【ライダー】負けたら陵辱される変身ヒロインものエロゲーの世界の竿役モブに憑依した挙句、忍者の仮面ライダーになっていた【助けて!】   作:ヌオー来訪者

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09 大蛇丸

 

 物心がついた時から独りだった。

 親と言えるものはどこにもいやしなかった。捨てたのか、殺されたのかも分からないし、少年にとってはどうでもいい事だった。

 ただ、明日を生きるための飯さえあればそれでよかった。

 

 

 口に入るものならなんでも放り込み、噛んで、呑み込んだ。それで数日寝込んだこともあったが死ぬよりはマシだ。山を森を、野を這いずり回るように、草を噛みちぎり、魚を呑み、誰のものか分からない畑から何か分からない野菜をかっぱらったりもした。

 そうでもしなければ生きられない事を知っていたからだ。だが――少年にとって転機が訪れた。

 

 ふと立ち寄った寺から飯をかっぱらおうとした時、坊主に見つかってしまった。

 なんとか逃げようとしたものの坊主は追おうとする素振りは欠片も見せなかった代わりに少年を穏やかな声で呼び止めた。

 

「腹が減っているのかね。少し待ちなさい」

 

 このまま逃げる隙はあった。だが今の少年にはどういう形であれ腹を満たす何かが得られるならば何でもよかったのだ。少し待たされた所で坊主が持ってきたのは今思えば質素な料理だった。

 けれども窮した少年からすればとんでもないご馳走であり、坊主に促されるがままに貪り喰らった。

 

 ただのお節介な坊主だったのだろう。

 それからというもの、その寺に訪れるたびに少年に飯を用意した。坊主とは然程言葉を交わすことはなかったが、口癖のようにこう言っていた。

 

「お前さんが不幸なのは誰のせいでもない。誰かを恨むんじゃないぞ」

 

 この世はそういうものだ。

 自分が独りなのも、飯に窮しているのも仕方のない事だ。そう少年は己を納得させながら今日を生き続けていた。

 

 

 

 そんな安寧も終わりがやってきた。

 坊主の話を盗み聞きしていたが、世の中が飢饉と戦で荒れてきたという。少年からすれば他人事のような話だったがそれを物語ることをほどなくして少年は目の当たりにすることとなる。

 

 

 いつものように坊主から飯を貰おうと寺に足を運ぼうとしたその時だった。

 焼け落ちるなにかの臭いがする。

 死の臭いだ。この手の臭いからは距離を取る。それが少年が十数年生きて培ってきた知恵だった。だから息をひそめて寺へと近づいた――

 

 

 

 寺が焼け落ちていた。

 焼き払ったのは賊なのか、どこかの大名なのか。それを知る術はなかった。

 

 

 誰かを恨むんじゃないぞ。

 坊主に言われた言葉が脳裏でのたうち回る。そうだ、これも仕方のない事だ。そう自分に言い聞かせながら少年は焼け落ちていく寺を後にした。

 少年はまた独りとなった。

 

 

 

 

 また蜘蛛を齧り、魚を呑み、花を齧って生きていく。『ここじゃないどこか』を目指して一つの場所にとどまらずに。

 その傍らで家族に囲まれて生きていく他人の姿を見た。飯にありつく他人の姿を見た。

 だがこれは仕方のない事だ。杭のように深く胸の内に食い込んだ坊主の言葉が時間と経験と共に揺らいでいく。

 

 だがそんな日々も終わりを告げる。

 

 その日は妙に月がぎらついていた。

 初めて足を踏み入れる地でどこか胸の内が高揚していたのか、飯に困り過ぎて窮しきっていたのかは分からない。だが妙な自信めいたものがふつふつと滾ってきた。

 少年が足を踏み入れた先は大きな屋敷だった。さて、何か食いモンはないか。そう内心舌なめずりをしていたその時、後頭部から強い衝撃が襲った。

 

 あぁ、オレは殴られたんだ。

 そう理解したのは男たちの怒号と、追い打ちで飛んでくる蹴りを浴びせられた時だった。

 

「見つけたぞ泥棒め!」

「いつもいつもうちの鶏を!」

「知っているぞこの餓鬼! ここらで有名なコソ泥だ!」

 

 覚えなどなかった。

 この地に訪れたのは今日だ。この屋敷に盗みに入ったのも初めてだ。どっちにしてもコソ泥なのには違いはないが、違う誰かと一緒くたにされていた。

 違う、俺じゃない。そう否定しても誰も聞く耳も持ってなどいない。

 

