この作品は「この素晴らしい世界に祝福を!」の二次小説です。

独自の解釈、設定、オリジナルキャラが登場しますので。
それらが苦手な方はご注意ください。

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あの素晴らしかった日常に祝福を

――――0――――

「ごちそうさま!今日はもう眠くてしょうがないから先に寝るわ!おやすみー!」

 

 とある日の夕食時。アクアは急いで食事を終わらせると、自分の食器をさっさと片付けて部屋に戻っていってしまった。まだ半分も食べ終わっていなかった私達三人は呆気に取られて返事も出来ず、アクアが出て行った方を眺めるしかなかった。

 

「これから寝るってテンションじゃ無いだろ…なぁ、あいつなんかあったのか?」

「心当たりは…無いですね。私は今日ゆんゆんと一緒に爆裂魔法を撃ちにいったくらいで、アクアが何をしていたのか知りませんし。ダクネスは知ってますか?」

「う~ん…とりあえず一緒に街までは行ったぞ。といっても、行くときに一緒だっただけで着いてからは別れてしまったし。私はちょっとした仕事を終わらせた後、夕食の買い物をして帰ってきたぐらいだ」

 

 ちなみにカズマは安定のニート生活。突然大変な事をやらかすアクアが心配ならば責任を持って監視していて欲しい。あんなテンションのアクアは大抵ろくでもない事をする前兆なのだから。

 

「どうしますか?今のうちに問い詰めておきますか?」

「どうすっかなぁ…。嫌な予感するのは間違いないんだけど、それだけで言いがかりつけるのもなぁ…」

 

 確かに…そりゃあアクアは色々とやらかした実績に事欠かない。だからといって、何かあるごとにアクアを疑ってしまうのは…。

 

「確実にヘソは曲げるだろう、それでさらに状況が悪化する可能性も…無くはない」

「めんどくせ~…」

 

 カズマが心底疲れたような顔をしながら食事を再開した。私達もそれに続き、とりあえず食事を終わらせる事にする。そしてやや重苦しい夕食が終わって片づけをしているところで。

 

「まぁ、実際のところ何かをやらかしたとしてもアクアだからな。一番痛い目見るのがあいつなのはいつもの事だし。面倒だから放っておこうぜ」

 

 というカズマの一言で、今回の方針が決定したのだった。私もダクネスの納得はしたが…一応、念のためにと早めに寝る事にした。こんな気持ちじゃ良く眠れそうも無い…せめていい夢くらいは見たいものだ。

 

――――1――――

「ん…うん~…」

 

 眩しい。

 

「んっ!?」

 

 薄く目を開けてみると、あまりの眩しさに目がくらんだ。とっさに掛け布団を引き上げて光から逃れてみる。どうやら窓のカーテンを閉め切れてなかったのだろう、隙間から差し込んだ太陽の光で目がチカチカする。

 

「はあ」

 

 でもおかげで目が覚めた。上半身を起こしてからぐぐっと体を伸ばしてみる。

 

「ん~~~…ん?」

 

 目のチカチカが治って視界がクリアになった瞬間、言いようのない強烈な違和感が頭に飛び込んできた。

 

「………んん~?」

 

 部屋を見渡してみても特に変わったような所は無い。

 

「…よいしょ」

 

 ベッドを降りて少しだけ部屋の中をうろついてみたが、体で異常を感じる所も無い。最終的に姿見の前に立ってみるが、そこに映ってるのはパジャマ姿の自分自身。見た目にだってなんらおかしな所は…無い。

 

「ん~…なんなんでしょう?」

 

 それでも違和感は消えなかった。いつもと何かが違うような気がしてならないのだけど、それが何なのか気付けない…そんな違和感が頭にまとわりついている。

 

「まあ、気のせいでしょう」

 

 本当に何かがあるとしたらそのうち気付くはずだ。とりあえず着替えて顔でも洗えばスッキリするだろう。

 そういえば、昨日はアクアが不穏な動きをみせていたんだった。目覚ましがアクアの悲鳴になるかもしれない、なんて思いもしたけど杞憂で終わったのはなによりである。

 

 さておき、早めに目覚めてしまったのには違いない。確か今日の食事当番は…カズマだったはずだ。よし、ちゃんと起きてたら朝食の準備を手伝ってあげよう。もしも寝坊していたら…びっくりするような方法で起こしてあげよう。

 

 前に寝坊したのを起こした時は確か…そうだ、布団に潜り込んで背後から抱きついて起こしたんだった。起きたカズマは布団を吹っ飛ばしてベッドから転げ落ちて「心臓に悪いわ!」って顔を真っ赤にしていたっけ。

 けど、そこはカズマ。「次入って来たら問答無用で襲ってやる」と私に注意を促していた。最初はヘタれるのに相手側に責任があれば強気になるのはいつもの事。次起こす時に同じ事をしたら…うん、それでも抱き着いてくるぐらいだろう。そこですかさずこっちも抱き返せば、また面白いリアクションを取ってくれるに違いない。

 そんな事を考えながら着替えを済ませる。服はOK、次は洗面所で顔を洗って…その後はリビングと台所に顔を出そう。今も感じ続けている違和感だって、その頃には消えているハズだ。

 ガチャリとドアを開けて廊下へ出る。

 

「………」

 

 この瞬間まで、私はこの朝をなんでもない日常の始まりだと思っていた。

 

「…え?」

 

 ドアを隔てたその先には、そんな日常は何処にも無かった。

 

「これは…?」

 

 最低限の灯りもついてない薄暗い廊下。隅に積もった埃。自分以外に誰も居ないかのような人気の無さ。まるで「初めてこの屋敷に来た時のような雰囲気」がそこにはあった。

 違和感どころではない、これは「異常」だ。自分の部屋のすぐ外なのに、慣れ親しんだという感じがまったくない。つい昨日まで気にもしないで歩いていたハズなのに…今は一歩進むのさえ躊躇する程の怖さがあった。

 思わず部屋に戻る。バタンという音と共に穏やかな朝の風景が戻ってきた。ただ…もの凄く息苦しい。「はっ、はっ、はっ…」という荒い呼吸の音を聞いて、自分の息が乱れている事に今気づいた。

 

「すー…はー…」

 

 ひとまず深呼吸。冷静になろう。

 

「よし」

 

 大分呼吸が楽になってきたところで、もう一度廊下へ出てみる。さっきのは幻覚や錯覚、見間違いじゃ無かったようで、先ほどと同じ光景がそこにある。試しに頬をつねってみても…痛い。じゃあこれは紛れも無い現実だという事だ。

 

「…まず、皆が居るか確認しないといけませんね」

 

 意を決して廊下へと一歩踏み出す。

 

「………」

 

 踏み出したその一歩から床が崩れて夢から覚める…なんて事は無かった。あまりのあり得なさから、まだ夢だと思い込みたい自分がいるらしい。

 

「はぁ…カズマー!ダクネスー!アクアー!…誰かいませんかー?」

 

 屋敷中に響くほどの大声を出しながら廊下を進む。床に積もった埃から考えると、あんまり息を吸いたくない空気の悪さだ。実際ちょっと湿っているというかカビっぽいというか…長年放置された建物のようで気分が悪い。

 そういえばこの屋敷を借りた時に一番掃除を頑張っていたのはアクアだったっけ…特に水回りの掃除が丁寧で、実家に居た時に家事の手伝いをしていた身としては目を見張るものがあった。ダクネスは貴族らしく調度品の扱いが上手くて家を華やかにしてくれたし、カズマはぐちぐちとしながらも初級魔法を駆使して効率的に掃除をしていた。

 

「カズマ!ダクネス!アクア!」

 

 こんなに汚れてしまったら…また掃除をしないといけない。新しい生活が始まるという事もあって、大変だったけどあの掃除はとても楽しいものだった。…皆一緒だから楽しかった。

 

「皆!居ないんですか!何処に行ったんですか!」

 

 今、この館には…。

 

「なんで…誰も居ないんですか…!」

 

――――2――――

「………」

 

 無言で口に食べ物を運ぶ。台所には日持ちのする最低限の食べ物が残されていて、何も食べないよりはマシだと考えて朝食を取る事にした。気分も相まって美味しくない…けど、お腹が減ったままでは頭も働かない。味も何も分からないまま食事を続け、気が付いた時には用意した食べ物は無くなっていた。

 

「…ごちそうさまでした」

 

 保存食ばかりだったので片付けたり洗ったりする食器も無い。最後にコップだけを使って水を飲み、食堂を後にした。

 そのままリビングに移動して、そこから庭の様子を確認してみる。案の定雑草が森のように生い茂っていて、内装と同じく手入れが全くされていないというのが分かった。どういう経緯があったのかは分からないが、今私が居るこの屋敷は、ほとんど放置されているような状態のようだ。

 

「けど…食べ物はあったし。それに、私の部屋はまだ人が住めるような環境でしたよね」

 

 食事をする前に屋敷の部屋という部屋は全てチェックした。さらに廊下の埃の積もり具合から、住人が普段屋敷内のどこを移動しているのかというのも導き出せた。玄関から食堂、私達4人の部屋、お風呂、そしてそれらを繋ぐ廊下、この範囲しか動いてない。そして奇妙な事が一つ、私達の使っていた4つ部屋のみ、最低限の掃除がされていた事だ。

 

「偶然では、絶対に無いですよね」

 

 この広い屋敷で私達の部屋だけを特定して掃除をするなんて、赤の他人では絶対に不可能だ。というか、部屋にはカズマ達が過ごしていたという形跡がしっかり残っていた。例えばカズマの部屋には何かの工作をする為の道具や、女性の裸が描かれている本が残っていた。つまり、今は居ないとしてもカズマ達は間違いなくここに住んでいた事があったのだ。

