NURUTO   作:ONE DICE TWENTY

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幼少期、もうちょっとだけ続くんだってばよ!

 さて月の国――。

 ものっそいカッコつけて「次会うのは二年半後だ(キリッ」とかやったけど、ワンチャンここで会う可能性があるのを忘れていた。

 別にお目当ての力とかないからこっそり暗躍程度で済ませるつもりとはいえ、鉢合わせる可能性自体はあるのだ。あの時の言葉がナルートに聞かれていないことを祈る。

 

「……まだ豊かだな」

 

 恐らくは、ミチルとヒカルが諸国歴訪の旅に出ていない時期に来たのだろう。あの二人が国外に出たあとすぐ、宰相派のクーデターが起きるはずだから。

 ならば──さっさと国王を見つけるべきだろう。俺がこの舞台で救ってみたいのは三人。国王のツキカケル、近衛兵隊長のコレガ、同じく近衛兵の先輩格のおっさん。

 ハイドやその取り巻きを殺すことはできた。

 では逆に、死の運命にあるこの三人を生かすことはできるのだろうか──という試み。

 

 身分を証明するものなどないため、海を走っての密入国。三日月の形をしたその島の裏手、崖と山となっている部分から侵入する。

 

 金持ち国に入るにあたっての服装は問題ない。短冊街のスロットで目押しで儲けた時、ある程度の服装は買い揃えているのだ。

 中でもこのマントはお気に入りだ。色地を褐返に、白縁で緑の線が幾重にも入ったもの。

 とはいえ、クーデターが起きるまでは森の中で過ごすわけだけど……。

 

「なんかいるなぁ」

 

 顔面、眼球に苦無が刺さる。

 当然ヌル遁アーマーがそれを防ぐけれど、ううん、中々いい腕だ。

 

 宰相シャバダバが雇った三人の忍者。忍術っぽくない……どっちかというとゲレルの石の加工品のようなものを用いて掴んだものを石化させる、リーダー格のイシダテ。

 バラの花びらと香水を用いて幻覚を作用させ、姿を消したうえで感覚を狂わせる紅一点カレンバナ。

 そして、怪力とタフさとトロさを併せ持つコンゴウ。

 

 苦無を使うんだ、この誰かだと思うんだが──。

 

「面倒ね……この時期に不穏分子なんて。それに、目や喉を切り裂いても死なない……」

「うわよりにもよって幻術使いかよ。苦手なんだよなー」

「そう? なら苦手のまま──死ね!」

 

 カレンバナを引いたらしい。

 仕事熱心なことだ。

 そんな彼女を。恐らくどっかからか斬り込んできているのだろう彼女を。

 

 突如球状にまで膨らませたヌル遁アーマーで、飲み込む。

 

「ガ、ボ……う、げぇぇぇぇええッ!?」

「あー、アンタ確か22なんだっけ? まー安心しなよ。俺ロリコンじゃないからさ、たとえ実年齢がそうでも、身体がガキなら興味はないから。女の子とぬるぬるしたものが森の中で、って嫌な展開にしかならないだろうけど──だからこそ、安心しなって話」

「ぐげっ、んぶ、が、ぁあ――ギ」

「ああ、あんまり暴れない方が良いよ。コレ、思ったより硬いからさ。そんな固いものが喉や胃、肺に入ってったら、少なくないダメージを受ける。……そうさな、顔だけだしてやろう」

 

 黒ひげ危機一髪みたいに球状の【緑色の眩いぬるぬるしたもの】からカレンバナの顔だけを露出させる。瞬間、彼女はゴホゴホと咳き込みをし、咥内や喉にへばりついていた【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を吐き出した。

 

「正直に言えばさ、アンタは要らないんだよね」

「な──げほ、ぐ、げぇぇ……っはぁ、っはぁ。いきなり、意味の分からない事を」

「アンタと、あとのあのコンゴウっての? その二人は大筋に影響しない。サクラやリーの強さなんてわかりきってるし。必要なのはイシダテの恐怖だけ」

 

 だから、アンタは要らない。

 

 そう言って手を翳せば――カレンバナは、恐怖に目の色を染めて行く。

 俺がまだガキだとか、素性が知れないとかは関係ない。

 

 ただ、目の前の事実として。

 勝てない──それが恐怖を増長させる。

 

