抜きゲの鬼畜竿役に転生したけど、ヒロインの子に不束者ですがよろしくお願いされてしまった。   作:ソナラ

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2 抜きゲの竿役が最推しじゃだめですか?

「――はいその通り、アタシの前世はしがないオタク女でございます……」

 

 リビング。

 飾り気のない、掃除は最低限行き届いた室内で俺は目の前の少女の話を聞いていた。

 テーブルには俺と、荷物を自室に置いてきたブレザー制服姿の少女が向かい合って座っている。テーブルの上には紅茶とお菓子。どちらも通販で買い込んだ代物だ。

 

 室内は、ずいぶんとおかしな空気になっていた。まるで裁判官の前に突き出された被告人といった様子の少女と、どうしたものかと思案する俺。

 ――どちらも、転生者である。

 

「えっと……別に責めてるわけじゃない……ぞ?」

 

 相手は、見た目通りの年齢ではなかった。というか、俺とそんなに変わらない成人女性らしかった。なので、言葉遣いがバグる。

 敬語で話すには見た目がそぐわないし、かと言って原作の木竹竿役みたいに横柄ってのもなんか違うような気がする。というかここ数年まともに声を出して話をしないので、ちょっと会話がおぼつかない。

 人って一週間声出さないだけで出せなくなるからな……前世の経験則だが。

 

「あ、えっと。その、はい。……木竹さんもえっと…………て、転生者ってやつでいいんですかね?」

「ああ……うん、俺も前世でそこそこオタクしてた普通の男だよ」

「なるほどぉ……」

 

 まさかまさかの展開である。

 ヒロインだと思っていた風加子猫――風加さんは俺の同類で、ある意味唯一の同郷。そして風加さんにとっても俺は想像していた木竹竿役ではなくどこの誰とも知らない一般男性というわけだ。

 

「木竹さんも、このゲームのことは知ってるんですよね?」

「ああ、プレイしたことあるよ」

 

 意外だったのは、風加さんがどういうわけかこの世界の原作を知っていたということ。失礼な話だが、彼女は前世は普通のオタク女性である。転生にありがちなTS転生者というわけではないし、そんな人が割りとどこにでもあるたぐいの抜きゲーをプレイしたことがあるとは。

 というか、実はTS転生者でした、という方がしっくりくる。まぁ性転換タグはついていないから彼女は間違いなく前世も女性なのだが。

 ……何を言っているんだ俺は?

 

「やっぱり! それでアタシがヒロインちゃんっぽくなくて驚いたんですよね!」

「あ、ああうん……ずいぶんと、鍛え直したなって」

 

 主に女子力とか。

 化粧はバッチリ、髪のセットも完璧。男性受けを考慮してか薄めの化粧だが、それでも原作の風加子猫では考えられない女子力である。

 まぁ、原作の風加子猫はそんなことしなくたって弩級の美少女なのだが。

 

 眼の前の風加さんは、弩級どころか超弩級である。原作が金剛型ならこっちは大和型だな。

 

「えへへ……なんか照れますね……木竹さんに言われると」

「……なぜ」

 

 なぜ俺に。

 ゲームのキャラと言っても、凡百の抜きゲ主人公に言われても照れることはないだろう。

 

「照れますよ……それに」

「それに?」

 

 しかし、風加さんの発言は俺の想像を絶する答えだった。

 

 

「アタシ、木竹竿役が最推しなんです!」

 

 

 ――木竹竿役が最推しなんです。

 ――――木竹竿役が最推しなんです。

 ――――――――木竹竿役が最推しなんです。

 

 ほわい?

 

「……なんて?」

「アタシ、木竹竿役が最推しなんです!」

 

 …………えっ。

 ふんす、と胸を張る少女は、どこからみてもオタク女のそれであった。

 

「い、いやいや……木竹竿役だよな!?」

「はい、木竹竿役です!」

「このゲームの、主人公で、竿役の!」

「はい! 竿役の木竹竿役です!」

 

 思わず叫んでしまった。

 お互いに、何を言っているんだという話だが今の俺は正気ではない。とんでもないことを風加さんに言わせてしまっているがどちらも気付いてすらいないだろう。

 そこには頭がおかしくなった木竹竿役と、限界化しはじめたオタクしかいなかった。

 

「抜きゲの主人公だぞ!? 設定なんて三行もない。原作では過去の掘り下げすらなかったはずの竿役に!?」

「はい! その竿役まじサイコーッス! 尊い! 推し! 辛い!」

 

 この女ヤバイ。

 そう思いながらも、冷静ではない俺は問いかけてしまった。

 

