私たちA組は、ヒーロースーツに着替えてグラウンド・βに集まった。
将来有望な金の卵とはいえ、まだ十五、六歳の高校一年生。彼らは初めて袖を通す戦闘服にはしゃぎ、互いにこだわりのデザインを見せあっている。
「このマントのキラめき、やばくない?」
「私のコスチュームの柄も見て見て〜!」
「へー、いいじゃん!俺のも黒地に稲妻柄でイケてるだろ?」
「子どもの頃からずっと温めていたデザインだから、なんだか感慨深いわ」
「私は手袋とブーツだけだから、ちょっと風が寒いなぁ」
「!?は、葉隠さん!?」
「詳しく、聞こうかァ……」
透ちゃんの問題発言を受けて騒然となるA組を横目に、一呼吸遅れて走ってきた出久に「こっちこっち」と手を振る。
彼の衣装は、母である引子さんの手作りだ。彼女が基礎となるジャンプスーツを買い、出久の“ヒーローノート”を見て様々なパーツを縫い合わせ、息子の夢を再現したものだ。
敵意を隠すことなく出久を睨む勝己を、二匹の蛇越しに見やる。その戦闘服の素材や物々しい籠手は、いかにも最新鋭の装備だ。デザインや色合いも統一されていて、プロのデザイナーの手腕を感じさせる。見渡した他の生徒のものも、各自の個性に合わせた最良の戦闘服だった。
対する出久の戦闘服は所々、僅かな縫い目が見え隠れしている。普通の布より多少丈夫なだけの素材で、彼の個性を補助する機能など、何一つ付いていない。スポーツショップやホームセンターで買い揃えた、最新鋭とは程遠い装備。どう考えたって、何もかもプロの技に劣る衣装だった。
それでも、彼は母の思いを選んだ。私はそんな幼なじみの強さを誇りに思う。
「似合ってるよ出久。また後で、写真撮っておばさんに送ってあげようね」
「あ、ありがとう。瞳巳ちゃんのもすっごく似合ってる!かっちゃんのお父さんにデザインを見てもらったんだよね?」
私には、「これを着なければ」という明確な理想像があった。“瞳巳ちゃん”が書き残した、出久のヒーローノートのようなものだ。その可愛らしいイラストを、勝己の父───私の伯父にあたる
デザイナー事務所に勤める彼は、“幼い子供の絵”を、“立体的で具体的な衣装設計図”として仕上げてくれた。勝さんは、闇のプリキュアやアイドルじみた瞳巳ちゃんの衣装を笑わなかった。「きっと似合うよ」と言って、幼い頃にしていたように、私の髪を撫でてくれた。
思い返すその感触に目を細めながら、出久の言葉に相槌を打つ。
「……うん。勝おじさんがね、手伝ってくれたの。で、でもちょっとヒラヒラすぎたかな?色は落ち着いてると思うけど、ス」
「全然そんなことないよ!『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』が災害救助ヒーローとして初めて表彰された年に着てたコスチュームみたいな雰囲気でいいと思う!彼女たちの衣装も防御力や機能性が低そうに見えて実は(中略)───あっでもその黒を基調とした色とか足元なんかはスネークヒーロー『ウワバミ』っぽい雰囲気があるよね。同じ蛇系の個性として意識したのかな?でも瞳巳ちゃんと『ウワバミ』の個性の方向性は───」
「出久、皆びっくりしちゃうから落ち着こう?麗日さんを見てうららかになろう?」
「え?麗日さ……うわぁぁ!?」
「ふ、二人みたいに細かくデザイン考えれば良かったよ……パツパツスーツみたいで恥ずかしいわ……」
原作でも見慣れたあのヒーローコスチュームに身を包んだ麗日さんが、照れ笑いをする。漫画でも思ったが、A組女子、発育が良すぎる。普通の十五歳女子なら、耳郎さんくらいが平均だと思うのだけれど。
彼女の全身を目にした瞬間、女子に耐性がない出久の体温が急上昇したのがピット器官越しに見えた。
麗日さんや八百万さんの胸、そして私の脚を舐めまわすよう凝視していた峰田くんがおもむろに出久に近付き、力強く親指を立てる。
「恥じらいながらのピチピチスーツ……説明不要のヤオヨロッパイ……ミニスカドスケベ目隠し蛇……ヒーロー科最高」
「
「瞳巳ちゃん!?」
「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれ、二対二の屋内戦を行ってもらう!」
オールマイトはカンペを見ながら、訓練のルールを説明した。
状況設定は、“ヴィランがアジトに核兵器を隠している”、“ヒーローはそれを処理しようと潜入する”という、ハリウッド映画にありがちなものだった。
勝敗の判定もわかりやすい。ヒーロー側の勝利条件は、制限時間内にヴィランを捕まえるか、核を回収すること。ヴィラン側は、ヒーローを捕まえるか、時間切れまで核を守りきること。
「コンビと対戦相手は、くじで決めるよ!」
「適当なのですか!?」
「プロは他事務所と急造チームアップすることが多いし……そういうことじゃないかな?」
「なるほど、先を見据えた計らい……!失礼しました!」
