【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】 作:ヌオー来訪者
その素顔を隠すためのシノビの仮面はその様相を変えず、代わりにその手に握りしめられた刀身が感情を雄弁に物語っていた。
かたかた、かたかた。と音を立てている。
怯えているのだ。
何に?
言うまでもない。
眼前にいる大蛇丸を手裏剣で刺した女、スバルだ。
その横乳やら太腿やらが剝き出しの際どい衣装は少しばかり目に毒であったが、今この瞬間気にしているほどの余裕が今のシノビにはない。
何故こんなにも怯えているのか。その理由は二つ。
一つは、この女から発せられる黒い瘴気のようなものだった。
それは人ならざるものが発するソレに近い。その上大蛇丸から発せられた邪気以上におぞましいナニカを感じる。
自らそれを認識しようとすると肌がげっそりするような、何か吸い取られていくような感覚がシノビを苛むのだ。
二つはこの女そのものが放つ戦士としての威圧感──
これまで倒した敵とは比べ物にはならない。まるで親を前にした無力な子供のように。畏怖がシノビの頭からつま先まで徐々に蝕んでいく。
気づけば後ずさりそうになっている自分を叱咤しながら、シノビはブレードを構える。
「忍びさん、武器を下ろしてください。彼女は敵ではありません」
そんな不穏当なシノビの構えに何かを想ったのかハルカが手で制する。だがシノビはその言葉一つで武器を下ろせるような状態ではなかった。
凡そ味方とは到底思えなかったのだ。こいつは形容するならばヒトの形をした──化け物だ。
「彼女はスバル──私の友人であり、上弦流の閃忍です」
「…………」
とうに知っている。何せ中の人こと真太郎もちょいちょい
この女は予め情報は掴んでいた。だが情報通りならば今この瞬間の彼女は──敵だ。
「スバル……よく無事で」
ハルカは今にも泣きだしそうな声で眼前の女の名を呼ぶ。
ほぼ生存が絶望視されていた友が生きていたのだ。喜ばないわけがないのだ。だがハルカがゆっくりと彼女に近づいていく。まるで光りに誘われる蛾のように。
そしてスバルがゆらりと地面を蹴り、携えた忍者刀・
「──ほう、深紫の忍び。気づいていたのか」
間一髪。割って入ったシノビがシノビブレードでハルカの喉元目掛けたその一撃を防ぐ。
ちゃりん、と刀身と刀身が触れ合った刹那、衝撃が刀身から腕へ、そして体へと奔り。仮面の下で真太郎は苦痛のあまり目を見開いた。
一撃が重い。重戦車の砲撃のような一撃がシノビの足元をぐらつかせる。
──同じ忍者刀なのに……重いッ!?
これまでの相手ならば抜け道のようなものが確かにあった。大蛇丸だってそうだ。しかし今回の相手はこれまでと比べるのも烏滸がましいほどに──どうしようもないレベルの実力の差を感じさせられた。
そんなシノビの内面を見透かしたかのようにスバルが鼻で笑う。
「なんだそれは。怯えているのか?」
「ぬかせ……ッ」
なけなしの勇気を振り絞り押し出す。
一旦距離を取れ、否、逃げろ──本能が警鐘を鳴らす。
今の俺たちでは勝てない、と。本能もこの先の未来を知る集合知識共もそう言っているのだ。
シノビとハルカが置かれている状況はいわゆる負けイベントだ。そして本来あるべき歴史において間一髪で撤退に成功するのだという。
だが未来は確定ではない。
既に仮面ライダーというものが、そして何者かの見えざる手が介入した以上それが揺らいでいる。俗にいう『この世界は滅びたがっている』という奴だ。
鍔迫り合いの勝敗は──最早語るまい。
