泣いた雪鬼   作:ディヴァ子

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心温まるお話ヲ、ドウゾ。


闇が来た

『わーい』「いぇーい」

 

 馬鹿になっちゃう~♪

 ハァ~イ、ボクだよ、セイハクくんと喧嘩して、クエストにも失敗しちゃった、負けた雪鬼ユウタだよ~♪

 さて、もう何もかもどうでも良くなっちゃったから、イソネミクニ亜種たちの魔手から救った女の子、ルカちゃんと思い切り遊んでいる。今は鬼ごっこの最中だ。何故かルカちゃんが鬼役になりたがっていたけど、そこは断固として譲らなかった。雪鬼の名が廃るからね。

 

『たっちー!』「あだちー!」

 

 ルカちゃんの、ここにタッチ♪

 ……それにしても、ルカちゃん、割と身体能力高いなぁ。結構長い時間ボクから逃げ続けてたし、勢い余ったタッチにも余裕で耐えてるし。カムラの皆と遊ぶのは楽しいけど、こうして思い切り力を解放するのも良いよねー。

 

『グルヴ……』

 

 そんな目で見るなよリベロ……後で遊んであげるから。

 

「次は何する~?」

『かくれんぼ!』

「じゃあ鬼は……」

『ぼくー』

「やっぱりー」

 

 という事で、次はかくれんぼ。もちろん、鬼はボクである。譲らないよ~。

 

『いーち、じゅう、ひゃーく……』

「飛ばし過ぎー」

 

 カササっと隠れる音。さーて、何処に隠れてるのかな~?

 

 

 ――――――バァッ!

 

 

『わーお!』

「きゃー!」

 

 ズルい、そっちから捕まえに来るなんて!

 でも、やっぱり楽しいなぁ。……帰って、もう1度ちゃんと謝れば、許してくれるかなぁ。

 

「……どうしたの?」

『うーぅん』

 

 何でもない、とは言えない。

 ……里の皆は、良い人だ。それは間違いない。だけど、

 

 

 

 ――――――お前は俺たちとは違うんだぞ!

 

 

 

 セイハクくんの言う通り、ボクは皆とは違う。元がゴシャハギだし、身体能力の差は歴然である。どんなに皆が優しくても、フィジカルの違いはどうしようもない。本当の意味での喧嘩や遊びは、同レベルでしか成立しないのだから……。

 

「………………」

 

 すると、ルカちゃんが背後からそっと抱き締めてきて、

 

「トモダチ♪」

『……うん』

 

 そう言ってくれた。優しい子だね。この子なら全力で遊んでも問題無いし、ここだけの関係とは言わず、こちらからもお願いして――――――、

 

「ユウタ!」『ちゃま!』

 

 と、聞き慣れた凛とした声。視線を合わせれば、何故かアヤメさん(とヨッちゃん)が立っていた。

 

 

 グレネードリボルバーの銃口をこちらに向けて。

 

 

 ……え、何? 一緒にサバゲーでもする気なの? その割には、装備も表情も本気(マジ)なんですけど?

 

「ユウタ、その子は?」

『あぅー』

 

 ああ、そうか。ボクは本来クエストに出掛けてる筈だから、顔も知らない女の子とイチャイチャしてて怒ってるのか。スイマセン、真面目に遣ります。失敗したけど。

 

『トモダチ!』

「ルカぁ~♪」

 

 あ、自己紹介ありがとね。そうそう、新しいオトモダチだよ~♪

 

「そうなの……」

 

 しかし、名前を聞いた後にも関わらず、アヤメさんは表情も態勢も崩さず、もう1度訊ねた。

 

「……それじゃあヒスイちゃん(・・・・・・・・・・・)お前の本当の名前(・・・・・・・・)を教えて貰おうか(・・・・・・・・)

『えっ?』

 

 そして。

 

 

 

「アトラル・カ~♪』

 

 

 

 ルカちゃんの笑顔が、2つに割れた。

 

『……キシャアアアアアアッ!』

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

『グルヴヴヴゥゥッ!』

『あああああああっ!』

 

 噴き上がる血飛沫。響く悲鳴。

 折り畳んでいたであろう身体を一瞬にして展開した、ヒスイちゃんだった物……ハバエナスの手下であるアトラル・カ異常個体が、ユウタの両腕をガッシリと鎌で押さえ付けた上で、頸筋に食いついたのだ。

 こいつ、言い逃れが出来ないと悟った途端、開き直って殺しに掛かりやがった!