飯田くんがツッコミを入れ、出久がオールマイトをフォローしつつ、名前順にくじ引きが始まった。私より先にくじを引いた勝己の手元を覗き込み、何を引いたか見せてもらう。
「カツノリは……Dチームだね。ほら、『僕と同じDの人はどこですか?力をあわせて頑張ろうね!』って爽やかに声かけていかなきゃ。頑張れキュアダイナマイト」
「だ ま れ 誰がするかボケカス浮かれ爬虫類!キッショイ戦闘服着やがって……てめェの精神年齢は五歳児か?あ"?今すぐ自主退学しろそして幼稚園からやり直せやゴミ個性野郎」
「相澤センセー、爆豪①くんがスラム街のラッパーみたいな悪口を言いました」
「ハッ、あいつはここにいねーしてめェなんか助けねーよブス蛇!」
「大丈夫。手がかかる生徒ほど可愛いって言うでしょう?」
「てめェの場合手がかかり過ぎて腕ごとへし折れンだよ!」
「つーかマジなんだその服」とドン引きながら、勝己が私の特に何の機能性もない可愛さ全振りフリフリ衣装を指差す。
だがそう言う彼は彼で私とは真逆の、刺々しく威圧感のあるヴィラン風コスチュームを身に纏っていた。爆豪家のセンス、尖りすぎている。
全員がくじを引き終え、それぞれにペアを確認した。正直、私はAチームの出久、Dの勝己と同チームでなければ、誰とペアでも誰が相手でも構わなかった。
原作での戦闘訓練では出久VS勝己の構図に焦点が当たり、他の生徒たちの戦闘風景はほとんど描写されなかった。つまり、誰と当たっても原作に影響はないということだ。A組たちの初々しい戦闘模様をモニター観戦しつつ、気楽に臨める。
もしもミッドナイトがここに居たら、「初めての戦闘に緊張する、まっさらな原石ちゃん達……!いいわぁ……!」と恍惚とした表情で身をくねらせていただろう。……ミッドナイトの口調などを模倣しているとはいえ、さすがにそこは真似ない。瞳巳ちゃんのキャラが濃すぎてしまう。
そんなことを考えつつ、同じアルファベットを持つ生徒を探す。
「えっと……Eの人は誰かしら?」
「ボクだよ。EはÉclatのE☆僕にぴったりだよね」
「えくら……?ってなに?」
「フランス語で“輝き”って意味さ」
「へえー、いいわね!チームエクラ、頑張りましょう!」
「ウィ☆」
くじ引きの結果、私のペアは青山くんで、役割はヴィランとなった。対するヒーロー役は、芦戸さん&砂藤くんのFチーム。
最初に対戦するのは出久&麗日さんのヒーローチームと、勝己&飯田くんのヴィランチームだ。私と青山くんの出番は一番最後なので、それまでクラスメイトの戦闘模様を観戦しながら、気楽に過ごすことが出来る。
A、Dチーム以外の生徒はビル地下にあるモニタールームに移動し、彼らの立ち回りを観察することになった。
ヴィランチームの勝己と飯田くんがまず屋内に入り、セッティングをする。その五分後、ヒーローチームが窓から潜入し、いよいよ戦闘訓練が始まった。
『クソナードがぁ……!授業中断されねぇ程度に───ブッ殺す!!』
『っ……!麗日さん、危ない!!』
周囲を警戒しつつ二人並んで一階を歩き、僅か数十秒。複雑に入り組んだ通路の脇道から、勝己が奇襲を仕掛けてきた。
だが、死角からの爆撃は回避されてしまう。出久は「かっちゃんなら、まず僕を殴りに来ると思った!」と、幼なじみの行動を予期していた。クラス内でも瞬発力に優れた芦戸さんをして「あの緑くんよく避けられたな!」と感嘆させる、読みの的確さだった。
『いつまでも雑魚で出来損ないの木偶じゃないぞ!僕は……“頑張れ!”って感じのデクだ!!』
『ビビりながらよぉ……!てめェの、そういう、所が……!ムッカツクなぁぁぁぁぁ!!』
『もう君を……怖がるもんか!!』
出久は震えながらも拳を握りしめ、自らを鼓舞する。麗日さんに対し、「先に行け」と合図する。対する勝己は幼なじみを打ちのめしたい一心に囚われ、出久のみを狙い撃ち。戦線を離脱して先に進む麗日さんになど目もくれない。『状況は!?』と尋ねる飯田くんの無線も、丸無視だった。
何度も爆破を喰らい、殴られ、投げ飛ばされる。確保テープを使う暇などいくらでもあるのに、勝己はそうしない。
「こんなん戦闘訓練じゃないって……イジメじゃん……」
繰り返される、ただ怒りを発散するような“暴力”に耳郎さんが呟く。梅雨ちゃんが、気遣わしげに口元に手を当てる。モニター越しでも伝わるヒステリックな叫びに、A組全員が眉をしかめた。
そんななか青山くんは涼しげに戦闘風景を眺めながら、私に問いを投げかけた。
「うーん、野蛮☆……ヒトミーヌは二人の幼なじみだろう?彼ら、昔からこうなのかい?」
「そうね。ここまで露骨な暴力はなかったけれど。カッチャマンはどこに出しても恥ずかしいヒステリック暴力野郎よ」
「ふーん。君はどっちの味方だったの?」
「ちょ、ちょっと青山くんそんな言い方は……」
「さすがに攻めすぎだぜ青山!」
透ちゃんと切島くんが、彼の発言を咎めるようにあたふたと手を振る。私は「いいのよ」と苦笑しながら、隣の青山くんに視線をやった。