 

「私達4人の内の誰かがたまに掃除に来ている?」

 

 いやいや、まず考える事はそうじゃない。何でこんな事になっているかを考えないと。でも私が特に何かをしたという訳じゃ無い。昨日だって普通に一日を過ごした後、家に帰ってきて夕食を食べて…。

 

「そうです!アクアが犯人です!」

 

 思い出した。昨日はやけに上機嫌なアクアが夕食の後にすぐに自室に戻っていった。私達三人はそれを不審に思って早めに寝ていたハズだ。私がこんな状況に陥っているのには間違いなくアクアが絡んでいると見て間違い無いだろう。なら私がするべき事は…。

 

「皆を見つけだす事ですね」

 

 ここまできてようやく目標を定める事が出来た。そもそもの話、こういった不可解な出来事とかを解決したり謎解きをするのはカズマの役目なのだ。そういう意味でも優先して見つけるのはカズマだろう。そしてどんな事態に陥っても揺るがないダクネスと合流して、多分自身もえらい目に遭っているだろうアクアを回収。全員が揃ったのならば、私達に解決できない事態は無い。

 

「屋敷の中はもう探索し尽くしましたし、次に行くのは…街ですね」

 

 私は足早に部屋に戻り街へ行く支度を整える。いつもの装備に杖を携え、いつ戦闘が始まっても良い様にする。まぁ、ほぼほぼアクアが原因に違いないと思うのだが。万が一、最近の活躍から魔王軍が私達に目をつけて来た…という可能性も無くはないと思うのだ。

 

「その時はその時です。こんな変な状況さっさと抜け出して、魔王軍には私の爆裂魔法を叩きこんでさしあげましょう」

 

 玄関の前に立つ。いつもなら大抵は家に籠っているカズマに一応声を掛けて出かけるところだが。

 

「………」

 

 「ここ」はいつもの私達の家じゃない。私が戻ってくる場所は、皆で一緒に暮らして来た「あの」屋敷なのだから。

 

「…ふぅん!」

 

 両開きのドアに手を掛けて一気に開け放つ。そう、こんなオンボロ屋敷魔族にくれてやる。街で情報を集めてさっさとこんな所…。

 

「はいぃ?」

 

 開け放たれた扉の先。屋敷の敷地の外に広がるアクセルの街は…私の記憶とは全く違う物になっていた。

 

「………」

 

 とりあえず門のところまで歩いてきた所で、振り返ってオンボロになった屋敷を眺めてみる。

 

「私達の屋敷がこうなったという事は…相対的にアクセルの街は…」

 

 なるほど、どういう状況なのかはちょっと理解できた。これが現実なのだとすると、今回の仕掛けは相当大掛かりな物の様だ。

 

――――3――――

 とりあえず冒険者ギルドへと向かう道すがら、街の様子を観察してみる。かなり変化はあれど、街の形自体はある程度原型を保っている。なのでここはアクセルの街で間違いない…と思う。実際広場を通った際に見た巨大な案内板にも「アクセル」の文字がハッキリと書かれていた。

 しかし、元々空き地だった場所に建物が建っていたり。古臭かった家が新築になっていたり。王都でしか見ないような背の高い建物が軒を連ねて居たりと、さながら小さな王都と言えるほどの発展振りだ。

 

(私が一晩寝ている間に誰かが街を大きくした?)

 

 普通に考えてありえない。例え紅魔族が手伝ったとしても不可能だろう。だとすれば、先ほど思いついた仮説が一番有力そうな気がするのだが…それはそれで実現が可能なのかという問題もある。でも…。

 

「おーい!めぐみん!」

「はい?」

 

 考え込んでいると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。

 

「めぐみん!出かけるなら俺に声かけろっていつも言ってるだろ?いつも大量に買い込むから荷物持ちは必要なんだしさ。つーか懐かしいなその格好!もしかして爆裂魔法を撃ちに行く気か?ならなおさら誘えよ!動けなくなっちまうんだからさ!」

「………」

 

 どうしよう。見知らぬイケメンが声を掛けてきた上にやけになれなれしい。

 

「な、なんだよ?人の顔ジロジロ見てきて。変なもんついてるか?」

「………」

 

 ふにふらどどんこコンビよろしく「どなたですか?」と気軽に言えれば良かったのだが…どうするべきか。どう思い返しても「金髪赤目の槍使いの好青年」なんか知り合いに居た覚えはない。

 

「ダストー急に走ってどうしたんだー?」

 

 と、声を上げながら私達に向かってくる男が二人現れた。どうやらこの男の仲間…ってダスト!?

 

「わりぃわりぃ。ほら、めぐみんが街に出てたからよ」

「おお!?ほんとだ!久しぶりだなめぐみん、つーかその恰好懐っいな!」

「元気そうでなによりだ」

 

 このイケメンがダストなのかはさておき、こっちの二人は見覚えがある。確かダストのパーティーのアーチャーのキースとクルセイダーのテイラーだったかな?…えっ?じゃあ本当にこの男はダスト?

 

「………」

「だからさっきからなんなんだよ?やっぱり変なもんでもついてんのか?」

 

 私の疑いに満ちた視線を感じたのか、ダストと呼ばれた男は不安そうな表情を浮かべている。

 よく見ると…確かに顔はダストそのものだ。けどその雰囲気が違い過ぎる、もはや別人レベルではなかろうか。こんな所でも私の仮説を後押しするような変化が…いや、だとしても「あの」ダストが「この」男になるものなのか?

 

「なんか…めぐみんいつもと違わねぇか?」

「ああ、俺もそう思う。本当に大丈夫か?」

「急に街に出てきて体調を悪くしたのかもしれないな。ダスト、任せて良いか?俺達が居ては話せる事も話せないだろう、先にギルドに向かっておこう」

「わかった。悪いな」

 

 私が何も話さずダスト(仮)を注視していたのをそう判断したのか、二人はダスト(仮)を残して行ってしまった。

 

「とりあえず、そこの喫茶店でも入ろうぜ。奢ってやるから金は気にすんな」

 

 私の中でこの男とダストを繋ぐ線がプツリと切れる。ダストが人に奢るなんてある訳が無い。しかし、私は先に喫茶店へと向かうダスト(仮)の後を追う事にした。本物か偽物か分からないけど、知っている限りの情報を引き出させて貰うとしよう――――。

 

「――――なぁ…とりあえずなんか話さないか?」

 

 沈黙に耐えられなかったのか、ダスト(仮)の方から話を振ってきた。一方の私はというと、入店拒否をされずに客として扱われている事からダスト(仮)への不信感を積もらせている。

 

「…そうですね。まず、あなたは本当にダストなんですか?」

「さっきっからジロジロ見てた理由がそれかよ。どっからどう見てもそうだろうが」

 

 ガックリと脱力をするダスト(仮)。そう、見た目が同じだからこそ困惑しているのだこっちは。

 

「逆に聞くけど、お前も本当にめぐみんか?」

「は?喧嘩売ってますか?いいんですよ、今この場でエクスプロージョンを…」

「まてまてまて!わかった!めぐみんで間違いない!」

 

 急にあらぬ疑いを掛けられたのでついカッっとなってしまった。顔がダストだというのも原因の一つだろう、その顔で煽られると腹の立ち方が違う。

 

「じゃあ聞くけど、何で俺が本物かどうかなんて聞いてきたんだ?」

「そうですね…私が知っているダストはクズですから。アクセルの最大の汚点で、他人に迷惑をかけない日は無いですし。アクセルの住民にアンケートを取ったら、冒険者よりも犯罪者と答える人の方が多いでしょう。そんなゴミのような男と、目の前のあなたが同一人物だとは思えないのですよ」

「散々な言い様だなオイ!つーか、いつの話してんだよ!」

 

 ダスト(仮)は怒りをあらわにしているものの、喫茶店の中という事でちゃんと声の大きさを抑えていた。この気遣いの良さ…やはりダストでは無い。

 

「その目ヤメロ。どんだけ俺の事を疑ってんだ」

 

 気付かれた。この鋭さ…やはりダストでは…って思ったけど。ダストは元々悪口…というか悪意には敏感な方だったような気がする。小さな悪口も逃さないでからんでくる地獄耳だから、悪態つくなら離れてからとは良く言われてたものだ。

 

「こんな事を繰り返していても埒が明きません。一応知り合いには会えた訳ですし、ちょっと聞いて良いですか?」

「脱線させてたのは…いや、いい。聞きたい事って何なんだ?」

 

 怒りを収めて素直に聞く態勢に入るあたり、やはりダストとは似ても似つかない。本当にこの男は何者なんだろうか?

 

「今日は…」

 

 ここで私は今日の「日付」を男に尋ねた。この男がどう答えるかによって、私の仮説が合っているかの証明になる。私は…正直な所それが正解であって欲しく無かった。

 

「えーっと、確か今日は…」

 

 そして、男は私の仮説が「合っている」事を証明する答えを口にした。

 

「………」

「なぁ…どういう意図の質問だったんだ、これ?」

 

 男…ダストが心配そうに声を掛けてくる。あまりの事実に呆けていた意識が引き戻された。うん、どういう状況に陥っていたかは理解した。打破するには非常に困難な事ではあるが、ここで諦める訳にはいかない。幸い、このダストは私に対して妙に協力的だ。藁にもすがるとはこの事だと思うけど、今は協力者が居るだけでもありがたい。

 

「ダスト、荒唐無稽な話ですが聞いてください。私は一年前の過去から、一年後の今日に時間移動をしてきたんです」

 

――――4――――

 私の言葉を聞いて、ダストは考えるような仕草で固まってしまった。それもそうだ、いきなりこんな事を告白されて信じる人なんて居ない。ちょっと成長が見えたとしても目の前の男はダストだ。他人の面倒事なんかに関わるような…。

 

「わかった。つまりめぐみんは元の時間に戻りたいって事なんだな。何か俺に出来そうな事はあるか?」

「…え?」

 

 ダストは真面目な顔で協力を申し出てきた。そのありえなさに、今度はこっちが固まってしまった。

 

(ダストが?協力する?私に?何で?信じた?)

