泣いた雪鬼   作:ディヴァ子

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夢も希望も無い話が続いていたノデ、たまにはハートフルな話を書こうかと思いマス。


ときめく家出の旅

 とある暗い晩。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 暗い森の中を、独りの少女が直走っていた。全身が傷だらけの泥まみれで、衣類もボロボロと、実に酷い有様になっている。息も完全に上がっているし、どう考えても限界である。

 だが、少女は足を止めない。少しでも立ち止まったら、終わりだと分かっているから。

 

 

 ――――――ガッ!

 

 

「あっ……!」

 

 しかし、世は諸行無常なり。どんなに努力しても、結果に繋がるとは限らない。むしろ、こうして無為に終わる事が殆どだ。

 そして、

 

「あ……あぁ……っ!」

 

 痛む脚に涙しながらも、思わず振り返ってしまった、その先には……、

 

『遊ぼう♪ 一緒に遊ぼうよ♪』

「いやぁあああああああああ!」

 

 闇が来ていた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 ハ~イ、ボクだよ、アトラファルクに不意打ちされて気絶している間に第3次百竜夜行へ参加し損ねた、お間抜けな元ゴシャハギのユウタだよー。

 うーん、本当に悔しいね。古龍の襲撃を受けたとは言え、一大事に駆け付けられないなんて、恥さらしにも程がある。ゴシャハギらしくないボクでも、戦闘本能くらいはあるんだよ。

 

『グルヴゥ~』

『あぅー』

 

 おお、慰めてくれるのか、リベロ。

 でも君、確か第4砦の方で活躍したんだよね?

 何でもセイハクくんたちのピンチに駆け付けて、その命を救ったんだとか。

 さらに、百竜夜行に乗じて何かしらを成そうとしていたルナガロンを撃退し、その後に襲撃して来た奇しき赫耀のバルファルクも討伐したらしい。アヤメさんにも負けないどころか、最高に華があるやないか。ふざけやがってぇ!

 こういう時は、

 

『あそぼー』

「……あん? ああ何だ、ユウタかよ。……どうする、お前ら?」「良いっスよ!」「……リーダーがそう言うなら」「コミツもさんせい~♪」

 

 子供らしく皆と一緒に遊ぼう!

 皆もセイハクくんを中心に“狩りごっこ”するつもりだったみたいだし、丁度良かったかもね。

 

「やぁ! 今日はジンオウガ、行っておくかい!?」

 

 モンスター役は、通りすがりのウツシ教官。この人、モンスターの鳴き真似が得意というピンポイント過ぎる特技を持っているから、まさにハマリ役である。

 

『アヴォオオオオオオン! アォ――――――あたたたッ!?」『ピュイピュイ!』

 

 まぁ、そのせいでこうしてフクズクに突かれる訳だが。どうせ嬉しいんだろ?

 

「よし今だ、一斉に飛び掛かれ!」「「「ハーイ!」」」『がおー!』

「いや、あの、ちょ――――――そこはらめぇ!」

 

 それにしても、こうして遊んでいると、皆(ボクを含めて)子供なんだなぁ、と思う。

 セイハクくんは公然の秘密で一級のハンターだし、その取り巻きであるタイシくんとタイガくんも立派なハンター見習いで、コミツちゃんに至っては趣味でハンマーをやっているから勘違いしそうになるが、どの子もまだ10歳そこらなんだよね。他の子供たちも武器を扱う事ぐらいは出来るから、カムラの里には非戦闘員が存在しないとも言える。

 こんな年端も行かない子供たちが矢面に立たなければなならい現状を憂うべきなのか、将来有望過ぎて困るべきなのか。

 

「……ぃ、たっ!」

『あっ……』

 

 そんな下らない事を考えていたせいか、力加減を間違えてコミツちゃんを怪我させてしまった。幾らメガトン級のハンマーを振り回す怪力を誇る彼女とて、所詮は人間の子供。本当の鬼子に突っ掛かられて無事で済む筈がない。一瞬誰かに押されたような気がしたけど、怪我をさせた事に変わりはないので、言い訳の仕様が無くボクのせいである。

 

「おい、何してんだ!」

『ご、ごめぅ……』

 

 これにはセイハクくんも怒り心頭。コミツちゃんに惚れ込んでいる彼としては、例えごっこ遊びの結果だとしても許せないのだろう。それでも強い口調は最初だけで、後はぶっきら棒ながらも許してくれる、分かり易いガキ大将、それがセイハクくんという男だ。

 ただ、今日のセイハクくんは様子が違った。

 

「少しは考えて動けよ! お前は俺たちとは(・・・・・・・・)違うんだぞ(・・・・・)! 里の一大事にサボってた癖に、遊びだけは一丁前にやりやがって! ふざけてんのか、お前は!」

『………………!』

 

 思えば、今日の彼は最初から少し元気が無かった。何時もなら、声を掛けた時に「おう、お前も一緒に遊ぶか!」って言ってくれるのに、微妙に乗り気じゃなくて、他の子たちが元気付けようとしている感じだった。

 もしかしたら、第3次百竜夜行の最中、あるいはその前後に、ショックを受ける程の嫌な事があったのかもしれない。普段の事を考えると、完全に八つ当たりっぽいからね。

 

 

 

 ――――――パンッ!