「答えは『どちらでもない』よ。あたしはどっちにも味方しなかった。家族が幼なじみを虐めるのを見てただけ」
「どうして?君なら迷わずあの緑くんの味方をしそうだけど」
「それは」
いつの間にかオールマイトまでこちらの会話を気にしているのが、蛇越しに見えた。
私が出久と勝己の仲に介入しなかったのは、原作を変えたくなかったからだ。出久が自信のないいじめられっ子でなければ、彼はここまでオールマイトに執着じみた憧れを抱かなかっただろう。
それに───ヒーロー気取りで割って入って、仲裁に失敗するのが怖かった。そうして二人ともに嫌われるのが怖かった。
勝己は幼少期から今まで、最低の屑だ。いくら家族でも擁護できないくらいの、最悪な人間だ。
中学の頃は出久に「ヒーローになりたきゃ、屋上から飛び降りて生まれ直せ」なんて暴言を越えた暴言を吐いた。あれは、絶対に許してはならない。そして今だって、クラスメイトや他人を傷つける言葉を平気で言ってのける。
だが、私がこの世界に来てしまった日。彼はトラックに轢かれそうになった家族に手を伸ばした。オールマイトがプリントされたシャツを握りしめ、泣きじゃくりながら、「俺が一番強くなる。だから瞳巳はもう大丈夫だ」と言ってくれた。あの日勝己が飴玉をくれたから、私は走り出すことができたのだ。
「睡さんと二人に嫌われたら、私にはもう本当に何もないから。だからどっちの味方もしない」
答えにならない答えを返し、意味もなく花のピン留めに触れながら、モニターを見上げた。青山くんは何も言わなかった。おそらく何となく聞いてみただけで、そこまで興味があったわけでもないのだろう。
画面には立ち尽くす勝己と、せっかくの戦闘服をぼろぼろに汚して倒れ伏す出久の姿が映っていた。幼なじみの全身は傷だらけで、右腕は痛ましく腫れ上がっていた。
その後は特に目立った怪我人もなく、訓練は順調に進み、私たちの最終組になった。気持ちを切り替えて臨まなくては。
「行きましょう『キュア☆トゥインクリング』」
「相手は芦戸さんと砂藤くん。個性把握テストで観察した限り遠距離技はないけど、単純に接近戦が強いね☆作戦はどうする?」
ヴィラン組には、事前に五分のセッティング時間が与えられる。この時間を使って、“麗日さん対策”をした飯田くんのように椅子や机などの備品を動かすもよし。瀬呂くんのように自身の個性で核を保護し、ヒーローチームから守るもよし。
熟慮の末、私は───。
「よし。青山くん、そのマント貰……借りるね」
「!?」
ばくごう ひとみ は キラキラのマント を はぎとった !
***
1-A最後の戦闘訓練が始まった。オールマイトがヒーロー組に合図を出し、芦戸&砂藤ペアが動く。髪に咲かせた蛇のピット器官で探ったところ、二人は出久&麗日ペアに倣い、一階の窓からビル内に侵入したようだ。
彼らの熱を感知した瞳巳は無線を通じ、一階の青山に位置を伝える。
『さて。挨拶代わりに一発、行くわよ!……青山くんが!』
『“おはよう”どころか、“おやすみ”の挨拶になっちゃうかもね☆』
『なにそれカッコイイ!素敵!』
「……っ!!砂藤、危ない!!」
───ヒーローチームが窓から侵入した、まさにその瞬間。ひとつ瞬きの間も与えず、青の粒子を纏った光線が撃ち込まれる。
窓をよじ登り通路に両足を着けた、刹那の急襲。それはあの勝己より、誰より早い宣戦布告だった。
「っぇぇええ!?襲撃はっや!」
「侵入して一秒も経ってねーぞ!?初っぱなからフルスロットルかよ!」
それでも芦戸は持ち前の反射神経でレーザーを避け、砂藤はそんな彼女に腕を引かれる形で間一髪、ベルトに提げた“糖のストック”をいくつか吹き飛ばされる程度で済んだ。
入り組んだ狭い通路では、攻撃の主の姿は見えない。しかし少なくともどの方角に潜んでいるかはわかった。
「びっくりしたけど……!だいたいの居場所は割れた!そっちがソッコーで終わらせる気なら、こっちだって!」
芦戸はレーザーが飛んできた廊下の角を睨み、軸足に力を込めて一気に青山を追い詰めようとした。だが、そんな芦戸の肩を砂藤が掴み制止する。
「待て芦戸、不用意に追うのは危険だ!罠かもしれねぇだろ!」
「そーだけど!二人でこんな狭い廊下に並んでちゃ、私たちまとめて死角から狙い撃ちじゃん!特に砂藤は図体がでっかくて動きもそんな速くないんだから、危ないよ!」
「うっ……俺の【シュガードープ】は身体能力は強化できっけど、反射神経は別モンだから……」
二人は周囲を警戒しつつ近くの部屋に滑り込み、手早く作戦会議を始めた。
ヒーロー組の勝利条件は、核を回収すること。もしくは貸し与えられたテープを巻き付け、二人のヴィランを確保すること。そのどちらかが達成された瞬間、芦戸たちの勝利となる。
だが、核がどの階のどの部屋にあるか、ヒーロー組にはわからない。索敵、探知能力に優れた生徒ならわかるだろうが、芦戸と砂藤はその術を持たない。