 

「おーい、そんなに俺が協力するのが信じられねぇのか?…まぁ、一年前から来たってんならしょうがねぇけどよ。とりあえずこの俺は、めぐみんに協力するのにやぶさかじゃねぇって事だ」

「えーと…」

 

 いや、本当に。このダストは本当にあのダストだったものなんだろうか。一年もあれば人間は成長する?だとしても、あのクズっぷりからどんなきっかけがあればここまで変化するのだろう。

 

「おや?」

 

 ふと、ダストの指に光る物があるのに気付いた。よく見てみるとそれは指輪で、はめられている場所は左手の薬指…。

 

「ダスト…もしかして結婚したんですか?」

「ぶっ!?」

 

 ダストの顔が一気に赤くなった。え?本当に?

 

「…なんだってこう、そういうのを、目ざとく見つけやがるなぁ」

 

 あてずっぽうというか、まさかというか。そんな訳無いだろうと思いながら聞いてみただけだったのに…。ダストは右手で頭をガシガシとかきながら。

 

「…そうだよ。結婚がきっかけって訳じゃねぇが、俺一人ならともかく…相手が出来ちまったらまともにならざるを得ないだろ」

「それは…はい、おめでとうございます」

 

 パチパチと思わず拍手をしてしまった。そうか、ダストにもそういう相手が出来たんだ。そして、それをきっかけに、こんなにも更生をする事が出来るんだ。ここで気になるのがそのお相手の事なのだが、心当たりとしては一人しか居ない。

 

「相手はリーンですか?同じパーティーメンバーだった」

「まぁな。あいつ以外に、俺と進んで一緒に居ようとする女いねぇし」

 

 やれやれと言いながらも、ダストは左手の指輪を見ながらとても嬉しそうな顔をしている。なんか今のやり取りで、このダストの事を信じても良いかもしれないという気持ちになってきた。

 

「なるほど、今のダストなら本当に頼りになってくれそうです。私は絶対に元の時間に戻りたいのです…協力をして頂けますか?」

「ああ、俺が出来る限りの事はやってやるさ」

 

 ダストは不敵な顔をしながら拳で自分の胸を打った。本当に何とかしてくれそうなその雰囲気は、ほんの少しだけカズマに似ているような気がした。

 

「まず私が時間移動をしたかもしれないと思ったのは、昨日寝る前とであらゆる物が変化していたからです。くたびれた屋敷に発展したアクセルの街。そして先ほど聞いた日付で確信する事になりました」

「ちょいと質問。そもそも時間移動なんて出来るものなのか?例えばとんでもないマジックアイテムを使うだとか、そういう魔法があるとか」

「はい、そこは私も疑問に思っている事です。マジックアイテムに関しては…正直なんとも言えません。紅魔族にもマジックアイテムを作る職人は居るんですが、一流の職人であるその人でも理解出来ないようなアイテムは山ほどあります」

「古代遺跡から発掘されるような奴だな。何個か聞いた事はあるけど…確かに、そんな中に時間移動が出来るようなのがあってもおかしくないか。俺が知ってるのだけでもヤバイ効果のアイテムがあったし」

 

 このダストは冒険者としても優秀になってるのか。私の話に的確に質問と考察を合わせてくれる。

 

「次に魔法ですが。とりあえず過去にさかのぼっても、時間を操作するような魔法は存在していません。

一応テレポートが時空に関する物なので近しいのかもしれませんが、その系統の魔法をいくら研究しても時間に関する魔法には届かなかったそうです」

「流石魔法には一家言ある紅魔族だ、これに関してはその通りなんだろう。それじゃあめぐみんが未来に来ちまった原因ってのはまだ特定出来てないって事か?」

「原因…ですか」

 

 あるといえば勿論ある。けど、こればっかりはダストもすぐに納得は出来ないんじゃないだろうか?

 

「あのですね…うちのアクアが、昨日の夜に妙に上機嫌でテンションが高かったんですよ。その時はカズマとダクネスも居たのですが…皆揃ってとんでもないトラブルが起こるんじゃないかとは予想はしていまして。アクアはほら、アレですけど実力はかなり高いアークプリーストですから。原因の最有力としてはアクアなんじゃないかなーと」

「…あー。もう、それで正解なんじゃね?」

 

 おざなりな返事…という訳ではなく。何もかも悟ったような顔で、ダストは私の推理を肯定した。私達のパーティー内では、アクアなら何をしでかしても不思議は無いという認識があったのだけれど。他の冒険者…ダストにもそう思われていたとは。

 

「アクアかー…そんくらいの事は…出来るんだろうなぁ」

「なんなんですか、そのアクアに対する謎の信頼感は」

「え?だってアクアって…あ、そうか。一年前なら知らないのか?」

「なんのことです?」

 

 この一年の間に、またアクアがとんでもない事でもやらかしていたんだろうか?

 

「めぐみんはさ、アクアがあの水の女神アクアと同一人物っていうのは知っていたか?」

「えぇと、アクア自身はそんな事を言ってましたけど…え?本当だったんですか?」

 

 ダストは終始真面目な表情を崩さないし、この場で変な冗談を言うようには思えない。だとすると、アクアが女神なのは真実だったという事になる。正直な話、私もダクネスもアクアが本当に女神なのでは?とは思い始めていた。カズマが何回もリザレクションで蘇ってる事から、アークプリーストとして優秀なだけでは説明が付かなかったからだ。

 

「そうだな…めぐみんの状況は大体分かったし、今度は俺がここ一年間で起こっていた事を話すか。もしかしたらその中に戻れるヒントがあるかもしれない。俺がアクアの事を女神だって信じている理由もそこにある」

 

 ダストの提案に私は頷く事で答えた。実際興味はある。屋敷やアクセルの街が何故あんなにも変わってしまったのか。他にも知っている人たちが今何をしているのかも…って、そういえばカズマ達は今何処で何をしているんだろうか?アクアが原因だとしたら、家で一緒に居た私だけが未来に移動してしまったという訳では無いと思うのだけど…。

 

「まずはそうだな…魔王が討伐された」

「おお!遂に倒されましたか!まぁ一年前の時点で私達パーティーが幹部を何人も倒してましたからね。いよいよ結界の維持が出来なくなった、という事でしょう」

 

 私としてはカズマが魔王を倒すのが理想だったけれど、カズマの思惑としては「結界は弱体化させるけど、後は勇者か紅魔族がケリをつけてくれるだろう」だった。まぁ、カズマは冒険者の職業を辞める気は無かったようだし、それじゃあ魔王を相手にするのは流石に荷が重いのも事実である。

 

「倒したのはカズマだ」

「…はい?」

 

 聞き間違いでは無い。ダストは真剣な顔で私を見つめている。カズマが魔王を倒した?帝都に居る勇者達や紅魔族ではなく?冒険者という職業でどうやって?この未来は本当に…予想外の出来事が起きすぎていて驚く事しか出来ない。

 

「そ、それじゃあカズマはいま何処に?」

「…居ない」

 

 ダストは小さく、顔を曇らせながらそう言った。

 

「カズマはもう…この世界には居ないんだ」

 

 ダストは、どこか悔しそうな表情を浮かべて私を見つめ続けている。それだけで、その言葉がどうしようもない真実だという事を理解させられる。段々と、私の頭が真っ白になっていって…何も、考えられなくなっていった。

 

――――5――――

「………」

 

 どれだけの間、呆けていたのだろう。段々と目の焦点が合ってきて、最初に見えたのはダストの射抜くような瞳だった。

 

「諦めるのか?」

「っ!?」

 

 まるで私の意識が戻ってきたのを察するようなタイミングで、ダストは「それ」を問いてきた。その一言に、私の心臓は一際大きく跳ね上がる。

 

「カズマはいつだって、諦めずに頑張り続けてきた。魔王を…よりにもよって冒険者のまま倒せたのも、諦めなかったからだろう。その後…帰って来なかったけど、絶対に、最後まで、諦めずにあがいていたハズだ。そんなカズマのパーティーメンバーだったお前が諦めるのか?もう一度…カズマに会いたくないのかよ?」

 

 ダストの言葉で、体中に一気に熱い血が流れる程の活力が戻ってきた。

 

「会いたいです!」

 

 私は思わず立ち上がり、店中に響くほどの大声で叫んでいた。目が熱くて、テーブルにぽたぽたと涙が零れる。滲んだ視界の中でダストは笑いながら。

 

「だよな」 

 

 そう言ったダストは、とりあえず私に座るように促した後に周囲の人達に謝罪の言葉を掛けていた。オマケに涙を拭くためのハンカチまで貸してくれて、この成長ぶりを昔のダストに見せてあげたいくらいだ。

 

「もう落ち着きました。ハンカチ、ありがとうございます」

「おう」

 

 私が返したハンカチを、ダストは懐へとしまいこんだ。洗濯するのはリーンだろうか?涙でぐちゃぐちゃになったハンカチ…誤解されなければいいけど。

 

「今さらですけど…なんで私の事をそんなに気にしてくれるんですか?今のダストが昔に比べて凄く成長したというのは分かりますけど…それにしたって世話を焼きすぎな気がします。思い返せば最初に会った時も、買い物がどうとかも言ってました」

「そりゃあカズマの頼みだからな」

「…カズマの?」

 

 もう居なくなってしまったというカズマは…ダストに一体何を頼んでいったのだろう?

