【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】   作:ヌオー来訪者

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 ついにiPhone14が出たわけですが、ここで世界観を深めるために一つ。
 皆様がよく使うであろう4G回線が開始したのは2010年代から。つまり2008年当時は3G回線が主流だったのです。
 で、iPhone12以降は3G回線を掴むことがほぼ不可能となっています。

 ……あれ?


アナザーワールド2008

 

 左右を見渡してもあるものは闇だけだった。

 自分がどこにいるのか定かではないような場所で俺はどうしてこんなところに居るのだろう。

 

 声を上げても誰も応えてくれはしない。

 無造作にポケットを漁っている自分がいる。困った時はスマホを弄ろうとしている。

 俺の悪い癖だ。

 

 ──俺? 俺の? 

 

 どうしてこんな事に疑問符が浮かぶのだろう。

 自らの思考に疑問を持つ自分自身に呆れながらもポケットの中にスマホがないことに気付く。

 

 頼る先もなくなった俺はただ一人歩く。

 

 おれは今何処へ向かっているのだろう。

 不気味な事に足音すらしない。聴覚が死んでしまったんじゃないかと錯覚する程に。

 

 

 けれども生憎聴覚はちゃんと生きていたらしい。

 ずずず。と何かが足元から這い出るような音がした。

 怖くなって早足になると、足が引っ張られるような感覚に襲われ、そのまま前のめりにすっ転んだ。

 

 痛い。

 

 派手に転ばされた俺は痛みを堪えながら身を起こす。すると次は背後から肩を掴まれ、仰向けに引き倒された。

 

 ──何か、いる。

 

 そう気付いた時にはもう遅い。

 ずずず、と音がして再び地面から何かが這い出てくる。右にも左にも、頭上にも、足元にも。

 這い出てきたもの──それは手だった。

 

 真っ黒な手だ。

 太い手から細い手、華奢な手とそれぞれ違う人格を持っているかのようにそれぞれおれの身体を掴むのだ。

 

【これは俺の◼️◼️だ!】

 

【お前は◼️◼️◼️ではない!】

 

【違う、この◾️◾️◾️こそ俺なのだ!】

 

【わたしの◾️返してよぉ!】

 

 次々と投げかけられる言の葉は呪詛にも似ている。

 抵抗虚しく引き摺り込まれ、ずぶずぶとその身体が床に沈み込んでいく。身体の隅々まで沈むと次は掴んだ腕たちがそれぞれ違う方向に俺の身体を引っ張っていく。

 

 僕は必死に「やめろ」と叫ぶ。

 でも腕はそんな苦悶すらも意には介してなどいない。腕が千切れる、次は脚、次は脇腹、次は耳、目、次は鼻。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚、五感が引きちぎられていく。

 

 奪われていく。

 

 

 

 けれども不思議と穏やかな気分であった。

 いや、何もかもが奪われたので正確には()()だ。塗り潰されていく。

 塗り潰してくる()()には、情けなども無い。命乞いなんて無意味だ。

 ただただ、奪っていく。

 私の残り滓まで失われていく。

 

 

 ああ、おれは、僕は、私は。

 

 ◾️は一体、誰だ? 

 

 

 

 最後に見たものは、白い狐を思わせる仮面が◼️を見ていた。

 全身を覆う黒いスーツ。その上半身に白い装甲、下半身はオレンジ色のプロテクター。まるでWかビルドを横にしたような奴だ。

 バイクのハンドルを思わせるベルトを腰に巻いたそいつは片手に銃を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 お前は、いったい。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 見知らぬ、天井。

 そんなサブタイトルのアニメがあったような気がするがアレはなんだったか。

 

 ──エヴァンゲリオンだっけ? 

