《トレセン学園 レース場》
「うっひひひ~。今年の選抜レースもウマ娘ちゃんたちが、たぁあ~くさん来てますねぇ~!」
2000メートルレースが行われるターフ場の外側にいる、アグネスデジタルがそう言う。
独り言ではなく、その隣の人物に言っているため、少なくとも変質者としては扱われないだろう(保証はしない)
一方その隣にいる人物、彼女のトレーナーは特に返事を返さず、じっとゲートの方を見ていた。
「ところでトレーナーさん、今の時点でゲートの中にいるウマ娘について一体どなたを気にされてるんですか~?」
そうデジタルが質問してくると、トレーナーはやっと返事をしようと思ったのか、指を2本立てた。
「えーっと2番ゲートのウマ娘ちゃんは・・・【トレント】ちゃん!とっても長くて薄い金髪でちょっとボサボサしてますが、そのメカクレ加減がミステリアスな雰囲気を作ってて何か不思議な魅力を感じちゃいますよね!あとなぜだか長い
いや~やっぱトレーナーさんとの気っていうのは、とことん合いますねぇ!!」
興奮しながらそう語るデジタルを横目に、トレーナーはそのトレントと呼ばれるウマ娘をじっと見つめていた。
すると、ゲート中にいるそのウマ娘の、少しだけ開いている髪の隙間から見える瞳と合わさった。
気のせいとかではなく、確かに合っている。じっとこちらを見つめており、何故なら吸い込まれそうな、しかし不気味とも感じない謎の感覚がある。
「始めますよー」
ゲートの近くにいるスタート担当者がそう言うと、トレントはトレーナーとの目線を切り、ゲートに向いた。
走り出すための体勢を取り、頭上のランプが赤く光るのを待つ。
そして体感にしておよそ10秒ほど経過するとランプは赤く光り、
その直後にゲートが開いた。
ガシャン!!と音をたてると同時に、トレントたちは飛び出していく。
9人いるウマ娘のうち、先頭を走るのはトレントだった。
「先頭は2番ゲートの娘だな。勢いがいい」
「えぇ、けどあのまま走って最後まで持つのかしら?」
周りのトレーナーの言うとおり、トレントは先頭を走り、他のウマ娘を気にすることなく逃げようとしている。少しずつ離されて見えるが、逆にいうと序盤から飛ばしすぎている。短距離である1200メートルレースなら理想的だが、ある程度高いスタミナが必要な中距離走では終盤で失速する可能性が高いだろう。
それでもトレントは前だけを向き、走っている。
後ろで走っているウマ娘たちは、レース経験こそ浅いだろうが彼女の走りを見て後に疲れてくるだろうと予想をたてていた。
しかし、中盤の終わり頃になっても失速はしなかった。
それどころか、ゴールの近くにいるトレーナーたちはトレントの変わりのない真顔を見て驚いていた。
あの子は一体どこまで持つんだ!? と。
最後の直線に入る時、ラストスパートのために、さらに速くなるトレント。
その実力は、まさに圧倒的。新入生と思えない速度で走ってくる彼女はあっという間にゴールまでやって来て、
そして誰がどう見ても大差と言えるような、ぶっちぎりで1着を取った。
全てのウマ娘がゴール到着後、ターフから出たトレントは多くのトレーナーたちに囲まれた。
「すごいスタミナだ!是非担当をさせてほしい!!」
「あなたなら有マ記念も夢じゃないわ!!一緒に目指しましょう!!」
「うちのチームに入ってくれ!!速くなることを保証しよう!!」
必死にスカウトを試しているトレーナーたちだが、彼女は誰の目とも合っていない。まず合わせようともしていない。
正確にいうと囲みの外側にいる、ある1人のトレーナーのみを見ていた。
トレントが不意に歩きだし、目の前にいたスカウトしてくるトレーナーは反射的に体を横に動かす。
周りは突然の行動に、つい黙ったまま彼女を見つめているが、それでも気にせずにトレントは歩いていく。
「わわわっ!ここっこっちに来ましたよ!?あのトレントちゃんが!?なんで!?」
驚くデジタル。しかし彼女のトレーナーは特に動揺せずに待っていた。
そして話し合うには十分な距離まで近づいたトレント。2人は静かに目を合わせている。
どうしたんだろうと思う周りの人たちは、何をしていいのかわからず、とりあえず見守っていた。
そして沈黙が支配していた最中、トレントから動き出した。
「へ?」
デジタルがそう
「お久しぶりです、【我が主】。ようやく再会する時を待ちわびておりました。
これから、このトレントをもう一度あなたの
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・????????」
アグネスデジタルは困惑した。
いや、周りの人たちも困惑した。
急に時代遅れと言うべきか、そんな風に願うウマ娘に対し、1度に頭へ入ってきた情報が単純ながらも莫大な重さの光景に、対応出来なかった。
一方の主と呼ばれたトレーナーは、特に反応もせず、・・・と言うのはおかしいか。
彼もまた片膝をつき、トレントに手を差し伸べた。
特に何も喋らなかった。しかしその眼は彼女を本気で欲する強い眼差しだった。
トレントが顔をあげると、彼女もまた自分の手を、出されたその手の上にそっと乗せる。
そしてもう一度自分の主と眼を合わせた。
再びじっと見つめ合い、そして2人同時に立ち上がる。
手をお互い下ろすと、またトレントが話し出した。
「行きましょう我が主。あの時のように、あなたの、思うが
そう言われるとトレーナーはレース場を出るために歩き始める。トレントも彼の斜め後ろに付くように同じ方向へ進んでいった。
「・・・・・・・・・・・・・
ハッ!!?ちょちょちょ待って下さいトレーナーさん!!!なに!?我が主ってなんですかトレーナーさん!!?なんでそんな事を言われるんですか!!?あと『あの時』って一体なんのことですか!?過去に一体何があったというんですか!!?
教えてくださいよ!!ちょっと!ちょっとぉぉぉぉ!!!?」
なんとか我に返ったデジタルが急いで2人の側まで追い付いて行く。
遠くなる3人を、周りのトレーナーたちと他のウマ娘は、呆然とそれを見ていることしか出来なかった。
某上級騎士に感化されて、ブラッドボーンもやろうかなって考えています。(なお、もう買った模様)