とっとこ歩くよディアブロス~♪ 大好きなのは~♪
『『もしゃもしゃ』』
「サボテンをもしゃもしゃしないで下さいッ! そそられますッ!」
そそられるじゃねぇよ。どうせ食欲だろうけど。
さてさて、エリア11の日陰で休みつつ、皆でサボテンパーティをしている訳だが……意外とサボテンうめぇ。種類によってはエグ味が酷いらしいが、この王様サボテンは普通に美味しい。味気ないと言われればそれまでだけど、このクソ暑い砂漠のど真ん中で食べるには最高に瑞々しい食材だ。ステーキにするのも良いが、火を起こす気にならないので生で行きます。そう言えば「火炎草」もサボテンらしいけど、どんな味がするんだろうね?
――――――それにしても、このディアブロス、大人し過ぎない?
威嚇にビビる時点で既に異常だったけど、ボクが弱っているのを察して日陰に移動し、剰え自分の主食をご馳走してくれるなど、ディアブロスという種族どころか野生動物では絶対に有り得ない。特に砂原のような厳しい環境では、尚更の事。
さっきは脅してゴメンね。大型モンスターと仲良くなれるなんて、今までこれっぽっちも考えてなかったから、新鮮な感覚である。これからは大型モンスターにも、もっと優しく接してみよう。
……よく考えるとリベロは大型モンスターだし、この子は中型サイズだから、そのまま当て嵌めるのはどうかと思うが。彼女には是非とも幸せな竜生を送って欲しいなぁ。
「さて、腹ごしらえも終えた事ですし、本来の仕事に戻りましょうッ! 「エリア12」へ向かいますよッ!」
『うー』
「唸らないで下さいッ!」
『うっ!』
「吐かないで下さいよッ!?」
大丈夫、その時は君の顔にぶっかけるから。元気にサボテン食い散らかしやがって。恥を知れ。少しはこのディアブロスを見習え。どう見てもお淑やか系のヒロインだぞ。
まぁ、ふざけるのはこれくらいにして、本題に入ろう。こんな暑い場所、何時までも居たくないし。
という事で、エリア12に到達。数多くの遺物が残る人工的なエリアであり、幻の環境生物「キングトリス」も時折現れるという、色々な意味で編纂者には垂涎物な場所だ。
「では、ジャギィの排除、お願いしますッ!」
『グヴォオオオッ!』
ただし、大型モンスターの寝床にされがちな上にジャギィやジャギィノスが巣食っているので、先ずは邪魔者を排除しないと話にならなかったりする。
『ク、クェ~ン!』
君は無理しなくていいからね、ディアブロスちゃん。流石にジャギィなんぞに後れを取る程、弱ってないからさ。
『ギャワンギャワン!』『キューンキューン!』『ギジャアアアッ!』
突如現れた外敵たるボクたちに、ジャギィノスとジャギィたちが耳つんざく吠える。
ジャギィとは“狗竜系”という鳥竜種の一角で、最も基本的な「狗竜」に属する小型モンスターである。親玉たるドスジャギィと雌のジャギィノスを中心とし、それらを若い雄であるジャギィが取り巻くという構成で群れを作っており、先ずジャギィが突っ込み、次いでジャギィノスが攻撃を仕掛け、最後にドスジャギィが止めを刺す、というパターンで襲い掛かって来る。
ようするに、鉄砲玉(子分)→若頭→組長という順番で攻めて来る訳だ。ヤクザか。ジャギィ系統は基本的に肉弾戦しか出来ない脳筋スタイルなので、組織立った動きを取るのは妥当なのだろうが。
ま、こいつらの攻撃力は高が知れてるし、適当に殴るだけでも倒せるんだけどね。何かドスジャギィが不在みたいだし。
さぁ、一丁殺ったるかぁ!
『ピュァアアアン!』『う~?』
と意気込んだ、その瞬間。ボクは何かに鷲掴まれ、空へ掻っ攫われてしまった。えっ、何これ、どういう事?
……いやいやいや、言うてる場合か。空を飛んでるって事は、今ボクを鷲掴みにしているのは大型の飛竜種という事である。
ならば、このまま連れ去られるのはマズい。リオ種だったら巣に運ばれて雛の餌にされるし、それ以外でも何処かで美味しく頂かれてしまう。
『たべないでくださ~い!』『ピァアアアッ!?』
ボクは鬼人化して、鷲掴むナニカの拘束を力尽くで脱出した。
『わーっ!』
思ったより高かったぁっ!
『あべしっ!』
あぅーん、痛ぁい。でも、予想よりも痛みが少ないぞ?
……この照り付ける暑さ、口や鼻に嫌でも入って来る砂塵、無駄にデカい大蟻塚――――――もしかしてここ、「エリア9」か!?
『ピュァアアアン!』
さらに、目の前に降り立つ、金色に輝く刃のような鱗で身を包んだ大型の飛竜。翼を地に着ける姿はワイバーン骨格のモンスターを思わせるが、発達した長い後脚と物を掴むのに適した対趾足、オウムなどの鳥を連想させる頭部を持つ、一種独特かつ唯一無二の全容が特徴的なレックス型のモンスター。
『ピキュァアアアアアアッ!』
そう、空の王者リオレウスのライバル、千刃竜「セルレギオス」だ。何で居るんだよ!?