 

 覚醒一番の思考がそんなしょうもない疑問だった。

 見慣れぬ木造の天井が、目を覚ました斉藤真太郎を待っていた。

 呑気にエヴァンゲリオンの事を考えてしまう程にうすらぼけた思考を現実に引き戻したのは真太郎の顔を覗き込む医師の顔だった。

 

 本来ならば痛むはずの手足に痛みはない。

 スバルに良いようにされ、意識すら飛ばすほどの痛みが先の戦いであったにも関わらず、だ。

 傷は消えているがこれはおそらくハルカの治療術によるものだろう。

 

 

 目を覚ましたことに気づいた医師たちが慌ただしく動く中、真太郎の思考は至って冷静だった。

 

 それにしても先程気になる夢を見たような気がするが。思い返してももやがかかったように判然としない。

 まぁ夢なぞ、どうせ思い出した所で何かの役に立つ訳ではないのだがそう切り捨てようにも心のどこかが拒絶を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうだ」

 

「……寝過ぎて頭痛いです、先生」

 

 アキラが現れたのはそれから数日後だった。

 一応立って歩くことは出来るが、安静にしろというお達しでこうして病室で寝っぱなしだ。

 こんなに寝たのは……いつぶりだっただろうか。

 

 開口一番に出た言葉が泣き言だったことにアキラは苦笑いしながら病室に入り、壁に立てかけられていたパイプ椅子を開きどすっ、と音を立てて腰掛けた。

 

「治療術で傷は塞がったとはいえ、完全に元に戻る訳ではない。変に動けばまた傷が開くぞ。しばらく我慢していろ」

 

 足を組んでいるせいでスカートの中が見えそうだったので、真太郎は一瞬だけ目を逸らした。

 余計なトラブルは御免だ。腰を掛け切った所で視界を合わせ直し、真太郎は思考する。

 どこから話したものか。

 瓢箪のこと、この体の主の方の斉藤真太郎のこと、ケータイはどこに行ったのか。

 というか何故拘束されていない? てっきりノロイ党メンバーの拘束のために用意したらしい独房あたりにぶち込まれるんじゃないかと思いもしたが。

 

 

 彼女は口を開いた。

 

「不思議そうな顔をしているな。何故、自分は拘束されていないのか。私物はどこに行ったのか……と言ったところか」

 

 その答えはただ一つ、と茶々を入れた瞬間脳裏でおかしな高笑いで自己主張を始めた自称神のゾンビ男を思考から追い出した。

 

 ──私は不滅だァァァァァ! 

 

 えぇい帰れ、檀黎斗。

 脳裏にこびりついた強烈な男の記憶。おそらくきっとこの仮面ライダーのない2008年から抜け出せなくても真太郎の中に在る、元いた世界の2017年の残滓は消えないのだろう。

 思い出の中でじっとしない檀黎斗と押し合いへし合いしながら努めて真顔で居続ける真太郎を他所にアキラは言葉を続けた。

 

「一つずつ説明してやろう。拘束されていないのは頭領命令だ」

 

 頭領というと当然ながらタカマルの事だ。

 

「彼が?」

 

 自らの耳を疑うような真太郎の返しにアキラは苦笑する。

 拘束しないのは悪手だ。斉藤真太郎なる男が変身能力を唐突に手に入れ好き勝手していたという事実は警戒すべき事柄であるだろうに。

 馬鹿野郎と思いながらも少しばかり罪悪感も浮かび上がるのだ。

 あの男は──城戸真司並のドが付くほどのお人好しだ。

 

「無論脱走するつもりならばその限りではないが。加藤──お前が、深紫の忍びが悪党ならとっくにスバルとの戦いから逃げている、と戦部は言っていた」

 

 ……ちゃんとタカマルなりの理由はあるらしい。

 それもそうだ。真っ当な理由無しの命令を聞くほどアキラも愚かじゃないのだ。

 

「加藤じゃなくて斉藤です。ちとお人好し過ぎやしませんか、一応影の者としてのお偉方なんでしょう?」

 

「そういうお前も影の者とは到底思えん戦い方だったがな。喧嘩慣れしていない人間の戦い方だ。私の知る限りではもう少しできるものだと思っていたのだが。まぁいい、これから訊く事が山ほどある」

 

 売り言葉に買い言葉。

 らしくない者とらしくない者が相対したことによる言葉の応酬は真太郎を黙らせるには充分すぎた。

 

「率直に訊こう。お前は何者だ」

 

 

 

 

 

「……斉藤真太郎です」

 

「はぁ……」

 

 真太郎の返答は期待外れだと言わんばかりにアキラが派手に溜息をついた。

 とは言えどここで「聞けぇ! ワシはこの星の人間ではない」とか、「僕はね人間じゃないんだよ、ナントカ星雲から来た以下略」などと言う失言、茶化しを入れようならステレオタイプなトレンチコートを着た男に連行される宇宙人の画像みたいなことになること間違い無しだ。

