楽羅來ららの作り物   作:不可思議可思議

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超能力者と魔術師 001


 

 

 

 元宇宙飛行士の同胞、メイド喫茶のメイド長曰く。飲食店の経営には最低でも、世界の危機に対抗できる程度の総合戦闘能力が必要らしい。

 いや、流石に冗談だと思うが。当人以外の店員達も世界の危機に立ち向かうことがあるなんて一切想像していないだろう。

 ついさっき、俺の座る席に水を運んできたアルバイトの女子高生も、遅めの昼食を終えたカップルの会計をしていた中年の男も、隣の席で注文を受けている女子大生も。

 

 まさかまさか。メートル単位の距離に、世界の危機を四度引き起こし、八回ほど世界征服を目論む、あるいは可能なほど強力な外敵を撃退した化け物のような女がいるなんて思ってもいないだろう。

 

 その女の名は、現川(うつつがわ)。なんてことのない、俺と比べたら遥かに一般的な人間だ。イレギュラーではあれども、ノーマルな人間と言ってもいい。

 魔術師でなければ、超能力者というわけでもなく、未来人でも非生物でも宇宙人でもない。そんなアブノーマルなオカルトなんて、現川にとっては映画の世界だろう。

 

 ……そんな女に、オカルトの端くれである俺は呼び出されたわけだが。びっくりドンキーに。

 

「うん。やっぱ日本といえばびっくりドンキーだよな。ハンバーグにチーズを乗せるという発想、神か。そいつには是非ともノーベル賞をくれてやりたい」

 

 嫌がらせか。それも多方面に。なんで極力会いたくない人間に呼び出された挙句、チーズにハンバーグを乗せた奴への賛美を聞かせられなきゃいけないんだ。あと多分、そいつはびっくりドンキーの人間ではねえし、ノーベル賞も願い下げだわ。

 

「おいおい。やっぱ和風ハンバーグなんて食ってる奴はダメだな。全くもって話になりゃしねぇ。肉に大根乗せたゲテモノ料理がそんなに好きかよ、ベジタリアン」

 

 祟り殺してやろうか、この女。

 大根おろしを大根とか言うなよ。ハンバーグにおでん乗っけたみたいに聞こえるじゃねえか。

 そもそも、今日はハンバーグの気分でもなかったんだよ。

 うどんの気分だった。うどんに大根おろしと天ぷらを乗せて出汁を啜りたい気分だったんだ。

 

「うどんが食いたきゃそう言えよ」

 

 そもそも、断っただろうが。

 現川と食事(メシ)なんて天地をひっくり返してでも断るに決まってる。

 

「それでも来てくれるんだもんなー、アラレちゃんは。ツンデレか」

 

 人を体当たりでパトカーぶっ壊すのが趣味な中学生型アンドロイドみたいに言うんじゃねぇよ。祟るぞ。

 

「やりたきゃやれよ。その日がお前の命日だ」

 

 理不尽だ。

 

「そもそも、名前が『あられ』な時点であだ名はアラレちゃんに決まりだろうが。それをいちいち、ぐちぐちと。ガキかお前は」

 

 お前にだけは言われたかねぇよ。三十近くにもなってハンバーグにチーズ乗せてるやつにだけはガキ呼ばわりされる謂れはねぇ。

 

「まあ、ガキならガキで構いやしねぇんだわ。ある意味好都合かもしんねぇしな」

 

 と、現川はライスをフォークで掬い、ハンバーグのソースに漬けてから口に運びながらに言った。

 

「いつもならこのままドリンクバーでも追加注文して、閉店時間まで喋り続けてもいいんだが。でも残念ながら、今日ばっかは時間に気ぃ遣ってやらなきゃいけない」

 

 どんな迷惑な客だよ。ドリンクバーだけでいつまでも居座るな。夏休みの暇な大学生かお前は。

 

 一枚の紫蘇にハンバーグと大根おろしを包見ながら愚痴るも、現川は大した返しもせずに続ける。

 

「アラレちゃんに一つ依頼したい」

 

