蛇に花房、石に飴玉   作:鳥市

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4. リリウム

 爆豪瞳巳は、あの日の中辛カレーを二度と食べられない。ママとお姉ちゃんにレシピを訊いておけばよかったなあ。

 

 

 金曜恒例のカレーを食べた、翌日のことだった。夏休みを明後日に控えた七月二十日、私たち幼馴染みは自宅近くの公園で、ヒーローごっこをして遊んでいた。

 もっとも、勝己の取り巻きを交え無個性の出久を一方的に追い回すそれは、ヒーローの行いとは程遠いものであったが。

 

「や、やめてよかっちゃん!ほんもののヒーローはこんなことしないよ……!」

「ほんもののヒーロー?むこせいのデクがかたってんじゃねーよ!」

 

 勝己が鼻で笑うと、ツバサくんたち取り巻きも調子を合わせ、大袈裟に腹を抱えて嘲笑する。原作漫画の冒頭で見たものと酷似した光景だった。

 私は少し離れたブランコに腰掛け、頬杖をつきながらそれを傍観していた。

 

「すごい。真剣ゼミで見たところだ。見たくなかったけど」

「しんけん?せみ?瞳巳ちゃんなにいってんの……?」

「なんでもないよ、ツバサくん」

 

 独り言を聞き咎められた私は、赤い翼が生えた小太り気味の少年に向かって、小首を傾げて微笑んでみせた。純情な小学生男子は途端に頬を紅潮させ、もじもじと俯く。チョロいですわよツバサさん。

 瞳巳ちゃんは艶々の黒髪に金色の目の美少女だ。私だって未だに鏡を見て「可愛いなこの子」と真顔で呟いてしまうくらいだから、ツバサくんの反応はよくわかる。

 私は乙女ちっくに恥じらうイガグリ坊主ヘアーの彼を、その特徴的な個性をじっくりと観察した。

 

 彼は、背中に生えた翼で自在に空を飛べる個性を持っていた。身の丈ほどある大きな羽根は、もしかしたら何人かの人を抱えて飛ぶことが可能かもしれない。力強く羽ばたいて風を起こし、攻撃手段としても使えるかもしれない。

 たしかヒーロー殺し編で出久を拐おうとした脳無も、大きな翼を持っていた。私の個性があんなふうに自在に空を飛ぶものだったら、どれだけ良かっただろう。

 

 ツバサくんの祖父が経営する病院によると、私の個性は"蛇にらみ"だそうだ。睨んだ相手を、ほんの一瞬驚かせるだけの能力。コミックス番外編で梅雨ちゃんの友人として登場した、万偶数羽生子ちゃんの『睨んだ相手の筋肉を三秒間弛緩させる』個性の劣化版である。

 ステインのように動きを止めるでもなく、ただ単に「え、何すか?」と相手をびっくりさせるだけの、毒にも薬にもならない個性だ。華がないにも程がある。

 普通、転生者ってもっと格好よくて強い、もしくはリカバリーガールのような唯一無二の能力を持っているものだと思っていた。しかして現実は、私というモブキャラに優しく出来ていない。

 

「ま、私は主人公じゃないもんね」と苦笑し、腰かけたブランコから、理不尽に虐げられる主人公を見つめる。見つめている、だけ。

 彼らはこの幼い日の出来事があったからこそ、成長できた。出久には可哀想だが、原作の流れを邪魔してはいけない。第一、私の個性では勝己と取り巻きたちの華々しい能力に太刀打ちできない。

 

 夏休み直前の、ことさらに強い陽射しが肌を焼く。少しでも風を感じようと、ブランコを漕いで生ぬるい空気に黒髪を泳がせた。両手に持った金具が熱いだけで、少しも涼は得られなかった。