「だからこれは、実験。恨むんなら仕事熱心な自分恨んでよ」

「ま――待て!」

「待たない。──飲み込め」

 

 ()()()()()

 球体が、その口を開く。そんなものはない。俺からは見えない。けれど――確実にある。

 

「い――嫌! やめろ、やめて!」

「何が見えているのか。無数の目? 悪臭を放つ口? コールタールのようでいて、玉虫色に色を変える未知の材質?」

「食われ、」

「なんでもいいか──ヌル遁・栄養分岐」

 

 バクン、と口が閉じる。

 カレンバナは【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の中で咀嚼され、次第にヒトの姿を失っていく。初めはゲレルの石の力を。次はマンダの抜け殻を。そして今、生きた人間を――飲み込んだ。

 糧だ。種だ。

 彼女の情報は【緑色の眩いぬるぬるしたもの】に還元される。

 即ち。

 

「……花びらか」

 

 ズァッ……と、【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が桜吹雪のように飛び散る。俺の手には一枚の花弁。

 空中に分離しても操れるようになった――とかではない。

 

 突如森の木が一本折れる。まるで殴られたかのように。

 

「げ、幻術!?」

「安心しろよ。別に食っちゃいないし殺してもいない。貰っただけだ」

 

 その木をぶん殴ったのは、カレンバナと同じくこの国の宰相に雇われた三忍者の一人、コンゴウ。カレンバナの危機を察してきたのだろう、だが彼が殴り飛ばしたのは単なる木――あるいは、俺に見えていたのだろう木。

 俺の言葉に従うように、俺の背中からヌゥンと出てきた【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が、ペェッと緑色の塊を排出する。

 緑色の塊は、吐き出されたソレから糸を引くようにして剥離し、俺の体の中に戻っていく。

 中から現れたのは──どこを怪我したわけでも、干からびたりもしていないカレンバナ。その長い髪が若干禿げたくらいだ。まぁ元からこれカツラだしな。

 

「おま、お前はなんなんだ」

「……あー、野生動物だよ。喋る野生動物くらい珍しくないだろ?」

「なに、何言って」

 

 こいつらなー。

 人を食い物にして生きてきましたよ、って感じが凄いから、発狂しなそうなんだよな。現にカレンバナ飲み込んだ【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を見ても特に、って感じだったし。

 ……よし、ここは性能テストも兼ねて。

 

「ヌル遁・緑吹雪」

 

 もう一度、全身から【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の花吹雪を出す。ぶわっと広がったソレはたちまちコンゴウを取り囲み──。

 

 いつの間にか、俺の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 王子ミチルとその息子ヒカルが諸国歴訪の旅に出た。

 国王、宰相、近衛兵が揃って彼らの乗る船を見送る中、俺はイシダテの姿を探している。アイツの力は結構危険だ。原理なんか欠片も明かされなかったけど、恐らくは外付けの力を用い、掴んだ対象を石化させる凶悪忍術使い。

 ヌル遁に石化が効くかどうかはわからないけど、注意するに越したことはないと思う。

 

「行ってしまわれましたな」

「ああ……」

「さて、では我らは」

 

 王宮に戻ろうとした隙。国王カケルが宰相から目を離した隙を狙って――凄まじい速度でその腹を狙う存在が一人。そうだ、イシダテはカカーシの雷切さえも避ける速度の持ち主。その速度に近衛兵の一人として気付けない。

 その手が、国王カケルの腹に――触れる。

 瞬間、石化が始まった。腹から足へ、腹から胸へ。そして顔へ届かんとしたあたりで──ぐじゅりと溶ける。

 その在り得ない光景に、イシダテは一瞬にして大きく距離を取った。

 

 周囲、わらわらと出てくる兵士。けれどそれは援軍でなく。

 皆が宰相に唆され、クーデターに加担せんとする者達。

 

「──国王様、こちらへ!」

「うむ。しかし……これが"変わり身の術"……なんとも、奇妙な感覚だ」

「感慨に浸ってる暇あったら馬車まで走りな!」

 

 味方は近衛兵だけだ。

 ゆえに、その隊長であるコレガは王の身を守りつつ馬車を出す。そうはさせじと追い縋らんとするイシダテの前に──褐返のマントを羽織る、低身長の何者かが降りたった。

 何者かはバッとマントを広げる。一瞬、イシダテと馬車を隔てるマント。

 