 故に自らの認識を正直に言う他ないのだ。

 

 おれの記憶が正しければ間違いなくおれは斉藤真太郎に違いない。

 が、今置かれている2008年の斉藤真太郎という現状は、これまでに累積された記憶──つまり2022年の斉藤真太郎の人生とひどくかけ離れていた。

 

 

「いやすっとぼけてるんじゃなくて斉藤真太郎なんですって。気づいたらそうなっていたというかなんというか」

 

 どういうメカニズムでここにいるのか。こちらが知りたいぐらいだ。

 気付いたら2008年にいて、変身能力を持っていた。そんな馬鹿馬鹿しい話が罷り通るならばきっとその世界は狂っているに違いない。

 

「……いや、案の定と言うべきか。元々お前自身には期待はしていなかったがここまでとは思わなかったのでな。いつからだ、いつからの記憶ならある?」

 

 想定はしていた。だからアプローチを変えるのは正しい判断だ。記憶があるのはまだノロイ党が本格的に活動し始めたタイミングからだ。

 それ以前の記憶はサラリーマンとして絶賛社畜していたぐらいで。

 

「──それは」

 

 言葉を紡ごうとしたその矢先だった。

 ガラリ、と引き戸のローラー音が部屋の片隅から聴こえてきた。

 

 

 

「すみませーん」

「失礼します……」

 

 やって来たのはハルカとタカマルだ。

 まさか先客まで予想していなかったのだろう、タカマルの目が丸くなった。

 

「アキラ先生……どうして」

 

 そんな来客に何を思ったのか、アキラは顎に指を当て少し考え込む。タカマルの質問は耳には届いていない様子だ。各々が真太郎のベッドまで歩み寄り、先に口を開いたのは──ハルカだった。

 

「先の戦いでは……ありがとうございました」

 

 やはり喉奥に小骨が引っかかっているようなら物言いだ。やっぱり何かやらかしたのだろうな、と。覚えがないから多少ホラーに思えるが、この2008年の世界の斉藤真太郎にも斉藤真太郎の人生があったのだ。何も不思議なことではない。

 

 ハルカに限らず上弦衆のスタッフ自体、最初の数日間も妙によそよそしい態度をとっていた。

 多少なりとて馴染むことができたのは、タカマルとアキラのお陰でもある。

 

「ううん、大丈夫。お礼は……いらない」

 

 何が大丈夫なのか、言っている真太郎も分からないがお互い死んでなければ何とでもなる。

 今回の場合双方無事だったのだ。その事実があるだけで充分だ。

 ハルカはそれ以上何も言わなかった。

 

「それにしても驚いた。海東さんが深紫の忍びだったなんて」

 

「……斉藤です」

 

 間を持たせようとタカマルが口を挟む。

 今置かれている状況はきっと、津上翔一がアギト終盤で置かれたそれだ。

 けれどもそれをふざけてはぐらかすほどの胆力も無ければ、小沢管理官のような理解者は望めない。

 

「ずっとハルカさんや色んな人を助けていたんですね」

 

「…………」

 

 あぁそうだ。とも違うとも言えるほどの自信も持ち合わせてもない真太郎はそのまま黙ったまま肯定も否定もしなかった。

 あぁして戦っていることが自分が「ここにいる」理由なのだと信じていたから。そしてただ人々があのノロイ党にいいようにされるのが気分が悪かったからそうしていたのだから。

 だから胸を張ってふんぞり返ることは出来なかった。

 

 

 それから少し考え込んでいたアキラが顔をゆっくりと上げた。

 

「ふむ。ある意味ではちょうどいいタイミングか。予定より早いが役者は揃った……」

 

 役者は揃った。ハルカと真太郎、タカマルの事なのは今この状況が示していた。

 パチン、と指を鳴らすとハルカによって丁寧に閉められたドアが大きく開け放たれガラガラと音を立てながらホワイトボードを押す黒子のような者たちが病室に現れた。

 ホワイトボードには【ドキドキ⭐︎ナイショの斉藤真太郎暴露大会! in医務室】と殴り書きされている。

 

