もう忘れてしまっている人も多いかと思いますが…
次の更新がいつになるかまだ分かりませんが、今後ともよろしくお願いします……
「……もうすぐ中間試験か。あいつら、今回は上手くやれるだろうか…」
「次、赤点をとったら留年……相当緊張感が走るでしょうね……」
「……頼んだぞ、風太郎…」
土曜日──
「……遅いですね…」
自宅にて上杉を待つ五月。いつも通りの時間にやって来ない上杉を、五月は不思議に思っていた。
「家庭教師の土曜日……せっかくみんな集まっているというのに、何をして……っ!?」
廊下まで出て来た五月、すると彼女は信じられない光景を目にする。
「上杉君!?」
「……」
廊下にうつ伏せで倒れている上杉を発見したのだ。
「ど、どうし……」
「……」
「…!……死…」
「……」スピー
「……死んだように寝てる…」
「…またやってしまった…勉強に集中しすぎて気付いたら朝だった……しかし、朝勉は効果的と聞くし一概にに悪いとも言えないのかも…」
《クソ……大事な時間を失っちまった…》
「朝まで勉強する事を朝勉とは言いません。あなたがあまりにも遅いので、みんなで先に始めていますよ」
「……っ」
何の気なしに言った五月の言葉に、上杉は呆気にとられていた。
「…お、おう…試験まであと一週間だ。そこで……」
「……?」
「これを用意した!」
上杉は自分のバックから広辞苑並の厚さの手作りテキストを取り出した。
「……」
「今回の範囲を全てカバーした想定問題集だ。人数分用意したので課題が終わり次第始めてもらう。これを一通りこなせば勝機はあるはずだ!」
「…や、やっぱ今日の約束はなしで!お引き取りください!」
「逃げんな!お前がこれをお引き取るんだよ!」
「……こんなに……っ!」
渋々問題集を受け取った五月。しかしその内容を見て、五月は軽いため息をした。
「…呆れました。まさかこれが原因で徹夜したんですか?」
「そ、そんな事どうでもいいだろ」
「……」
「……お前たちだけやらせてもフェアじゃない。俺がお手本になんなきゃな」
「……お手本…って…」
上杉の意味深な言葉を聞き、五月は不思議とその言葉を反芻した。
「つーか誰か逃げ出さないうちに行こうぜ」
「は、はい…そうですね。また二乃を引き留めるのは骨が折れそうですから」
「もう逃げようとしてたんだ。あいつ……一言灸をすえてやらねばならんな!」
上杉は意を決して部屋の中に入って行く。
「あの…!揉め事は勘弁してくださいね?時間は限られているんです。みんなで仲良く協力し合いましょう!」
「……みんなで仲良く…ねぇ」
上杉と五月は部屋に入るやいなや、みすぼらしい光景を目にし、五月は思わず目を泳がしていた。
「三玖!この手をどけなさい!」
「二乃こそ諦めて」
「……」
二乃と三玖はリビングの中央でひとつのリモコンを二人の手で力強く握っていた。
更に二人ともお互いの目を睨み合っている。さながらハブとマングースの喧嘩を見ているかのようだった。
「はぁ?あんたが諦めなさい!」
「諦めない…!」
「……はぁ…」
なんだかんだと、この光景は正直慣れてしまっていた。上杉は深いため息を着くと共に、二人の仲裁に向かった。
「お二人さん?何やってんの?」
「リモコンを渡しなさい!今やってるバラエティにお気にの俳優が出てるんだから!」
リモコンを三玖から引き剥がした二乃はテレビをバラエティ番組のチャンネルに変えた。
「ダメ!この時間はドキュメンタリー。今日の特集は見逃せない…!」
今度は三玖が二乃からリモコンを取り返し、戦国時代のドキュメンタリー番組のチャンネルに変えた。
「フータローはどっちの…──」
「勉強中は消しまーす」
「「あぁー!」」
