2023年もよろしくお願いします。
遅くなりましたが、続きの方をご覧ください!
「1年てあっという間ですよね〜」
「僕は実質半年位ですから、余計にそう感じます」
「私たちはもっと短いけどね〜」
「そうね、五月は転校早々生徒会入ったのよね」
「はい!白銀くんが誘ってくれたお陰で…!」
「…でも、この生徒会には2年位居た気もしてくるから不思議だよな」
「…本当に…本当にこの1年は、一瞬…でした」
その日、白銀たち生徒会のメンバーは全員で生徒会室の清掃を行っていた
「あ!この看板懐かしいですね!フランス校と交流会の時のですよ!」
「あぁ校長が急に言い出してな、あれが一番忙しかったか」
「ですね〜…」
「……」
フランス校との交流会で使った看板を取り出して語り出す藤原と白銀とかぐや
〔それ私たち知らない…〕
それを聞いて一花はそう思った
「ゲーム類も持っていかなくちゃですよね〜」
「本当に藤原さんはすぐにゲームしたがるから」
「色んなゲームやったよなぁ」
次にトランプを取り出した藤原
「あとこれもやりましたよね〜〜!」
「ん……なんだっけそれ」
「覚えてないんですかー?じゃあ一度だけやってあげます」
今度は「好き♡」と書かれたメモ帳を取り出した藤原
「ドーンだYO!」
「うわっ!あったなそれ!」
「……」
それを見た二乃は……
〔私たちそれ知らないわ…〕
そう思ったのだった…
「あっ!こんなのもありましたね〜」
今度は猫耳のカチューシャを白銀に被せる藤原
「やっぱり会長似合わないですね〜」
「なんで似合わないってわかってて俺につけるんだよ…」
「……」
猫耳になった白銀を見てかぐやと三玖は思った……
〈おかわわわわわわわわわわわわわわわわわ!不意打ちで可愛いのやめて!びっくりして死ぬかと思うじゃない!〉
〔……私たちそれも知らない…〕
そう、薄々彼女達も気付いていた……
〔〔〔〔〔もしかして私達…あまり生徒会に関われてない…!?〕〕〕〕〕
思い出不足!
白銀達にとっては思い出深い秀知院生徒会室
しかし!中野五姉妹にとって生徒会室と言えば、生徒会の仕事をする場であり、あまり藤原を発端とする遊戯には参加してこなかったのである!
この場に於いて思い出を語り合う白銀達を目の前に、中野達は気まずくなっていた!!
「…でも、ここでは上杉さんとの思い出も詰まってますよね!」
「…え?」
ここで、四葉が口を開いた
「ほら!生徒会が終わった後はここで勉強会やってたじゃん?白銀さんが部屋を貸してくれたおかげで捗ってますし!」
「捗ってはいるが全然身には付いてないがな」
「…上杉さんは勉強を通して、貴女達五人と向き合っていたのかもしれませんね。彼にとっても、ここでの記憶は大切だと思いますよ?」
「……」
かぐやの言葉に、五人は言葉を失う
互いに向き合い、微笑み合う
だが、そんな中でも
終わりの時は近付いて来る……
「……こんなもんかな、探してない場所は無いか?」
夕暮れも最中、暗くなった生徒会を9人は眺めた
「……終わりかぁ」
「……」
「……」
石上の言葉に、またもや全員の脳裏に生徒会での記憶が蘇ってくる
ここで過ごした思い出を反芻し、彼らは長いようであり短かった生徒会室での活動を、仲間と共に乗り越えて来た試練を、様々な苦難を乗り越え、彼らはまたひとつ成長したのである
「どうします?ファミレスで打ち上げでもします?」
「折角なら甘い物が食べたいな」
「ならケーキ屋にしましょう!オススメのお店があるんです!」
誰も振り向かない生徒会室前の廊下
だが、ゆっくりと閉じていく扉の音に、この二人だけには耐え難いものがあった
「……っ…グスッ」
「……グッ…グスッ…っ…」
瞳から大きな雫を流す藤原と四葉
