ディストピア運営ゲーム  (圧倒的に有利な体制派が恵まれた人材と資材を使って罠で獲物を追い込む様を眺める仕様)   作:つけ麺アイス

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ブラッディウェディング (防衛側)

「ああ、何て可哀想なのだろう。

 私の結婚式と間違われて(・・・・・)、無関係な二人の門出が彼等を祝う人ごと破壊されてしまった。

 私を殺せばよかったのだ。

 何故テロリスト共は無関係な人々を傷付けるのか。

 …私は、私と間違われて殺された人々の為に宣言しよう。

 絶対にテロリストを許さないと!!」

 

 

「お疲れ様でした室長補佐」

 

 撮影を終えて目薬(・・)を拭った私の前に、カレン・シトラス秘書官が労いの言葉と共にハンカチを持って表れた。

 

 私はイヨーカとの結婚式に合わせて、幾つかのダミーとなる結婚式の情報を流した。

 その内一つがレジスタンスに標的にされた。

 世の中にある、偉い人と間違われて無関係な人々が殺される話なんてのは、大体がこのパターンだ。

 

 さて、私は意図的にダミーを複数にした。

 どのルートからレジスタンスが信用する情報が流れるかを探る為に。

 

「ありがとう。シトラス君。

しかしそのハンカチに毒が塗ってある可能性を私は否定出来ない。

何せ、式場グレースアンジェで予約を取る話は、君にしかしていないからね」

 

 

 シトラスは完全に停止した。

 私がグレースアンジェで式を挙げるとシトラスにしか告げていないのは嘘だが、シトラスの知る限りでは私はシトラスにしか告げていない。

 シトラスは全てを諦めた目をして言った。

 

「処罰を受け容れます」

 

「処罰とは、罪人が受け容れるかどうかを決めるのではなく、裁定者が与えるかどうかを決めるものだ」

 

 

 シトラスの目線で見れば、私がグレースアンジェで結婚式を挙げるとシトラスだけに告げた事実をどうするかは、私次第ということだ。

 

 

「市民の中にレジスタンスと呼ぶものはほぼいなくなった。

今の彼らはテロリストと呼ばれ、レジスタンスと呼ぶだけでも彼等に好意的だと思われる世だ。

その評判は地に落ちた。

全ては式場を間違えたせいだ。

誤情報を流した者は恨まれるだろう。

 

…答えよカレン・シトラス。

お前はテロリスト共に賛同して、アーバシリポリタンの警備を地に落とす作戦に失敗したのか。

それとも、テロリスト共の評判を地に落とす作戦に賛同して成功させたのかを」

 

 

「私は───────」

 

 さて、これで最早私に忠誠を誓う他あるまい。

 そうでなければ堂々と罪状に従って処分するだけだ。

 

 

「悪い男だね。新婚早々に他の女を誑かすなんて」

 

「…人聞きが悪いな、イヨーカ。新婚早々に夫を疑うなんて」

 

 そう言って振り向きながら笑顔を見せる。

 上手く笑えているはずだ。

 相手も同じように笑顔だが、その迫力は単純に笑っている訳でないのはハッキリと分かる。

 

「僕が怒っている理由が分かる?」

 

「さて、偽装の為に罪もない他のカップルを巻き込んだとかか?」

 

 我々の視点から見れば、悲劇に巻き込んだのはテロリストが100%悪く、我々は何も悪い事をしていない。

 だからそんなことは気にする女で無いことは理解した上で言う。

 死んだ夫婦は、せいぜい中流階級のカップルだった。

 我々にとってはその辺の人間程度の認識に過ぎない。

 

「そういうことにしておこうかな。

まあ、シトラス君を許すことは無いだろうけど」

 

 別にイヨーカがシトラスを許さなくても、特に問題は無いだろう。

 私には、影響が少ない事だ。

 

 

 そんなことより、イヨーカが私の幼馴染みであったことが驚きだった。

 背中がバックリと見えたそのドレスから見える素肌には、かつての私の後悔がハッキリと見えていた。

 彼女がタキシードを着る様になった理由はこの事であり、私が彼女に恐ろしい過去を感じたのはこの事であった。

 そしてイヨーカはあの時から、他者など己を守る能力がない愚鈍であると期待しなくなった。

 だがその愚鈍が成長して、過去とは違って己を守り抜いた事で、再び人を信じるに至ったらしい。

 しかし、その後にコレである。

 …駄目だ、話を逸らそうとしても、結局この状況に帰ってきてしまう。

 

 

「イヨーカが私とシトラス秘書官を疑うのなら、私は君と共に働く男性全てを疑わねばなるまい。

嫉妬に狂う私を見たいか?」

 

「凄く見たい」

 

 割とストレートに返ってきた。

 嫉妬に狂うトール・ネーブルというのは、私にとっては原作トールの負けパターンだから、絶対見たくないランキングでも上位なのだが。

 

「諦めろ。もっと良いものを今夜見せてやるから」

 

 それっぽい事を言ってキスしてやればイヨーカが大人しくなるのは最近知った。

 式場でのキスなんて、演出以外の何物でもないであろうに、その演出の一貫でしかないキスの後、フリーズしてその後の演出を忘れたイヨーカは、正直悪くは無かった。

 

 だが、そうやってイヨーカをあやしていたせいだろうか。

 私の渾名が鬼畜眼鏡となってしまった。

 

 

 前世で鬼畜BLは歌と声が良いとか妹が言っていた。

 私はその妹と共に転生した訳だが、その妹は今では廃人だ。

 ゲームの中のキャラクターでしかなかった男に本気で入れ込んで、そして妹の心を奪ったまま男はこの世を去った。

 ポンジュ様に気に入られたい狗の様な父親と、その父親に従順な継母はともかく、ポンジュ側は妹の時の婚姻を思い出して複雑だったはずだ。

 