 頼む相手を間違えてないか? 俺は敵に何をされてもスーパーサイヤ人には成れねえぞ。

 

「喧嘩なら私がやるし、アラレちゃんに戦闘能力なんて求めてねぇよ。別にどこぞの宇宙海賊の壊滅なんて自力でできるっつーの」

 

 神龍でも出来ないことを出来てんじゃねぇよ。

 

「そうじゃなくてなー。アラレちゃんにはこれから、空港に行ってもらう」

 

 どこのだよ。狭い日本でも結構な量の空港があるぞ。

 

「えっと、羽田だか、成田だかって言ってたな。忘れたけど。まぁ大して変わんねぇって」

 

 おい。かなり違うぞ。その二つを間違えるのは結構あるあるな気もしないではないが、致命的な間違いだぞ、それ。

 

「間違ったら間違ったでかまわねぇさ。取り返せる間違いだ」

 

 それでわざわざ、取り返しに行くのは俺なんだがな。

 

「お前は今日からガキを一人育てることになる」

 

 やだよ。なんで説明終わる前にもう決定してるんだよ。どっからそのガキは湧いて出たんだよ。嫌だよ。

 

「そいつの名前は楽羅來(らららい)らら。原初の歌声っつー厨二カッケェ由来の名前の、今年で十一のガキなんだがな。そいつは俗に言う、超能力者ってやつだ」

 

 だから待てっ! 怒涛の勢いで説明を続けんじゃねぇよ! 十一歳だか超能力者だか知らねぇが俺に子育てなんざ無理に決まってんだろうが!

 

「やっちゃいけないとやれば出来るは同義だ。やれ」

 

 断る! うちは探偵事務所であって、保育園でも孤児院でもないし、超能力者なら学園なり魔女の館なりに連れてきゃ何とでもなるだろうが。

 

「保育園よりも孤児院よりも、カルト馬鹿どもよりもアラレちゃん()が一番適切だと私が判断したから、こうして飯を奢ってやってるんだろうが。やれ」

 

 だったら、そのガキがそんなに大切ならお前がやりゃいいだろ。どんな奴なのか知らねぇが、濃かれ薄かれ、現川の関係者って時点で碌な奴じゃないのは目に見えてんだよ。

 

「ちょっと待て、勘違いするな。別に大切ってわけじゃねぇよ。愛情も友情も全くねぇ。ただ買い()っただけでな」

 

 ……買い()った? 今時人身売買なんて流行らねえだろ。益々きな臭いな。

 

「説明がかったるいから端的に言うなら、そのガキは世界を滅ぼせるだけの力を秘めてる。……いや、隠してはねぇから、持ってるって言うべきか?」

 

 よくある話じゃねぇか。触れたものを全て料理に変える超能力者とか、体内に核融合炉を備えた魔法少女とか。そのレベルのやつなら一人で散々殴ってきただろ。

 

「そのレベルじゃねぇから、こうして私が私らしくなく、アラレちゃんみたいなのに頼み事をしに来てるんだっつーの」

 

 いや、あいつら以上のレベルなんて言われちゃ、それこそ俺じゃ手に追えねぇよ。請け負えねぇよ。魔術師なんて名乗っちゃいるが、俺は基本的に人間だ。

 

「根本的に人間だからこそのアラレちゃんなんだっつーの。別にそのガキと喧嘩しろなんて言ってねぇだろ? ただお前は、そのガキに人生ってやつを教えてやりゃいいんだよ」

 

 無理だ。

 

「やれ。殺すぞ」

 

 短刀を直入しすぎだろお前。

 わかった、わかった。どこぞの誰かに殺されるならともかく、あるいはその超能力者のガキに殺されるならともかく。お前に殺されるのだけは本気でごめん被る。骨壷にはしっかり全身の骨を詰めたいんだ。

 

「アラレちゃんはどう死のうが火葬されたら骨は残らねぇと思うぞ? もやしだし」

 

 余計なお世話だ。

 で、じゃあどこの空港に行けばいいんだ?

