多分大人組がめっちゃ頑張ったんだと思います。
コミックス六巻までのネタバレを含みます。
「――はっ!」
な、なんだか変わった夢をさっきまで見ていたような……?
ちょっと頑張って思い出してみようとしてみますが、ぼんやりとしか思い出せません。
金髪の女の人が、なにか色々と要領を得ないことを言っていたのは覚えているのですが……。
闇の血とか。一族の復興とか。
うーん。わからないものは仕方がありません。そもそも夢の話ですしね! なので私、吉田優子は、不思議な夢のことは早々に忘れて布団から起き上がることにしました。
日曜なので今日は学校はお休みですけど、今からもう一度寝直すという気分にはなりませんでした。
でも、今朝はなんだか頭が重いような。身体もちょっとふらついています……えっ。
洗面台の鏡に写る私に、見慣れないものがついていました。
ツノと、あとこれは尻尾……? なんぞこれ。
「え、ええっ!?」
なんですかこれは! なんなんですか!?
変なものがついてるんですけど!
なんでこんなものが私に生えてるんですか!?
お、おかあさーん!
なんでもおかーさんが言うには、私は封印されし闇の一族の末裔とやらだそうで、生えたツノと尻尾は先祖返りを起こした影響なんだそうです。
一族の封印を解くには、封印をした光の一族のその巫女、魔法少女を倒してその生き血を邪神像に捧げる必要があるとか。
背とか伸びたり、金運が良くなったりするそうです。
魔法少女。なんでしょう。どこかで聞いたような……?
あとおかーさん、急にツノと尻尾が生えて慌ててしまった私も悪いのですが、そんな私を落ち着かせるためとはいえ、ツノを掴んで止めるのはできればやめてほしいです。おかげで脳みそがグワングワンしました……。
「そもそも、おとーさんにも同じものが生えているではないですか」
「あ、そういえばそうでした!」
そ、そうでした。
少し呆れた様子のおかーさんにそう言われるまで私もすっかり忘れていましたが、確かにうちのおとーさんにもツノと尻尾が生えているのでした。
思い返してみると、ちょうど今の私とお揃いって感じです。
私がまだ小さかった頃から見慣れていましたから、もうそういうものとして受け入れてしまっていました。ちっとも気にしていませんでしたよ。
……そう考えると別にツノと尻尾が生えたくらい、言うほど大した事件でもない気がしてきましたね。
安心したらなんだかお腹が空いてきましたよ。
「あれ? おかーさん、お米炊き忘れてますよ」
「今月はもうお米がないのです」
今日の朝ごはんは抜きでした。
ううっ。ツノと尻尾が生えるという普通の女子高生は普通しない感じのイベントを経験しようと、うちが貧乏なのには変わりがないようです。
とりあえず封印されしご先祖様の像と、おかーさんから武器として手渡されたフォークを手に、私は町をぶらつくことにしました。
それにしても邪神像って、我が家のドアストッパーのことだったのですね。
そういえば、いつだったか昔におとーさんからも、そんな話を聞かされたことがあるような……。
それにしてはダンベル代わりに重しとしてよく使っているんですけど、ご先祖様をそんなふうに扱って本当にいいんでしょうか?
「あっ」
余計なことを考えていたら、足元の植木鉢を見落としてつまずいてしまい、ご先祖様の像を落と――ぶほっ!
植木鉢につまずいた私はそのまま電柱に激突し、さらにご近所の飼い犬に吠えられ、そしてそれにビックリして近くの水たまりへと転んでしまいました。
まるでドミノ倒しのドミノになった気分です。こんなことって普通あります!?
落としたご先祖様の像は階段を転げ落ちてしまったので、慌てて取りに向かいます。
幸い像は特に壊れている様子もなく無事に回収できました。むしろ回収した私のほうが半壊しています。
魔法少女とやらを探しに家を出たはずなのに、肝心の魔法少女を見つける前からなんでこんなことになっているのでしょうか私は……。
そうやって取り返せた安堵と疲労感から階段の下で座り込んでいると、車のクラクションが聞こえてきました。
「ひゃわー!!」
車っていうか、ダンプさん!
このままじゃヤバいです! 私撥ねられます! なのに座り込んでしまってるのですぐに動けません!
おとーさん、おかーさん、良。この際もう誰でもいいです。助けてください!
そうして私の脳内にこれまでの人生の思い出が急速に蘇り始めると。ふと桃色の風が吹いたのが視界に映った気がしました。
「大丈夫?」
どこかで聞き覚えのある声に、思わずさっきまでつむってしまっていた目を開きます。するとそこには、片手でダンプさんの突進を押さえ込んでいる女の子の姿がありました。
か、片手ダンプ!? なにあれ!
というかあれって、桃じゃないですか!