 どうあがいても吐かせるつもりだったらしい。黒子がそそくさと医務室から立ち去るのを見送りながら真太郎は話すべき事柄と話すべきでない事柄を頭の中で整理する。

 事実今置かれている状況は複雑怪奇。1から100まで話そうなら混乱必至だ。

 言葉を選ぶ必要がある。まぁ、選べる能力があったら苦労はしないけれども。

 

「佐藤良太郎。お前には一からすべてを話してもらう」

 

「あの……混ざってます。何がとは言いませんが混ざってます」

 

 真太郎のツッコミはどこ吹く風。何故そう毎度毎度スルーされるのか分かりはしない。タカマルが名前の件とは全く無関係な話題を紡ぐ。

 

「どうして仮面ライダーなんてものを知っていたのか。後あの変身能力をどこで手に入れたのか。色々腑に落ちない点が多すぎる。何度も助けてくれたのは……凄くありがたいんだけれども」

 

 タカマルがそう思うのは自然なことだ。

 誰も好き好んで得体の知れないヤツに大切な人の部下を預けようとは思わない。斉藤真太郎という存在は既に得体の知れないヤツの箱にぶち込まれていた。

 

「ここで話さないのは勝手だが……そうなればそれ相応の対応をしなくてはならなくなる」

 

「アキラ先生。そんな脅しは……!」

 

 アキラの対応は正解だ。それどころか今置かれている状況は温情通り越してぬるま湯なのだ。大蛇丸が同質の力で変身した今、ノロイ党との繋がりも疑う必要もある。けれども、タカマルはそれを許しはしない。

 場の雰囲気が悪くなりかけた瞬間、流石に見かねた真太郎はわざとらしく声を上げた。

 

「はいはいはいはい! 今から話します! 話しまーす!」

 

 そのわざとらしい声で3人の注目が集まり始めると、真太郎は大きく深呼吸した。

 ──こう言うスピーチというか、発表系苦手なんだよなぁ……

 妙にプレッシャーのかかる環境下だが、まだアキラとタカマルがギスギスするよりはマシだろうと思いつつ言の葉を紡ぐ。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

「俺は数ヶ月前、ただのサラリーマンとして社畜生活をやっていました。上弦衆なんてものも、閃忍なんてものも知るわけがない。あの瓢箪の力なんてものも持ってなどいなかった」

 

 真太郎の朴訥とした話にタカマルは必死に耳を傾け頭の中で状況を組み立てていく。話が本当ならば少し前までこの男はボンボンでもなんでもなくただの一般人だったと言うことになる。

 事実、これを聞いていたタカマルも少し前まではノロイ党なる集団も閃忍なる存在も知らないまま生きてきた。表向き学校の保健室に常駐しているアキラをはじめとした周囲は既に『来るべき日』の為に準備をしていたようだが。

 その点で言えば真太郎には少しばかり親近感を覚えた。ハルカもアキラも困惑し切っているのは元々斉藤真太郎が『来るべき日』の為に準備していた側の一人であるからだろう。

 

「本当に何の前触れも無かった。大体戦部君が正式に頭領になった日にいつものように帰途についたところで……俺は突如──『そこにいた』。そこはノロイ党などという連中が暴れ散らかしていて、そこに閃忍が──鷹森さんが戦っていて、俺は知らない間に瓢箪を持っていた」

 

 あまりにもあんまりな話であった。真偽はどうあれ、こうやって集まって喋らせている行為は無意味だと。

 言外にそう訴えているようにもタカマルには思えた。アキラは立場上当然疑うだろう。ハルカは……どうだろうか。隣にいるハルカに視線をやるが、その表情は晴れずこれまで見たことのないような目をしていた。

 ノロイ党と対峙している時のようなものとはまた違ったような、死ぬほど苦手な食べ物をお出しされた人のような目だ。

 

「瓢箪の使い方は何処で知った?」

 

 このまま押し問答始めても無駄だと判断したか。アキラの切り替えは早く次の質問へと移る。

 すると即答で飛んできた返答は──

 

「勘です」

 

 酷く身もふたもない言葉だった。

 成る程勘なら仕方ない。

 

 ──んな訳あるか! 

