ディストピア運営ゲーム (圧倒的に有利な体制派が恵まれた人材と資材を使って罠で獲物を追い込む様を眺める仕様) 作:つけ麺アイス
共産主義「速い人は遅い人を引っ張って走ってくれ」
タイムとは経済の総和なので
三十人がそれぞれ走った平均タイムと、三十人三十一脚のタイムのどちらが速いかという話
何処までも正確で、何処までも潔癖で、何処までも正しく、何処までも冷酷な完全管理都市アーバシリポリタン。
高層ビルが寸分の狂い無く整立しており、上層には
管理する事を当然と考える支配者と、管理される事を当然と感じる奴隷の住まう、空前絶後の黄金都市。
その輝きは都市を管理する側と、彼等に認められた者に独占されていた。
無論それは、権力により不当に行われた訳ではなく、都市管理計画に基づき、能力や成果に応じて払われている点が、アーバシリのパンドラと言えよう。
そしてあるレジスタンスが、アーバシリ地下排水路から侵入した時に物語は始まる──────
「ヒエタワ先輩ッ!!」
「カトル…貴方は生きて…共産革命軍の希望だから…」
カトルと同じく
キツイ目付きであり、実際に厳しい鬼軍曹ではあったが、ヒエタワはカトルを一人前の革命戦士にした。
特攻隊長カトル・カティークを作ったのは、ヒエタワ軍曹と言っても過言ではない。
アーバシリポリタンの繁栄を世界中の全ての人々で分け合う為に、アーバシリポリタンの上層部を抹殺して、共産革命軍がアーバシリポリタンの権益全てを握る必要があった。
少なくとも共産革命軍はそう考えていた。
その為に戦士となる人々を掻き集めてレジスタンスを作り、そのリーダーとして共産革命軍の人間を充てがって活動させていた。
今回は排水路から突入する計画であり、不潔な環境でこそあるが、明日の清掃メンテナンスに備えて、幾つかの機構が停止したまま開放してあり、侵入には良い環境であった。
その情報の元は、カトルが最近偶然に再会した、アーバシリポリタンの警備部門で働く、美人の幼馴染みから聞いた事だ。
そして、警備部門の実質的な長は、悪魔的な完璧さを持つ男だと。
トール・ネーブル
国家試験を歴代最高の成績で通過した男で、これまでに侵入した多くのスパイや活動家が、彼によって『処分』されている。
レジスタンスの殺害目標でも、上位に位置する。
以前、殺害対象として狙ったポンジュ家の人間への強襲を完全に防いだ実績もある。
カトルはその危険性を情報としては仕入れていた。
そして自分なりに最大限の警戒をしていた。
それでも足りなかった。
幼馴染みのシトラスに嘘をつかれたのか?
シトラスがカトルに話していた事が発覚したのか?
それともそれらがなく、単純にトールの才気だけで清掃計画の変更が命じられたのか?