 すぐそばでは、勝己と取り巻きたちが飽きもせず無個性の出久を追い詰め、泣かせている。私は公園の木々にしがみついた蝉たちを睨み、心中で命じる。

 蝉よ、もっと鳴け。その小さな胸を震わせるだけでは些かも足りない。もっと腹から声を出せ。幼馴染みの悲痛な泣き声を、それを笑うもう一人の幼馴染みの罵声を掻き消すほど、甲高く叫べ。

 

 黙って二人の声を聞いていられず、かといってヒーロー気取りで間に割って入って、どちらかに嫌われる勇気もない。そんな私は努めて明るい口調で、目の前の少年に尋ねた。

 

「ツバサくんも、ヒーローになりたいの?」

「うん!あ、あの瞳巳ちゃん。おとなになってぼくがヒーローになったらさ……お、およめさんになってくれる?」

「臨機応変かつ柔軟な思考で前向きに検討するね」

「う、うん……?」

 

 美少女にのみ許された小首傾げスマイルで、ツバサくんの可愛らしい告白を煙に巻く。

 会話を耳敏く聞き付けた勝己が、「てめェごときが俺のかぞくになるとか、ぜってーゆるさねー!」と出久を放り出し、ツバサくんに殴りかかった。ツバサくんは犠牲になったのだ。

 微笑ましい光景に笑みを浮かべつつ、私は内心でため息をつき、思考する。

 

 彼ではなく、私にその個性があれば。出久を抱えていじめっ子の手が届かないところに逃がしてあげられるのに。私なら、その素晴らしい翼を下らないいじめなんかに使わない。親友とこの身体への贖罪のためにヴィランと戦い、人助けに奔走するだろう。

 その強力な個性があれば、勝己を諭し、ぶつかり合い、対等にお話が出来るのに。

 

「いいなあ、ツバサくんは」

 

 立ち上がってブランコを漕いでも、夏の空は青く遠いだけだ。地を這う蛇に空は飛べない。

 

「おーい瞳巳!つぎはおにごっこやるぞ!」

「はーい、今行くよカツキーヌ、イズクヌス」

「ぷふっ……!」

「だれがカツキーヌだゴラァ!デクもわらってんじゃねー!」

 

 空は飛べない。けれど私はミッドナイトに出会えた。勝己と出久という、大変面白、…………大切な幼馴染みがいる。最近は、今の家族も悪くないと思い始めている。

 

 ***

 

 ヴィラン。すなわち、善良なる市民の敵。人々の平和な生活を乱す、社会の癌。

 何度もテレビで、動画で、漫画で見たはずのそれを、私は本当の意味で知らなかった。個性という暴力を振りかざす怪物はいつだって、ニュースの向こう側の登場人物だった。この世界に生まれて一年と数ヵ月の私は初めてそれと対峙して、愕然とした。

 

 つい先程まで頬を染めながら私を見つめていたツバサくんが、取り巻きたちが、目の前で仰向けに転がっている。頭や身体から止めどなく血を流す彼らは気を失い、痛みに呻きながら地面に四肢を投げ出している。

 

「ド雨雨、セ、死刑にナ、縺?なラ……もツ礪殺死タい、ナ……そ喉ホウウ蛾、オ得惰よナ……肉生肉ダ、子奴モ、公園、オ肉、?子コ供、柔楽回い縺ンンね!」

 

 訳のわからない譫言を吐き散らすその巨大な怪物は、突如として現れた。

 全長五メートルはあろうかというそれは、公園の蛇口から水音を滴らせて出現した。夕暮れの閑静な住宅街の平和を打ち壊し、たちまちのうちにその場を恐怖で支配した。

 

「此個コドも。肉食いタ矣緜?痿?云いイ原へッタくウウコsろ吸うヲ雨死?四の失肢。挽ぃ縺肉殺多ソ圧そね」

「に、にげ、て瞳巳、ちゃん……!」

「にげ、ろ……!瞳巳」

 

 巨大な水の怪物に捕らえられた幼馴染みたちは、恐怖に顔中をくしゃくしゃに歪め、それでも叫んだ。私の胸を強く突き飛ばして、瞳巳を庇った。

 

