抜きゲの鬼畜竿役に転生したけど、ヒロインの子に不束者ですがよろしくお願いされてしまった。   作:ソナラ

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7 バッドエンドが好き。

 そのまま、夕飯を食べて俺たちは帰路についた。

 話を聞いてくれとは言われたものの、その場では何となく話す気にはなれなかった。原因は風加さんが話を持ちかけた直後にやってきた、ピザを運んで回る店員だろう。

 ある意味、有り難いタイミングだった。

 

 それから気持ちを切り替えて、二人で食べれるだけ食べた。

 相手のいる食事は自然と食が進むもので、お互いにもう満腹だというところまで食べて、それに回復するまでに結構の時間を要した。

 そうして帰る頃には、もうすっかり外は夜だ。

 街頭の明かりと、まだギリギリ周囲を確認できる程度の空の明かりが、俺たちを導いている。

 

 それでも、空には星が瞬いて、月は天に登っていたが。

 

 人の姿はなかった。一般的な下校や帰宅の時間とはズレている。なにより今は春休み、学生はこれからが本番だというものも多いだろう。

 そんな街並みを、俺たちは二人で歩いている。

 

「……流石に、まだ夜は寒いですね」

「大丈夫か?」

「いえ、……この体は頑丈なので、全然問題ありません」

 

 まるで、頑丈でない身体が身にしみているかのように風加さんは言う。

 というよりも――

 

「……アタシ、前世はすごい身体が弱かったんです」

 

 ――本当に、彼女にとってそれは身にしみているのだろう。

 

「生まれた頃から、大人になるのは難しいだろうって言われてました。学校にもほとんど通えてなかったですし……」

 

 こつん、こつん。

 二人分の足音と、空を撫でる風の音。

 そして、言葉を選ぶ風加さんの声だけが、辺りに響いていた。

 

「何より、そんな状態で学校に行けばどうしたって浮いちゃいますよね。……だからいじめられて、アタシは学校にも通わなくなりました」

「……そう、か」

「おそろいですね」

 

 見上げながら、風加さんはどこか無理を感じる笑顔を浮かべてくる。

 ……そんな顔をするくらいなら、言わないでほしいとは言えなかった。言う資格が俺には無いと思ったから。

 

「そんなわけですから、前世の若かりしアタシは、それはもうディープなオタクだったわけですね」

「俺と違って、な」

「今はどっちも似たようなものじゃないですか」

 

 まぁ、そう言われるとそうなんだが……

 

「当時のアタシの好みは、独占欲の強いオレサマ系でした」

 

 それから、視線を外して風加さんはそんな事を言う。オタクなんだから――オタクにかぎらず、好み、もしくは癖というものは必ずある。

 それをどうこう言うわけではないけれど、まぁでもそういう話は聞いていて複雑な気分にはなる。

 とはいえ、どちらかというとこの発言は、まぁそうだろうなという感想のほうが強かったが。木竹竿役が最推しのオタクが、俺様系が嫌いなはずがなかった。

 

「でも、色々とコンテンツを追っかけても、深いところまでは刺さらなかったんです」

「一番深いところにある好みでも、か?」

「一番深いところにあるからこそ、ですかね……」

 

 少しピンとこなかったが、少し考えれば解った。

 一番深いところにある癖だからこそ、そこには強いこだわりがあるものだ。俺は――どうだろうな。あまり、そういうことを考えてこなかったかもしれない。

 だからピンとこないのだろうと言えば、その通り。

 

「今になって思えば、単純にそれはそのキャラが私だけを見てくれるわけじゃないから、でした」

「えーっと……俺様系で独占欲が強ければ、ヒロインだけを見るものじゃないのか?」

「物語が展開する以上、どこかで別のことを考える余地が発生しますよ」

 

 男性が複数登場するゲームなら、当然その男性同士の絡みにも需要は存在する。恋愛ゲームでも、一対一の恋愛だけを主眼においたゲームは少ない。

 つまり、風加さんの言いたいことはこうだ。

 