よって、仮に“核を回収しての勝利”を目指すなら。地道に一から五階までを隈無く見てまわり、核を探さなければならない。けれどヴィラン組に妨害されながらのそれは、どう考えたって難しい。このビルには、死角になる太い柱や物陰が多すぎる。
与えられた時間はたったの十五分。ならば二手に別れ、効率よく捜索するか?……否。ここの廊下は成人男性三人が肩を並べるだけでやっと、といった手狭さだ。加えて曲がり角が多く入り組んだ、奇襲に適した造り。
体格の良い砂藤が一人で動いては、今のように物陰から狙い撃ちされるのが目に見えている。反射神経の良い芦戸にサポートして貰わなければ、真正面から喰らって戦闘不能になってしまう。
「青山がいる限り、二手には別れられない。つーか索敵できる瞳巳がいる以上こっちの動きは丸わかりなんだから、単独行動は危ねーよな。一人になった瞬間、無線で情報共有して襲ってくるだろうし。近距離特化の俺たちだと、妨害されながら探索して核の回収は難しい。じゃあ、俺たちが勝つには」
「うーん。レーザーに狙われてちゃ、私はともかく砂藤は危ないよね。とりあえず、厄介な青山を真正面からぶっ飛ばす!しかなくない?さっきみたいにおへそレーザーが飛んできたらまず避けて、二人がかりで青山を確保する!『僕の個性は一秒以上射出できない』って、個握テストで言ってたもんね!」
「核探しは一旦捨てて、まずは力技で青山を崩すか。罠かもしれねーが……疑いすぎて縮こまるだけじゃ、時間切れになるだけだ。俺たちは気配感知やら小細工が出来る個性じゃねーしな」
個性把握テストで見た限り、青山の素の身体能力はあまり高くなかった。レーザーの威力は直撃すれば即アウトだが、一秒の射出時間さえしのげば、二人がかりで無力化できる。瞳巳にしても、蛇を駆使した握力や跳躍力はあるものの、あの華奢な体躯で殴る蹴るの接近戦が得意とは思えない。コスチュームもなんか……魔法少女?プリキュア?っぽいし。髪の蛇に巻き付かれないよう注意すれば、さほどの脅威ではない。
彼女は、蛇の赤外線感知能力による探知が得意と言っていた。大方、索敵による青山の後方支援担当なのだろう。
主力の青山さえ早々に捕らえてしまえば、レーザーによる急襲を警戒する必要がなくなる。そうなればあとは二手に別れ、残る瞳巳を引きずり出し、得意の接近戦で下すだけだ。
幸い、青山&瞳巳ペアも短期決戦を望んでいるようだ。侵入した瞬間の攻撃からも、それが窺える。中・遠距離攻撃専門の彼らは、肉弾戦に優れたヒーローチームとの直接対決を避けたがっている。核に到達される前に、瞳巳の“目”と青山のネビルレーザーという連携、死角からの不意打ちで勝負を決めてしまいたいと見た。
ならば、青山はまたすぐにでも襲撃してくるだろう。そこを二人がかりで確実に捕らえれば、勝機はある。仮に向こうも瞳巳と二人がかりで襲ってきたところで、問題ない。芦戸と砂藤コンビなら、小手先の策など強引に捩じ伏せてしまえる。
要するに、力こそパワー作戦。
「ッシャ!やったろーぜ芦戸!」
「おー!罠だろーが何だろーが、溶かしてぶっ飛ばしちゃお!」
***
「とか、言ってるんだろうなぁ」
ビルの最上階にて。青山くんのきらきらマントにリズミカルに釘を打ち込みながら、トンカチ片手に私は鼻歌を歌う。ところでこの素材、意外と硬い。必死で釘を打つ間に、薄ら汗ばんできた。
芦戸&砂藤ペア。どちらも真正面から戦いたくない個性の相手だったが、私たちにとって厄介なのは、芦戸さんのほうだった。なんと言っても彼女はクラス随一の身体能力を誇り、至近距離からでも青山くんのレーザーを避けられる。体育祭編ではそうやって、青山くんを完封して勝利していた。
【酸】という個性も、蛇を操り戦う私とは相性が悪い。蛇で体を拘束したところで、瞬時に溶かされて反撃されるだろう。彼女は、掌だけでなく全身から酸を生み出せるのだから。
核を守りきるにせよ、二人を倒すにせよ。私たちが勝利するにはまず、彼女の動きを制限する必要があった。その為に、侵入直後のレーザーによる“単独行動の阻止”が有効だと判断した。
死角だらけの狭い通路に加え、正確な位置を把握して襲い来る青山くんのネビルレーザー。対して、ボール投げや握力では記録を出したが、50m走で最下位だった砂藤くん。
彼は、反射神経の良い芦戸さんと共に行動しなければレーザーの速度に対応できない。だから二手には別れられない。芦戸さんの個性は、強力な酸。しかし近距離に人が居ては、液体が飛び散るなどの巻き込み事故を恐れてそう多くの量は出せなくなる。少なくとも、入学間も無く個性を使っての戦闘に不慣れな今は、その辺りの繊細な制御は不得意なはずだ。これで、彼女に足枷をつけることは出来た。
「では、
彼らはこうも思っているだろう。「爆豪瞳巳は、後方支援系の個性だ」「蛇にさえ気をつければ、ワンパンで片付けられる」と。
しかし。私は八年もの間プロヒーローから一対一の教えを受けていた。それも、普通のプロではない。天下の雄英、その校長直々に「教鞭を執ってほしい」と請われる程の実力派。『眠り香ヒーロー』ミッドナイトである。