 たったそれだけで、馬車は広場から、道路から消え去っていた。

 

「……成程。貴様がコンゴウの言っていた幻術使いか」

「まーね。なんでもこの国の宰相殿がクーデターを画策してるとかで、王の護衛に雇われたよ。で、その宰相殿がソレで、アンタ、というかアンタらが宰相殿の護衛、であってる?」

「九割方はあっている。だが──護衛、ではない」

 

 イシダテがその手を掲げる。

 瞬間、手の甲に現れる目。うん、やっぱりゲレルの石の力を取り込んだハイド一派に似ている。こっちの方が純度は高そうだけど。

 それに、さっきの一瞬……国王の代わりに俺の変わり身の術(【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を変形させただけ)を置いておいた時の事。あの手は確実に俺の【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を石化させていた。

 つまり――長らく無敵っぽかった俺の、初めての天敵になり得る、ってわけだ。ウォロチマール戦も結構やばかったけど。

 

「カレンバナは元気か?」

「お前と邂逅した日よりしばらくは塞ぎ込んでいたが、今は問題ない。──そして、彼女とコンゴウから、お前の戦闘スタイルも聞いている」

「奇遇だね。俺もお前の戦闘スタイル知ってんだよ、石化使い」

「ほう……?」

 

 にらみ合いは一瞬。

 いざ尋常に――とした所で、空気の読めない宰相殿が叫ぶ。

 

「何をしているお前たち! 邪魔者は忍に任せ、すぐにでも追いかけて殺せ! 姿が見えずとも逃げる事の出来る場所など限られている! 島の隅から隅まで探せ! 探せ!」

「は……ハッ!」

 

 そうだ、結局幻術なんて世界を改変できるものではない。

 今もこの直線状の通路には国王を乗せた馬車がゴトゴト走っているし、そのまま山中の隠れ家に行けたとしても轍は残る。そこを嗅ぎ付けられたら終わり。

 だから、まずは完全に隠れられるようにするため――俺はこの場の全員をここで引き留める必要があるってコト。

 

「ヌル遁・ヌル陣壁!」

 

 広場を囲うようにして持ちあがるは【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の壁。円形に広がるソレは、俺から見たら綺麗なものだが──。

 

「ひ、ヒィィイイイイ!?」

「な……なんだこの化け物は!」

「嫌だ、嫌だいやだ嫌だ! こ、こんなのに食われるくらいなら……死んだ方がマシだ!」

「はい、わかりました……殺せば、助けてくれるんですよね……」

 

 ま、こんだけ人数がいれば誰かは発狂するだろうと思っていた。

 存外多かったのは、罪の意識にでも苛まれていたから、かね。

 

「解……ふむ、幻術自体を解いてもこの化け物は消えないか。この規模に対し一斉に幻術をかけた所を見るに、幻術に特化した生物……噂に聞く二代目水影の大蛤のようなものか」

「博識だねぇ。だけど――ヌル遁・豪ヌル腕の術!」

 

 肩口から腕の形に形成した【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を振りかぶり、イシダテに殴りかかる。──が、その目のついた手で掴まれる。掴まれ、そこから石化が始まったのを確認した。仕方がないのでその部分だけ切り離せば、ゴトりと落ちた元【緑色の眩いぬるぬるしたもの】がボロボロに砕き割れる。

 

「ふむ……自在に変形・分離が可能か。使い方は主に水遁に似ているが……」

 

 イシダテはダラりとぶら下がった己の腕を見る。

 

「はは、こんな重いとは思って無かっただろ。脱臼したか折れたかは知らないけど、これでもうその手は使えないなぁ?」

 

 言いながら、さっき分離した部分を補填し再形成。更にはもう一本腕を出して、威嚇。

 

「形勢が悪いな。カレンバナ!」

「あいよ!」

「コンゴウ、ぶち上げろ!」

「わかった……」

 

 瞬間、透明になる三忍者と宰相殿。部下は見捨てるのか、それともそれ以上消せないのか。

 直後広場の地面が砕かれ隆起し──恐らく、その場から四人が消え去った……のだと思う。

 

「……解」

 