 

「ちくしょうがぁあああっ!」

 

 アヤメ(アタシ)は力の限り叫び、徹甲榴弾を速射でブチかました。本来なら通常弾で怯ませる予定だったが、こうなっては仕方ない。ユウタにもダメージが入るけど、こうする他なかった。そうでなきゃ、今頃は頸を食い千切られている。

 ともかく、ユウタはアトラル・カの魔鎌から解放された。今の内に――――――、

 

『オギャヴヴヴヴヴッ!』

 

 だが、アトラル・カは何事も無いかの如く、赤ん坊のような声を出しながら、即座に復活。

 

『好きすきスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキィイイイイッ!』

『あ……ぅ……ぁあ……ッ!』

『トモダチ、ダイスキ、アイシテルゥ! オギャヴウウウウウウウウァアアアッ!』

『うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!』

 

 世にも恐ろしい友好宣言を為した。

 それを間近で聞いてしまったユウタは、泣いて、鳴いて、哭き叫んだ。

 ……前に、奇しき赫耀は化け物ではなく兵器だと言ったな。

 こいつもまた、化け物ですらない。

 

 

 ――――――こいつらは、悪魔だ!

 

 

「やめろ! それ以上、ユウタを壊すなぁっ!」

 

 これ以上は聞くにも見るにも堪えないと、アタシは斬裂弾を放ったが、その殆どが弾かれてしまう。

 

《ガァァアギィイイイングゥゥヴヴヴヴ!》

 

 さらに、周囲の残骸を糸で寄せ集め、即席のアトラル・ネセトを形成。メカメカしくも生々しいゴシャハギの姿となって、未だに立ち直れないユウタに襲い掛かる。

 

『オチャマァアアアアッ!』《コァアォオオン!?》

 

 しかし、それは割り込んだヨッちゃんが四つ身の姿勢で抑え込む。彼女はまだオタマだが、既に最小金冠のヨツミワドウの成体ぐらいには大きくなっているので、どうにかアトラル・ネセトの巨体を押さえる事が出来た。

 

『グルヴォオオオオッ!』《ガガギギガガ……!》

 

 そして、怒り狂ったリベロが横から体当たりをかまし、アトラル・ネセトの義骸ボディを粉々に粉砕した。

 

『オギャヴヴヴヴッ!』

 

 だが、アトラル・カ本体は無事であり、しかも翅まで持っているようで、今度は空中からユウタ目掛けて鎌を振るう。

 ……そんな事、許すと思ってんのか!

 

「こっちだぁ!」

 

 アタシは蜻蛉返りで急降下して来たアトラル・カの目の前を翔蟲で過ぎった。エンエンクのフェロモンを纏った状態で。

 

『オギャアアアアアッ!』

 

 案の定、アトラル・カは興味をこちらに向けて、追い縋り始めた。

 

『トモダチ、ゴチソウ、ダイシンユウゥヴヴヴヴッ♪』

 

 悍ましい言葉と共に。そういう台詞はな、涎を垂らしながら言うもんじゃないんだよ!

 

『アブヴゥウウウウウウウ!』

「この悪魔がぁあああああ!」

 

 アタシは、とにかく逃げ続けた。翔蟲や壁走りを限界まで駆使して。少しでも、ユウタから引き離す為に。背後から飛んで来るプラズマ弾(鎌同士を祈るように合わせて発射している)が氷海を割り、水飛沫を上げる。フルフルの物とよく似たあれを食らえば、麻痺状態に追い込まれ、そのままジ・エンドとなるだろう。

 さらに、生きたまま生皮を剥がれて、食い殺されるのである。

 

「あっ……ぐぅっ!?」

 

 そして、エリア3まで引き離した所で、その時は来た。飲んでいた強走薬と体力が切れたと同時にプラズマ弾が直撃し、麻痺状態になってしまった。

 

『トモダチィイイイイイッ!』

「く、そ……ぉおお……っ!」

 

 アトラル・カの恐ろしい大口が迫る。よく見ると、歯にふやけた人間の眼球が引っ掛かっていた。きっと、ヒスイちゃんの物であろう。アタシも今から、ああなるのだ。

 ……チクショウ!

 

 

 ――――――ピィイイイイイイイッ!