 一人が喚けば取り巻きも喚く。大合唱だ。

 誰もが彼もが少年をどう懲らしめようかという話で盛り上がる。彼らの顔は酷く歪んでいた。

 

「二度と悪さが出来ないように手を潰せ!」

「足もだ! 歩けないようにしてやれ!」

「あはははは! 芋虫のように這いつくばっているんだな!」

「正義の裁きを受けよ!」

 

 ここからは処刑の時間だ。男たちはクワを持ってくるや否や、縛り付けた少年の手足を打ち始めた。一振りが指を砕き、一振りが腿を裂く。泣いて許しを請うたとしても男たちからすれば音のなる玩具のようにしか思ってなどいなかった。

 哄笑と共に腕を、脚を潰される。すべてが終わった時には野に打ち捨てられていた。

 

 

 ここからが地獄だった。

 潰された手で、脚で、これまで出来たことが何一つ出来やしない。腹で這いまわることしか出来ない少年は足掻き続ける。それを目の当たりにした誰もが奇異の眼で見るか嫌がらせで泥を、糞を食わせてくるだけで誰も指の一本も差し伸べなかった。

 

 虫のように這いずり回る中で坊主の言葉は最早少年の頭には残ってなどいなかった。痩せこけていく虫同然の身体とは対照的に黒々としたナニカが胸の内で大きく広がっていく。

 何が正義だ。

 せせら笑うだけ笑うものの何が。

 

 手足が使えなかろうがどうでもいい、この口が、歯があるのならば首筋を噛みちぎって一人でも道連れにしてやる。

 地を這いながら夜空を睨む。仏とやらが本当にいるのならばぶっ殺してやる、と。

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

「その時一人のジジイが現れたのさ。ジジイはこう言った。「おぬしは強い憎しみと心の力を持っておる、真の救世のため、ノロイのもとで働かぬか」……ってな」

 

 少年からすればまたとないチャンスだった。だから少年は首を縦に振る。この世全てを呪うがために。

 かくして少年は潰された手足を取り戻し、大蛇丸として生まれ変わりノロイ党の幹部にまで上り詰めたとさ。めでたしめでたし。

 いつの時代なのかは分からない。少なくとも真太郎やタカマルが生きている平成の時代の出来事ではないのは確かだ。

 

「分かったか? だからテメェらみたいな偽善者どもの言う事なんざ死んだって……」

 

 因果応報、と切って捨てる事は容易かろうが真太郎には大蛇丸を責めたり断じる事も出来なかった。時代が違うものを責めようも庇いようもない、文句を言うなら2008年くんだりに現れて好き勝手している事だ。

 どういう過去であれ、この時代で悪意を持ってふざけた真似をするなら戦うしかない。真太郎が何も言わずに一人目を閉じていると、背後からすすり泣く2人の声がした。

 

「ん?」

 

 目を開き慌てて後ろを向く。

 だばぁ、という擬音が似合うだろう。タカマルとナリカが滝のように涙を流していた。

 

――はっ、いつの間に!?

 

 大蛇丸の過去にむせび泣く男、タカマル。それとナリカ。

 

「なっ……なんだテメェら!? 何泣いてやがる!?」

 

 予想外の反応をされたせいで完全に大蛇丸が面を喰らっている。真太郎も開いた口が塞がっていない。さっきまでのシリアスは一体どこへやら。

 

「えぐっ……うぐっ……おどちばるおばえ、大変なえぐっ、すっげえ大変な人生送ってきたんだな……」

 

 ナリカはちーんと持っていたポケットティッシュで鼻をかみ、使っていないものをタカマルに寄越す。ウソ泣き――ではないようだった。

 

「チッ、くだらねえ。同情してほだそうたって無駄だからな」

 

 それはそうである。

 涙一つで心が動くならノロイ党としてテロ行為なぞやっちゃいないだろう。

 

「そうだよな! 嫌なことがあれば誰かを恨みたくなるよな! 俺だってそんなつらい経験をしたら歪んじまうよ!」

 

「あぁもううぜえ!」

 

 涙のあまり大蛇丸の両肩に手を置いて熱弁しようとするタカマルに流石にドン引きしたのかなけなしの力を使ってタカマルの顔面に蹴りを叩き込む。幼児レベルとはいえ無防備なタカマルにはそこそこ威力があったようでよろけて尻もちをついた。

 

「なんなんだこいつは! ったく見ず知らずの他人の事で何泣いてやがる! 馬鹿か!?」

 

「そういう奴も居るって事だろ」

 