 

「ああ。それも含めて、魔王を倒した後の話をしていくぜ。実際に魔王と対峙したのはカズマのパーティーに加えて、ゆんゆんともう一つのパーティだ。ミツルギって覚えてるか?どうやらあいつらも同行してたらしい。そして王都へ魔王討伐の報告をしたダクネスの証言はこうだ。『魔王は周囲の仲間を強化する能力を持っていた。そこでカズマは一人で魔王を引き離す事に成功、部下の弱体化を図った。その後、部下の更なる弱体化から魔王の討伐を確認。残る敵を可能な限り掃討して戦闘は終了した』」

 

 魔王はそんな能力を持っていたんですね。だからといって、冒険者のカズマが魔王を引き離して一対一に持ち込むなんて…普段は戦うことすら面倒くさがるのに、ここぞという時にはなんで無茶をするんだろうか。

 

「実際に魔王の娘が率いていた王都襲撃中の魔王軍が弱体化した事もあって、魔王討伐は正式に認可された。弱体化だけで明確な証拠が無いとかで一部貴族から疑問の声も上がってたけど、報告したのがダクネスだったからな。ダスティネス家の令嬢が王家相手に虚偽の報告なんてやらないだろ?」

「どう…でしょう?なんかダクネスなら、場合によっては王家相手でも…と、思ってしまうんですが」

「天秤にかけるのがめぐみん達ならな。ほんと、誰のせいでああなったんだか」

 

 ダストが嬉しそうに笑っているのを見て、私も自分の顔が笑っている事に気付いた。誰のせいかなんて決まっている。私だって…その誰かに変えられてしまったのだから。

 

「とりあえず、王家の認可で魔王討伐の参加パーティーには色々と褒章が送られたりしたんだが…それはどうでもいいか。めぐみんに関する事と言えば、ダクネスが貴族の仕事に忙しくて中々アクセルに顔出せなくなったくらいだ」

 

 パーティーリーダーだったカズマが居なくなってしまったのならば…冒険者としての活動を辞めてしまうのも仕方の無い事なのかもしれない。それにダクネスは元々王家と関わりのある貴族。さらに魔王討伐の功績までついてしまっては、周りが放っては置かないだろう。

 

「ここでアクアに関する大事な事なんだが…めぐみんは王都に多く居た、異様に強い勇者達の事は知ってるよな?」

「はい。ミツルギもその一人ですよね?」

「あいつらの共通点は貴族でもないのに性を持っている事、レベルの高さ低さ関係無く強い装備や能力を持っている事、容姿が基本的に黒髪黒目で顔立ちが似通っている事だ。これってよ、カズマの奴も該当するんだが…気付いていたか?」

「いえ…確かにカズマは遠い国からアクセルにやって来たと言ってましたけど。王都の勇者と違って特に強く無かったじゃないですか」

 

 そう、カズマが王都の勇者と同じだったのなら。最初に会った時、ジャアントトード相手に苦戦なんてするはずが無い。スキルを使いこなしていた事からあえて冒険者を選んでいた可能性は無くはないけど…あんなに毎回死ぬのだって…。

 

「どうやらカズマを含めて王都の勇者達ってのはな…この世界とは違う異世界で死んだ人間が、女神アクアによってこの世界に転生した人間らしい」

「………」

 

 異世界で死んだ人間で?アクアが?転生?またしても驚愕の事ばかりでもはやリアクションも取れない。情報量が多すぎる。

 

「要するにだ、アクアは魔王を倒すために異世界から勇者を連れてくる女神だったんだよ。それも即戦力になるようにとんでもない装備や能力を与えてな。そんな女神が何でアクセルに居たかって事だが、どうやらカズマの奴がそういうとんでもない装備とかの代わりに無理矢理連れて来たんだそうだ」

「…それが本当なら、カズマはかなりまずい事をしてしまったのでは?」

 

 女神を無理矢理連れてくるだなんて…カズマは最初っからやる事がおかしすぎる。

 

「どうなんだろうなぁ…けど、そのおかげでカズマ達は魔王軍の幹部を倒しまくった上に魔王まで倒したんだぜ?目的を達成出来たって事を考えれば、カズマの選択は正解だったんじゃないか?」

「そう言われれば…確かにそうなんですけど…」

 

 本当に良かったんだろうか?まぁ、カズマがアクアを連れてきて無ければ私達パーティーは出会う事さえ無かったのかもしれないし。そういう意味では、カズマは最高の選択をしてくれたのだろう。…無理矢理連れて来られていたアクアにすれば、とんだとばっちりだったのかも知れないけど。

 

「そんなアクアだけど、今は魔王を倒したって事で天界ってとこに帰っちまった。周りに迷惑掛けまくりだったけどよ、いざ居なくなると寂しいもんだ…。ぶっちゃけアクセルの冒険者からは結構人気だったんだぜ、時折見せる慈悲深さとのギャップが良いとかな。その辺は流石女神様ってとこだな」

「そうですか…居なくなったのでは無く、帰ってしまったんですね」

「ああ…元々ここに居るのが間違いだったらしいからな、こればっかりはしかたねぇよ。もし話たければアルカンレティアでお祈りしてみたらどうだ?アクアの事だ、めぐみんになら絶対に返事返してくるだろう」

 

 確かにアクアなら返事どころか直接会いに来てくれるかもしれない。ただ…アルカンレティアやアクシズ教徒と関わり合うのは勘弁したいところだ。

 

「そしてカズマなんだが…魔王と一対一の戦いになったのはさっき言った通りだ。その決着は、魔王の部下が弱体化したから魔王を倒したという憶測でしか無かった。カズマも戻って来なかった事から、相討ちになったんだろうってな。けど、それから少ししてから手紙が届いたんだ」

「…手紙。カズマからですか?」

「その通り。一体誰が配ったのか分からない手紙が、カズマと関りがあった奴全員に送られて来たんだよ」

 

 ダストはそう言いながら腰に下げた道具入れから一通の手紙を取り出した。

 

「ほら、めぐみん宛の手紙だ」

「…私宛の?」

 

 差し出された手紙は、ぐしゃぐしゃにされた痕のある、封の切られたものだった。

 

――――6――――

『めぐみんへ。まず、戻れなくてごめん。魔王の部下が弱くなった事から、俺が魔王を倒す事が出来たのは伝わってると思う。けど、魔王を倒すためにはまともな手段じゃ無理だった。いつもの作戦も通じなくて、単純な力の比べじゃ絶対に負けちまう。いよいよってところで、なんとか相討ちに持ち込むのが限界だったんだ。

 

 あと、アクアも急に居なくなっちまって驚いたと思う。今までもアクア自身が言っていたけど、アクアは本当に水の女神アクア本人だったんだ。だから使命だった魔王討伐を達成して天界に戻る事になった。「ちゃんとお別れを言えなくてごめんなさい」って言ってた。それは俺もだ、こんな手紙を送る事しか出来なくて本当にごめん。

 

 いつかめぐみんに話していた俺の故郷っていうのは、実はこの世界の事じゃ無いんだ。俺は元々「地球とという星の日本ていう国」で暮らして居た。そしてとある事故で命を落とした後、女神アクアの導きでこの世界に勇者として転生する事になったんだ。ミツルギとかの王都で活躍してる勇者が居ただろう?あいつらも全員アクアが連れて来た、俺と同じ世界出身の転生者だ。

 

 俺達の役目は女神アクアと同じで魔王を倒す事。そのために俺達は、女神アクアから凄い装備や力を貰ってこの世界にやって来た。俺の場合は幸か不幸かアクア自身を持って来ちまったんだけどな。最初こそお互い後悔してたけど、最終的にはアクアを連れてきて良かったと思うよ。アクアはある意味最高の相棒だった。

 

 めぐみん、こんな形で言うのもなんだけど。本当に好きだった。ダクネスに言い寄られたり、アイリスに懐かれたり、俺自身が信じられないようなモテっぷりで浮かれちまって、中々ハッキリ答えを出せなくてごめん。もし俺が戻れていたら、恋人にするならめぐみんしか居ないって思ってた。本当に、戻れなくてごめん。

 

 この世界に残れなかったのは、本当に残念でならない。俺だって、ずっと四人で楽しく暮らして居たかった。アクアがバカやって、ダクネスが頭抱えて、めぐみんが暴れて、俺が責任取るみたいな。騒がしくて平凡な日常をずっと続けていたかった。でも、それはもう叶わないんだ。

 

 最後に、めぐみんは魔王を倒したパーティーに所属していた「世界最強の魔法使い」。きっと、どんなパーティーからも引っ張りダコだ。俺達のパーティーの事を忘れろとは言わないけど…それに囚われないで、世界最強の魔法使いとしての道を歩んで行って欲しい。いつか歳とって往生したら、アクアの居る天界に乗り込んで四人でまた会おうぜ。その時に俺に聞かせる武勇伝、山ほど作ってくれよ』

 

 所々、涙で文字が滲んだ手紙を読み切った。先ほど泣いたおかげだろうか、新しい涙の痕を作るのは我慢する事ができた。

 

「ダスト…これを読んだ『私』はどうなったのですか?」

 

 手紙を読み進めていくうちに、ずっと忘れていた…いや、考えもしなかった事に気付く事が出来た。

 

