世界を救った勇者は俯きながら生きている。   作:赤いUFO

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テレビアニメ版もだけど、劇場版は特になのは達と普通の武装局員達のレベル差がエグい。だからこんな評価になった。


語られる真実(1)

 4家族合同の年始旅行でリンディは他の母親と一緒に談笑していた。

 なのはの両親である高町夫婦が善い人なのは知っていたが、アリサやすずかの両親も負けず劣らず善い人だった。

 クロノやフェイト達もそれぞれこの旅行を満喫している。

 つい最近まで大変な事件に掛かりきりだったのだ。この旅行中くらい仕事を忘れて楽しんでも罰は当たらないだろう。

 

(帰ったら片付けなきゃいけない書類が山積みなのだけど……)

 

 その事実を胸に仕舞うとリンディの携帯がメールを知らせる。

 

「ごめんなさい」

 

 周りに断って携帯を開く。送り主は綾瀬彩那だった。

 なのは達ではなく自分にメールを送ってきた事を不思議に思いつつ何かあったのかと中身を開く。

 彩那から、自分の全てをそちらにお話したいという旨の内容が書かれていた。

 

 

 

 

 

「ごめんなさいね。旅行から帰って来たばかりで。どうしても冬休み中に話をしておきたくて。それにリンディさんも、部屋を貸していただいてありがとうございます」

 

 集められたのアースラのブリーフィングルーム。

 そこではハラオウン親子にエイミィと八神家の面々。

 なのはとユーノにフェイトとアルフ。

 そしてアリサとすずかが集まっていた。

 彩那の謝罪にリンディが笑みを浮かべる。

 

「良いのよ。こうして人を集めた以上、重要な話なのでしょう?」

 

「しかし、録音して記録を残して欲しいとは、穏やかじゃないぞ」

 

 クロノの疑問に彩那は胸に手を当てて真面目な表情で語る。

 

「必要だと判断しました。過去、私達の身に起こった事は魔法やロストロギアの存在が絡む以上、管理局にお話しする事で何か役に立つ日が来るかもしれないと。勿論、役に立たなければそれが1番良いのですが」

 

 ロストロギア、という言葉に局員組が身を強張らせる。

 そこでなのはが小さく手を上げて質問した。

 

「あの……大事な話なら彩那ちゃんのお父さんとお母さんは?」

 

「2人には、昨日の夜に話してあるわ。今は色々と考える時間が必要だと思うの。それがここを貸して欲しいと頼った理由でもあるから」

 

 両親には、魔法に関する専門的な話を除いて既に語り終えている。

 2人とも娘に起こった事をどう消化するべきか悩んでいる様子だ。

 

(もしその上で今の私を受け入れて貰えないなら、それも仕方ない事よね)

 

 その時はリンディに頼んで管理局に就職し、地球を去るつもりだった。

 それだけ今回の話は衝撃的なのだ。

 次に腕を組んでいたアリサが片目を閉じて疑問を口にする。

 

「それって、魔法とは無関係なアタシとすずかも聞いて良い話なの?」

 

「高町さんから魔法や次元世界については聞いたでしょう? なら、話さないのも違うかなって。クリスマスでも事情を話せって言われてたし。迷惑だった?」

 

 彩那の返しに不機嫌そうにするアリサ。

 

「そんなんじゃないわよ! ただ、ちょっと意外だっただけ!」

 

 正直、彩那がここまで自分を晒け出してくれるとは思わなかった。

 あまり間を置くのもアレなので、早速話を始めようと思う。

 

「これは、私達が勇者として喚ばれて過ごした10年の軌跡の話。騎士達に訊きたいのだけど。あなた達にとってあの戦争はどれくらい前の事?」

 

 10年という単語に驚く間もなくされた質問にリインフォースが答える。

 

「凡そ、3百年前だ。あの世界自体が戦争終結から十数年後に次元断層に巻き込まれて滅びた筈だ」

 

「たった十数年……あれだけの犠牲を払ってそれじゃあ報われないわね……」

 

 額に触れて複雑な表情を浮かべる彩那。

 そして顔に巻いている包帯を外した。

 

「管理局から見ても信じられない話だと思います。信じられないのなら、一笑に付して貰っても構いません。だけど、これから話す事は私にとっての真実です」

 