上杉は三玖からリモコンを取り上げて問答無用でテレビを消した。
「チャンネル争いかよ、くだらねぇ」
普段かららいはとテレビのチャンネル争いなどしたことが無い上杉にとっては、この出来事は些細すぎるものだった。
「前から思ってたが、あの二人仲が悪いのか?」
「んーどうだろう。犬猿の仲って奴?」
一悶着後、上杉は一花に耳打ちする。
「特に二乃。あんな風に見えてあの子が一番繊細だから。衝突も多いんだよね……はーい!みんな再開するよー」
「……」
その場を仕切り始める一花。だが、上杉はそれに乗ることはなく、ただ胸の内にある何か、嫌な予感のようなものを感じていた。
「それじゃフータロー君」
「……っ」
「これから一週間、私たちのことをお願いしますっ」
だが、それはただの気のせいと思い込んだ上杉は、投資を燃やして不敵な笑みを浮かべた。
「……あぁ、リベンジマッチだ…!」
五つ子豆知識
中間試験突破の為、再び風太郎を呼んだ中野家。
しかし、この出来事が大きな波乱を産む事を、この場の誰もが知る由もなかった……
「中野二乃は戻らない」
「……で、なんでこうなった」
「……」ズーン
翌日、白銀家に訪れた上杉。
そんな上杉は白銀の前に正座すると共に気まずそうに顔を俯かせていた。
「一晩経った後にこんな事を言うのはどうかと思うが……なぜ我が家に二乃が居座っている?…なぁ、風太郎ぉ…?」
「……」ギクッ
そして、そんな白銀の右手には、何故か二乃が不機嫌そうに座っていた。
「……最初から話そう。昨日からお前たち6人は、中野家で来週の試験に向けて勉強する予定だと五月から聞いた。そして迎えた昨日…の夜、バイトから帰宅した俺の家のリビングには、顔パックをしたままくつろいだ二乃が居た……どういう事か説明してもらおうかぁ…?」
「す、すまん御行…!二乃には自分の家に帰らせる!これ以上お前達の家に迷惑はかけない…!」
「…と、言っているが……二乃、お前はどうするつもり──」
「戻らない!」
「だそうだ」
「……っ」
真顔で上杉の顔を見る白銀。上杉は顔面蒼白で二乃を見ていた。
これは、昨日の出来事である──
パチンッ!
広いリビングに、鈍い音が響く。部屋が無駄に広いせいか、その音は彼女らの中で何度も反芻した。
「二乃、謝ってください」
力強い口調で、五月は二乃を攻める。二乃の足元には散らばった問題用紙、一枚は半分に破られている。赤く腫れた二乃の左頬、その表情は驚きと困惑で満ちていた。
パチンッ!
再び鈍い音が響く。今度は二乃が五月の頬を叩いた音だ。その光景を見て、上杉に三玖、一花と四葉は呆然と立ち尽くしてしまう。
「……五月…急に何を…」
「この問題集は、上杉君が私たちの為に作ってくれたものです。決して粗末に扱っていいものではありません」
五月は更なる目付きで二乃を睨む。
「…彼に、謝罪を」
「あんた…いつの間にこいつの味方になったのよ……まんまとこいつの口車に乗せられたってわけね。そんな紙切れに熱くなっちゃって…!」
「ただの紙切れじゃない。よく見て」
「…は?……っ!」
すると、三玖が二乃に用紙を拾うように催促する。二乃は呆れた様子でそれを拾うと、目を見開き驚きの表情を見せていた。
「彼はプリンターもコピー機も持っていません。本当に呆れました……全部手書きなんです…!」
「……だから何よ…」
「私たちも真剣に取り組むべきです!上杉君に負けないように!」
「……私だって…」
ふと、二乃は一花と四葉に視線を移す。
「二乃…」
「……っ」
心配そうに見つめる一花と、宥めようとする四葉。
「……」
「…いい加減受け入れて」
視線を戻すと、三玖がそう言い聞かせた。
「わかったわ……あんたたちは私よりこいつを選ぶってわけね…」