 

「だから、忘れたっつったろーが」

 

 なんで偉そうなんだよ、お前。

 

 

 


 

 

 

 成田空港に着いたあたりで、羽田空港だったと連絡を寄越してきやがった現川は今度会った時になんか奢らせるとして、だ。

 件のガキ、楽羅來ららとは、マクドナルドでの待ち合わせってことになってるらしい。

 空港の名前は忘れてたくせに、合言葉代わりの注文は明確に伝えられている。

 

 チキンマックナゲットを五つ。ソースは全てバーベキュー。

 

 店員から正気を疑うような目で見られつつ、俺はナゲットの箱が五つ並んだトレーを持って、二人掛けの席に着いた。

 あとはただ、楽羅來ららがやって来るのを待つだけだ。

 

 しかし、座って落ち着いてみれば妙な雰囲気を感じる。監視されてるってよりは、視察、あるいは観察か? 視線を感じるというか、気配を感じると言うべきか。

 店員もいれば他に客もいるわけで、他者の気配があること自体に違和感はない。ただそれとは別に。

 

 目の前にマネキンが設置されているような。

 動物園のあらゆる動物から目を逸らされているような。

 魚の絶滅した水族館を見ているような。

 

 まるで自分以外の全てが人外の怪物にでもなったかのような、気味の悪さだ。

 

「はじめまして、八橋(やつはし)あられさん」

 

 と。五箱のナゲットを呆然と眺めていると、埒外から声をかけられた。声変わり前の鈴の音のような少女の声は、俺の名を確かに呼んでいた。

 声の方向は、すぐ対面。少し顔上げれば、ベージュの薄汚れたコートに身を包み、同じ色の帽子を被った、黒髪黒目の少女が目に映った。

 

 化け物だった。俺の脳は、視覚と嗅覚から得た情報のもと、目の前の少女をそう判断した。そして同時に、聴覚は目の前の少女を、ただ可哀相な子供だと認識した。

 

「ウツツガワ、という私の買い主様から聞いているでしょうが、私が楽羅來ららです」

 

 言われずとも、わかっている。

 それだけの存在感を見せつけられておいて、今更一般人だなんて言われたところでそうは思えない。

 作り物のように整えられた顔つきに、完全なシンメトリーの両手。化学と魔術の中立地帯のようなそれは、間違いなく、アブノーマル、オカルトの存在だ。

 

「そのナゲット、食べないのでしたら私がもらってもいいですか?」

 

 好きにしろ。もう夕飯時とはいえ、少食な俺にナゲット五箱は重すぎる。

 

「ありがとうございます。 ロシアから日本まで、ずっと絶食状態だったのでもうお腹がペコペコでして。いえ、いっそベコベコってくらいです」

 

 楽羅來ららはそう言いながら、バーベキューソースの封を切る。

 

「やはり日本人たるもの、マクドナルドのナゲットは美味しくいただけなければなりません。いいえ、アメリカに買われていた時に何度も食べましたが、日本で食べてこそのナゲットです。バーベキューソースこそ故郷の味です」

 

 ナゲットどんだけ好きなんだよ。あとどう考えてもバーベキューソースは日本の味じゃねぇ。日本人なら醤油と味噌を求めろよ。

 

「初めての帰国ですからね。和食も今後の楽しみではありますが、しかし多量のカロリーを必要とする私とは相性が悪いんですよ」

 

 ナゲットもそう大したカロリー量じゃないと思うがな。

 

「いえ、いえ。五箱も頂ければ然しもの私とて十分ですよ。世界征服程度であれば余裕で事足ります」

 

 冗談でも笑えねぇよ、超能力者。

 

「笑っても冗談なんて言いませんよ、私は」

 

 笑えねぇよ。やっぱ早まったかもしれんな……。

 

 

 


 

 

 

 空港で夕飯(メシ)を済ませた頃には、もう時計の短針はかなり左側を向いていた。夜闇の運転に辟易しつつも、嫌なくらい聞き分けの良い超能力者を助手席に乗せ、事務所へと車を走らせる。

