「……ッ」
夢を見ていた
君と出会った
高校2年の春
あの夢のような日の夢を──
「焼き肉定食、焼き肉抜きで」
秀知院学園高等部二年、
貧相な家に生まれ、貧乏生活を余儀なくされている彼
《この学食での最安値はライス(200円)と思いがちだが実は違う。焼き肉定食(400円)から焼き肉皿(200円)を引くと、同じ値段で味噌汁とお新香が付く!水は飲み放題だし、学食最高!》
彼もまた、由緒正しき生徒の1人である
「……?」
《らいはからか…メール…?》
「……なッ!?」
上杉は妹、上杉らいはからのメールを見て仰天した
《なんだってぇ〜!?》
「……家庭教師?」
「はい!今日から私達姉妹に家庭教師が付くことになったんです!」
「ほんとですか!?私も負けずに勉強頑張らなきゃな〜」
「藤原さんはそこそこの成績取れてるんですから、別に頑張る必要なんてないんじゃ?」
「かぐやさん、そこですよ!その“そこそこ”って言うのがどれだけ虚しいか…」
(中野に家庭教師か……意外とも取れるが…)
秀知院学園高等部二年、
生徒会では会計監査を務めている
父は病院の医院長を務めているため秀知院でも知らない生徒は少なくない
秀知院には家柄ヒエラルキーが存在し、中野は5段階中2段階に該当する
しかし、この中野五月に…いや、中野姉妹における弱点の1つ、それは……
(中野の姉妹全員石上会計並の学力なんだよな…)
絶望的な勉学の出来なさ!
その根拠とも言える事例が、以前の学校で姉妹全員進級試験に落第したと言われている
その為、先月この秀知院学園に転校してきたのだ
(まだ彼女だけならいいが…彼女の姉妹は…)
すると、生徒会室の扉を誰かがノックした
「五月〜帰るよぉ〜」
「さっさとしないさい、今日は少し寄り道してから帰るんでしょ?」
「……五月…今日は家庭教師の先生が来る」
「どんな人なんだろ〜!楽しみだね!」
(五つ子なんだよなぁ〜…しかも全員赤点常習犯なんだよなぁ〜…家庭教師を雇って正解なのかもな…)
「……白銀カイチョー……今失礼な事考えてる…?」
「…そ、そんな事は無いぞ!中野!」
「……私…三玖」
「……そ、そうか…三玖」
「あ〜どうせなら私も名前で呼んでよぉ〜カイチョー君」
「…分かった、一花」
「皆さん、もう少し待ってください!今監査の仕事が…」
「そんなの明日でいいでしょ、良いわよね?白銀」
「…あぁ、ノルマは達成してるからな、今日は帰って構わない」
「ほら、白銀もそう言ってるんだし、今日は帰るわよ」
「白銀さん!皆さん!また明日会いましょう!」
「あ〜!待ってくださ〜い!」ガチャ
五姉妹が生徒会室を退室し、静かになる生徒会室
(……)
「…元気がいいですね、皆さん」
「あぁ、藤原書記並にな」
「私はあんなにうるさくないですよ〜!」
「五つ子揃ってのあの賑やかさだ。本当に元気な事だな」
(……さて…)
「……四宮、頼めるか?」
「……はい、私も興味があります。中野さん方の家庭教師…逸材でなくてはいけません」
「……というか、家庭教師なら会長が適任じゃないですか?学年で一位ですし…」
「会長には生徒会長としての激務があるでしょ?家庭教師なんかしている余裕はないんですよ」
「それは四宮も同じ理由だろうな」
「……だとしたら…」
「……あぁ、俺も目星は着いている」
秀知院学園生徒会の情報網は凄まじく、知りたい情報は生徒からの証言、そして生徒会の憶測や推論、結論を元に知りたい情報をキープしている
以前にもそういった事があったのだ
翌日──
「……なか…五月、どうした?」
「…いやぁ…なんと言いますか…」ドヨーン
「昨日は家庭教師の初日だったんですよね?」
「そうなのですが…実は昨日…」
「……なるほど、昼食中にたまたま会った男子生徒が、その家庭教師だったと……しかもデリカシーの無い発言に激怒し、二度と会わないと思っていたから家庭教師に猛反発したと…」
「……はい」
「……名前は?」
「…上杉…風太郎と言うそうです」
「……っ」
(やはりな……上杉風太郎…学園模試は俺と四宮に続く三位。家柄はあまり良くなく、俺と同じ外部生…生徒会にも委員会に属さないあいつにはピッタリだ)
〈……〉
「上杉風太郎、家柄はあまり良くなく、会長と同じ外部生だそうです」
「他に情報は?」
「いいえ。あくまで、ただの成績のいいガリ勉、みたいなものです」
「……そう」
先日四宮は自身のお付である
彼女が淹れるコーヒーもまた興がある
「あまり害のないように思えますが…?」
「分からないわ、人は見た目や周りのイメージとかけ離れたものよ、それは早坂も重々承知の筈でしょ?」
「…そうですね、人は外見だけでは分からないものです」
「…そうよ」
「……」
「……」
「…会長も、裏では誰かとお付き合いしているかも」
「ブゥゥゥゥヴ!」
かぐやはコーヒーを吹き出した
「……」
「ななな!何を言ってるの!?会長に限ってそんな事有り得ません!」
「でも人は外見だけでは分からないんですよね?」
「…そうだけど…会長は違うの!」
「…それとも何ですか?少しは親密な関係になりました?」
「な、なぜ私が会長と親密になる必要があるんですか?私はただ会長に告白をさせればそれでいいんです!」カタカタカタ
震えるかぐやの手を見て呆れる早坂であった…
「……はぁ…いつまで経っても進展ないんだから…」ボソッ
「…え?何か言った?」
「いいえ、何も」
「……だが、何故教わろうとしない?お前達が勉強が出来るようになるのは、こっちとしても利点がある」
「…私、1人で勉強はしてるんです。でも、なかなか身につかなくて…」
(…五月監査は真面目だからな…生徒会の仕事はきちんとこなすし、人振る舞いも良い。だが、きっと要領が悪いのだろう)
「…彼だけには絶対に教わりません!あんなに無神経な人、初めてです!」
「……しかし、あちらの懐事情は把握しているのか?」
「……え?」
「……いい機会だ、お前にも社会勉強をさせてやる。俺が考えた作戦で、上杉の自宅まで行ってみろ」
五つ子豆知識!
