NURUTO   作:ONE DICE TWENTY

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ロストタワー後編


繋がるもの(配点:釣り餌)

 ティキリリ、ティキリリと産声を上げて、それなるものが地に浮かぶ。

 かつて日向ネジが見た悪夢そのもの。

 

 黒っぽい玉虫色の、臭くて伸縮性のある蛭が如きナニカ。全身が膨張と収縮を繰り返し、体表には小さな泡がコポコポと音を立てている。身体全体から発する微光。恐らくは顔であろう場所から明滅させる緑光。無数の目。消え、また開き、その一つ一つが同じ方向を向いている。

 普段ヨゴシがソレを纏う時のような無駄──生えたり縮んだりする尾は存在しない。どころか四肢と呼べるようなものすらない。全体像は球体に近く、あるいは一つの星なのではないかと錯覚する。

 その冒涜的な球体は宙に浮き、漂い、恐ろしい月となってアンロクザンを襲う。

 

「なんだ……なんだ、これは! なんなんだコイツは!!」

「理解はしなくていーよ。この世に生れ落ちちゃいけないものさ。俺とおんなじでね」

 

 圧倒的だった。

 そも、本来のこのナニカは、転がって圧し潰すくらいのことしかできない。脳を形成したことで考える知性こそ獲得したものの、単なる小間使いとして製造された彼らに特異で複雑なことなど要求してはいけない。しても意味が無い。

 だけど、ここにいる個体は違った。

 たった数年だ。本来の彼らからしたら、一瞬で過ぎ去るような歳月。

 けれど、濃密だった。何もない所で漂っているより、冷たい雪山で眠っているより、濃密で、何より常に喋っている存在がいた。常に自身へ呼びかける存在がいた。それは意識の散逸しやすい彼ら──彼にとって、その個を確立させるに至る事象だった。

 

 ゆえに、今まで取り込んできた、理解してきたものを存分に使う。

 持ち主と共に在った経験を遺憾なく発揮する。

 

 持ち上げるのは触腕。それは絡め取るものだと知った。刺すものだと知った。振り回し、叩き砕くものだと知った。

 自身の一部を硬質化させることを知った。飛ばし、串刺し、内側から壊すことを知った。

 食べる、ということを知った。口は元からあったけれど、噛み千切ったり飲み込んだりするばかりで、何かを糧にする、という考えはなかった。そんなことをしなくても存在し続けられるがゆえに。そんなことをしなくても、何も問題なかったがゆえに。

 

「口寄せ動物……こんなものまでいるとは、クソ……龍脈の力が、食われる……ッ!」

 

 彼をこの世に留める楔。持ち主。そうである矮小なる存在を見れば、その命に翳りがあることがわかる。

 "ソレ"は彼と持ち主を結び付けた。同一にした。彼は持ち主に招来されたわけでも、鎖で繋がれているというわけでもなく、全くの同一である。ただ、小柄な方が動きやすいから、理性や知識の面では持ち主が優れるから。本当にそれだけの理由で持ち主が主導権を握っているに過ぎない。

 今後その立場が逆転するようなことがあれば、彼と持ち主の主導権は彼に移るのだろう。

 そういうバランスがあるからこそ、彼の存在は持ち主の負担になり得る。持ち主の"耐久値"とでもいうべきものを消費し続けるからだ。このまま彼が地に根を降ろせば、持ち主の"耐久値"が消滅し、持ち主に紐づけられた彼も消滅するだろう。

 

 彼はそれを嫌だな、と思った。

 そんな感情は備わっていなかったはずなのに、もう彼らと彼は違うのだ。

 

 彼が持ち主から全てを吸い尽くす前に。

 目の前の障害を取り除き、持ち主の中に戻らなければならない。

 彼、あるいは彼らは古のものにより製造された作業用の生物である。ならば。

 

 課された仕事をこなす機能はついている。

 今はただ、迅速に。

 

「ギ──?」

 

