まあ、それでこそですよ。
優しさとか愛情とか簡単に伝わってしまったら、恥ずかしくてやりきれませんから。
悩め若人、青春青春。
それがなかったら、という事で。
夏の終わりに告白をして、不穏な空気の秋を抜けて。雪輝く冬の山の中、私たちは二人きりで向かい合っている。
雪のせいか外の音は気にならず、心臓の鼓動だけがやけにうるさい。
「二人きり、だね」
沈黙に耐えきれないまま、ポツリと呟く私。
それに応えるように、大喜も口を開いた。
「そうだなー……。参ったなあ……」
不安になるのもバカらしくなったのか、その声は何処か捨て鉢だ。
まあ、そうだろうな。この状況じゃあ。
かろうじて外気は防げるけれど頼り無い山小屋の中、私たちは二人きり。
二人きりで、絶賛遭難中なんだから。
上手く距離を掴めないまま、あの日から時間だけが過ぎていた。大喜が好きだと言ったけど、返事は聞かないし聞きたくない。と言うか分かりきっている、大喜が好きなのは千夏先輩なんだ。私が告白したって、割り込めるわけがない。それでも女子として意識させることくらいは成功したんだけど、それだけじゃなぁ……。
本音を言えば、私を好きになってほしい。先輩の事なんか考えないで、私だけを見てほしい。でもそれを言ったら、きっと大喜に嫌われてしまうから。だから、言えない。言わないから、伝わらない。簡単な話だけど、どうにもならない話だ。
大喜がとっとと千夏先輩にフラれちゃえば良いんだけど、それは流石に考えちゃいけないよね。
まあ、それに。千夏先輩相手にオロオロする大喜も、見てて楽しいし。
もし私が大喜を、好きにならなかったら。友達のままだったなら。きっと二人の関係を応援して、楽しい日々を過ごせてたんだろう。
でも、なってしまった。友達のままではいられなくなった。だからもう、その話はおしまいなんだ。
……そんな風に割り切れたら、苦労はないんだけど。
あれこれ悩み、よろめきながら進んだり戻ったりして、今年も暮れようとしていた。
そんな折に、他ならぬ千夏先輩から誘われて。私たちは――どういうわけか、年越しスキー旅行をすることになったのだ。
そんな昭和の大学生みたいなイベントを、しかも本人はウインターカップ明けという弾丸スケジュールで敢行しようと言うんだから開いた口が塞がらない。なんなのこの人。その上メンバーは私と匡と大喜に千夏先輩、いつものズッコケ四人組といえばそうなんだけど、そうなんだけど。日帰りで遊び行こう、ってんならまだしも、さ。匡はどうでもいいけど、何で微妙な関係の三人がお泊まり旅行なんか。
とは言え大喜と近付くチャンスを逃したくはないし、断ったりはしないけど。
……んでもってまあ、色々とあった末。
私たちはコースを外れて山道をさ迷った挙げ句、こうして山小屋へと避難する事になってしまったのだ。
なんとまあ、出来すぎた事だなあとは思った。
とりあえず怪我はないし、さしあたって命の危険も無さそう。どうやら今も使われている山小屋らしく、小さいとは言え灯油ストーブもある。一晩過ごすくらいなら問題ないだろう、スマホは圏外だけど。
これは緊急避難なわけだし、ストーブが頼り無いから肌を寄せて暖めあう、なんてのも許されるだろう多分。全部冬のせいにして、オトナの階段を登ってしまっても良いんだけど。良いんだけど……うん。
何て言うのかな、ギクシャクしてしまう感じ。なまじっか「異性」として意識させてしまったせいか、私はともかく大喜が大分疲弊してしまっている。というか、割とバグっている。
ま、そうだろうな。大喜、バカだからね。処理しきれないか。
今ごろ千夏先輩は、どう思っているやら。私たちが暗がりにシケこんだ、とか誤解して宿に戻ったりしてそうなんだけど、そうなると助けは期待できないな。夜が明けて天気が回復しないと、動けないかも。
二人で新年を迎えるのは良いんだけど、もうちょっとロマンチックな感じが良かった。
――まあ、良い機会かもしれない。
「私さ、……焦ってるからね」
ポツリと呟くと、頭を抱えていた大喜も流石にこっちに向き直った。
そう、私は焦っている。今は返事なんかいらない、と言ったけれど。私を「
正直、辛いんだ。大喜が千夏先輩を好きなことが、そしてそれを覆すことが不可能だと分かっているのが、辛い。この気持ちを抱えて生きていくのは、辛すぎる。
私を好きになってほしい。私だけを見てほしい。そう言えないのが、一番辛い。
いつか大喜が心変わりしてくれるを待つなんて、そんなのは――。
「……雛。あのさ……」
柄にもなく真剣な顔をする大喜、その唇が続きを奏でるより早く、指先でそれを制する。
長い付き合いだ、お互い顔を見ればあれこれ察することが出来る。それなのに、肝心な所だけが伝わらない。
全く、因果なものだ。
「良いんだよ、別に。言ったでしょ、先輩を好きなのはそれで構わないって」
構うけどさ。でもそれを、言いたくはない。大喜の気持ちは、大事だから。
でもそれはそれとして、少しは焦ってほしいんだ。このままズルズルなんとなく曖昧なまま終わるなんて、耐えられないから。
お互い毛布にくるまれたまま隣り合って、ただ無言のまま。
年の終わりと、新しい年の始まりを、ただ共有していく。特別な時間を、過ごしていく。
次の一年は、どうなるんだろう。私は、どうするんだろう。
そんなことを思いながら、寄り添いあって。ただ、二人きりで沈黙していた。
「あ、大喜くん!……と蝶野さん、無事だったみたいだね」
新年の朝日を浴びながらどうにか戻った私たちを、不安げな顔をした千夏先輩が出迎えてくれた。
私が考えたみたいに邪推したりはしなかったみたいだけど、それでも色々と良くない事は想像したんだろう。
まあ、千夏先輩にも焦ってほしいけどさ。この人が圧倒的過ぎるせいで、私が大変なんだし。
――まあ、良いや。こうして心配かけた事自体は心苦しい、それも確かだから。
さて、どうしようかな。
ここから如何にして、進めていこうか。
ジャイアントキリングをキメる、その時を目指して。
ド定番イベントってやつです。