シノビブレードを跳ね上げられたシノビはノーガード状態となり、スバルが目にもとまらぬ斬撃でシノビの装甲を削り取る。
火花が血しぶきのように飛び散り、重く力強い一閃はシノビの体を跳ね飛ばす。
その吹っ飛びすらも、スバルから離れられるという事実だけでも救いのように思えた。ハルカの足元まで転がると慌ててハルカが信じられないような目でスバルを見た。
「スバル……今の攻撃、まさか本気で」
「冗談に見えるか?」
くつくつと嗤うスバル。少なくともシノビには冗談には見えなかった。
先ほどの太刀筋はアーマーが無ければ四肢を八つ裂きにされて達磨にされてデッドエンドだった。というか生身だったら5回くらいは殺されている。あわや草加雅人が辿る運命を再現するところだった。
それに問題はそれだけではない。大蛇丸から奪ったはずの外法印が先ほどまで持っていたはずなのに手元から消え失せていた。
「これは返してもらうぞ」
「外法印っ!?」
代わりに──スバルの手元に失ったはずのソレが握りしめられていた。おもむろに腰に縛り付けほくそ笑む。奴もノロイ党なら何かしらのデバフがかかっていたはずだ。それなのに直近の斬撃を考えると泣きっ面に蜂と言ってもいいほどの状況だった。
流石にこの最悪と言ってもいい状況を理解したのかハルカの目は瞬時に敵と相対するときの眼つきに変わる。
「何故なのスバル? 何故私たちに刃を向けるの……!?」
とはいえどその問いかけは現実を受け入れ切れていないのは明白であった。
それがシノビをわずかに苛立たせる。
シノビ──斉藤真太郎にとってはあくまで無関係な第三者で、ハルカにとっては大切な仲間。
無意識下で根付いた認識の違いがすれ違いを起こしている。
──馬鹿野郎が。
だが、それはハルカに向けた言葉なんかじゃない。一瞬でも苛立った己自身だ。
今この瞬間起きている出来事はゲームの中の出来事でも歴史のシミュレーションなんかでもない。現実なのだ。
「ぐ……ぅ」
先程不意打ちを食らって地に伏せた大蛇丸からうめき声が聞こえてくる。
まるで這い上がる亡者のように顔を上げ、目の前の現実を受け止めきれていないハルカに非情な現実を突きつける。
「分からねえのか……! こいつはノロイの力に魅入られた。寝返ったんだよ……!」
「そんな……う、嘘です! スバルが上弦衆を裏切るなんて!」
曰く、スバルは任務に忠実で真面目な女であり一流の閃忍だったと言う。
多分剣崎一真が橘朔也に裏切られた時の衝撃に近いものだ。だが現実刃を向けている上にその向けられている殺意は本物のそれだ。
もし演技だとしたら大した役者である。
「いや、そいつの言ったことは事実だ。私は上弦衆を捨てた。今の私はノロイ党・新四道封者──スバルだ」
「スバル……どうして……どうしてノロイ党なんか……」
絶望に蝕まれている表情を見せるハルカを面白がったのか、悦に浸ったように顔が歪む。
「どうしてだと? 全てお前のせいさ」
「私?」
呆気にとられるハルカにスバルは滔々と言葉を連ねていく。それは憎しみの篭った恨み言だ。
「過去の時代深手を負い、時渡りで一人置き去りにされた私がどうなったと思う? 来る日も来る日も……いや、昼夜の区別など分からなかった。醜悪な魑魅魍魎の悦楽のため──眠る間もなく繰り返し四肢は嬲られ、犯され、精を吐き出され。やがて凌辱の波間に浮かんだのがお前の顔だ」
想像するのも憚られる程の地獄だったという。
現実として考えても見るがいい、この世のものとは思えない異形の化け物に体を穢され続けることを。異性であるシノビすらも想像しただけで背筋が凍りそうだった。
