魔法科高校のしばたつや   作:司馬達也

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 入学編を書き上げたと言いながら投稿中に書くつもりで一文字も書いてなかったのをなんとか書いたので初投稿です。


 次で入学編最終回、あとおまけを書いて終わります。
 もう少しだけお付き合いください。




入学編⑤

 有志同盟が決起した翌日、達也と深雪は、いつもより早めに家を出た。

 早めに登校する為ではなく、駅で待つ相手がいるためだ。

 

 

 

「おーい、達也くーん、深雪ー!」

 

 

「?」

 

 

 

 あいにく待ち人ではないが、どうやら艶夜に見つかったらしい。

 ……完全に姿が人混みに埋もれ、深雪はそのちんまりした姿を見つけることができていないが。

 

 

 代わりに待ち人である真由美が先に現れ、その背中に張り付くようにして艶夜が現れた。

 

 

 

「達也くん、深雪さんも、おはよう。

 どうしたの? こんなに早くから」

 

 

「会長、おはようございます」

 

 

「お疲れさまです」

 

 

 

 朝からお疲れも何もないだろうが、深雪がそう口にしたということは、幼児の引率に見えたのは達也だけではなかったということだろう。

 

 

 

「いま、何かすごく失礼なことを考えなかった?」

 

 

 

「気のせいだ」

「気のせいよ」

 

 

「ほらやっぱり!」

 

 

 

 声が揃ってしまったのが動かぬ証拠となった。

 大きなブック型端末を胸に抱え、艶夜は憤慨する。

 

 

 その膨らんだ頬を真由美がつつくせいで余計に親子連れにしか見えなくなったのだが、真由美の名誉のためにも指摘することは憚られた。

 

 

 話題を逸らすために本題に入ると、明日の放課後には有志同盟との公開討論会を行うという。

 昨日の騒動が予想以上の急展開を迎えていたことに達也と深雪は驚きを隠せなかった。

 

 

 単身で討論会に挑む真由美の胆力もそうだが、

 

 

 

「もしあの子たちが私を言い負かすためのしっかりした根拠を持っているのなら、これからの学校運営にそれを取り入れていけば良いだけなのよ」

 

 

「まっ、そんなの無理だろうけどねー」

 

 

 

 まるで自分が論破されることを期待しているかのような真由美と、唇の端を釣り上げた艶夜の対比に、とてもひどい企みを垣間見たからでもあった。 

 悪びれた口ぶりで手元の端末をぽんぽんと叩くその姿からは、確信に近い自信を感じられた。

 

 

 

「そういえば、艶夜はどうして朝から会長と一緒に居るんだ?

 いつもは美月と登校してるのに」

 

 

「昨日は七草家に泊まり込んで、一高の部活動予算と実績の記録をまとめてたんだよ。事前の折衝で向こうが口にした唯一具体的な指標だったからね」

 

 

 

 よく見れば、艶夜の目元には寝不足からくる隈が浮かんでいた。

 化粧でよく誤魔化してあるようだが、昨夜から徹夜で準備していたのかもしれない。

 

 

 

「達也くんはさっき対策を練る時間も無いって言ったけど、面白いことに相手はまともに準備をする様子さえ無かったよ。

 私が生徒会と図書館で調べた限り、ここ数ヶ月で部活動予算と実績のデータベースにアクセスした生徒はゼロだったからね」

 

 

「それは……おざなり過ぎるな」

 

 

「信じられない杜撰さね」

 

 

「情報は武器だって言うのにね。

 まあ、相手が武器を取らなければ、こっちが一方的に武器で殴りかかれるってことなんだけど」

 

 

 

 ふんす、と胸を張るだけの資料はできたのだろう。

 本来ならまとめた資料を真由美の頭に詰め込むか、艶夜が共に登壇して補佐する必要があるところだが、それも解決する手段があることを既に知っている。

 

 

 まさか、真由美が手元に便利な駒を抱えておいて、モールス信号のひとつもできないはずはないだろう。

 

 

 

「なるほど。相手が期待はずれなら、完膚なきまでに叩くと。

 会長も人が悪いですね」

 

 

「まあ、失礼しちゃうわ。私はそんなこと考えてもないのよ?