「…めぐみんは、たった一人で屋敷に留まり続けていた。皆がいつ帰ってきてもいいように、最低限の生活を続けながら、な」

 

 そう、過去から来た『私』が居るのならば。この時代の『私』が何処に行ったのかという事だ。

 

「先ほどダストと会った時、買い物がどうとか言っていたのはそういう事なんですね?」

「カズマからの手紙にな、めぐみんとダクネスの事を助けてやって欲しいって書いてあったんだ。多分…アクセルに居る連中全員には頼んでたんじゃねぇかな。ダクネスは貴族としての仕事をする事で誤魔化していた感じはするけど、めぐみんの落ち込み様は本気でやばかった」

 

 自分の事だから良く分かる、事が事なだけに強がる事も出来なかっただろう。普段だって強がった事を言うくせに、実際は一人じゃ何も出来ないのが私だ。今だってダストが発破をかけてくれたから持ち直せただけ、もしダストと出会えて居なかったら…気落ちして屋敷に帰った後、誰かが助けてくれるのを待っていただけだろう。

 

「ダスト、そんな私の面倒を見てくれていてありがとうございました」

「気にすんな。それにしても、ここに居たはずのめぐみんは一体何処に行っちまったんだろうな?」

「一つ…アクア以外で私がこんな事になってしまった仮説を思いついたんですが。ここに元々居るはずの、引きこもっていた私が原因という事は無いでしょうか?」

「ほほう」

 

 ダストは少し前のめりになり、聞く態勢を取って続きを促した。

 

「引きこもっていた私って精神的に酷い状態だったんでしょう?自分の事だからやりかねないというのが分かるんですが。もう一度カズマと会えるのならば…使うのが禁忌とされている魔法とかに手を出しそうな気がするんですよ。例えば…過去と未来の自分の入れ替えてしまうとか」

「…まじか。そんな魔法本当に存在するのかよ?」

「例えばですよ。実際儀式めいた魔法を使う場合、媒体とか生贄とか…何かを代償とする物もあるんです。普通なら時間を移動する魔法が不可能だとしても、何かを犠牲にするような方法なら可能なのかもしれない。そして極限まで追い詰められた私は…それを使ってしまう可能性も有るという事です」

 

 ダストは私の仮説を聞いて考え込む。私自身がこんな状況に陥ってしまってる以上、可能性としてはアクアが原因と考えるよりも確率が高そうな気がしてきた。そしてこれはチャンスでもある。本当に私が原因だとしたら、逆にそれを利用する事で私が元の時間に戻れるかもしれないからだ。

 

「協力者は…居ると思うか?」

 

 ダストがぽつりと言葉をこぼした。協力者…それは私の考えには無かった事だ。言われて見れば、何事も単独でやったとは限らないんだ。

 

「可能性はあります。こっちの私はひきこもりのニートだったんでしょう?そんな私が全部一人でそんな大掛かりな魔法の準備を出来るとは思いません」

「とりあえずその線で考察を進めていくとしたら…協力しそうなのはダクネスだ」

「…ダクネスですか?」

 

 オウム返しに聞き返した私に、ダストは小さく頷きながら。

 

「さっきも言った通り、カズマが居なくなって落ち込んでいたのはダクネスも一緒だ。めぐみんは現実逃避で無気力になっちまったけど。とにかく仕事に身を置いて、カズマの事を考えないようにしているダクネスだってやってる事に違いは無い。元々ダクネスは身内には甘いからな、めぐみんが頼んだら協力くらいはするだろう」

 

 ダストの言ってる事はもっともだ。私もダクネスも、カズマとアクアに置いて行かれてしまった者同士。最悪の場合、ダクネスまで未来に来てしまってる可能性があるんじゃないだろうか?

 

「ダクネスに会いに行きましょう。仮説が合っていようと無かろうと、何かしらの進展はあるかもしれません」

「だな、ここでただ話し合っててもしょうがねぇ」

 

 私達はお互いに目を合わせて頷き合うと、頼んでいた事さえ忘れていた冷めた紅茶を飲み干して席を立った。

 

――――7――――

 店を出た後、記憶を頼りにダクネスの屋敷までやって来た。アクセルの街はすっかり様変わりしてしまっていたが、この屋敷は昔来た当時のままだ。魔王討伐の功績でさらに立派になってるかと思ったけど、貴族の屋敷というものは伝統とかも重んじるのだろう。

 

「あのー、すみません」

「おお、これはこれはめぐみん様。お久しぶりでございます」

 

 入り口に立っている門番の人に声を掛けると、思った以上に丁寧な対応をされてちょっと驚いた。

 

「本日はどのようなご用件でお越しになられましたか?」

「ダクネス…いえ、ララティーナ、様と面会をしたいのですが」

 

 すんでのところで、ダクネスが本当に良い所のお嬢様だった事を思い出す。そのせいでとんでもなく不自然な話し方になってしまった。しかし門番の人はあくまでにこやかに。

 

「かしこまりました。ただいま案内の者が来ますので、屋敷内の応接室でお待ち下さい」

 

 深々とお辞儀をする門番の人を見てると、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。お嬢様であるダクネスの仲間なので、それなりの対応をしないといけないのだろうけど、私相手にそこまでしなくてもと思ってしまうのだ。普段ならカズマ並みとは言わないが調子に乗る時もあるけれど、仲間が居なければ無理に強がる事も無い。こんなところでも私は、誰かが居ないと何もできない様だ。

 

 その後現れた案内人に連れられて、貴族らしく豪華な応接室に通された。間髪入れず紅茶とお菓子をメイドさんが持ってきてくれて、今は一人でダクネスが来るのを待っている。紅茶も菓子もとんでもなく美味しい、朝からロクな物を口にしてなかったのでありがたい限りだ。

 

 ちなみに、ダストは他にやる事があると言って途中で別れる事になった。まぁ、ダクネスと話をするだけなら付いてくる事も無い。多分ダストはダストで次の手段を講じているんだろう。喫茶店でのやり取りで、あのダストに対する私の信頼感は揺るぎないものになっている。

 

「お待たせ致しました」

 

 扉をノックした後、そう言って入って来たのは執事の人だった。ダクネスはどうしたのだろう?やっぱり忙しいのだろうか?

 

「こちらを、既に繋がっております」

 

 執事の人が差し出して来たのは小さなダンベルのような物だった。両手で差し出されたソレを、とりあえずダンベルのように持ってみる。そしてコレをどうすれば良いのかと眺めていると。

 

『めぐみんか?私だ、ダクネスだ』

「えっ!?ダクネス!?ど、どこですか?」

 

 突然ダクネスの声が、手に持ったダンベルのような物から聞こえてきた。

 

『聞こえるか?確かめぐみんはこの魔道具を使うのは初めてだったかな?これは遠くの人と会話が出来るようになる魔道具だ。私の声が聞こえている側と逆の方に話しかければ、こちらにめぐみんの声が届くようになっている』

 

 すごい、一年の間にこんな便利な魔道具が作られていたなんて。

 

「えっと…こう?ですかね?聞こえますか?」

『うむ、大丈夫だ。本当に久しぶりだなめぐみん。折角会いに来てくれたのに、こんな形で話す事になってすまない。私は今、王都を離れる訳にはいかなくてな』

「いえ、こちらこそ突然ですみません」

 

 朝目覚めてから、ようやく聞く事が出来た仲間の声に安堵する。でもこのダクネスは、ダクネスであってダクネスじゃない。カズマとアクアに加えて、私まで引きこもってしまった。そんな一年間を、たった一人で頑張って来たダクネスだ。

 

『私にとってめぐみんは特別だ。どんな事があろうとも、めぐみんは全てに優先される』

「…ありがとうございます」

 

 それでも、仲間を第一に思ってくれる所はまったく変わらない。だから…この一年で一番辛い思いをしてたのは、私なんかじゃなくてダクネスなのだと思う。

 

『そういえば…その、めぐみんは今一人で外に出ているのか?それに今日は大分元気なようでなによりだな』

 

 先ほどとは違い、なんとも微妙な話し方をダクネスはしている。まぁ、仕方ない事か。こっちの私は簡単に言うとコミュ障のニートのようなものだ。久々に出てきてくれた事は嬉しいけれど、どう気を遣えば分からないといったところだろう。

 

「ダクネス。かなり信じがたい事かも知れないですが、実は私はダクネスの知る私では無いのです」

『…どういうことだ?』

 

 魔道具越しでも困惑が伝わってくる。これ…下手をしたら、いよいよ妄言を言い始めたと捉えられてもおかしく無いんじゃないだろうか?