 方法は心得ている。

 彼に、そして持ち主に、中核を見つける、なんて頭はない。発生源だけを食べればいい、なんて効率的な思考回路は持ち合わせていない。

 

 全部食べればいい。

 溢れ出るエネルギーも、それを扱うものも、目に見える全てを食べ尽くせばいい。

 

 それを、知っている。

 

「な──んだ。身体が、うご、かん……」

 

 食べる。食べる。食べる。

 咀嚼し、捕食し、己が糧とする。

 龍脈の力、と呼ばれていたもの。既にその制御権は彼にある。この場に張り巡らされた力の出口はすべて彼を向く。目の前の障害には一滴たりともやらない。その中に残ったものもの吸い尽くす。抵抗しなくなった部分から噛み砕き、千切り、圧し潰し、食べる。今の今まで再生していた力はない。食べた。だから、もう。

 

「やめろ……やめろ、やめろ、やめろ……!」

 

 ふと──無限に思われた龍脈の力が途切れるのを感じた。

 別に、それでもいい。空腹なわけではない。

 だから、最後まで食べる。

 

「ひ──」

 

 最後の最後まで。

 残すことなく。

 

 持ち主に倣って、最後の言葉は。

 

 ティキリリティキリリ。

 ……彼の口から出た鳴き声に、彼がため息を吐いたような気がした。

 複雑な発声機能は獲得していない……。

 

 

 +++

 

 

 暖かなまほろび。

 今生において得ることの無かったそれに包まれる感覚は、存外に心地が良い。

 本当は現状を確認しないといけないとわかっている。けれど理性を働かせることさえ億劫になる疲労が、この温もりのなかに居続ける事を選ぶ。

 眠る前。

 最後に見たのは、なんだったか。

 

 頼もしい背中……。

 

「背中なのか微妙にわからんとこあるよね」

「起きましたか」

 

 起きた。

 

 ……ん?

 

「おはようございます。そして──ありがとうございました。あなたのおかげで、楼蘭は救われました」

「ん……ん。ん? んー……ん?」

「あなたは崩壊した地下工場の隅で倒れていたのです。思い出せますか?」

「あー……ムカデ……アンロクザンは?」

「彼はいなくなっていました。彼を倒した記憶はないのですか?」

「無い……こともないな。というか、見逃すはずが無いから百パー殺してるはず。……ああ、違う。俺が疑問に思ってるのはそこじゃない」

「なんなりとご質問ください。大丈夫、時間はありますから」

 

 ……。

 え、だからそこが疑問なんだって。

 

「龍脈は、封印した?」

「はい。完全に」

「えーと……それは、後世において誰の力があっても解くことのできないような封印?」

「私達女王の血筋があれば解除は可能やもしれませんが……私はもう、娘にこの力の使い方を教えない事を決意しましたので」

「つまりほぼ百で解除は有り得ないと」

「はい」

 

 ……。

 ……ん~~~~。

 

「じゃあなんで俺ここにいるんだろ」

「それは、私にはわかりかねます」

「だよね」

 

 極度の疲労を頑張って無視して、頭を回し始める。

 俺は龍脈の力に飛び込んだ事で過去に来た。ムカーデが封印を取り込んだ事で龍脈の力が再暴走し、俺とムカーデを過去に飛ばしたんだ。

 けど、その過去において龍脈は完全封印された。つまり未来においてこの暴走はしなかった、ということになるはず。ムカーデも死んでるし。

 

 だから俺が過去に来た、という事実も消えるはずなんだけど……。

 

「アンロクザンの件があってから、何日くらい経った?」

「昨日のことですよ」

「までぃか」

 

 までぃか。

 もしかして……俺、過去に定着しちゃったりした?

 

「それと、一つ。先に謝っておくことがあります」

「え、なに」

「あなたから貰ったあの生きているような苦無を封印の要に使いました。なので、返すことができません」

 

 原因それだねぇ!

 この時代にショゴたんがいるって事になっちゃったねぇ!