「ど、どこがいいのさ……」

 

 禁断の一言を。

 

「はいまず何と言ってもバッドエ」

「す、ストップ! やっぱりいい!」

「むぅ!!」

 

 ――始まり始めた高速詠唱を、ギリギリで押し留めた俺はファインプレーだったと思う。そしてそれを押し留めたことで、何とか冷静になったらしい風加さんは、吐き出しそうになる限界オタクの早口を頬をむうっとさせながら手で抑え込んだ。

 リスのようだとは、思ったがもちろん言わないでおいた。

 

 オタクというのは限界化すると早口になる。特に彼女はそれが顕著なタイプなようで、おそらく喋らせていたらそれだけで1万字くらい使っていたのではないだろうかというくらいの超絶高速詠唱である。

 この話にそんな尺はない。

 だから俺は何を……?

 

「……し、失礼しました」

「い、いやいいんだ……」

 

 ともあれ、その様子から疑いようはない。

 彼女は木竹竿役が推しなのだ。

 

「……まぁ、世の中にはそんなオタクがいてもいい、のか?」

「オタクの趣味も多様性の時代ですからね」

 

 照れながらもそういう彼女に、

 

「なんて言うか、君は強いな」

「推しと同じ世界に生きれるだけで死ねませんか?」

「死ぬな、シャレにならないから」

 

 俺たち転生経験者。死は多分誰よりも身近だ。

 

「はぁ……幸せです……」

「……俺は、幸せな君が羨ましいよ」

 

 なんていうか、思っても見なかった展開だ。

 まさか風加子猫が転生者だとは。しかも、コレほどまでに活力に満ち溢れているとは。推し活というやつだろうか。最近の女性は推しに相応しい女性になるべく女子力を磨くという。それが二次元、三次元問わずだ。

 彼女の場合もまさしくそれだろう。木竹竿役。ゲームにおける主人公に相応しい自分になるため。何とも羨ましい話だ。

 

 眩しい、といい変えてもいいだろうか。うまく言葉に出来ないが、俺は彼女が眩しいんだろう。同じ転生者でも、モチベーションの違いでこれほどまでに生き方が違うとは。

 

 ――惹かれている、という言葉は脳内ですぐに打ち消した。

 あって一時間も経っていない相手。一目惚れでもあるまいに――と。いや、そもそも俺は前世から恋愛経験がないので、そもそも恋愛感情もよくわからないのだが。

 

 さて、とにかく彼女のことはよくわかった。

 風加子猫ではなく、風加さん。ゲームのヒロインではなく、転生者。

 とすれば、彼女のこれからについては俺一人で決めることではなくなるはずだ。

 

「それで……どうする?」

「どう、とは?」

 

 こてん、と首をかしげる。

 自分の可愛さに自覚があるのか、はたまたないのか。思わずドキッとしてしまう仕草だが、そこに意識を向けていては話が進まない。俺は構わず先に続ける。

 

「これからのことだ。叔母さんからは、俺に任せるといわれていたが、流石にそういうわけにもいかないだろう」

「ああ……おばさまは放任主義ですからね」

 

 共通の知人であり、俺に彼女を任せた叔母のことを二人は思い出してうなずく。というか、彼女は原作においてどういう存在だったのだろう。

 公式サイトのキャラクターの項目にも、名前はなかったはずだ。

 

「おばさまがああいった以上、木竹さんの家にお世話になるのが一番ではないかと。木竹さんもそれを了承されたんですよね?」

「そうなんだが……いやでもそれは、ゲームの風加子猫がな……」

「ああ……あはは、すいませんこんなオタク女で」

「いやいや、むしろこっちこそ申し訳ないくらいだよ。勝手に君のことを守らなきゃいけないとか、意気込んで」

「……!」

 

 しかし、本当に困った。

 俺が風加子猫の面倒を見ようと思ったのは、彼女には助けが必要だと思ったからだ。心に傷を負った子が、一人で生きていくには現実はあまりにも辛く厳しい。

 こんな俺がその癒やしになれるとは思わないが、助けくらいはできるんじゃないかと思ったが。

 

「……ふふ」

 

 どこか澄ました顔で、笑みを浮かべる少女は明らかに俺の助けなんて必要ない。

 一人で、立派にやっていけるくらい強いだろう。

 なんて、思ったのだが。

 

「そうですねぇ……」

 

 風加さんは少しだけ考えてから、

 

「せっかく二回目の人生ですし、前世も現世もクソみたいな人生だったから、ここからやり直してみたい……ですかねぇ」

 

