第3次百竜夜行より暫く。
「おお、無事であったか、編纂者殿!」
「ハイ、第3次百竜夜行にも間に合わず、遅くなってしまって申し訳ありませんッ!」
「構わん。これはカムラの里の問題。無事に帰還してくれただけでも有難いくらいだ」
「豪放磊落ですねぇッ!」
「ウム、よく言われる!」
「「ハッハッハッハッハッハッハッ!」」
カムラの里にウケツケジョーが久し振りに帰還した。
……ハイハイ、アタシだよ。第3次百竜夜行後、お医者のゼンチさんから『お前、いい加減にしないとマジで死ぬニャ』という呆れ言葉と共に約1ヶ月の絶対安静を告げられたアヤメだよ。
まぁ、そりゃそうだよね。冷静に考えたら、アタシあの場で即死しててもおかしくなかったもん。“アタシもやっぱりカムラ人なんだなぁ”としみじみと思ったものだ。ハバエナスもアトラファルクも、あの後は不気味なくらい姿を見せなかったし、もう1匹の風神龍(イブシマキヒコというらしい)も動向が掴めてないらしいから、有難く休ませて貰いましたとも。そうだよ、アタシってば、療養しに里帰りしたんじゃん。
――――――さて、それはそれとして、ウケツケジョーについて話そう。
第3次百竜夜行の後、ユウタたちは程なくして帰って来たのだが、彼女はそのまま調査に奔走しており、今になってようやく帰還したのである。後にウツシも巻き込んで調べる辺り、結構重大な情報を掴んだようだ。ご苦労様ですこと。
そして、満を持して本日、カムラの里へ戻って来た訳だが、ウケツケジョーは1度飯を食べた以外は休憩らしい物は取らず、そのまま里内会議を開いてしまった。ワーカーホリック過ぎませんかね。本人は「重大発見なんです!」と発表したくてウズウズしているので、問題無いのかもしれないけど。
ちなみに、参加者は里長、ゴコク様、ウケツケジョー、ウツシ、シュヴァル、それと何故かアタシだ。帰りたいなぁ。リュートやナビルーは療養してるのに、何でアタシは強制参加なんだよ。全部ウツシのせいだ(暴論)!
それはそれとして、はてさて、一体どんな重大事変を発表してくれる事やら。
「ハバエナスとアトラファルクの正体が分かりました!」
いきなりぶっ込んできましたねぇ!?
「ほぅ、それは素晴らしいな!」
「でしょうッ!? もっと褒めてくれても良いんですよッ!?」
「ウム、大儀であった!」
「「ワッハッハッハッハッ!」」
いや、笑ってないで話を先に進めてくれませんかね、里長とウケツケジョーさんや。
「……で、ハバエナスに関してですが、もぎ取られた巨大な翅を見付けましたッ!」
ウツシも言ってたけど、本体は見付からず、巨大な翅だけが発見されたんだっけか。
「それは先の戦いのダメージで破損した、という事か?」
当事者の片割れにしてライダー筆頭のシュヴァルが尋ねる。普通はそう判断するわよね。
「いえ、おそらく自分で抜いたんでしょうッ! どうやら彼女たちは“社会性”を持っているようですし、女王蟻がそうであるように、役割が済んだから破棄したに違いありませんッ!」
だが、ウケツケジョーの答えはやはりぶっ飛んでいた。
『女王蟻が翅を抜く時……それはつまり、“繁殖”の態勢に入った、という事でゲコね?」
「その通りですッ! 姿を見せないのも、壁画にある通り、“
ゴコク様の勘は妙に当たり易いから嫌なんだよ……。
つーか、ハバエナスってアトラル・カの特殊個体なんじゃないのかよ。
「それで、ハバエナスの正体と言うのは?」
「――――――これはサンプルを基にした仮説でしかありませんが……あれは一種の“完成形”なんですッ!」
『話が見えんでゲコね。分かり易く言うと、どういう事なのでゲコ?』
里長とゴコク様の質問に、ウケツケジョーにしては珍しく、一瞬だけ溜めて答える。
「あの巨体は、
……どういう事だってばよ?