「何故私がこんな目にあったのか、全て私を置いていったお前のせいだ。無謀な任務を課した上弦衆のせいなのだよ! ──だから私は決めたのさ、ノロイより力を得、お前たちと上弦衆を敗北で貫いてやるとな」
雹を一振りし、切っ先をハルカとシノビへと向ける。
その明確な敵意は徐々に迫るようで足の運びは明らかに大蛇丸の方へと向かっていた。ハルカを動揺させてその隙に何かをするつもりだ。
──まさかこいつ
この後シノビの危惧が的中することとなる。
「信じようが信じなかろうが、私がノロイ党という事実は変わらない。大蛇丸、これは返してもらうぞ。敗北者には必要ないものだ」
スバルの狙いは大蛇丸が持つ変身瓢箪だ。今の奴にあんなものを与えようならば今度こそこの世界は終わる。恐怖という名の逡巡を振り払いシノビが震える脚と腕を捻じ伏せ地面を蹴る。速駆けで1秒もせずにスバルに詰め寄りシノビブレードを振りかざす。
「さぁせるかっ!」
「むっ!?」
まさかシノビがここまで食い下がってくるとは思わなかったのだろう。一瞬だけスバルの妖艶な貌に皺が寄った。シノビが放った一撃は敢えなくかわされ、2撃目はあっさりと雹の刀身で受け止められた。
「そいつを…………その力を……『仮面ライダー』をお前らに渡すわけにはいかない……ッ!」
「その及び腰でか!」
鼻で笑うを通り越して声が完全に嗤っていた。
当然だ、RPGで言うならレベル5程度がレベル50に挑むようなもの。それも結果も見えているような状況に関わらずだ。
「るせぇっ!」
一喝で返そうがその叫びは虚しく夜空に消えていく。そんな道化を余所にスバルの視線がシノビの腹部に移った。
「聞けばお前も化身忍者と同じ力を持つ者と聞く。その力も貰うぞ!」
「渡すものかよ!」
せめて大蛇丸から変身瓢箪を取り上げてハルカ共々逃げなければ。
そんな一心で大蛇丸に意識が向いたのをスバルという手練れが逃すことはなかった。一度崩されればあとは流されるだけ。スバルの情け容赦ない乱撃がシノビの装甲をゴリゴリと削り斬る。
「ハハハハハハ! そらそらそらそら!」
「ぐぅっ!?」
──まだだ。
転がるように距離をとり、影分身の印を結ぶ。
すると瞬時にシノビの姿が増え、影分身の幻影共々シノビたちが各々出鱈目な動きを始めスバルの意識を欺き始める。カードをシャッフルするように動き回る。
流石に大蛇丸を欺いたものだ。そう簡単に見つかるはずがない──
「数を増やそうが……この私を欺けるものかッ!」
「な……に……」
なんてカルピスの原液並みに甘い考えは瞬時に粉々に砕かれた。
スバルの右腕が縦に裂けたと思えば無数の触手へと姿を変えシノビの体を縛り付ける。馬鹿め、それは本体だ。
本体だけを狙った正確無比なその動きはそれまでの行為が無駄であることを叩きつけたのと同義であった。その触手はぎりぎりとシノビの身体を締め付けていく。腕は折れそうなくらいに圧迫され、シノビのスーツと中の真太郎が必死に抵抗すれど気を緩めようなら瞬時に某橘局長のようにくの字にへし折られていたことだろう。
「やめてください……スバル! これ以上は!」
一連のスバルの蛮行にハルカが2本の雫で押さえにかかるが、動揺した彼女の動きでは片手が塞がったスバルですら傷ひとつつけることは叶わなかった。
「その迷いのある動きで何が出来るというのだッ!」
文字通り片手間だった。
シノビを締め付けながらもスバルは雹を振るい、ハルカの攻撃を全て弾き返す刀で斬りつけ返していく。障壁の力で致命傷こそ避けられてはいるが忍者装束に傷が入り、防ぎきれなかった衝撃がハルカの肌に傷が増えていく。太腿から、頬から、腕から血を噴き出し、それでも必死に止めに向かうその様をシノビは縛り付けられたまま見ているしか出来なかった。
