NURUTO   作:ONE DICE TWENTY

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ちょい長!


誰そ彼そに君思ふ

 キラービーと仲良くなった、というのは収穫の一つに数えられるだろう。

 それとなく聞けば、未だナルートが来るとかそういう話は無いらしい。単純にエーに怒られたから逃げるためにこの島に来ていたのだとか。

 まぁそりゃそうだ。俺がツナーデを起こしてからそんな時間が一気に経った、なんてわけはない。なんならこれから任務があるらしい。となるとこの島でゆったりするのもアリだな、とか思ってた矢先──その任務について、ちょみっとだけ小耳に挟んでしまった。

 

 鬼灯城、匣、侵入。

 まーまー聞いたことのあるワードと、そういやそんな時期だったな、という自分のスケジュール管理の甘さを嘆きつつ──同行をお願いしてみたところ、二つ返事でオーケーが来た。まぁ他の雲隠れの忍は「ビーさん!? ダメに決まってますよ!!」とか「また雷影様にどやされますよ!? いいんですか!?」言ってたけど。

 俺もそう思う。というか雷影に出会ったが最後、また首を狙われると思う。

 

 でも、極楽の匣はそれこそ残しちゃおけない。こっちは食べるべきだとすら思う。

 いやだってアレどこの国が持っててもダメでしょ。六道仙人の時代の最終兵器──とは名ばかりというか、この世に地獄を齎すものだ。あ、確か極楽って地獄の一種なんだっけ?

 今までは食べたくて食べてたエネルギー塊だけど、極楽の匣に関しては食べる必要があって食べるつもり。映画の後極楽の匣がどうなったのか、っていう描写も無かったのが怖い。

 

 まー中の人間はしゃーなし。出し方知らんし。カレンバナみたいに咀嚼した後出せたら出すよ。サトリになってなきゃな。

 

 んで、同行を申し出はしたけど──。

 

 

 

 

「ま、全部が終わってから登場、なんてのはヒーローやその仲間のすること、ってね」

 

 in鬼灯城なう。

 禁錮術たる火遁・天牢を施された囚人が数多く収監されているこの城は、草隠れの里が管理する刑務所。ビンゴブックに乗るような犯罪者の集う場所である。囚われているのが忍であり、火遁・天牢がチャクラを抑えつけるものであるからプリズンをブレイクすることは非常に難しく、ゆえに各国の問題を起こした忍たちが入っている……のだが、その裏には草隠れの陰謀が……! みたいなのが映画ストーリー。

 ただ、警備が強固という割には監視の目も少ないし、結構開けているので侵入は簡単な部類だった。なんだかな、という感じ。

 深く流れの早い海は確かに自然のお堀にはなってるけど、飛べる忍や水中活動のできる忍にとってはうーん、そうでもないんじゃないかなぁという感じ。

 

 とかそんな感じでやってきました鬼灯城なんだけど、いや、いや、なんだか懐かしいね。

 勿論鬼灯城に来たのは初めてなんだけどさ、こーやって天守閣の、更に上、屋根の上で空を見上げて……っていうのは、俺がもっと小さかった頃に短冊街でやってたこと。ジラーヤと出会ったあの頃に似ている。

 

 これで曇ってなきゃ最高なんだけど、雷の国にそれを期待するのはナンセンスか。

 

 そんな風に曇り空を眺めている時だった。

 けたたましいサイレンが鳴り響く。これも懐かしいな。空忍の戦艦食べた時もこんな音が鳴っていた気がする。

 

 して、俺のいる屋根瓦から──眼下、左下。

 オレンジの影がもぞもぞり。

 

「く……うう、うっ……っはぁ、っはぁ……クソ、やっぱ分身を一体作るのがやっとだな……」

 

 ナルートである。

 ……うぇぇ……。

 これ、確かマローイがナルートを安全な場所である懲罰房に送るためにわざと逃がした、みたいな話だった気がするんだけど……接触はすべきかなぁ。

 

「っはぁ……っはぁ……アレ……ヨゴシ?」

「こういう時だけ目ぇ良いよなお前」

「幻……いや、お前も、捕まったんだってば……?」

 

 未だ褐返のマントもサングラスも取り返していない。どこの暗部とも知れない忍装束を着ている俺を、よく俺だと判断できるもんだ。

 なんつーか、そういうアイコンで俺を認識してないのはありがたい限りだけどさ。

 

「よう。苦しそうだな」

「はぁっ……はぁっ……お前は……この術、かけられてねーのかよ……」

「かけられてないねぇ。まだ捕まってないし」

「そ……っか。じゃあ、すぐに逃げた方がいいぞ……これ、めちゃくちゃ、苦しいから……」

 

 ……アレ、コイツ俺の事犯罪者って認識してなかったっけ?