 

 あー、でも必死だっただろうし、というかあんなん渡した俺も俺だし。

 えー?

 でも……えー?

 

 確かここって原作の二十年前とかじゃなかったっけ。んで、更にその六年前にムカーデが飛んでて、そのちょっと後に俺が来たわけだから、二十三年前とかその辺?

 ちょいちょいちょい、第四次忍界大戦まで二十年近く待たないといけないのはキツくね?

 つか……まさかとは思うけど、これから第三次忍界大戦じゃね? 神無毘橋の戦いじゃね?

 

 え、うわー。転生者あるあるで過去スタートはたまにあるけど、まさか劇場版を介してそうなるとは露とも知らず。

 

 いやいや。

 参加はしないだろ。帰る手段を探そう。そっちの方が絶対に良い。ここに根を下ろす気なんてない。

 

「楼蘭の復興も必要ですが、まずは英雄に英気を、ということで、食堂に食事を用意しています。食べてくださいますか?」

「うわ魅力的過ぎて食べます」

 

 あっ本心。

 

 ……うん、帰るにしても、もう少しゆっくりしてからにしよーっと。

 

 

 

 

 

 そっから三年が過ぎた。

 

 やっべ、って。思ってるよ、俺。ちゃんと思ってる。

 でもここ凄い過ごしやすいんですぅ。風の国で、けれど周囲が完全な砂だから外敵を検知しやすい。楼蘭が戦火に飲まれたのは目ぼしい戦闘手段が無かったからだろう。波の国と同じだ。

 だから、そういう意味ではムカーデの傀儡兵団は割と理に敵っていたというか。

 今から忍者に対抗できる兵士なんて作りようもない。だから傀儡忍兵団、というのはマジで楼蘭名物の兵器になり得ただろう。その分ヘイトも買うだろうけど。龍脈の力があれば十分……な気がして、でも他国っつか他里の忍は大規模過ぎる忍術使うしどーやろね。

 

 とまぁ話を戻すけど、ムカーデのいなくなったこの国に防衛能力はない。

 そこに俺である。

 

 遠中近距離全対応且つ周囲に人がいなければ広範囲殲滅も可能なフツーにやべークラスの戦力。帰る場所が無いからどっかに行く事も無い。かかるのは食費だけ。

 

 ワオお得!

 

 ……いやね、俺も俺で、拠点らしい拠点持ってなかったからさ。

 いいなーって思っちゃってるんだよね、ここ。二十年前だから追手もいないし。デカい戦争が近いせいで適度に巨大なチャクラ持った奴が襲ってくるし。美味しいし。

 

 帰るにしても、手段を考えるに龍脈の力が必要な気がする。あるいはそれに準じた巨大な力が。

 ただ、やべー事にこっから先の劇場版ってそれらしいエネルギー無いんだよね。極楽の匣に俺を未来に飛ばす力があるとは思えないし……。

 だからとりあえず楼蘭にいる、っていう言い訳。ここが一番可能性があるんだ。

 ワンチャン──ミナートが何らかの事情で来て、封印を取り換えてくれるんじゃないか、って、そういう希望が。

 

 

 

「ヨゴシ! ここにいたのね!」

「おん? あぁ、サーラか」

「何ですかその残念そうな顔!」

「俺は今金髪の王子様を夢見てたからなぁ」

「……誰の事?」

「友達の父親」

 

 さて、三年が経っても身長は伸びないままである俺は、そろそろサーラと並ぶことに恐れを抱きつつ、一応何日かごとにこの奥庭に訪れるようにしている。

 というのも、今年が劇場版の年なのだ、本来は。

 だからいつものチョーシでナルートが穴におっこって龍脈の力とかに巻き込まれて、タイムスリップしてこないかなー、みたいな気持ちで訪れてるんだけど……まー来ない。

 封印されてるっつってんだろ、って感じ。

 