 

 

「……いいすぎだよ、セイハクくん。ユウタくんにあやまって!」

「………………!」

「リ、リーダー、流石に今のは……」「……ちょっと酷いと思う」

「……、…………ッ!」

「セイハク。俺は無用な暴力を振るう為に、君に狩りの技を教えた訳ではないぞ」

「――――――ッ!」

 

 周りもそう思ったのか、怪我をした側であるコミツちゃんはセイハクくんの頬を張り、取り巻きコンビも引き気味に非難し、ウツシ教官は普段が嘘のような冷ややかな声で注意した。

 

『うぅーっ!』

「あっ……!」

 

 ただし、セイハクくんが謝罪する前に、ボクは泣きながら走り出してしまったのだが。

 ……ボクって、こんなに涙脆かったっけ?

 やっぱり、身体年齢に精神が引っ張られてるのかな。何と言うか、怒りと哀しさと悔しさを綯い交ぜにしたような、表現しようのない感情が爆発する感じ。そういう本心の吐露を抑制出来ないからこその子供なのだろう。

 

『あーうぅうっ!』

「えっと、どうかしましたか?」

 

 かくして、ボクは早々にごっこ遊びから一抜けし、代わりに集会所の受付に飛び込んだ。ミノトも困惑しているが、ボク自身の心が混沌としているので、軽く流して頂きたい。

 それよりクエストちょうだい、クエスト!

 今のモヤモヤした気持ちを晴らせるような、鬱屈した頭を冷やしてくれるような、クールでハイな奴をお願いします!

 

「……まぁ、何があったのかは分かりませんが、とりあえずこれなど如何でしょう?」

 

 そう言ってミノトさんが勧めて来たのは、【氷結の歌姫】というクエスト。何でも最近、寒冷群島でイソネミクニの亜種らしき個体が見付かったらしい。しかも、多数のフルフルを護衛役にしている為、倒すに倒せないのだとか。

 うん、絶対“アイツ”だな!

 

「……あ、ユウタ! ちょっと待っ――――――」

『あぅうううううっ!』「あーっと、行ってらっしゃいませ?」

 

 ちょっと遅れてセイハクくんが入り口の暖簾の向こうから顔を出したが、ボクは半ば意固地になって狩りへ出発した。

 何があったのかは知らないけど、ボクの気持ちも知らないで、好き放題言ってくれちゃって!

 暫く口なんて聞いてやらないんだから!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その日の午後。

 

「……という事があったんだよ」

「アンタが付いていながら、何をやってんのさ」

「いや、面目ない……」

 

 いきなりウツシが家に転がり込んで来たと思ったら、実にしょうもない話を聞かされた。

 ……ハイハイ、アタシだよ。先日ようやくドクターOKを貰った、療養中(笑)なハンター、アヤメだよ。

 さてはて、つい最近ウケツケジョーから明かされた衝撃の真実ゥに驚かされたばかりで、今度は何事かと慌ててみれば、何て事は無い、単なる子供の喧嘩だった。苛めとかじゃないんだから、そんなの放っておきなよ、まったく……。

 

「――――――実を言うと、セイハクくんは結構追い詰められているんだよ」

 

 すると、ウツシにしては珍しい、静かなトーンで話し出した。真面目な時は真剣になる彼だが、こうしてシュンとしているのは初めて見た気がする。

 

「どういう事よ?」

「……数日前、彼の友人が死んだ」

「は? タイシもタイガも生きてるじゃん」

「いや、“人間の”ではない。所謂“オトモダチ”さ」

「ああ、例のプケプケたちか……」

 

 直接見た訳ではないが、コミツちゃん経由で聞いた事はある。何でも、大社跡に棲む特異なプケプケと、その彼女であるアルビノ個体と、結構仲良くやってるんだとか。

 ――――――じゃあ、そのどちらかが死んだのか?

 

「アルビノ個体の方だよ。名前は「ケプカ」というらしい」

「………………」

 

 名前を付けるぐらいに仲が良いんじゃ、そりゃあ哀しいよな。アタシもリベロやヨッちゃんが死んだら泣くと思うし。

 

「……聞かない方が良いかもしれないけど、どうして死んだんだ?」

「アトラファルクの襲撃を受けたんだそうだ。目的は別にあったようだが、物のついでに殺されたらしい。その場にはセイハクくんも、特異個体のプケプケも、彼らの育ての親らしいオオナズチも居たそうだが、殆ど手も足も出なかったそうだ。それがショックだったんだろうね」

 

 自分の無力を嘆いた、って事か。男の子なら、よくある話である。女にもあるけどね。

 

「それで、アタシにどうしろってんだよ?」

 

 だが、そうなると話が見えない。コイツはアタシに何を求めてやって来たんだ?