 少なくとも敵認定されてた気がしないでもないんだけど。

 

 ま、敵ってわかっててもそう言うかもな。ナルートにとっちゃ、ここは冤罪吹っ掛けてきたどこぞの誰かさんとグルな城なわけだし。

 

「逃げないよ。俺はここに目的があってきたんだ」

「目……的……?」

「ここには俺の欲しいモンがあるのよ。それを食べに来た」

 

 忍犬の鳴き声が近くにあるが、どうも近寄るのを拒否してるっぽいな。

 ま、そりゃそうだ。この臭いを辿れ、なんて言われない限り、俺の臭いは近づきがたいそれなはず。何より俺がここにいることでナルートの臭いも掻き消してるだろうし。

 

 さて。

 俺の目的を考えれば、ナルートって邪魔なんだよね。

 卑留呼の時は目的が人命だった。だから説得でワンチャンがあるかもしれなかった。けど今回は違う。草隠れの幹部は草隠れ以外の事はどーでもいいと思ってるだろうし、無為は無為で無垢のことしか考えてない。その無垢はもう自分の事しか考えてない。

 説得なんてできっこなくて、極楽の匣はそういった人間関係の一切合切を関係なく機能する。ナルートという人柱力がいると余計にそうだ。俺、基本的に暴走したり機能し始める前に食べるスタイルだから、原作映画通りの展開になられるのは困るんだよね。

 

 可能性として──極楽の匣に【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が呑まれる、なんてことも考えられるわけだし。

 

「ナルト。ここから出たいか?」

「出ら、れるのか……?」

「出られる。その術は結局チャクラでしかない。それなら──食える」

 

 かもしれない。

 封印術を食べる、なんてやったことないのでわかんない。

 食べられなかったらお前が特異体質過ぎた、で誤魔化せるからいいんだ。人柱力って便利。

 

「ずっと……気になってたけど、お前のその、食べる、って……なんなんだってばよ」

「ん? ああ、お前に見せた事ないっけ──コレだよ、コレ」

 

 手のひらから現出させるは【緑色の眩いぬるぬるしたもの】。龍脈の力によって1/8サイズのナルートの形に形成したそれを見せれば──ナルートは目を震わせて固まった。

 

 あ、やべっ。

 

「あ……ああっ、あああっ!!」

 

 呼吸が浅い。そういえばコイツ最近過呼吸になったばっかだ。何より。

 

「そんな……そんな、そんな、そんな!!」

 

 結構なトラウマ持ちで、つい数日前に仲間に冤罪かけられる、なんてことを経験したばっかで、心細くて。

 そんな奴の正気度が高いワケないんですねー。

 

「待て、ナルト正気に──」

「──来るなッ!」

 

 後退り、恐怖を露わに立ち上がらんとして、逃げんとして、足を滑らせてゴロゴロと落ちて行く。

 あーあー。

 ……ま、原作通りではあるか。このまま懲罰房行きだ。その間にコトを終わらせればまーいいか。

 

「お前さ、そんな怖いのかね?」

 

 【緑色の眩いぬるぬるしたもの】に問いかける。発狂は此奴自身への恐怖だけじゃないこともわかっているけれど、なんだかね。

 

 やっぱり当然、答えは無かった。

 

 

 

 

 そのまま数日が過ぎた。

 えーとですね、言い訳をします。

 この城入り組み過ぎです。

 

 いやー無理無理。少しずつマッピングしてるけど、全然わかんない。極楽の匣どこだよ。位置的には広場の地下であるのは知ってるんだけど、そこへの通路がワケワカメ。確か資料室があって、青いファイルをぐっと押すと本棚がゴゴゴと開いて研究室に、って運びだったはずだけど、ぜーんぜん辿り着けん。

 あと、警備が強固なのは中だったワネ。

 外へ向ける監視は要らないんだ。そりゃそうだよねって感じ。逃げるのは天牢で十分取り締まれて、外から来る=五大国に喧嘩売るに等しい行為──ここは五大国の忍が集うため──だからほとんどあり得ない。

 草の忍たちが見ているのは囚人が逃げ出していないかどうか、なんかの中への警戒だから、外が疎かなのは当たり前、と。

 

 んでもって俺は悪臭が酷い。忍犬を数多く従えているこの城は相性が悪すぎる。簡単に異常事態だと思われてしまってサイレン鳴り放題なんだ。元から気配を消す関係は苦手なのも相俟って、探すに探せないって日々が続いている。

 もういっそのこと強行突破もありなんじゃないかって思い始めてる。

 

 ってか、今までもそうしてきたくね?