 常に絶対に、どんなときであろうと自分のことだけを考えていてほしい。他の男性と会話している描写すら不要。絶対にヒロインとの一対一の会話でなければダメ。

 

 あまりにも、それは。

 

「――独占欲が強すぎるのはキミの方だな」

「えへへ、そうみたいです」

 

 でもまぁ、何となく理解できる話だ。

 

「でも、アタシって常に他人とは違う環境でしたから。……ちょっと、それを特別扱いしてもらえないと、耐えられないくらいには辛かったです」

 

 他人とは違うということは、特別であると同時に孤独であるということ。周囲に共感できる仲間のいない状況は、独占欲を育てるのだ。

 ……俺が、そうであったように。

 

「だからアタシは、アタシだけを見て欲しかったんですね」

 

 ――そして、俺は知っている。

 そんな風加さんの癖を満たす作品を、知っている。

 

 

「そんな時でした、ゲームの木竹竿役に出会ったのは」

 

 

 原作。

 『鬼畜竿役と自分だけの好きにしてもいい従順な子猫』。

 

「最初に見たのは……匿名掲示板の広告だったかな?」

 

 思い出すように、風加さんは言う。どれだけゲームの内容を覚えていても、そのコンテンツとの出会いを思い出すことは難しい。

 自然と耳に入ってきたり、偶然目にしたり。

 理由は、大抵の場合有り触れているからだ。

 

「そこで、目に入ったんです」

「っていうと?」

「広告のキャッチコピー。“私だけを見て、縛り付けてください”……って」

 

 ああ、それは。

 興味を惹くだろうな、と理解する。これまでの風加さんを見ていれば、その言葉に反応することは目に見えていると俺でも解った。

 というか、そのコピーは俺も覚えがある気がするな。

 

「それで、思わずクリックして、買っちゃったんです」

「買っちゃったのか」

「はい、百円セールでしたし」

「君もか!?」

 

 ――驚くべきことに、風加さんもこのゲームを例のセールで購入していた。まさかそんなタイミングが被ることが有るとは。

 であれば納得だ、俺もそのキャッチコピーを見たことが有るのだから。

 覚えがあるどころか、たった今思い出したと言っていい。

 

「……おんなじですね」

 

 さっきまで、なんとなく声音が低かった風加さんに楽しげな高音が混じった。視線もちらりとこちらを向いて……でも、すぐに逸れてしまった。

 

「……はじめはそもそも抜きゲーっていう概念をしらなかったですから。男性向けの普通のエロゲのつもりで買いました。でも、実際には結構特殊な形態で」

「まぁ、でもエロゲとしてはそこまでおかしなタイプではないと思うよ」

 

 ミドルプライスの一対一の調教ゲー。鬼畜と言いながらも軟化して純愛によるところまで、よくあると言えばよくある代物だ。

 だが、それでもそんな普通を知らなければ、間違いなく風加さんにとってそれはオンリーワンとなる。

 

「衝撃でした、ここまでバッサリ二人の関係以外のことを切り捨てるなんて。よくよく読めば、木竹竿役にもそこそこのバックボーンがあるのは解るんですが、本編できちんと掘り下げされるのは風加子猫のことだけですし」

「……あるのか? バックボーン」

「ありますよ、といっても結構ボカすような感じなので、正しいかは確信できませんけど」

 

 ともあれ、

 

「――何にしても、アタシはそれがめっっっっちゃ刺さりました」

「お、おう」

 

 っにはすごい力が入っていた。風加さんの本気と狂気を感じるタメだった。

 

「もう、コレ以上無いくらい刺さりました。だって二人は、二人のこと以外を見てないんですもの」

「まぁ、普通ならネットを見たりとか、そういう描写も挟まるよな」

「強いて言うなら、風加子猫からラノベを取り上げるかどうかのシーンくらいですね」

 

