魔法科高校のしばたつや   作:司馬達也

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 ようやく転生者の転生者である所以を書ける……

 よく考えたら前の話と前後編みたいになってるので早めに続きを投下したほうがよかったかな?


入学編②

 さて。

 

 

 大変遅ればせながら、柴田艶夜しばたつやは転生者である。

 

 

 前世の職業は何の変哲もないサラリーマン。

 休日返上サービス出勤上等の残業代未払い常習犯企業に務めていたが、ある意味何の変哲もない仕事だと言って差し支えないだろう。

 

 

 それが日本だ、諦めろ。

 

 

 そんな彼女(元は彼だが)も、第2の生と知った時は驚き、そして喜んだものだ。

 何せ前世での趣味だったゲームは、就職してからというもの消化することもままならず積み上がり、噂の新作を買う気力も沸かずスルーするような日々。

 

 

 そんな人生の果て、やたらゴツいアメ車にプチッと潰されるという末路の先に、降って湧いた来世である。

 歓喜した。自由が効く学生のうちにあらゆる未消化ゲームを買い漁り、そこそこ潰しが効く資格でも取って優雅に生活してやると決意した。

 

 

 ただし。

 

 

 

「は?

 2085年??

 西暦で???」

 

 

 

 産まれたのが遥か先の未来でなければ。

 

 

 補足すると、柴田艶夜が産まれたのは2080年である。

 柴田艶夜が親の端末をひとりで貸してもらい、正確な時間軸と情報源にアクセスできるようになるまで、前世の没年から軽く半世紀が経過していた。

 

 

 これはいただけない。

 何せ、ゲームソフトとその筐体は、発売してから半世紀もすれば完全に高価なビンテージ品になってしまい、子供のお小遣いでは手が届かなくなってしまう。

 

 

 例えば初代ファミリーコンピュータが1983年発売、

 ニンテンドー64が1996年発売、

 

 

 そして未開封のスーパーマリオ64がオークションに掛けられ、約1億7千万円で落札されたのが2021年の出来事だ。

 

 

 半世紀どころか、四半世紀前のゲームソフトがいかに貴重なものかわかるだろう。

 これで最低限プレイ可能な実機となると、一体いくらすることか。

 

 

 

「……いや、ダウンロード販売の拡大とアーカイブが残っていれば!」

 

 

 

 そう気を取り直して調べたところ、ゲームの制作、販売企業は大惨事世界大戦前後に軒並み消滅。

 当然の如く市場が壊滅したため、権利保護も働かず、違法なコピーが収録されたエミュレータが主流ゲーム機になる始末。

 

 

 またか○国。

 お前ら一度日本人に滅ぼされたのによくやるな。

 

 

 いや、アメリカでさえディズニー利権を守るための著作権保護期間延長を諦めたのだから、海賊版がのさばるのも仕方ないのか。

 

 

 などと斜め上から目線で歴史を見て、ついでに四葉家というイカれた集団にちょっとした敬意を表しつつ。

 

 

 ざっと通販サイトで調べた限りでは、エミュレータの購入そのものはさほど難しくはないらしい。

 が、それは過去作を掘り返すだけの、既に積み上げられた知的財産を再消費するだけの生産性のない活動に過ぎない。

 

 

 創作の世界には、いつだって新しいものが生まれるべきだ。

 

 ジャンルを盛り上げるには消費者だけではなく、市場と、製作者と、三者を結びつけるプラットフォームが必要だ。

 

 当然、そのためには組織と金と時間が要る。

 

 

 前世の大学でかじった経済学とヲタ知識、そして会社でOJTという名の実践で学んだなんちゃってマーケティングを用い、脳みその出来でいえば飛び抜けて優秀な奴の1歩後をゆく頭脳で導き出した結論は、以下の通りだ。

 

 

 

「よし、身売りしよう」

 

 

 

 悲しいかな。

 柴田艶夜は頭の出来に比例するかのごとく、頭の軽い人間だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「はぁ……、やっと終わったわ。疲れたー」

 

 

 