世間では美人ヒーローというイメージしかないかもしれないが───彼女の近接戦闘技術は、並み居る格闘家を軽く負かす程だ。なんといっても、「一芸だけではヒーローは務まらない」と言った相澤先生も一目置く先輩だ。個性頼りの一芸ヒーローなわけがない。
彼女の【眠り香】は、少なくとも中距離まで接近する必要がある。呼吸をさせ、香りを吸い込ませる必要がある。その為に格闘術を修めたのだという。
そんなミッドナイトの教えを受けた“瞳巳ちゃん”の体も、特別である。爬虫類系個性を持つ優秀な両親から受け継いだ、恵まれた身体能力と個性。八年間の弛まぬ研鑽。元々は高校生であった中身。
この恵まれた血筋と環境で、まだ何の指導も受けていない十五歳の子供に負ける道理がない。……さすがに轟や勝己など、あまりにも強い個性や天性のセンスには勝てないが。
“私”は能無しで、弱い。けれど“あたし”は、『ちょーかっこいいヒーロー』になれる才能がある。姉たちだって、普通に生きていればきっと今頃“日本初の双子ヒーロー”として───。
とにかく、彼らは私とミッドナイトの関係を知らない。私がおよそ八年もの間死に物狂いでこなした、地獄の熱血特訓を知らない。あの
「う……今思い出しても吐きそう」
「ボクは新品のマントに釘を刺されて、今まさに吐きそうなんだけど☆」
「ご、ごめんなさい。でも、どうせならやれる事はやっておきたいじゃない?」
鮮烈すぎる思い出に蓋をし、気を取り直す。蛇くん達の目を通し、彼らが作戦会議を終え、部屋を出て一階を移動し始めたのがわかった。
私たちがいるのは、最上階である五階。核を安置した部屋の前には、不服そうに唇をきゅっとした青山くんもいる。その視線は、壁に固定され、開け放った窓からの風にそよぐマントを見つめている。彼には一階での襲撃後、すぐに五階まで戻ってきてもらったのだ。
「セッティングの五分間でやったことは、君の髪をちぎってそこら中に撒くことだけだったけど。あの蛇たちに襲わせて、彼らの足止めをするのかい?時間切れ狙い?」
「いいえ?時間切れを狙ってもいいけど、それだとあまり加点が貰えなそうだし。蛇くんたちは、ただの精神攻撃」
「精神攻撃☆」
「『この蛇何!?ヴィランチームは何を考えているか分からない!常に警戒してなきゃ!』ってプレッシャーを与えたいの。そうやって芦戸さんの思考を鈍らせ、視野を狭めて罠に飛びつかせる。砂藤くんには糖分のストックを絶えず使わせ、精神的に追い込む」
「エグい☆」
身体能力を五倍にする【シュガードープ】の持続時間は、三分。その時間を過ぎて次の糖を補給しなければ、彼の身体能力と脳機能は大きく落ちてしまう。
砂藤くんが持っていた糖分ストックは、最初の一撃でいくつか狙い撃てた。万全でない備えは、徐々に彼の不安を煽っていくことだろう。
砂藤くんも芦戸さんも、万全の状態であれば正面からは容易に突破できない強力な個性を持っている。しかしUSJ、期末試験編などを見た限り、彼らはイレギュラーに弱い。積極的に策を練るタイプではない。「どうすれば状況を打開出来るか」「自分の個性をどう応用するか」、今はまだ測りかねている印象だった。まあ、彼らが内通者だとしたら、それも含めて演技かもしれないが。
青山くんの後方支援に徹し、手の内をなるべく見せないこと。二人がこの最終階に到達したら、手足のリストバンド(ドラゴンボールで悟空たちが付けていたような重り)(各三kg)(外したらゴトッ……てなるやつ)(ミッドナイト監修)を付けつつ全力で戦うこと。
完璧すぎる勝ち方・もしくは個性把握テストの好成績に見合わない不自然な負け方をして目立たなければ、勝っても負けてもどちらでも構わなかった。だが。
「もし。どちらかが“そう”だとしたら?」
芦戸三奈、砂藤力道。どちらかが内通者であった時のために。私は彼らと一戦を交え、実力を知っておく必要がある。彼らを間近で観察する必要がある。
特に砂藤くん。彼は原作でも背景があまり描かれていないキャラクターなので、この機会に戦い、縁を作っておきたい。
「……さて、もうすぐヒーローチームが来るみたい。頑張りましょうね、青山くん」
「ウィ☆ボクに敗北なんて似合わないからね」
***
青山撃破を目指して慎重に、慎重に進み、ようやく五階に辿り着いた。その頃には、芦戸も砂藤もすっかり疲弊しきっていた。砂藤に至っては、たった今最後の角砂糖を口にした後である。初撃でいくつかのポーチを焼かれたのは、大きな痛手だった。
しかし、それよりも何よりもヒーロー組を焦らせている要因は。
「青山も!瞳巳も!なんっにもしてこな〜〜い!!」
“一向に何も仕掛けてこない”もどかしさに、芦戸が叫ぶ。無言ではあるものの、砂藤も全く同じ思いだった。
そう、五階に至る現在まで、本当に何もなかった。怪我どころか、コスチュームへの汚れひとつない。ならばどうして、こんなにも疲れきっているのか。