 なんで俺慎重になってるんだ?

 

「──ヌル遁」

「ああちょっと待ったちょっと待った。ステイステーイ」

「……何用?」

 

 一番高い城の上で塗流槍を出し、それを直下に落とそうとしていた──その直前に、男が現れた。

 軽薄そうな顔つき。実際に軽薄な言動の、マローイ。雲隠れのスパイであり、ナルートを守るとか極楽の匣をどうこうするとか色々仰せつかってる奴。名前の通り争いごとを好まず角の立たない方向に進めようとする──善悪問わず──奴。オモイカルイとか同じ、名前がそのまま性格シリーズの一人だ。

 

「警戒……だけどそれは何者かわからない奴に対して、ってよりは、用向きがわからなくて、って感じか。とりあえずその怖い槍しまってくれよ? 薄気味悪くて仕方ねえ」

「雲隠れのスパイが、何の用かと聞いている」

 

 塗流槍を、直下からマローイへ標的変更させる。

 すればマローイは慌てて手を振って話をし始めた。

 

「うわわっ、ちょっと待ったちょっと待ったって! そ……そこまで知られてるとは思わなかった。アンタ、無剣鐘のヨゴシだろ? この城に何の用……なんて聞くまでも無く極楽の匣だよな。噂通り、強大な力を食べる……つまり極楽の匣を食べるつもりでここに来た、ってことで合ってるか?」

「あってる。けど、探すのが面倒になったから、壊そうと思って」

「ちょっと過激すぎるよ……。この城にはさ、この天牢で縛られてチャクラの使えなくなった奴らがごまんといるんだ。そんな奴らじゃ城の倒壊から逃げきれないだろ? 無駄な被害が増えちまう」

「仕方のないこと。忍になった時点で死は覚悟してるんじゃないの?」

「里のために死ぬならともかく、こんな場所で理不尽に巻き込まれて死ぬのは御免だろうよ」

 

 ……知らぬが。

 それに、この中央の城に囚人がいないのは確認してる。懲罰房は城の外側で確定してるし、あるとしたら草隠れの幹部の会議室とか無為の実験室だろう。そんなものは別に壊したって構わない。壊して、そこに集まって来た野次馬を犠牲に、広場地下の極楽の匣を直接抉り出そう。

 

「どの道死ぬじゃん。里から返還要請かかるような奴いないだろうし。このまま死ぬまでこの城にいるか、今死ぬか。同じでしょ」

「あー、アンタ、倫理観ってものの持ち合わせは?」

「倫理観育てるためにって出身国から拉致られたんだけどね。一か月で抜け出した」

「どうりで」

 

 まぁ、塗流槍は消す。

 確かに俺らしくなかった。慎重なのも俺らしくないけど、ここまで短気なのも違う。

 そも。

 

 良いのがいるじゃん、目の前に。

 

「お、消してくれたか。いやー良かったわかって……って、なんか薄気味悪いのが俺の腰に巻き付いてるんだけど?」

「アンタ、無為の腰巾着って呼ばれてるでしょ。知ってるよ。──匣の在り処か、あるいは無為の実験室の在り処。知ってるよね。案内してくれる?」

「……ちなみに拒否したら」

「上と下が泣き別れするくらいかな」

 

 案内人。頼んだよ。

 

 

 

 

 

 

「案内するのはいいんだけどよ、こう見えても俺には協力者がいるんだ。まずはそいつに……」

「草隠れの暗部、穏健派の花。他にいる?」

「……さっきも思ったが、アンタ何者だ? スパイだとか暗部だとかそういう類じゃない、知り過ぎだよ、そこまで来ると」

「それは詮索?」

「あーあー、わかりました。わかりましたよ。……この先の資料室だ。だが……」

 

 暗い廊下。小さくなる声。

 ……いる、か。

 

「俺はここまででいいか? やることがあるからよ」

「いーよ。ここまで来れば十分」

「ああ……じゃ、お互い無事でこっから出られることを願ってるぜ」

 

 言って、そそくさと逃げて行くマロイ。

 

 いやなんかさ、俺悪役度上がってない? 見た目は愛くるしい低身長の青年なんだけどなー。

 ……サソーリとかもそうか。

 

「さて――じゃ、破壊と行きましょうか。ヌル遁・豪ヌル腕の術」

 

 豪水腕の術のヌル遁ver.だ。巨大な腕を形成し──絡繰りとか関係なく、ぶん殴る!!

