とりあえず、狭い場所ではデカ過ぎて邪魔になるリベロは入り口の歩哨に立てて、薄暗い洞窟の中を進んで行くと、
――――――アァアア~ゥハァアアアァアア~♪
奥から響いてくる、不気味な歌声。抜き足差し足で近付いてみれば、
「居たな」『くぅ~』
『あーう』
「……、…………!」『ビチビチ』
居た居た。薄気味悪い人魚姫が。
ちなみに、ウケツケジョーは声が煩いので、アヤメさんのガルクに口を塞いで貰っている。必死に何か言おうとしてるけど、喧しいから大人しくしてろ。
さて、どう攻めたものかな。イソネミクニは今、ボクたちには全く気が付いていない。呑気に歌いながら、水浴びしている。お前は本当に野生動物なのか。
『どーぅ?』
「……そうだな。一先ず、アタシが麻痺弾で動きを封じてから、減気弾で体力を奪う。その隙に一気に攻めな」
『あいあい』
その後は会心の一撃でKOして、一斉攻撃をするんだね。素晴らしい作戦じゃないか。やっぱりガンナーが居ると大分違うなぁ。
それじゃあ、作戦開始――――――、
『……ん?』
だが、いざ動こうという時に、ウケツケジョーの霊圧が消えた。振り返ってみれば、ガルクすら居ない。在るのは無明の闇、虚空の間。
ウケツケジョーは一体何処へ……?
――――――ドワォッ!
『ホワァォオオオオオオオッ!?』
「あべばーッ!」『キャィン!』
何事ぉっ!?
いきなり上から爆風が来たんですけどーっ!?
さらに、ドチャリと落ちて来る、粘液塗れのウケツケジョーとガルク、
『ホァァアアアアォオオオッ!』
「フルフルだとっ!?」『わー!』
そして、つるつるブヨブヨな白い皮膚が特徴の飛竜種、奇怪竜「フルフル」。今回のもう1体の狩猟対象だ。
……って、フルフルぅ!?
こいつ、天井に張り付いて待ち構えてたのか!?
『キュァアアアアアアアアアアアアアッ!』
「気付かれましたッ!」『「くっ……!」』
当然、ここまで大騒ぎをすればイソネミクニにも気付かれる。
なるほど、そういう事か。ボクがリベロを見張りに立たせたように、イソネミクニもフルフルを天井に潜ませていたんだな。フルフルはアサシンか。
しかし、悪くない生存戦略である。
イソネミクニの弱点は雷属性なので相性が悪いのだが、フルフルもイソネミクニの操る爆破に弱い為、そのままだと下手をすれば同士討ちになってしまう、五分と五分の関係性だ。
だが、こうしてフルフルが洞窟の入り口付近に潜み、イソネミクニが歌で獲物を誘き寄せれば、理想的な共生関係に早変わりする。イソネミクニが魚介食なのに対して、フルフルは基本的に陸生の小動物を食べるので、餌の被りも殆ど無い。フルフルが苦手な炎属性を扱うモンスターはイソネミクニが始末してくれる。まさしく小指が赤い糸で繋がっているコンビ。
まぁ、どちらかが弱れば餌になる事に変わりは無いのだが。共生関係なんて案外そんな物である。
いや、言うてる場合か。想定し得る中でも最悪のパターンだぞ、これ。こんな狭い場所で2頭狩りとか、不利過ぎるにも程がある。
「このっ……!」
イソネミクニの高速突進を躱したアヤメさんが麻痺弾を撃ち込もうとするが、
『ホヴァアアアアアヴォオオオオオオオオッ!』
「ぐっ……!」
後ろからフルフルが咆哮で身体を硬直させた。
『キィキィ!』
「ぐはぁっ!」