 

「……彼を説得して欲しい。もう一度、セイハクくんと話をするように」

「大人が出て行くとややこしくなると思うけど?」

「そうだね。特に俺が行ったら、変に拗れるかもしれん。しかし、今はそうも言っていられない。聞いてないか、例の話?」

「何の話だ?」

「“闇隠し”だよ」

「闇隠し? 何だそりゃ?」

「ここ最近の話なんだがね――――――」

 

 そして、ウツシは話し出す。

 何らや、一部の子供たちの様子がおかしいらしい。異変と言うには些細だが、どうにも何かが違う。ある日、夜になっても帰って来ないと思ったら、別の日にひょっこり帰って来て、そこから人が変わり始めたのだという。そんな子供が10を優に超え、そればかりか、やがて子供の家族もおかしくなり始めるのだとか。

 さらに、その話を聞いたクスネが『大ババ様の言ってた、「闇隠し」みたいだぬー』と言った事から、里長を含む上層部もそう呼ぶようになったらしい。

 竜人族のゴコク様さえ知らない情報を何でアイルーが知っているのかは不明だが、考えても仕方あるまい。現に事例が幾つも上がっているのだから。

 

「その子らについては、調べたの?」

「ああ。人には言えない方法でね。ただ、少なくとも“人間”としての違和感はなかったよ。“人間性”には若干の違いが見られるけどね」

「人には言えない方法って……」

 

 何をやったんだ貴様。

 いや、それよりも“人間性”が違っているって、どういう事だ?

 

「感情が薄れているというか、人間味に欠けるというか、とにかく変なんだ。一番驚いたのは、タイガくんかな。前は虫も殺せぬお人好しだったのに、この前は普通に蟻を踏み付けてたし、ついさっきもセイハクくんにもはっきりと意見を言っている。情けない事で有名な彼とは思えない所業だ」

「お前、何気に酷いな……」

 

 しかし、確かにそれは変な気もする。心変わりしたと言えばそれまでの変化だけど。

 

「――――――「闇隠し」に遭ったと思われる子供は、必ず1度は独りになる時間があった。ユウタくん程の実力者が後れを取るとは思えないが、念の為にな。俺はこの後、風神龍の動向調査に向かわねばならないし、何よりセイハクくんまでもがいじけて1人狩りに向かってしまった」

「だから猫の手も借りたい、って事ね」

「まぁ、そういう事だ。頼む! キミのおニャン子ハンドを貸してくれ!」

「死んでくれないかなぁ!?」

 

 ……仕方ないわねぇ。

 

「分かったわよ」

「恩に着る! では、俺は先に行かせて貰おうぞ!」

 

 そう言って、ウツシは颯爽と跳び去ってしまった。まったく、アイツは……。

 

「さーて、それじゃあ――――――」

「あのー、アヤメさん、居るかい?」

 

 と、今度は別の来客が。織物屋のミドリさんだ。

 

「どうかしましたか?」

「いや、あのね……ウチの娘が来てないかい?」

「ヒスイちゃんですか?」

「ええ。てっきりセイハクくんと遊んでるのかと思ったら、会って無いって言うし。ほら、最近変な噂が立ってるでしょ? だから、心配で……」

「心当たりは?」

「何時もなら大社跡の方に行くんだけど――――――そう言えば、アカネさん所の子も、「呼ばれたから」って言ったきり、もう三日も帰ってないって……」

「………………」

 

 何だ、これは? 何が起きている?

 

「……分かりました。アタシもユウタを連れ戻しに行かなきゃいけないんで、一緒に探してみます」

「そうかい、よろしく頼むよ! ……この脚さえ無事なら、自分で行くんだけどね」

 

 ミドリさんは過去にモンスターとの戦いで左脚を失っている。夫であるテルオさんもその時に失い、それ以来ヒスイちゃんと2人2脚で暮らして来た。だからこそ、アタシなんかに頼みに来たのだろう。正直アタシも手一杯だけど、断る気にはなれない。

 それに、何だか嫌な予感がする。ゴコク様には心の中でああ言ったけど、アタシの嫌な予感も結構当たるんだよね。

 

 ……そう、膝に矢を受けた、あの日みたいにね。

 

「さてと、それじゃあ改めまして」

 

 ユウタ探しの旅に出るか。どうせ寒冷群島の方でしょ。

 ま、先に大社跡の方へ行ってみるけどね。もしかしたらヒスイちゃんが見付かるかもしれないし。




◆闇隠し

 クスネが大ババ様から伝え聞いた話。大ババ様がまだまだ小さい頃、彼女の曽祖父から寝る前に読み聞かせられたそうだが、昔とある村では夕方まで遊んでいた子供が数日間居なくなり、戻って来ると人が変わったように冷たくなるという、奇妙な事件が続いたらしい。しかも、その家族までもが段々おかしくなり始め、気付けば村中の者が何処か“人間味”を失ってしまったのだという。
 何時までも遊んでばかりいる子供たちに言い聞かせる“躾け”のような物であり、大分脚色されているが、その話は紛れもない事実なのだそうである。



 ――――――そして、件の村は“人間”が誰も居なくなって滅びたらしい。
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