 とある集会場のレストルーム。

 裏口近くのそこで残業上がりのOLのようにベンチへ背中を投げ出したのは、まだ中学生にもならない少女だった。

 

 

 小学生にもかかわらず、子供、と呼べないのは、その生まれのためか育ちのためか。

 既に魅惑の鱗片を宿している七草真由美の表情は、しかし徒労感に彩られ精彩さを欠いていた。

 

 

 探知魔法師の交流会。

 父に丸投げされた結果、七草家の代表として振る舞わざるを得なくなった集まり。

 

 

 七草の娘としては、同年代以下の子供たちの相手など大した苦労でもない。

 だが、この会そのものが企画倒れなのでは徒労感を隠しようもなかった。

 

 

 真由美も当初は父の勝手さが癪に触り、七草家のお抱えではなく個人的なコネにしてやろうと意気込んだはいいものの。

 そもそも七草やその他ナンバーズとの関係を持たない家系の魔法師で、かつ特殊な探知魔法を持つ魔法師がどれほどいるかという話で。

 

 

 そんな在野の天才が、居たとしてもフリーのまま転がっていることはあり得ない。ましてや広く浅く開催を広めただけの集まりに来るはずもない。

 むしろ、火に集る虫のように真由美と七草家に近づきたいために参加するような手合いばかりという体たらくだった。

 

 

 唯一の例外は、

 

 

 

「―――おじゃましまーす」

 

 

「!?」

 

 

 

 と、真由美の不意を突くようにレストルームにやってきた少女、柴田艶夜のみ。

 

 

 慌てて姿勢を正す真由美を尻目に、突如として現れた艶夜は鼻歌交じりに自販機のジュースを買うと、闖入者の登場に慌てて身なりを整える真由美に差し出した。

 

 

 

「どーぞ」

 

 

「えっ?」

 

 

「疲れてるみたいだから」

 

 

「……そう、ありがとう。頂くわ」

 

 

 

 スポーツドリンクとアップルジュース。

 ほんの2つとはいえ、年上のお姉さんとして振る舞わねばならない真由美はスポーツドリンクを取るべきだろう。

 

 

 そう思い、アップルジュースを選んだ。

 

 

(まさか、買ったばかりのジュースで毒殺なんてできないでしょうけど)

 

 

 しかし立場ゆえ、こうしたふたりきりの場では警戒せざるを得ないのだ。

 そんな真由美の心中を見透かしたように、柴田艶夜はスポーツドリンクをボトル半分ほど一気にあおる。

 

 

(……いえ、この子の魔法なら本当に見透かせるのよね)

 

 

 真由美はアップルジュースの甘みが交流会での立ち回りで疲れた脳に染み渡るのを感じながら、休む間もなく頭の回転を上げる。

 

 

 本来なら固有魔法の類いなど極秘の個人情報だが、真由美は参加者の探知魔法について既に把握していた。

 何せ、彼らが魔法について説明を受け、個別に時間を取って相談した先輩の探知魔法師と経験のあるベテラン弁護士は、いずれも七草の息のかかった者たちだ。

 

 

 もちろん、その情報は七草に吸い上げられる。

 真由美が知っていても、何の不思議もないことだ。

 

 

 知っている、その事実さえバレなければ。

 

 

(いけない!

 私がこの子を疑っているのが察知されれば、それだけで警戒されてしまう)

 

 

 そう思い、真由美は慌てて視線を切った。

 

 

 魔法師にとって「見る」という行為は、それだけで深い意味を持つ。

 探知魔法を受けた魔法師が「見られている」と察知することもそうだが、それ以上に重要なのは、魔法行使にかかわる「心理的距離」だ。

 

 

 魔法を行使する対象が視界外へ出ると、たとえ座標位置を把握していても魔法の発動ができなくなるのは、魔法師の心理的距離に問題があるとされている。

 

 

 つまり、視認している状況では、対象へ魔法師の心理的な働きが向けられる――――感情が向けられる、ということになる。

 柴田艶夜の探知魔法とは、この視線に乗った感情を探知する魔法だ。

 