「地味に歩きづらい!ヘビヘビパニックだよ!」
「この金色の目、監視されてるみたいで……精神にくるな……」
「わかる。ガラガラって威嚇もゾワワってして嫌だよね……」
廊下や階段には、何匹もの蛇が無造作にばらまかれていた。全長三十センチ程のそれらは、艶々とした黒の鱗を照り光らせて蠢いている。間違いなく瞳巳のものだ。どうやら彼女は髪を切り離し、操ることもできるらしい。
別に、この蛇たち自体が強いわけではない。近くを通れば噛みつこうとしてくるが、芦戸の酸、もしくは砂藤の一蹴りで容易に動かなくなる程度だ。
しかし───絶えず周囲を見回しながらの探索。死角から襲い来るであろう青山への警戒。足元にばらまかれた不気味な蛇への注意も疎かにできない。加えて───制限時間も、刻一刻と迫ってきている。
相手は訓練開始一秒で攻撃を仕掛けてきた、好戦的なペアだ。瞳巳の索敵をもとに、またすぐ物陰から攻撃をしてくるに違いない。そう思って砂藤はこまめに糖を補給しシュガードープ発動状態でいたのだが、何もない。あの最初の一撃以外、本当に何もしてこない。足音ひとつすら、しない。
ヴィランチームには、瞳巳がいる。ヒーローチームの動きなど筒抜けだろう。だというのに、ビル内は不気味なほど静まり返っている。足元の蛇が鳴らす不快な威嚇音だけが、反響している。
彼らの金の双眼と目が合う度、“監視されている”“見透かされている”という錯覚に目眩がした。その生き物はただそこにいるだけの筈なのに、古来より人間に備わった生理的嫌悪感を刺激する。毒々しくぬめる鱗に、背筋が粟立って仕方がない。
一向に現れない敵への苛立ち。前方、後方、足元にさえ絶えず緊張の糸を張り続ける、精神的負荷。無数に散らばる不気味な蛇の視線によるプレッシャー。無為に消費され、なくなっていく砂糖への不安。迫る時間切れへの焦燥。
芦戸も砂藤も、あれこれと策を弄する性質ではない。そんな二人にとって、じわりじわりと思考を蝕むこの攻め口は、何よりの苦痛だった。
「あ~もう!あと三分で時間切れだよ!どうしよう、私たちも尾白たちみたいにいいとこナシ!?」
「クソっ、あいつらまさかの時間切れ待ちか!?“戦闘”訓練なんだから、戦えよなー!」
揃って頭を抱えた、その時だった。
通路の真正面。開け放たれた窓からの風に、煌めく外套が翻るのが僅かに見えた。芦戸の心臓が大きく鼓動する。
残された時間は少ない。これが、最後の好機かもしれない!疲弊した脳に、熟慮の余地はなかった。
「っやっと来たぁ!砂藤!!左に避け───」
芦戸はレーザーの直撃を避けようと、砂藤の腕を引き素早く跳躍。左側の通路に飛び込んだ。しかし。
「残念、あれは囮。本物の
「───は、」
逃げ込んだ小路。照射される直前、余裕を持って避けたはずの青白い燐光は今、芦戸の黒目を照り返し輝いている。
なぜ?通路正面にいたはずの彼が、なぜ逃げ込んだ先のここにいる?
高く跳躍し、宙を舞う芦戸の見開かれた双眸は、青山の姿を鮮やかに捉えた。
走馬燈じみたスローモーション。空中から見下ろす背に、あのきらびやかなマントは───ない。
ならばあれは、芦戸を確実にここへ誘導する為の。
「お、囮!?ずるいよ〜〜!」
「
一条の光線が天井を撃ち抜く。落ちる芦戸を、細かな瓦礫の群れが襲う。流星の如く降り注ぐ礫が、全身を打ちつける。青山が確保テープを取り出したのが、視界の隅に見えた。
【ヒーローチーム芦戸:確保?】
「芦戸……!」
コンクリート壁すら容易に破壊する光線は、轟音と共に天井に風穴を開けた。砂藤が声を張り上げるも、芦戸の返答はない。煙の向こう側は、どうなっているのか。チームメイトは、ヴィラン組に確保されてしまったのか。急いで瓦礫の山を退けようとするが、未だに崩落を続ける天井のせいで、近づくことも難しい。
個性の持続時間三分が、間近に迫っている。ストックも、既に使い切ってしまった。“十五分間、いつ奇襲があるか分からない”状態の中、途中で糖分を切らすわけにはいかなかった。
たちまち辺り一面を覆った砂埃に、砂藤は思わず咳き込み、反射的に固く目蓋を閉じようとした。だが、すんでのところでそれを堪える。
今、目を閉じてはならない。そんな直感があった。瞳に入る砂埃の痛みを無視し、睨むよう正面通路に目を凝らすと───風もないというのに、煌びやかな
目を奪うその輝きに視線を奪われた、刹那。煙のなか浮かび揺らめく影が、研ぎ澄まされた白刃の如く襲来した。
「ぐ、ぉ……!?お、重、い……っ!!?」
「あら。女の子に対して、それはあんまりじゃない?」
咄嗟に両腕を交差させ受身をとれたのは、奇跡に近かった。
空を裂く飛び蹴り。重く速すぎる一撃を受け止めた腕が内側から痺れ、鈍く痛む。衝撃を殺しきれず、上半身が傾く。が、悲鳴をあげ軋む筋繊維を無視し、無理矢理に体勢を立て直す。
なぜ、このような華奢な少女にこんな膂力が?こんな魔法少女じみた衣装なのに、肉体派なのか?