 

 危うく納得しかけたが、あまりにも理由が雑過ぎやしないか。

 嘘を言うな、と詰めることは簡単だろうがアキラは敢えてそう言ったことはせず淡々と話を進めていく。

 

「その勘の根拠は仮面ライダー、とやらだからか。仮面ライダーと言うのは1971年に打ち切られた特撮番組だ。成人とはいえど20代前半の若造がなぜあれを仮面ライダーから大きくかけ離れているのになぜ断言した」

 

 問題はそこだ。

 オタクならばもしかしたら、最近隆盛を極めている動画サイトで知ったのだろうという発想が出る。しかしチャージマン研! のようなおかしな流行りをしているなんて話、それなりにネットを嗜むタカマルも聞いたことがない。

 斉藤真太郎がその手のオタクだった。と見るのが自然だろうがやはり腑に落ちない。

 まるで無から生えてきたようなものに不気味さすら覚える。アキラの疑問に対する返答は思った以上に素っ頓狂なものだった。

 

「……俺の知る世界では、仮面ライダーは打ち切られてない。一旦の休止期間こそ挟みましたが、2000年からずっと毎年日曜朝に放送を続けている。あの俺の瓢箪の力も最新作の仮面ライダー。仮面ライダーシノビの力なんですから。大蛇丸の持っていたものもおそらくそれと同質の力だから断言したんです」

 

 この人には一体何が見えているんだ。幻覚でも見ているのだろうか。日曜朝にやっているものはポケモンサンデーとかなら知っているが仮面ライダーが放送しているなんて事実はない。

 加えて仮面ライダーはバッタをモチーフとした緑色のヒーローのはずだ。

 これまで見てきたあの紫色は明らかにバッタとはかけ離れていて、まるで別物とすら思える。あの姿から仮面ライダーを連想するなんてことはあまりにも無理がある。

 あの深紫の忍者が仮面ライダーです。なんて言おうなら正気を疑われる。全身装甲でマフラーをしているぐらいしか共通項がないじゃないか。

 

 何度も繰り返すようだが1971年に打ち切られて終わったようなものがシリーズ化なんてされるのか。いくらなんでもあり得ないだろう、そんな話。

 まるで狐にでも化かされているような気分だ。

 

「……何の前触れもなく気付いたらそこにいた。力も持っていたと言われて納得すると思うか? 挙句マルチバース理論まで持ち出したときた」

 

 追撃で投げかけられるアキラの指摘はごもっともとしか言えなかった。

 疑うこと前提で見ていることにも問題はあるだろうが、これで納得してくださいというのには無理がある。胡乱の塊のような話だ。それはそれとして……

 

「「まるちばあす理論?」」

 

 タカマルとハルカの疑問符たっぷりな声が重なりこの部屋の中を木霊した。

 しれっとアキラは言ってのけたが慣れない単語だ。真太郎はケロッとしているのは既にこの理論とやらを理解しているからか。

 そんな二人の反応にアキラは「しまった」と言わんばかりに大きくため息をついた。

 

 それから無造作にマジックペンのキャップを抜き、ホワイトボードに殴り書きを始めた。

 まず書いたのは雑な棒人間。次にフキダシを出してそこに「のどがかわいたなー」と書きこむ。

 

「なんすかこれ」

 

 要領を得ずタカマルは口を開くとアキラは構わず言葉を続けた。

 

「戦部、お前は自販機で何を飲むか迷ったことはあるか」

 

「そりゃ迷いますけど」

 

 当然のことをなぜこんなにもシリアス顔で聞かれているのだろう。

 とはいえ、そこに何かあるのだろうと思いながら疑問は挟まず話の続きに耳を傾けた。

 

「この暑い中、もし仮にスポドリとオレンジジュースで迷った結果スポドリを選んだことにしよう」

 

 棒人間の隣に右斜め上と右斜め下に伸びる矢印が書き上げられる。矢印の先にはスポドリを買った未来。オレンジジュースを買った未来。と括られた◯が殴り書きされる。

 

「未来というものは選択の連続だ。もしもオレンジジュースを選んでいたら? もしもそもそも飲み物を買わずに家で飲もうとしたら? そこで選んだ選択肢が未来の行動を変えていく。そんなもしもが積み重なって並行世界。つまりマルチバースというものが成立する。他の身近なもので言うならハルカがこの時代にやって来なかったら? とかだな。そうなっていれば戦っていたのは現代の閃忍候補であるナリカだっただろう」

 