 だから、私は式のスピーチで何度も“守り抜く”“平穏”“防衛”という言葉を使った。

 それは現在の私が為すべき義務であり、嘗てネーブル家とポンジュ家が為せなかった後悔だから。

 

 

 私は、私の母親のデータを使われた生存維持プログラムにより、幾つもの管を通されて幸せな夢を見続ける妹を生かす為に生きている。

 その為には、年々増加するアーバシリ総合管理プログラムの情報を集積する為の電力量を賄わねばならないし、私自身の都市への忠誠を疑われてはならない。

 私が実質的な警備室長だからこそ、私の親族がお飾りの警備室長として、都市が生かすに足る人間だと認められる。

 妹はポンジュ家の嫁ではあったが、子を為してもいない。

 いや、式の時点では子供は出来てはいたが……。

 やめよう。

 過去は過去だ。

 

 

 都市が生かし、都市が殺す。

 何人も秩序から逃れ得る事は無し。

 名家の欲望さえも、全ては都市の管理の中。

 都市への忠誠と成果を示せ。

 都市はそれを評価する。

 都市が王であり、都市が法であり、都市は絶対たる神だ。

 

 例え事実がそうでなくても、そうあれかしと動く者によって、そうあるべしと定まる。

 それを為すべきがアーバシリ警備室。

 そう、私だ。

 

 

 攻略側がクリアすれば、レジスタンスは都市が絶対でなく、今を生きる人こそが絶対だと証明することが出来る。

 それは私を倒す事から始まる。

 だからこそ、私は負けない。

 

 次の手を、更に次の手を。

 絶対防衛の為に。

 

 

 ネーブルとポンジュの協力により完成した、機械化した生体兵器アームドドラゴン。

 私はこの技術を使って、ドラゴンの脳を機械に移し替えた。

 そしてそのインプットデータはあるプログラムと共有している。

 

 我が母親だ。

 警護対象はこの警備室。

 ハッキリ言ってしまえば、妹そのものだ。

 

 試験段階だが、材料を使って自己進化と自己再生が可能であり、そのフィードバックは生存維持プログラムとミラーリングされて保持される。

 

 『DMM(Dear My Mother)-001 レヴィアタン』の完成だ。

 

 

 私はこれの応用をもって、戦闘プログラムと同期したアームドドラゴン『SAD-001 バハムート』と、統制機能や幾つかの武装をオミットしたその安価版『SADL-001 ライトドラゴン』を配置することにした。

 

 アーバシリの空から、飛行しながら眼下の光景を本部に転送する。

 監視者であり、襲撃者にもなり得る。

 ドローンカメラは以前から不安定で、脆弱だと思っていたから、ライトドラゴンには期待したい。

 

 …期待しようとしても、それに安心しきれない身体になってしまったが。

 

 

 

 罠も大量に仕掛けなくてはならない。

 普段は壁の汚れを食べて過ごし、必要に応じて体内の銃を放つ『TGS-087 ガンスライム』や、粘菌コンピュータで判断してトラップを起動させる『TSP-005 キガツキノコ』など、徹底的にN&P社の製品を都市中や、排水路に仕掛けた。

 

 

 銀行などは電子化を進めてはいるが、一定量の現金が存在する。

 そこを狙って資金源としようとしたテロリストが、飛び出し槍に貫かれ、室内芝生に擬態した巨大なトラバサミ状に変形する植物に挟まれる様は見事とさえ感じた。

 

 何故最近室内芝生がアーバシリに増えているのか、疑問に思わなかったのだろうか?

 そういった気付きが足りないからテロリストになど身を落とすのだ。

 

 

 私は実施試験が終わってから市民に告げた。

 人工芝型機械化人工生物(アームドモンスター)、『DFE-002 グリーングラス』は市民を守る安全地帯であり、テロリストを喰らう処刑場だと。

 

 グリーングラスは爆発的に売れた。

 寧ろグリーングラスを敷いていないと信用が得られなくなるまでに。

 一種の踏み絵になりつつある。

 芝生だけにな。

 

 グリーングラスの発動基準は、アーバシリの警備プログラムと連動している。

 逆に言えば警備室が乗っ取られれば、グリーングラスがテロリストの手の内に落ちるので、それへの対策も必要だった。

 だからこその、警備プログラムとは独立した生存維持プログラムによるレヴィアタンが、公的な建前として受け容れられる訳だが。

 

 実際には、私の母に身体を与えて妹を護らせたい私の個人的感情だが、それを実行するのには建前が必要なのだ。

 

 

 

 

 何れは都市の電灯全てを、電灯機能に加えて監視カメラと自動小銃をセットにした物へと変える予定だ。

 そうすれば、全ての都市民は都市のプログラムに命を握られて逆らえなくなる。

 それがアーバシリポリタンの総合管理プログラムの狙いだと分かっていても、私はそれを肯定する他ない。

 

 私は都市の奴隷だ。

 だが、奴隷であることで利益を得ることを望んでいる。

 奴隷にならなければ護れない者がいるのなら、私は都市の狗をロールプレイしよう。




テロリスト「富裕層家庭の生まれが成功しているのは環境が良かったから。それだけ!! 厳しい社会に揉まれた人の方が人として筋が通っている」

市民「貧困家庭に筋モンが多いという話…?」

統計「親が優秀だと環境が悪くても、遺伝子レベルで性能が高いので成功しやすい。厳しい社会に揉まれた人程擦れて犯罪率は高い」

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