「瞳巳お前、プリキュアじゃなくて戦隊モノのヒーローかよ!?」
「ただの爆豪瞳巳よ!一年間よろしくね!」
砂藤の悪態めいた呟きに、少女が律儀に返す。
突っ込みたいことは数多あるが、これ以上の疑問を抱く間はない。腕の痺れに呻く暇もない。すぐに第二波が襲い来るのはわかりきっていた。
【シュガードープ】の効果がほぼ切れかけとはいえ、この体格差があってなお完全に受け流せなかった。そんな蹴りを繰り出した少女が、生易しい追撃などするはずもない。
飛び蹴りの勢いもそのままに、華美な衣装を翻して第二波。間髪を入れず、髪に咲いた毒蛇による横一閃。鞭のようにしなるそれは砂藤の腹部を強かに打ち据え、頑丈なはずの戦闘服を切り裂いた。
続く攻撃でも彼女は地を這う蛇のように姿勢を低くし、隙を穿つ。受けるこちらは全身に糖を回し、目まぐるしい猛撃を両の腕で防ぐ。
「……っお前!その体のっ、どこ、にそんな、チカラあんだよ!!!」
「ふふ!素敵な師匠がいるの、よ!」
「そりゃ、会ってみてぇ、っな!……っ女子、だからって遠慮、しねぇぞ!!」
「望むところ!」
うねる黒蛇による刺突が、眼前に迫る。半身を捻り、寸前で回避。掠めた頬から一筋の血飛沫が舞いあがる。
並の人間なら、痛みに呻き一瞬の隙が出来ていたことだろう。だが砂藤が裂傷に怯むことはなかった。むしろ歩を進め、瞳巳の薄い胴体目掛けて豪拳を撃ち込む!
瞳巳は寸でのところで二匹の蛇で防御。が、五倍に増幅された拳を受け流しきれず、一歩後退。予想外の威力の反撃に圧倒され、少女の軽い体躯がよろめいた。砂藤は隙を見逃さず、細腕を掴み上げ、壁に向けて容赦なく背負い投げる!
「オラァァァッ!!」
「か、はっ……!!」
手加減はない。ヒーローを目指す同志として、少女と砂藤は全力で向き合っていた。彼とて、ヒーローを目指して幼い頃から自主トレーニングに励んできた。目の前の少女も、相当な鍛錬を積んできたとみえる。そんな彼女に手加減など、失礼に当たる。
したたかに壁に背を打ち付けた瞳巳はしかし取り乱さず、即座に体勢を整えた。むしろ、投げられたことにより先程より開いた間合いを活かし、床に散らばる小蛇たちを動員して足元を崩す指令を下す。同時に、中距離から黒蛇を伸ばし、鞭のようにしならせ、変幻自在の攻撃を展開する。
足の腱に食らいつこうと飛びかかる無数の蛇を踏み潰す。飛び散った体液で、艷めくリノリウム張りの床が不快にぬめる。
下方、足元を掬わんとする蛇たち。上方、額を掠め振るわれる高速の鞭。踊るように大きく一歩踏み込んでは放たれる、鋭い足蹴り。
もう少し打ち合えば、動きのパターンが読めるかもしれない。だが。
「ぐっ……クソ、時間がねぇ!」
歯を食い縛り、鞭打たれた肋骨の激痛に持っていかれそうな意識を誤魔化す。まずい。このまま防戦一方では、エネルギー消費が激しすぎる。糖分切れで確実にやられる。もしくは、オールマイトが「時間切れ」を告げるのが先か。
個性はまだどうにか生きている。思考能力が低下する前にどうにかして一発でも叩き込めれば、勝機はある。
……一か八か。防御を捨てて一撃勝負に出るしかない。
「怪我しても、恨むなよ……!」
「……あら。じゃああたしも、本気で行くわ!」
静かな闘志を燃やし、拳を握りしめる。意図を察した目前の少女も軸足に力を込め、小さな拳を握り込む。
互いに痣だらけの、満身創痍。それでも二人は笑っていた。ただ、全力での戦いが楽しかった。ヴィランチームだとかヒーローチームだとか、授業とか。そんなことを忘れるくらい、楽しかった。
「───“因縁の対決”も、いよいよ決着ね」
「───ああ。名残惜しいことにな」
「最期にひとつ、聞いてもいい?……あたしたち、ヴィランとヒーローでなければ
「……いいんだ。これで良かったんだ」
これは二人の預かり知らぬことだが。モニター向こうのオールマイトが、「君たち昨日出会ったばかりだよね!?」と突っ込みを入れた。
「行くぞ!!『シュガーラッシュ』!!!」
「──……!!!」
何十発もの拳に魂を乗せた、全力のラッシュ。永きに渡る(十五分足らず)因縁の対決(ほぼ初対面)も、満を持して終幕。A組の面々も、固唾を飲んで見守る。
瞬きの後、そこに立っていたのは。
***
「やったやったー!私たちの逆転勝利!イエーイ、ハイタッチしよ!!」
「眠……怠……糖……分……」
「ヨダレ垂れてるよ☆ハンカチーフ持ってるかい?」