そこへイソネミクニが髪ヒレから無数の棘矢を放つ。これらは地面に突き刺さった後も切れ味を失わず、触れただけで裂傷を負わせる設置トラップとなる。
『キキキキキキッ!』
さらに、怯んだ隙を突くようにイソネミクニが再び突進を繰り出す。何て厭らしいコンボだ。
『ヴォオオオオッ!』『キュァッ!?』
だが、アヤメさんは独りじゃない。ボクという相棒が居る。ガードタックルをダブルで叩き込み、真っ向からイソネミクニを吹き飛ばしてやった。そこから1発、2発、3発と、集中溜め斬りを食らわせていく。
『ホワォッ!』『グルゥッ!』
背後からフルフルが首を伸ばして来たが、牙獣種由来の人間離れした跳躍力でイソネミクニの尻尾側に着地し、大地を列斬してストーンエッジを巻き起こして、諸共浮かび上がらせた。
「……ナイスだユウタ!」
そして、衝撃で硬直したフルフルの頭部へ、アヤメさんが扇回跳躍で超爆竜弾を直接撃ち込んで、間を置かずに貫通弾Lv1を速射で叩き込む。弾丸の刺激に反応して超爆竜弾が連続で爆発を起こし、フルフルに少なくないダメージを与えた。
「アタシに乗られなっ!」『ホヴァッ!?』
『キュァアアアアアッ!?』
さらに、操竜状態へ持って行き、イソネミクニと同士討ちさせる。弱点である雷属性を食らったイソネミクニは堪らず気絶した。まさに千載一遇のチャンス。
「フンッ!」『ホワァォッ!』
しかし、アヤメさんは敢えてイソネミクニには止めを刺さず、フルフルに踵を返させて、洞窟の出口へと向かった。戦力を分断して戦い易くするつもりなのだろう。
それに出入り口付近にはリベロが待ち構えている。今度はこちらが2対1を強いれるという訳だね。最高の展開じゃあないか。
「……って、危なっ!?」
『グルヴォッ!?』『ホワァアアォッ!』
『えー……』
そこはちゃんと決めて下さいよ、皆さん。本当に出入口間近で待機していたリベロに勢い余ったフルフルが突っ込んで、全員共倒れになっちゃったよ。なぁにこれぇ?
とは言え、今度はボクがリベロに跨れば良い話である。何となくで行くぞ、リベロ!
『コォオオオオッ!』
『ホォオオオオン!?』
先ずはリベロの氷ブレス。氷やられと拘束を同時に行える便利な技だ。他の技が隙だらけなだけとか言わない。
『ヴォッ!』『グルヴォッ!』
『ホギャォオアアアオォッ!?』
そして、動きが止まった所にジャンピングプレス。これぞベリオロスの操竜黄金パターンだよね。すぐに次の氷ブレスに繋げられるから、絶え間なく攻める事が出来る。
さぁさぁさぁ、このままリベロの餌にしてやるぞ、フルフルさんよぉーっ!
と、その時。
――――――キィイイイイイン!
天を赫い彗星が通り過ぎた。
さらに、空より降り注ぐ赫揺れる流れ星。それらは藻掻き苦しむフルフルや浅い海面を穿ち、
『……ぁぁああ』『おぉぉ……』『うぅぅ……ぁあ……』
凍て付く水底から、寒冷群島に眠る
……って、いやいやいやいやいや、イヤァアアアアアッ!?
本当に動く死体なんですけど!?
恰好からしてハンターか密猟者だと思われるが、そんな事どうでもいいわ。何で屍が歩くんだよぉーっ!?
『あぁあうぅううあああっ!?』『グルヴォッ!?』
「お、落ち着け、落ち着くんだよ、ユウタ、リベロ! 落ち着いて「モチツキウス」を探せ!」
あんたが餅付けぇえええっ!