 

「火遁・天牢!!」

「!?」

 

 速すぎた。

 ぶっ壊した部屋の砂煙の中から飛び出してきた無為。ヌル遁アーマーを展開する余地もないまま、胸にその手が当てられ──禁錮術が発動する。

 

「無剣鐘のヨゴシ……お前がこの城を嗅ぎまわっていた事は知っている。丁度いい、強大な力を食い荒らす狂犬ぶり、その身にあるチャクラを全て匣のために使わせてもらおう!」

 

 ……。

 チャクラを練ると、火だるまになる、だっけ。

 じゃーチャクラ使わなきゃいい話だね。

 

「ヌル遁・ヌル繭の術」

「なにッ!?」

 

 薄い糸状になった【緑色の眩いぬるぬるしたもの】が無為を縛り上げる。ヌル牢のように窒息させる心配のない拘束術だ。殺すつもりはないからな。

 

「何故……術が」

「まー安心しなよ。アンタの悲願も、草隠れの野望も、無垢の無念も……全部全部、一切加味することなく平らげてあげるからさ。そこになんの因果があっても関係ない。食い千切るってそういうこと」

「……! 極楽の匣を食べる気か!?」

「それ以外の用じゃ俺来ないでしょ」

 

 粉砕した資料室に入って行く。

 本棚もヌル遁で破壊し、通路へ。しばらく下っていくと──目的の場所に着いた。

 

 診察台の置かれた研究室。

 ライトは必要ない。ヌル遁アーマーを纏っているので障害物があっても気にせず歩いていける。

 ついでに天牢を【緑色の眩いぬるぬるしたもの】に吸わせてみる。おお、消えてく消えてく。呪印が引く様子に似てるな。

 しかし、成程。外からの封印は力業以外じゃどうしようもないレベルまで封じられたけど、俺本体への術はこうやって解けばいいんだな。

 

 チート能力だなぁ、ホント。

 

「さーて、じゃあ頂きます──」

「火遁・鳳仙花の術!」

「うおっ、眩しっ!?」

 

 この狭く暗いで使うにはあまりに向いていない術が眼前に展開される。

 ヌル遁アーマーに火は効かないけど、単純に眩しかった。目が、目がぁあああ。

 

「極楽の匣は我らの悲願!」

「決して行かせはせん……!」

「無剣鐘のヨゴシ、貴様にやるものなど一つとして無い!!」

「食らえ、火遁・火龍弾の術!」

「眩しいし、酸素無くなるでしょ」

 

 火龍弾を豪ヌル腕で握り潰す。……潰せてないな。ただ当たって消えただけだ。

 まだなー、精密動作って難しいんだよな。龍脈の力を使えばいけそうなもんなんだけど、俺の器用さが足りてないというか。

 

「ヌル遁・毬栗の術」

「ぬ──う、ぐ」

「ぐ、おおおおお……が」

「ギャァッ!?」

 

 全身からトゲを出せば、ホラこの通り。

 この狭い室内に四人もいたらそりゃ誰かには刺さろうとさ。一人外しちゃったけど、まーもう大丈夫だろう。……いや、もう少し恐怖演出はしておくか?

 

「あ……ああっ、やめ、やめろ! 吸うな……吸うなああああ!」

「カ、く……くさが、くれの……悲願、を……」

「この悪食め、我らまで食らおうというのか──あ、あああ!」

 

 包み込んで、咀嚼する。

 ぐちゃぐちゃと、人の形が無くなるまで。そうして俺の方に取り込めば。

 

「……久しぶりだな、これ。──火遁・鳳仙花の術」

「なにっ!?」

 

 分身の術も変化の術も出来ない奴が行うチャクラの性質変化。

 けれどそれは、奴らの放ってきたまんまの威力・完成度で残る一人に向かう。

 