 

「へぇ、なかなか良い趣味の車じゃないですか」

 

 まぁ、外車だし高いものらしいが、生憎と貰い物だから詳しくは知らないぞ。その手の趣味も無いしな。

 

「私もそう詳しいわけではありません。ただ、私を買うような人間は押し並べて大富豪な方々でしたから」

 

 都落ちしそうな言い方をしてやるな。

 

「したからこそ言うのです。そもそも、私が売りに出されている時点で、どなたかが売り払わざるを得なかったわけですから」

 

 そいつは、気の毒な奴もいたものだな。

 

「ええ、ええ、まったくです。やはり人間の分際で人間を買おうだなんて、傲慢なんですよ」

 

 薬にも毒にもならねぇ話だ。

 

「時に、毒よりも薬よりも水が人を殺すこともあるものですよ」

 

 楽羅來ららは何かを懐かしむように、フフフと笑った。……十一歳にその顔をさせるって、人類は何しをでかしたんだよ。

 

「そんな話よりも、改めて自己紹介をしましょうか。お互いある程度は前知識的にわかっているとはいえ、未だに名乗り合ってすらいませんから」

 

 お互い知り合ってるなら、それこそ名乗るまでも無いと思うがな。それに自分をことを語る趣味はない。

 

「私にはあるのです。それに良いじゃないですか。魔法少女は戦闘の前には誰が相手であろうと律儀に名乗りを上げるそうですよ?」

 

 俺もお前も魔法少女じゃないし、殺し合うわけでもないだろ。それと訂正しておくが、名乗りを上げる慣習をもつのは魔道士全員だ。魔法少女限定じゃねぇ。

 

「へぇ、それは知りませんでした。私が出会ったことがあるのは魔法少女だけでしたので」

 

 そりゃ災難だったな。魔法少女とは俺もそれなりの縁があるが、どいつもこいつも碌なもんじゃなかった。

 

「十代前半にして戦闘漬けの方々ですからねぇ。望む望まぬに関わらず、人格も人生も歪みますって」

 

 歪めてる原因、概ね俺らみたいなカルト連中だがな。

 

「否定はしませんが、そんな生臭い話がしたいわけじゃないんですよ。自己紹介ですよっ、自己紹介!」

 

 いや、自己紹介こそ生臭さの極みだろ。真っ当な人生を歩めてるわけがねぇんだから。

 

「あなたの人生は随分香ばしそうな気がしますね。……まぁまぁ、どちらにしても私は話したいわけですから、先陣を切らせていただきましょう」

 

 と、楽羅來ららはその整った顔を随分楽しげにさせながら己を語る。

 

「私は楽羅來らら。ご存知でしょうが、超能力者です。持って生まれた異能の名は創世。想像を思うがままに創造する異能であり、創造の全てを想像とする超象です」

 

 現川からは、あらゆる物を自在に出現させられる能力だと聞いていた。それこそ、金だろうと石油だろうと無制限に思うがままに。……ただどうも、見た感じじゃ違うらしい。それどころじゃない。

 

 これはもう、人間の扱っていい領域を超えている。

 

「趣味、と呼べるようなものを持てる生き様をしていませんが、強いて言うなら旅行ですかね。あるいは会話でしょうか。日本語が好きですが、会話程度であれば英語も話せます」

 

 世の富豪達が持て余すわけだ。何も知らない人間に説明もなく核ミサイルのスイッチを持たせるようなものだ。

 

「こちらに来る前は、ロシアのとある富豪の館で延々とアクセサリーを作らされていましたね。扱い的には、3Dプリンターと大差ありませんでした」

 

 金の生る木としてしか使えなかったわけだ。

 

 まぁそりゃ、何でも作れるオモチャがあれば誰でも最初にそれを考えるだろうさ。

 そうでないのなんて、それこそオカルトの人間くらいか。魔法使いなら解体して仕組みを探るだろうし、魔法少女なら兵器の大量生産。学園の連中なら、まぁ隔離するだけで放置か。

 