 ああ、と俺は何気なく。

 

「あのバッドとグッドの分岐のシーンか」

 

 と、そういった。

 ――それに、驚愕したのは風加さんの方だ。

 あんぐり口を開け、驚いてこちらを見上げている。それに気付いて、逆にこちらまで困惑してしまう。

 

「覚えてたんですか!?」

「いや、まぁ……思い出したというか」

 

 まさか思い出した理由が、風加さんが推しの筋肉を推しているところで嫉妬を覚えて、そこから既視感を感じたからだとはとても言えなかった。

 

「じゃあ、木竹さんは――」

 

 ふと、風加さんの足が止まる。理由は、決して特別な理由ではない。家についたのだ、俺の家が――木竹竿役の屋敷がそこにはあった。

 

 

「どっちの選択肢を選んだか、覚えてますか?」

 

 

 風が、俺たちを薙いだ。

 

 一瞬、沈黙。

 俺がそれを思い出そうとしたから、風加さんが答えを待ったから。足が止まったから、家についたから。そんないろいろの理由から、俺たちの間に音が消えた。

 

 不自然なほどに、その一瞬は空白だった。

 

「……取り上げる選択肢だ」

 

 俺は、何とか記憶を引っ張り出して答える。意外と覚えているものだった。……多分、その後のバッドエンドと紐づいているのだ。

 あれは、とても印象にのこったから。

 

「あ――」

 

 そして、風加さんは。

 

「――――アタシも、なんです」

 

 ポツリと、そんなことを言った。

 当たり前のことだ、風加さんなら絶対にその選択肢を選ぶだろう。選んで、そしてバッドエンドを迎えるだろう。コレまでの彼女の話から、それは疑いようのない事実だった。

 

「木竹さんは、なぜそっちを?」

「……なんとなく、だろうな。もうおぼえてないけど、覚えてないってことは複雑な理由はないってことだ」

「です、よね」

 

 でも、と風加さんは続ける。

 

「……でも、アタシも選んだ理由はほとんど何気なく、でした。あの選択肢がグッドバッドを一発で決めちゃうなんて思わなかったですし……あそこは、それを選ぶのが自然だと思いましたから」

 

 言われてみれば。

 ――プレイしている時点で、そんなフラグの話知る由もない。選ぶ理由は、それまでの木竹竿役の行動を鑑みれば自然とこうなるといったような理由だ。

 それが、そこまでゲームをプレイしてきた読者が、二人に感情移入していたプレイヤーが選ぶ普通の選択肢だったというだけのこと。

 

 そうなるように、物語は描かれていたんだ。高度なことをしている……のだろう。マイナーで低予算な抜きゲーにはもったいないくらいに。

 

「そして、そこで」

 

 なんて、考えをしているうちに話は進む。

 

「アタシは、運命に出会ったんだと思います」

 

 風加さんは、そう断言した。

 運命。

 つまり、そこに風加さんの原点はある。

 ――俺は、家に帰宅したことで自然と家の鍵を開けていた。立ち止まった風加さんを追い越す形で、扉に手をかける。

 それを、風加さんは振り返って。

 俺も、視線を向けて。

 

 俺たちは向かい合う形になった。

 

 そして、

 

 

「アタシ、このゲームのバッドエンドが好きで、だから木竹竿役が推しになったんです」

 

 

 そう、風加さんは言い切った。

 ――バッドエンド。

 

 原作におけるバッドエンドは、どこまでも破滅的で、刹那的で、そして――退廃的だ。

 

 二人だけの閉じた世界。

 絶対に、お互いのことだけを意識し続ける世界。

 

 

 そして、二人きりで、死んでいく世界だ。

 

 

 それが、今俺の真後ろにある。

 二人を永遠に閉じ込める堕落の檻が、そこにはあった。

 

 

 破滅は、目の前に迫っていた――

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