「ヨゴシ、今日はチャクラ刀について教えてくれる約束でしょ?」

「したっけそんな約束」

「あー! また約束を破る気!? ふーんだ、ちっちゃい頃は"約束だけは守るよ、俺は"とかってカッコつけてたくせに、今は全然守ってくれないんだから……」

「守らなくても俺は人間だって保証してくれる人がいるからなぁ」

「ヨゴシが人間でもそうじゃなくても、約束を守らない人はダメ! 違う?」

「それはそう」

 

 でもサーラって一応お姫様でして。

 チャクラ刀、危ないんだよ? というか俺もここ三年でようやく習得したんだよ? なお変化の術はまだです。

 

 ぶっちゃけここまで懐かれたのは計算違いだった。これもやべーって思ってることの一つ。

 もし未来に帰ることのできる算段が付いたら、俺は迷わずそれを選ぶだろう。その時サーラは、と考えると……。ま、悲しませるわな。

 

 幸いにして俺は英雄視はされていない。使う力が力だから、本当にただの客卿みたいな扱いでここにいる。流れの傭兵的な。

 アンロクザンの件の時に地下労働施設にいた男衆は流石に知ってるけど、セーラムが緘口令敷いたのか暗黙の了解になったのか、俺についてを流布する奴もいない。良い奴多すぎな。

 

 だから多分、悲しませるのはサーラだけだ。セーラムは割り切りつくだろ、大人だし。

 

「……ダメだな、やっぱ」

「わかってくれた? じゃあ教えて!」

「いーよ。流石に場所は移すけど」

「やった!」

 

 なら……必要なのは、失望かね。

 

 

 

 

「何故……何故ですか、ヨゴシ!」

「これが俺の本性ってワケだよ、サーラ」

 

 数か月後、コトを起こした。

 百パー見抜いてくるだろうセーラムには全部打ち明けての、茶番クーデター。NARUTO世界じゃクーデターはポピュラーな行事だからね。

 楼蘭の半分くらいの男衆にも手伝ってもらえたし、その家族もなんとなく空気は察している。

 マジでなーんも知らないのはサーラと一部の国民だけ。そんな感じのぐだぐだクーデターは──。

 

「お前が、国家転覆を企てているというヨゴシ、という傭兵であっているかな?」

 

 フクロウの面をつけた金髪の忍の登場により、一気に緊張感の増すものとなる。

 

「サーラ様を今すぐに放すんだ。でないと……」

「でないと、なんだ。木ノ葉の暗部」

「っ……!?」

「名前を言ってやろうか? ──波風ミナト。お前の術も、お前の考えも俺はすべて把握している。改めて言ってやろう。サーラを放さなきゃ、なんだ。何をしてくれる」

 

 ここは龍脈の力の源。封印術の施された場所。

 そこに、両手を縛り上げたサーラと、俺がいる。眼前に現れた仮面の暗部はミナート、シービ、チョーザ。劇場版において本来現れるはずだった者達。

 奥の通路、奥庭にいるセーラムを見る。

 

 ……ははぁ、そういうことか。

 サプライズね。はん、無駄に国庫使いやがって。

 

「……僕たちは、この国の女王様より依頼を受けてきた。傭兵ヨゴシ。君は、未来から来た──未来から来て、この楼蘭を己が物にしようとしている。間違いないかな?」

「随分と余裕ぶるな。お前たちが守るべきサーラは俺の手の中にいて、お前たちの情報は俺が手にしていて。それともなんだ、諦めからか?」

「いいや、違いがあってはいけないからね。再度確認するけど、君が──」

 

 ……波風ミナトは天然だが、マイト・ガイのように本質を見抜く目がある。

 見透かされているかね、これは。

 

 なら強硬手段である。

 爪先から【緑色の眩いぬるぬるしたもの】で刃を作り──サーラの胸元を、切り裂く。

 裂かれたのは衣服。(はだ)ける胸元に、サーラの頬が紅潮する。

 

「!?」

「フフフ……別に、驚く事でもないだろう。この国は俺のものになるんだ。ならサーラも、勿論セーラムも、俺がいただくさ。元々そういう目的で近づいたんだしな」

 