 素顔を晒した彩那が息を調える。

 勿論、この場にいる誰もがどんな話であろうと彩那の話を否定し、笑うつもりはない。

 

「先ずは事前知識。私と友達3人が喚ばれたのはデミアと言う名の惑星で、地球と違って魔法文明で栄えた世界。そこの大きな大陸にあるホーランドと呼ばれる大国だった」

 

 当時の状況を思い返しながら説明する彩那。

 

「大陸では16の国が主導で、そこに属さない小さな国が点在していた。国同士の対立もあって、小競り合いのような戦闘はあったらしいけど、各国のパワーバランスが変化するような大きな戦いはなかった。だけど、帝国と名乗る新興国が躍り出た事で、事態が変化した」

 

「帝国?」

 

 帝国、という単語に彩那だけでなく、当時の戦争を経験した騎士達も険しい表情を作る。

 騎士達にとっても、帝国は怨敵なのだ。

 

「そう。ストレイ帝国。と言っても、彼らは元々、大陸の最北に収容されていた各国の犯罪者に過ぎなかったのだけれど」

 

「どういう事だ?」

 

 犯罪者の集まりが何故帝国などという御大層な名を名乗り、各国を戦争に巻き込む事態になったのか。

 

「元々最北の地は、かつての戦争の影響で人が住むにはかなり厳しい土地だったの。年中雪と氷で閉ざされ、疫病も多く存在し、凶悪な魔法生物も生息していた。各国で重罪を犯した者を流刑罪の開拓刑という名目で送って、結界で閉ざしていたの。だけど、本当は凶暴な魔法生物の餌として送り込むのが目的。そうすれば、お腹が満たされて魔法生物が結界を越えて周囲で暴れる事態は回避出来るから。そういう形であの世界は凶暴な魔法生物と共生していた」

 

「そんな……」

 

 幾ら犯罪者とはいえ、人間を魔法生物の餌にする。

 どうすればそんな事が思い付くのか、子供達には理解出来なかった。

 そこでリンディが質問をする。

 

「いったい、どういう罪状でそこに送られるのかしら?」

 

「そこは国によって様々ですね。テロに加担した者や、禁止指定の宗教の信者だった者。違法かつ非人道的な研究と実験を行った者。国によっては貴族にちょっとしたトラブルを起こしてしまい、家族共々送られるケースもあったそうです。ちなみにホーランドでは余程大きな罪を犯さない限りは北の地に送られる事はなかった筈」

 

 何のフォローにもなってない彩那の言葉に子供達は微妙な表情をする。

 それを察しつつも話を戻す。

 

「とにかく、そういう訳で、彼らが帝国を名乗った後もしばらく各国はテロリストの集団という認識だった。そこで対処出来てれば良かったのだけど……」

 

「出来なかったのかい?」

 

「えぇ。北の方は比較的争いが多くて、傭兵業で経済を回している国も幾つかあったから。帝国の存在を機に需要を拡大させようとする国や、他国の領土を乗っ取ろうと画策する国が北の方では大半で。帝国への対応が後回しになったのよ」

 

 アルフの疑問に彩那は深い息と共に告げる。

 戦争を商売にしている国からすれば、帝国の行動は追い風に見えたのだろう。計算違いがあったとすれば、彼らの戦力と残虐性を見誤った事だ。

 そこでヴィータが苦い顔で話し始めた。

 

「……アイツらとの戦いは本当に胸糞悪いのばかりだった。アタシらが所属してた国はホーランドより帝国と近かったけど、最低最悪な連中だったぜ」

 

 嫌悪感と怒気を吐き出すように話すヴィータにシグナムが続く。

 

「奴らは非道その物を心から楽しんでいた。相手を蹂躙し、苦痛を与え、被害を広げることを目的としていたと思える程に」

 

「実際、あの国は戦力云々よりも、その容赦の無さと倫理観の欠如こそが最大の武器でした」

 

「みんな……」

 

 騎士達の意見にはやてが想像が及ばないながらも考える。

 それは他の面々も同様に。

 帝国の暴走とも言うべき残虐性は常軌を逸していた。

 最初に攻め落とした小国の幼い王子2人を兵士達が集団暴行し、1人は人間だったかどうかも判らない程に斬り刻まれ、もう1人は全身の骨が砕かれ、首が後ろの方を向いていた状態で、その国の友好国に送り付けたらしい。

