魔法科高校のしばたつや 作:司馬達也
司波達也という名前は、特別な名前であり「特別ではない名前」だ。
前者は四葉の分家として、四葉の隠し名として。
後者は司波達也のプロフィールにある「何の変哲もない普通の高校生」というカバーとして。
四葉が情報改竄した以上、正規のルートで司波達也の正体を知ることはたとえ同じ十師族だろうとできはしない。
司波達也を知る者は四葉や独立魔装大隊、FLTの関係者か、個人的な知人、在席していた学校の関係者くらいだろう。
それらを除けば『司波達也』という名前に何ら付随する記号は無く、余人にその名を知る者はない。
「しば、たつやさん……ですか?」
いないはずだ。
ならばなぜ、柴田美月は司波達也を知っている?
国立魔法科第一高校の入学式。
その新入生総代としてスピーチする妹の声を聞きながら、達也の意識は隣に座る女子たちに向いていた。
千葉エリカと柴田美月。
千葉家はともかく、柴田の家名は達也の記憶にない、おそらく一般家庭の出だろう。
空いていた達也の隣に座っただけの彼女たちとの出会いは互いに予定外で、完全に偶然だったはずだ。
にもかかわらず、柴田美月の反応は芳しくないものだった。
「俺の名前に、聞き覚えが?」
「! あっ、その……名字と名前の頭文字が」
「語呂合わせみたいね! 千葉、司波、柴田って!」
一時怪しい空気になったものの、カラカラと笑う千葉エリカがその場の不穏な雰囲気を払拭したことで話はお流れになり、入学式の開始によって打ち切られた。
それにしても、入学早々厄介なことになった。
視線を向けないように柴田美月を観察しつつ、達也は内心そう嘆息する。
名字が似ているにしては、意味深すぎる反応だった。
本人は誤魔化したつもりだろうし、同席するエリカの手前深くは突っ込めないが。
しかし、怪しいと言わざるを得ない。
深雪のスピーチに聞き入っている様子の美月は、しかしおかしな素振りもなく、やはり一般人にしか見えない。
柴田の家名もそうだ。いくら記憶を掘り起こしても、ヒットするものはない。
まさか、達也の知らない四葉の分家や四の数字落ちということもないだろう。
入学式の前に会った七草真由美のように、入試成績優秀を知っているのは何かしらの立場があるか、一部の伝手を持つ名家の出くらいのはず。
そのどちらでもないとすれば、いよいよ理由が不明だ。
そして不明とは、深雪を害する可能性がある、ということだ。
どうやら魔法科高校での生活は、妹と気楽な二人暮らしとはいかないらしい。
深雪も四葉の外での新たな門出を喜んでいた。平穏な学生生活が待っていると思った矢先にこれだ。
達也にはどんなことがあろうとも深雪を守るという使命がある。
そのためには、あらゆる可能性を考慮しなくてはならないし、高校生活における日々の防諜も考え直さなければならなくなった。
既に達也と深雪の日常に影が差している以上、どんなに念を入れてもし過ぎるということは無いだろう。
この時、一連の疑惑と思索の果に、達也には予測不能な事態が待っているとは『精霊の目』を以ってしても見抜くことはできなかった。
そして出会うのは柴田美月の妹を名乗る一人の少女。
原作には存在しない危険分子。
司波達也の名を聞き、俯き震え、ヤケクソ気味に名乗った君の名は。
「私の名前は、
柴田 艶夜
です!」
すんっ……と真顔になった達也は、身構えてもしょうがないことってあるんだなと、またひとつ世界の理不尽さを知り大人になった。
なお、入学初日から味わったきな臭い雰囲気と喜劇の落差に、千葉エリカは腹を抱えて転げ回った。
柴田 艶夜(しばた つや)
艶めいた夜、という名前とは真逆のつるぺたボディを持った転生者。
視力が悪く、とある理由からレーシック手術を受けずに美月とお揃いの眼鏡を掛けている。
前世はオタクだったが、ラノベは読んでもなろう系を読まない自称硬派なオタク(笑)だったので、劣等生原作を知らない。
アニメ化したことも劇場版ももちろん知らない。
こいつ何の為に転生オリ主やってんの?
それもこれも地方にアニメイトも映画館も無いのが悪いんや。
深「お兄様、早速クラスメイトと……(チラッ」
エ「www(うずくまって地面を叩く)」
深「……漫才でもしていたんですか?」
達「違う、そうじゃない」