始祖ナル龍ガオ尋ネニナルト、ソレラハ答エタ。
『我ガ名ハ“ニンゲン”。本当ノ悪魔デアルガ故ニ』
ソシテ、世界ハ闇黒ニ閉ザサレル。
――――――「闇黒の章」、最終章第弐節ヨリ。
時は少し遡り、第4砦の第2関門。
『ガヴォオオオッ!』『アォオオオオン!』
「うひぃー、アンジャナフがウザいよー!」「何でバゼルギウスが居るんだぁ!」
溶岩洞側から来た八百万の禍群――――――即ち、無限大数のモンスターを相手に、里守たちは苦戦を強いられていた。物量が今までの比ではない上に“追い立てる側”の数も尋常では無いので、どう足掻いても手数が足りないのだ。
『ギャヴォオオオオス!』『オギャヴウウウウウッ!』
「クソッ、奇しき赫耀と悪螳螂の出現を確認!」
「邀撃しろ! 奴らにモンスターを食わせるなぁ!」
さらに、餌を求めて奇しき赫耀と悪螳螂の大群までも飛来。戦場は完全に混沌と化した。
「はぁっ! てぁっ! フゥゥゥゥン!」
『ギャヴォオオッ!?』『アブヴヴヴッ!?』
しかし、それくらいではカムラの灯は消えたりしない。貿易商(自称)ことロンディーネが、太刀を手に暴れ回っている。
「こんな所で油を売っている暇は無い! 私にとって一番の顧客が、命を賭して戦っているのだ! 往く手を阻むと言うなら、全てを蹴散らすのみ!」
「うぉーっ! ロンディーネさんに続けぇ!」「商売繁盛!」「気焔万丈な!?」
その雄姿は里守たちの士気を大いに高め、昂らせ、雪崩れ込む災厄の群れを押し留めた。
「いよっ、流石は王国騎士!」「バラさないであげて!?」
ヨモギとイオリも、己の武器を振るい、奮闘している。
だが、やはり数が違い過ぎる。1体に対して数人掛かりだと言うのに、湯水の如く湧いてくるのだから、堪った物ではない。せっかく少し押し返しても、それ以上の大津波が圧し潰しに掛かって来るのだ。やはり圧倒的な物量差を覆す事は、不可能に近いのである。
……そうやって、少しずつ人々の心が焦りと絶望に染まり始めた、その時。
『ギャヴォオオッ!』『コォルァッ!』
幾多のモンスターを吹き飛ばしながら、激昂したラージャンとボルボロス亜種が現れる。目に付く敵を千切っては投げ、掴んでは殴り、モンスターの荒海をかち割る様は、まるで神話の1シーンだ。
「「「………………!」」」
『グルルルル……グヴァアアアヴォオオオオッ!』
そして、第4砦の里守たちは目撃した。変わり果てたディアブロスの新亜種――――――ヴェノブロスの姿を。
『カァアアアアッッ!』『ギャヴォオオス!』『キャァアアヴォッ!』
突如、戦場に割り入って来た、閻魔もかくやという恐ろしい怪物に、奇しき赫耀たちが一斉に襲い掛かる。本能的に“彼”がとてつもない脅威だと感じ取ったのだろう。鳥葬の如く群がり、至近距離から龍気光線を浴びせ掛けた。
『……グヴァアアアアアアアッ!』
『『『ギャァアアアアアア!?』』』
しかし、撃龍槍ですら容易に切断する破断の光を食らったにも関わらず、ヴェノブロスは堪えるどころか全くの無傷で、自身を中心に大規模な爆発を起こして、奇しき赫耀たちを纏めて吹き飛ばした。
『オギャアアッ!』『アバブァッ!』『キシャアアアッ!』
さらに、恐れを為したサバエナスたちもプラズマ弾で強襲するが、これもまた効果が無い。当たって砕けた傍から、傷という傷が完治してしまうのである。奇しき赫耀の龍気光線も、先程の自爆攻撃も、この異常な再生能力で全回復したのだろう。
最早どんな敵も敵わない。何をしても無駄だ。奴を止める事は出来ん!
