さてさて、またしてもやって来ましたよ、寒冷群島。
今回のターゲットは人魚竜「イソネミクニ」。
所謂「海竜種」の1体であり、小振りな頭部に胴体、細長い首と尻尾、鰭や水かきのある四肢と、基本的な要素は網羅しつつ、傘のように開閉する紫色の髪鰭、青白く光る鰓、角質化した腹部の甲殻など、他には無い特徴も多々ある。
だが、最大の特徴は口から放出する睡眠ブレスだろう。これを浴びた者はたちどころに昏睡してしまい、無防備になった瞬間、イソネミクニの強烈なタックルを食らう破目になる。
また、示威行為なのか、時折天へ向かって“歌声”を放つ事があり、その妖艶な姿は狡猾な本質を覆い隠す隠れ蓑になっている。そんな性質からか、「黄泉の歌姫」という異名を持つ。
……まぁ、近くで見ると結構不気味な顔してるんだけどね。完全に深海魚って感じ。
ちなみに、睡眠ブレスという武器を持ちながら、こいつの主食は魚介類である。縄張りへの侵入者を眠らせて捕食する事もあるが稀であり、基本的には魚や貝を食べるのだ。
余談だが、貝を食べる時は腹の甲殻で叩き割る。ラッコかな?
さて、そんな黄泉の眠らせ姫だが、生態系の地位としては中堅処である。ヨツミワドウやドスバギィ辺りとは良い勝負をするが、ベリオロスなどの上位捕食者には精々手痛い反撃をする程度で、ゴシャハギに至っては相手にさえして貰えない。
まぁ、海竜種らしい細身な上に軽量級だから、根本的に正面切って戦うのが苦手なのだろう。陸地だと動きが鈍るし。
だからと言うか、狩りの対象としては、正直そこまで強い相手ではない。睡眠ブレスは厄介だが予備動作が丸分かりであり、その上スキルで無効化すると単なる生臭い溜息にしかならないので、ボクみたいな剣士でも近接戦に持ち込めてしまう。遠距離武器であるライトボウガンは言わずもがな。
はっきり言って、今回の狩りは物足りない。
というか、ゴシャハギ時代に何度も出くわしているので、新鮮味も無い。あんまり美味しくないし。
個人的にはアルビノエキスが欲しいから、フルフル狩りをしたいんだけど。鬼人薬グレートと硬化薬グレート、飲んでみたいよねー。どれくらいパワーアップ出来るのか楽しみだなぁ。
では、一体どうして大して興味の無い狩りへ赴いているのかと言うと、
「いやぁ、楽しみですね、イソネミクニッ! どんな声で歌ってくれるんですかねッ!?」
「知らんし聞きたくない」『あぅー』
彼女は編纂者らしくモンスターの生態に興味深々で、特に見た事の無い種類に関してはゴリ押しで向かおうとする悪癖がある。記憶喪失になる前の彼女も大体こんな感じだったんだろう。受付嬢としてならともかく、旅の相棒にはしたくない。絶対に面倒な事を起こしそうだもん。
しかし、来てしまったものは仕方ない。幸い今回のクエストはフルフルを含めた2頭狩りだから良しとしよう。アヤメさんが新しい武器作りに寒冷群島の鉱石を欲しがってたから、丁度良いのかもしれない。
という事で辿り着きましたよ、「エリア7」。熔山龍「ゾラ・マグダラオス」の頭蓋骨と肋骨が鎮座する浅海のフィールドだ。人が立ち入れる領域内では中央に位置しており、結構広いので戦い易い場所である。
「おや、この光る烏賊の群れは何ですかッ!?」
「シラヌイカだな。触ると墨を吐くけど、バフ効果があるから、積極的に刺激を与えるべきだね」
「そうなんですかッ! 刺身にしましょうッ!」
「触るだけだっつってんだろ」
……本当にもう、この人は。
『グォルルル……』
『あぅーあー』
ほら、リベロも呆れてるよ。
あっ、ボクのオトモはリベロだけど、他の皆はちゃんとガルクに乗ってるよ。ヨッちゃんはまだ子供だからね、仕方ないね。
ちなみに、アイルーは誰も連れていない。ガライーバなら居るけど。本当に何故だ……。
「おーい、居るか「クスネ」?」
と、ゾラ・マグラダオスの肋骨がある崖を壁走りで登った所で、アヤメさんが誰かを呼んだ。
『呼んだかぬー?』
すると、ソウソウ草の中から1匹のメラルーが顔を出した。よく見掛ける他の連中と違い、この個体はデスギア装備で身を固めており(ただし顔の髑髏は左眼孔の周辺しかない)、大分印象が違う。
名前付きという事は、アヤメさんの知り合いだろうか?