その二人はいついかなる時も楽しさを求め、生徒会での活動を通した交流がいつしか宝物となっていた
だが、それが無くなってしまうという喪失感に、この二人は涙を流していた
「……もぅ…そんなのずるいわ」
「…四葉、おいで」
だが、それを耐え難く思っていたのは二人だけでは無い
皆表には出さないが、芯では涙を流していた
藤原をなだめながら共に涙を流すかぐや、姉として妹をなだめる一花
その他の姉妹も目尻に涙を溜めていた
「…皆お疲れ様。本当に、ありがとうございました」
その場の全員が生徒会室に向かってお辞儀をする
そう、これは彼らがまだまだ成長する為に必要な事なのである
出会いがあれば別れもある
始まりがあれば終わりもある
当たり前のように思える事でさえも、かげかえのない物である事を、生徒会での活動は物語ってくれる
それが本当の意味での、生徒会での活動だったのかもしれない……
第67期 秀知院生徒会
全活動終了
「上杉風太郎は呼ばれてない」
秀知院生徒会会長が普段身に付ける純金飾緒
秀知院200年の歴史の中で受け継がれて来たこの飾緒を手放す瞬間。それが本当の解任式とも言える程大事な瞬間なのである
「…一年間、お疲れ様でした」
黄金に輝く飾緒を木箱に納めた白銀は、そのままコーヒーの入ったコップに手を伸ばす
「「「「かんぱーい!!」」」」
コップを合わせる一行
「これでようやくこの暑苦しい学ランを脱ぐ事が出来る」
「来週からまた衣替えですけどね」
「それな!」
白銀は学ランを脱ぎ、冷たいコーヒーを喉に流し込む
「はぁ〜肩の荷降りた〜!重いんだよこの飾緒」
「まぁ金で出来てますしね」
「へぇ〜…」
「二乃さん?盗らないでくださいね」
「と、盗らないわよ!」
「あー本当にキツかった…こんなの1年やればもういいわ。後は優秀なのが跡を継いでくれる事を祈るばかりだ…」
「うーん会長の死にっぷりを見ててやりたいと思う人は居ないと思いますよ〜」
「まぁ考えるだけ考えてみてくれ、会長役は大変だがそれに見合ったメリットもある」
生徒会特権!
学力本意の秀知院に於いて、勉強以外の活動は基本的に倦厭される傾向にある。その為委員会役員や生徒会役員には秀知院大学への進学点、資格取得の補助金、自習室利用の優先権
などなど数々の特典が与えられる。
特に生徒会会長のみに与えられる『秀知院理事会推薦状』は世界中の大学や研究機関へのプレミアムチケットであり、この推薦状を獲ればもう1ステップ上の夢を描く事が可能となる!
「一花はどうだ?立候補してみる気は無いか?」
「えー私〜?ん〜…女優の仕事で今はそれどころじゃないかな〜」
「そうでしょうか?生徒会長の地位は良い売名にもなるかと思われますが…?」
「四宮さん甘い!私は実力で有名になりたいの!」
「…フッ…いい心意気だな」
「はーい!私が生徒会長に立候補しましょうか!?」
「…四葉が生徒会長か……ダメだ、恐ろしい未来しか想像出来ない…!」
「なぜッ!?」
白銀の言葉に驚きを隠せない四葉
すると、そんな四葉のうさ耳リボンを掴む男がいた
「…お前ら、もう少し静かに出来るか?周りの客の迷惑だ」
「上杉!何故ここに!?」
「何故って…俺はここでバイトしてるからな」
上杉が務めるケーキ屋「REVIVAL」
彼はホール担当として去年から働いている
〈あ……そうだわ、上杉さんが生徒会長になれば…〉
「そうです、会長…」
「おいおい四宮、俺はもう
「あ……そうでしたね…」
〈……あれ?会長が会長じゃ無いならなんて呼べば良いのでしょうか…〉
呼び方!
相手をなんと呼ぶかは親密さの物差し!
また、「私と貴方はこの位の距離」と明言する事でもある!
役職呼びが出来なくなった以上、相手との距離感を改めて定義しなくてはならない!