『グヴォオオァアアアッ!』
その後、殆ど全てのモンスターを鏖殺したヴェノブロスは、里守たちには一切目もくれず、激昂したラージャンやボルボロス亜種と共に、ある一点を目指して過ぎ去った。
「……龍宮砦跡の方角か」
“彼”の行き先は、何となく察しが付いていた。ロンディーネは太刀を鞘に納め、関門に背を向ける。
「悪いが、私は行かせて貰う。そろそろ決着が近いようだからな」
「分かりました」「気を付けて」
イオリたちも彼女がそうするであろう事は予想出来ていた為、素直に見送った。とりあえず第4砦の脅威は無くなったのだから、ここで止める程野暮ではない。ロンディーネはあくまで、
「……なら、僕たちもすべき事をしよう」「了解!」
そう、戦いはまだ終わっていない。それぞれの出来る事をしよう。
「皆、行くよ!」『了解ニャー!』『アォン!』
そして、カムラの里が誇る、最終決戦兵器が起動する。闇黒螳螂を討つ為に。
◆◆◆◆◆◆
一方その頃、寒冷群島では、
「頼む、アタシらに力を貸してくれ」『ちゃま!』
『………………』
超巨大なヨツミワドウとアヤメたちが相対していた。
「お門違いなのは分かってるけど、アタシたちにはもう時間が無いんだ。このままだと、皆死ぬ。カムラの住民も、そこで生きるこの子たちも」『おちゃまー』
『………………』
正直、何を言ってるんだこいつは、とヨツミワドウは思った。
人間なんてどうなろうと知った事じゃないし、ましてやハンターを助ける義理など一欠けらも無い。誰が滅ぼうが、彼女には何の関わりも無い事である。
『おちゃままー』
『………………』
だが、ヨツミワドウは見てしまった。我が子が人と寄り添う姿を。それにより、思い出す。過去の自分を。
――――――彼女が“こう”なったのは、何十年も前の事。
当時、寒冷群島には殆ど生物がおらず、吹き荒ぶ北風が生んだ極寒の地獄が在るだけだった。
しかし、ある日人類に追い詰められたゾア・マグダラオスが骸となった時、膨大なエネルギーがばら撒かれ、その力に引き寄せられたモンスターの蔓延る闇黒の凍土となった。
その時の彼女はまだオタマジャクシだったが、偶然にも「熔山龍の宝玉」を呑み込んでしまい、激しい拒絶反応に打ち勝った末に、体内器官の一部とする事が出来た。他のヨツミワドウでは、こうはいかなかったであろう。彼女は成るべくして巨大になったのだ。
だが、強大な力と山のような巨躯、莫大な寿命を獲得した事と引き換えに、彼女は生物として致命的なデメリットを負ってしまった。長命と巨体が故に、子を成せなくなったのである。宝玉を克服した時点で通常種の最大金冠を遥かに超えていたし、遺伝的にも変化したのか、同種同士の交尾であるにも関わらず、産卵に至らなくなっていた。色々と積極的にやってもみたが、駄目だった。
そうして悠久の時を孤独に過ごして来た彼女だったが、272回目の交尾により、ようやく1個だけ受精卵を成す事が出来た(今世紀最大級だったその雄は枯れ果てて死んだ)。それが今目の前で自分を見上げる、このオタマなヨツミワドウだ。彼女に似て大きく、幼生の時点で成体を遥かに超えている。見間違う筈も無い。
『ゲコァアアアアッ!』
この子を生き残らせる為ならばと、ヨツミワドウは覚悟を決めた。古龍の力により全てがグレードアップした彼女は、種の限界を超えた“母”となったのである。
「……ありがとう」『おちゃまー!』
『ゲコヴァアアアァアアアアォッ!』
人間の為でなく、愛しき我が子の為に、ヨツミワドウは動く。共通の敵を滅ぼす為に。
◆◆◆◆◆◆
そして、時は戻り出す――――――。
『ギカァアアアヴォッ!』
禍群の元凶が1体、闇黒螳螂ハバエナスが吼える。今までの吹けば消し飛ぶゴミとは違う、明確な強敵たちの出現に、彼女も本気で相手取るつもりのようだ。
――――――グゥヴォン……ガビビビビビビビッ!