セルレギオスは元々「未知の樹海」というゴルドラ地方の極一区画にしか生息していない、割かしレアなモンスターだった。一時期放浪の旅に出ていたボクも、過去に一度、事変が起こる前に縄張りを追われ衰弱した個体を見たのが、最初で最後である。
だが、狂竜ウイルス(つまりマガラ種の繁殖活動)に端を発する「セルレギオス事変」によって現大陸の各地へ離散してしまい、生息域が大幅に増えたという、これまた珍しい経歴を持っている。
その後は狂竜症による騒動も治まり、セルレギオスたちも未知の樹海へ戻るかと思われたが、一部はそのままデデ砂漠などに定住してしまい、少なからず近隣の集落に被害を齎しているという。
そして、カムラの里では今まで一度も棲息が確認された事は無い。つまり、砂原に居る筈が無いのだ。また何か起きたのか?
『キュァアアアッ!』
しかし、そんなの関係ねぇとばかりに、セルレギオスが刃鱗を飛ばして来た。この鱗は衝撃を与えると炸裂する性質を持っており、着弾すると複雑な傷により動く度にスリップダメージを負ってしまう“裂傷状態”となる。
是非ともガードタックルで防ぎたい所だが、こいつはリオレウスと違って飛行中の小回りが利くので、“次”に備えるべきだろう。
『ピュァアアッ!』
出たよ、空中鳥脚キック。急降下しながら連続で蹴り付けて来る、セルレギオスの代名詞的な技である。
だが、今のボクには鉄蟲糸技がある。朧翔でカウンターしてやるぞーっ!
『はにゃん……』
駄目だ、暑さで力が出ない~!
『ピュアアアアンッ!』『わきゃーっ!』
しまった、真面に食らっちゃった。続く刃鱗も直撃し、見事に裂傷状態に。やっぱり砂漠のボクは駄目駄目だぁ……。
『ピュァアアッ!』
「させませんッ!」『ガヴォオオッ!』
『ピキュァアッ!?』
しかし、止めの鷲掴み引っ掻きが繰り出される前に、突如として眩い光が炸裂し、次いで何かがセルレギオスを吹っ飛ばした。というか、アンジャナフを操竜したウケツケジョーだった。だから何でお前はカムラ人並みに翔蟲を使い熟してるんだよ!?
『ピュアアアン!』『グヴォオオン!』
割と直ぐに立ち直ったセルレギオスが果敢に反撃するものの、人の手が加えられたアンジャナフの攻撃は何時もの力任せな物ではなく、上手く躱した後に繰り出される強攻撃の数々に圧倒され、最後に大技を食らってダウンした。
「これでも食らいなさいッ! そーいッ!」
『キィイイイ……ッ!』
さらに、着地狩りの形で落とし穴に嵌められ、動けぬ所へ大タル爆弾Gを2つも設置された末に投げクナイで爆破されてしまい、頭部が大分悲惨な事になってしまった。凄い手慣れてる……。
「そりゃそりゃそりゃッ!」
『クギャアアアアアアッ!』
そして、穴から抜け出した後も痺れ罠で拘束されて、スリンガーアクションで頭に飛び乗ったウケツケジョーにクナイで滅多刺しにされるなど、中々に酷い目に遭っている。ちょっと可哀想になって来たな。
『キャォオオオッ!』
流石にこれ以上は付き合えないと見たか、セルレギオスは砂原のエリア外へ飛び去って行った。棲み処は別の場所にあるのだろう。
『どぅーも』
まさかウケツケジョーに救われるとは思わなかったが、助かったのは事実。ボクは素直にお礼を言った。
「いえいえッ! それよりも、調査に戻りますよッ! そっちではしっかりと頼みますねッ!」
そんなこんなで、ボクたちは遺跡調査に戻るのだった……。
◆セルレギオス
竜盤目竜脚亜目刃鱗竜下目レギオス科に属する大型の飛竜種。刃のように鋭い黄金の鱗で全身が覆われ、ヘビクイワシによく似た長い後脚やオウムのような頭部など、全体的に竜と言うより怪鳥を思わせるシルエットをしている。
空の王者リオレウスの正式なライバルであり、後述する鱗を飛ばしたり素早い連続キックを繰り出すなど、尻尾や火球をメインに据えるリオレウスとは真逆の戦闘スタイルを取る。縄張り意識が強く、他の大型モンスターを追い出した上で同種同士による群雄割拠を繰り返すという、戦国大名みたいな生態を持つ。
セルレギオスの鱗は刃のように鋭く、着弾すると炸裂する特性を持っており、これを獲物や敵にぶつける事で裂傷状態に追い込む。その性質故にハンターズギルドでは「刃鱗」と呼称している。
一ヶ所で殺し合いをするという生態を持っている為、本来は殆ど人類と関りの無い生物だったのだが、近年になって何処ぞのホームシック古龍のせいで大陸各地に離散してしまい、生息域が急速に拡大してしまった。
それでもカムラの里周辺に棲息は確認されていなかったのだが、何故か突如として砂原に出没するようになった。