桃は私のお友達で幼馴染です。
桃のお姉さんで桜さんという方と、うちのおとーさんとが知り合いで、その縁から出会いました。それからすぐに仲良くなって今日まで付き合いがあります。笑顔がとっても素敵なんです!
それなりに長い付き合いですから、私も桃のフィジカルがだいぶヤバめなのは知っていたつもりでしたけど。しかしまさか片手ダンプしてしまう程だったなんて……。
ダンプさんが通り過ぎるのをなんとなく目で追っていると、桃が私のほうをじっと見つめてきます。
私は顔に何かついてるのかと思って自分の口元を中心に触ってみますけど、当然何もありません。起きたときにちゃんと顔は洗いましたし、朝ごはんは食べてないので食べかすもありません。
不思議に思ったので私は桃に尋ねることにしました。
「あの、桃。私の顔に何かついてますか?」
「ああ、うん。その……何かツノ生えてるなって」
「ですよね!」
ついてましたね! ご立派なのが頭に二つも!
昨日まではこんなものなかったんですから、そりゃあ桃だって気になってじろじろ見ちゃいますよね! 私だって桃にツノが生えてたら絶対見ますもん。
こんな普段のようなやり取りでやっと日常が帰ってきたような気がして。撥ねられそうになったさっきの衝撃と、幼馴染の片手ダンプの驚愕が急速に消え去っていきます。ようやく周りに目を向ける余裕が私に戻ってきました。
そうしてまず目についたのは桃の服装でした。
いつものシンプルな動きやすい格好とは違って、かわいい系の衣装でした。ヒラヒラとかいっぱいついてます。
私はこういうのも良いとは思うんですけど、明らかに普段の桃の好みからは外れています。
といいますか、よく見たらこの衣装には見覚えがありますね。
確か、魔法少女の戦闘フォームとかいうやつです。
今より小さかった頃はお願いしてときどき見せてもらってたんですけど、最近は桃が恥ずかしいとかで、ちっとも見せてくれなくなったやつです。実物をこうして見るのは本当に久しぶりです。
……ん? 魔法少女?
「って、ああっ!? 魔法少女!」
「え? うん。魔法少女だけど」
急に驚いて声を上げた私に、桃が小首を傾げて肯定してきます。けれどこっちはそれどころじゃありません。
そうです。今朝おかーさんの言ってた魔法少女ですよ。どこかで聞き覚えがあると思ったら、桃がその魔法少女なのでした。まさかこんな身近にターゲットがいるなんて。
あと桃の件で一緒に思い出しましたけど、お姉さんの桜さんも魔法少女です。
え、私これから桃を倒して生き血を奪うんですか?
握力計を振り切ったり、朝からフルマラソンするような人なんですよ? さっきなんか片手ダンプしてましたし。
しかも前に桃が言っていた話だと、桜さんはもっと強いみたいです。
いくらなんでもまぞくレベル一の私が挑むには荷が重すぎます。無理ゲーです。ちぎ投げまぞくになってしまいます。
それ以前に、いくら一族の封印のことがあるとは言っても、幼馴染やそのお姉さんの生き血を奪うなんて私としてはやりたくないです。
これでお互い初対面だったならもしかしたら話はまた違ったのかもしれません。まあ考えても仕方ないですけど。
と、とりあえず生き血のことはまたあとで考えましょう!
その後、撥ねられそうになるまでの経緯を私が簡単に話すと、桃に家まで送ってもらうことになりました。
そんなに遠くはないですし、わざわざそこまでしてもらうつもりはなかったのですが。でも事故に遭いかけた直後ですしね。こちらも強くは言えません。
それに、ツノの重みでいつもより体幹がフラフラしてるとかで、今の私は桃の目からだと見ていて少し危なっかしいそうです。
「優子、なんかちょっと元気になった?」
「ど、どうなんでしょう? 私的には特に何も変わってないような」
むしろツノが重い分、前より猫背になった気がします。
でも本当に桃の言う通りなら嬉しいですね。私は昔から身体が弱くて、色んな人に助けられながらやっと生きてこれたくらいですから。
「それにしても桃、ツノと尻尾にあんまり驚いてませんね?」
「いや、だってヨシュアさんがああだしね。だからとうとう優子にも生えてきちゃったか、って」
「なるほど!」
そうでしたね!
桃はヨシュア――うちのおとーさんと面識があります。だったらある日突然私におとーさんと同じようなツノと尻尾が生えてきたとしても、そういうものだと納得してしまうのかもしれません。
なんだかさっきから私ばかり空回りしている気がします。
そしてその後私がうっかり口を滑らせてしまい、一族の封印の話と魔法少女の生き血を求めていることが桃にバレました。
ダメ元で生き血を分けてもらえないかと聞いてみましたけど、そういうのはダメらしくてあっさり断られました。
多分桜さんに聞いても同じ回答だろうとのことです。
ぐぬぬぬ……。桃色魔法少女め!