「どういう事だってばよ、と言いたい顔ですね、相方ッ!」
「こっちに話題を振らないでくれる?」
「だけど「アトラル・ネセト」については知っているでしょうッ?」
「人の話聞けよ」
いや、まぁ知ってるし、気になるから良いけどさ。
「あれでしょ? アトラル・カが瓦礫を糸で組み上げて造る、要塞みたいな巣の事でしょう?」
そう、ちょっとデカいだけの甲虫種であるアトラル・カを、ハンターズギルドが古龍種や古龍種級生物並みのモンスターとして危険視する理由がここにある。
アトラル・カは人工物を糸で組み合わせる事で「アトラル・ネセト」という巨大な要塞を築き上げる習性があり、その材料集めの一環として人口密集地を襲撃する事がある。只の瓦礫ならまだしも、撃龍槍まで取り込んで武器にしてくる為、並の大型モンスターとは比較にならないくらいに危険なモンスターなのである。
さらに、蟲とは思えないくらいに知能が高く、材料の特性を理解しているばかりか、“こうされたら相手も嫌だろう”という事まで考えて攻めて来るので、ある意味古龍よりも厄介だ。古龍は基本的に人間を歯牙にも掛けないけど、アトラル・カはしっかりと相手を見定めて攻撃して来るからね。まさに知恵ある悪魔である。
そんな特性からか、ギルドは過去に討伐した個体の持っていたアトラル・ネセトも未完成であるとし、もしも完成してしまえば手が付けられなくなるだろう、と考えているという。
「……じゃあ、あれがギルドが危惧していた、完成形なの?」
「あくまで1つの形でしかないのでしょうが、そう考えるべきかもしれませんッ! 何せ接着剤でしかない筈の糸に血管や神経のような物も見受けられましたし、おそらく本体のアトラル・カは心臓兼脳髄としてしか機能していないと思われますッ! つまり、ハバエナスとはアトラル・カとアトラル・ネセトが細胞レベルで融合した、“半機械生物”とでも言うべき存在なのですッ!」
「………………!」
ウケツケジョーの言葉に、アタシは絶句した。皆も二の句が継げなくなった。それ程までに、衝撃的な調査結果だったからだ。
「……アトラファルクに関しては?」
「サンプルが少なくて断言は出来ませんが、奇しき赫耀の特性を見る限り、たぶん過去にマガラ種かネルギガンテを捕食し、自己進化した存在だと考えられますッ! ただし、本来在るべき姿ではない、完全に生態系の枠を外れてしまった存在なので、共存は不可能でしょうッ! 何せ彼らと違い、リミッターが一切無いですからねッ!」
そして、ウケツケジョーは最後にこう締めくくる。
「――――――そして、稲妻を纏う奇しき赫耀や捕食された風神龍、その後の動向を鑑みて、ハバエナスもアトラファルクも完全態ではありませんッ! 壁画のように、風神・雷神、両方を取り込む事で真の力を発揮するのでしょう! だから、我々は消えたイブシマキヒコだけでなく、それを虎視眈々と狙う彼らの動きにも注目しなければなりませんッ! 時期は分かりませんが、確実に“最終戦争”とでも言うべき、三勢力による三つ巴が勃発するでしょうッ! どれが生き残っても我々に未来はありませんッ! それだけは絶対確実ですッ!」
……夢なら覚めて欲しい、切実に。
◆アトラファルク
“悪しき赫耀の死兆星”の正体。天彗龍バルファルクの異常個体であり、過去にシャガルマガラを取り込み自己進化した存在である。ウイルス性の龍気で他生物を侵し、奇しき赫耀に書き換える能力を持つ。その白銀の装甲はあらゆる兵器が意味を成さず、風雷合一した彼が天より墜ちる時、世界は終わりを迎えるという。
ちなみに、現在活動中の個体は2代目で、初代はハバエナスとの殺し合いにより生態系が完全崩壊する事を危惧したミラ系統の禁忌たちの手により討伐された……が、殺される前に次代を遺し、グラン・ミラオスを道連れにするなど、往生際の悪さも含めて相当な力を持っていた模様。それは2代目も然り……。