「こいつはクスネ。見ての通りのメラルーだが、こいつとは結構な腐れ縁でね。オトモって訳じゃないが、一応は味方だと思ってくれていいよ」
『ただし、頂く物は頂くがぬー。只働きは御免だからぬー。まぁ、金と素材を貰えるなら、今は味方をしてやるぬー』
「……アンタは相変わらずね」
『褒めても何もやらぬー』
「このクソ猫が……」
なるほど、腐れ縁だ。猫って言うより鼠ぽいんだけど。
「ほれ、駄賃だ。とりあえず、イソネミクニとフルフルの動向を教えろ。他にも重要な事があるなら、それも吐け」
『しけてるぬー。ま、リハビリ中のふんたーじゃこんな物かぬー』
アヤメさんがポンと5万ゼニーを払うと、クスネはぶつくさ文句を言いながら情報を纏め始めた。
いや、5万ゼニーって結構な額だと思うんだけど。それだけで上位武器が作れちゃうし。結構金持ってんね、アヤメさん。流石は金食い虫なライトボウガンを使っているだけはある。
でも、大型モンスター2体が相手とは言え、そこまで金を掛ける必要はあるのだろうか?
『というか、フルフルとイソネミクニぐらいなら、わざわざアタイに頼らずとも、事前情報なしでもお前1人でいけるんじゃないかぬー?』
ほら、クスネさんも同じ事を考えてる。
「……命より高い買い物は無いよ」
そう言って、アヤメさんは己の膝を見下ろした。
ああ、なるほど、そういう事か。そりゃあ、慎重にもなるわな。
「それに気になる事もある」
『ぬー?』
「出発前にギルドで聞いた話だが、最近ここらで幽霊を見たってハンターが居るらしい。それも
『えぇ……』
何それ怖い。動く死体って、ゾンビじゃん。
「何か知らないか?」
『うーん、アタイは何とも……いや、大ババ様が何か言ってったぬー』
「大ババ様? 寝たきりで今にも死にそうな、あの人がか?」
『そーそー。譫言で「悪しき赫耀が降って来る」って怯えてたぬー。実際この所、夜空に赤い彗星っぽいのが流れてるぬー。確かにあれは、不吉な感じだぬー』
「そうか……」『………………』
悪しき赫耀……赤い彗星……いや、まさかな。
『まぁ、とりあえず今分かる情報はそれに書き記してやったぬー。精々死なないように頑張るぬー』
何やら意味深な言葉と情報が記されたスクロールを残して、クスネはそそくさと立ち去ってしまった。狩りには参加しないらしい。あくまで情報交換だけか。実にメラルーらしいなぁ。
「よし、イソネミクニもフルフルも「エリア11」付近に巣食っているらしい。他にもティガレックスがポポを求めて滞在中らしいから、気を付けていくぞ」
『おー』「分かりましたッ!」
そして、ボクたちは一抹の不安を抱えたまま、「エリア11」の洞窟地帯へと足を踏み入れるのだった……。
◆イソネミクニ
海竜目海竜亜目人魚竜下目イソネミクニ科に属する海竜種。別名は「人魚竜」。異名は「黄泉の歌姫」。皆のあだ名は「クソネミ」か「クソネミクニ」。
典型的な海竜種の体格をしているが若干小柄であり、頭に生える髪ヒレが大きな特徴。好物は魚介類で、特に貝類に目が無い。
催眠ブレスを得意としており、縄張りに侵入した外敵を一瞬で眠らせてしまう。時には古龍でさえ昏倒させる程の威力を秘めているので、絶対に浴びない事。
また、ビシュテンゴのように食べ物を武器にする事もあり、硬質化した腹部の甲殻に打ち付けて叩き割る事で“閃光”や“爆発”を起こす。イソネミクニじゃなくて貝が凄いとか言ってはいけない。他にも強靭な尻尾で立ち上がる事もあるなど、何かとビシュテンゴと共通点がある。一体何の因果だ。
ちなみに、戦闘中には聞けないが、異名通り時折“歌声”を発する事があり、しかもエリア毎に曲調が違ったりする。もちろん、奇麗な歌声とは言い難いが……。