 

(たしかに厄介な相手だけど、手の内を知ってしまえば対処の仕様はある。

 顔を合わせている間は余計なことを考えず、こちらのペースで、こちらも素直に相手に向き合ってしまえばいい。

 だったら話術でどうとでもなる範囲よ。七草の長女としてこれくらいできないと話にならないわ)

 

 

 脳内で話の流れを組み立てる真由美だが、この時視界の外でほくそ笑む艶夜に気づくことはなかった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あーもう、どうしてこうなるのよ」

 

 

 

 七草真由美は疲れ切った全身をベッドへ投げ出した。

 

 

 思い出されるのは父の部屋で交わした会話。

 いや、叱責だった。

 

 

 勧誘した相手が、思ったより話に乗り気だったのはいい。

 何故か触りの話題として考えていた魔法の話や年頃の女の子同士の会話デッキを蹴り飛ばし、七草のお抱え魔法師のことや労働環境なんてコアな話題を選んできたが、労基法に則った答えを出せばいいだけだ。

 

 

 例えば、

 

 

Q:御社では社員に有給取得を認めていますか?

 

A:はい。当社では有給休暇取得の理由を問わず、有給取得と消化を認めています。

 

 

Q:私の能力で入社後やっていけるかどうか不安です。入社後の社員研修などは実施されるのでしょうか?

 

A:新入社員の方にはまず社員研修と適性検査を受けてもらい、本人の配属希望を考慮したうえで配属が決定されます。

 

 

Q:入社後の勤務シフトはどうやって決めているのですか?

 

A:当社ではフレックスタイム制を採用しており――――

 

 

 

 等々。

 

 

 実際のところ「お姉ちゃんの誕生日にはお祝いをしたいので休んでもいいですか?」「わたしもっと魔法の勉強がしたいです」「学校の無い日や放課後だけでもいいんですか?」などといった質問だったが、なまじ知識のある真由美はスラスラと答えられた。

 

 

 答えてしまった。

 

 

 面識を作り、誘いをかけるための下準備程度のつもりだった接触が、この時点でほとんど労働内容の交渉と化していた。

 そのことに気づいたのは、父への報告のために話の整理をしている最中のこと。

 

 

 結果、子供のお手伝いレベルの仕事内容に、労働基準局もビックリの福利厚生フルコースを約束してしまったのである。

 

 

 何せ相手は子供だ。

 改めての話の場で約束を違えれば「今回のお話は無かったことに」と逃げられるし、後から約束を破れば「七草家が騙して囲い込んだ子供を〜」などという騒ぎになる。

 

 

 実は前世で精神と人格をすり潰すが如きブラック労働に晒された艶夜が、今世では特技を活かしてまともな労働環境を勝ち取ろうと画策した結果だが、何も知らない真由美にとっては己の脇の甘さを痛感させられる出来事でしかなかった。

 

 

 だが。

 

 

 

「こうなったら、私が籠絡して七草家に自分から仕えたいと思わせてやるわ!」

 

 

 

 ふんす、と気合を入れ直す。

 

 

 丸投げした上に説教たれてくれた狸親父からは、要求にあった魔法訓練について、真由美の魔法訓練の時間を割いて艶夜に教えるよう指示された。

 

 

 時間はたっぷりある。その間にモノにすればいい。

 あの狸親父に自分の失態を奇貨にされているようで癪だが、ここで挽回しなければ長女の名が廃る。

 

 

 

「見てなさい、七草家長女の人心掌握能力をみせてやるんだから!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

(どうしてこうなったのかしら)

 

 

 

 ダメだった。

 

 

 真由美はいま教師役の名倉と共に、当主である弘一の厳しい視線に晒されていた。

 その視線には失敗に対する叱責の念が込められていることは、艶夜のような探知魔法を持たずとも疑いようがない。

 

 

 いや、魔法の指導は成功した。

 親睦を深めることもできたので「やっぱりこの話は」とはならないだろう。

 

 

 むしろ、予想外に柴田艶夜の理解力が高かったことで、幼少から魔法教育を受けている妹達を、高度な魔法理論や応用の分野で突き放しているほどだ。

 指導そのものは成功といっていい。

 

 

『ははー、つまり魔法って世界の法則を書き換えるんじゃなくて、指定のオブジェクトのステータスを示す値を書き換えるんですねー』

 

『エイドスの反動? 辻褄合わせ?

