ディストピア運営ゲーム  (圧倒的に有利な体制派が恵まれた人材と資材を使って罠で獲物を追い込む様を眺める仕様)   作:つけ麺アイス

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ブラッディウェディング (攻略側)

 価値の総和は変わらない。

 紙幣を多く刷れば、紙幣そのものの価値が下がる。

 100×1000でも、1000×100でも、結局答えは同じ。

 だからこそ、没落した都市の支配者層であった、革命軍本部の者達は、今価値を持っているアーバシリポリタンから奪う事に決めた。

 

 パイを分け合う際に、単位を決める事に意味はなく、とにかく自分が多くのパイを切り取る事こそが大切なのだから。

 

 

 

 カトル・カティークは、かつて近隣の都市ティトセーの支配者層であったカティーク家の生まれだった。

 父親の指示で、他者の養子としてアーバシリに(父親からすれば意図的に)迷い込んだ事はあったが、すぐに見つかって追放された。

 

 彼がカレンと出会ったのはこの時期だった。

 

 

 アーバシリの外には都市が無い訳ではない。

 だが、それに等しい。

 物価が、一万倍以上も違うこと。

 単純に考えると、人一人が生存するために使われる資金が一万倍変わってくる。

 それはある意味人の命の値段に、一万倍の格差があると言っても良い。

 また、アーバシリが決済機構の全てを支配するために、一方的に決済手数料を取られることも大きい。

 

 都市のシステムの水準にも、アーバシリとその他の都市には大きな開きがある。

 アーバシリは常にシステムの最新化を優先した。

 高度なシステムを構築すると共に、高度なシステムに対応出来ない者は切り捨ててきた。

 速く走れる者への足枷を無くすと共に、遅くしか走れない者は無理矢理引っ張るか、置き捨ててきた。

 これによって、常にシステムと利用者は進化し続けてきた。

 

 一方、他の都市は格差や分断を生まぬよう、高度な技術に着いて来られない者を基準に考えた。

 電子選挙に対応出来ない老人や低知能者の為に、未だに紙媒体での選挙しか出来ない都市も多い。

 IT技術に対応出来ない人の為に、多くの制度がアナログで構築されている。

 どれだけ遅い人でも取り残さない様にするために、全体が遅い人々に合わせて進む社会になってしまった。

 

 着いてこられない者を切り捨てて進み続けたアーバシリのシステム。

 誰もが着いてこられる様にゆっくりと進んだ他の都市のシステム。

 その差は時間の経過と共に拡がっていった。

 

 一番大きな事は人材の質である。

 アーバシリポリタンが繁栄してから、優秀なアーバシリ外の人材はアーバシリに出向いて受け容れられ、無能なアーバシリ市民は追放された。

 そうやってトランプの大富豪の様な事が延々と繰り返されて、遂に遺伝的格差は決定的なまでに乖離した。

 

 

 基礎能力が0と100の人間がいる場合、平等主義を謳うティトセーでは、基礎能力0の人間に100の環境を与えて、能力値100の人間を二人作るのに対して、アーバシリポリタンでは基礎能力が0の人間は切り捨てて、基礎能力が100の人間に100の環境を与えて能力値200の人間を作る。

 そして能力値200の男女が再び能力値100の子供を作って、100点の環境を再生産していく。

 優秀な親は優秀な遺伝子と、優秀な環境を用意できる故に、優秀さを子孫にまで提供し得る。

 

 無論例外もある。

 例外もあるが、統計データとして優秀な両親から生まれた子供と、無能な両親から生まれた子供では、期待値が異なる。

 

 実際に現実の世界でも、かつてそれが行われた地域があり、その結果が統計データから見て取れる。

 シンプルな例を言えば、東京都港区生まれの子供は全国平均よりもIQが高い傾向にある…などだ。

 土地代(家賃)が高い地域からは、稼ぐ能力の低い人間は締め出されて、納税額は高まり、福祉として税を注ぎ込む対象となる貧困層は減るという意味で利益を享受する港区は、敢えてその淘汰を推進している。

 また、馬主として多額の自費を投資する場合、優勝した馬の子孫が求められ、勝てない馬の子孫が求められないのも最たる例と言えるだろう。

 

 では、優秀な者が皆アーバシリに行ったのかといえばそうではない。

 アーバシリ創立の名家が既に定まっており、他都市で同等の立場にいる者が行っても、その下に組み込まれる。

 支配者層であったものが、支配者層では居られなくなる。

 その事に憤慨してアーバシリ傘下に降らず、必死に自分達の都市をアーバシリに匹敵するように盛り上げようとして、失敗したのがカティーク家や他の都市の権力者だった。

 

 

 

 

 革命軍大将ミュティレー・カティークは、ポンジュ家との婚姻によりアーバシリ支配者側に回ろうと画策したが、それも失敗した。

 それもあって、ポンジュ家への恨みは凄まじい。

 

 原作で自分が恋した女の娘であるイヨーカを散々犯しぬいて嬲ったのは、このミュティレーだった。

 

 しかし、ミュティレーも貧困に喘ぐティトセー村の人々を何とかしたいと思っていた事は事実であり、彼等にとっては頼り甲斐のあるリーダーだった。

 

 

 ミュティレーあってこそ、ティトセーは辛うじて村としては機能出来ている。

 挙げ句に息子を特別扱いはしてはいるものの、最も危険な特攻隊長にさせる等、他者にばかり犠牲を強いていないことも、村民を中心としたレジスタンスグループからは評価されていた。

 

 

 革命軍の考えでは、アーバシリはあらゆる財を独占している。

 それを均等に全ての国民に分配するべきだとの考えであった。

 これはアーバシリのあらゆる“才”を独占して、財は自然に集まるものだという考え方とは相容れない。

 

 さて、ミュティレーではなく、カトルへと焦点を切り替えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ、殺害対象を間違えただと?