 むしろ乗り気なのは艶夜ちゃんよ」

 

 

「モチのロンですよ真由美さん!

 ここで妥協したら付けあがりますし、今後舐めたこと言わせないためにも徹底的に叩き潰すべきです!」

 

 

「意外だな。艶夜はこの手の主義主張は祭ばやしくらいにしか捉えないと思ったが」

 

 

「それはまあね。

 実力行使で革命騒ぎを起こしておいて、改善方法は倒した相手に丸投げする頭スッカラカンの運動家とか、便器に吐いた痰カスよりも価値無いし興味もないよ。

 達也君だってそうでしょ?」

 

 

 

 いや、誰もそこまでは言っていないのだが。

 その場の全員がドン引きして口を開けないでいる間に、艶夜はちらと深雪に目をやった。

 

 

 

「それに、私だって学校で余計な騒動を起こされて、美月が巻き込まれでもしたらたまらないからね。

 達也君だって、そうなんでしょ?」

 

 

 

 ……達也は誰のためにこんな朝早くから出向いたとも言っていないのだが。

 それでも深雪のために動いているのは艶夜の探知魔法が無くとも自明であるし、同じく身内のためだけに行動する人間がいてもおかしくはない。

 

 

 いや、きっと柴田艶夜が優先しているのは、それだけなのだろう。

 

 

 はじめてこの奇妙な同級生を、すこしだけ理解できたような気がした。

 

 

 しかし、

 

 

 

『ごめんね、

 達也君』

 

 

「!」

 

 

『達也君が、

 美月を通して私の魔法を警戒していたのはわかってる。

 私と達也君が同じことを考えている限り、

 たとえ真由美さんに頼まれても達也君と深雪の不利益になることはしないって約束する。

 だからこれからも美月と仲良くしてね?

 

 それと、

 --・・ --・-- ・・-・- ・・-・ -・-・・ ・・・- -・ ・・ -・-・- ・-』

 

 同時に新たな謎が達也にもたらされた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 達也と深雪が、頼れるけど頼りたくない師匠、九重八雲の下を訪れたのは夕食後のことだった。

 

 

 

「柴田美月くんでは、君の霊気を見ることはできても、理解することはできない。

 君のことを理解できるほど魔法に精通しているならば、自分の『目』に振り回されたりしないだろうからね。

 妹くんは別だろうが」

 

 

 

 司甲、そして柴田美月についても、予め頼んでおいた調査に比べれば前座にすぎない。

 柴田艶夜の探知魔法についての情報と対策、そしてもう一つの謎について聞くために、達也は深雪を伴って足を運んだのだ。

 

 

 

「柴田艶夜くん。彼女の場合、体質が探知魔法と完全に一体化しているらしい。オンオフのコントロールという意味では最初からできていたようだ。

 調べた限りだと、オーラカットコーティングされた眼鏡を購入した記録も無かったよ」

 

 

 

「本人が言うには、視力矯正用の眼鏡を掛けている理由はゲームのやり過ぎで視力が落ちたからだそうですね。

 昔見た映画のせいで眼球にレーザーを当てるレーシック手術は受けたくないとか」

 

 

 

「僕としては、その理由は建前で……まあ、感情的なものを建前と呼ぶのもなんだけど。

 実際の所は目の変質を嫌ってレーシック手術を避けているんだろうね。艶夜くんは自身の人材としての価値の殆どはそこだと自覚しているんだろう。

 で、肝心の探知魔法についてだけど」

 

 

 

 ようやく本題といったところで、達也は居住まいを正そうとして気づいた。

 

 