「うーん、ヴェリタースオリジナルで回復するかしら?あっ、二つあるから芦戸さんにもあげるね」
「わぁ、懐かしい飴!ありがと瞳巳!」
「
戦闘訓練、最終組が終わり、オールマイトによる講評を終えて。勝者は芦戸&砂藤のヒーローチームだった。時間切れまであと数秒というところで、ヴィランチームは惜しくも敗れた。
飴を舐めて何とか持ち直した砂藤くんが、改めて芦戸さんとハイタッチを交わす。彼は快活に笑い、何故か敵チームであった私や青山くんともハイタッチをした。
「索敵で俺らの侵入位置を把握しての奇襲に、焦りを見越しての罠。お前らのコンビ、強かったぜ。瞳巳、今度組手しような!青山も反射神経鍛える特訓に付き合ってくれよ!」
「私は見らんなかったけど、瞳巳って意外と筋力すごいんだ?今度私とも自主トレしようねー!あ、青山はもうちょいフィジカル鍛えたほうがいーよ!一緒にガンバロ!」
「……光属性眩しいね、青山くん」
「……キラめいてるね☆」
結局あの後、『シュガーラッシュ』の威力に押し負けた私は戦闘を続行できず降参。同じくらいふらふらの砂藤くんが倒れ伏す私に確保テープを巻き、その瞬間、十五分が終了した。
一方、瓦礫に埋もれ、青山くんによって確保テープを巻かれたと思われていた芦戸さん。だが彼女は地面に向けて落下しつつ、全身から酸を分泌。瓦礫を強引に溶かし、衝撃による気絶を回避した。
そして彼女の意識がないものとすっかり油断し、煙の向こうから近付いてきた青山くんに対し、鮮やかな奇襲返し。持ち前の運動神経で彼を組み伏せ、ネビルレーザーすら打たせず確保テープを巻いて逆転勝利した、という顛末。
しかし“マントを囮にする”“拙いながらも作戦を考え、索敵と攻撃の連携をした”など、負けたヴィランチームへの加点も多かった。講評ではオールマイトと八百万さんに作戦の穴をいくつも指摘されたが───まあこんな所だろう。入学したてから子ども離れした完璧な立ち回りをしても、目立つばかりでいい事などない。
私は肩を落とし、悔しげに眉を寄せ、小蛇を生み出し過ぎてほんの少し短くなった髪を指で弄んだ。私の個性はレディ・ナガンのように髪を使うため、酷使すればする程短くなってしまう。
「あーあ、私も青山くんももう少しだったのに。こんなに髪を使ったし、青山くんのマントだって穴開けちゃったのに。全身から酸が出せるなんて、
「えへへ、ありがと!でも瞳巳だって索敵以外にも色々出来るんじゃん。ヘビヘビパニックはびっくりしたけど!」
「ええ、自分でも何ができるか模索中よ。……あ、びっくりしたといえば砂藤くんだわ!あんな必殺技
「俺もプリキュアみたいな戦闘服でガチガチの肉弾戦するやつ、初めて見たぜ」
他のクラスメイトがグラウンドを後にしても、戦闘直後の私たちは興奮気味に感想を話し合っていた。
芦戸さん、砂藤くん、青山くん。無邪気な顔をした彼らのそれも、全ては演技でしかないのかもしれない。だが。
「もし、泣いている子どもの所にあなた達みたいなヒーローが来てくれたら。きっとその子は『もう大丈夫だ』って安心できるのでしょうね」
「え〜?子どもだったらプリキュアみたいな瞳巳が来た方が喜びそうだけどね」
「はは、確かに!お前みたいなヒーローが助けに来たら、安心するだろうな」
「…………え?」
「ンー、雑談もいいけどさ☆グラウンドにいるのもうボクらだけだよ?早く着替えなきゃ帰りのHRに間に合わなくない?ボク、相澤先生に怒られるの嫌なんだけど☆」
「……アッ」
「死」
「は、走るわよ!」
グラウンド・βから校舎まで。血相を変えた私たちはぼろぼろのコスチュームを翻し、走っていく。満身創痍の身体を引きずって懸命に走る、四つの影が並ぶ。
蛇越しに俯瞰するその光景が、なぜだか堪らなくおかしい。
「っふ、あはは……!」
気付けば私は、怪我で痛む腹を押さえ、小さく笑っていた。「何笑ってんの!」と肩を叩く彼らもまた、何故だか無邪気な口元に笑みを湛えていた。
グラウンドから校舎を見上げると、職員室から教室へ向かう途中なのだろう。ミッドナイトと相澤先生が、並んで廊下を歩いているのが見えた。
「ミッドナイトー!!相澤センセー!!」
理由のわからない感情の昂りのまま、二人の名を叫ぶ。大きく手を振る。彼らが驚いたように目を見開く。爆豪瞳巳は本当の十五歳の子どものように、校庭を駆けた。目隠し越しの目蓋に、柔らかな西日が射した。
【次回】
「見知らぬ、発目姉妹」
「葉隠透、アイドル化計画」
「あたしの代わりは、たくさんいるもの」