抜きゲの鬼畜竿役に転生したけど、ヒロインの子に不束者ですがよろしくお願いされてしまった。   作:ソナラ

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木竹竿役の叔母は、ゲーム中に一文だけ存在が言及される。

 風加から『無事到着しました!』という連絡を受け取って、木竹竿役の叔母はほっと一息を付く。いくら風加がしっかりしているとはいえ、未成年を一人で移動させるのは少しばかり叔母も心配だったのだ。

 それでも、リハビリ無しで木竹を部屋から出すよりはマシだと判断したのだが。

 

 風加子猫は木竹の叔母のかつての同僚の娘である。若い頃にキャバ嬢をしていた叔母は、その頃から同僚とはそこそこに付き合いがあった。

 ……ハッキリ言って、当時からその同僚はろくな女ではなかったのだが。

 

 男癖は最悪の一言、自分の若さと美しさがこの世の何よりも素晴らしいと信じて疑わない――見た目はいいが、それ以外はハッキリ言って人間のクズに分類されるようなヤツ。

 そんなヤツが子供を産んだと聞いた時、叔母はハッキリ言って正気を疑った。

 

 そして、案の定その女は娘に虐待を働いた。

 娘は美しかった。年老いていく母にとって、その美しさは嫉妬の対象でしかなく娘は常に母に虐げられる立場にあった。

 叔母としてはなんとかしたい気持ちもあったが、他人の家庭に首を突っ込める立場でないことくらい叔母本人が一番良く解っていた。

 

 何より、その娘と会った時に叔母は理解したのだ。

 この娘に助けは必要ない。叔母は職業柄何人もの人間の人柄というのを間近で見てきたが、その中で特に「成功する人間」というのは特徴的な雰囲気が存在していた。

 そしてその雰囲気を娘――風加子猫は幼くして纏っていたのである。

 一体どこにそれほどの才覚が眠っているのか、風加の意志は強く、そして頑なだった。

 

 生きる理由というやつを、強く持っているタイプの人間だと叔母は深く思ったものだ。

 

 そんな風加の母が死んだと聞いた時、叔母は風加子猫に身寄りがないということを知った。もともと風加の母は実家から勘当されたと言っていたから、実家は風加子猫の存在をしらないだろう。

 そうなれば風加はどこかの施設に引き取られることになるだろうかといったところで、叔母が名乗りを上げたのである。

 

 そして叔母はこの時、一人で引きこもる自身の甥、木竹竿役のことを思い出していた。

 

 木竹竿役。

 そのふざけた名前は、叔母の姉であるフザけた女がつけた名前だ。風加の母がリアル系のクズだとすればこちらはスーパー系のクズ、創作の中から飛び出してきたような女だった。

 とはいえどちらも、子供を置いて若くしてなくなったことに変わりはない。

 風加子猫がそうであるように、木竹竿役も親に置いていかれた子供だった。

 

 風加のことを叔母は強い人間だと思ったが、木竹の場合は少し違う。

 木竹は真面目すぎる人間だ。木竹の両親が亡くなった時、親戚は木竹の遺産を求めて木竹竿役に群がってきたことが有る。それに対して木竹は毅然と正面から立ち向かった。

 当時まだ小学生だった子供が、大人を相手に正面から口八丁でやり合うというのは、いくらなんでも木竹竿役がしっかりしすぎているにしてもある種異様な光景と言えた。

 

 だが、そもそも木竹はそんなことをする必要はなかったのだ。

 木竹は子供ながらにしっかりしていて、大人相手にも何ら不足なく対応できる子供だったが、それでもその立場は間違いなく子供である。

 そんな相手に、第三者はそこそこ親身に向き合ってくれるだろう。弁護士などを雇って、そいつに相手をさせればいいのに木竹はあくまで自分の力でそれをなんとかしようとしていた。

 

 多分、抱え込むタイプなのだ、木竹という男は。

 結果として木竹は叔母を後見人として、自身の遺産を護ることに成功した。しかし、それによって疲弊した彼は引きこもることを選び、以来周囲との交流を絶って生活していた。

 

 叔母としては、それはよくないだろうという思いもある。

 だが、木竹には引きこもって交流を絶つことが許されるだけの資産があり、彼の人間性は引きこもる以前に完成している。

 何より木竹は、それだけの事があっても他人を拒絶するのではなく、遠ざけるだけで済ませる男だった。引きこもっても彼は叔母が連絡すれば、それに素直に応対する。人嫌いでコミュニケーションを断った相手の対応ではないと、そのたびに思ったものだ。

