これは、砂の国で行われる恒例行事

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とある大砂漠にて

 ここは大砂漠。日射しが激しく主張し、砂粒が頬を掠めるように舞う熱砂の大地。

 私は今、撃龍船という決められたハンターや乗組員しか乗ることが出来ない船にいる。船の名前は峯山丸と言ったか。

 ロックラックはある時期になると季節風が吹く。季節風が吹くと、アイツ───峯山龍ジエン・モーランが砂を嵐のように巻き上げながら姿を現す。

 一定周期で姿を現す峯山龍は大砂漠の近くにある街、ロックラックにとって恵みのような存在だ。峯山龍の背中から採れる鉱石や本体の素材に高い価値があるが故に、峯山龍が現れたら今回みたいに参加者を集めて撃龍船に乗り込み、追いかける。

 

「ハンターさん、デルクスの群れが見えてきやした!そろそろですぜ!」

 

「ハーイ」

 

 大砂漠を泳ぐデルクスの群れ。砂漠帯を主な生息域とする魚竜種のモンスターだ。この大砂漠にも群れでいる事が多い。

 生き物は誰しも楽をして食事にありつきたいと考えると思うし、モンスターとてそれは多分同じ。ここにいるデルクスも。

 峯山龍を探す上でまず最初はデルクスの群れを探すことが定石となっている理由が、峯山龍の食事のおこぼれを狙っているためである。デルクスが集まってる場所の近くに峯山龍がいる可能性が高いというわけだ。

 

「大砲の玉よし、バリスタの玉よし。」

 

 撃龍船には峯山龍に対抗するための兵器が備えられている。バリスタや大砲をはじめ、船首には撃龍槍と船の真ん中には鼓膜を劈くような音を出す大銅鑼もある。備えは万全だ。

 

「そういやハンターさん、こんな噂知ってるかい?」

 

 船首近くに立って辺りを見回している時にふと、乗組員の一人がこんな話を振ってきた。

 

「どんな噂です?」

 

「今追っているジエンモーラン、コイツに亜種がいるんじゃねぇかって話さ」

 

 モンスターには通常の体色や体格とは違う、亜種という種類がある。例えばリオレイアの場合、通常体色である緑色が桜色だったり、リオレウスの場合は蒼色だったり。交戦経験を持つハンターは多くなくても、知名度だけならば有名だ。

 そんな亜種がジエンモーランにもいるのだという。

 

「見間違え、とかではないんですよね?」

 

 ハンターやギルドではない人達から新しいモンスターを見たとの声が上がることは少なくない。ただ、その殆どが見間違えによるものが多く、一般人から亜種、またはそれに類する種が発見されることは稀だ。

 

「俺が直接見たわけじゃあなくて俺の仲間が見たって、夜の大砂漠で砂から跳び出る、紫色のジエンモーランを見たっつってな。間違いじゃねぇと声を大にして叫んでたぜ」

 

 もしその話が本当であれば大発見どころではない。

 

「因みに、そのお仲間さんはその後どうしたかって聞いてます?」

 

「あぁ、暫く地表で留まってたから後を追ったって言ってたな。ちょうど満月の月明かりのお陰で追いかけやすかったってな。ただまぁ、すぐ逃げられたらしいが─────」

 

 ゴオオォォォォォォ───────

 

 突如、会話を遮るように鳴り響く地響き。どうやら、"アイツ"が来るようだ。

 

「来たぞっ!!野郎ども、迎撃開始だ!!」

 

 この撃龍船の船長が大声を上げる。ついに今回の目標、峯山龍ジエン・モーランが現れたのだ。

 

「さぁて、大物狩りと行きますか」

 

「おおぉ!」

 

 私の誰に向けたものでもない言の葉の呟きに、乗組員たちが威勢よく答える。撃龍船はゆっくりと、ジエン・モーランの方へ進みだした。

 

 撃龍船の乗組員達が興奮した声を上げながら各々持ち場で作業を始める。ジエン・モーランは古龍の中でも一定周期で姿を現すモンスターだ。これまでも峯山龍の狩猟に参加し、対峙してきたハンターや乗組員がいるのだろう。迎撃準備の作業が迅速で滑らかだ。

 

「さて…。ジエンモーラン亜種の話も気になるけど、今はコイツ。やろう」

 

 成功すれば多大な恵み、失敗すれば街の崩壊。これは、ロックラックの街と立ち向かうハンターに大きな恵みと栄誉をもたらす、勇気と繁栄の象徴を相手にした"峯山龍狩り"。

 その光景は、ロックラック地方では定期的に見られる一つの祭り。……そういえば、"峯山龍狩り"をしているハンターの中に、砂嵐が苦手な人が多いって聞いたっけ?そう思い、私は少し笑った。確かに気にはなるけど、これから始まる祭りを前に高揚が勝って気分がいい。