「にげて」

 

 私の大切な親友。あの子と同じことを言った。

 

「おい、ヴィランだ!」「誰かヒーローに通報したか!?」「子供が襲われてるぞ!ど、どうすれば」「誰か助けなきゃ」「馬鹿言え、あんな巨大なヴィランだぞ!?俺たち一般人にはどうしようも」「かわいそうに。こんなときオールマイトがいれば」

 

「にげて」

「にげろ」

 

 せめて幼馴染みの女の子を逃がそうと、二人は懸命の抵抗を続けた。公園の入り口前には、安全圏から事態を見守る数人の一般人がいる。

 彼らは、哀れな子供たちを助けようともしなかった。やがてヴィランに口を塞がれた二人が白目を剥いて意識を失おうが、動き出す者は誰もいなかった。

 どうせすぐにヒーローが来てくれる。どうせ個性をもて余しただけのヴィランだ、命まではとられまい。あの子たちには可哀想だが、一般人の自分たちにはどうしようもない。そう思っていたのだろう。

 彼らは点滅するスマホをこちらに向け、私たちの姿を録画せんと天高く掲げた。明日には"哀れな子供たちを襲った悲劇"は、YooTubeかネットニュースにでも取り上げられるだろう。そしてありふれた不幸として忘れ去られていくのだろう。

 無力な子供たちを助けようとする英雄は、一人としていなかった。

 

「ていうか、私また死ぬの?嘘でしょ?爆豪勝己と緑谷出久はどうなるの?漫画にこんな過去回想あった?ないよね?」

「柔イ肉可哀愛、イ川安和イ縺な!子供ヲ肉、子コ供三びキ!首臓、腸切断、キ潰挽四肢レレ切テ、っテ食煮よう雨、ね!」

「ねー、ないよね!ほんと……はは、ほんっと……こんなのって……こんな……おかしいよ」

 

 まだたった三ヶ月だけれど、ミッドナイトの辛い修行を堪えた。毎日たくさん走って、六年生にだって負けないほど早く動けるようになった。全身に重りを着けて、腕立てや腹筋だって頑張った。

 あんなのろまなヴィランから幼馴染みを奪い返すくらい、簡単に出来るはずなのに。ヴィランに出会ってしまった時の護身術だって、叩き込まれたはずなのに。

 

「なんで……動いてくれないの!?」

 

 私の足は震えるだけで、前にも後ろにも進めなかった。毎日散々繰り返した訓練は、何の意味もなさなかった。

 私に、親友のような心の強さはない。自らの危険も厭わず手を伸ばした勝己の勇気もない。ミッドナイトのような強い個性もない。居ても居なくても変わらない、村人Cだ。

 

 ヴィランは気を失った勝己と出久を軽々と両手に握り、絶望に歪む私の顔色を楽しむよう舌なめずりをした。

 私はその顔を知っている。己以外の人間を人間だと認識していない、異常者の笑みだ。ゲームみたいに、朝食のついでみたいに人を殺せる人種だ。

 それはあの日の再演だった。弱者をいたぶることでしか悦びを感じられない、どこまでも閉じて閉じて濁りきった盲目の怪物。公園の敷地外から私たちを覗く傍観者の()()()

 

 だから私は、瞳を開くしかなかった。

 

「そんな目で、私を見るな」

 

 すべてを呪い、世界を睨み下ろした。

 たちまちのうちに時を止め、声もなく石化していく怪物。異常者は恐怖に歪んだ目を見開いて、物言わぬ石像と化した。私はその末路を当然のように見届けて、嗤っていた。

 もっと苦しめてやればよかった。そんな一抹の悔恨すら脳裏をよぎる。

 

 ───ここは、私の家のすぐ側の公園だった。末娘を迎えに夕方ごろ、過保護な姉たちは頻繁にこの場所に来てくれた。ヒーロー志望の、正義感の強い姉たちだった。

 息を切らした黒髪の少女二人が、人混みをかき分けて走ってくる。私はそれを、()()()()()いた。

 