 一人の大人が、自分で考えてその選択をしたのなら、叔母にそれを否定する権利は存在しなかった。

 そんな甥のことを、叔母は思い出していた。

 

 

 二人を引き合わせることにしたのは、それが理由だ。

 

 

 木竹はたしかにあの親の子供にしてはまともすぎる人間で、そしてまともすぎるからこそ押しつぶされてしまったのだろう。

 それを間違っているとは言わないが、事情を知る叔母からしてみれば同情の対象であることに違いはない。

 この二人の出会いが、木竹を少しでも前向きにしてくれればという思いもあった。

 

 だが、何よりも大きかったのはこの話を持ちかけたときの風加の反応である。

 

 風加は、まるでその話が来ることを予見していたかのように落ち着いていた。いや、むしろついにこのときが来たのだと、この瞬間を待ちわびていたのだというほどの雰囲気だった。

 そんな彼女の雰囲気が、木竹の人柄を話したときに変化した。

 

 木竹竿役は、その名に反して生真面目で誠実な人間だ、と。

 

 その時の風加の顔を、叔母は今でも覚えている。

 関心、興味、そして笑み。

 

 風加はその時、木竹という男のことを強く意識したのだろう。しきりに木竹の人間性について問いかけてくる風加に答えるごとに、叔母はそれを実感していた。

 ようするに、その男は風加のタイプだったのだ。

 

 もちろん風加は木竹との同居を快諾したし、木竹がそれを了承した時、飛び跳ねて喜んだ。

 あまり化粧ッケのなかった風加が、化粧などを意識したり家事を覚えたのもその頃である。特に家事の修練は大したもので、たった半月ほどで彼女は新妻としても及第点といっていいほどの家事の腕を身に着けていたのである。

 

 さながら、その努力は恋する乙女のごとく。

 

 実際のところは叔母にもわからない。

 だが、叔母が木竹に話を持ちかけたのは正解だったと、今では思う。ぶっちゃけた話、木竹と風加がくっつけば未来は安泰だと叔母は考えていた。

 

 だからこそ思うのだ、自分の甥は――あの生真面目すぎるほどにバカ真面目な男は、

 

 

 これほどのいい女を、逃したりはしないだろうか――と。

 

 

 ◆

 

 

 ゲームにおいて、木竹の叔母は実は一瞬だけゲーム内で言及される。

 木竹竿役に風加子猫を預かるよう持ちかけるのは、ゲームにおいても叔母の役目だ。だが、現実とゲームではその経緯が大きく異る。

 

 ゲームでは叔母は木竹を忌避していたのである。

 臭いものには蓋、と言わんばかりに木竹に風加を押し付けたというのがゲームの成り行き。

 

 そもそもゲームでの木竹は、自身の遺産を如何に守ったか。

 答えは()()()()()()が正解である。

 なにせ木竹竿役は、その異様なまでの鬼畜さから、子供でありながら親戚を畏れさせていたのだから。なにより、ゲームの木竹竿役は間違いなく、“あの両親”の子供だった。

 叔母に関しても、ゲームでは木竹竿役のことを畏れていた。風加子猫はかつての嫌な同僚の娘を押し付けられただけ、自分からその面倒を見るよう申し出たわけではない。

 

 このあたり、ゲーム内では語られていない。

 あくまで示唆される程度に留まる。よっぽど作品を読み込まないとこのあたりの背景は理解できないようになっているし、理解しなくてもいいようにできているのだ。

 おそらく、これを把握しているのは制作スタッフを除けば、転生した風加の前世くらいなものだろう。

 

 なぜなら、このあたりはゲームをプレイする上で必要のない設定だったからだ。

 このような設定があろうがなかろうが、ゲームでは風加子猫は木竹竿役のモノになる。そして現実では、木竹のもとに風加はやってくる。

 

 ゲームだろうと、現実だろうと、運命的に。

 

 故に、そこからの展開は決まっていた。

 

 バッドエンドか、グッドエンドか、だ。

 

 ゲームがそうであったように。

 木竹と風加にも、その二つの未来は定まっていた。




展開上風加さん視点の掘り下げができないので、一行から生み出された叔母さん視点です。
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