 他人事のように真太郎は返す。

 人間社会で生きて嫌な事なぞ腐るほどあった。それでも絶望せずに生きていられたのはきっと色々ある。その色々が何なのかははっきりと分からないけれども。

 きっと大蛇丸にとって話に出た坊主がそうだったはずだ。

 

「飯でも食ってゆっくり考えろ。この時代にわざわざやって来てまで荒らす意味があるかどうかを」

 

「チッ……誰が食うか」

 

 真太郎はすっかり冷めきった煮物の入ったお椀を差し出すが大蛇丸はそっぽ向いて食べようともしない。頑なもここまでくれば表彰ものだ。

 そんな中でタカマルとナリカが邪悪な笑みを浮かべ始めた。

 

「さて、ナリカさんや。再三の警告に対してごはんを一つも手を出さないので……」

 

「えぇ、始めちゃいましょっか……」

 

 一体何が始まるというのか。

 背筋が冷えるような感覚が襲う。もしや暴力に訴えるのか。ナリカが医務室の外に出て何かを持ち込もうとしている。

 

「え、ちょっと君ら……? 何すんの? この流れでやんの? 拷問? 拷問ですか? ちょっと!? ねえちょっと!?」

 

 慌てる真太郎を他所にタカマルとナリカは何の迷いもなく準備を進める。

 用意されたものは――

 

「ここに鎮座まします忍びの者は折角の美味しいごはんに手を付けずに冷ましてしまう不届き者……若頭領、こやつめに然るべき裁きをお下しください」

 

 用意を終えたナリカが生来の甲高い声をわざとらしく低くして前口上を口にすると、真太郎もハルカも息を呑んだ。用意したものを見れば何をしでかすかは容易に想像がつく。

 

「うむ……では頭領タカマルよりこの者大蛇丸に裁きの判決を下す。判決は――強制モグゴクの刑!」

 

――う、ウソだろ。こ、こんなことが……こ、こんなことが許されていいのかっ!

 

 用意されたものはほかほかのご飯。コロッケとサラダ。そして味噌汁。

 熱々のおでん*1ではないぶん人道的とも言えるが。どっちにしてもろくでもない。モグゴクという微妙なネーミングについては見て見ぬふりをしておく。

 

「説明しよう! この刑は美味い飯を食べない罰当たりの口を開き強制的に飯を食べさせるという――口にするのも憚られる非人道的な拷問であるッッ!」

 

「今口にするのも憚られるとか言ってんのに自分から大声で口にしやがった!」

 

 悲鳴じみた大蛇丸のツッコミにどこ吹く風。目を光らせたタカマルが大蛇丸を押さえつけ口を強制的に開かせ、ナリカが箸でコロッケを割って摘まんだ。

 

「口は開いた! スタンバイオッケー!」

 

「いっけええええええっ!」

 

 そしてコロッケが――ねじ込まれた。

 

「んぐっ!? んっ……んッ………………」

 

 強制的に咀嚼させられ呑み込まざるを得ない状況にまで追い込むその行為はまさしく拷問であった。……問題はその飯がナリカ謹製なので――

 

「……うめえ」

 

 真っ当に美味しいのが問題なのだが。

 完全に拍子抜けしたかのように感想を漏らした大蛇丸にここぞとばかりに追撃のキャベツ、ごはん、味噌汁と次々とぶち込まれ流し込まれていく。

 完全にあきらめたのか、バリバリとコロッケを噛むその姿に真太郎は眼を背けた。

 

「くそッ! 分かった! 分かった! オレの負けだ! 毒が入ってないのも分かったしうめえよくそったれ! 自分で食うからこんな格好悪ィ食わせ方させんのはやめろ!」

 

「よし勝った!」

 

 タカマルの勝利宣言に真太郎は「そんなんアリかよ……」と溢しながらゆらりと医務室を出た。

 ちょっとお腹が痛いのでトイレ行ってから夜風に当たろう。拷問の内容がこんなものなので放っておいても問題はないだろう。おまけに大蛇丸の衰弱死も当面は回避されそうでもあるわけで。

 心置きなくトイレのドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーすっきりした。……あれ?」

 

 十数分後、腹痛も解決した所でトイレのレバーを回す。

 だが――流れなかった。

 カシッ、カシッと空振るレバーの音が虚しく響く。

 

 何回も回してもそれでも流れなかった。

 

「……嘘だろ」

 

*1
南極条約違反




 次回、【ライダー】トイレが流れない【助けて!】

 ハルカでトイレといえば……?
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