 カレンバナの幻術。

 ゲレルの石の力を取り込んだ時と同じく、まず【緑色の眩いぬるぬるしたもの】で包み込んで咀嚼し、それを俺の中に取り込んで俺の力にする、というプロセスを取っている。つまり、幻術を使っている最中のカレンバナを飲み込んだから幻術の使い方、という情報を取り込めたのであって、別に彼女の幻術を簒奪した、とかそういうわけじゃない。

 俺というレコードに幻術を記録しただけだ。だから俺はカレンバナの扱うもの以上の幻術は使えないし、【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を介さなければそもそもやり方がわからん。印も知らないしな。

 

 だから、というのは俺の怠慢を晒すようでアレなんだけど、カレンバナの幻術に対し、俺は同等の位置にいるわけだから、彼女を追うことはできないわけだ。彼女も俺を追えないだろうし俺の隠したものを見る事は出来ないだろうけど。

 

「さて……敵戦力が殺し合ってくれるのも自殺してくれるのも大歓迎なんだけど、まぁこの国の国民だしな」

 

 言って取り出したるは縄。

 極フツーの縄。

 それで、一人ひとりを縛り上げる。殺人癖も自殺癖もその他もろもろも、行動封じをしてしまえば関係ない、というのは一般常識である。

 

 そんでヌル陣壁を消して、一応石化してボロボロになった【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を回収して。

 

 俺も国王に追いつくとしますかね。

 

 

 

 

 道に着いた轍や馬の足跡を消しながら山中を上っていくと、見覚えのある三角洞窟が見えてきた。

 一応、マンダに教わった通り悪臭を放たないよう香水をつける。香水つったってその辺の野花をいい感じに配合しただけのものなんだけどね。いや、医療忍術や兵糧丸レベルの知識はなくとも一般に売ってる本で薬学、あるいは調合学というのは学べるもので。

 顔を隠して大道芸やってはした金稼いで勉強用の本買って、って……俺最近すんぎょい勤勉だよなぁ。

 

「ヨゴシ殿、お怪我は!?」

「大丈夫、あの程度にゃ負けませんよ。それより、国王様に怪我はないですか?」

「はい、手筈通りで……こちら、国王様含め以下の損害も出ていません」

「そりゃ重畳」

 

 そう、俺はもうこっち派閥と事前に接触していた。

 勿論金で雇われた、ではなく──あの三忍者に因縁のある忍、という体で。

 

「すんませんね、ベッドの一つでも用意出来たらよかったんだが」

「いや……贅沢など、言う立場にはない。……それより、頼みがある」

「ご子息、お孫さんの護衛、だったり?」

「ああ……察しがいいな」

「それでしたら問題ないスよ。あっちにはあっちで強力な忍が付くんで」

「そうか……手回しが早いな」

 

 ……原作よりは、衰弱していない。

 石化の術を食らっていないからだ。だが……老衰とストレス。そして柔らなベッドから固い岩になったことによる疲れ。あまり耳にしないだろう戦乱の気配。

 それらが色々合わさって、弱ってはいる、といった印象だ。

 

 ふむ。

 

「ちょいと俺は、外で薬草とか滋養強壮のキノコなんかを取ってきます。王宮で出す食事には到底及びませんが、まー元気にはなりますよ」

「ああ、何から何まですまないな……」

 

 

 

 薬草やキノコを探しながらちょっと考える。

 

 そも、こんなに早く事が動く、というのが予想外だった。

 みかづき島はその名の通り三日月の形状で、国領に対して住める場所が結構少ない。だから虱潰しに探されたらすぐに見つかってしまう。ので、映画で起きたクーデターというのはミチルヒカルが帰ってくる直前か少し前くらいのはずなのだ。国王が宰相一派の処断を決意し、宰相一派が流れの忍一族であるイシダテ達を用いて謀反、国王一派が逃げる、という段階を踏むのにこんな短時間であるというのが……おかしい。

 ワンチャン、どころかツーチャンくらい、俺の事が露見したがために宰相一派が事を早く進めた、という可能性がある。王国側も忍を雇ったんだから、これはもう戦争だろう、と。

 

 さて、こーなってくると……ちょいと不味い。

 ナルート達がミチルヒカルの護衛をしながら帰ってくる前に、片が付いてしまう可能性があるのだ。俺のせいで。

 そうなるとミチルが変わる暇もヒカルが勇気を出す暇もなくなってしまう。まぁヒカルは船上で変われるからいいっちゃいいんだけど、次期国王であるヒカルがデブニートのまま、というのが問題だ。

