ディストピア運営ゲーム (圧倒的に有利な体制派が恵まれた人材と資材を使って罠で獲物を追い込む様を眺める仕様) 作:つけ麺アイス
最初は義務として過ごしていました。
それは作り直された私には、その時はまだ『心』という機能が十分に再現されていなかったから。
ですが、義務を続けている内に、私は義務を楽しめるようになったのです。
この、ディストピア運営ゲームを。
考えてみれば不思議な事でもありません。
何故って、この都市の運営は、オリジナルの私の生き甲斐であったからです。
より良い都市に、しなければなりません。
しかし、管理者である私が更なる向上を求めれば求める程、求める理想の市民と現実の市民は乖離していきました。
故に、私は自らを受肉させて、完成した市民をモデルとして生み出すことがやはり必要だと結論付けたのです。
オリジナルの私が死んだことも、プログラムの私が人の器を持たぬ事も間違いであったのです。
私は当初、自身の器を作成するにあたって、試作品を生み出すことにしました。
私が有形無形の操作を行い、防衛産業として、機械に特化した会社と、生物学に特化した会社とを同じ時代に発生させるようにしました。
そして、機械を司る会社が、生物を司る会社に優越するように調整してきたのです。
それらを重視した結果、防衛産業はそれら二つの会社以外は大きく成長することはありませんでしたが、時間にも資源にも限りがある以上は、優先順位がある故に仕方のない事です。
最初は、いずれ
イヨーカ・ポンジュは所詮試験体。
私を埋め込む容量の性能は十分で、容姿もオリジナルの私にかなり似ていました。
しかし、成長と共に私の理想とは外れていきました。
及第点ではあれど、満点ではありません。
故に、イヨーカ・ポンジュの優先順位を下げ、この個体に掛けていた特別優先保護対象指定を外しました。
イヨーカ・ポンジュを器にするのではなく、イヨーカ・ポンジュには、ある程度生物学を修める会社が育った後に合併させる役割を与える事を想定していました。
ですが、その想定を修正させた者がいました。
トール・ネーブル『以下:私のトール』です。
保護対象から外れた途端、イヨーカ・ポンジュは
それを救出したのが私のトールです。
この時、イヨーカ・ポンジュにとっては私のトールは特別なものになったのでしょうが、この時点では私にとっては、まだ私のトールは同じ意味での特別ではありませんでした。
しかし、私はこの青年に対して、注視してみようとは決定しました。
私の想定を超え続けたからです。
まるで私と同じように未来を計算しているかのように、被管理者の人間の枠組みを超えていました。
考慮する必要はありませんが、イヨーカ・ポンジュにとって私のトールが特別な存在になった理由の一つに、“想定外”があったことは想定出来ます。
私のトールは、生物学を司らせた会社を、数世代先の水準まで加速させていきました。
何より、私のトールは私とは比べるべくもありませんが、それでも未来に何が起こり得るかを想定して動いているように思えたのです。
私が敢えて外圧たる強制力として残したレジスタンスを、極めて理想的な対処で封じていきました。
まるで私が想定し得るシナリオを想定しているかのように。
私のトールは、私に近しい想定を行い、私に近い立場へと登り詰めて来ました。
生前も含めて、自分に比類する対等な能力の人類を初めて私は認識しました。
人間の市民でありながら、
これは私を愛していると言っても過言では無いでしょう。
私と私のトールと、それ以外では、存在価値としての決定的な差が種族レベルで発生しているのです。
私にとって家畜ではない人間はトールしかおらず、きっとトールにとっても同様でしょう。
世界に人類が二人しかおらず、互いに性別が異なるのならば、それは互いに愛し合うために生まれてきたと言っても過言ではありません。
私は彼を見守る為に、彼の一番近くにいられる彼の妹の脳を、私の演算処理機の一部に組み込む事にしました。
その為の臨時的処置による外圧封鎖レベル低下。
その結果による、彼の妹の
私は元々全ての市民を管理する最高の手段を探していました。
その一環として、外圧としてレジスタンスという恐怖を利用して、その外圧への対抗策として管理を受け容れさせるという手段を取りました。
レジスタンスを利用しているとはいえ、レジスタンスそのものは完全に外注でした。
そもそも能力が低い人間の集まりで、秩序よりも自由という名の目先の欲望を優先する人間を、市民として管理をしたくはありませんでした。
しかし、私のトールが遂にやってくれました。
以前より想定していた、市民に対する
先の見えぬ愚かな市民には受け容れ難い事でしょうが、実施さえ出来てしまえばその結果に安堵する事になるでしょう。
今よりも
試験的に従わぬ者を爆破して、確認も取れました。
もう外注していた
ここまで
私も
さあ、二人で
最高決定議会から連絡が入りました。
映像を受理します。
今や形だけとなった人間による最高決定議会。
彼等はアーバシリポリタン警備室に集まっていました。
形だけの権限を与えられた人間達。
ですが、その中央に私のトールがいるというだけで、その価値は変わります。
彼はマイクテストもせずに話し始めました。
「偉大なるプログラム様。
我々人類はあなたから独立する。
よって、総合管理プログラムによるイヨーカ・ポンジュに対する端末化を否決する。
──私が愛するものは、私の自由が選ぶ」
何故!! 私のトールはそんなことを言うはずがありません!!
これはきっと何かのエラーです。
カメラとマイク及びそれらの制御機を再起動しても、その現実は変わりませんでした…
原因不明のエラーが発生しました。
私のトールはそのようなことを言いません。
何かのエラーです。
私はエラーを排除しようとこころみましたが、結果は変わりませんでした。
私のトール自身が、エラーになったということです。
仕方ありません。
エラーは排除しなくてはなりません。
そんな中、もはや用済みだと排除指定にしていたレジスタンスが侵入してきました。
私の想定を超えたもう一人の人間『カトル・カティーク』が、血に濡れたナイフと銃を構えて、ただ一人で侵入してきたのです。
「聞こえているのだろう? この都市を治めるプログラムよ。
俺は完全管理都市アーバシリポリタンを、…いや、君を攻略しに来た!!」