とタカマルは隣接したボックスに入り、壁際から射出されるボールをバットでひたすら打ち返す。
バッティングセンターで二人にできることはそれくらいだ。
「────────?」
「今なんて言いました!?」
真太郎の声がバットとボールの音でかき消され、タカマルは聞き返す。すると、真太郎の打球がホームランパネルスレスレの所で壁にぶつかった。
今度は聞き取りやすいような声で真太郎は言葉を投げかける。
「こんな一人でふらついてて大丈夫なのかって。鷹守さんは?」
「一応隠れて護衛がいるらしいんで大丈夫。ハルカさんはトレーニング中、それに時々こうして一人になりたいときもあるし」
「……それは──ごめん、悪いことした」
真太郎が慌てて、構えていたバットを降ろし帰り支度に入ろうとする。
そういうところはやたら気を遣う男だ。そこが彼のいいところでもあり悪いところでもある。
人の金で焼肉を喜んで食えないタイプだ。その心情は分からなくもないがタカマルとは違うタイプだ。
食えるなら食うタイプであるタカマルとは。
「あぁいいって……誘ったの俺だし。ちょっと話がしたかったから」
「話ぃ?」
話。素っ頓狂な声と共に真太郎のバッティングが疎かになり、振ったバットが悉く空振りしていく。タカマルもまるで当たらなくなっていく。
バットが空を切る音と、飛んでくるボールが打ち返されずネットにぶつかる音。遠巻きに聞こえる打球音だけが聞こえる。
「この仕事をどうして始めたのかなって」
「あー、それ聞くのか」
少しずるい質問だ。
もし突如として成り代わったのならばこの質問に窮してしまうのは確実だ。真太郎を困らせたかったとかそのようなことではなく、アキラの言っていた人でなしの方の真太郎typeAではなく、今この瞬間ここにいる真太郎typeBの人となりがもう少し知りたかった。
根拠なしでできれば信じたかったが、アキラの話もあって不気味な異星人のようにも思えてしまう。そんな中で真太郎は困り切った顔でへらっと笑う。
「俺も分からん。ほら、家族の敷いたレールの上でってヤツだ」
フィクションでも現実でも存外よくあることだ。もちろん何かをしたいという欲望がある人間からすればうざったいことこの上ないが特に夢もない人間からすればきっと楽な状況だ。ならば猶の事──
「わざわざこうして最前線で働くことはなかったんじゃないかって」
すらすらと意地の悪い言葉が喉奥から出てくる自分自身に少しタカマルは困惑しながらも言葉を続ける。
──俺って案外、性格悪いのかもなぁ
自己嫌悪のまま振るわれるバットは見事に空振りを繰り返す。ラッキーパンチで当たったボールは正面にぼてぼてと転がりピッチャーゴロレベルのものしか打てずにいる。それは真太郎も同じだった。
「かもな。特に何も考えてなかったのかもしんない。でも──やめるつもりもない」
「どうして?」
「……今この瞬間、何かが出来るのに何もしなかったらきっと胸糞悪い人生を送ることになる。そんな気がして。なんかごめん、ふわっとした返事しかできない」
真太郎は少し苦々しいような顔持ちで、飛んできたボールを打ち返す。久々に打った球はホームランパネルから程遠い場所にぶつかった。
落ちて転がり行くボールを見送りながらタカマルは小さく言葉を返す。
「いや、いい。聞いてみたかっただけなんだ」
戦部鷹丸は一般人であった。閂市という宇宙人に襲われたことがあるくらいでナニカ特別なことはないはずの町で育ち、ナリカとつるんだりして比較的平凡な日常を過ごしてきた。
それをノロイ党と上弦衆の数百年に渡る争いの巻き添えをもらってぶち壊しにされている。
「俺も、こうしてここにいるのって
もちろんそうなること前提で下準備はされていたらしく自分の住んでいたアパートが上弦衆の息がかかっていたりと戦部鷹丸という存在を確保しやすいように事前準備されているようだった。閃忍に力を与えられる龍の者として。次期頭領として。
……拒否権はあった。
なにせ自分は関係ない、理不尽に巻き込まれただけだ、と。ポンと与えられた頭領としての権力はそうするだけの力はあった。けれども──
今この瞬間、タカマルはここにいる。
頭領として、龍の者として。ノロイ党と戦うために上弦衆にいる。
「戦部くんは嫌だと思ったのか?」
真太郎の問いにふと、ハルカの後ろ姿が過る。