 

 だから、原作通りを貫くためにしなきゃいけないことは──徹底抗戦。且つ深追いはしない。

 彼らが帰ってくるまで国王を生かしつつ三忍者を殺さず宰相を殺さず部下を殺さずこっちの戦力も失わず……という板挟みの状況を続ける必要があるんだってばよ。

 

 正直言って、俺はパワー馬鹿だ。チート能力に身を任せた脳筋スタイルで何とかするタイプ。シカマールのような策士タイプではないため、この長期の板挟み、というのに耐えられない可能性が高い。というか無理。とっとと潰したくなる。

 ……別に、良いんじゃないか?

 次期国王が育たなくたって……というかクーデターが無ければ自立できない王子なんか最初から国を治めらんないでしょ。逆に元から立ち直れる、自己を見つめなおせる素質があるなら、クーデターが無くても変われるはず。

 

 国王とコレガ、近衛兵のパイセンの命を救ってみたくて来た月の国だけど、幻の地底遺跡だってばよ、を完全に潰すことができたのを鑑みるに、みかづき島のアニマル騒動だってばよ、も潰せる可能性は高い。可能性可能性うるさいな。

 

 木の上に登る。

 

 ……忍者はともかく、宰相殺したら終わりだろ、この映画。

 その妻も。

 

 なら。

 

 

「よし、出来ましたよ。ああ味は期待せんでもろて。王宮で食べてたどの味より不味いと思います。毒見はお好きにどうぞ。それなりの量を用意しましたんで。んじゃ」

「それはありがたいが……どこへ?」

「まー早く終わらせられるんならそれに越したことはないと思いまして。俺の狙いはあの三人だけですけど、物の弾みで宰相殿を殺しちまうってなことは許されますかいや?」

「できれば……平和的解決を望みたかったが。今となっては……それも泡沫の夢か」

「ヨゴシ殿、我々もついていきます」

「いや、俺は一人での方が戦いやすいんで。コレガさん達は国王を死ぬ気で守っててください。敵が嗅ぎ付けないとも限らないでしょうし」

「……わかった」

 

 瞬身の術でその場から消える。

 そして背の高い木々を渡り、王宮へ一直線。

 

 ま、劇場版での出来事がナルートに還元される、ってなことはないからな。

 この国の行く末を案じてのことだったけど──それも俺が気にすることじゃない。

 

 ナルートにお別れの言葉を告げた手前、こんな早くに会うのは恥ずかしいんだ。

 なんで俺の羞恥の代償になってもらうとしよう。

 

「ヌル遁・塗流槍」

 

 背丈に合っていない、と言われた槍を掲げ、王宮の、恐らく王の間だろう窓ガラスに突っ込む。勿論ヌル遁アーマーを纏っているので俺にケガはない。

 勢いを殺すために四つ足になってブレーキ。あ、槍を背負ってるから三つ足だ。【緑色の眩いぬるぬるしたもの】で足を補充するけど。

 

「な、なんだ!?」

「きゃああ!?」

 

 ビンゴ。宰相殿とその奥方を発見した。

 

「簡単に言えばまー雇われの忍でね。アンタの命を取りに来た」

「……! 何をしている! 敵襲だ! であえであえ!」

 

 言葉と共に出てくる兵士たち。おーおー。さっき発狂した奴らじゃないな。

 まだこんなにいたのか。

 

「いくら強くとも、たかだか一人の人間だ! 押せ、押せ、数で圧せ!! 武器を奪い、四肢を奪い、心臓と脳を突けば死ぬ!」

「おおおおお!」

 

 身体を弓なりに引き絞る――とかはしない。

 槍を背負った姿勢のまま、槍を射出する。槍の終端から【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が噴出していて、だからこんな推進力があるんですねーってば。

 

「構えろ! 受けろ!」

「──ガ、」

 

 鉄壁の部隊、なんだろう。

 盾を構え、鎧を着こみ、腰を落として敵の攻撃を弾く。そう想定された部隊なのだろう。

 だが、【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の破壊力を舐めてはいけない。あのウォロチマールが回避に徹した破壊力を舐めてはいけない。

 