「これは何たる事ですかッ!? 本当に動く死体が居ますよ!?」『ビチャビチャ』『きゃわ~ん!?』
ああ、居たんだね、ウケツケジョー(とガライーバ&ガルク)。声が煩いんだよ。
「……って、気持ち悪ッ!?」
と、ウケツケジョーがフルフルの方を指差して叫ぶ。確かにフルフルは気色悪いけど、今はそんな事を言ってる場合じゃ――――――、
『ウフフ』『アハハ』『エヘヘ』
『りょうさんきぃいいいいっ!』
「いや、何の量産機……エヴァアアアアアアアッ!?」
前言撤回、最高に気持ち悪い事になっていた。フルフルの口が裏返り、中から無数のオリジナル笑顔が飛び出していたのだ。何がどうしてそうなった!?
『キヒィイイッ!?』
これには復活したイソネミクニもビックリ。一瞬で洞窟の奥へUターンしていった。気持ちは分かるが、少しは躊躇えよ。
『アハハハハハハハハハハハ!』『あぁぁ』『おおぉ』『うぅぅ』
「『うぁあああああああッ!』」「バイオハザードぉおおおっ!」
そして、押し寄せるゾンビの群れと顔面量産機フルフル。キモ過ぎるぅ!
「アタシの傍に近寄るなぁーっ!」『ヴォオオオッ!』『コォオオオッ!』
だが、所詮は生ける屍。生前よりも遥かに脆い身体は即座に砕かれ、完全に海へと還った。
『アァァアアン♪』
裏返ったフルフルを除いて。喘ぐな。
『ウフフフ……アッハハハハハハッ!』
これは……サンダーッ!
『しびれぇえええええっ!』
しまった、麻痺ったぁ!?
「ユウタ! このぉっ!」『グルヴォオオッ!』
『あはぁぁあんん♪』
しかし、アヤメさんとリベロが全力で止めてくれたので、追撃は来なかった。
くそっ、早く麻痺から脱却しないと。
「行って下さい、エヴァちゃん!」『ガブガブ』
ガライーバァアアアッ!
お前、そんな名前貰ったんかぁ!?
だが、おかげで痺れが取れた。よしゃあああああっ!
『ヴォオオオオァアアアアッ!』
『きゃはああああああああん!』
復帰したボクの鬼人空舞が悪魔のフルフルを滅多切りにして、その息の根を止めた。肉質と属性耐性が下がっていたのか、殆ど抵抗なく切り刻む事が出来た……のは良いけど、最期まで気持ち悪いな、君は。絶頂して死ぬなよ。
「た、助かりましたねッ!」
「そうだね……」『うぅー』
こうして、ボクらは不気味な死者の軍勢に引導を渡す事に成功した。
しかし、イソネミクニは取り逃がしたので、クエストは失敗に終わりましたとさ。チャンチャン♪
◆フルフル
竜盤目竜脚亜目奇怪竜下目稀白竜上科フルフル科に属する飛竜種のモンスター。長らく付いていなかった別名は「奇怪竜」。異名は「白い虚無」。
別名の通りギギネブラの近縁種で、眼が退化した口だけの顔と粘液塗れの白いブヨブヨした皮膚が特徴的な、気持ちが悪過ぎる姿をしている。分類こそ飛竜種だが飛ぶ事は殆ど無く、吸盤化した爪や尻尾で洞窟の天井に張り付いている事が多い。捕食の際は首の関節を自ら外し、強靭な筋肉で支えながら、にゅる~んと伸ばして不意打ちを仕掛けて来る。気色悪過ぎんだろ……。
体内に電気袋という発電器官を持ち、強力な放電攻撃で相手を痺れさせる事が出来る。この能力は敵の排除や捕食に使われるのだが、繁殖行動の時にも利用され、感電させた生物の身体に卵を産み付け、幼生たちは内部から宿主を食い破って巣立って行く。エイリアンかな?
ちなみに、こんな気持ち悪過ぎる見た目と性質を持っているにも関わらず、「そこが良い」というファンが意外と居たりする。しかも何故か女性から人気がある模様。どういう事なの……?