「大きなヴィランが()()見えたから、すぐ駆けつけられたよ!……イズクくん、カツキくん!今助けるからね!」

「こ、このヴィランめっちゃデカイよ……!蛇?猪?キメラ?十メートルはあるんじゃないの!?」

 

 颯爽と駆けつけた姉二人は高校の帰りらしく、雄英の制服を身に付けていた。普通科であっても救助の授業はあるのか、長女は石化したヴィランの腕から勝己と出久を素早く保護し、次女は倒れ込むツバサくんたちの無事を確かめた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 お姉ちゃん褒めてよ!私もヴィランをやっつけられたよ。なんか知らないけど、目を合わせたら勝手に石化してくれたんだよ!ところでヴィランが二体って何?どこどこ?やばくない?通報した方が良くない?

 私は「頼りになる姉が来てくれた」という安堵に息をつき、身振り手振りを交えて言い募った。

 

「ヴォォオ!ギギュオガ、ア?」

 

 けれど発した音声は何故か、人間のものとは思えない、不明瞭な鳴き声となって反響した。いつものソプラノとは程遠い、聞くに堪えない地響きのような酷いだみ声だった。

 そういえば、姉たちの姿が不自然に小さく見える。石化した水のヴィランだって、五メートルはある巨体だったはずだ。私は何故、彼のつむじを見下ろせている?

 例によって美少女にのみ許された可愛らしい動作で首を傾げ、目をこする。私の小さな身じろぎと連動するように公園のブランコが大きく揺れ、回転ジャングルジムの錆びた金属が悲鳴をあげたのが不思議だった。周囲の木々がざわめき、遠くの山へカラスが飛び立っていく様子も、鮮明に確認できた。

 

「ねえお姉ちゃん。あたし、何かおかしい?なんか声も低いし視界が妙に高いっていうか───」

「ひっ……コイツ、私たちのほう見てるよ!」

「ヒーローが到着するまで、た、戦うしか……!」

 

 私はいつものように、幼女特有の大袈裟な身振り手振りで姉たちに話しかける。

 彼女たちは途端に怯えを滲ませ、緊張感漂う面持ちでこちらを睨んだ。そして互いに頷き合うと、臨戦体勢で距離を詰め、私の胴体目掛けて跳躍する。

 

「バケモノ……!」

 

 姉妹は両腕を伸縮する蛇に変化させ、"妹"に飛びかかってきた。蛇と化した長女の右腕が私の胴体に巻き付き、窒息させんと締め上げる。次女の左腕の蛇が私の腹を食い破り、容赦なく毒液を流し込む。

 

 えぇ?いた、痛い、痛いって!ちょっと待ってよお姉ちゃん。どうして私を噛むの?どうしてそんな目で私を見るの?まるで、ヴィランを見るみたいな目で。

 

「待ってよお姉ちゃん。どうして攻撃するの?私、あたしは瞳巳だよ!二人の妹だよ!冗談ならもうやめて!」

 

 見たこともない真剣な顔をする姉たちが怖かった。だから必死に、細く小さな腕と"尾"を動かす。空中を飛ぶ蚊を追い飛ばすようにがむしゃらに暴れる。

 尾が何か生温かいものを掠める未知の感触が、脳に伝わった。

 

「が、べッ」

 

 いつの間にか、二人の姉は視界から消えていた。いや───地面に崩れ落ち、腹を押さえて血を吐きながら咳き込んでいる。

 そんな光景を見て、心配しないはずがない。私は咄嗟に、彼女たちに手を差し伸べていた。

 

「お姉ちゃん!?だいじょ……痛っ」

 

 双子の姉が妹を守るよう個性を使い、伸ばした私の指先を噛んだ。

 

「私の妹に触るな、バケモノ!」

「なに……?さっきから何言ってんの、お姉ちゃん」

 

「妹に触るな」?私は、三姉妹の末娘だ。年の離れた妹として、本当に可愛がられていた。それなのに、彼女たちは先程から何を言っている?