 ひらりと躱されたそれは壁にあったものを破壊し、燃やし、何かの液体に触れたのだろう、更に燃え広がった。

 やっべ。

 

「まさか……お前は、ヒトをも食べるのか」

「ヒトだってエネルギー塊だからね。薄味過ぎて滅多に食べないけど、食べれない事はないよ」

「そんな……そんなものは、ならば、お前は……お前は、ヒトではない!」

「目的のためなら手段を厭わないって奴らが何言ってんの。そも、アンタら百変化のカザンとの約束破ったでしょ」

 

 どろり、こぽりと零れだすは【緑色の眩いぬるぬるしたもの】。

 それは瞬く間に室内を満たす。満たし、研究用のあらゆる薬品や棚、ベッド、器具など、全てを破壊していく。

 勿論人体も例外ではない。例外ではないと、気付いたのだろう。

 

「俺は約束だけは守るよ。──だから、アンタらよりヒトだ。そこは踏み外してないからね」

「く──くそ、我らの悲願、このような所で──!」

「ありゃ、逃げないんだ。流石は忍ってとこなのかな。──んじゃ、おやすみ」

 

 その腹を貫く。避ける事はもうできない。何故なら、この部屋のどこを見ても【緑色の眩いぬるぬるしたもの】があるから。

 逃げない。その選択は悲願のためか。

 ……ご馳走様。特に美味しくはなかったよ。

 

 

 +++

 

 

 ドンッ、と。

 鬼灯城全体に揺れが走る。

 震源地は広場。意味不明な文様の描かれたそこを震源に、城が、一帯が揺れている。

 

 ピシリピシリと罅の入る音。

 誰かが気付く。広場に罅が入り始めていることに。崩落の危険を考え逃げ出す囚人たち。ああ、けれど、野次馬根性は捨てきれない。ある程度まで逃げたら()()()()()を見ていたくて、止まり、振り返った。

 

 振り返ってしまった。

 

 ──中心からゴポリと気泡を孕んで出てきたのは──黒。

 ぬらぬらと光る漆黒。陽光が無いゆえに本来あるはずの光沢は消え、ただ闇のような黒がそこにあった。

 ごぼ、ごぽ、ごぼ。

 気泡が弾ける。同時、黒が更にと滲み出る。溢れ出る。膨れ上がる。

 

 誰が初めに気付いただろう。

 その黒と、目が合った。

 

「ひ……!?」

 

 その黒に、口を見た。口の中に──誰かの足を見た。

 

「う、ぶ……っ」

 

 次第に黒は広場を満たしていく。無数の目。無数の口。無数の歯。無数の舌。

 凡そ既存の生物では考えられない器官のついた、黒い液体。

 胃の中の物を吐き出す者、目を掻き毟る者、喉を抑え、自ら息を止めんとする者。黒を注視してしまった者から、崩れるようにして狂っていく。

 

 大きな音が鳴った。一際大きな振動と共に、大きな音が。

 直後、それまでは平に溢れてきていた黒が立方体の形に形成された事を幾人かが目撃する。当然その立方体にも目や口がついていて、その君の悪さに正気を失う者が続出した。けれど、中には平気な者もいて。

 

 その中の一人が、指をさす。指をさして叫ぶ。

 

「だ──誰か、いるぞ!」

 

 それは立方体の上。同じく黒に染まった、小さな人影。

 化け物に飲まれた被害者だと誰もが思った事だろう。あるいは見間違いだと。

 

 けれどそれは、じゅるりと音を立てて黒が吸収され始めた事をきっかけに、思い直されることとなる。

 広場の黒が消えて行く。立方体を包む黒が消えて行く。黒の下から現れた気味の悪い匣──も気になりはするが、その上に立つ人影にこそ注目が集まった。

 何故なら黒は、化け物は──その人影に吸い込まれて消えて行ったのだから。

 

「いやー……参ったね。まさか吸われるとは。こりゃ起動しちまうなー」

 

 特徴的でない忍装束は、どこの里の者かを特定させない。

 ボサっとした髪は、どこの誰なのかを特定させない。

 

 けれどその緑眼は──ああ勿論、特定させない。結構緑眼の忍はいる。

 

 そんなものがなくとも、アレが誰かなどわかっている。

 あの化け物を扱う、黒き百目の化け物を扱うのが誰なのか、忍ならば知っている。

 

「ヨゴシ……お前、そこで何してんだってばよ……?」

 