 そんな悪魔の所業が帝国の常態だった。

 

「一部を除いて元々仲が良いとは言えなかった16の国にも日々拡がっていく戦争の空気。それに触発されて戦禍は拡大していった」

 

 いつの間にか帝国だけの問題ではなくなり、各国が疑心暗鬼になって行き、徐々に争いは苛烈さを増していった。

 

「その情勢に危機感を覚えたホーランド王国の国王は、城の地下に眠っていた先史魔法文明の遺物。そっち風に言うロストロギアで勇者の剣を扱える高ランクの魔法資質を持つ者を召喚する事を決意した」

 

 彩那が待機状態にある自分のデバイスを並べる。

 

「聖剣・魔剣・霊剣・王剣。この4本の剣はホーランド王国の建国に関わった重要な剣で、高ランクの魔力資質。そして特別な条件をクリアしないと起動しない、本来はホーランドの王家の者しか手にする事が許されない宝具なの」

 

 彩那の説明を聞いてフェイトが疑問を口にする。

 

「えっと……王家にしか使うのが許されないんだよね? なのに、外からの召喚に頼ったの?」

 

 当然の疑問に彩那が苦笑する。

 

「まぁ、その疑問は尤もだけど。その……王様はなんと言うか、戦闘には向いてなくてね。全くの無能って訳じゃないんだけど。小心者のくせに自分を大きく見せるの大好きで、威張り散らすのが大好きで、パフォーマンス力も高かったから、何も知らない周囲に自分を大きく見せるのだけは得意と言うか。当時王女である娘が1人居たのだけれど。娘を戦場に出すのが嫌で、外から人を喚びつけた訳だし」

 

「なにそれー!?」

 

 言葉を選びつつも所々で毒舌を入れる彩那。

 ホーランド王の人柄を聞いてなのはも困惑と怒りが入り雑じった声を出す。

 実際、勝利が確定して尚且つ自身の安全が保証されないと前線に向かう事など先ず無い人だった。

 そこでリンディが質問する。

 

「それで。そのロストロギアというのはどういう物なの?」

 

「はい。次元の外から指定された条件の者を召喚する道具だと私は聞いています。ですが────」

 

 彩那は守護騎士達を見る。

 その視線に気付いてリインフォースが難しい表情で答えを口にする。

 

「お前は……お前達は、この時代から3百年前の過去であるあの世界に喚ばれたと言うのか?」

 

「そういう、事になるのでしょうね。私もつい最近まで、別の世界に喚ばれただけだと思っていたけれど……」

 

 今度はフェイトに視線を移す。

 

「ジュエルシードの件でテスタロッサさんの母親であるプレシア・テスタロッサが言っていたわ。ホーランド式が存在した世界は3百年程前に次元断層で消滅したと」

 

「母さんが……」

 

 未だに複雑な想いを抱く母の名が出て、フェイトはギュッと握り拳を作るが、その手を隣に座るなのはがそっと重ねる。

 それに気付いてフェイトはなのはに大丈夫だよ、と言うように微笑んだ。

 そこで驚きから立ち直ったクロノが呟く。

 

「あり得ない。魔法で時間に干渉するなんて事は……いやしかし……」

 

 自分達の常識ではあり得ないと思いつつ、彩那と騎士達の関係に対する疑問が1つ解けるのを感じていた。

 そこですずかが何かを考えるような仕草をする。

 

「どうしたの? 月村さん。質問があるなら遠慮なくして」

 

「あ、うん。彩那ちゃんがスゴい魔法使いなのはなのはちゃん達から聞いてるけど。たった4人を連れてきたくらいで戦争をどうにか出来るのかなって」

 

「それ! アタシも気になってた! 戦争って数が多い方が有利なモンでしょ!」

 

 すずかの疑問にアリサが乗っかかる。

 確かに戦争の基本は数である。

 より多くの兵や物資を用意した方が勝つのは当たり前だ。

 しかし、魔導師の戦闘に於いて、それは一概に当て填まらない。

 