……違う、それは違う。
シノビは全身に力を込める。
──ふざけるな
こんな所で圧死するわけにはいかない。
ギジギシとアーマーとスーツが悲鳴をあげている。もう限界が近いのだろう。
「こんの……くそったれえええええええええ!」
けれどもここで諦めようなら最初から頭を突っ込んだりはしない。
逃げるものか。自分はだいたいこれくらいなんだとか逃げてばっかりの人生ではあるが、流石に譲れないボーダーラインというものがある。
ハルカの得物をいとも簡単に弾き飛ばし、丸腰になった所スバルは雹から白い光を纏わせる。大技で真っ二つにするつもりか。それに気付いたハルカは短い声を上げる。
「ぁ……」
逃げろ、と司令室に繋がっているタカマルたちが叫ぶ。
上弦衆の転送システムは今は使えない。今この瞬間使おうなら司令室の位置まで逆探知されて本当に終わりだ。だから今この瞬間動けるのは、シノビしかいない。
「よせえええええええっ!」
火事場の馬鹿力だった。
血を吐きそうなまでの絶叫と共にひり出した力は触手を引きちぎる勢いで引き剥がし、速駆けでハルカを突き飛ばす。そして振り下ろされるスバルの一撃をシノビブレードで受け止めたその時だった。
世界が白に染まった。
間もなくして世界が色を取り戻した瞬間、パキン、と何かがへし折れる音がした。
視界もまるで変身する前の時のようにクリアになる。──おかしいな。
そんな疑問も、遅れてやってきた全身を走る激痛が全てを忘れさせた。
「ケハッ……」
喉奥から血が吐き出される。
吐血とはこういうものなのか、なんてこれまで血を吐いたことのない真太郎が呑気な感慨に耽る前にカラン、カランと、渇いた音が地面から聞こえた。
視界を下に落とすとそこには1本の折れた刃と、紫色の金属片。そのとき──シノビは、真太郎は理解した。
──あぁ……俺、もう駄目か
「忍びさんッ!」
「酔狂なやつめ! 自ら必殺の一撃を受けに行くとはな!」
スバルの哄笑に最早抗弁する気力も残ってなどいなかった。
彼女の言う通り全くもって酔狂だ、だがしかし自己弁護するような物言いにはなるが大蛇丸の瓢箪を諦めて初っ端から逃げようならあの化け物に変身能力を与えることになる。
まぁここで瓢箪を回収しようならこうしてボロボロにされるわけだが。
限界を超えて消えていくシノビの鎧。徐々に素顔を晒していく真太郎はただただ、言の葉を紡ぐ。
た・か・も・り・さ・ん・に・げ・て
どしゃり。と重い荷物を投げ捨てたような音を立てて倒れる真太郎は揺らぐ意識の中、変身解除の反動で地面に転がったシノビの変身瓢箪を睨む。
拾い上げようと手を伸ばそうにも思うようにその腕はまるで別人の手のように言う事を聞きやしない。
「深紫の忍びが……斉藤真太郎……? そんな……」
溺れもがくように這う真太郎を他所に聴こえるハルカの声。
顔は見えなかったが声はもうへし折れ切った人間の声だった。
まさかかつての仲間が敵に回った挙句、組織と自身を糾弾し、そしてシノビの正体が嫌っていたのであろう男だったなど。こんな踏んだり蹴ったりなことがあるものか。
何もかもが裏目に出ているこの状況は最早笑うしかないが、真太郎は笑う暇も与えられず苦悶の声を上げさせられていた。
瓢箪に届きようのない真太郎の震える腕をスバルはわざと地面に捻り込むように踏みつける。ぐり、ぐり、と石ころがめり込み肌を突き破る。
「ぐああああああああッ! あっ……ぐうっ!?」
「無様だな、深紫の忍びと持て囃されていたものが蓋を開けてみればこのざまか。さてこの瓢箪はいただこう」