 つまり見かけ上正常に運動してるように見せかけて世界を欺けばいいってことかー。

 エル・プサイ・コングルゥ』

 

『える?』

『ぷさい?』

『こんがりぃ?』

 

 

 時々よくわからないスラングが飛び出して姉妹揃って首を傾げることを除けば、魔法指導は順調だった。

 順調過ぎた、とも言える。

 

 

 事件はある時、つかの間の休憩中、艶夜が興味本位から名倉へ高度な魔法理論の質問をしている際に起きた。

 

 

『分解魔法っていうのがあるんですか?』

 

『へー、じゃあ探知魔法で遠距離から物質をエネルギーに分解すれば、遠隔核地雷とかできるじゃないですか』

 

『『『『!?!?』』』』

 

 

 柴田艶夜は転生者である。

 21世紀序盤に生まれ育ち、脱原発を叫ぶ団体を見るたびに「まーた核アレルギーかー」とか「はやく原発再稼働しろよ」くらいの感想しか持たなかった。

 

 

 対して、2090年現在。

 第三次世界大戦を経たこの時代を生きる人間にとって、核兵器とは20世紀終盤並みに禁忌だった。

 

 

 まして、魔法師の存在意義の根底にある価値は、核兵器に対する抑止であり核戦争の阻止。

 その魔法師が核兵器と化すことは、あまりにもデンジャラス。

 

 

 そうしたら私も戦略級魔法師ですねー、などとへらへら笑うチビメガネと、衝撃を受けた現代人未来人たちの間に隔たるジェネレーションギャップは如何ともし難かった。

 

 

 

「……由々しき事態だ」

 

 

 

 それは七草家当主、弘一も変わらない。

 七草に仕える魔法師が、歩く核兵器になることは受け入れ難かった。

 

 

 既に幾度となく七草の敷居を跨いだ以上、放逐はむしろ柴田艶夜が何かやらかした時のことを考えると逆効果でしかないだろう。

 

 

 積極的に制御すべきだ。

 しかし飼い殺しにするには固有魔法が惜しい。

 

 

 ではとうすべきか……サングラスの奥で熟考した弘一は、

 

 

 

「真由美」

 

 

「はい、お父様」

 

 

「これからお前が接する時間を増やすようスケジュールを調整する。

 よく手綱を握るように。

 歳も近いのだから、仲良くしなさい」

 

 

「……………………、はい」

 

 

 

 丸投げしやがったこの狸親父。

 

 

 内心でそう盛大に舌打ちしつつ、押し付けられた問題児をどうしようかと途方に暮れる真由美であった。

 

 

 

 




七「将来使える人材確保したいな……、せや! 長女が探知魔法持ってるし、ダシにして人材囲い込んだろ!」

艶「七草で勉強して将来立派な核兵器になります!」

七「やっべこいつ監視すとこ」


 つまりこういうことですね。


 このあと艶夜ちゃんは何故かしつこいくらい道徳を解かれたり、七草姉妹とお出かけして動物園のふれあいスペースで猫まみれにされて生命の温もりを味わったりしますが、

「いや遺伝子組み換え人間で交配実験までして品種改良してる魔法師に道徳を説かれてもなぁ」

 くらいにしか思ってません。
 でもあまりにしつこいので最終的に艶夜ちゃんが折れました。
 国民感情には配慮します、くらいですが。



 にしても、どうして大人って歳が近い子供同士なら仲良くなれると思ってるんですかね?(すっとぼけ)





 それと、艶夜の探知魔法は今回出てきた内容と異なります。

 これから交渉する相手に手の内を明かすわけがないんだよなぁ。

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