「さて、私について語れることの大概は語り終えました。今度はあなたの番ですよ」

 

 と、言われてもな……。

 

 八橋あられ、探偵だ。

 

「ええ、それは知っています」

 

 ……他に語るべきもないんだが。

 

「もっと他にあるじゃないですか。趣味とか、魔術師のこととか」

 

 語れるほど大した趣味はないし、魔術師を名乗ってはいるが大したこともできないぞ。

 お前と比べたら、俺なんてほとんど一般人と変わらん。

 

「なんて面白味の無い人でしょう。いえ、むしろ今後に期待でしょうか」

 

 やめろ、縁起でもない。

 面白味の塊みたいな奴が帰ればいるから、遊ぶならそっちにしろ。

 

「へぇ。恋人ですか?」

 

 違う。なんで真っ先に出る関係性がそれなんだよ。

 

「趣味ですかねぇ。ところで――」

 

 赤信号に捕まり車を停止させた瞬間、ドンッ、という音と衝撃が起きる。

 

「あれ、なんなんでしょう」

 

 後ろを指さす物だから、俺もバックミラー越しにその指の先を辿る。

 

 窓に張り付いていたのは、人間。……いや、違うな。

 生気のない土気色の肌に、穴という穴から血や体液を垂れ流している、穢れた顔面。一見人間だが、どこからどう見ても常人ではない。

 

 あれは、ゾンビだな。

 

「ゾンビって、バイオハザードとかのアレですか?」

 

 系統は見ただけじゃわからんがな。

 一番定番のものなら、属性的には神仏の類だ。ブードゥー教のルーツ、ヴォドゥンを信仰するアフリカの呪術。生ける死体。由来はコンゴで信仰されている神、ンザンビであり、その対象は人間に限らず、動物や物にも及ぶ。

 もっとも、悍ましい呪術となったのは西インド諸島にゾンビとして伝わってからだがな。

 

「いや、長々と語ってくれるのは大変ありがたいですが、メチャクチャ襲い掛かって来てるんですかど?」

 

 そうだな。ほっときゃどこまでも追いかけてくるだろうさ。

 

「車にいれば安全……な、わけないですよね?」

 

 術者の技量にもよるが、放置で解決するわけもないな。

 何せゾンビは、永久に働き続ける奴隷であり、人を陥れるために作られる。しかも日本産である以上、曲がりなりにも神の分身だしな。一般人の生身じゃ手も足も出ない。

 

「対処法はないのですか?」

 

 信号が青になったから発進するもやはり、ゾンビは追いかけてくる。

 

 ゾンビに対処法は無くもない。死体の家族であれば、刃物を握らせることで術者を裏切らせ、殺させることができる。他にも死体を切り刻むとか、毒薬を施すのも有効と言われてはいるな。

 

「切り刻む、ですか」

 

 ららは身を乗り出して、時速五十キロで走るゾンビを観察する。

 

「果たして、あの身体能力を前に大した武器もなくできるものでしょうかね」

 

 楽羅來らら、お前の能力なら何とかならないのか?

 

「肉体を破壊するくらいは出来ないこともないでしょうけど、しかしおそらく、相手も目的は私であるはずですよ? 死体の破壊がトリガーとなり、例えば爆発したりとかも考えられます」

 

 ああ、その可能性は考えてなかったな。それなら肉片になってでも追いかけてくる可能性もあるのか。ひとまず破壊は却下だ。

 

「というか、何でそんなに冷静なんですか。運転手として模範的ではありますけど、いっそ不気味ですよ」

 

 慌てたところで、轢き殺す以上の攻撃手段もないしな。ぶっちゃけ万事休しているわけだ。

 そんでゾンビといえば、その基本戦法は人外の身体能力ともう一つ。

 

「増殖……、ですか?」

 

 あるいは増援と言うべきだな。ほら来たぞ。

 

「うわぁ……。どこから湧いてきてるんですか、あれ」

 

 横から、前から、後ろから。地面を這うような四足歩行の奴とか、なぜか逆立ちをしてる奴もいる。

 

