ここはカムラの里、民宿「やさかに」。
そして、アタシはアヤメ。一応、上位のハンターだ。
とは言え、今はリハビリ中なんだけどね。実は、ちょっと前に仲間の放った矢を膝に受けてしまってね。今はご覧の通り、遠距離武器しか使えない身なのよ。それでも並のハンターよりは動けている自信はあるから、そこの所は勘違いしないでよね。
そんな訳で、療養も兼ねて秘境の観光名所であるカムラの里へ、一時的に滞在してるんだけど――――――ここの住人、人が好過ぎない?
こんな穀潰しハンターに格安で宿は貸すし、どう見ても怪しい覆面の行商人や自称:交易商人(笑)の滞在を許してるし。……その程度の相手、どうにでもなるって事なのかもしれないけどね。
そう、カムラの里にはもう1つの顔がある。というか、そちらの方が本命である。
カムラの里の近辺には良質な鉱石と、それを製錬するのに必要な木々が豊富にあり、秘境故に周囲から隔絶されているのも相俟って、独自の技術を有するたたら場の町として確固たる地位を築いているのだ。
この“独自の技術”とは製鉄だけに限らず、戦闘方法にも及んでおり、「翔蟲」という不可思議な甲虫の助けを借りながら、宙を舞う様に戦う事で知られている。その様は、まさしく忍者である。それもスレイヤーする方の。
かく言うアタシも、イオリくんやウツシ教官の指導を受けて、少しずつ学んでいる最中だ。アタシモハヤクニンジャニナリタイ。
ともかく、カムラの住人たちは誰にもお人好しになれるくらいに強い、戦闘民族なのである。飴屋のコミツちゃんがハンマーを振り回す姿を見た時は、腰を抜かしそうになったよ。イオリくんはスラアク使いだし、ヨモギちゃんはトリガーハッピーだし、色々と変だけど、今更ではある。気にしたら負け。
だからと言って、今回の一件はどうかと思うのよ。
『あーぅ』
そう、この子だ。寒冷群島でヨツワミドウに丸呑みにされかけていた、何処の誰とも知れぬ少年。
「“ハンター”」
『“ふんたー”』
「“勇者”」
『“ゆうた”』
「どれも絶妙に違ーう!」
『“はつみつください”』
「それは全く違う!」
……ご覧の通り、舌っ足らずなんてレベルじゃないくらいに、言語野が壊滅状態である。
特に長文は丸っきり別物に翻訳されてしまう為、会話が全然成り立たない。これではまるで
つーか、何でアタシが世話役なの?
いや、まぁ、それはいい。何とかなる程度の問題である。
「……あ、コラ! 服を脱ごうとするな!」
『あとぅいー』
一番の問題点は、こいつがすぐに服を脱ぎたがる所だ。寒冷地でも素っ裸だった事もあって非常に暑がりで、隙を見てはスッポンポンになろうとするから困る。
「またヨモギちゃんの所へ連れて行くわよ?」
『ひゅん……』
一応、魔法の言葉でポポポンと解決はするが、あくまで一時凌ぎでしかない。せめて、下は穿け。猥褻物陳列罪なんだよ。意外とご立派な物をお持ちの様ですけど。
しかし、暑いと結局は脱いでしまうし、どうしたものか……。
「あ、そうだ」
良い物があった事を思い出したアタシは、自前のアイテムBOXから帯と袴を取り出した。
それらは以前、メラルという里きっての女ハンターから貰った金獅子「ラージャン」の防具で、炎・雷・龍属性に強いが氷属性に弱い特性を持ち、見た目の割りには通気性が良く、「超会心」「渾身」「力の解放」と言った剣士が有利になるスキルを発動出来る優れ物である。現状ではガンナーだしデザインが若干ダサいから、アタシは穿かないけどね。見た目って大事よ。
「はい、これを穿きなさい。着てても熱くならないから」
『あぅ~? ……あぅあ!』
ただ、可愛らしい顔立ちながらも細マッチョな彼にはとても良く似合っており、本人も気に入っているので、そのまま譲る事にした。ちょっと勿体ないような気もするが、BOXで埃を被っているよりも……というか、こいつに裸の王子様でいられるよりも、ずっとマシだ。
「そう言えば、アンタ、名前は何て言うんだい?」
『うぅ~う』
首を振ったという事は、名前を憶えていないのか、もしくは最初からそんな物は無いのか。
だが、流石に何時までもアイツだのコイツだのドイツだのと言っていたら、その内紙飛行機で飛んでしまうかもしれない。ここカムラの里には「剣斧ノ折形」という冗談みたいなスラアクがあるから、全く以て安心出来ないよ。
しかし、いきなり名前を考えろとか言われてもなぁ。生まれてこの方、オトモどころかペットすら飼った事が無いから、そう簡単に思い付いたりは――――――あっ、そうだ。
「じゃあ、今日からアンタは「ユウタ」だ」
『ゆうた?』
「そ、「ユウタ」。これなら今のアンタでも自己紹介出来るでしょ」
『ゆうたー』
とりあえず、気に入って貰えたらしい。
まさか異国の言葉で「ハンター擬き」という意味が込められているとは思うまい(ふんたーも同じような意味で使われている。「ゆうた」は特に「イキったクソガキ」という意味合いが強い。その昔に実在した、他人の邪魔ばかりする年少ハンターの名前が由来)。
ちょっと悪いとは思うけど、発音出来ないんじゃどうしようもないからな。現状で上手く言えるのはこれくらいしかないから、この程度は大目に見て貰おう。
……まさか、自分もハンターになりたいとか言わないだろうね?
『ふんたー、ふんたー!』
やる気満々のようですね!
とは言え、アタシには何の権限も無いし、育てる自信も無い。というか、丸腰の素人を連れ歩くなんて、自殺行為も良い所である。だからと言って本人の意思を無碍にするものアレだしな。
――――――仕方ない、あの人の所へ連れて行くか。
◆「金色ノ帯」&「金色ノ袴」
ライズにおいて、おそらく剣士たちを最も引き付けた腰と脚の装備。「渾身」「力の解放」「火事場力」がそれぞれ1レベルずつ+「超会心」がレベルMAXで付いて来る為、多くの罪なきラージャンたちが狩られてきた(※ただし溶岩洞のイージャンさんは除く)。
大抵の属性には耐性を持つが、氷属性に対しては異常に弱く、それを補えるゴシャハギやベリオロスの装備を組み合わせると、ちょうど良い感じに打ち消し合った上で抜刀術や納刀術が付与されるので、非常に使い勝手が良くなる。
個人的に片手剣の場合は、頭:腰:脚がラージャンで、胸がベリオロス、腕がゴシャハギがオススメ。ハイニンジャソードで馬鹿みたいな火力を出せる上に、ピンチになると馬火力を発揮出来るという、漫画の主人公みたいな気分が味わえる。見た目のダサさは健在なので、ちゃんと重ね着で補うべし。