スバルは何の躊躇いも見せず転がった瓢箪を拾い上げ、まるで品定めをするかのように瓢箪を眺めている。
「かえ……せ……そいつは……」
──お前たちなんかが持っていいものなんかじゃない。
その言葉は喉から出かけたまま胸の中に仕舞い込まれた。
これは一種のエゴだ。そう言っている真太郎とて自分には向いちゃいないと言う自覚はある。アナザーライダーも良いところだ。むしろ何故シノビに変身出来ているんだ。
けれども真太郎には譲れないものがある。あの瓢箪をノロイ党に渡したくはない。
「元気なものだ。生気がある男は嫌いではないぞ。上弦衆の男衆は老いぼればかりでな、お前ほどの若さを持つものも少ないのだ。どれ、手土産にお前を連れて帰ろうか」
「けっ……俺もついにモテ期到来ってか」
強がりの減らず口も虚しく夜空に消えた。
少しでも抵抗しようなら再び勢いよく踏みつけられる。手がぐちゃぐちゃになるぐらいに強く踏み締められたその手は徐々に痛みすらも失っていく。一頻り踏み切ったら次は背中だ。
一発、二発と叩き込まれる踏みつけは内臓が圧縮されるような痛みと、肋骨が砕けるような音が聞こえてくる。
それでも気絶しないのは鍛えたが故か。
中途半端に強靭な自身を恨みたかった。
かつん、かつん。
けれども死期を悟ると存外五感というものは冴え渡るらしい。
遠くから歩いている音が聞こえて来た。
上弦衆が慌ててハルカと真太郎を回収しに来たのか。……ハルカをこの場で司令部まで転送しようなら即術の残滓を追われて終わりだ。
確かに判断としては間違ってはいないが、生身の人間がスバルに刃向かった所で待っているものは死だ。
やめろ、と声を上げようにも体が言うことを聞きやしない。だがしかし現れたのは──
「ん? お前は……怪忍ではないな?」
スバルが足音のした方に視線を向け、怪訝な顔を見せた。
真っ先に上弦衆ではなく怪忍だという単語を出してきたのはおそらく人ならざる姿をしているからだ。スバルが離れてようやっと苦痛から解放された真太郎は必死に、まるで芋虫のように身を捩らせる。
そんな真太郎を他所に、足音の主はスバルの問いに一言も答えはしなかった。
「…………」
「その異形、上弦衆でもなかろう。何者だ」
「スゥゥゥゥゥ……」
武道の呼吸めいた音が聞こえた。そして拳を強く握りしめたのか、骨が唸るような音すらも聞こえて来る。
「答えないか……ならば力づくでも聞き出すまでだ!」
ヒュン、と刀が空を切る音がする。
スバルの斬撃は目にも止まらぬスピードで繰り返され、剣圧が倒れている真太郎のズタボロとなった肌を嬲る。だがしかし、刃が通ったような気配は一切ない。
「フン!」
低い声と共に、どむっ! と何か鈍い音がした途端、スバルの悲鳴が木霊した。
「ぐぁっ!? ばっ……莫迦なッ!?」
ようやっと体がスバルと足音の主の方に向けられたと思ったらスバルは明らかに足音の主に押されているようで、腹を押さえながら後退りしている。
先程の鈍い音は腹に強烈な一発を叩き込まれたからのようだ。
だがしかし、そんなものは瑣末なことであった。
「……まさか……そんな」
それよりも何故──何故、
スバルを圧倒している足音の主。
それは深緑の体色を持つ筋骨隆々の姿を持ち、背中の肩甲骨から伸びるオレンジ色のマフラーのような羽がたなびいている。腹部には目のようなベルト型の器官が見える。
頭には真紅の複眼、金色の短いツノが鼻から額に向かって伸びY字に分かれている。
それだけ言えば知らない者からすれば異形の化け物とはっきりと言えよう。
だが待って欲しい。この姿には真太郎には見覚えがあった。
……どうしてアナザーアギトがここにいる!?