 セーラムの眼光が強くなる。そこまでする必要はないでしょう、という意思が伝わってくる。うるせー。

 

「この国を自分のものにして……どうする気だい?」

「龍脈を俺のものにするのさ。当然だろ? あんな強大な力、封印しておくなんてもったいない。そしてゆくゆくは五大国を、いいや世界全土を支配する……そうだな、その足掛かりはお前ら木ノ葉の里にしてやろうか」

 

 ムカーデの野望そのまんまだ。

 いやしかし、ムカーデはどうする気だったんだろうね。傀儡忍兵団は確かに防御面では優秀だけど、殲滅に向いてるかっていったら微妙なんだよな。傀儡でしかないからチャクラ糸の弱点あるし。繋ぎなおせるっつったって切ったままどっかに保管・封印されたら意味ないじゃん。

 

 おもむろにサーラの胸をまさぐる。

 一気に走る緊張と怒気。セーラムの目が怖い。事情を知ってるはずの他の側近の目も怖い。あの時助けたサーラの護衛の目なんか鬼みたいだ。

 

「ヨゴシ……元のヨゴシに戻って!」

「こっちが元の俺だって。名前の通り、ヨゴレもんなのさ」

「や……やめて、触らないで」

 

 あんまりR18に寄るのはダメだけど、早くアクション起こしてくれないかな。

 こうも膠着状態が続くとこっちもやることなくなってくる。もっと破廉恥なことしちゃうぞげへへ。こっちには【緑色の眩いぬるぬるしたもの】があるんだ。そういう展開にゃもってこいだろ。

 

「……わかった。そっちの要求を飲もう。セーラム様……龍脈の力を解放していただけますか?」

「わかりました。……ですが」

「ええ、わかっています」

「なにこそこそ話してる! 早くしろ!」

 

 ミナートとセーラムがゆっくりこっちに近づいてくる。

 

「待て、波風ミナトはそこで止まれ。それ以上近付くな」

「わかった」

「セーラム。お前はゆっくり、ゆっくりだ。こっちに来て──床に手を付け」

「はい」

 

 まるで、俺がセーラムを土下座させている、みたいな構図に、護衛さんが修羅になる。

 しょーがないだろ封印を色々するにはこれしかないんだから!

 

「封印を解除しろ」

「……はい」

 

 こっちは演技でなく。

 本当に封印を解除していくセーラム。その目には……涙? なんで泣いてんだ? 痛むのか?

 痛むなら別の方法を考えるべきだったか。すまないな。

 

「ふふ、サーラ。よく見ておけ。これからはお前が操ることになる龍脈だ」

「わ……私に、何をさせる気なの……?」

「フフフフ……」

 

 具体的なコトなんも考えてないから笑ってごまかす。

  

 そして──セーラムが、封印を解除する。

 途端、溢れ出る龍脈の力。……これ、俺は平気だけど、サーラが晒され続けんのはやばいな。ちょっと守っておくか。

 

「フフフハハハハハハ! これだ! これだ! これこそが俺の求めていた力──!」

「けど、これが、君の見る最後の景色だよ。──螺旋丸!」

「え──」

 

 呆然と、そう呟いたのは、サーラ。

 そうだろう。だって気付いた時には俺がいなかったんだから。ヌル遁アーマーで衝撃こそ消したものの、ぶっ飛ばされた俺は──地下に溜まりつつある龍脈の中に落ちて行く。

 底なし沼のように俺を絡めとる光の奔流。ふむ、これは……親指を立てるべきかな?