 見慣れた坊主の胡散臭いニヤケ顔が、どこか誤魔化すような雰囲気を放っている。

 剃り上げた頭を叩く手が、ぺしんとどこか申し訳なさげな音を立てた。

 

 

 

「いやー、参ったね。調べてみたんだけど、事前に達也くんから貰った以上の情報は出てこなかったんだ。

 出生、学歴、その他諸々に七草家以外とのつながりは見つからなかったよ。

 唯一見つかったのは、七草家主催の探知魔法師交流会の参加者で、柴田艶夜くんと思しき人物が自分へ向けられた感情を読み取れるらしい、とブログに書き残していたくらいだね」

 

 

「先生が探ってもほとんど情報が出てこなかったのですか?

 それはもしや七草が……?」

 

 

「いや、それはないよ。もし七草家が柴田艶夜くんの情報を隠蔽するならネット上のブログなんて個人情報云々と理由をつけて消してしまうだろう。

 それどころか、交流会は会場で起こったトラブルが原因で打ち切られたようなんだけど、そちらも隠そうともしていなかった。

 七草家にとって不都合だろうに、公的な立場ってものは厄介だねえ?」

 

 

 

 八雲の言葉に、びくり、と深雪の肩がわずかに震えた。

 だが八雲には達也と深雪の立場を揶揄する意図は無いようで、ひらひらと片手を振ると冷めかけたお茶に口をつけた。

 

 

 

「七草以外に情報が残っていないのは仕方がない。

 しかし奇妙なことにね? 七草でも艶夜くんと面識のある人間は限られているようなんだ」

 

 

「七草会長の傍に居て、ですか?」

 

 

「つまり艶夜には、俺達に話した探知魔法とは別に隠している秘密があることになる。

 もしかすると……」

 

 

 

 達也に思い当たる節はひとつ。

 艶夜から別れ際に告げられた言葉がキーワードかもしれない。

 

 

 残されたもう一つの謎。

 それについて調べた八雲は、しかし肩をすくめ首を横に振った。

 

 

 

「そちらも、手がかりは無しだよ。

 何一つ出てこなかった。特定のキーワードだけを宛もなく探すなんて真似したら、こちらの情報網の在り処を発信するようなものだからね。それで低調だったというのもあるが」

 

 

「では師匠は、これは艶夜の撒き餌だと?」

 

 

「それにしては食いつく釣り餌が見当たらない。

 罠ですらないとなると、いよいよもって謎だね」

 

 

「お兄様。そのキーワードとは何でしょうか」

 

 

 

 あの時、別れ際に艶夜から告げられたメッセージ。

 

 

 

「ファミチキください、だ……」

 

 

「ふぁみ……?」

 

 

「…………、ふむ」

 

 

 

 新たな謎の存在が、3人の間に重い沈黙をもたらした。

 

 

 

 




 更新は遅れましたが感想で書かれる前に投稿できたのでセーフです。




「ところで艶夜くんの探知魔法対策だが、案外難しくはなかったよ。僕ひとりで行動する限り、僕へ視線や感情を向けられることは無いからね。
 だが、達也くんと深雪くん、君たち兄妹には無理だろう」

「それは何故でしょうか、先生」

「たとえばの話だよ?
 深雪くんは達也くんと生活を共にしながら、視界に入れず、感情や意識を向けず、一切居ないものとして扱いながら生活を送れるかい?」

「……………………………………………。
 お兄様、深雪は、深雪は……っ!」

「落ち着くんだ深雪、そんなことはしなくていいから泣き止んでくれ。
 寺ごと俺が氷漬けになる」



 お兄様の目を欺くには八雲曰く、

『気配を隠すのではなく、気配を偽る』

 必要があるそうですが、艶夜の目は普通に姿を隠せば普通に振り切ることができます。

 それが司波兄妹にとっては不可能事に近いのですが。


 つまり艶夜ちゃんと司波兄妹は、お互いに身を削る覚悟で挑まないといけない天敵同士なんですね。
 しかも敵ではないから排除もできないという……

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