 問うたのは知り合いだったのだろう。

 その問いに、彼は。

 

「食べようと思ったら食べられた感じ。ああ、でも大丈夫。──食べられた分も食べ返すからさ」

 

 なんでもないかのように、そう返した。

 

 

 +++

 

 

 いや、いや。

 そこまで多い量じゃないとはいえ、今まで取り込んできた自然エネルギーをゴリっと持っていかれたのはびっくりした。全体から見たら全然だけど、多分匣を開けるのに十分な量が持っていかれてしまったのはうっかりさん。

 コイツ、戸守がいなくても自主的に吸うのかよ。やばすぎだろ。

 

 あー、開いちゃうな。

 まぁもうそこはしょーがない。開いて、サトリになった無垢が出てくるだろうけど、それはナルート達に倒してもらおう。俺はこの匣を食べる崇高な義務がある。

 

「や──やめろ! その匣をどうするつもりだ!」

「だから食べるんだって。ああでも、今から一回開いちゃうと思うから離れときな。中から出てくるのは怪物だし、出たら出たで周囲の人間吸うからさ」

「匣を、食べる……?」

 

 言ってるそばから開き始める匣。願いを込めてないのに、ってまぁ当たり前か。そういう匣じゃないし。

 

 側面に開いた口のような場所から、よたよたと誰かが出てくる。

 真っ白い肌。ボロボロの着物。

 

「む……無垢?」

「アイツが?」

「……」

 

 ヌル遁・豪ヌル腕の術でガードする。

 したのは──ただの突き。

 

 今の今まで下にいた奴が、俺に攻撃してきたのだ。

 速いけど、軽いな。キサーメに比べたら特に対処の困るモンでもない。

 

「君が……匣を開けたんだね」

「ああ。開けるつもりはサラサラ無かったが。それで? アンタは今、無垢か? それとも──サトリか?」

「……ヒヒ」

 

 蹴り。に見せかけた突き。いや、蹴りも陽動ではなく、突きも必殺の威力がある。

 その両者が俺に当たり。

 

 ボキ、と。折れる音がした。

 

「……!?」

「サトリなら、早くその姿になった方が良い。人間のままじゃ効かないよ」

 

 再度、ごぼりと【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を放出し始める。

 今度こそ食ってやる。その思いを込めて。

 

「無垢!」

「……?」

「ッ!?」

 

 俺に攻撃してきた奴……無垢に対し、呼びかける者がいた。

 真白の髪の女性。竜舌だ。転生忍術の血継限界持ち。

 

 けれど彼女は、振り返った無垢を見て、怯えたような表情を見せる。

 どんな顔をしているんだろうな。

 

「匣を、食べる? 無理だよ。中から何度も破壊を試みた」

「なんでアンタが無理だと俺も無理なんだよ」

「……そうだね。試すだけ試して、絶望すればいい」

 

 言って──無垢は、匣から降りる。

 そのまま、そのまま。

 

 竜舌の方へ歩いていく。

 ……劇場版で無為にやったことを竜舌にする気か? あー……オレっ娘なぁ。

 

「ヌル遁・ヌル繭の術」

「ッ」

 

 避けられる。

 既にほとんどサトリか。面倒だな。

 

「ナルト!」

「な……なんだってばよ!」

「そこの奴連れて逃げな! コイツの狙いはそこの銀髪だ!」

「!」

 

 人命救助に燃えるような奴じゃないけど、まぁ竜舌の死って必要な死じゃなかったように思うんだよね。ナルートを庇っての奴だし。ナルートが避けてりゃどうにかなっただろうし。他の奴仕事しなすぎだし。シカマールとかこういう相手に最も役立つだろうにマジで何にもしてなかったし。

 必要じゃない、展開を盛り上げるための死は……ま、削ってもいいだろ。

 

「邪魔をするのか?」

「アンタも匣の一部だからね。──ご飯粒の一つでも残したらバチが当たるだろ?」

「なら──やってみろ」

 

 言葉とともに、ヒトではなくなっていく無垢。

 サイクロプスか、アルゴスか。首の無い悪魔、みたいな形。正直NARUTOの世界に合ってないソレは、サトリという妖怪。六道仙人の時代に使われた最終兵器。

 

 ハン、【緑色の眩いぬるぬるしたもの】だって古のものに造られた奴隷たる存在だ。似た者同士だな。

 