 これではまるでエロゲーの分岐だ、とタカマルの脳裏に無数の遊んできたエロゲーのシナリオチャートが浮かぶ。

 ヒロインAを選んだ場合と、ヒロインBを選んだ場合展開が異なってくる。それをもし今の斉藤真太郎に適用させるなら「仮面ライダーが打ち切りにならなかった場合」ということになるのか。

 そんなもしもの世界からやってきたのがここにいる斉藤真太郎と言うことになるのか。

 

「もしも……」

 

 何を思ったのか呟くハルカの瞳に影が差す。恐らくスバルのことを考えているのだろう。

 戦国時代にて追い込まれて2008年に逃亡しようとしたノロイ党を追う、力が不完全だった頃のハルカを守る為にスバルが囮になり結果、ハルカは2008年に現れ、スバルは捕えられて寝返ってしまった。

 もしもハルカが逃げずにスバルと共に戦っていたら。

 

 そんな可能性がタカマルの脳裏を走る。だがその先に待つものは──

 

「現在、タイムスリップの概念はあれど並行世界の概念は実証されていない。あくまでこのもしもというのは理論上の話だ。だが問題はそれだけじゃない。お前の言うことを信じるならばフィクション上の存在であるはずの力がどうして現に実在している? まさか並行世界のなりきりセットと言うまいな?」

 

 そのアキラの語りに真太郎の眉間に一瞬だけ皺が寄ったような気がしたが、すぐ真顔に戻っていた。

 余計に話がこんがらがってきたが、今の斉藤真太郎、タイプBが仮面ライダーが打ち切られていない並行世界から来たとしてじゃあその力はなんだ、という話をしているのはなんとか理解は出来る。

 

「分かりません。……俺の知る限りそんな物騒なオモチャなんぞありません」

 

 首を横に振る真太郎。

 確かにあんな人知を超えた力を子供に持たせたら何が起こるか分かったものではない。当然あの瓢箪は『誰かが何かしらの、おそらく何者かと戦うという意図を持って』作り上げられたものとなる。

 そんなものが無から生えてきたなんてことはあり得ない。斉藤真太郎が知らないならば()()()()()()()()()()()()()()

 

 当人が自覚しているかしていないかはさておいて彼の後ろには何かが『いる』。

 

「次にこの世界に元いたお前はどこにいるんだ。何処に消えた?」

 

 今の斉藤真太郎タイプBが並行世界の別人として存在するのなら、タイプAもこの世界のどこかに存在するはずだ。どうして連絡のひとつも寄越さず行方を眩ませているのか。

 斉藤真太郎が喋れば喋るほど事態がややこしくなる。当の真太郎もややこしくなっている現状にひどくげっそりとしながら口を開いた。

 

「分かりません。納得しないのは分かるんですけど、ただ俺に自白剤ぶち込んでも拷問で半殺しにしても結局出てくる答えは一緒です。分からないんです……寧ろ、俺が知りたいくらいです」

 

 自白剤、拷問。その言葉を聞いた瞬間、冷たい鉄のような何かが背筋を撫でるような感覚を覚えた。

 タカマルがアキラに牽制するように目配せをする。流石にそれは勘弁してくれ、と。

 

「……そうか」

 

 そんな想いが伝わったのかアキラはあっさりと引き下がった。というかこれ以上追求しても時間の無駄だと思ったのだろう。だが──

 

「お前の持っていた瓢箪については、悪いがこちらで調べさせてもらう。お前の奇怪な現象のことも分かるかもしれないしな」

 

 そこで終わらせないのがプロのやり口というものだ。このアキラの言葉は当然斉藤真太郎の出自を調べるためだけのものなどではない、研究室で瓢箪の解析をしているという話はアキラ直属の部下から聞かされている。

 上弦衆としては確かにあの力は喉から手が出るほど欲しい筈だ。もしも解析し切って量産出来たとしたら。

 これまでノロイ党に対する対抗手段が閃忍だけだった。そんな前提条件を根本から瓦解させてしまうような存在を量産してしまえばノロイ党打倒の宿願は果たされる。ハルカがこれから先苦労することはなくなるのだ。斉藤真太郎だって。

 

 これだけなら深紫の忍びの力は魅力的にも思える。

 けれどもタカマルと同じ予測をしているであろう真太郎の表情は晴れる様子はまるでなかった。




 冒頭に出てきたのは言うまでもなく彼。
 ハッピーバースデー、ギーツ。
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