 ――ふと、思い至った。

 彼女はたしかに転生者である、だけども同時に風加子猫でもあるのだ。

 それは、彼女がゲームの風加子猫と同じ人生を歩んでいるということでもあったのだ。それは……決して幸福な人生ではなかっただろう。

 というか実際クソだったと言っている。

 

「……じゃあ、そのためにも、学校には通うべきだ」

 

 それが解ってしまえば、俺のやるべきことは変わらなかった。

 

「そのためにも、それまでの生活と屋根は提供するよ」

「え……」

 

 お互いにお互いの素性を把握してしまったからか、俺たちの間にこの世界がゲームであるという前提はなくなっていたのだろう。

 だから、そういう提案には申し訳無さを感じてしまうのが実際のところ。

 風加さんも、冷静になってしまえば、少しばかりその状況に遠慮を覚えてしまうというもの。

 

 だからこそ、俺は知っていた。彼女を納得させる最善の一言を。

 

「……ここ、聖地だろ?」

「――――」

 

 端的に言って、ここは彼女の最推しである木竹竿役の実家である。つまり聖地、言うまでもなくオタクにとって特別な場所である。

 結果彼女は停止して――

 

「そ」

「ストップ!」

 

 危ないところだった。

 高速詠唱は諸刃の剣、使えばその後に微妙な空気が訪れることとなる。あまりにも危うい力だ。あいつ木竹竿役のことになると早口になるの気持ち悪いよな、とか言われると目も当てられない。

 というかずいぶんとパワーワードである。

 この世には木竹竿役で早口になる女がいるのか……

 

「……え、えっと」

 

 そして、何とか詠唱を阻止されても気恥ずかしそうにしている風加さんは、たとえ高速詠唱は阻止されても恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。

 とはいえぶっちゃけ、彼女がここ――聖地で暮らす以上どこかで限界になるのは目に見えている。今のうちから慣れてしまってもいい気はするが、何はともあれ今は今後のことである。

 

 脱線していては、話が進まない。

 

「それじゃあ、これからよろしく……ってことでいいのかな?」

「…………はい」

 

 正直、おっかなびっくり。

 自宅に異性が、それも学生の少女が同居することになるなんて俺の人生においては初めての経験。それは向こうも同じだろう。見ず知らず――でもないけれど、馴染みのない相手と同じ屋根の下というのは。

 空気が変な感じになるのは、ごくごく自然な帰結だった。

 

 だから、だろうか。

 話が途切れてしまった。まずい、オタク二人に沈黙はマズイ。ナニがマズイって、話題がない。オタクというのはどれだけ話ができるように思えても、根は誰しも陰を抱えているもので。

 話題を作れないのだ。特に相手が同じオタクだとわかっている場合、どこまで踏み込むべきかで見誤る。

 

 同じオタクだから必ずしもわかり会えるというものではない。むしろオタクだからこそお互いに触れてはいけない部分があることはわかっている。だが、具体的にどこへ触れてはいけないかは現状わからないのだ。

 メガネはオンオフのギャップが好きか、メガネを掛けている少女が好きかで、メガネ好きでも意味が大きく変わるように。

 

 そして、そういうときに限って、オタクというのはミスを犯す。

 致命的で、絶対にやってはいけないような。とんでもないミスを犯してしまうのだ。今回の場合は、先程の高速詠唱未遂で焦りがあった、風加さんにそれは訪れた。

 

「あ、あの!」

「な、なにかな!?」

 

 解ってはいても、それに対応できるほど俺に人付き合いのセンスはない。長い沈黙に焦れていたのはこちらも同じ。声が上ずってしまうのは無理もないことだった。

 そして、風加さんは、

 

 その勢いのまま、

 

 とんでもないことを、口にしてしまう。

 

 

「木竹さんは、原作再現とか興味がおありでしょうか!? あ、あああ、アタシはその、前世から一度もそういう経験のない干物女なのですが、もしもそういう興味がおありでしたら……が、ガンバリマス!!」

 

 

「――――しないよ!?」

 

 ――言うまでもなく、このゲームは抜きゲー……十八歳未満はプレイできないえっちなゲームである。

 

 叫んでしまっていた。

 何を言っているんだこの子は!? いや、何を言っているかわかっているのか!? わかっているはずもないでなければこんなこと、初対面の男性に言うことじゃないのはわかりきっているはずっていうかどう答えろっていうんだよもう答えちゃったけど!?

 

 そして、そんな思考が加速する俺をよそに、逆に自分の言ってしまったことを理解してしまった風加さんは、顔を真赤にしながらその場に突っ伏すのだった――




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