さらに、触角を前で合わせて、強力な破壊光線を発射。胸郭展開時の物よりも威力は劣るが、隙無く放てるのが特徴であり、油断ならない相手に対して使う、謂わば“決戦兵器”である。
「うわぁっ!?」『ウニャーッ!?』『ワィーン!?』
あまりに唐突だった為、百式からくり蛙は防御も(元から無理だが)回避も出来ず、腹部に直撃して大爆発を起こす。
――――――パキュァアアァァッ!
更には、ハバエナスがサバエナスも使うプラズマ弾を目から連続発射。徹底的に百式からくり蛙を痛め付ける。古龍の力を取り込んだヨツミワドウと違って再生出来ないと踏んで、先に潰そうとしているのだろう。
「こっちを見ろォッ!」『おちゃまー!』
『ゲゴヴァァアアアヴォォオオオオン!』
『ギギャァアヴォ!? ……ギキキキキ!』
しかし、そうは蛙が卸さない。アヤメの駆るヨツミワドウが爆炎弾を三連打しつつ、蛙飛びボディプレスを食らわせ、ハバエナスの動きを止めた。それでも装甲に傷は付かず、逆にヨツミワドウを寄り切ったが、流石に衝撃までは殺せず、大きくバランスを崩す。
「右! 左! ブレス発射!」
『『『ニャンパース!』』』『『『パルスワーン!』』』
『キャァィアアアアッ!?』
そして、そこへすかさず百式からくり蛙の反撃。左右の爆裂突っ張りで怯ませ、火属性やられを付与するブレスを零距離で浴びせ掛ける。これだけ密着されては、電磁バリアも無意味だ。
「今だ!」『ちゃましー!』
『ゲコァアアアアアアッ!』
『ギガァアアアアヴォッ!?』
さらに、ヨツミワドウの爆炎ブレスが直撃。蓄積していた爆破やられが一気に作動し、大爆発を起こした。
『……ギカァアアヴォッ!』
「クソッ、何て硬さだ!」「いい加減にして欲しいわね、まったく!」
それでもヒビ1つ付いていない辺り、ハバエナスの装甲厚が窺える。普通は消し炭も残っていないと思う。
『カァアアッ! ギカァアォッ! キカアァッ!』
「うわっ!?」『ぐへにゃぁ!?』『グヴヴゥ……!』
しかも、鎌に雷属性を宿して、元気に反撃して来る始末。百式からくり蛙の腹にXXの文字が刻まれた。
『ピキャアヴォッ!』
『ゲコァアアアッ!?』「くぅっ!」『おちゃんまー!』
その上、触手から龍属性ビームを撒き散らし、ヨツミワドウに大打撃を与える。熔山龍の宝玉を取り込んでいるが故に、彼女は通常種よりも龍属性に弱くなっているのである。
『ギコカカギキカカカ!』
そして、何だかんだでダメージが蓄積し始めた装甲を更新する為、サバエナスたちを呼び寄せ始める。
「そうは行くか! ライダー隊、全力で阻止しろ!」
「里守隊の意地を見せてやれぇ!」
だが断る。自分だけが有利になろうとするいけ好かない奴らに、ライダー隊と里守隊が「NO」を叩き付けた。
『ギカァアアアッ!』
怒ったハバエナスが胸郭を展開し、全てを薙ぎ払おうとしたが、
「「それも断る!」」
『ギャヴォオオァ!?』
百式からくり蛙とヨツミワドウのダブルブレスがお断り申し上げた。当たった場所が展開していた胸郭と節足部だったせいか、今度こそ部位破壊が達成される。即ち、右側の胸郭が節足部ごと爆砕したのだ。やはり無意味な攻撃など、無かったのである。ビームを発射直前だったので、自爆の可能性もあるが、それはそれだろう。
『ギィイイイッ!』
「2度は無い! 旋回!」
『ギカァヴォッ!?』
まさかの事態にハバエナスが焦って鎌で反撃したものの、クルリと回った百式からくり蛙の撃龍槍だらけの甲羅で弾き返されてしまった。
「食らいやがれ!」『おっちゃーっ!』