 

「よ──ヨゴシ!?」

「サーラ様、危険です。下がって!」

「けど、ヨゴシが、ヨゴシが!」

「彼はもう助かりません。龍脈の力の奔流に飲まれ──消滅するでしょう」

 

 沈みゆく中、セーラムと目が合う。

 冷たい目だ。よくも娘にトラウマ残してくれやがったな、みたいな目。ハハッ、勘弁堪忍。でも、すぐに優しい目になって。

 

「これは、返さないでおきます。」

 

 小さく呟かれ、胸元にまで持ち上げられたもの。

 それは苦無だった。

 俺の緑無。今の今まで龍脈の力の封印をしていたもの。

 

「──今まで、お世話になりました。ありがとう。そして、さようなら。国家転覆を企てた、SS級犯罪者のヨゴシ」

「どんな結果になっても、やるこた最後までやり切れよ。じゃあな」

 

 お互い馬鹿だと思う。

 茶番なら最後までやり切ればいいのに。俺とセーラムの会話から何かを察したのだろう、波風ミナトが慌ててこっちに何かを投げようとしているけれど、もう遅い。

 

「女王の名のもとに命じます。汝、流れの中にあるものを、元の場所に戻したまえ……急急如律令」

 

 世界が白んでいく。

 だというのに──まだ、何かあるらしい。

 

「ヨゴシ!」

「……」

「私は──貴方を覚えています! 覚え続けます! だって貴方は、本当に」

「ハッハー、余計な事言ってる暇あったら逃げな! ほら見ろ──化け物だぜ!」

 

 天井に届くくらい伸ばすのは【緑色の眩いぬるぬるしたもの】。大パニックだ。ハハハ、気を確かになぁ! 発狂したら忍者かセーラムに助けてもらえ!

 

 ばーか、俺だってなんとも思わないこたねーんだよ、ばーか!

 

「いーよ、覚えてても。俺は忘れるかもしんないけどな」

 

 身体が、消える──。

 

 

 +++

 

 

 暖かなまほろび。

 今生において得ることの無かったそれに包まれる感覚は、存外に心地が良い。

 本当は現状を確認しないといけないとわかっている。でも何かを求める心が、この温もりのなかに居続ける事を選ぶ。

 眠る前。

 最後に見たのは、なんだったか。

 

「……ん?」

「ああ、起きましたか」

 

 おかしい。

 こういうのって、ぶっ倒れて目を覚ますんじゃないの。

 なんで俺宙吊りにされてんの。

 

「──お久しぶりです」

「んー、俺の知り合いにアンタみたいな婆さんいねーけどなぁ」

 

 揺らされる。

 婆さんと、赤毛の……セーラムみたいな女性と、モロにサーラみたいな少女。

 それが、宙ぶらりんの俺を見下していた。あ間違えた見下ろしていた。

 

「え」

「驚きましたか?」

 

 そこは。

 楼蘭、だった。崩れていない。しかも──龍脈が、滾っている。その力は液体のように溜まっていて、そこに俺が浮いているというか、縛られているというか。

 俺の体にはヌル遁アーマーが張ってあって。

 

 その背中に、気のせいでなければ苦無が刺さっている。

 

「あなたの苦無はあなたから発生したものだと教えていただきました。なので、あなたの苦無で釣りをしたら、あなたが釣れるのではないかと思い……今に至ります」

「至らないから。……つーか、もしかしてそっちのセーラムみたいのは、サーラか?」

「はい。二十年前、貴方に辱められたサーラです」

 

 ふむ。

 これは。

 

 これは……また原作破壊ですね?

 

「んじゃ、俺行くとこあるんで」

「どうぞ。──ですが、いつでも帰ってきてください。ここ楼蘭は、貴方の第二の故郷として在り続けます」

「やめといた方が良いよ。国家転覆を企てた犯罪者を擁するとか」

「未遂でしたから」

 

 婆さんとは思えない力で、一本釣りにされる。

 

「おかえりなさい、無剣鐘のヨゴシ」

「……んー。まぁ、ただいま」

 

 そういう次第で。

 

 全然滅んでない楼蘭が、俺の拠点になりましたとさ。

 

 

 +++

 

 

 尚、サーラには普通に夫がいるのでヒロインフラグとかはない。サーラの娘にもない。

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