 何一つとしてわからない。早く家に帰りたかった。「お姉ちゃんにいじめられた」と、優しいママとパパに言いつけてやろうと思った。

 私はとうとう大粒の涙を流し、しゃくりあげて泣いた。それでも、誰も駆け寄っては来なかった。「……おぞましい」と呟く誰かの声が聞こえた気がする。

 

「皆さん下がってください!ヴィランが何か唸り声をあげてます!危険です!」

「私たちは、ヒーローが来るまでどうにかアイツをここに食い止めます!そこのおじさん達は、子供たちを安全なところまで運んで下さい!おばさん達は、近隣の方に避難を呼び掛けて!」

「もう一人のヴィランてどこ?どうして誰も私を保護してくれないの?私、被害者なのに」

「動画撮ろうと思ったけど……な、なんかヤバそうじゃね?」

「さっきまで小さな女の子がいたわよね?突然雷みたいな光がさして、目を開けたらいなかったけど……」

「アレが食っちまったに決まってる。あんなぎらついた牙ぶら下げてんだから」

「そうだよ。あんなのヴィランどころか人間でもねえって。なんていうか……」

「バケモノ、って感じ……?」

 

 人々が、泣きじゃくる私を見上げて後ずさりをする。彼らの原因不明の怯えが、優しい姉たちの豹変が、心底恐ろしかった。姉たちの言うヴィランがどこにいるのか全くわからず、震えることしかできなかった。

 私は涙を滲ませながら、姉たちの美しい金色の瞳を順繰りに見つめた。

 

 私の身体を蹴り、殴り、噛み、ちくちくと攻撃を繰り返す姉妹。その黄金の双眸に映るそれはあまりに巨大すぎて、断片しか見えない。それでもなお、醜悪としか言いようがなかった。

 

「メドゥーサ」

 

 そんな空想上の怪物が脳裏をよぎった。

 無数の蛇がうねる頭髪。憎悪に染まった醜い老婆の顔。青銅の腕と爪に、異様に突き出た猪の牙。二階建ての屋根までの高さはあろうかという、とぐろを巻く毒蛇の胴体。

 死を撒き散らす異形の名に相応しい、おぞましい姿だった。

 

「私たち双子ヒーローが相手だよ、バケモノ」

「家で待ってるあの子が避難を終えるまで。お前を絶対にここから進ませない」

「私たちの可愛い妹は」

「私たちが守る」

 

 姉たちが、恐怖に震える声音で吼える。けれど、「バケモノ」という罵倒以外は何を言っているのかわからなかった。ここに近付くサイレンの音がうるさくて、何もきこえない。

 

 バケモノなんてそんな酷いことを言わないでよ。いつもみたいに「瞳巳ちゃんは世界で一番可愛い!」って笑ってよ。「私たちは日本初の双子ヒーローになるの」って、きらきらした目で夢を語ってよ。金曜日はカレーを作って、おうちで待っててよ。ちゃんと目を見てお話しようよ。

 

「ねえ、お姉ちゃん」

 

 ───そんな目で私を見ないで。

 

 

 

 

 見開かれた四粒の尊い黄金が、永遠に失われる。灰色に覆われ、三、二、一で見えなくなる。

 死を悟った麗しの姉妹の───驚愕、恐慌、絶叫、(のち)、静寂。化物から人々を救おうとした英雄の、美しい石像が完成した。

 両の手をすり抜け、黄金は零れ落ちた。自身と姉の血溜まりを産湯に、メドゥーサは誕生した。ひどく空虚で、空腹だった。

 

 公園前の通り、すぐそこにある私たちの家の、白い屋根をぼんやりと見据えた。今日の晩ご飯は、何だろう。昨日のカレーは、おいしかったな。

 

 

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