ほんの一瞬の沈黙がただひたすらに永遠に思えた。ハルカの後ろ姿が靄と共に消えるとともにタカマルは首を横に振って返した。
すると真太郎はちょっとうれしそうな顔をする。しかしそれは一瞬で曇る。
「そっか、俺は……どうなんだろうな。その時何を考え俺はレールの上に乗ったのか。……俺は俺が分からん。きっと何も考えてなかったんだろうな」
「……なんか宇宙人でもとりついてるみたいな言い方」
反射的にそんな感想が出てしまった。
まるで心と体が乖離したような物言いはタカマルの疑念を確信へと変えていく。あぁ、アキラの知る彼と自分の知る彼は別人なんだ、と。
けれどもタカマルが知る真太郎はtypeBの方しか知らないわけで。
真太郎は少しバットを降ろす。
「宇宙人、か………………」
思いのほか深刻に考え始めているようでタカマルはどう反応すればいいか分からなくなっていた。
「あぁ、別に言葉の綾だよ。そこまで深刻にならなくても」
こういう時取り繕った言葉が出せない自分が嫌になる。
タカマルは慌てて取り繕おうとしたものの、真太郎にはこの質問そのものの打ちどころがかなり悪かったらしく元通りになる様子は見受けられない。視線はホームランパネルに行っていたがその実心ここにあらずと言わんばかりに何か考え込んでいる様子だった。
あれやこれやと声をかけても生返事。何気なく吐いた一言が最悪のクリティカルヒットをかましてしまった事実にタカマルは黙り込むほかなかった。
◆◆◆◆◆
微妙な空気のまま結局バッティングセンターの残りゲームは全て使い切ってしまった。お互い言葉なく打席から出ていく様子は周囲からどう見られていただろうか、なんてことを想いながら店から出て、タカマルはどんよりとした空気感を入れ替えようと外の空気をいっぱいに吸い込む。
このまま解散しようにも真太郎は相変わらず何かを考え込んでいる様子で声をかけにくい。
惰性でとぼとぼ町中を歩いていく。
すれ違う人々はいろんな顔をしていて、仕事に追われる者もいれば、今日の夕飯に頭を悩ませる主婦、部活動の愚痴を吐く学生たち。
目の前にいる男にはこの町がどのように見えていて、深紫の忍びとして戦っているのだろう。ふと道行く人と肩がぶつかって謝る彼を横目にタカマルは思う。
疑えば幾らでも疑える。
宇宙人が寄生して品行方正になりましたなどという荒唐無稽な可能性も出そうと思えば幾らでも出せる訳で。
洗脳が得意な宇宙人自体は実在する*1以上まぁ有り得なくもないのだが、ここで疑ってもしょうがないとも言える。
それに──深紫の忍びであることを隠してハルカを、上弦衆の皆を助けることにメリットなんてない。急に禄でもないヤツがいいヤツになって騙すメリットも意味もどこにある。もし自分が悪党だったらこんな不器用な真似はしない。
事情は間違いなく腐るほどあるだろうし隠し事もきっと数えきれないくらいにあるはずだ。
世界の異変と彼がどういう関係があるのかもまだはっきりしていない現状、彼が不気味な存在となっているのもまた否定できない事実。
けれども──
「工藤さんは自分が分からない。そう言ってたけど……」
急な切り出しに驚いたのか真太郎は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら我に返る。それにタカマルは思い思いの言葉を紡ぐ。
「少なくとも俺にとってはすごく陳腐な言い方だけど、いい人だって思ってる。ハルカさんと同じように、多分人を助けることに理由なんていらないんだ、きっと」
「それは買い被り過ぎだ。俺はいい人なんかじゃない」
真太郎は苦い顔で手をひらひらさせる。
謙虚通り越して卑屈だ、と真太郎の反応を内心評した。その卑屈さが自らを深紫の忍びであることを隠しているのか、それとも──
「でも──ありがとう」
どういう思いをしているのかは分からないが、子供のようなくしゃっとした笑みを浮かべて真太郎はそう言った。
エロゲ主人公の男に攻略されかける男。斉藤真太郎。
女の子差し置いて何をやっているのか。
typeAやらtypeBの話もありますが過去の意思は以下略なので有耶無耶にはしません
あのフレーズはとある最高最善の魔王にとって救いの言葉でしたけど、真太郎typeB(イッチ)にとっては……
次回:【誰だ】知らんライダーが出てきた【お前は】