僕が彼、木村龍と出会ったのは高校生だった時の事だ。
当時の僕はこれと言って高校生活に楽しさを見出せず、クラスに馴染めないまま昼休みを自分の席で過ごすことが多かった。
今日もいつもの様に昼休みを過ごしていると
「う、うわあぁぁぁ!!!」
という叫び声と共に僕の体に硬い何かがぶつかる感覚と共に視界が傾き、頭への衝撃によって僕は気を失った。
ーーー
「ん...うーん....ここは」
目が覚めたら見知らぬ天井だった。
いや、知らない天井ではないな。
僕が嫌いな体育の授業の時に頻繁にくる保健室の見慣れている天井だ。
どうやら僕は気を失った後、保健室のベッドに運ばれたようだ。
「いてっ」
起き上がろうとすると頭にズキンという感覚が響く、かなりの重症だ。
とりあえず保健室の先生はいないか、探そうと身体を動かした瞬間...
「んー、ふわぁ〜....」
俺の右足にずっと乗っかっていたモノが動き出した。
「あっ、よかったぁ〜!!!やっと目が覚めてくれたよ〜。このまま覚めなかったらどうしようかと」
僕の右足にずっと乗っかっていたのはクラスメイトの、たしか...木村龍という奴だ。
いつも明るくクラスを盛り上げていて、運動もできる。正直、僕と真反対のタイプなのでできれば関わりたくない存在だ。
「ごめんなぁ、俺が教室のドアの溝に引っかかって転んじゃってお前にぶつかっちまった」
教室のドアから?僕の席は窓側の1番端っこだぞ?どれだけの間、空中を飛んでいたんだ...
「もう、動いてもいいのか?どこか痛いところはないか?」
「あっ、あぁ、もう、大丈夫、だよ」
「ほんとか!?なら、よかったぁ〜」
本当は物凄く頭が痛い
「死んじゃうかと思ったよ〜、よかったぁ〜」
と言いながら木村龍は俺の肩を持って揺らす
やめてくれ、頭に響く
「俺の不運体質のせいでごめんなぁ〜!!」
おい、揺れが激しくなってないか?ますます頭が痛い
「本当に無事でよかったぁ〜〜!!!」
頼むからもう辞めてくれ、吐きそうだ。
「あ、あのっ、龍くんそろそろ、それ、辞めてくれると、嬉しいんだけど...」
「あっ、ごめんごめん」
と言って彼は肩からスっと手を離す
そうしてまた俺は肩揺れの反動によって、為す術もなくベッドに吸い寄せられるかのように頭を落とした。
そこから視界が暗くなっていき、最後に見えたのは彼の泣きそうな顔だった。
ーーー
「……くん!……くーん!」
誰かの声がする。誰だろう?聞いたことがあるような気がするが思い出せない。
「あっ、×××くんやっと起きましたね」
目を覚ますと保健室の先生がいた。
「もう、ダメですよ龍くん。頭を怪我した人を揺らすなんて」
「はい、すみません」
彼は落ち込んだ様子で反応する。
「まったく...。×××くんどうですか?まだ頭とか痛かったりします?」
「あっ、はい、もう大丈夫みたいです」
「そうですか、それならよかったです。念の為に明日は病院に行ってくださいね」
「はい...。」
「ということで、龍くん!」
「はい!!!」
身体が跳ねるように彼は顔をあげて返事をした。
「もう辺りはすっかり暗いですし、責任をもって彼を家まで送り届けてくださいね」
「はい!!分かりました!!!」
「よろしい、×××くんの荷物はそこにあるからね」
「はい、ありがとうございます。」
保健室の先生の指示で彼と一緒に帰ることになった。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
と言って2人は学校を出た。
ーーー
帰り道の途中まで特に会話はなかった。
彼が僕の前を歩いており、その背中がなんだかとても寂しげだった。
「なぁ」
「ん?」
急に彼が僕に話しかけてきた。
「さっきはごめんな」
「えっ」
「いや、ほら、頭、打った時だよ。俺がぶつかっちゃって」
「あー、あれの事か。別にぼーっとしてた俺も悪いし、そんな気にすることじゃないよ」
「そ、うかな...。」
「うん」
ぼーっとしてなくてもアレを避けるのは不可能だとは思うが、普段の彼からは想像出来ない程に落ち込んでいたから、つい慰めの言葉を言ってしまった
「優しいんだな」
「いや、普通だと思うけど」
「いや、でも、やっぱり優しいと思うぜ」
「……ありがと」
「おう」
それから沈黙の時間が続く。
しかし、居心地の悪い感じではなくむしろ少し楽しい時間だった。
それから程なくして、自分の家に着いた。
「家、ここだから」
「そっか、それじゃあまたな」
「うん、また」
ーーー
翌日、僕は病院に行き脳に異常が無いことを診てもらった。
午後からまたいつも通りの生活だ。
それから、彼と僕の関係は進展することはなくそのまま卒業を迎えた。
ーーー
あれから2年後のある日、朝なんとなくテレビを点けると
『どんな不運も笑顔で打ち勝つ!木村龍... 』
テレビから聞いたことのある声と名前が聞こえてきた
『ありがとうございます!改めて.......みんな、よろしくな!』
クラスメイトだった彼がテレビに映っていた。
まさか、彼がテレビに映るような人間になるとは想像してもいなかった。
「サイン、貰っとけばよかったかなぁ...なんてな」
どうやら彼は今、アイドルとして活動しているらしい。
ーーー
『それでは歌って頂きましょう。』
『今月の主題歌、FRAMEのみなさんで「Plus 1 Good Day!」です!』
テレビから流れてきた彼の歌はどんな人でも前向きにさせてくれる気がした。
今日からは明るい気持ちで出社できそうだ。
「それじゃ、行ってきます」