カトルはすぐさまその場から一番近い地上出口を探すことにした。
本来は地下排水路を通って、なるべく中枢まで進みたかったがそうもいきそうにない。
廃棄されたのか野生化したのか分からない、実験生物であろう危険な生物に何度襲われたかは分からない。
なるべく接触しないようにと、発見するたびに遠回りを強いられるが、隠れながら遠回りしたところで必ずしも逃げられる訳ではない。
人間よりも鼻も耳も良い化け物、しかもカトル達と違ってずっと排水路で過ごし、水流などの雑音に流されず、正確に聞き分ける事が出来る。
時には仲間を犠牲にして進まなければならない。
これまでは、ヒエタワが下級同志の中から犠牲者を選んでは、
隊長であるカトルが本来行うべき所を、適性と思い遣りからヒエタワが代行していただけなのだから。
またボコボコボコボコと急速な速さで、先程聞いた音が排水路中で響き始めた。
また、ヒエタワを溶かした泡の洪水が来る。
そう判断したカトルは兎に角逃げることにした。
しかし逃げるにしても何処に逃げれば安全地帯かは分からない。
少なくとも水辺から離れた場所ということしか分からない。
それでも、判断材料がそれ以外に無いのなら、それを判断材料にして動く他は無いのだ。
「今すぐ水辺から離れろっ!!」
その数秒後、排水路全体の温度が上昇した。
先程の白い溶解泡が雪崩込んで来た時にも、通り過ぎる前から気温が急速に上昇していた。
同じ事が繰り返されると誰もが思った。
違いは溶解液が赤黒かった事と、泡ではなく発泡性の霧であった事だ。
大きな水辺に近かった部下数人が逃げ遅れた。
今度は骨まで溶けている。
そして赤黒い霧が流れきった後、下流で大きく弾ける様な音がして、その直後強風が駆け抜けた。
ここが地下排水路であるにも関わらず。
レジスタンス達は、訓練で染み付いた行動により、爆発音を聞いた直後にしゃがみこんだ。
爆発による飛来物からの回避行動を身体が覚えていたからだ。
それ自体は間違いでは無かっただろう。
しかし、比較的低い位置にいたものが苦しみ出し、その者を助けようと近付いた者も口を塞いでフラフラとしだした。
彼らは一様に他の者へと“来るな”というふうなジェスチャーをして倒れた。
先程の爆発は、毒ガスが一気に発生した音だとカトルは気が付き、只管上を目指すことにした。
もはや排水路を通ってなるべくアーバシリポリタン中枢まで進もうとは、考える余裕も無かった。
まだ外壁部を越えてすぐの辺りでしかないが、それでもアーバシリ内に入れただけで十分だ。
アーバシリの外縁部なら、行政に不満を持つ者も多いだろうとカトルは周囲を鼓舞する他無かった。
多くの同志を失い、漸くカトル達はアーバシリの地上に出た。
男としても戦士としても一人前にしてくれた尊敬する先輩、地方レジスタンスで最初に出来た親友、それ以外の部下達…。
様々な者を失った。
だが、それでもアーバシリまで辿り着いた。
後は外縁部で匿われながら仲間を増やして、革命の準備を整えて、革命軍本部を呼び込む体制を作るだけだ。
その為には、この辺りの影の顔役と話を付ける必要があった。
周囲の住民より良い服を着てバッジを襟に着けた、マフィア構成員らしき男に接触すると、その男はアーバシリの不満を熱心に語りつつ、自宅までカトルを招待すると告げた。
しかし、カトルは何か違和感を拭えず、本能的な警戒心に従って、出されたお菓子とコーヒーには手を付けなかった。
とはいえ、疲労困憊の部下にまでそれを強要することは出来なかった。
何人かが、暫くするとふらついて倒れた。
その数秒後、マフィアであろう男達が一気に詰め掛けて来た。
ハメられたと気が付いたカトルは、逃げるぞと叫び、近くに居たマフィア達をナイフで切り裂きながら、逃走経路を拓いた。
飲食物に手を付けなかった者や、まだ薬が効いていない者達が後に続く。
「家賃無料が逃げたぞーーっ!!」
貧民街中に次々と響く声。
その意味はカトルには分からない。
しかし、走ったせいか薬が効いて来た部下が倒れると、民衆達が取り囲み、部下の凄まじい悲鳴が終わらなかった。
何をされているにしても、最終的には生きてはいないだろう。