「月村さんとバニングスさんの疑問はもっともだけど。魔導師の戦闘にはリンカーコアのランクが大きく関係しているの。ホーランドではCランクが一般。Bランクで優秀。Aランクならエリートって感じで。極論だけど、百や2百の努力を積んだ平均的な魔導師(凡人)を数十人用意するより、十の努力をした高ランク魔導師(とびっきりの天才)1人の方が戦力として貴重なのよ。高町さんやテスタロッサさんみたいな子供でもね」

 

 そうでなければ、海鳴で起きた2つの事件で魔法に触れたばかりの高町なのはが正式な訓練を積んだアースラの武装局員を押し退けて前線で活躍出来る訳がない。

 彼女の魔法に関する感性(センス)がずば抜けてるのも当然あるが。

 しかし、彩那の才能だけ、と言わんばかりの評価になのはとフェイトは不満そうな顔をする。

 

「わたし達だって頑張って特訓してるんだよ?」

 

「知ってるわ。でもやっぱり、AAAランクの魔法資質が大前提だと思う。高町さん。まだ魔法に触れて1年未満の貴女が、ハラオウン執務官を除いたアースラの武装局員全員を1人で捩じ伏せられるのよ? その異常性は理解した方が良い。努力出来る限界も違うしね」

 

 相手の攻撃は通らず、当たらず。

 此方の攻撃は問答無用で相手をノックアウトする。

 勿論、人間である以上は限界がある。

 しかし、一般的な魔導師が高ランク魔導師を倒すのに、どれだけ人員を割くのか。

 

「ホーランド王国が建国された時は、たった9人のレジスタンスで当時圧政を敷いていた大国を攻め落としたそうよ。もちろん裏方も居ただろうけど。そのリーダーだった人がホーランド王国の初代国王になった。実際私達も、召喚されて1年間はその世界に関する勉強と訓練に当てられたけど、それだけでホーランドでは私達に勝つどころかまともに戦える者すら極一部に限られた」

 

 管理局ですら5%しか在籍していないAAAランク以上の魔導師。

 その希少性と貴重性に管理局が管理外世界であるなのは達を手元に置きたくなるのも致し方ない。

 魔法の存在が技術の根幹と前提である以上、治安維持に高ランク魔導師は何人居ても足りないだろう。

 

「と、少し話が逸れたかしら? とにかく、そのロストロギアに選ばれてホーランド王国に召喚されたのよ」

 

 そこで膝に置いていたユーノが見つけた日記を抱き締める。

 その腕は微かに震えていた。

 

「あの日の事は、今でも昨日の事のように覚えてる。夏休みのキャンプで、仲の良かった私達はテントの中で夜遅くまでお喋りをしていたの」

 

『今日は楽しかったね』

『バーベキュー美味しかった!』

『夏休みの宿題がまだ終わってないなー』

『明日は何をしようか?』

 

 どこにでもありふれた友達同士の他愛の無い会話。

 大人達に気付かれないように小声でした内緒話のような会話に興奮して中々寝付けなかった。

 

「話し疲れて、もう寝ようってなった時に急に辺りが光り出して、気が付いたら全然周りの景色が変わってた」

 

 時間と共に地球とは違う世界に転移させられたのだ。

 彩那が頬の刺青を撫でる。

 

「突然フィクションでしか見たことがないような建物の中に居て、周囲には知らない大人達に囲まれてた。今の私を見てると想像し難いかもしれないけど、当時は争い事とは無縁の本当にただの子供で……」

 

 怖かった。

 唐突に見知らぬ世界に引きずり込まれたのだ。怖くない筈がない。

 俯いてから前髪で目元が隠れてなのは達からは見えない。

 

「勇者様方……どうかこの世界をお救い下さい。そんな、漫画やアニメでしか聞かないような台詞を、まさか現実で聞く事になるとは思わなかった……」

 

 勇者として召喚し、王族の代わりに戦争に向かわせる。

 だけど、それすらも本当の目的の為のカモフラージュでしかなく、真実はもっと残酷だった。

 

「夏休みが終わったら、また皆と一緒に学校に行って、遊んで、時々喧嘩もして。だけど最後には仲直りして。4人はずっと一緒で。私には、それだけで良かったのに……」

 

 10年という歳月はどれだけ自分達の心を変化させて、どれだけのモノを奪っていっただろう? 

 

「私達は、勇者という名の兵器。そして生贄としてあの世界に喚ばれたのよ」

 

 

 


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