俯いた二乃は、震える声で呟いた。
「いいわ…こんな家出てってやる」
「…っ!二乃、冷静になれ…!」
「そうです!そんなの誰も得しません…!」
「…前から考えてたことよ…この家は私を腐らせる」
「に、二乃っ…こんなのお母さんが悲しみます!やめましょう!」
「……っ」
早まる二乃を必死に止める五月。だがそんな彼女に二乃は反撃する。
「未練がましく母親の代わりを演じるのはやめなさい」
「…っ!」
「……」
その言葉に、五月が反応した。その変化を、上杉は気付いていた。
「二乃、早まらないで…!」
「そうそう、話し合おうよ」
「話し合いですって?先に手を出してきたのはあっちよ…!あんなドメスティックバイオレンス肉まんおばけとは一緒にいられないわ!」
「ド…ドメ…!肉…!?」
二乃の言葉に目元をピクピクしながら動揺する五月。次第にその表情は形相を変える。
「そんなにお邪魔なようなら私が出ていきます!」
「あっそ!勝手にすれば?」
「…ど、どうすれば……」
「…まぁ、大体分かった」
「……その後、1度は治まったらしいのだが…俺が帰った後にまたヒートアップして、2人はそのまま部屋を出て行ったそうだ」
「なるほどな…」
2人っきりになった上杉と白銀。
白銀は上杉から件の経緯を聞き、深いため息を付いた。
「…で、五月は今何処に居るんだ?」
「……お、俺の家だ」
「はぁ〜…なんでよりによってあの姉妹は貧乏宅に押しかけるんだ……」
五月と二乃の安否は確認済み。だが懸念する事はまだまだある…というかそちらが本題だ。
「試験まであと一週間を切ってるぞ…このままで大丈夫なのか?」
「……グッ…ぐぬぬ…」
「……」
(…すげっ…ぐぬぬって口で言ってる奴初めて見た)
歯を食いしばり拳に力を入れた上杉を見て白銀は不意にそう思った。
「と、とにかく!二乃と話をさせてくれ!俺があいつを説得してみせる!」
「……そう簡単に行く話だとは思えないが…まぁ…」
(ここで折れるようなら、この先風太郎はあの姉妹の家庭教師をやっていけないだろう)
白銀は立ち上がり、二乃が居る部屋の前へと上杉を案内した。
(…なら今の俺に出来る事は、風太郎の背中を後押しする事だけだ)
「…二乃、風太郎がお前に話をしたいそうだ」
「絶対イヤ!そんな男とっとと帰して!」
ドアの向こうから籠った二乃の怒号が聞こえる。
「二乃!俺の話を聞いてくれ!」
「……」
「今回の試験でお前らが落ちたら、今度こそお前達は留年だ!今後五人で一緒に居られなくてもなっちまうかもしれないぞ!?」
「……」
「二乃…お前は誰よりもあいつらが好きで、あの家が好きだった筈だ…!」
「……」
しばらく、静かな時間が流れた。
だが、そんな静寂はすぐに終わった。
「…だから知ったような口きかないでって言ったでしょ!よりにもよってあんたが……こうなったのは全部あんたのせいよ!」
「……っ」
「あんたなんて来なければよかったのにっ!」
二乃のその言葉が、上杉に響いた事を白銀は理解した。
「二乃…!いい加減……」
「良いんだ、御行…」
「……風太郎…」
「…二乃、また来る」
上杉はそう吐き捨てると、白銀の家を後にした。
「……風太郎…」
その後ろ姿を、白銀はただ見ていることしか出来なかった。
「……」
ドアの反対側に体育座りをした二乃は、そのまま濡れた目を擦った。
「……私は…間違ってないわ…」
そう自分に言い聞かせるように、二乃は何度も反芻した。
狭い筈の四畳半の部屋が、無駄に大きく感じたのは、この時が初めてだったと、後の二乃は語った。
本日の勝敗
白銀圭の敗北
(藤原家でのお泊り会から帰って来たら見知らぬ人に部屋を占拠されていたから)
次回
第29話「上杉風太郎は諦めない」