五月は五人の中で1番の食いしん坊!
目の前にデザートを置けば無意識に食べてしまうぞ!
「五つ子ちゃんは教わりたくない②」
「…お客さん…」
「……ん」
「お客さん着きましたよ」
「…ッ!」
「ここ、お客さんの家ですよね」
「……えっ」
夜中のタクシー、運転手は上杉の自宅の目の前で停車していた
「……なぜ」
「…お乗りになる前からぐっすり眠られていましたよ」
「…ッ!」
《あの時…!》
上杉は本日の家庭教師の時間、中野二乃に渡された水を飲んで眠ってしまっていたのだ
「あの野郎…そこまでするか…」
「運賃4800円になります」
「え!?金!?タ、タクシー高っ!」
上杉の持ち金はせいぜいコンビニでおにぎりを買えるか否かくらいの金額だった
「そんな大金…」
「カードで」
「…!」
「まいど」
タクシーの助手席、中野五月が運転手にクレジットカードを渡す
「五月!」
「あなたを送ったついでに買い物です。住所は生徒手帳を見させていただきました」
「え…しゃ、写真見た…?」
「そんなのどうでもいいでしょ」
〔…白銀会長…やはり私にはこの男は分かりません…〕
「一泡吹かされましたね、これに懲りたら私たちの家庭教師は諦めることです」
「……それは出来ない」
「……なぜそこまで」
「あ、やっぱりお兄ちゃんだ」
道沿いの建物から少女が向かって来る
「らいは!」
上杉家長女、上杉らいは
上杉風太郎の妹であり、家事をする上杉家のお母さん的存在である
「その人ってもしかして!」
「な、なんでもない人だ、帰るぞ!」
「嘘!あの人が生徒さんでしょ!」
「……?」キョトン
「良かったらウチでご飯食べていきませんか?」
「え!?」
「それは…ほら!な!?この人忙しいらしいから!」
「…嫌…ですか…?」
「…っ」キューン
中野五月、上杉家への侵入に成功
「……んで、どうだった?」
後日、白銀は中野五月に事情聴取をしていた
「…お家は貧相で、借金があるとか…」
「……そのようだな」
「…私はやはり彼の言いなりにはなりたくありません。それでも…!」
「……」
「…あの家を…あの家族を守れるなら…私は、一人でもやり遂げてみせます!全教科赤点回避!」
「…そうか、お前がそれでいいのならそれでいい」
白銀は知っていた
それがどれだけ大変な事か
それがどれだけ苦痛な事なのか
天才たちにとって、彼女達の存在はイレギュラーであり同時に、なくてはならないものなのだ…
「…安心しろ、バカと天才は紙一重と言うように、お前にも何か秀でている部分がある筈だ。それを見出すのが秀知院、生徒会だ…」
(それはお前の正義感や真面目さもそうだ…だが、それ以上に…)
「…はい!白銀会長!」
「……あぁ」
(その真っ直ぐな目は、五つ子の中でもずば抜けて輝いている)
「…それより、
「…ん?」
「…さっきのはつまり…私たちがバカと…そう仰ったのですか?」
「……あ」
「……」ムゥ!
「すまない!すまない!中野監査!」
「私は五月です!」
「…またやってるんですか?あなた達は…」
「2人もなんだかんだ言って仲良いですからねぇ〜」
「あの4人がいれば、もっと騒がしくなるんでしょうね」
「白銀くーん!?」
「ほら!校長から差し入れがあるぞ!」
「あ!ほんとですね!」
本日の勝敗結果
五月の勝利
(その後3人分のケーキを全部食べた)
次回
第3話「中野三玖は恋したい…?」