 周りにいる小舟の人たちも連携を取り始め、乗組員達がジエン・モーランに向かってバリスタや大砲を撃ち始めた。

 

「うん、いい狩猟日和だ」

 

 さぁ、祭りの始まりだ。

 

 

 

 

 

 

       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「よぉ、お疲れさん」

 

「…お疲れ様です」

 

 昼間とは真反対の寒さが防具越しの肌で感じる、満月が綺麗な大砂漠の夜。撃龍船の船首付近で風に当たりながらゆっくり休んでいると、峯山龍狩りが始まる前に会話した乗組員の一人が話しかけてきた。

 

「大活躍だったなぁハンターさん。あんさんが採ってきた鉱石、今回ので一番の大物だぜ!」

 

「ありがとうございます。運が良かっただけですよ」

 

 あの後、基本的にはバリスタや大砲で迎撃、隙を見てジエン・モーランの背中に乗り鉱石や素材の採取を繰り返し、同時にロックラックの街からジエン・モーランを遠ざけるように誘導した。

 古龍故に膨大な生命力を誇るジエン・モーランを討伐することはほぼ不可能として、基本的に峯山龍狩りの目的はジエン・モーランの討伐ではない。それは参加するハンターと撃龍船の乗組員の共通認識と、狩りによる負傷者などの被害を抑えるための暗黙の了解で知られている。その中で私は、乗組員達が作ってくれたチャンスを狙い、ジエン・モーランの噴出口に近づいて鉱石や鱗、甲殻を採ってきた。噴出口付近はハイリスクハイリターン、とても危険な場所だけど珍しい素材も眠っている場所だ。正直、とても怖かったけどなんとか乗り切った。

 

「ハンターさんの度胸と力量に助けられたなァ」

 

「そういう貴方も牙を無理矢理斬り取ろうとしてたじゃないですか、傍から見たら危険行為どころじゃないですよ」

 

「ハーッハッハッハッ!!…んん?」

 

 なんて他愛ない話を乗組員の人としていると撃龍船が不自然に、小刻みに震えだした。最初はただ砂が固い地域に入ったのかと思ったけど、少しずつ震えが大きくなっていくのを感じて別の要因だと察した。

 

「お…おぉ…?なんだ……?」

 

 撃龍船の内部にいた他の乗組員達も表に出て来始める。周りをよく見るといつの間にかガブラスやデルクスが姿を現していた。動きも慌ただしい。

 

「おいおい…、まさか昼間のアイツが戻ってきたとかじゃあないだろうな…」

 

 と、次の瞬間─────

 

『ゴオオオアアアァァーーー!!!!』

 

 ドゴオォオン!!という轟音と共に船体が大きく揺れた。声の主であろう者が砂中から勢いよく跳び上がり、大ジャンプを見せたのだ。

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだ!!」

 

「ホントに戻ってきたのか!?」

 

 突然の出来事に皆一様に驚きの声を上げる。そして、私達はその声をかき消すように響き渡る大きな鳴き声を聞いた。その鳴き声は昼間に聞いた、ジエン・モーランそのものだった。ただ、違ったのは─────

 

「紫…色……!?」

 

 月明かりに照らされたその体色。通常のジエン・モーランの体色である砂のような色ではなく、アメジストを思わせるような色だった。

 着地の後、紫色のジエン・モーランはそのまま大砂漠を遊泳する。

 峯山龍狩りが始まる前の会話を思い出す。満月の夜の大砂漠。地表に留まる体色の違うジエン・モーラン。

 

「ジエン・モーランの…亜種………」

 

 丁度今は、眩しささえ憶えそうなくらい明るい満月の夜だ。これは運命的な何かなのか。

 

「ッ…おい!野郎ども、あの紫色のジエン・モーランを追うぞ!素材や鉱石を、欠片でもいいから一つでも持ち帰るぞぉ!!!」

 

「おおぉ!!」

 

 撃龍船の船長さんが遊泳する紫色のジエン・モーランに船を向ける。昼間の峯山龍狩りで疲労困憊であっただろう乗組員も、未知のジエン・モーランの出現に興奮し、疲れを吹き飛ばしたかのように意気揚々と残りのバリスタや大砲の準備を始めた。

 どうやらまだ、峯山龍狩りは終わらないらしい。

 

 

 

 

 これは祭りと称したロックラックの街の防衛クエスト。他の地方では、その一定周期に行われる様子から砂の国の風物詩として知られている。


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