「ヌル遁・ヌル龍」

「……僕が言えたことではないけど、気味が悪いね」

「ホントに言えたことじゃないな! ──晶古球!」

 

 龍の口先に球体が収束していく。

 

「いいよ、なら」

 

 無垢の……サトリの胸元の、大きく開いたその口に赤熱した球体が装填される。確か映画では足元に出していた奴だけど、そんなところからも撃てるのか。

 ただ、あの時は八尾に防がれていたとはいえ、威力自体はそこまででもないはず。鬼灯城壊れてなかったし。ならこっちに分があるかね。

 

「──やめた」

「成程、勝算を見出した時点で感知されるか」

「ならオレだ! 風遁・螺旋手裏剣!」

「無駄だよ」

 

 こっちに分がある、って俺が思った瞬間に球体のぶつけ合いを拒否し、空へと逃げるサトリ。俺も一旦圧縮球を消す。あんまり遠隔の精密操作はできないからな。

 その空へと飛んだサトリの背後、ナルートが物凄い音を発する球体をぶつけんとする──が、避けられる。おいおい、そのルート俺に当たるぞ。

 

「うわわっ!」

「あっぶな」

 

 ナルートの手から離れた螺旋手裏剣がライズボールというかジャイロボールみたいな感じで浮き上がり、俺のギリギリを掠めて去って行った。アレ無数の一ダメージを与えまくる、みたいな術だから効かないとは思うけど、音が怖いんだよね。

 んでナルートをキャッチ。

 ……【緑色の眩いぬるぬるしたもの】で。

 

「ぐ……ヨゴシ放せってばよ……これ……」

「お、今回は発狂しないか。今は覚悟決まってるもんな。じゃあプレゼントだ」

 

 ナルートを──包む。

 散々食べる食べる言ってたから食われるんじゃないかと焦って藻掻くナルートを、完全に取り込んで。

 

 その身体から天牢を吸い取った。

 

 ぺぇっ。

 

「うっ、わ……ととと……──くっせぇ!?」

「代償としては安いもんだろ。──ほら、暴れてこいよ。お前、そういうの得意だろ?」

 

 サトリ。

 その正体は、恐怖を鋭敏に感じ取るモノ。自身を脅かさんとする恐怖は体を勝手に動かし、それゆえに心を読んでいるように見られる。殺気の類もダメだ。

 けど、それがなければ。

 そして──避けようがない程の数があれば。

 

「……! ヨゴシお前、あの時言ってたの本当だったんだな!」

「今の術、初めて見たぞ。凄い術だ。──俺に、どれを教えてくれるのか。楽しみにしてる。だから」

「ああ! 今は、アイツを倒すのに集中するってばよ! 多重・影分身の術!」

 

 広場に大量発生するナルート。

 この目で実際に見るのは初めてかな、これ。

 成程壮観だ。つかすげーよな、分身の術でさえ俺は出来ないからマジで尊敬するわ。頭どうなってんだ。

 

 ナルートは「しゃおらぁああああ!」なんて叫びつつ、サトリに向かっていく。劇場版では見ることの無かった展開だけど、やっぱナルートっつったらコレよね。

 沖合の方から近づいてくるデカいチャクラを含め、そろそろ終盤だ。

 

「匣は起動した。ならもう腹いっぱいだな? 敵を食って味方に改造する、大いに結構。だがよ、お前さん。食べられる気持ちってのも味わってみるのはどうだ。中々オツかもしれないぜ」

 

 包む。

 今まさに周囲の囚人たちを吸い込もうとしていた匣を包み込み、蓋をする。

 それでも吸い込もうとして、けれど【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の薄膜が内側に少し膨らむ程度に終わる。チャクラは食えても【緑色の眩いぬるぬるしたもの】を食べられるわけじゃないか。いいね。

 

 んじゃついでにサービスだ。

 木ノ葉の忍に【緑色の眩いぬるぬるしたもの】……というか俺達全体が見えなくなるように、久々の登場カレンバナの幻術で姿隠しを行う。いや? サービスだよ? 決してツナーデから姿を隠したとかそういうわけじゃないよ?

 とにかく、本来の力を取り戻したナルートが頑張ってる内に、食べちゃいましょうねぇ。

 

「ま……待て」

「おん?」

「……無垢は。無垢は、どこだ」

「え、どうやって抜け出したんだアンタ」

 

 というか幻術で見えないはずなのに。

 ……まぁカレンバナの幻術以上の技量にはならないからな。普通に解ができるか。あれ、じゃあツナーデやばくね。

 けどマジでどーやって抜け出したんだ?