〈会長が駄目ならえっと……白銀さん?白銀くん?…み……御行くん……〉
「…ところでお前ら、何か追加注文するものはねぇか?」
〈なんて……下の名前で呼ぶなんて恥じらいの無い事出来る筈ありません。私はそんな軽薄な女じゃ…〉
「あ、ミユキ君もおかわりいる?」
「お…サンキュー、一花」
〈!?〉
「ミユキ君はコーヒーだったよね」
「あぁ」
〈!!〉
「ミユキ君はホットが良い?アイスが良い?」
「じゃあアイスで」
「はーい!フータロー君、ミユキ君にアイスコーヒー一つ〜」
〈
「…二乃、お前はどうする?」
「じゃああたしもミー君と同じので頼むわ」
〈ミー君!?あっ「みゆき」の「み」で「ミー君」ですか!?かわいいわ!!〉
「あ、タピオカミルクティーあるかしら?」
「無い」
「…あっそ、じゃあミルクと砂糖も付けて」
〈なるほど
『こんにちはミー君さん』
『さんはいらん』
〈これっぽっちも恥ずかしくない!これは頂きました!〉
「はいよ、持ってくるからちょっと待ってろ」
「一度には大変でしょう、私上杉さんを手伝って来ます。アイスコーヒーでいいんですよね?み──」
「……」
「……会長」モジモジ
「だからもう会長じゃないんですって」
全然駄目だった
「……そうか、
「えぇ、早いもので…」
「白銀がもう1年会長をやってくれたら、全部丸く収まるんじゃないか?」
「駄目ですよ。この学校の生徒会長は激務……勉強もバイトもしながらしてた会長がちょっと
「……そうか、まぁ…俺には関係無いがな…」
「……」
〈そうよ…こんなのは……ただのわがまま……〉
無慈悲にもかぐやの言葉を切り捨てる上杉
だが、生徒会の一行が解散し、上杉もバイトが終わり帰路に出ようとした時だった
「……ん」
「…お疲れ様です。上杉くん」
「五月…帰ったんじゃなかったのか?…っ」
五月は黙って上杉にスマホの画面を見せる
電話の通話画面、上には「お父さん」と表示が出ている
「父から電話です。上杉くん…君を呼んでいます」
「……」ゴクッ
独特な緊張感が、上杉を包む
五月からスマホを受け取り、ミュートを解除し耳に近付ける
「…もしもし、上杉です」
『あぁ…毎度すまないね、上杉君』
「…本日は一体どんなご用件でしょうか?」
『なに…ここで一つ、君の技量を確かめさせて頂きたくてね……前期の生徒会が解散したという報告を受けた。そこで君に提案だ』
「……」
『君に、次期生徒会長に立候補してもらいたい』
「…っ!?」
中野父から放たれた言葉は、上杉を硬直させる
『秀知院生徒会会長の地位は巷でも高い評価を得ていてね…そんな希望ある若き者に娘達が教わっている、というのは私としても鼻が高い。君には是非当選して頂きたいのだが…』
「ちょ…ちょっと待ってください!いきなり生徒会長って…!」
『勿論、当選結果によって君をどうこうするつもりは無い。落選しても君には変わらず娘達の家庭教師をお願いする予定だよ』
「……ホッ」
お願いする予定、という言葉には少しだけ引っかかったものの、彼の意向を聞いて上杉はホッとする
『…だが、君が生徒会長になった暁にはそれに見合った報酬を与えよう』
「…えっ?」
『もし君が生徒会長に選抜されれば…今の給料を現在の2倍…いや、3倍にしよう』
「…っ!?」
『…さっきも言ったが、これは君の技量を確かめる為のただの提案だ。受けるか受けないかは君次第……』
「受けます」
『……ほぅ』
「必ず生徒会長に当選し、同時に娘さん達を全員笑顔で卒業させます!」
『…そうかい。では、これからも励たまえよ』ピッ
そこで会話は終了した
スマホを降ろした上杉は無表情のまま立っていた
「……上杉くん?父はなんと…?」
デジャブな展開に疑心感を抱く五月
すると、上杉がゆっくりと振り返った
「……世間話をしただけだ」ニヤニヤニヤニヤ
「なんで世間話でニヤついてるんですか!?」
《生徒会長になれば…給料が3倍に…3倍…という事は、現在の5人分の給料2万5000円が3倍に…総額で7万5000円…1回の授業で……》
「……えへ…えへへへへ」
「気持ち悪いですよ!?」
「…ハッ!……ゴホン!」
気持ちを整えた上杉は五月に問いかける
「…五月…生徒会長になるには、どうすればいい?」
翌日──
《…あとはこれを先生に渡せば良いんだな》
その日、生徒会選挙の申込書を持った上杉は職員室に向かっていた
「……失礼しました」
「……ん」
すると、ワイシャツ姿の白銀が職員室から出て来たところだった
「上杉、それは…?」
「…生徒会選挙申込書だ。色々あって生徒会長に立候補する事になったんだ」
「…生徒会長に…そうか……」
「…んで?お前は何しに来たんだよ」
「……俺も同じだ。生徒会選挙の申込書を提出しに来たんだ」
「…な、何故だ?もう生徒会長にはなる気は…」
「俺もそのつもりだった…あれも、書くだけ書いて出すつもりは無かった……だが、一生に一度…根性見せる時が来たみたいでな」
「……そうか。お前も俺と同じか」
「今日からはライバルだな、上杉」
「…あぁ…ぜってー負けねーからな、白銀」
白銀の横を通り過ぎる上杉
互いの健闘を祈り、2人はそれぞれの道を歩む
全ては、生徒会長になる為
それぞれの思いは、時にぶつかり合い、激しく反発する
次回!
漢と漢の勝負編!開幕!
「……ミコちゃんは今回参戦するの?」
「…勿論。それが私の目標だもん、それはこばちゃんも知ってるでしょ?」
「…うん。変わらないね、ミコちゃんは……」
「……絶対生徒会長になる。全ては…」
中庭の掲示板に貼られた選挙告示の表を見つめながら、少女は高らかに呟いた
「……この学園の為に…!」
次回
第24話「五つ子ちゃんは支えたい」