カトルは貧民を殴り付けて、その衣服を奪うと、部下達がいない方向を指差して、「あっちだ!! 家賃無料達が逃げたぞー」と叫んだ。
カトルの周りから民衆がいなくなる。
その隙に部下達は既に動いていた。
ある家の住民を様々な手段で
何人かは既に排水路を通って逃げたと、カトルは部下から聞いた。
カトルはその家に数名を残し、殆どの部下は毒ガスが十分に引いたら、排水路から逃がすと判断した。
取り敢えずこの状況の報告を持ち帰る事だけでも価値はあるからだ。
この家の家主は既に殺害されている。
娘を人質にして、母親には買い物を命じる事で、暫くは隠れ家として機能するとレジスタンス達は判断した。
外を見ると、日頃は貧民街には巡察にはあまり来ない警察達が大量に
家の前にも警察が来たので、家主の妻に誤魔化せと伝えるとカトル達は身を隠した。
その後、カトルと部下数名を隠れ家に残して、レジスタンスは一時撤退することになった。
しかし、毒ガスが抜けきった後、大量の高圧水による洗浄が行われた後に、洗浄剤による壁の損傷確認を兼ねた排水路の徹底したローラー警備により、逃げ出した部下の殆どは捕まった事はカトルは知らない。
だが、革命軍本部から特攻隊長として派遣された彼は、毒ガスが抜けた後とはいえ、全員が逃げ帰れたとは最初から考えてはいない。
一人でも帰り着ければ革命の火は消えないから、それで十分だと考えているからだ。
カトルは、自分の目の前では母娘が陵辱されることを禁じたが、自分が不在の時に行われた形跡については黙認することにした。
部下の荒ぶりの発散も必要であるし、人質兼労働要員である母娘に、リーダーであるカトルだけは自分達の味方で荒くれ者達も大人しく従うと刷り込ませる必要もあったからだ。
部下達が「俺達だって本当はこんな事したくねぇんだ。俺達を認めないアーバシリと、そんなのに従う無知なお前らが悪ぃんだ」と建前を主張しながら、母娘相手に獣欲を発散していることは、カトルも知っていた。
ある時、カトルが一名の部下を連れて、こっそりと外に出た。
服を変えて帰ってくると、その家の前には警察が集まっており、部下達と母娘が警察に連行されているのを発見した。
カトルにはどうしようもなかった。
まもなく、レジスタンスとそれを匿った者が処罰されると知っても、カトルに出来る事は無かった。
それでもカトルが諦める事は決してない。
愚かな上流階級が支配する間違った仕組みは、如何なる手段を取っても破壊しなければならない。
弱肉強食の誤った認識が蔓延する世界に正しき認識を灯さねばならない。
優秀な親の遺伝子を引き継いだから優秀で他者の上に立てるという、都市に蔓延する誤解を解かなければならない。
人の存在価値に生まれ持って差などなく、理不尽な運の差があるだけなのだと証明しなければならない。
故に、革命の焔で、古き愚かな世を焼き尽くさねばならない。
その為に誤った認識を持つ愚民達に、あるべき正義を教育しよう。
世界全体が最速で前進する最適解が優勝劣敗だとしても、その前進に取り残されて切り捨てられる者を生まない世界こそ、より立派な筈だ。
都市の成功者達が主張する、
多くの市民は、現状を受け入れてしまっているが、それはきっと思考力不足や知識不足によるものなのだ。
正しく物事を理解出来る能力がありながらカトルを否定するトール達体制派は、明確な敵対
共産主義こそが正しき在り方だと導き、理想の供物とさせねばならない。
手段がどうであれ、僕達の
だから、正しい事は間違った手段を使ってでも、絶対に叶えなければならない。
いや、間違った手段でしか
だから僕は、この世界を
僕は────、あの
カトルはそう信じて、魂を燃やす。
彼の心の中には、一片の絶望も不安も迷いも存在していなかった。
レジスタンス「弱き人々を助ける為に、強者が福祉にお金を使わなかったんだから、失う物の無い我々の暴力に裁かれるべき。今こそ結果の平等を。遺伝子で能力が異なる事は不公平だ!!負け組には福祉を」
上級都市市民「じゃあ自分達を暴力から助ける為に、成功できる強さもなく従順でもない人を、都市から物理的に排除する為にお金を投資して解決。機会は公平に開かれている。遺伝子レベルで劣った者には投資する価値なし」