それこそ間違いじゃないか?」

 

「テロリストだって!? これじゃあ俺達は悪者じゃねえか」

 

「間違いなくトール・ネーブルとイヨーカ・ポンジュの結婚式だったはずなのに」

 

「誰だよそんな事言ったのは…あっ」

 

 レジスタンスアジトの空気は最悪だった。

 もうレジスタンスに自主的に協力してくれる民衆はどんどん減ってきている。

 反体制派ではなく、テロリストとして扱われたくはないからだ。

 だから脅すか奪うかの他には、選択肢が無くなりつつある。

 そうすれば完全にテロリストでしかなくなるのだ。

 だから、カトルはそうするしかなかった。

 

 

 

「なら、テロリストになろう」

 

 誰もがそれを聞いて黙った。

 誰もがカトルの声に耳を傾けた。

 

「悪のテロリストになって、アーバシリを倒して、それから正義のレジスタンスに戻ろう」

 

 勝てば官軍。

 正しく暴論だが、それ以外の選択肢が無いのは明白だった。

 

 元々、権力者が妬まれる事は往々にしてあったとしても、権力者は体制側であり、警察機構は法機構と共に体制の中にある時点で、大きく見れば権力者──則ち体制派は正義といえる。

 それはつまり、最初から反体制派は悪だということだ。

 反体制派が正義となるためには、警察機構を滅ぼすか、警察機構を手中に収めるしかない。

 そして警察機構を手中に収める為には、施政者側になる他はない。

 

 カトルに説明されるべくもなく、レジスタンスとは生まれた時から公的には悪であり、正義となるのは以前の体制を破壊して以降の話なのだから。

 

 これまで行われた如何なる革命も、如何なる大宗教も、成功するまでは犯罪かの様な扱いを受けてきた。

 そして成功した暁には公的な正義となった。

 野党として扱われてきたものが、与党と化したのだ。

 

 故にカトル達は、今は日の目を見る事のない教祖であり聖者であると、自分達を位置付けた。

 

 

 その日から、レジスタンスの動きは、否テロリストの動きは目に見えて容赦が無くなった。

 テロリストになって話が通じなくなれば、誰もテロリストを責められなくなる。

 責めれば標的にされてしまう恐怖(テラー)があるから。

 

 だから、それを何とかしない行政に不満を告げる他はなかった。

 ここで何もしなければ行政の評価は低下しただろう。

 しかし、トール・ネーブル室長補佐は民意を得たとばかりに、重税を課してその重税をもって警備機構に当て込んだ。

 最初から準備していたかのような周到さであった。

 

 その結果が、テロリストにとっての罠だらけのアーバシリポリタンとなった。

 

 これ以上時間が経つと、最早勝ち目が無くなると判断したカトルは、革命軍本部に決戦の合図を送った。

 アーバシリポリタンのレジスタンス支持率は0%であり、民意を味方に付けての政治活動は不可能だと。

 

 この連絡が、ミュティレーの失脚に繋がると分かって尚、カトルは連絡せざるを得なかった。

 カティーク家が途絶えたとしても、その栄光が泥に塗られたとしても、共産革命軍が勝利した栄光は、それに勝る輝きだと信じていたからだ。

 

 その日から、下級市民の恐怖の時代が始まった。

 テロリストに賛同するか?

 そう質問される事に怯える日々が。

 

 聞いた者が行政側の人間であれば、賛同すると言えば容赦無く追放。

 逆に聞いた者がテロリスト側の人間であれば、賛同すると言わなかった場合は酷い目に遭う。

 長く続いた建前が事実に成り代わる事を知る行政側は、身を護る為であってもテロリストを肯定すると答える者を許さない。

 行政側は否定しても許してくれて、テロリスト側は否定しても許さないのなら、誰だって行政を否定するようになる。

 生き残る為に。

 …そしてそれが当たり前になる。

 

 現状は治安が良く、行政側に賛同すると答えた方が回答者のリスクは低いが、比率は治安次第で幾らでも変動する。

 

 そんな未来を許してはならないと、行政は厳しい沙汰を下した。

 しかし飴と鞭は必要であり、行政からの質問に正解を答えた場合、一ヶ月分の家賃が振り込まれるようになった。

 富裕層も貧民も等しく、一ヶ月分の家賃である。

 明らかに富裕層に有利な制度であったが、そもそも富裕層の姿をしている者には、行政側の質問係は聞くことは少なかった。

 勿論、富裕層ほど追放されることで失う物が多いという正当な理由はあったが。

 

 

 カトルの下に革命軍からの増援が次々と来た。

 排水路も重税による予算と新型機械化生物兵器により、かつてとは比べ物にならない程のセキュリティになっている。

 そんな中、これ程までの人材を届けてくれた。

 途中で犠牲になった同志がどれだけいるかカトルには想像もつかなかった。

 ここまでやって成果を出せなければ、革命軍本部において、カティーク家及び、ティトセー村の立ち位置は沈む。

 

 カトルにとって絶対に成功させなくてはならない戦いであった。

 

 

 まもなく、第一次テラーズフォース侵攻作戦が実施される。




社会のせいにして、成長しようとしない弱者
      VS
弱者の能力不足を許さず救わず希望を見せない社会

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