 ……まさかとは思うけど、一本一本解いたのか? 俺以外にとっちゃクソ重い、そんでぬるぬるねたねたしてる【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の糸を?

 

 すげー根気。

 

「無垢なら、アレだよ」

「……!」

「知ってたんだろ? 極楽の匣がそんな都合の良いものじゃない、って」

「……そう、か」

 

 この人は知ってたくさいんだよな。草隠れの幹部は知らなかったっぽいけど。

 だって無為程極楽の匣について研究した奴はいないだろうし。

 

 アレ、と。そう指差したサトリを見て、無為は。

 

「必要ないよ、アンタは。どうせ声も届かない。アレはもう怪物だからね、家族愛なんかない。ナルト達に倒されるのを黙って見てた方がお得だよ」

「……無剣鐘のヨゴシ。お前に、父親はいるか?」

「さぁ? いたんじゃない? 俺が生れ落ちている以上は。顔も名前も知らないけど」

「そうか。……ならば、これはお前にはわからないことだ」

 

 それだけ言って、無為はナルートとサトリの戦っている場所へ跳躍していく。

 俺にはわからない事。

 父親、ね。

 

「んじゃま、中断されにされまくったけど……今度こそ頂こう。ヌル遁・堆鳬哩──飲み込め」

 

 ぐじゅる、ぐじゅる、ずずぅずずぅ。どっどどどどうどどどうどどどう。

 匣そのものではなく、その中にあるチャクラを吸い出していく。【緑色の眩いぬるぬるしたもの】の量を増して匣に圧力をかけるけど、恐らくこれは結界とか封印とかそっちの類なんだろう。中のものが無くならない限り、その術式を吸い尽くしてしまわない限り、匣は壊せない、気がする。

 だから吸う。中にあるのは自然エネルギーでなく身体エネルギーや精神エネルギーだけど、魍魎の力みたいなもんだし。

 

 その憎悪。その恐怖を食べ尽くす。

 

 食べて食べて食べて食べて、吸って吸って吸って吸って、飲み込んで。

 

 お前がそれを言えないなら。

 俺が言ってやるからさ。

 

 ──ごちそうさま。

 

 

 

 

 

 

 さて、色々一気に飛ばして後日談となる。

 まず俺に鬼灯城の任務を漏らしたってことでキラービーはしこたま怒られたらしい。だろうね。そんでマローイも怒られたらしい。俺に極楽の匣の場所教えたから。ちなみに上記二つはマローイから教えてもらった。あいつ結構フッカルなのな。

 雲隠れはこれくらいだ。あんまり関りが無い。

 次、草隠れ。

 草隠れの強硬派は実質壊滅。一応無為は無事だったけど、穏健派に移るつもりとかなんとか。無垢は普通に死んだ。俺が匣食った辺りで生命維持が出来なくなった、と言わんばかりに崩れ落ちた。

 竜舌は死ななかった。流石に無垢に竜命転生使う程アレではなかったのと、ナルートが特に大きな怪我をしなかったのが大きいか。草隠れの穏健派として、無為と共に無垢の墓を建てた後、行方は知らない。これもマローイから聞いた。あいつなんでも知ってんな。カザンは知らんとのこと。

 最後に木ノ葉だけど……。えーと、まずナルートは無事で、他のメンバーも特に死傷者無し。

 

 ただ、極楽の匣を食べ終わってそそくさと逃げる俺に、ツナーデがこう宣言したのだ。

 

「無剣鐘のヨゴシ! お前があの日現れた理由は理解している! 礼は言おう! それはそれとして乙女の純潔を踏み躙った事実は変わらん! 次会った時は覚えていろ、ギタギタのグチャグチャにした上で治療し、然るべき罰を受けさせてやる!」

 

 えー、木ノ葉にはもう近づきません。忍界大戦終わったら楼蘭に引き籠ります。あとその言い方やめて。俺がなんかR18なことしたみたいじゃん。

 

 とまぁ、こんな所が劇場版NARUTO-ナルト- ブラッド・プリズンの顛末となる。

 原作より死者は少なくて済み、俺は極楽の匣を、つまり六道仙人時代のものも食えるとわかって大満足の結果となったわけだ。

 

 となればまー、金閣銀閣コンビや外道魔像も、ね?

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