「アナザー……アギト」
仮面ライダーアギトの終盤に現れた木野薫という男が変身する、もう1人のアギト。
2001年には既にとある出来事でその命を散らしている。もっと言うならそもそも存在するはずのない虚構の存在、存在するはずのないものがそこにいた。
アナザーアギトは最低限の動きでスバルの攻撃をかわし、攻撃の余波で凍りつきかけたその身を力づくで砕く。その圧倒的なパワーと動きは間違いなく、真太郎の知るアナザーアギトのそれだ。
その力は作中でもギルスとアギトすらも圧倒してみせた。常時必殺技発動時のアギトと同じ力なのは有名な話だが、本当だったのか。
スバルのその際どい外見に対してなんの躊躇いも無く、鳩尾に一撃、顔面に裏拳を入れるのは無我の境地であるが故か。
重戦車のような拳が、炸裂した途端アナザーアギトの踏み締めていたアスファルトがめり込み、スバルの体が紙切れのように吹き飛ぶ。衝撃で落ちた瓢箪は真太郎のそばまで転がり落ち、それに一瞥すらもせずアナザーアギトは吹っ飛んだスバルにじわじわと距離を詰めていく。
「なんなんだ……貴様は」
先程の余裕が嘘のようだった。
何しろシノビを一方的に叩きのめしてハルカすらも動揺させて戦闘続行困難な状態まで追い込んでいたのだ。勝利は間違いなくスバルの方にあったはずだった。
それなのに突然現れた異形に何もかもご破産になりかけているとなれば「なんなんだお前」とも言いたくもなる。
「ケリをつけるか……」
やはり返事はせず、一人ごつとカシュン、と金属が擦れるような音ともにアナザーアギトの口が開きクラッシャーを露わにする。怪物が笑っているようにも怒っているようにも見えるその様は対峙した相手に恐怖心を齎すこと請け合いだ。
足元に緑色に光るアギトの紋章が浮かぶとアナザーアギトは構えをとりそして──
──こいつ、トドメを刺すつもりか!
「すぅぅぅぅぅぅぅ……ぬぅん!」
一方的に殴られたスバルに避ける余力はない。
空高く跳躍したアナザーアギトはそのまま右脚を突き出す。この名前は真太郎もよく知っている。
アサルトキック。
アナザーアギトの必殺技で、威力は40t。原典においてはギルスこと葦原涼を致命傷にまで追い込んだ殺意の高いライダーキックだ。まずい。危機を察知したハルカが咄嗟に動くが間に合わない。真太郎に至ってはもう論外だ。
「はぁぁぁぁぁぁ……フン!」
「何だ、お前はッ! 一体何なのだ!」
弾丸のようにキックの姿勢で飛んでくるアナザーアギトに恐怖したのかスバルが叫ぶ。そして雹を瞬時に凍てつかせ、即座に地面から掬い上げるように斬り上げた。──途端に、メキメキと音を立てて氷が地面から生え出てきた。
スバルは氷系の忍術を得意とする。瞬間的に即席の氷の壁を作るのも造作もないのだろう。
「スラァ!」
すると。
氷の壁はアサルトキックを1秒だけ──堰き止めてしまった。
1秒超えた途端、稲妻のように亀裂が氷に走りパリンと音を立てて砕け散る。このまま直撃すれば内臓破裂もあり得るだろう。
流石にスバルもそんなことは織り込み済みだったようで──
アナザーアギトが着地した時にはもうすでにスバルの姿は跡形もなく消え失せていた。
氷の壁で一瞬の隙をついて逃げたようだ。流石にアナザーアギト相手に泥試合をする気にはならなかったらしい。
一人残されたアナザーアギトは、ゆらりと着地姿勢から直立姿勢に戻り倒れ伏した真太郎の方を見ていた。
「なんで……貴方が……」
本来シノビ共々存在はしないはずのもの。
この不条理にはきっと理由があるはずだ。けれども彼は答えを教えてくれはしない。緊張の糸が切れてしまった真太郎は安堵と疲労で視界が黒に染まっていく。
最後に見たのは、背を向けて光と共に消滅していくアナザーアギトの姿だった。
Q:結局あのアナザーアギトは2019年にいたファンボーイの方じゃなくて木野アギトの方で確定なん?
A:一応木野アギト
Q:アナザーアギトなんでいんの?
A:禁則事項。前回の上弦衆を追い払ったウィザードと同じとだけ。
プロット作っている時は共通項の兼ね合いで桐生レンゲルだった。ただかなりわかりにくいので没。
Q:それはそれとしてこの作品恋愛要素あるん? ヒロインおるん?
A:え?
Q:えっ……
次回『その正体……』