翌朝の通学路。
「ごめん。なんかツノ生えてる?」
「そのやり取りは昨日もやりましたね……」
登校中、やって来たお友達の杏里ちゃんにも桃と同じようなことを言われました。
それにしてもこうして改めて辺りを眺めてみると、河童みたいな人とか、羽の生えている人とか、色んな人がいます。
きっと私と同じで、あの人たちもまぞくなんでしょう。
私にとっては日常の風景でしかなかったので今まで気にしたことはありませんでしたが、こうしてみるとまぞくって結構たくさんいるんですね。
案外私が知らないだけで、もしかして私の知り合いにもまぞくっていたりするんですかね?
「そのツノ、傘とか体操服とかかけられるんじゃない? そしたら腕が空くじゃん!」
「おおっ、言われてみれば。確かに便利そうです!」
ナイスアイデアです杏里ちゃん。
ではさっそく試して……あっあっ、これ無理。重っ! 首がグキって、首がグキってなります! ヤバイです、まぞくはストップを要求します!
教室に入ると、クラスの人たちからもツノと尻尾のことで色々聞かれました。
経緯などを説明したらあっさり納得してくれます。当事者の私が言うのもなんですけど、みんな適応力ありすぎませんか? 同級生の一人にいきなりツノと尻尾が生えたんですよ?
ちょっと意外だったのは、わざわざ別のクラスから会いに来てくれた小倉さんですかね。
この人、うちのアパートのお隣さんで杏里ちゃんや桜さんとも知り合いだったりと接点は結構あったんですけど、今までそんなに話したことがなかったんですよね。
だからどういう人なのか私もよく知りません。
私が現在住んでるアパートにうちの一家が引っ越してきたときから住んでますし、私が初めて会った頃からも外見がまったく変わってないんですよね。
だからてっきり私は年上だと思っていたんですけど。うちの学校の制服を着た小倉さんとばったり会ったときにはすごく驚いたのを覚えています。
小倉さんはとっても不思議な人です。本当はいくつなんでしょうか?
他にもなにか隠してませんか?
もしかすると私と同じまぞくだったりして。まあそれはさすがに考えすぎですかね。
「シャミ子」
「ひょええ!」
い、いきなり背後から話しかけるのはやめていただきたい! 心臓飛び出るかと思ったじゃないですか。
「あ、ごめんね。なんか隙だらけだったから。つい」
「なにをー! きさまやるんですか、このーッ!」
現れたのは桃でした。
それはいいんですけど、なんでこう、桃はときどきナチュラルに煽るような言い方をするんでしょう。しかも私相手にだけ。
やっぱり知らなかったとはいえ、まぞくと魔法少女故の因縁ってやつでしょうか。宿敵力高すぎません?
「――あっ、もしかしてお弁当ですか? ちょっと待っててください」
「うん。まあそれもあるんだけど。他にも用事があって」
桃は料理全然できません。ヤバいくらいできません。卵を割っただけで謎の生物を生み出したことさえあります。なので、千代田家の食卓は桜さんが主に担当しているようです。
けれど前に桃から頼まれて、それ以来こうしてたまに桃の分のお弁当をうちで作って持っていっています。材料費向こう持ちで。
まあ作るのはほとんどおかーさんで、私はちょっと手伝ってるくらいなんですけどね。
「用事、ですか?」
「急に闇に目覚めた子って、まれに闇にのまれてすごいことになるんだよね。だから大丈夫かなって、一応様子を見に」
「すごいことってなんですか!?」
お弁当を受け取っている桃からさらっと聞き捨てならない情報が出てきました。
え、私なにかとんでもないことになってた可能性があるんですか? 特になんともないので平気なはずですけど……。
「あと、昨日シャミ子のことをお姉ちゃんに話したんだ。そしたら姉からシャミ子に伝言を預かってさ」
「桜さんから伝言ですか? あの、それとさっきから気になってたんですけど、シャミ子ってもしかして私のことですか?」
「そうだよ。シャミ子って活動名なんだよね?」
「違いますけど!?」
シャミ……シャドウミストレス優子です!
確かにちょっと言いにくいですけど、桃にも昨日話しましたけど!
気がついたら勝手に決められていたものとはいえ、それでもおかーさんが頑張って考えてくれたまぞくとしての私の活動名なんです!
「まあそんな気にすんなって、シャミ子!」
「あだ名を定着させようとしないで!」
杏里ちゃんも、面白がって桃に乗っかるのはやめてください!
このままだと、明日には本当にみんなからシャミ子って呼ばれるようになってそうです。
「それで伝言なんだけど、今度ミカンがこっちに引っ越して来ることが決まったからよろしくって」
「え? ミカンって、もしかしてミカンさんのことですか? どうして桜さんがそれを?」
いえ、もしそうなら嬉しいんですけどね?