 

 

 と、その時。

 

『ボルァッ!』『オギャァッ!?』

 

 突如、霜焼け気味なボルボロスが横合いから突っ込んできて、アトラル・カを捕食した。徹甲榴弾でも死なないボディと言えど、所詮は子供サイズ(イズチと同レベル)。蓄積したダメージも相俟って、大型モンスターの不意打ちには甲殻も耐えきれず、あっさりと噛み砕かれてしまった。

 

『タスケテ、ユウタクン!』

「ふざけるなよ、貴様ぁ!」

 

 そんな断末魔があるか。最後の最期まで、ふざけたヤロウだ。

 

『ボルッフゥ……!』

 

 食べ終えたボルボロスは、満足気にゲップをすると、何処かへと去って行った。行儀悪いな。

 とにもかくにも、脅威は取り除かれた。しかし――――――、

 

『うぅ……ぅ……』

「ユウタ……」

 

 這う這うの体で戻ってみると、ユウタが嗚咽を漏らしていた。

 

『トモ、ダチ……おもってたの……ボク、だけ……!』

 

 さらに、出会ってから初となる、意味の通じる長文も。……こんな形で聞きたくなんて、無かったよ。

 

「………………!」

 

 こんな時、どうすれば良いのか、分からない。

 だから、黙ってユウタを抱き締めた。彼の身体は、極寒の海よりも冷たく、震えていた。

 

『うぁあああああああああああああああああああああああああああああん!』

 

 ユウタの慟哭が、寒冷群島に鳴り響く。

 

『ちゃま……』『グルヴ……』

 

 そんなユウタに、ヨッちゃんとリベロが慰めるように擦り寄る。

 

『キキキ……』『『ホヴォ……』』

 

 それを洞窟の陰から見ていたイソネミクニ亜種と紅白のフルフルは、何もせずに奥へ引っ込んだ。

 

『ゲコォ……』

 

 沖合では、騒ぎを聞きつけたらしいヨツミワドウが1度だけ顔を覗かせたものの、何とも言えない表情を浮かべた後、イソネミクニ亜種たちと同じように姿を晦ませた。

 そして、寒冷群島にはアタシたちだけとなった。

 

 他にはもう、誰も居ない……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 その後、意気消沈したまま、アタシたちはカムラの里へ帰還したのだが、

 

「ああああっ、ヒスイぃッ!」

「どうしてなんだよぉ……!」

 

 そこには何時もの活気など、まるで無かった。たたら場前の広場で、僅かばかりに残った遺留品を胸に、泣き叫ぶ人たちが大勢いる。皆、アトラル・カに家族を殺された被害者だろう。何て救いの無い光景だ。

 

「………………」

 

 さらに、その中には、セイハクやタイシ、コミツちゃん、それからウツシの姿が。

 

「あれ……?」

 

 何だろう、何かが足りないような気がする。

 

「なぁ、ウツシ」

「……何だい?」

 

 話し掛けてみると、ウツシは憔悴しきった顔と声で答えた。こんな姿、今まで見た事がない。

 それでも、アタシは思わず聞いてしまった。アタシ自身も、余裕が無かったから。

 

「タイガはどうした?」

「――――――今は聞かないでくれ、頼む」

 

 ……その言葉だけで、充分だった。

 

 

 

 そして、数日後、タイガを含む20人あまりの住民が喰い替えられていて、その内の半数近くを取り逃がした事が、里長から伝えられた。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 答えるな、闇が来るぞ。

 振り返るな、闇に食われるぞ。

 

『キミ、誰ぇ?』『アタシ、ルカ♪』『ボクと“トモダチ”になろうよ♪』

 

『アトラル・カ、トモダチ、ダイスキィ♪ きゃはははははははははは!』




◆サバエナス

 アトラル・カ異常個体、ハバエナスのワーカーに相当する小型モンスター。別名は「悪螳螂」。姿形はアトラル・カそっくりだが、こちらには翅が有り、発電能力も有している。
 最大の特徴は、殺した人間の生皮を癒着し一体化した上で身体を折り畳む事により、人間の姿に化けられる事。この能力によりコミュニティに紛れ込み、内部から崩壊させる事で、事前にハバエナスの脅威を取り除く事が役目である。
 ちなみに、子供を含む親族に化けるのは“その方が相手は躊躇う”と知っているから。
 ただし、彼女らはあくまで真社会性の蟲である為、子供を相手にすると躊躇する事は知っていても、“どうして躊躇うのか”は全く理解していない。「何か知らんけど、この姿なら敵が油断してくれるから、これで行ったろ」ぐらいにしか考えていないのだ。
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