『ゲコォオオッ!』
『キャァアアッ!?』
さらに、仰け反った所に、ヨツミワドウの全力爆破掌底が炸裂。ハバエナスの左胸郭も破壊した。徹底的にそこばかりを狙って来た甲斐があったという物だ。
『ギカァアアァ……ォォ……ッ!』
誕生して以来、最大級のダメージを負ったハバエナスが、複眼の明りを消して、倒れ伏せる。
「「やったか!?」」
それは言ってはいけない禁句。
『――――――ギィグヴヴゥゥゥッ! ガヴォァアアアアアアッ!』
案の定、ハバエナスは復活した。全身の白金部分を闇黒に染め、複眼を紅蓮に滾らせながら……。
◆◆◆◆◆◆
『……ハッ!?』
と、ユウタは目を覚ました。
『うささ~!』
足元を見れば、小さな小さなウルクススが一生懸命に己を背負い、
『キキキ……』『『ホヴァォッ!』』
気絶したままのリベロに至っては、何故か居るイソネミクニ亜種と紅白なフルフルたちに運ばれていた。彼女たちが、自分たちを助け起こし、一先ずの安全圏まで下がらせたのだろう。
しかし、避難させてくれたのに悪いとは思うが、このまま戦線離脱する訳にはいかない。戦いはまだ終わっていないのだから。
『ガヴォオァアアアアアアアッ!』
『ゲコアァッ!?』《ケコァォン!?》
それどころか、まさしく闇黒螳螂となったハバエナスが、力任せにヨツミワドウと百式からくり蛙を痛め付けているではないか。怒り状態となったハバエナスのパワーと火力は尋常では無く、疑似的に風雷合一したビームの刃を触手から発生させ、ありとあらゆる物を切り裂き、刺し貫いていた。マシマシになった高出力の光刃には如何なる装甲も耐えられず、ヨツミワドウは甲羅ごと全身を穴だらけにされ、百式からくり蛙は左半身を完全に破壊されている。
『……グルヴォオオオァアアッ!』
だが、そんな所に今更自分たちが駆け付けて何になる……とは、ユウタは考えなかった。只我武者羅に、ウルクススやイソネミクニ亜種たちが止める間もなく、怒れる闇黒螳螂へ突っ込んで行く。
そう、唯々皆を守りたかったから。この後、自分が死ぬとしても。自分は里の一員なのだと、自身が一番信じたくて。
『……ゴギャヴォオオオオオオオッ!』
その無謀極まる遮二無二な特攻劇は、ハバエナスの複眼に僅かな傷を付けるだけで終わりを迎え、
『ガヴォァアアアアアアアアアアッ!』
『……、…………、………………ぁ!』
そして、ハバエナスの無慈悲な反撃がユウタを襲った。先ずは左右の大鎌、続いて全ての触手が殺到し、小さな小さな彼の身体を粉微塵にする。夜空に、真っ赤な曼殊沙華が咲いた。
「ユウタぁあああっ!」
――――――ユウタが完全に力尽きました。
◆ユウタ
元ゴシャハギだった少年。名前の由来は「子供染みたハンター」のスラング。
不思議で意味不明な夢から覚めると何故か人間になっていて、偶然出会った療養中の上位ハンター:アヤメに保護され、カムラの里で暮らす事になった。元々が牙獣種でも最強格だっただけあって凄まじい身体能力を誇り、大剣を双剣のように扱う規格外の存在だった。
住民との関係は概ね良好ではあったものの、やはりスペックの差による疎外感を持っていたようで、サバエナスの引き起こした悪夢のような出来事を切っ掛けに爆発、己を傷付けたセイハクを許す事は出来ても、根本的に自分を見失っており、やがて“命懸けで里を守る事で自身の存在を確立する”という狂気に駆られ、龍気ウィルスという禁じ手を講じてしまった。
そして、最終決戦の際、怒り狂うハバエナスに無謀な特攻を仕掛け、彼の人生は呆気なく、何の意味も無い終わりを迎えた。