ミカンさんはよその町に住んでる方で、友達の桃に会いにときどきこの町まで遊びに来ています。私も桃経由で何度か会ったことがあるのでお友達です。
ミカンさんが引っ越してくるのはわかりましたけど、どうしてわざわざ桜さんが私に伝えてくれたのでしょうか?
「いや、元々ミカンはウガルルの子育てのためにこっちに引っ越すことを考えてたんだ。それは私もミカンから聞いて知ってはいたんだけど」
「私は聞いてないんですけど……」
「だって聞いたのチャットだし。シャミ子はスマホ持ってないでしょ?」
た、確かに我が家は貧乏なので、そういうハイテクな感じの、電話? なんてとてもじゃないですが手が出せません。
でもそれならそれで、桃が教えてくれたってよかったんじゃないですかね。
「うんそれで、シャミ子がまぞくに目覚めたのがいいきっかけだし、この機会にシャミ子の護衛魔法少女ってことにして呼んでしまおうってうちの姉が。なんかノリで」
「ノリで!?」
「他にもちゃんとした理由はあるみたいだけど、私が聞けたのはそこまで。私はてっきり、ヨシュアさんが親バカでも起こして、シャミ子専属の護衛でも姉にお願いしたのかなって疑ってたんだけどね。ヨシュアさんは何か言ってた?」
「特になにも聞いてないですね……」
少なくとも昨日のおとーさんからは、そんな話はこれっぽっちも出てきませんでした。もし本当にそんな理由だったら、さすがに娘的にはちょっと恥ずかしいです。ミカンさんとも少し顔を合わせづらくなりそうですよ。
今日家に帰ったら、念のためおとーさんに聞いてみたほうがいいんでしょうか。
それにしても、ミカンさんも魔法少女だったんですね。そういえばそうでしたね。変身してるところは何気に見たことがなかったので、すっかり忘れてました。
とはいえ私の身近からこんなにポンポン魔法少女が飛び出してくるとか、世間って狭すぎませんか?
実は他の知り合いも本当は魔法少女だったりしませんよね?
そうして話していると授業の始まりが近づいてきたので、桃は自分のクラスへ帰っていきました。
……ん? あれ? なぜかクラスのみなさんが私のことをシャミ子って呼んできます。
え、もしかしてもうあだ名として定着しちゃってる感じです? いくらなんでも早くないですか?
あ! そういえば杏里ちゃんも桃も、ずっとシャミ子シャミ子って呼んでたんでした。私、途中から訂正できてません。だからこうなったんですか!
こ、これで勝ったと思うなよー!
学校が終わっての帰り道。
私は、同じく学校帰りの妹の良を途中で見かけたので一緒に帰っていました。
なんだか私がまぞくに覚醒してからたったの数日で、今まで知らなかった事実が一気に明らかになっていきます。まるで急に世界が広がったような気さえしますね。
昨日も今日もイベント盛り沢山でした。もしかしたら明日もまた驚くような体験をしたりするんですかね。
とはいえさすがにこの帰り道ではもうイベントはありませんでした。まあそういつもいつもなにか起こるわけないですもんね。
強いて言うなら、ゾウくらいのサイズの燃える馬に乗ってる首のない騎士の人を見かけたくらいですかね。
公園でランニングしてるところならたまに私も見かけるんですけど、こんな家に帰ってる最中のタイミングで遭遇するなんて珍しいなって思いました。
「あら、優子、良。おかえりなさい。おとーさんもう帰ってきてますよ」
あ、そうなんですね。
ドアを潜ると、すぐ入り口の玄関近くにいたおかーさんからそう言われました。
私は靴を脱いで家の中へと入ります。そのまま部屋の中に進んで行くと、そこには確かにおとーさんの姿がありました。
自然と目があって、おとーさんは嬉しそうに微笑み顔になります。つられて思わず私も口元が緩みました。
「おとーさん、ただいま!」
主な改変点
・ヨシュア、桜が失踪していない
・シャミ子の健康状態が桜コア無しで原作並み
・那由多誰何絡みの魔族消失が未発生
・ミカンの呪い問題二度目の挑戦で解決済み(手順はコミックス四巻と同様)
・上記に伴い登場人物の性格や人間関係が一部変化
あくまで結果ありきで、その後の世界の様子を描くのが今回のメインです。どういう過程でそうなったかはあんまり考慮していません。
大人組が、神話の英雄ばりの愛と努力と豪運で乗り切ってどうにかしたってことにしておいてください。
最後にこの話はコミックス六巻までの知識を元に書いています。ですので、恐らくそれ以降とではどこかで矛盾が発生すると思われます。
お話は以上です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。