 

「実はですね…」

 

 私は朝起きてからの顛末と、ダストとの会話、把握した状況から立てられた仮説をダクネスに伝える。ダクネスはまるで先ほどの私のように、次々に聞かされる情報に困惑を隠せなかった。そして最後に、私がダクネスを訪ねた理由を話すと、少しだけ沈黙をした後。

 

『私はめぐみんには会っていない。それに私には、この一年何をしてきたかの記憶もしっかりとある。私が協力をしたという仮説は否定せざるを得ないな』

「…そうですか」

 

 これはまぁ、最初に話した時点で気付いていた。だって魔道具越しとはいえ、私と久しぶりに話せるのをあんなにも嬉しそうにしていたのだ。もしそんな演技を、私相手に気付かれずに出来るのであれば、それはもうダクネスではない。私の知っているダクネスは、色々な事に不器用なところがかわいいのだ

 

『それにしても時間移動か…にわかには信じられないが、めぐみんが実際に体験をしているのならば本当なんだろう。私は魔法や儀式について詳しい事は分からない。だが…もし本当にあの頃へ戻れるのならば…』

 

 ダクネスはそこで言葉を止めて、それ以上は言わなかった。それ以上言わなくても、私にはダクネスの気持ちが手に取るように分かってしまった。私達は同じくらいカズマの事を男性として好きで、アクアの事を仲間として大好きなのだから。

 

「ダクネス、安心してください」

『…めぐみん?』

「私は絶対に過去に戻ります。そして、カズマ達が居なくなってしまったという事を…無かった事にするつもりです。そもそも魔王討伐に向かわせなければ、カズマが魔王と一対一で戦うなんて事にはなりません。。魔王が暴れ続ける?そんなものカズマ達が居なくなってしまう事に比べればクソくらえですよ。こんな未来ぶち壊してやりますから…未来が変わるまで待っていてください」

 

 そう、カズマが居なくて、アクアも居なくて、私はひきこもりで、ダクネスが仕事漬け。こんな未来、私達にふさわしくない。私達の日常は楽しくて騒がしくて馬鹿らしい、本当に素晴らしいものだったのだから。

 

『…期待している。めぐみん、必ず二人を取り戻してくれ。この一年間、全てを忘れる様に貴族の仕事に従事していたが…やはりだめだ。私は冒険者として、皆と一緒に冒険がしたい。また、皆の盾になって…モンスターにボコボコにされたいんだ』

「はい、やっぱりダクネスはそうでなくては」

 

 ダクネスの変わらなさに思わず頬が緩む。結局ダクネスから新しい情報は得られなかったが、私はここに来て良かったと思った。それは…この時間のダクネスの気持ちを、こうしてリアルに聞く事が出来たからだ。

 

――――8――――

 ダクネスとの会話を終えて屋敷の外に出る。門番の人にも挨拶をして、気持ちを新たに私は歩き出した。

 

(とりあえずダストと合流してお互いの情報を摺り合わせましょうか?あ、でもどこで落ち合うとか決めて無かったような…)

「お待ちなさい!」

 

 次に何をすればいいかと歩きながら考えていると、突然背後から声を掛けられた。

 

「…ゆんゆん?」

「我が名はゆんゆん!紅魔族の族長にして世界最高の魔法使い!魔王の軍勢を撃ち滅ぼした者!」

「…ゆん…ゆん?」

 

 見知った人物のあまりの変わり様に一瞬頭が真っ白になる。ダストの変化がかわいく見える程に、とんでもない人格改変がなされた親友がそこにいた。

 

「久しぶり…じゃなくて初めましてかな?過去のめぐみん」

「…え?」

「ダストさんから聞いたのよ、めぐみんが大変な事になってるから助けてやれってね。めぐみんの為ならなんでもやっちゃうのはダクネスさんだけじゃないわよ。ライバルで大親友の私を忘れて貰っちゃ困るんだから!」

 

 こっちの反応なんてお構いなしにゆんゆんは喋りまくる。もうちょっと、こっちの準備が整うのを待って欲しい。

 

「めぐみーん。ちょっと反応薄くない?やっぱり私の変化に驚いちゃってる?」

「驚かない方がおかしいと思いますけど…何があればたった一年でそんな事になるんですか?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 

 なんなんだろうこの瞬発力は。誰よりも紅魔族っぽくない性格だった子が、誰よりも紅魔族っぽくなってしまった。なんか勝手に説明してくれそうなんで、少しだけ黙って聞いておこう。

 

「族長として皆をまとめようと頑張ってたら、いつの間にか染まっちゃった!」

「簡潔すぎでしょう!」

「あはははは!」

 

 ゆんゆんがこんなに大爆笑をしている所なんて初めて見た。昔から色々と忠告をしてきたけど、なにもここまで突き抜けなくても良かったんじゃないだろうか?

 

「さてと…私の成長秘話は置いておいて、早くめぐみんを一年前に戻してあげないとね」

「っ!?」

 

 さも当たり前の事のように口にしたので理解が遅れる。このゆんゆん…まさか時間を操る魔法を使えるまでに成長したとでもいうのだろうか。

 

「ついてきて。大丈夫…いいところに連れて行ってあげるだけだから」

「………」

 

 自分の胸を強調して妙に色気を醸し出しながらのセリフである。年相応とは思えない豊満な体を恥ずかしがっていたゆんゆんはもう微塵も残っていない様だ。というか私相手にそういう仕草をする意味は?なんかこのゆんゆん、ノリだけで動いている節がある。多分成長はしているハズなのに…過去のダスト並みの信頼感なのは何故なんだろう――――?

 

――――道中、非常に無駄な会話をしながらたどり着いたのはウィズの店だった。

 

「もしかして…過去に戻る手段というのは」

「そう!困った時のウィズさんの店!」

 

 ここに来るまでの会話で分かったけど、この子中身は全然成長してないのでは?性格に関していえば…うん、成長?したといえばしたのだろうけど。実際に話す内容自体は大して変わってないというか、昔のまんまな気がするのだ。そして私としてはそのゆんゆんらしさが逆に安心する要因となり、ダストよりはすんなりと変化を受け入れる事が出来た。

 

「私はてっきり、ゆんゆんが時間を操るような凄い魔法を取得したと思っていたのに」

「そんなの無理無理。もし使えたらとっくに過去に戻って未来を変えちゃってるってば。私だってここに居ためぐみんの為に、色々頑張って元気づけようとしてたんだから」

 

 ここに居た私…確かにゆんゆんなら、屋敷にひきこもった私を放っておくハズが無い。カズマからの手紙は当然ゆんゆんにも届いていただろうし、さっきはあんな事言ってたけど、性格がこんなに変わったのはもしかして…。

 

「とりあえず、ウィズさんの所に来たのは間違いじゃないと思うのよ。ダストさんから聞いた顛末によると、犯人はアクアさんかめぐみんのどちらかの可能性が高い。さらに協力者がいるとしたらカズマさんのパーティーに近い人、それでさっきダクネスさんの所に行ったんでしょう?私はね、アクアさんが上機嫌だった所に注目したの。まぁ、めぐみんほど一緒に居た訳じゃ無いから偉い事は言えないけど、アクアさんがそういう時って新しいオモチャとか珍しい物を手に入れたとか…なんていうか子供っぽい理由じゃない?」

「ふむ、一理ありますね」

 

 ゆんゆんは私につきまとっていたせいで、部外者の中では私達パーティーのごたごたに巻き込まれる事が多々あった。その結果、メンバーの人となりというものにそれなりに詳しくなってしまっているので、その考察も中々納得出来るものになっている。

 

「つまり、アクアはウィズの所で変な道具を貰ってきていて、それを試したくてウキウキしていた。そして、その魔道具の影響で私は未来に来てしまった…という事でしょうか?」

「そのとおり!流石めぐみん!」

 

 いちいち大げさなリアクションもポーズもとらなくてよろしい。けど、この考えは結構的を得た答えなんじゃないだろうか。もちろん引きこもりの私がやらかしたという可能性もゼロでは無いのだが、試す試さないの以前に成功する物なのかという疑問が浮かぶのだ。まぁ、そんな事考えたらウィズの魔道具という線も大分怪しい物なのだけれど。

 

「ってわけで早速聞いてみよっか。こんにちはー!」

「ああもう!アグレッシブなのは良いですけど先走らないでください」

 

 無駄にうじうじとしなくなったのは喜ばしいけれど、本当にこっちの準備というものを考えて欲しい。今ふと気づいたけど…ゆんゆんって社交的で明るくなったらアクアに似てるんじゃないか?どっちも持ってる力だけは優秀というのがまた類似している。

 

「あらあら、ゆんゆんさんにめぐみんさん。いらっしゃいませー」

 

 一年の時が経過していても、にこやかに出迎えてくれるウィズは以前のままだった。潰れる事無く店を経営し続けていた事もそうだけど、変わらずそこに居てくれる人とはこんなにも安心するものなのか。逆に言えば、ダストやゆんゆんが変わりすぎなのだけれど。

 

「お久しぶりです。突然ですみませんが過去に戻れる道具ってありますか?」

「ちょ!?」

 

 ゆんゆん!あなたは前置きという物を何処に忘れてきたのですか!?

 

「ん~…残念ながらそんな魔道具は聞いた事が無いですね」

 

 当然だ、ここでさっと出されても逆に困る。…いや本当は困る事は無いけど。ここでそれを買って使った私が犯人で決定なのだけれども。

 

「でもある意味、未来に行ける道具ならありますよ」

「あるんですか!?」

「やった!手がかりゲットだよめぐみん!」

 

 そんなものがなんでアクセルの魔法道具屋にポンと置かれているのかと。本当にウィズの店の仕入れ先が謎過ぎる。

 

「えーと…結構前に仕入れた物なんですが、売れなくて倉庫に入れっぱなしになってたはずですね」

 

 そう言いながらウィズは店の奥に入っていった。とりあえず戻って来るまで待つしか無いのだが。

 

「そういえば…バニルは居ないんですか?」

 

 居たら絶対に嫌味を言われるので会いたくは無いのだが。居なければ居ないでどうしているかが気になる。なにしろ過去においてウィズの店が潰れずに居たのは、バニルの功績が大きかったからだ。

 

「バニルさんなら念願のダンジョンを手に入れて、毎日冒険者の人をからかって楽しんでるよ」

 

 奥に引っ込んだウィズの代わりにゆんゆんが答えてくれた。ん~…そういえばゆんゆんはたまにバニルと絡んでいましたっけ?ギルド内でよく会う仲だとゆんゆんは言ってたけれど。ゆんゆんは単にぼっちをしていて、バニルは冒険者相手に商売をしていただけだった気もしますが。