 大方、森か山で死体を調達したんだろうな。よくある手法だ。

 

「世界各地を転々としてきましたが、ゾンビに追われるのは初めてですねぇ。さすが祖国と言いましょうか」

 

 ゾンビなんて日本でもここにしかいないだろ。日本を何だと思ってるんだよ。

 

「そういえば、私達以外に誰もいないんですね。……あるいは、巻き込まれた方々の成れの果てがゾンビということでしょうか」

 

 人間の最高速度が時速四十キロ程度。限界のないゾンビでもせいぜいが六十キロってとこか。とりあえず帰還を最優先するぞ。

 

「それ、ゾンビを連れ込むことになりませんか?」

 

 問題ない。この程度なら丸投げしても平気な連中だ。

 

「……ここ、本当に日本ですか?」

 

 今更だろ、超能力者。

 

「そういえば魔術師でしたね、あなた」

 

 

 


 

 

 

 東京都から埼玉県へと出た頃、ゾンビの数は百を越えた。

 しかしその数も、これ以上は増えないだろうさ。

 

「私の名は白神彩織――接触絶死(アンタッチ・ブル)の名の如く、その肉の一片たりとも残しません」

 

「俺の名はカイン――神の落書き(プロトエンジェル)の名に従い、テメェらは生かして返さねぇぞ!!」

 

 ゾンビどもに負けず劣らずの身体能力を持って、死体を死体とする化け物二人。チームのツートップ、彩織とカイン。

 

「ゾンビの次はサイヤ人でしょうか。全く、初日から愉快ですね」

 

 サイヤ人じゃなくて天使だ。パチモンだがな。

 

「え、何ですか? それはアイドル的な意味ですか?」

 

 視点次第じゃ、あながち間違いでもないな。偶像崇拝なんて言葉もあるわけだし、一歩間違えれば信仰対象だったのだから。

 

「重操術、超初歩――音無し!」

 

 学ランで顔面に刺青の男――カインは、重力を武器とする術を持って、一切の躊躇なくゾンビ達を破壊していく。殴ればその部位が音も無く飛び、蹴ればその部位が音も無く裂ける。

 

「朝までに片付けますよ、カイン。できればシャワーも浴びたい」

 

 学生服で銀髪ロングの女――彩織は、生まれ持った天性の暴力性と善性でもってゾンビを蹴散らす。棚引く髪に巻き込まれて切り刻まれ、プロペラのように舞う手刀で切り上げられる。

 

「わー、わー、わー。私の超能力が霞むような無双っぷりですね。それに派手です」

 

 飛び散る肉片達が、爆散していく。

 体内かどこかに爆弾が仕込まれているというららの予想は正しかったようで、近隣の建物の数々が爆破によって破壊されていく。

 

 ゾンビの群れから離れていく中、巨大な人形(ヒトガタ)とすれ違う。

 棒人間が重い音を鳴らしながら、ゾンビ達の方向へと歩いて行く。

 

「あれ、なんでしょう。ゴーレム?」

 

 違うな。付き合いの長さならカインと彩織の方が長いが、理解度ならあの棒人間の方がよっぽどよっぽど。

 

「なら、なんなんでしょう?」

 

 増殖した奇稲田姫(クシナダヒメ)の十三枚目、呪いの女神の写し鏡、神刺( かんざし )裂那( れつな )が率いた夜行。八百万の神々に喧嘩を売った馬鹿の遺物。百鬼夜行が一兵、電柱の九十九神。

 

「今更ですが、祖国の世界観が思ってたのと違うんですけど」

 

 何言ってんだ、お前。超能力者だろ。

 

「それとこれとは話が別ですよ。私はサイヤ人ではありませんし、陰陽師でも呪術師でもありません」

 

 この場にサイヤ人はいねぇし、神刺裂那は陰陽師でも呪術師でもねぇよ。

 

 女神やら天使やらの協力のもと、車体以外は無傷のまま帰還することができた。

 

 ……奴らの謝礼、どうするかね。

 

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