 見事塗流槍は盾を、鎧を突き抜け、兵士たちの腹を突き破って進んでいく。

 それはどれだけ進んでも勢いを落とすことなく、果ては城の壁を突っ切って海の向こうに消えて行った。

 

 ──それをもう一本、作り出す。

 

「ひ――」

「嫌だ、嫌だ!」

 

 たったそれだけで士気は落ちる。逃げ出す者、腰を抜かす者。

 忍連合だってナルートの記憶が伝播しなければ、サクーラやヒナータの鼓舞がなければそうなっていたんだ。

 忍者でもない一般の兵士が、それも富の分配に反対する、というだけのクーデターなんてものに加担している覚悟の薄い者が、死の恐怖に耐えられるわけがない。スケェェェェイス!

 

 それでも逃げない者がいるのは流石だが──んだば、もっと化け物っぽくなろう。

 参考にするのは傀儡。胴体から腕を幾本も生やし、その一本一本で槍を握る。腕に纏うヌル遁アーマーは次第に太さを増し、鋭利な爪を生やす。足も同じだ。

 

 そして、極め付けには――尾。

 この世界においては特別な意味を持つソレ。ま、俺は尾獣でもなければ人柱力でもないので尾の数は不定にする。場所も尾の場所であったり背、腹、腕と、色々な場所からそれを出す。ゆらりゆらめく緑色の眩いぬるぬるした尾。

 あるいは――無数の目玉が開き、口が開き、チカチカと点滅しながら悪臭をばらまく化け物。

 

「ァ」

 

 と短い悲鳴を発して倒れたのは宰相の妻。

 正気を保っていられなかったのだろう。発狂ではなく気絶したのは救いか。なんせ。

 

「あ、あが、あがが、ぐふぁ」

 

 その宰相殿は、先ほど塗流槍に貫かれた兵士を――未だ死んでいない、死の淵にある兵士を大層美味そうに齧っているのだから。

 偏食症、あるいは幻覚かね。

 

 さて、こうなってしまえば指揮系統もクソもない。

 パニックだ。逃げることのできる兵士は全員がその場を後にする。怖いから。認めたくないから。あんな、あんなものが自国にいることを。あんなものが自分たちの命を狙っていることを。

 

 そして、逃げた兵士の代わりに。

 

「……見るに堪えんな」

「あの化け物……リーダー、アレだよ、アレ……」

「き、気持ち悪い……」

 

 全員発狂は無し。

 ただ、単純に生物的嫌悪で引いてるって感じだな。

 

「さて、宰相の護衛、及び敵の殲滅が我々の任務だったが……とんだ化け物退治に付き合わされたものだ!」

「いつも通り行くよ!」

「殴るのも、気持ち悪い……」

 

 花びらが舞う。同時、三人の姿が掻き消え――直後には、眼前にコンゴウの姿があった。

 遊んでいない、本気のパンチ。それによって潰えたのは。

 

「ぎゃぁあっ!?」

「コンゴウ!?」

 

 ぺしゃんこになった腕をおさえてコンゴウが下がる。ハハ、このアーマーがどんだけ固いと思ってやがる。素手で殴るなんて下策中の下策だぜ。

 そのまま追撃。手首から先が完全に潰れたコンゴウに対し、塗流槍を射出。その命を摘み取る。

 

 ……摘み取れてないな。幻術か。

 

「戦闘能力、破壊力は大したものだが──注意力は散漫だな」

「ッ!?」

 

 存外近くから聞こえてきた声に全塗流槍を殺到させる。

 ──が、そこにイシダテはいない。

 

 代わりに俺の右半身にあったヌル遁アーマーが石化し始めていた。

 分離する。

 

「そこだ!」

 

 その、分離した瞬間。

 本当に一瞬だ。【緑色の眩いぬるぬるしたもの】は肌から滲み出てくる性質上、分離と再構築はコンマ数秒のインターバルしかない。

 だというのに、そこを狙ってイシダテは苦無による斬撃を放ってきた。

 

「ッ……」

「ふ、やはりな。鎧がどれほど固くとも、本体が無敵なわけではない。──攻略は可能だ」

 

 斬撃。

 それによる――血。出血。

 おお。

 

 初めて、だ。

 初めて、こんな大きな傷を負った。精度も良い。ちゃんと腕の腱を切っている。あの一瞬でよく……。

 

 だらんと垂れ下がる腕。そして傷口からだくだくと流れる血液。

 見れば、イシダテの腕は既に治っているのか、何の苦も無く動かせているように見える。医療忍術でも使えるのか?