 

「それはそれは…天職に就けたようでなによりです。ちなみにここで手伝いをしていたのも、そのダンジョン作成の資金集めでしたよね?たった一年でそこまで稼ぐ事が出来たのですか?」

 

 あやうく口から出かけた「ウィズの浪費癖に付き合いながら」という言葉を飲み込んで尋ねる。

 

「うん、バニルさんにもカズマさんからの手紙が届いていてね。『とんでもなく利益を生む魔道具のアイディアを渡すから、何かあったときめぐみんとダクネスさんを助けてやってくれ』って。バニルさんはそのアイディアを使ってダンジョン作成の資金を確保出来たみたい。『悪魔との契約は絶対である』って言ってたから、多分どこかで約束を守ってくれると思うよ」

 

 本当に…カズマは様々な人に私達を託して行ったんだ。そして託された人たちは、カズマの頼みだからこそ私達を助け続けて居たのだろう。

 

「…あれ?だとすればこの店の経営って大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ~」

 

 答えたのは、店の奥から時計の形をした魔道具を持って来たウィズだった。

 

「今でもたまに仕入れの失敗はしてしまってますけど、バニルさんのダンジョンに遊びに行くだけで結構な儲けになっていますので。収支としてはとんとんでやっていけてます。バニルさんからは行くたびに『またか…』なんて呆れられちゃってますけどね」

 

 恐らくバニルはダンジョンに人を呼ぶために多少の旨い餌を用意しているのだろう。そしてウィズはそんな旨い餌を遊び感覚でかっさらっていくと…バニルのウィズに対する苦労は相変わらずの様だ。

 

「ウィズさん、それが未来に行ける魔道具ですか?」

「行ける…とは少し違うんですけどね。実はこれ、バニルさんが『その時が来るまで絶対に手放すな』と言われていた魔道具でして」

「バニルが?じゃあ、もしかしてこの魔道具って…」

 

 ウィズの手にする時計の魔道具を見つめる。あのうさんくさい見通す悪魔は、私が今日ここに来るのを分かっていたのだろうか?

 

――――9――――

「めぐみーん、もっとつめてつめて」

「ええい!詰めなくてもスペースはあるでしょう!その無駄にでかい胸を押し付けないでください!」

「えー?無駄じゃないよ?ちょっと揺らしてあげるだけで大抵の男の人が優しくなってくれる魔法の道具だよ?」

「自分の体を道具扱いしないでください!父親が知ったら泣きますよ!」

 

 ウィズの店で魔道具の説明を聞いた後、私達は街で買い物を済ませて屋敷まで帰って来た。半ばゆんゆんが押し掛けた形で夕食やお風呂と一緒に過ごし、今はベッドの上でやたらとひっついてくるゆんゆんを押しのけていた。

 

「まったく…大丈夫ですから、そんなに気を遣ってくれなくていいんですよ」

 

 ゆんゆんがいつも以上にぐいぐいと来ている理由は分かっている。ウィズから聞いた魔道具の効果は、今の私にとって希望と絶望をごちゃまぜにしたようなものだったからだ。ゆんゆんはその効果を聞かされて呆然とする私を落ち込ませないように、ずっと傍に居てくれている。…もうすぐ夢だったら覚めてしまうのに。

 

「うそうそ。私がどれだけめぐみんの親友やってると思ってるのよ。めぐみんって本当に誰かが居ると無駄に強がっちゃうよね。一人で居ると、昔の私以上に落ち込んじゃうクセに。だからこういう時のめぐみんには誰かがひっついていてあげないと。もうすぐカズマさんに返しちゃうけど、今は私がその役目になってもいいでしょう?これでもちょっとカズマさんには嫉妬してたんだよ、めぐみんの隣は私のものだったのにーって」

「…別に、ゆんゆんとカズマは別じゃないですか」

 

 怒涛の勢いで図星を突かれたせいでつい口が緩む。うっかり本心を喋ってしまった事を後悔するが、このゆんゆんがそれを聞き逃すハズが無かった。

 

「んふふふー。めぐみん、ありがとう」

「~っ!?」

 

 間近で見るゆんゆんの笑顔にドキっとする。本当に…本当にもう!もうすぐお別れだというのに、なんで私の事ばっかり!いつもなら、私がゆんゆんの事を元気づけてあげている所なのに…。

 

「めーぐみん」

 

 甘くささやかれながらゆんゆんに抱きしめられる。その柔らかさと安心感に危うく眠りに落ちそうになった。私はまだ、このゆんゆんと話したい事が…。

 

「寝ちゃおうよ。起きればきっと、いつもの朝になってるよ」

 

 私はこんなに悩んでいるのに、ゆんゆんは能天気を装っているのか気楽に言ってくる。

 

「…ゆんゆんは怖く無いんですか?」

「怖くはないかなー。この世界が本当に魔道具の作り出した物だとしたら、ジタバタしてもどうしようもないし。もしそうじゃなかったら、またいつもの生活に戻るだけなんだから」

「………」

 

 ウィズから聞かされた魔道具の効果…それは「一年後の夢」を見れるというものだった。寝る前に魔力を込めて発動する事で、効果範囲の人の記憶を読み取ってリアルな夢を見れるのだという。さらに夢の中では五感があると錯覚する様になっていて、頬をつねるなどのよくある方法でも夢だと自覚する事は無い。そして一番重要な夢の中から脱出する方法…それは「一晩寝る」「死ぬ」「魔道具の効果を無効化する」の三つとなっていた。

 

「めぐみんは恐いの?」

「…怖いに決まってるじゃないですか」

 

 こんなの、怖くないはずが無い。だって…ここで寝た後に「目覚めても戻って無かったとしたら」。私はカズマもアクアも居ない…ダクネスも冒険者として一緒に居られない。そんな世界で生きて行かなければならなくなってしまう。そしてもしこれが夢なのだとしたら…今目の前にいる、私を元気づけてくれているゆんゆんは…。

 

「大丈夫。これはめぐみんが見ている悪い夢だよ。起きたらちゃんとカズマさんとアクアさんも居るし、ダクネスさんも一緒の屋敷に居てくれてる。ここのめぐみんみたく、ひとりぼっちじゃ…」

「そうじゃないでしょう!」

 

 思わず大声を上げてゆんゆんの腕を振りほどく。そしてきょとんとしたゆんゆんの顔を、私は涙を流しながら睨みつけた。

 

「確かにここは私の知っていた日常とは違い過ぎて!訳も分からないまま大事な仲間が居なくなっていて!もしこれが夢じゃ無かったらなんて考えたくも無いです!けど…ダストはまともになっていたり、ダクネスが懸命に頑張っていたり…ゆんゆんは…凄く前向きで明るく成長していて。例え夢なんだとしてもそれぞれの一年がちゃんとあって…それが全部無くなってしまうのも、凄く…悲しくて」

 

 落ちた涙がシーツに吸い込まれていく。この胸の苦しさも、目の熱さも…本当に錯覚なのか分からない。

 

「うん、それじゃあこうしよう」

 

 そう言いながら、ゆんゆんはまた私の頭を優しく抱きしめてくれた。

 

「もし元の世界に戻ったら私に夢の事を話してよ。昔の私はそんなの信じられない!私じゃない!なんて言うと思うけど、私がこうして居るって事はそうなる可能性があるって事でしょう?ウィズさんも夢の内容は確定した未来じゃない、あくまで可能性の一つに過ぎないって言っていたし。またこの私に会いたいのなら、過去の私と一緒に成長して会いに来て。あとはそうね…ダストさんにも教えてあげよっか?絶対ここのダストさんになった方が皆の為だし。…あ!でもリーンさんには内緒の方が良いかも、下手したらダストさん死んじゃうかもしれないからね」

 

 ゆんゆんの胸に顔をうずめながら、その言葉を胸に刻む。夢から覚めても絶対に覚えている様に。

 

「そして、万が一これが現実で…本当にめぐみんが一年後の世界に来てしまっていたとしたら」

 

 ゆんゆんは少しだけ腕を緩め、私の目をしっかりと見つめながら。

 

「その時は、私がずっと一緒に居てあげるよ。カズマさんやアクアさんの代わりにはなれないけど、同じくらい頼りになってあげるし騒いでもあげる。この世界がめぐみんにとって素晴らしいと思える様に、一緒に楽しくて騒がしい日常を過ごそうよ」

 

 その笑顔があまりにも眩しくて、私はまた顔を伏せる。頭には優しく撫でてくるゆんゆんの手。段々と意識が遠くなっていく。この世界で私が最後に記憶した事は…。

 

「おやすみ」

 

 どこまでも優しい、ゆんゆんの言葉だった。

 

――――10――――

「ん…うん~…」

 

 眩しい。

 

「んっ!?」

 

 薄く目を開けてみると、あまりの眩しさに目がくらんだ。とっさに掛け布団を引き上げて光から逃れてみる。どうやら窓のカーテンを閉め切れてなかったのだろう、隙間から差し込んだ太陽の光で目がチカチカする。

 

「はあ」

 

 でもおかげで目が覚めた。上半身を起こしてからぐぐっと体を伸ばしてみる。

 

「ん~~~…ん?」

 

 目のチカチカが治って視界がクリアになった瞬間、昨日の記憶が一気に戻って来た。

 

「ゆんゆん!?」

 

 布団をめくってベッドの上を見ても誰も居ない。頬をつねってみるとしっかりと痛い。これは…現実?やっぱりあれは、魔道具が見せた夢?

 

「カズマは!?」

 

 私はすぐさま部屋を出てカズマの部屋へと走る。廊下に埃は…積もってない。灯りもちゃんと点いている。

 

「カズマ!」

 

 ドア勢いよく叩くが返事が無い。一瞬もしかしてという考えが頭をよぎったけれど。

 

「そうだ!キッチンだ!」

 

 昨日の出来事があまりに濃すぎて忘れていた。今日はカズマが食事当番だったはずだ。方向転換して今度はキッチンに向かう。キッチンへ向かうにはリビングを通っていくのが近い、この時間ならば朝の訓練終わりのダクネスが寛いでいるハズだ。

 

「おはようございます!」

「うわぁ!?」

 

 リビングの扉を挨拶をしながら勢いよく開けると、ソファーに座っていたダクネスが驚きの声を上げた。

 

「ど、どうしためぐみん?朝からそんな大声を出して…なんか廊下も走って無かったか?ここまで音が聞こえてきていたぞ」

 

 ダクネスだ。ちゃんと私の知っているダクネスが居た。

 

「…めぐみん?」

 

 肩で息をしながら、じっとダクネスを見つめる。ダクネスは私の様子をおかしく思ったのか、立ち上がって私の所へ小走りで寄ってくる。

 

「一体何が…って!?」

「ダクネス!」

 

 手が届くところまで近づいてきた所で、私はダクネスに抱きついた。変だと思われようと、どうしても我慢が出来なかった。あの夢の中での一日は、私にとってかなり大きなダメージを負わせていたみたいだ。抱きついたダクネスの体の逞しさが、そんな私に安心感を与えてくれている。

 

「おーい、何騒いでんだ?」

 

 その声に反応して私はそちらを見る。

 

「いや、見ての通りとしか…」

「めぐみん?朝っぱらから何してんだ?というかさっき俺の事呼んでなかったか?」

 

 キッチンから顔を出したその顔を見て、私はカズマに向けて走り出した。

 

「カズマ!」

 

 そしてエプロン姿のカズマにダクネスの時よりも勢いよく抱きつく。

 

「ぐえぇ!?」

「めぐみん!?」

 

 頭の上から変な声が聞こえたけど気にしない。今はとにかく、カズマがここに居る事が嬉しくてたまらない。

 

「カズマぁ~」

「め、めぐみん…痛いんだけど」

「だ、大丈夫か二人共!」

 

 勢いが良すぎて床に倒れ込んだまま、私はカズマの胸に顔をうずめる。良かった…あれが夢で、本当に良かった――――。

 

――――ようやく心が落ち着いてきた。今はリビングのソファーに三人で座り、これから事情を話そうということろだ。カズマとダクネスが並んで、私はその対面に座るという配置である。

 

「すみませんでした。ちょっと気が気で無かったと言いますか…感情が抑えきれなくて」

「私は大丈夫だ」

「…俺も一応な、とりあえずどういう訳だか教えてくれ」

 

 ダクネスはさておき、カズマは自分の胸の辺りをまださすっている。ちょっと抱きつく勢いが強すぎたみたいで申し訳ない。けどあんな悪夢の後だったのだから許してほしい、私にとってカズマの存在は本当に大切なものなのだから。

 

「えーと…どう話せばいいんでしょうか?んー…そうだ!昨日二人は変な夢を見ませんでしたか?」

「夢?あー…見たな、うん」

「わ、私は夢なんて見てないぞ!」

 

 あからさまに嘘をついているダクネスは置いておいて、やはり二人も魔道具の影響を受けていたようだ。

 

「まるで現実のような、一年後の夢だったでしょう?実は私も一年後の夢を見ていまして」

 

 私の言葉に徐々に二人の顔が変わっていく。カズマは怪訝そうに、ダクネスは顔を真っ赤にしている。これは…後で夢の内容を聞き出しておく必要がありそうですね。

 

「それはとある魔道具のせいなんです。そしてそんな魔道具で私達に変な夢を見させたのは…」

「かじゅまさまー!」

 

 先ほどの私以上の勢いで開けられたドアと共に、アクアが泣き顔でリビングへ転がり込んできた。

 

「おねがいします~!見捨てないでください~!」

「うお!?なんだってんだよ!?」

 

 アクアは勢いそのままにカズマの足にしがみつく。どうやら私同様、嫌な未来の夢を見てしまったのだろう。こんな事でも、アクアの運の無さというのは遺憾なく発揮されるようだ。

 

「アクア。安心してください、昨日の事は夢ですよ。カズマや私達がアクアを見捨てるなんて、そんな事する訳無いじゃないですか」

「…ほんとう?めぐみん?」

 

 カズマの足にしがみついたまま、アクアは私を見上げている。私はアクアと目線を合わせながら。

 

「そう、昨日アクアがウィズの所から持って来た『一年後の夢をリアルに体験出来る魔道具」』が見せた悪い夢です。かくいう私もとんでもない悪夢を見せられてしまいまして、ちょうどその事を二人に教えてあげる所だったのです」

「…なっ!?」

「…ほほぅ?」

 

 ダクネスは動揺を、カズマは納得がいったかのようなリアクションを取った。この冷静さ…カズマは一体どんな夢を見ていたのだろう?これも後でしっかりと聞いておきたい。カズマの見た未来で、私達はどうなっていたのだろうか。

 

「…えーっと、皆も見てたの?」

「はい。あの魔道具、効果範囲の人の記憶を読み取って未来を予測するそうなんです。だからもし対象が一人だった場合、その夢には自分一人しか出て来ないという仕組みになっています。夢の中に私達は出てきましたか?私は設定が設定だけに出ては来ませんでしたけど…魔道具のせいで一年後の夢は『無理矢理』見させられましたよ?」

 

 あえて「無理矢理」という所を強調して説明してあげた。アクアの適当に使った魔道具のせいで本当にひどい目にあったのだ、しっかり反省をして貰わないと流石に腹の虫が治まらない。

 

「そ、そうだったのか…だからあんな…。いや!気付いていたぞ!妙にリアルだが夢だとはな!」

「ダクネスは大分幸せな夢を見ていたようですね、後で聞き出しますから覚悟して置いてください」

「ままま待て!夢は夢なんだろう!?私がどんな夢を見たっていいではないか!」

「記憶を読み取った人数が多ければ多い程、違和感の無い夢になるそうですよ?けれどあくまで数ある可能性の一つという事であって、その未来に確定する訳では無いですが」

「…え?じゃああの未来が本当になる可能性も有るって事なの?」

 

 私の説明を聞いて、またアクアが絶望したような顔になる。本当に…自分が持ち込んだ厄介事で自分の首を絞めるのがなんでこんなに上手いのか。

 

「大丈夫です、私もあんな未来はまっぴら御免ですから。今からきちんと対策をしておけば、絶対に回避できるはずなんです」

 

 そう、私がやるべきことはただ一つ。カズマと恋人になって、あわよくば子供を作って、絶対に私から離れられないようにする事だ。カズマを何とかしてしまえば、当然アクアも何処かへ行ってしまう事は無い。魔王なんか放っておけばダクネスだって冒険者を続けられる。これで私の素晴らしい未来は作られていくのに間違いは無い。

 

「そうよね!頑張れば…あんなひどい未来変えられるわよね!」

「そうですよ!ただ…」

 

 私はアクアの肩をぎゅっと握りながら。

 

「これからアクアにお仕置きをする未来は変えられませんけどね」

「…めぐみん、怒ってる?」

 

 震えながら言ってくるアクアに、私は「ニコッ」という笑顔を返してあげた。

 

「やー!ごめんなさいー!」

「待ちなさい!本当に!本当にきつかったんですからね!私の見た夢は!」

 

 ドタバタとリビングの中でアクアと追いかけっこをする。そんな中、カズマがまったく喋って無い事に気付いて様子を見てみると。何故かとんでもなく真剣な顔をして、ぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「カズマ?」

 

 その雰囲気に、アクアを追うのを止めて声を掛ける。

 

「なぁ、めぐみん。さっきの魔道具の説明なんだけど…効果範囲に入った人は、夢に出てくるだけじゃなくて夢も見ちまうんだよな?」

「えぇと…はい。私は夢の中でウィズに説明を聞きまして、実際の魔道具の効果もちゃんと合っていると思いますよ?」

 

 私の答えを聞いて、カズマの顔は一層真剣に…というか青ざめていく。

 

「俺が見た夢ってさ…アクセルの街の住民がかなり出てきてたんだよ。って事は…あの現実と見分けがつかないような夢をアクセルの街に住んでるほぼ全員が…」

「「「あ!」」」

 

 私達の声が重なる。そんなに違和感の無い夢を見た人は良いだろう。けど、私やアクアみたいな悪夢を見た人が居たとしたら…。

 

「まずい!多分街は大混乱になっているぞ!」

「どうする!?アクアを犯人だって突き出すか!?」

「待って!これは夢よ!確か寝れば元の世界に戻れるはず!私は寝てくるから後は宜しく!」

「アクア、死んでも目が覚めるって私は聞いてますよ。ちょっと一緒にエクスプロージョンを撃つのに付き合って貰えますか?」

「やー!それ永眠しちゃうじゃない!」

「とりあえず街へ急ぐぞ!」

「ちくしょう!やっぱり昨日の夜の時点でアクアを止めときゃよかった!」

 

 ドタバタとしながら、私達は街へ向かう準備を整える。ある意味私が見た夢よりも酷い事になりそうだけど…不思議とあの時のような絶望感は感じない。それはきっと四人揃っているからで、私達が全員居ればどんな事があってもなんとかなりそうな気がするからだ。

 

 服良し。杖良し。眼帯良し。さぁ…騒がしくも楽しい、素晴らしい日常を始めよう。



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