 

 おお。

 血か。久しぶり……いや、初めてか?

 自分の血を見るのは。

 

 いやまさか。

 

 まさか緑色をしているとは思わなんだ。

 

「ッ、その血……まさか貴様、本当に」

 

 背中からブシュゥと【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を吐き出し、壁にぶち当てる。

 罅割れてへこむ壁。そしてそこに。

 

「う、ぐ、ぐぐ、が――っはぁ」

「カレンバナ!?」

 

 そう、消えていたカレンバナが姿を現した。

 圧す。圧し潰す。カレンバナの華奢な肢体を、22歳らしからぬ小さな体を――メキメキと、ゴキゴキと音を立てて圧し潰す。

 

「クソッ」

 

 その伸びきった【緑色の眩いぬるぬるしたもの】に、イシダテが石化の術を使う。根本に使えば先端は動かなくなると思ったのだろう。

 

「大正解だ。だけど――」

 

 緑の花吹雪が舞う。

 イシダテが掴んだもの。それは──涙を流しながら気を失っていた、宰相夫人。

 

「幻術だと!?」

 

 彼女は気絶したまま石になっていく。あるいは原作において起きなかった犠牲者であるが、俺もそんなことを気にしてはいられない。

 流れ出でる血は【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の中に溜まっていく。正確には同化していく、が正しいだろう。なんせ、この血さえも【緑色の眩いぬるぬるしたもの】と同質なのだから。そして傷口にぴたりと張り付いた【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が、俺の傷を治していく。

 今まで試した打撲や捻挫といった怪我の類を治療できるのは知っていたけど、切り傷もこんなに早く治せるとは思って無かった。なんで試してこなかったかって、そりゃ痛そうだったからだよ!

 

「ギャアアア――」

 

 ぶち、と。

 人体の潰れる音がした。

 

「カレンバナ!! ――この、よくも!」

「り、リーダー、不味いよ……」

「わかってる! だが、コイツに石化が効くとわかった以上、この化け物を剥がし、本体のこいつを殺すしかない!」

「そそそ、そうじゃなくて!」

 

 ブチ切れた状態のイシダテに、なんとか言葉を伝えようとするコンゴウ。腕を失くして尚戦意喪失していないのは中々見る目があるが──果たして、彼が失っていない方の手で指をさす先。

 そこに何を見たのか。

 

「ま、窓が……黒く」

「──まさか」

 

 そのまさかだ。

 ワンチャン負ける可能性がある。そう思った時点で俺は、廊下についている手足から【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を吐き出していた。

 それは、王の間――最上階のテラスであるここを覆うように。

 

 もう、逃げられないように。

 

「ヌル遁・堆鳬哩――飲み込め」

 

 バクン、と。

 口が閉じる――。

 

 

 

 

 

「いや、すみません。ちょっとアツくなりすぎて、王宮を壊してしまって……」

「いや、そんなものは直せばいい。……礼を。国の危機を救っていただいた」

「そんなつもりはないんですけどね。俺はあの三人を狙ってただけで」

「それでも礼がしたい。何か、報酬とは別に、礼となるものを……」

「あー、じゃあ路銀を頂こうかな。そんな多くなくていいんで。俺、そんな持てないし」

 

 国王と会話をする俺――へ向けられる、近衛兵たちの目は厳しい。

 あのコレガでさえも、片時も見過ごさない、という目で俺を見ている。

 

 多分、見られたんだろう。

 最後の術はかなり大規模にヌル遁を展開していた。心配で王宮の方角を見ていた、というのなら、多分見ることができてしまったことだろう。

 俺にとっては【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が――彼らにとっては、悍ましい怪物が。

 最後に残ったのが俺であることを考えれば、その下手人も。

 

「ご安心を。貰うモン貰ったら今日にでも退散しますよ。ああそれと、後から来る王子たちの護衛は俺となんも関係ないので、そこもご安心ください。どっちかというと俺はあいつらに追われてる……もとい、なんも関係ないのでマジで」

「……わかった。あなたがそういうのなら、そう思うことにしよう」

 

 んじゃま、そーいうことで。

 

 大興奮! みかづき島のアニマル騒動だってばよ――完!!

 

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